「ひぇッ淫魔だ……(絶望)」「ひぇっ、人間くんだ……♡(幸福)」 作:春の神
今回は掲示板じゃないしえっちでもないよ
だから「そんなの興味ねぇよばーか」って人は前の話でもみててね
「ねぇ、―――愛してるわ」
「────────僕もだよ」
幸せだった
幸せだと思っていた
これから何年も死ぬ時でさえ、一緒で愛し合うのだと思っていた
だが、そう思っていたのは私だけだった
だから、だから彼は、私の目の前で短剣で首を切り、命を絶った
その光景だけは、遥か遠く未来の今でさえも、鮮明に覚えている
いや、思い出してしまうのだ
……
…
.
「───────……」
「魔王様、お目覚めですか?」
目が覚めると私の唯一の秘書であるアイザが話しかけてくる
「……いや、もう少し寝るよ」
「はい、わかりました」
魔王が再び眠りにつくと、彼女も部屋を出た
部屋を出るとメイドの淫魔がアイザに話しかけてくる
「あのアイザさん、魔王様には恋人が居たって本当ですか?」
「どこから聞いたのか知らないけれど、あの人の前で話さない方がいいわよ」
「でも気になっちゃって…」
メイドの淫魔は上目遣いし、こちらを見てくる
「はぁ……しょうがないわね。魔王様の恋人の話、してあげてもいいわよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「じゃあそうね、まず────────」
アイザは固い口をゆっくりと開きだし、彼女と彼の愛の物語を喋り出す
―――
今から遥か、遥か昔。まだ人間保護法がしっかりと定まってなくて、淫魔に殺される人間が少なくなかった頃
魔王様…いや『シーナ・シャロット』がまだ、少女だった時の話
少女は、この世界に酷く退屈していた
少女が魔法を使えば世界が驚き、壊れた玩具の様に褒め続ける。そんな世界に少女は興味を持てず、ただ日々を過ごしていた
だがそんなある日、少女はこの世に生まれてきた意味を理解する
それが彼『
親の関係で魔界に居る文月に、少女は毎日会いに来ては日が暮れるまで話しあった
彼を見る度心が跳ね、言葉を交わすだけで世界がバラ色に見える
そして彼と出会って数週間後ぐらいには、何十年も過ごした恋人の様に仲良くなっていた
指を絡めて手を繋ぎ、夜には深い口付けを交わす。そんな日々を送っていた
ある日彼が『魔界の学校』を見てみたいと言うので、私は了承し、彼を学校に連れていった
他の種族が彼をエサを見るケモノの目で見てくるが、私が魔法で威圧をしていたので襲ってこない
「魔界の学校ってすごいんだね。シーナ、今日はありがとう」
「ううん、喜んでくれたのなら良かった」
彼は学校に行った日から魔法に興味を持ち始めたのか、『魔法の本を貸してくれないかな?』と頼んできたので、もちろん彼に貸してあげた
数ある魔法の中で彼は、魔力と術式付与の魔法に興味を持ったのか、沢山魔法の勉強をし始めた
その努力具合は、私が帰ったらほとんどの時間をその魔法に費やしている程だ
私は少し疑問に思った。人間がいくら魔法や魔術を学ぼうと、その肝心の魔力が足りないのだから魔法を使えないのに。と私はそう思った
だが、あまりに熱心な彼にそれを言うのは無粋だと思ったので、口にはしなかったが
「ねぇ、シーナ。シーナって魔力を物に付与することってできる?」
「えぇ、もちろん。幾らでもできるけど…どうしたの?」
「ちょっと僕が言った物に魔力を限界まで込めてくれないかな?」
「…いいけど、何に込めればいいのかしら?」
「えっとね、これと…これに、これ…かな」
私が彼の持ってきた物に魔力を込めたら、彼は満足してくれたようだ
そして、彼が魔法を学び始めて三年は経っただろうか
私は魔法学校を卒業し、魔界随一の魔法学院に入学した。別に入る気はなかったのだが、あまりに周りがうるさいのと、彼が進めてきたので入ったのだ
だが魔法学院に入っても、私のやることは変わらなかった
何せ、何をやっても私が一番すごいことは変わらないのだから
前にある教師から『魔法以外も学べ』と言われたが、その必要性は微塵もない
私には魔法があるのだ。魔法さえあるなら他のことを学ばなくても問題は無い
なんせ教師だろうが学長だろうが私を超える者は居ない。相も変わらず私の興味を奪っているのは彼『貴月文月』ただ一人だった
そんな彼が私に伝えたいことがあると言うので、彼の指定する場所に行った
そこはビリリ花と呼ばれている花が辺り一面に咲いている花畑だった
何故ビリリ花と呼ばれているのかと言うと、この花は微量に魔力を乱す効果があるからである。だが、とても綺麗で女性に人気の花だから、此処を選んだのだろうか
彼は私が喜ぶと思って選んだのだろう
そう思うと少し笑みが零れてしまう
ただ空を眺めていると、もうそろそろ太陽が沈んでしまうことに気づいた
別に朝だろうが、夕方だろうが、夜だろうが、彼の言葉は変わらないのでいいのだが、夜だと彼の顔が少し見えづらいので、『今ぐらいがちょうどいいな』などと思っていると彼が来た
「────────ごめん、待ったよね」
「全然、待ってないわよ」
「じゃあまず…はい、これ」
「これは何かしら?」
彼から綺麗に包装されている小包を貰う
「女々しくて悪いんだけど、君と僕が出会って丁度今日が三年目なんだ。だから受け取って欲しい」
「───────っえぇ、もちろん受け取るわよ……ふふ…ありがとう、文月」
「開けてみてもいい?」
「もちろん、どうぞ」
包装を綺麗に外していくと、中から綺麗なピアスが一つ入っていた
「これ、今貴方がつけているもう片方の…?」
「うん…二人でつけると離れていても、君との繋がりを感じれるかなって」
「どう…かな……?」
「────────すっごく嬉しいっ!」
私は彼に抱きつき優しく力を込める
「……似合ってるかしら…/////?」
「すっごく…似合ってるよシーナ」
「……ぇへへ……/////」
「で、今日君を呼んだのは大切な話があるんだ」
「聞いてくれるかな…シーナ……?」
「もちろん、貴方の話なら幾らでも聞けるわよ」
「良かった、じゃあ話すね?」
「僕、昔から内気で友達とかできなくて、魔界に来た時も不安でいっぱいたった…けど、君と出会って僕の人生は幸せに満ち溢れたものになったんだ」
「君との日々はこの世の何よりも楽しくて幸せだった」
「だから僕は君に僕を、もっと、もっともっと好きになって欲しいんだ」
「……?私は文月のことが大好きよ?貴方以外にこれほどまで好きになった人は居ないもの」
「知ってるよ、だけど僕は不安なんだ…君が僕に愛想を尽かして他の男の元に行ってしまわないかって…」
「────────いかないわよ、それだけは言える。私は貴方を、貴月文月を愛しているもの」
「ありがとう、シーナ。でも僕はもう決めたんだ」
「愛してるシーナ────────」
銀色のナイフで彼は、自分の首元を掻っ切ろうとする
「だめっ────────!?」
少女は魔法で止めようとしたが、ビリリ花の効果で数コンマ遅れてしまう
だが、その程度の遅れ。まだ、まだ間に合う
そんな中、彼がうっすら笑みを浮かべたような気がしたが今はどうでもいい彼を止めなければ
魔法が発動される直前、つけているピアスが私の魔法を吸い取ってしまう
「────────ッ!?」
「────────僕の、勝ちだね」
彼がそう呟くとナイフは、彼の首元を残酷に無惨に切ってしまった
「蘇生魔ッ─法───────……?」
だが蘇生魔法をかければ助かる範囲なので、魔法を掛けようとしたその時、彼の身体は塵と化した
そうだ、思い出した。あのナイフは私が魔力を込めたナイフだ
私の魔力が限界まで入っているナイフ、恐らく彼が私の魔力を元に身体を消滅させる魔法を掛けたのだろう
「まっ……て────────?」
塵が空に飛んでいき、どこかに消えてしまう
「…?」
風で揺れる片耳のピアスだけが、彼が居た証明になる
そしてそこから先はもう覚えていない
とにかく泣いて、泣いて泣き叫んで、何十年、何百年引きこもって彼を生き返らせる魔法を探した
その中で一つわかったことがある、彼が自殺できたのは彼もまた私に劣らずの天才だったのだ
魔力を持たず体も弱い彼がどうやって私を欺いたのかと言うと、私を欺く為の全ての条件を揃えたのだ
まず一つ目はビリリ花、今は愛葬華と呼ばれている物が同じ場所に100輪以上あると魔法の発動の低下が起きる
それが1000輪を超えると魔法の低下ではなく発動が出来なくなる。私の魔力が多すぎた為、恐らく彼は地上に一万を超える愛葬華と、愛葬華のエキスを地面によく染み込ませていたのだ
そして二つ目は夕方だ。淫魔は夜になると魔力が少し上がるのだが、その昼と夜の境目である夕方のほんの少しのその時間は魔力の操作が難しくなるのだ
それを彼は私が蘇生魔法を掛ける瞬間を予想してナイフを自分の首に突き刺した
三つ目はピアスだ。あれには異常なほどの魔力飢餓を起こしている魔物が入っていたその為、多大な魔力の蘇生魔法の魔力を吸い取り発動させなかった
そして最後はあのナイフ。私の魔力を限界まで込められている為、使う本人に魔力が無くても問題は無い。ナイフに術式を書くだけでいい。彼はナイフに消滅の術式を書き、自分の身体を消滅させたのだ
彼は、私を完璧に上回ったのだ。魔界随一の天才であるこの私を人間の身でありながら
それを知った時、私は恐怖した。彼の才能もそうだし、なぜ死んだのかも分からないのも相まって私は彼に恐怖を抱いてしまった
彼のことは今でも当然愛しているが、恐怖なのだ。彼の思いさえも私には理解できないのが
私は彼を生き返らせる魔法を再び探し始めた
他種族を蹂躙し、脅そうが、殺そうがその様な魔法は無いと言われた
それから何千年と魔法の研究と創作をしている内に私はいつの間にか世界で一番強くなっており、魔王になってくれと頼まれた
魔王になるとより魔法の研究ができると言われ、私は魔王になった
そして魔王になり研究を続けていると、私の魔王の座を狙ってくる奴が現れたが、全員殺した。憂さ晴らしにもならない
そんな日々を続けていると私はある魔法を持った種族を見つけた
その魔法とは時間遡行だ。その種族にしか使えない時間遡行で私はあの時に戻り、再び彼と幸せな人生を送るのだ
今度は絶対に自殺なんて、させないようにして
その種族に何とか頼み込み、私はあの時に戻った
虫唾が走る程嫌いな愛葬華一面の花畑に、忌まわしい夕日に、永く追い求めていた彼がそこにはあった
「────────良かった…シーナはそれ程までに僕のことが大好きなんだね」
「文月っ…愛してる愛して愛してるっ!」
彼に抱きつき彼を堪能する
彼の匂い、彼の感触、彼の言葉、全てが私が追い求めていた物だった
「何年ぐらい経ってそこまでたどり着いたのかな?」
────────おかしい、文月は時間遡行のことなんて知らないはずなのに、この口ぶりだとまるで知っているような…?
「でも、まだ足りないよ」
「────────ぇ…?」
私の体が透明になっていき体が空に消えていく
「シーナが時間遡行を見つけることは分かっていたからね。対策を取らせてもらったよ」
彼は懐中時計の様な物をこちらに見せる
「なんでっ!?なんでよ文月っ!?私貴方が居ないとだめなのぉっ!お願い…いっしょにいてよぉ…っ…!?」
「僕も一緒に居たいよシーナ…でもまだ足りないんだ…もっともっともっともっともっと僕を完封してみて?」
彼が私に抱きつき、耳元で口を開いて
「───────もっと僕を愛して」
彼が私にそう言った直後、身体が未来に戻される
「────────次は絶対に…」
「どうしましたか…?」
他種族が私に話しかけてくるが今はどうでもいい
「次は私のモノにしてあげるから…ね……ふみつき…?」
「…悪いね。食料と金はもう置いてあるから」
「また困った事があったら……教えてください……」
魔法で城に帰り、部屋でベットに倒れる少女
「……時間はある。だから何年かかろうが文月を救ってみせるから…!」
そしてまた彼を救う方法を考え始めたのだった
―――
「その…なんというか魔王様もすごいですけどその人間がさんもやばいですね…!?」
「そうね。まぁ、文月様の考えも分からないでもないけど」
「あ、もうそろそろお仕事の時間なので行きますね!ありがとうございました!」
「えぇ、仕事頑張って」
アイザは慌てて走る彼女を見届けると、廊下をヒールで鳴らしながら歩き出す
―――
「あぁ、すごいなシーナはもう時間遡行を見つけちゃうなんて」
愛葬華の花畑に寝転び、目を輝かせながら喋る少年
「■■の種族を使ったのかな?それとも古代兵器の方か……まぁ、どっちでもいいんだけどさ」
「ねぇシーナまだまだ僕の手札はいっぱいなんだ、だからもっと暴いて見せてね」
「
「あぁ、楽しみだなシーナ……」
「いつかきっと僕をを迎えに来てね──────?」
彼は左眼に手を当てながら、口元を歪ませてそう言った
世界最強の唯一の敗北は、最弱の人間によるものだった
魔王ちゃんの嫌いなものリスト
・ナイフ
・ピアス
・夕暮れ
・薄ら笑い
・愛葬華と愛葬華一面の花畑
ちなみにピアスをプレゼントする意味は独占欲らしいです
たまにこういうえっちじゃないやつとかも入るけど、えっち系のやつ書いたら多分一旦賢者タイムみたいのが入って、次の話しがこういう系になる
ちなみにハッピーエンドへの行き方は、シーナが文月の対策を全部ぶっ壊すだけなので簡単ですね
本編にもこの魔王様を絡ませて行こうかな