昇太郎の独り旅‐王道を行かぬ国内旅‐   作:劉鳳

3 / 5
離島編です。大きな島だとそこまで隔絶された感じは無いですが、昇太郎の行く所は大きくない島で、フェリーもろくすっぽ出て無いのでその辺を考慮しないとオススメ出来ないですね。


独り旅②九州某県・後編

 

 

 

近くの安ホテルで一泊した昇太郎は港の近くのスーパーで3日分位の食料を購入して、フェリーに乗る。離島を繋ぐフェリーは週二便しか出ていない為、泊まる場所等を考慮しない場合、ある程度の食料は必須と考えたからである。

 

約20ノットの速度で三時間程波に揺らされながら、大きな陸地が殆ど霞んで見えなくなる所まで来る。鳥が大きな集団で渦巻きながら海上付近を泳ぐ魚を取る様も圧巻だったが、昇太郎は今まで見た事が無い、濃い青の海原をその目に焼き付けた。沿岸の海の色とは全く異なる、コバルトブルーの海。テレビ等で見るのと、間近で見るのとでは全く違う。美しさもありながら、何処と無く恐ろしさを感じてしまうのは、本島と離島のちょうど中間地点と言う隔絶された場所と言う意味を肌で理解しているからであろうか?

 

更に進むと、浅瀬(と言っても実際には50mから100mは水深がある)に集まった鳥の集団の中に、漁船が数席見えた。テレビでしか見た事の無い、鰹一本釣り漁船。フェリーの展望からなので小さくしか見えないが、空中を舞うキラキラとしたものが船体に落ちていくのが見えた。鰹を返しの無い釣りがついた疑似餌で引っ掛け、鰹が上がった瞬間に力を抜いて、鰹が宙で離れて船内に落ちて行く。フェリーからだとキラキラとした何かが船の方に飛んで行く光景に見えるので、昇太郎は素直に感動していた。

 

そう言った光景を見ながら約7時間、昇太郎は目的地の離島へと到着した。ついて直ぐに鼻をつく臭い、硫黄の臭いだ。この一帯の離島は火山地帯であり、この島の火山は比較的穏やかな部類に入る。今も黙々と噴煙を上げているのだが、島の人達は特に何も感じない。昇太郎は現地の人達が当たり前に過ごしている様を色んな所で見ているので特には驚かなかったが、余り広くない火山の島でそれを見ると異様に映るのだ。因みに観光客の姿は無い。この離島出身の人間か、物資を卸すトラックのみ。勿論こんな感じのイメージの所を選んだので昇太郎としては全く問題無い。

 

フェリー乗り場の離れを見ると、鰹漁船が停泊していた。興味を持った昇太郎は漁船の乗組員と思しき人に声をかけてみた。如何にも海の男と言う感じの筋張った前腕にオーバーオールタイプの合羽に長靴と言う出で立ちに、中々の強面だったが、話してみると非常に気さくな方だった。聞けば男性の乗る船は九州のNと言う所に所属する船である、昇太郎も全国ニュースで聞いた事のある地名である。近くの離島で操業中、漁船のエンジントラブルでこの島に緊急寄港したらしい。話を聞くと、たまに離島に寄港して、この地の島民温泉保養所で汗を流す事があると言う。観光客向けではないその施設に興味が沸いた昇太郎は、取り敢えず島を散策する事にした。

 

港から歩いて直ぐに目をひかれたのは、ヤギがその辺を彷徨いている事だった。首輪もタグも付いていない所を見ると、飼われているものではない事が容易に想像出来た。どうやら嘗ては畜産資源だったらしいが、若者が本土の方へと流れていった為に畜産を廃業して野生化した個体が繁殖しているらしく、この島以外の離島にもヤギがいると言う。人間を恐れない所を見るに、島民は特に危害を加えたりせず共生しているようだ。

 

更に少し歩いた所に、老主人が営む商店が少し登った所にあった。商店の直ぐ脇には自動販売機、その向い側、港を望む場所に温泉保養所がある。

 

昇太郎は商店の老主人にこの島の話を聞く事にした。この島は嘗て独自の文化を持っていた時代があったが、いつの頃からか本土の人間がやって来て流刑地としての役割も持つようになったと言う。江戸時代になると、離島を管轄する藩により奴隷のように使役されていたと言う悲しい過去があった。この島をはじめ、某県の離島は本土からかなり離れている上、島の周囲は狭く、また、標高が割と高い為に居住も農耕も難しく、生活は困窮していたと言う。島の人々が満足に腹を満たせるようになったのは戦後になってからで、昭和の後期に道路が整備され、車が走れるようにはなったが、昇太郎としては、うちっぱなしの粗いコンクリート道に度肝を抜かれるのだった。

 

老主人に泊まる所は無いかと聞いたが、どうやら観光客向けの所は無く、キャンプ場として切り開かれた所に泊まるような感じらしい。野宿しても別に差し支え無いと言う頭の昇太郎としては、港の待ち合い所のベンチで寝っ転がる考えだったので一応これは確認の為に聞いたようなものだった。

 

昇太郎は更に島を歩く。島には天文台があり、予約する事で天体観測をする事が出来る。また、駐在所や電波基地局、発電所に民族資料館等も見受けられた。嘗ては周りの離島の中心的な所だったらしく、村役場も存在していたが、過疎化が進み、現在の村役場は本土の方に移転したらしい。百世帯に満たない小さな集落だが、これでも周囲の島に比べて人はいる方だと言う。

 

昇太郎は更に島を歩く。港からかなり歩いた所に、海水浴場があった。夏休みと言う事で海水浴を楽しむ家族連れは……いなかった。島民に話を聞くと、この周辺はヨゴレと呼ばれる大型のサメが回遊しており、また、潮の流れが速い上に波が荒い為、海水浴場の深い所で泳ぐのは地元民以外では経験豊富なダイバーでないと厳しいらしい。しかし、眺めはとても良い。青く澄んだ海、サンゴ礁の海とはまた違った綺麗さをしており、海岸を歩いているだけでも心地よい。

 

昇太郎は島民が住む場所へと戻る。この島では主に柑橘類を栽培する農家が占めており、これが重要な収入となっている。島民に話を聞くと、生活は絵に描いたようなスローライフで、娯楽と言う娯楽は無いものの、静かで治安を気にしなくていいこの島の雰囲気が好きだと言う。この島の山を月一の頻度で登山し、山頂近くで絶海の中に浮かぶ他の島の風景を楽しむのが良いらしい。ただ、山頂は火口になっており、噴煙が立ち上っているため、独りで行く事はオススメされなかったので、昇太郎は登山を断念した。

 

島の道路は先述の通りコンクリートうちっぱなしの部分が多い上に狭く、島民の車が通ると中々に圧迫感がある。集落の中心辺りはアスファルトが敷いてあるもの、所々ひび割れが目立つ。島の木々を見るとバナナの木や油椰子の木が道端に生えている等、南国を想像させる植物が多かった。

 

歩き疲れた昇太郎は港に近い温泉保養所で、1日の汗を流す事にした。保養所は男湯と女湯に分かれていて、着替えを置く場所の壁に、島外から来た人々の名前と寄付金額が書かれていた。入浴料は350円を寄付金箱に入れる、この際に封筒に名前を書いて入れる。保養所の風呂場は狭く、良くて五人ずつしか入れないのだが、島民も基本的に自宅の風呂を使うので、昇太郎一人だったので特に支障は無い。温泉は67℃と高い温度だが、水を足して調整出来るので影響は無い。乳白色の独特の温泉は、肌がツルツルになる心地よいものだった。

 

昇太郎メモ:風呂場で野宿を考えている時、港で会った漁師さんが入ってきて声をかけてくれた。何でも、機械の調整と漁場の荒天を考慮して三日位滞在するらしく、漁船で寝泊まりするように誘われたのでそうする事にした。前日に釣ったと言う鰹をタタキにしてごちそうになった。スーパーで売られているものとは比べものにならない旨さ、独特の臭みも、新鮮な為か全くしなかった。空いている漁船の寝台を借りて寝る、狭いけど体の安定感が高い漁船の寝台は中々に快適で、朝までぐっすりと深い眠りにつけた。

 

 

 





※一応、宿泊する所はあります。作者の場合、割と漁船が立ち寄る頻度が高い時期に島を訪れたので、漁師さんと仲良くなり、漁船に泊めてもらったという実話を元ネタにしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。