The Warrior World 第一節「忘れられた剣」   作:犬丸ミケ

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第1話

「……ん…?」

 

眠気やら何やらに取り憑かれたかのよう重い瞼を開ける。そこには平和の一言を表すかのような日差しが窓から差し込んでいる。

体は何故かベットに寝ている、というより寝かせられているとそんな感じがしていた。

 

「…ここは…っぐ…」

 

起き上がろうとするが、突如体の全身にヒビが入るような痛みに襲われ、ついつい寝ていたベットにまた寝ることとなる。

背中を落とすと、その衝撃を吸収するかのようにふかふかのベットが背中を受け止めてくれる。……とても心地よい。

 

「…?なんだ…?この痛み…」

 

見覚えのない痛みだ。

なぜ俺自身がこんな全身に大怪我を負っているのか、頭の中で起きたことを追ってみようと思ったのだが、結果を言えば整理がつかない。ということでやめることにした。

すると、今寝ているベットの右側(左側は窓、また眠気を誘うかのような温もりとともに日差しが差し込んでいる。…なんだか眠くなってきたな…)のドアノブがガチャリと音を立てて開く。

 

「さぁて、旅人さんは起きたかなー…」

「…どうも…」

 

そのままそーっとドアが開き、一人の女性が顔を出す。瞳は青く、綺麗な白く、長い髪の女性だ。

それにしても、ドアの開け方が寝ている人を起こさないように開けるようなものだ。まぁ、現に先ほどまで寝ていたのだが。

 

「あ、起きましたか!おばあちゃーん!旅人さんが起きたよー!」

 

女性は人を呼ぶ。どうやらこの家はこの女性の他にもう一人暮らしているようだ。

すると、すぐその声に答えるかのように女性の横から年老いた女性があらわれる。すでに70…80はあるだろうか。あらゆるものを経験した上での笑みがそのおばあさんに宿っていた。

 

「おや、起きなさったかな、旅人さんや。」

「…えーと…何が何だか…まず一つ、ここは何処ですか?」

「ここはメリナおばあちゃんの家、そして旅人はこの家の近くの森の崖下に倒れていたんだよ。」

 

おばあさんに問い掛けたつもりなのだが、その横の女性が答える。

森…崖下…まったくそれらに関連があるような覚えがまったくない。それに倒れて気絶するかのような出来事に関してもまったく記憶にない。

 

「それで旅人さんや、名前はなんと言うのかね?」

「名前?えーと……?」

 

なぜか名前が思い浮かばない…と、待て?名前を知らないぞ…?俺って…誰だ…?

と自身の名前が思いつかないことに困惑していると、

 

「おばあちゃん…この人…記憶がないんじゃないかな…?」

「ふーむ…参ったねぇ…あの時の体の状態から察すれば…崖から落ちて、打ち所が悪かったかねぇ…」

 

かなり年は行っているはずなのに、かなりの頭の回りようである…なんて思ってしまったら本人にかなり失礼な気がする。聞こえていないと言えど、だ。

 

「じゃあさ、私達が名前つけてあげようよ!」

「そうだねぇ、名前が無いとこの先不便だろうからね、そうしてあげようか。旅人さんはそれでいいかね?」

「えー…まぁ…そうですね。お願いします。」

 

名前が思いつかないならここで名前を決めてもらおう、なんてかなり他人任せな気もするも、助けてもらうと思えばいいかな程度の解釈で俺は了承した。どの道、名前が思い出せない以上そうしてもらったほうが今後のためでもあり、この人達の為にもなるだろうと思う。

 

「じゃあ……トンヌラなんてのはどうかな?」

「…え?」

 

…なんだろうか、この女性はかなりネーミングセンスが無いように思える、いくら名前をつけてもらうなどといった他人任せなことをさせている身とは言えど、この名前は受け入れがたいものだ。さすがのセンスの無さに思わず声をあげてしまった。

 

「……ダメ?」

「え…あ、いや、えーと…」

 

何やら不服そうな顔になっている。そうとうトンヌラという名前に自信があったようだ。

…ものすごい断りにくい……

 

「トレディアちゃんや、さすがにその名前は旅人さんも困っとるよ?」

「えー…おばあちゃんまでー…」

 

女性の名前は[トレディア]でおばあさんの名前は[メリナ]というようだ。おそらくこの家で居候することでなるであろう俺の名前は[トンヌラ]……センスが微塵も感じない、もしくは嫌がらせなのだろうか…

 

「そうだねぇ…ファインというのはどうかな?」

「あ、それで…」

「おばあちゃん!!」

 

これなら良いなという名前が来たのだが、それを遮るかのようにトレディアが叫ぶ。何かダメな理由があるのだろうか。

 

「…どうかしたかえ?トレディアちゃん。」

「あ…いや…ごめんなさい」

 

何がなんだか分からない。この[ファイン]という名前に何かあるのだろうか。

 

「というわけじゃ。私はメリナ・エクスロード。こっちの子はトレディア・エクスロードじゃ。行く当てもなかろう?なら、儂らの家にいるといい。生活している上でなら何か分かるかものう。」

「そうだね、若い人が私一人だと心細いもの。」

「そう…ですね。そうしましょうかね。」

 

メリナさんは俺に気遣っているようだが、トレディアさんは何処からどう聞こうとしても話し相手が欲しい為に俺をこの家に居させるようなものである。どの道、行く当てもないのでこの家に居候させてもらうことにした。

…そうしてもらう気はあったなんて本人たちの前で言えないな。

 

 

 

そこから月日は経ったが、一向に記憶が戻る気配はなかった。

鏡を見るたびに俺は何者かに悩まされるような日々が増えた気がする。体つきに至ってはただの旅人の肉体のようには感じられるなかった。まるで剣士のよう……と言っても、そのような記憶は感じられない。おそらくないと思われる。

そして、今日も同じように過ごすのかと感じていた。いつものあの平和な日々へと……

 

 

「ファインー、あーさーだよー!」

「…ん…もう朝か…」

 

季節は気付けば秋だった。ファイン・エクスロードという名前を貰ったのは春の中旬。そこから数ヶ月と過ぎたのだ。

 

「ファインー?起きてるー?」

「あぁ、起きている。」

 

このエクスロード家での生活にもだいぶ慣れたものだ。メリナおばあさんに、トレディア。すっかり意気投合したかのようである。

 

 

一階、ダイニング……

 

俺はいつものように朝食を取ってから仕事をしている。といっても仕事は木の実収集や狩りなどである。狩りの際では家にある猟銃を借りてある。スコープのないボルトアクション式の猟銃なため、一発で仕留めなければならない。(でないと銃声やその後の作業で時間が掛かってしまい、逃してしまうからだ。)

しかし、今日の仕事はこの二つのどちらでもない。

 

「ファインや、朝食を食べ終えて食休憩を終えたら薪割りに行ってもらえないかのう?」

「薪割りですか?」

「おばあちゃん、ちょうど薪も切らしているから取りに行かせたらどうかな?」

「そうじゃな、薪集めも頼もうかのう。良いかな?」

「分かりました。」

 

そろそろ冬が近いのだろう。暖炉のための薪が必要なために薪割りに薪集めに行かせたいのだろう。どの道この家にずっといてもしょうがないので行くことにした。

 

 

マイヤール樹林……

 

この森はとても広い。

この辺りの地理に知識がなければすぐに迷ってしまいそうなほど広大な森だ。(というより、怪我が治ってからこの森に木の実収集に行った際に本格的に迷いかけた俺がいる。)

メリナおばあさん曰く、俺が倒れていたのはこの森の一部に崖があり、その下で倒れていたという。

 

「…さて、始めるかな。薪集めっと…」

 

薪はとにかく大きい物や小さい物は問われず、とにかく落ちている物を拾えと頼まれた。ここしばらく天気は曇りか晴れなため、湿気っている薪はそんなに見つからなかった。そのため、とても順調に進んでいる。

 

「よし、この辺りの薪はこんな物かな。では、次は次……ん?」

 

森を進んでいると開けた場所がある。ここは初めて通る場所だ。そんな開けた場所、それも森の中なのに大きく、また分厚く、少し錆はあるが、鈍い銀色をした鉄板があった。

 

「…これって…剣…って重い…」

 

その鉄板を一言で言えば、大剣だ。

重量が持った瞬間に手に伝わるほどのものだが、なぜか持ち手は俺の手にしっくりと合っている。

 

「よっ…と…って持ち上げられたな…」

 

以外と簡単に持ち上げられる物であった。狩りなどと行った物に体が鍛えられたからだろうか。

 

「…不思議な剣…っ!?」

 

その時だった。頭に稲妻が走るかのように痛みが現れたのだ。それも耐えるにも耐え切れないほどの頭痛でつい剣を支えに膝をついてしまう。

 

「…なんだ…この頭痛…」

 

あまりの頭痛で意識が朦朧としている中、頭の中でふと映像が流れ込んでいたのだ……。

 

空からはかなりの量の雨、雲が空を覆っているせいか周りがとても暗い。その映像の中で俺は膝をついていた。というより、まるで自分自身である。

 

「分かっただろう?貴様では我々は倒せない…必然なのだよ。なのに何故だ?何故その目をしていられるのだ。哀れな剣士よ…」

「(誰…だ…?)」

 

俺の頭上から男の声がする。どんな男かふと顔を上げてみる。

そこにいるのは一言で表して天使。

白い髪、大きな白い翼、そして何より神々しいオーラが感じられた。

 

「…これで最期にしよう…神波【神輝破弾】」

 

天使の片手が光り、その光が集まると光る球に変わる。すると天使は一瞬で俺の腹部を平手で押し込むように殴る。

 

「ぐ…あ……」

 

めりめりと腹部に手がめり込む。さらに瞬間的に呼吸が取れなくなり、目の前が一瞬だけ真っ暗になる。これ以上攻撃されれば立ってはいられなくなるほどだ。

 

「……落ちるがいい。」

 

すると、天使の片手にある光りの球は爆発する。その爆風、そして痛みにより完全に意識が狩り取られる。目の前が瞬時に真っ暗になってしまったのだ。

 

 

「…っ!」

 

ふと映像が切れると、俺は地面に突っ伏していた。まるで夢の中から目覚めたような気分だ。

 

「…今のは…一体…?」

 

すると、俺から右方向からなにかズシン、ズシンと重量感のある音が聞こえる。

 

「…なんだ…この音…」

 

やがて音の元は大きな影と共に姿を表す。全身の体長で2mはあり、そのうえ巨大な足に丸太のような腕、そして狩る者を思わせる目つき、それは熊である。そして、この熊は鼻の部分に大きな切り傷ができている。俺は、そいつに見覚えがあった。

 

「……森の…主…!」

 

過去に狩りに行った際、猟銃では歯が立たなく、そのままあの丸太のような巨腕に吹っ飛ばされ、重傷を負わされたことがある。その際にちょうど茂みが影となり、やり過ごせたことがある。

家に帰り、治療を受けながらメリナおばあさんに話を聞いたところ、

 

「その熊は森の主と呼ばれるものじゃ。その先代はかつて私の夫に倒されたのだが、まさかまだ子の代がいたとはのう…」

「森の主は他の熊に比べて力、凶暴性と共に勝っていて付近の村の狩人も森の主によって死亡したなんてことも聞いたことがあるよ…それで持ってファインがその犠牲者にならなくて…よかった…」

 

トレディアのおかげでその危険性は充分に伝わった。

そして今、あの時の森の主とまた遭遇してしまったのだ。

 

「グルルル…」

「…逃げても逃げ切れないな…なら…!」

 

周りから見れば無謀の極みに見えるであろう、剣術にたしなみを持たない狩人が道端に落ちていた剣で戦うのだから。

 

「グルルゥァァアアア!!!」

「来る…!」

 

森の主は大きな雄叫びをあげ、巨腕を振り落とす。が、どのような速度かはある程度体が覚えているため、森の主を時計周りによけるように跳躍、そして

 

「くらえぇぇぇええ!!」

 

先に地面に着地した足で体を固定、そのまま踏み込み、体重を込めて森の主の巨大に剣を斜めに切り落とす。

 

「グァァアア!?」

「よし…効いてる!」

 

銃の時では巨大な筋肉に弾が阻まれ、まったくと言っていいほど効かなかったのだが、今度は違い剣は深々と森の主の巨体を斬りつける。

相当効いたのか、森の主は思わず痛みに苦しむ声をあげる。

 

「ガァァアアアア!!!」

「危な!?」

 

そのまま時計回りに巨腕を振り回す。咄嗟にしゃがんで避けたが、油断をしていたら首が跳ね飛ばされていたところだ。

 

「お返しだデカブツ!!」

 

剣は重量はあるもの、思ったよりも腕力で振り回せるので、そのままなぎ払うように斬りつける。

すると森の主は声は上げないもの、目つきが本気に切り替わる。

 

「グルゥゥァァアアアアア!!!」

 

本気で怒らしてしまったのか、腕は下から上へと突き上げるように殴り掛かる。

 

「何…!?」

 

見たことのない動きに戸惑ってしまい、とっさに剣を盾に防いだもののその勢いのまま近くの木に吹っ飛ばされてしまい、背中を強打してしまう。

 

「がっ…!?」

 

意識が飛ぶかと思えた。一瞬にして呼吸が困難になり、あの時の記憶の中での映像に比べればまだ楽な方であれど、これもまたキツイ物がある。それなのに意識を失わない自分も対したものである。

 

「……」

「ぐ…が…はぁ…はぁ…」

 

呼吸が困難に成りつつもまだ足は動く。余力を持って立ち上がるも、今の被弾はかなり痛い。今度またくらえば問答無用で気絶するであろう。その上、ダメージが残っている分自身の動きも鈍ってしまう。それはつまり、下手に接近すればまたくらうかもしれないことを意味する。

 

「くっ…まだだ…」

「…グルル…」

 

勝利を確信し、とどめを刺すかのように森の主が距離を徐々に詰めてくる。俺自身、背中に木があるためか後ろに避けることができない。絶望的とも感じるが、なぜか諦める気になれない俺自身がいる。

 

『へぇ…今の痛手をくらってまだ立とうと思うんだな。』

「…?誰だ?森の主…ってことはないか…」

 

突然声が聞こえる。だが、周りを見渡しても俺に森の主、そして数えようと思えば数ヶ月は掛かるであろうほどの木しかない。

 

『まだ剣は握れるな。よし!今度はこっちの番だ!あの熊はとどめを刺せるだろうと完全に油断を仕切ってる。なら、奴の一撃を受け止めて、そっから渾身のカウンターと行こうぜ!』

「…俺にそんなことができるのか?」

『はぁ?なに甘ったれたこと言ってんだ。大丈夫さ、お前ならやれる。自分を信じろ。』

「自分を…信じる…」

 

声は頭の中に流れているように思える。聞いた覚えのない声だが、なぜかその声の言うがままに信じてみようと思った。

 

「グルァァアアア!!」

「…来た…!」

 

森の主は腕を振り落とす。それに合わせて俺は剣で受け止める。すると、不思議なことに力が湧き出し、そのまま森の主の腕ごと受け止めている状態の剣を持ち上げ、立ち上がることができたのだ。

 

「!?」

「ぬぅううりゃぁぁあああ!!!」

 

全身の力を一身に込めて森の主の腕ごと剣を振り払う。すると、動揺したのか森の主は振り払われた腕は弾かれたかのように上に上げる。

チャンスだ。胴体がガラ空き…!

 

『よし!渾身の一発をぶち込みな!』

「…あぁ…!」

 

即座に構えが変え、姿勢を低姿勢にし、剣を後ろに構え、溜めの体制になる。そして、両足に力を加え、地面を思い切り蹴り上げるように森の主の方向へ跳躍する。

 

「行くぜぇえええ!!!」

 

跳躍の勢いに加え、全体重を剣に乗せ、一閃の一撃を森の主へ与える。そのまま切り抜けるように森の主の背後に出てくる。あまりの勢いのため、止まるために地面を踏み込むも、なかなか止まらずに出てしまう。

 

「…ど…どうだ…?」

 

ふと森の主へと振り返ると、倒れる様子も見せずに、立ち尽くしている。だが、森の主は俺の方向を向くこともなければ、ピクリと動くこともない。そう…

 

「…立ったまま…死んでいる…?」

 

森の主はすでに生き絶えていた。森の主は己自身の強さ故の誇り、たとえ相手が虫の息であれど、弱肉強食の世界の摂理に従い、俺を殺しにかかったのだ。その立ったまま死んでいるその姿は、俺自身の心を動かす物として立ち尽くしていた。

 

 

マイヤール村……

 

「狩人さんが帰ってきたぞー!!」

 

メリナの家から数分、マイヤール樹林の近くに一つの小さな村がある。

そこは、数人の狩人を雇い、近隣にて発生した事件や、危険物を取り除くなどといった村人などの一般人ではできないような危険な仕事をこなすと同時に村人の依頼などを受けたりして村の安全面や経済面を支える。そんな村だ。

 

「狩人さん…その…ファインは…?」

「ダメだ…かなり広い範囲で捜索したのだが見つからない上、二代目の森の主がまた暴れていやがる…これ以上の捜索は危険だ…残念だが…」

「…そう…ですか……」

「…大丈夫だよおばあちゃん!ファインはここの村の狩人さんと何度も狩りを重ねたんだよ?そんなファインが簡単に…やられるわけが…」

 

空はすでに黄昏色に染まっている夕方。ファインは朝から木の実収集のためマイヤール樹林へ行ったきり戻って来ていない。メリナは今でも心がけ追いやられそうだが、そんなメリナをトレディアが支えている。家族愛という物だろうか。

 

「それに…ファインはあの森の主に追い掛けられて逃げ切ったんだから…大丈夫…絶対…」

「…そうだね。ファインはいまや私たちの家族、家族が信じてやれなければファインは誰に信じられるのかねぇ…ありがとう、トレディアちゃん。」

 

空気はとてもしんみりとしている。まるで葬式を迎えるかのように。

そんな空気を壊すかのように村の入り口の高台から野太く、大きな声が響く。

 

「来たぞぉおおお!!ファインが帰って来たぞぉおおお!!!」

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

時間は今何時だろうか。森の主を倒してからずっと歩きっぱなしで足は棒にでもなったかのようだ。

片手には森の主を倒した大剣。本来の目的は木の実と薪の収集だが、森の主に殴られ、木に背中を思い切り叩きつけた際に集めた薪などは散ってしまったのだ。

 

「…お使い…果たせなかったな…やれやれ…」

 

周囲はすっかりと暗い。ここまで長いする気はなかったため、ランタンや松明といった火を灯し明かりを得る物は持って行かなかった。そのため周りは何も見えないほど暗い。

 

「…ン…ファイン…」

「…?」

 

声が聞こえる。何か聞き慣れたかのような女性の声だ。

 

「…どこだ…?」

 

周囲を見渡す。すると、真っ暗闇には相応しくないように強い光が出ている道があった。

 

「ファイン…ファイン…!!」

 

声は光の中から聞こえる。何か必死そうに呼び掛ける声だ。

 

「…なんだろうな…」

 

怪しげで危険な雰囲気はするのだが、俺自身の心の中にある密かな好奇心に連れて、棒になったかのような足を引きずりながら、光の中へ入って行った…………

 

 

 

「…ん…?」

 

ふと目を開けると何かとても見慣れた部屋にいた。そう、エクスロード家の中であり、俺が倒れているところをメリナおばあさんたちに助けて貰った際に寝ていた部屋だ。

 

「…夜…?って俺は確か…マイヤール樹林で…?」

 

寝ていた時には気づかなかったが、上半身を起こして見ると、ベットの横に椅子に座りながらベット側に寄りかかって寝ているトレディアがいたのだ。その近くには医療セット。そこから包帯やら消毒などが出ているということはまた看病されたのだろう。

 

「…トレディア…ありがとう…」

 

またもや助けてもらえたことに気持ちが抑えられず、寝ている彼女に「ありがとう」と言ってしまう。起きて聞いているわけでもなかろうに。

 

「そうだ、剣は…」

 

部屋を見渡すとタンスの近くにあの大剣、森の主を倒した剣が立てられている。床はまだ古くないからか穴が空く心配はなさそうだ。

 

「…んぅ…」

「あ、起こしちまったか?」

「…ファイン…」

「…ん?なんだ?」

 

ふとトレディアが起き、俺の顔を半開きの目でジッと見る。寝ぼけているのだろうか。

 

「…ファィィィィイイイイン!!」

「うお!?ちょ…まっ…!」

 

寝起きの目を一気に見開き、そのまま俺に抱きついてきた。背中を打った時の痛みが少し蘇りつつあるが、なんとか耐えてみる…結構キツイものがあるが…

 

「バカバカバカバカぁ!!一度ならぬ二度までも私たちを心配させるなんてぇ!!このバカイン!!」

「ちょ…バカインってなんだよ!?」

「バカインはバカイン!!バカなファインを略してバカインよ!!」

「いや訳が分からないからな!?」

 

時刻は真夜中なのにも関わらず、トレディアのせいかテンションが昼間のテンションだ。散々罵倒しているトレディアだが、やっていることは入院している親に抱きつく小さな子供のようだ。背中に伝わるジリジリとした痛みを耐えつつ、体をなんとか支えている。

 

「ほんと…心配したんだから…」

「…トレディア…?」

 

トレディアの体が小刻みに震えている。泣いているのだろうか。

 

「…泣いて…いるのか…?」

「!泣いてなんかないわよ!バカ!!」

「いや…涙目で言われてもな…」

 

泣いているかと聞いた瞬間、胸に顔を埋めていたトレディアが顔を上げる。本人は否定しているが、涙目な上に目に涙を貯めていたので説得力のかけらも感じない。

 

「…そんなに心配だった…のか?」

「…うん…」

「大丈夫さ。俺は一回森の主と遭遇して生き延びたんだからな。…心配かけてごめん。」

「…バカ…」

 

体を預けているトレディアをそっと抱いて慰めてみると、少し安心したのか次第にトレディアの抱きつく力が弱まり、体を離す。

 

「…ねぇ、バカイン…」

「ファインな…その名前はやめてくれ…」

「…ファイン…あの剣…どうしたの?」

 

新たな名前がつけられたところでトレディアに森で拾った剣についての質問をされた。さて、どう答えたものか。

 

「あー…複雑過ぎるところとかをすべて省いて一言に表すと…森で拾った…だな。」

「森…マイヤール樹林内で…?」

「あぁ、あの剣があったおかげで森の主を倒せたんだ。」

「森の主を!?」

 

森の主を倒したことを説明すると、急に目を見開いて俺を見つめる。事情を知らないのだろうか、なぜ俺が倒れていたかの経緯など。

 

「もしかして…背中の大きな痣って…森の主と戦ったから?」

「まぁな、攻撃を剣で受け止めたら勢い余ってそのまま木に叩きつけられてな…」

「…森の主と戦うとか…君ってほんとバカね…」

「…返す言葉もございません…」

 

先程からバカバカと言われているが、事実だからか反論がとてもしにくい。一度負傷を負わせられ、近隣でも危険対象とされている森の主相手に剣術の嗜みすらもない狩人が落ちていた剣を拾って戦ったのだから。概要だけを説明すれば対した武勇伝にはなるだろうが、トレディアの言う通りとても馬鹿らしい。

 

「…でもな、森の主と戦って収穫はあったよ…記憶に関する…ね。」

「え…?どいうこと?頭でも強く打った?」

「違う、そうじゃない。」

 

その後は夜が明けるほどまで話を続けた。

マイヤール樹林で拾った剣のこと。

その時に見えたフラッシュバックのような映像のこと。

森の主と戦ったこと。

追い詰められた時に頭の中に流れた声のこと。

剣術を嗜んですらもないのにも関わらず、一撃で森の主をしとめた必殺技のようなもの。

途中、バカと10回以上は言われた気がするが…

 

「剣が記憶の手掛かりねぇ…」

「あぁ、確証はあまり掴めてはいないが…小さな手掛かりでも追って行きたいんだ。」

「…そうだ。」

 

すると、トレディアは立ち上がり、そのまま部屋から出て行く。

少し待つとまた部屋に入ってくる。何かチラシも持ってきてだ。

 

「剣が記憶の手掛かりとなるなら…ここに行くなんてのはどう?」

「…チラシ…?」

 

チラシには二本の剣が斜めに交差しており、その上に盾が重なっている紋章のようなマークがついている。

 

「…戦う意思のある者…ここへ集まれ…[ウォーリア・スクール]…?」

「そう、一般的にはW・Sと略されていてね。そこに入った人たちは一般人から一人前の兵士に育てあげるとう学校なの。

「…なぜそんな学校が設立されているんだ?」

「さぁ…でも、一つだけ分かることは…」

 

表情が曇り始める。何か思い詰めていることでもあるかのような表情だ。W・S…記憶の手掛かりとなる物があるのだろうか。

 

「…最近ね、奇妙な事件が多発しているの。」

「事件?」

「この辺りではそんな事件はないのだけれどね。でも都市部のあたりでは爆発事件とか、誘拐とか、そんなのが多発しているの。それに対する兵士を育てあげるという風に世間には伝わっているの。」

「でも…入るためにはお金とかは?」

 

エクスロード家、その近隣にあるマイヤール村、それもマイヤール村自体がそんな大きな村でないため入学金とか、そう言ったお金を用意できるようには思えない。

 

「それがね、ここから村を出て北東部部に数km歩いたところに駅があるの。そこの駅長さんにW・Sに入ることを伝えると書類のようなものを書かされてね、その書類をW・Sに持って行けば無料で適性試験を受けさせてくれるの。合格すれば合格者の食費などの最低限の費用はW・Sが負担してくれるの。」

「そんなサービスが…どこからそんな費用が?」

「聞いた話だと…中央部の政府が負担しているとかなんとか。」

「なるほど…そんなお偉いさん方も関与していて…」

 

だが、疑問はそれだけじゃない。なぜトレディアがそこまで詳しいのか、とても気になっていたのだ。もしW・Sに入っていたとしても何故この小さな村の近隣の一軒家であるエクスロード家にいるのかと。

 

「それにしても…すごい詳しいな…」

「私の幼馴染がね、さっき紹介したW・Sに入学した戦士なの。さっき言っていたようなことはその幼馴染が教えてくれたの。まぁ…私は入学する気とかないからどうでもよかったのだけれど…まさかここで役立つとは思っていなかったな。」

 

なぜ詳しいかと聞く前にトレディアが快く説明してくれた。トレディアの幼馴染が入ったのなら納得のできる話だ。

 

「その幼馴染って…?」

「…レックスって名前だよ。でも…」

 

また表情が曇る。先程からW・Sについて説明する前よりはるかに曇っている。

 

「…ある任務の時にね…殺されちゃったの。それも味方であるはずの人がね…」

「…ごめん…」

 

申し訳ないことを聞いてしまった。聞いた瞬間に反射的に謝ってしまう。

そう、W・S。つまり兵士育成学校と解釈していいだろう。どんな育成方法があるかは分からないが、成長の過程であれどつねに死の危険に身を晒されているようなものだろう。

 

「…トレディア、行ってみるよ。W・Sに。」

「え?でも…」

「危険なことは分かっている。でも、そんなことでも手掛かりがあるなら行ってみないとね。道で止まっていても何も始まらないことが事実だしな。」

 

トレディアからのW・Sの説明を受けているうちにすでに心の中で決めていたことだった。剣が記憶の手掛かりなら剣を使う必要がある。だが、この村で剣を握ることなんてまずない。それならW・Sのような場所が都合がいいのではないのだろうか。それなら行ってみたほうがいいだろう。そう決心がついていた。

 

「…分かった。その前に…」

「?どこへいくんだ?」

「少しある物を取りにね。」

 

また部屋から出て行く。なんだか忙しそうだ。そして先程と同じように何か持ってきて部屋に入ってくる。本当に忙しそうだ…

 

「これ、あげる。」

「…バンダナ?」

 

渡されたのは黒いバンダナだ。何のために渡すのかはよくは分からないが、とりあえず受け取っておく。

 

「このバンダナはお守りだよ。バンダナを見たら私とメリナおばあちゃんを思い出してね。…本当はね、これレックスにあげるつもりだったんだ。ささやかな応援程度にしかならないのだけれど…」

「…その…レックスってどんな人なんだ?」

 

トレディアのW・Sへの心残り、それはレックスという人物にあるのだろう。W・Sにてレックスという人物にでも聞こうと思ったからトレディアに聞いてみようと思ったのだ。

 

「…レックスはね、いつもお気楽でプラス思考の塊その物といえる人だったよ。でも、人付き合いは下手だったかな。」

「なるほど、兵士と聞くからどんな人かと思ったけど…そんな人もいるんだな…」

 

そんなこんなで話を進めていると、辺りはすっかり明るく、また新たな日へと変わっていた。

 

「あちゃー…話しているうちに日が変わっちゃったね。」

「うーん…俺がどのくらいまで寝ていたかは分からないが…そこまで長く話していたなんていう実感はなかったな。」

「じゃ、私は朝食の準備してくるからね。あと、二度寝しないでよー。」

 

そう言い残してトレディアは部屋から出て行く。

W・S…新たな記憶への手掛かりの可能性を得ることができたな。

 

 

 

また数日もの日が過ぎて……

 

 

「…レックスさん…あなたが与えられるべきであった思い…借りますよ…。」

 

バンダナを頭に巻き、村の工房で作ってもらったな武器を背負うためのベルトに、最低限の防具を装備する。その姿は村の狩人というより、本当に戦士のようだった。当初は倒れていた時の服装で行くつもりだったのだが、トレディアが誤って捨ててしまったために服装が変わってしまったのだ。

…実は少しだけ悲しい。

 

 

マイヤール村…

 

「ようファイン!!お、似合ってるじゃねぇか!!サイズは大丈夫か?」

「あぁ、ありがとうなバーンズさん。」

 

村に入ると俺よりも背が高く、筋肉質の男性にであう。この人はバーンズ。マイヤール村での唯一の武器防具の工房の店主だ。この暑苦しい雰囲気をまとったおっさんが村の狩人のために武器を作っているのだ。

そして、エクスロード家にあった猟銃もこのバーンズが作ったのだ。

 

「いいってことよ!しかし…この村の近隣でW・Sに行くなんてのは…実にあいつ以来だな…」

「あいつ…レックスという人のことですか?」

「お、知ってるのか。知り合い…なんてことはないな。記憶をなくしている以上は。ま、そんなこたぁどうだっていい!頑張って一人前の兵士になってこい!!」

 

バンと背中を勢い良く叩かれる。まだ森の主のと戦いでの痛みが少し残っているせいか、本人は弱めだが俺にとっては激痛と同じようなものだ。

 

「あががががが…」

「あ…背中強打したんだったな…」

「バーンズさん!ファインは怪我はマシになったとは言えまだ怪我人なの!!」

「あぁ、悪い悪い…すっかり忘れていてな…」

 

背中の痛みに耐え切れず、うずくまっているとその横からトレディアが現れ、バーンズに説教じみたことを言っている。なんとなくありがたいが、痛みに耐え切れない己自身が弱々しく感じる…

 

「本当に行くのかえ?ファイン…」

「あぁ、しばらくの間ありがとな、メリナおばあさん。」

「…気をつけて行くんだよ。」

 

メリナおばあさんに至ってはまだ心配な所もあるようだ。無理もない。二度も森の主と遭遇し、二度も気を失うほどの負傷を負わされているのだ。心配するのはメリナおばあさんの場合だとおかしくない。

だが、この心配は励みになったりと、本当に不思議な人だ。

 

「…じゃあ、行ってくる。」

「体には気をつけて行くんだよ。」

「頑張れよ!!お前は俺たちの誇りでもあるのだからな!!」

「ファイン…死なないでね…」

 

トレディアの台詞がどう考えても数年後などには死んでしまいそうな気がしてならない…気の所為だといいが。

 

「皆…ありがとう。行ってきます!!」

 

感謝の思いを伝え、決心もついたところで村に出る。トレディアの情報が正しければここから北東へ数km行けば駅があるはずだ。目印とかは聞き忘れていたが、なんとかなるだろう。

 

「…W・S…か…」

 

 

第二話へ続く




人物紹介

名、ファイン・エクスロード
性、男 身、178.5 種、人間
記憶をなくした旅人。
マイヤール樹林にて記憶の手掛かりでなりうるであろう剣を手に入れ、途中遭遇した村近隣の危険対象である森の主を撃退。
トレディアの紹介により兵士育成学校、W・Sへと向かう。

名、メリナ・エクスロード
性、女 身、154.0 種、人間
マイヤール村近隣の一軒家にすんでいる老婆。
マイヤール樹林で迷子の子供を保護したり、その穏やかなところなどからマイヤール村でもかなり評判は良い。
噂だともとは美人の狩人だとかなんとか。

トレディア・エクスロード
性、女 身、168.8 種、人間
エクスロード家に住んでいる女性。
メリナとは血のつながりはないようだが、メリナを手伝いたいことからメリナの家に住んでいるとか。

レックス
性別、身長等は不明
マイヤール村に住んでいて、トレディアの幼馴染。
マイヤール村からW・Sに出たが、任務中に仲間の裏切りにて死亡したという。

バーンズ・ヘルドルク
性、男 身、185.7 種、人間
マイヤール村唯一の鍛冶屋の店主。
マイヤール村に来る狩人の武器や防具などを作ったりと狩人や兵士のサポートをしている。
ヘルドルク家は代々、マイヤール村の工房としての役目をしており、バーンズは3代目らしい。
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