※二話続けて似た所行ってますが、端折っている期間に超小旅行、昇太郎の地元の隣町とか彼はやってますw
夏休みも後10日、昇太郎は夏休みの最後の小旅行を何処にしようか考えていた。前回の場所の雰囲気が存外気に入った昇太郎としては、その雰囲気に似た場所にしようと考えた。そこで、昇太郎は思い切って関東方面に行ってみようと決めた。東京寄りになれば、観光とは程遠い場所は少ないように見えるが、港湾地域に目を向けると案外多かったりする。更に、昇太郎の親戚の叔父が横浜に住んでいるのもあり、顔出しもしやすい。
中京からはそこまで離れていない事、目的地を一つに絞る事、叔父の家による事を鑑みて、九州の小旅行よりも格段に少ない荷物でアパートを出た。日数は3日もいない為、ガスと電気の元を切り、鍵を閉めるとさっさと駅へと走って行く。
関東方面は関西方面と共にアクセスしやすい、特に中京からだとどちらも同じ位置かつ新幹線で目的地のかなり近くまで行けるのでその気になれば日帰り旅行も可能である。もっとも昇太郎は断然泊まり派である為にそのような強硬軍はしないが。
関東エリアに新幹線で移動後は、私鉄による電車移動になる。昨今の感染症の影響で空いてるかと思ったが、乗車すると人の多さに驚く。中京の電車事情とは比べものにならない光景に目を白黒させながら、目的地へ行く為に電車で暫し都市圏の風景を眺める。九州、関西と見て来た昇太郎の感想としては、風景に感動はしなかった。電車に乗っているその地の人間の顔はなんと言うか酷く冷めて見え、昇太郎が求めるものが目的地にあるのかさえ不安になってきた。昇太郎の主観になるが、西日本側の人間に比べ、関東の人間の顔は何故か疲れているように見えた。
昇太郎はある駅に到着し、電車を降りて行く。この地は、日本有数の日雇い労働者の集まる所である、以前行った関西の某地と若干ネタが被るようにも見えたが、違いと言えば此方はやや小綺麗であり、一見すると以前の所よりも治安が良さそうに見える。しかし、百聞は一見に如かず、近くに来るとこの地の異様さに気付くであろう。
まず、真っ昼間だと言うのにやたらとパトカーが巡回している。以前の所ではこんな感じでは無かったので其処に驚きを感じる。更に歩行巡回する警察官もかなりおり、昇太郎が通り過ぎた時には痩せた男性に職務質問をしていた。他の地なら只の点数稼ぎをしているように感じたが、男性を良く見ると、頬がこけて目が窪んでいる。肌も荒れ放題で髪に艶がない、昇太郎と大して変わらなそうな年齢な筈のその男性、暫く遠目から見ていると身体検査された後、何処かへと連れて行かれた。
暫くして警察官が近くに来たので事情を聞いてみると、警察官は快く教えてくれた。男性は薬物中毒患者らしく、数回の逮捕歴があると言う。警察官の人は人聞きが悪いように感じるのを承知で、彼らには職務質問をするよう回っているらしい。覚醒剤等の違法薬物は辞められるものではなく、一生付き合わなければならないものらしく、例え十年以上手を出さなくてもふとした瞬間にまた再発する厄介極まりないものだと言う。それ故に職務質問は優先的に行い、場合によっては尿検査等をさせると言う。警察官の人も、点数稼ぎだと陰口を叩かれているのは自覚があるらしく、薬物依存患者特有の挙動でも無い限りは職務質問を行わないようにはしているらしい。
とは言え、余りの巡回する警察官の多さに疑問を持った昇太郎は、理由を聞いてみた。これに対しても警察官の人は快く教えてくれた。この周辺は日雇い労働者の為の簡易宿泊所が集まるどや街であるのと同時に、薬物の売人が跋扈している地域であるらしい。因みに昇太郎は以前行った関西の地域の雰囲気が気に入った為に、似た所に行きたい位のノリで来たと警察官に話したら、中々変わってるなと笑われはしたものの、昇太郎の挙動に不審さは無かったので、警察官は夕方以降の時間に歩く際の注意点と、何かあった場合の所轄の警察署の電話番号を教えて貰った。兎や角言われる事の多い某県警察であるが、意外とこうした対応には親切に応じてくれる。警察官の人は更に自分の名前と所轄も教えてくれた、昇太郎も職務質問を受けないとは限らない為、もしもの時はそれらを出して職務質問の時間短縮をしてもらえると言う。
警察と話しをした後、昇太郎は目的地周辺を散策する。関西の某地と比べると、道は整備されているし、若者も目立つが、その若者のテンションが可笑しい。昇太郎は薬物については知らないし、興味も全く無いが、あからさまに薬物中毒の人間では無いかと直感で分かる雰囲気だった。そ知らぬ顔で彼ら彼女らの近くを通り過ぎると、異様に香水をつけており、むせそうになった。後に職務質問の警察官に話を聞いてみると、薬物中毒者は独特の体臭を放っており、それを誤魔化す為に強い香水をつけていたりする者もいるのだと言う。因みにこのエリアには某有名な反社会組織が暗躍しており、ここで薬物の売人をしている連中の元締めだと言う。昇太郎は他の町や村に無い、ほの暗い人間の闇を率直に感じた。
昇太郎は再びその地を歩く。マスクをしている為にある程度は緩和されているものの、普通の人間なら長居はしたがらないであろう臭気、分かりやすく言うと公衆便所の臭いが強い。近くにいる日雇い労働者の方に臭いの理由を聞くと、それはこの地域の人間は何処そこに関係無く立ち小便をしたり、昼間から酔っ払い酒を溢したりで常に臭気にまみれているのだと言う。関西の某地でも似たような臭いはしていたが、ここよりは幾分マシだったのと、人の雰囲気によって(昇太郎が関西地方出身であったのもあって)気にならなかったので気にも留めなかったのだが、此処は異様さがかなり強い気がした。
路上で寝そべり、酒を飲んでいるまだ年の行ってない人間がやや目についた。その目は虚ろで、酒の缶とツマミの袋が散らかり、非常に不衛生である。昇太郎はそれらを上手く交わしながら、宿泊所近くまでやって来た。利用客は年配の方が多く、宿泊所に若者は少なかった。昇太郎は本日泊まる宿を決めるのとついでに、宿の主人にこの地域の事についての話を聞く事にした。宿の主人は50半ば位の中肉中背の男性、身を小綺麗にしており、応対も良かった。
男性はこの地域生まれであるが、父親は隣町生まれだと言う。父親は進駐軍を相手に商売をする料理人だったと言う。進駐軍が去った後は自分で店を持ち、その時にこの地に移り住んだと言う。スナックで働いていた母親と結ばれ、結婚後は父親が料理人をしながら、母親が宿を経営する形で今に至るらしい。男性はこの地域の年配としては珍しく大学まで出たと言う、50代以上の人間の八割強は中卒、高卒ばかりで、特に70差し掛かる人の大半は中卒で、戦後のベビーブームの影響で食いぶち減らしの名目で、早い社会人にならざるを得なかったと言う。男性は幸いにも父親が子供の将来の為に学校だけでもと大学まで出してくれたらしい。大学卒業後は経営を学ぶため、大手自動車会社の営業周りや経理部で働き、その後は実家たる宿の運営に周り、5階建てのホテルを現在経営している。この周辺の人間は手に職持っていれば何とかなるのさと、男性は笑って語っていた。この周辺は大手自動車会社関連の仕事や、護岸工事の仕事が豊富であり、そこで学に関係なく明日の飯の為にせっせと働く事が生き残りに必要だったと言うが、宿泊所利用者の生活保護率が年々増え続けているのは皮肉なのだろうか?男性としてはお客さんとして感謝しつつも困惑はしているようだった。宿には若者もいるが、その殆どが精神疾患者または海外のバックパッカーだと言う。全国の簡易宿泊所に言える事らしいのだが、海外旅行者は安いどや街の簡易宿泊所はうってつけの宿泊場所らしい。
宿を取った後、昇太郎は他の所も見て行く事にした。整備されている、道が広いとは言ったが、それは以前の所との対比での話であり、実際は狭い部類の道を行くと、これまた異様な雰囲気を感じた。そこにはスーパーがあったのだが、並んでいる商品がやけに偏っているのだ。まず生野菜等の生鮮食品が少ない。代わりにパックに入った一人前分の出来上がり品が目立ち、後は加工食品と言った内容である。日雇い労働者向けの、正確には簡易宿泊所で暮らす人間向けのスーパーと言う奴だった。酒の品揃えが無駄に良いのと、出来上がり品が恐ろしく格安な所が気になったが、昇太郎は取り敢えず二本だけジュースを買ってスーパーを後にする。
警察の人の言葉を忘れずに気をつけながら歩くが、実際に歩いてみて分かったのは、高齢者の多さだ。中には車椅子を引いて貰ったり、杖をついていたりと体がお世辞にも健康とは呼べない人も少なくない。彼らは元日雇い労働者で、現在は生活保護で命を繋いでる状態だと言う。中卒から働き詰め、年を取って体が動かなくなり、已む無く生活保護と言う形を取る人、遮二無二働き続けた結果生活保護になった彼等を、一度も社会に出ずに部屋に引きこもっているニートと同義には、昇太郎は見る事が出来なかった。途中ベンチに座っている老人に話を聞いてみると、その人は高度成長期末から中学を卒業して社会人となり、日雇い労働者として40年余り働いたが、60になる頃に体を壊し、現在は生活保護だと言う。家族は30年以上前に離婚した元妻の所に当時3歳の息子が一人いたらしいが、息子が成人して以降音信不通との事だった。浮気もせず、遊びもそんなにせず、仕事に打ち込んだ老人の末路としては、余りにも悲しい人生ではないだろうか?しかし、老人はそれでも地域の為に自分の生きた証をほんの少しでも残せた事に誇りを持っていると言う。
一日中歩いて人々の生活を見て来た昇太郎。幸いにも薬物の売人や反社会組織に絡まれる事は無かった。職務質問も一回遭遇しただけで、特に引くような問題も無かった。治安は決して良いとは言えなかったが、そこに住む人々のリアルを感じ、息吹きはしっかりと伝わって来た。
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昇太郎メモ:ここから少し出た所は大きな繁華街がある。中国系の本格的料理店や、洋食店が目に付くけど、その並びの別の通りにある小さな定食屋に立ち入る。カツ丼があったので注文。スタンダードなカツ丼、量も多め、こう言うのがあると安心する。
※昇太郎が好きな食べ物はご飯、嫌いな食べ物はインスタ映えを狙うような脳ミソスイーツ系が好きそうな奴です。どや街にも飯屋はありますが、宿で惣菜食うような感じですのでちょっと歩いて繁華街に歩き出した方が旅行者としては吉かと思います。