昇太郎の独り旅‐王道を行かぬ国内旅‐   作:劉鳳

4 / 5
独り旅③関西某所

 

 

昇太郎の友人の誘いによる海外旅行計画は世界的感染症流行の煽りを受け、頓挫した。彼が行く予定だったのは南アフリカのヨハネスブルグだったが、今や近隣の台湾等の渡航すらろくに出来ない中、治安が極端なヨハネスブルグ等行こうとするのは大使館員ですら容易ではない。その為、国内旅行に切り替える事にした。国内旅行故に友人は同伴しないらしく、いつも通りの感じになったのだが、昇太郎的にはある意味ホッとした様子である。

 

但し国内旅行と行っても、昇太郎は普通の所に行く頭は毛頭無い。その土地に生きる人々がしっかり暮らす場所に訪れるのが旅の醍醐味だと自負する彼にとって、国内の旅先選びは中々に拘りがあった。

 

昇太郎は、実家から割と近い近畿某所のとある地区が気になっていた。そこは日本屈指の日雇い労働者の集まる場所であり、在留異邦人が多く住んでいる、或いは多くの外国人宿泊客が訪れる地区でもあった。昇太郎は実家の里帰りついでに、そこへ行く事を決めた。

 

現在中京在住の昇太郎が近畿地方へと移動するのは容易だ。新幹線に乗ってうつらうつらしてる間に到着する。そこから都市部を走る電車に乗り、その地区へと到着した。

 

この地区は他の地域と明らかに空気が違う事を嫌がおうにも感じる。昇太郎が着いたのは夜だったが、路上で寝ている人間がいた事に驚いた。他の地域の路上生活者等と違うのは、その多くが作業服を着ている事。つまり浮浪者では無い所だ。

 

ここは日雇い労働者向けの簡易宿所が集まる地である。住所不定を匂わせる人間が大勢おり、彼等はその日の飯を食べる為に工事現場等で働き、その日その日を凌ぐ。中には本当に路上で寝食いして生きる者も少なくは無い。この周辺は湾岸の埋め立て工事者、それらの建材を運ぶ海運業や運送業が常に行われており、使いたい時に負い目なく使える日雇い労働者の需要は今も多い。中には暴力団関係者とおもしき人間もいたが、ここでは特段事を起こす気は無いらしく、普通に建築系の人間と商売の話をしている。

 

近くを歩いて行くと、風俗を営んでいる店の客引きがいた。性欲は特に持て余していない昇太郎は、客引きの30位の男に話を聞いた。この周辺は肉体労働者ばかりであり、風俗店の存在による性欲の処理は治安を安定させているらしい。眉唾だなと思いつつも、辺りを通る男達の体は程よく逞しく、昇太郎目線で見ても目をギラギラとさせており、確かにそれも一理あるなと感じた。しつこそうな客引きの男は、昇太郎の見た目から風俗に行くような感じではないと判断したのか、ある程度談笑して普通に解放された。

 

街を歩いていると、日雇い労働者向けの職安とも言うべき建物が目に留まった。路上に寝転がっていた初老の男性達も時間が来るとここに来て、その日の日雇い労働の状況を見て仕事を選ぶ。日雇い労働者の組合が出来ており、登録する事で働き口を探すのだ。中には住所不定な輩も存在するらしいが、極端に荒れた人間でも無い限りは拒まないと言う。某府においては、東京等の関東圏に並び、埋め立て地の仕事が常に入っており、彼らの需要はまだまだ十分にあると言う。

 

建物を通り過ぎると、狭い敷地の料理屋が並ぶエリアに入る。粉もの、肉料理が多い。在日外国人も一定数いるためか、独特の香りを放つ料理屋も散見する。昇太郎は話を聞く為、その料理屋に入った。聞けば店主は元在日外国人で、二十年程前に帰化したらしい。この周辺で生まれ育ち、父は日雇い労働者として汗を流しながら自分達を育ててくれたと言う。店主は近隣の小中高校を出たものの、地元に愛着があったのか、他所へは行かずに地元の料理屋でバイトをしながら料理の腕を磨き、現在は日雇い労働者の為に食事を提供していると言う。日雇い労働者達は見た目は怖いが話すと気さくで、彼らの愚痴を聞いたり時には冗談を交わしたりしながら彼らの疲れを癒す料理を提供出来ればと、店主は笑顔で答えるのだ。

 

夕方過ぎ、日雇い労働者が1日仕事を終え、其々の行き着けの店へと姿を消して行く。店に行かない者は、自分の気に入った宿に足早に帰り、手持ちの袋に入れた夕飯を食べ、そのまま眠りにつく。夜は飲み屋と風俗店が賑やかになるはずだが、世界的感染症の影響か、静かなものである。最初に会った風俗店の兄さんは、今のご時世、商売が叩かれはするが、それでも気をつけながら商売を続けたいと言い、中々足を止めない客を引き止めながら、客引きを続けていた。自粛ムードは日雇い労働者の集まるこの地域も例外ではないのだが、それでも生き残る為に彼はずっと声をかけ続けていた。

 

治安や衛生をとやかく言う人間は多いが、昇太郎は彼等の生き方も一つの選択なのだと感じた。見た目は悪いかもしれない、しかし彼等のその目は、今を必死に、かつ楽しく生きる逞しい人々の思いが伝わって来るようだった。昇太郎はこの日、日雇い労働者がよく使用する簡易宿泊所で宿を取った。三畳程のスペースに簡易寝台、テレビが付いてネットも使える上に値段もお手頃。寝台はやや固めながらも不快さはなく、ぐっすりと就寝出来た。

 

 

昇太郎メモ:元在日のお兄さんが経営する料理屋でご飯を食べる。カルビ丼があったので注文、値段も安く量も多くて中々美味しかった。

 

 

 





※昇太郎メモの所はコロナ禍での描写ですが、実際はコロナ前に店に行っていますので、今もその店がやっているかは不明です。近くに住む知人から現在の状況を聞いていますが、路上で寝ている人もおらず、外国人旅行者も殆どいない為に割と治安は良いとの事です。ここ数年は日雇い労働者の方も近隣に定住する人が増えたので、ガッチガチのステレオタイプなイメージの日雇い労働者は少ないそうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。