The Warrior World 第一節「忘れられた剣」 作:犬丸ミケ
マイヤール村からコーリヤ平原を抜け、かなりの時間を掛けてW・Sへ向かう列車の駅を見つけた俺、ファイン・エクスロード。
その道中にて魔物に襲われていたところをW・Sの生徒、ウィリー・ハイリップスを名乗る人物に助けてもらう。が、その身体能力は明らかに人類の領域を越したように見えたのだった。
やがて列車に乗るも、何か不思議な夢を見る。それは、負傷を負った俺にレックス・フォールズとエリク・ブランケットと名乗る人物に助けてもらうという夢だ。だが、どうにもそれは夢には思えなかったが、それを考えるのは後にしておこうと思う。
やがて、W・Sへ到着するも、何やら怪しい青年と顔合わせをする。が、何を隠そうその青年は俺と同じW・Sの試験者だったのだ。一般的な考えなら普通はそうは見えないのだがな……
「えーと…試験会場は…っと…」
なんだかんだあって、W・Sへ入ることは出来た。
校門を通ろうとすると、門番らしき人に止められたが、書類を見せるとすぐに通してもらえた。
そして、校舎内の地図を貰ったのだが、校舎はあまりにも広すぎて道に迷っているのが今の現状。
おそらく、街にお城を作れるほどの敷地の広さはあるだろう。それもかなり大きく。
「…(地図を見ても全く分からないな…どうするべきか…)」
と、曲がり道を曲がろうとした瞬間ー
「わわわわーっ!!んぎゅ!!」
「……え?」
何やら小さく、柔らかな感触がファインの腹部あたりに突撃し、当たった物がそのまま反動で尻餅をついてしまう。
外見はかなり幼い少女だ。おそらく、ファインと比べても5つは歳が違ってもおかしくはないのではないのだろうか。
青みの帯びる白い長髪な髪型に、青く、曇りのなさそうな純真とも言えそうなその瞳が少女の幼さをさらに象徴するかのような容姿だ。
「あ、ごめん…立てる?」
「ふぇえ…すいません……」
「…(ん?)」
手を取ろうと、その場で膝を付いて手を差し伸べるが、そこで少女の服装をみて疑問が生じる。
少女の服は、まるでお嬢様学校の制服のように清楚で、落ち着きのあるような服装なのだ。
さらに、ファインから見て右胸のポケットには、W・Sに入る前に見たW・Sの紋章が刺繍されていた。
「(もしかして…W・Sの生徒か?)」
「んしょ…すみません、つい不注意で…」
「いや、いいけど…」
ぺこりと頭を下げて謝罪を受ける。
何かとても礼儀正しい印象を与えられる。
「もしかしなくても…W・Sの生徒?」
「あ、はい。私は魔法支援化の魔道研究生のロール・クリケットです。そういうあなたは…試験者ですか?」
「あぁ。まぁ…道に迷って試験会場が分からずじまいのままなのだが…」
「あ、でしたら私が案内しましょうか?」
「え、本当か?」
願っても無い幸運だ。
地図を見ても分からなければ誰かに聞く。そう考えていた矢先にW・Sの生徒と出会い、その上案内をしてくれるようだ。
「んじゃ…頼もうかな。」
「はい!よろこんで!」
幼さを目立たせるその顔から笑みが溢れる。
本当に子供ではないかと勘違いしてしまいそうなほど。
数分経ち……
「そう言えば、ロールはなんの科目に付属しているんだ?」
「私…ですか?」
「あぁ。もしかしたらの話だが…これで試験に合格したらまた顔合わせになることがあるかもしれないかな…ってさ。」
「なるほど…でも、もし試験者さんが合格しても…あまり顔合わせになることはないかと思われます。」
申し訳なさそうな顔でロールはファインの疑問に答える。
「どうしてだ?」
「そうですね…試験者さんはー」
「ファイン、ファイン・エクスロード。まだ名前を教えていなかったな。」
ロールの名前を知れど、ファインは自己紹介をしていなかったことをふと思い出す。
試験者さんと呼んでいたのはそういうことだったのだろう。
「えーと…ファインさんはなんの科目に適性試験を受けるので?」
「近接戦闘科だ。」
「あー…やっぱり…ですね。」
「やっぱり?」
まるで、どう答えるのかが分かり切っていたような反応だ。
外観などで判断されたのだろうか。
「えーと、ファインさんのその装備…近接戦闘を主とする人のための装備ですよね?」
「分かるのか?」
「はい。それも装備の外観からしても、運動性とある程度の防御性を兼ね備えた革製の装備、レザー装備ですからね。」
確かに、村の工房でバーンズに作ってもらった防具で、前の戦闘においても動きずらさを目立たせない防具だ。
動物の革をベースに、中に薄めな鉄板を入れることで、防具としての最低限の役目を果たせる上、甲冑などと比べれば見た目も軽々しく、その見た目からはあまり予測できないような頑丈性を持っている。
それがファインの今の装備だ。
「それに、その大剣は大剣独特の重量感を出しつつも、その実大剣の中では軽い部類に入り、その軽さを持ってしても大剣の一番の特徴であるとも言える一撃の攻撃力をも兼ね備えた初心者用と言われていても、何年もの経験を兼ね備えた熟練の大剣使いにもとても好評な大剣、[メタルブレイカー]ですね。」
「…詳しいな…」
ファイン自身も自分が持っている大剣がどのようなものかもあまり把握していなかったというのに、ロールはファインの大剣について長々と説明をする。
その見た目の幼さとは相反するかのようなマニアぶりに見えてしまう。が、W・Sではこのくらいの知識は当然なのだろうかとふと疑問に思える。
「それに…このグリップは特注性ですね…普通のメタルブレイカーに比べて少し厚みが増している…それによって手にかかる叩きつけた時の衝撃を吸収するようにオーダーをしたのかな…しかも、このメタルブレイカーは市販のものより若干重みもあるみたい…スピード性よりも威力を優先…?いや、でもこの重量ならある程度の経験を兼ね備えた人なら対した重さとしての障害もないような…」
「…あのー…ロール…?」
「はわわわわわわっ!?すみません!つい!」
呼びかける前の説明を聞けば、もしかしたら本当にマニアなのかもしれない。完全に自分の世界にのめり込んでいたのだから。
「えーと…その詳しさはいったい…」
「すみません…実家が工房で武器を見るのがとても好きなんです…なんというか…実戦性を兼ね備えた見た目の武器って芸術品のように見えるというか、なんというか…」
「…もういいから…なんか悲しくなるから…」
場面は進み、適性試験会場前…
「ここが適性試験会場入り口です。中に入ったら係員の方に書類のほうをお渡しください。」
「あぁ、わざわざありがとうな。」
「では、私は少し用事があるので同行の方はここまでにさせていただきますね。」
そう言うと、ファインに一礼し、パタパタと廊下を駆けて行く。
また曲がり角で誰かにぶつからなければいいなとファインは少し不安に思いつつ、あの小さな背中を見届けていった。
「…(さて、人の心配をする前に自分の心配をするべきかな…適性試験はもう目の前にあるんだしな…気を引き締めていかないと…)」
緊張と共に、合格した際の今後の未来に期待を寄せ、試験会場への大きな扉を開ける…
試験会場、ホール
「…ん?俺だけ…か?」
周りを見渡す。
てっきり大人数が押し掛けた状態で会場は埋まっているものかと考えていたのだが、まるで人気がない。
会場であるホールはとても大きな作りとなっており、ここだけでも何100人ものの人間が入ると考えると目眩がしそうになる。
そんな会場なのにも関わらず、まるで人気がない。自分だけの世界…このように表現もできてしまうだろう。
「おや、まだ説明会を開いている最中だというのに、もう試験者がいるのか。」
「…?」
先ほど入った入り口から一人の男性が入る。少し茶色が入ったような髪型に、少々歳を重ねた大人の男性の顔つきだ。その上、長身の男性で白いスーツを着ているためか、清潔感を漂わせている雰囲気だ。
「質問、君は案内なしでここまで来たのかい?」
「あ、あぁ。そうだが。」
優しさがこもりつつも、若干ダンディな雰囲気を思わせる声で問いかけられる。
だが、その堂々とした喋り方からは何か威厳のようなものを感じさせる。
「次に、それは誰の案内で?」
「…ロール・クリケットという、ここの生徒だが…」
「…なーるほど、ロール君か…」
「…?」
まるで納得したような口振りで話を進められる。
ファインの中では疑問はまだ積み重なっているというのに。
「ロール…君?」
「あぁ、気にしないでくれ。ただ単に私が彼女のことをそう呼んでいるだけで、彼女はれっきとした女の子だ。」
「いや、そんなこと全くと言っていいほど気にしていないのだが…」
何か勘違いしているのだろうか。ファインの疑問とはそういうことでは無いのにも関わらず、白いスーツの男性は会話を進める。
「だが、彼女の幼らしい外見には何も感じない…なんてことはなかったのだろう?」
「いや、ちがー」
「守ってやりたい、とか、大丈夫かな…とか、そんな不安に思ってはいたのだろう?」
「………」
どんどん話を進められる。
だが、不安に思っていたのは図星である。
「まぁ無理もない、ロール君はこのW・Sでの可愛い女の子ランキングにて1、2を争うかのような子だ。不安になるのと分かるさ。」
「いや、なに話を進めてー」
「大丈夫、彼女は君が不安に感じるほど軽い子じゃあないよ。あんな外見だが、実際はとてもしっかりしているからな。」
「…なんの話なんだか…」
ここまで勝手に話を進められてしまうのは少々呆れるものもある。
「そもそも…あんたは誰なんだ?さっきから勝手に話を進めていたけども…」
「あー、そういえば自己紹介がまだだったね。私はベラース・ウィリアムズ、このW・Sの学園長だ。よろしく、試験者ファイン・エクスロード君。」
「な…!?」
耳を疑いたくなる。
今、この男性ベラース・ウィリアムズは自分のことを学園長と名乗ったのだ。
「あんたが…学園長…?」
「そうだ。って、そんなに意外そうに思われると…少し傷つくな…」
と、すると横から割り込むかのように。
「そりゃあ…思われるのは当然でしょう…学園長…」
おとなしげで、優しさのあるような声がファインとベラースの会話の間に入ってくる。
ファインにはその声に覚えがある。声の元を見れば、そこにいるのは幼げな外見が特徴のW・Sの生徒
「ロール?どうしたんだ、用事があるって言っていたはずだが…」
「はい、学園長に用事があるんですよ。」
「なるほど…な…」
「えーと、それよりロール君。そう思われるのは当然…とはどういうことだい?」
ファインとロールの会話にベラースが入ってくる。
だが、先ほどのロールの発言を聞けば疑問に思うのは当然だ。
「えーと、なんというか学園長とファインさんの会話からしても、その服装にしても、間違っても学園長には見えませんよ…」
「う…」
的確というか、正論というか、ベラースは何も言えなくなってしまう。
「学園長というより…夜遊びが大好きな女たらしっていうか…」
「…うーむ…なんだか入って来た時に比べればとても口が厳しくなったんじゃないか?ロール君…」
「…(うわぁ…)」
今のは正論ではなく、毒舌と言ったほうが正しいだろう。
これがもし、悪どい顔で言われると少々腹立たしいものはあるだろうが、ロールの場合は違う。少し控えめな態度をしつつ、その純粋たる瞳はベラースの汚点を指摘している。
「…なんかすいません…」
「え…あ、じょ、冗談ですからね!?」
学園長たるベラースがその生徒のロールに頭を下げて謝罪をする。
…なんだか新鮮味がある風景だ。
「…なぁロール。学園長に用があるんじゃなかったのか?」
「あ、そうでした。学園長、試験準備のほうは完了しました。いつでもどうぞ。」
「うむ、ご苦労。ではファイン君、本来は説明会で行うはずの説明内容をここでざっくりとした内容だけを伝えよう。」
本来の流れは説明会にてあらかたの説明を聞いた後、ここで試験を行うのだろう。
それをファインは一足先に試験会場に来てしまうと、最初から順番を間違えているなんてことをしてしまったのだ。
「…君は、死ぬならどんな死に方がいい?」
「……?」
それは唐突そのものだ。
説明会での内容を教えると言ったのにも関わらず、いきなり死に方を聞かれるのだ。
もし、ファインのように記憶を求めるなどという目的がなければ、今の一言だけでも心は屈していたかもしれない。
「ここ、W・Sの生徒としてなるからには己の死に方は己自身で決めなくてはならない。絶望の境地に立たされ、自害するか、敵に囲まれてハチの巣にされるか、それらは全て己自身で決める必要がある。どうかね?」
「………」
W・Sは戦士育成学校でもある。だが、学校であるとは言えど、戦いに関わることには何も変わらず、学校であれども常に死と隣り合わせである。
ということを伝えたいのだろうか。
「…俺がここに来たのは記憶の手がかりを探るためだ。俺自身が何者なのか、俺自身がどんな生き方をしていたのか、それを見つけるまで死ぬ気はなければ、死に方も決める気はない。」
「…(ほぅ…)」
ベラースは腕を組み、なんとなく納得できる節があったのか、少々うなづいたような反応を見せる。
この時のベラースの目つきは、先ほどのおふざけの時とは違い、真剣味にかなり満ちている。
ファインは悟る。戦に関わっている目だと。
「まぁ、そのような考えもいいだろうね。」
「?どういうことだ?」
「大丈夫ですよ。今の質問には対した答えがないので。」
「…そうなのか?」
「いやぁ…悪いね。少し君の覚悟とやらを見せてもらおうかなってさ。ま、そのぐらいの覚悟があるなら大丈夫だと私は信じているよ。」
何か不敵な笑みを浮かべてファインを見る。とても怪し気だ。
「さて、一足先に君への試験を終わらせてしまおうか。」
「いいのか…?」
「あぁ、説明会は時間かかるからねぇ…本来の流れとしては、書類を係員に提出、そうしたら1Fの中央広場にて集合し、そうしたら各科目に別れて、各科目の説明を受ける。その後に昼食を取り、各科目の試験を行い、夕方くらいに試験の合否を伝える…てのが本来の流れなのさ。…というか…パンフレットは見たかい?地図と同封されているはずなんだけどなぁ…」
「…(あ、そういえば…)」
ふと地図の入っていたクリアファイルを取り出す。
すると、[W・S、戦士育成適性試験の流れ]と書かれたパンフレットが出てくる。
どうやら、先に手に取ったのは地図らしく、校門付近での黒いローブの青年との会話で時間を取ってしまった分、慌てて試験会場へ向かってしまっていたようだ。
「やれやれ…本来はパンフレットから読むものではないのかね…もしロール君と出会わなければ君は試験を受けていられなかったと思うよ?」
「…返す言葉もないな…」
「まぁいい。始めよう。
すると、ベラースが右手で指パッチんをすると、試験会場の空間が変わっていく……
「…空間が…変わって…」
「これは、W・Sの実習科目にて使われる模擬戦闘用空間です。その場にいた空間をベースにして、本来いる空間の次元から一時的に隔離され、別の空間へと飛ばされる仕組みになっています。この空間内は外からのあらゆる干渉は受け付けず、さらにこの空間内のものを破壊しても、外側の本来の空間には影響されません。」
「へぇ…模擬戦闘用…か。」
長々と説明ご苦労様とロールに伝えてあげたい。
そんな気分になっていると、女声アナウンスのような音声が流れる。
『試験者名、ファイン・エクスロード。試験No.1998。試験科目、近接戦闘科。これより、試験を開始します。』
「…ロール、試験内容はなんなんだ?」
「えーと、近接戦闘科ですから…実戦科目となります。では、私はこれにて…」
すると、ロールの姿がホログラムのようにエフェクトが発生し、姿が消える。
すると、またアナウンスのような声が聞こえる。男声の声だ。
『さてファイン君、試験中においてはこちらで用意された武器を使ってもらう。』
すると、ファインの目の前でまたホログラムのエフェクトが発生し、次第に形を構成し、やがて剣の持ち手のようなものが現れる。
「これが…試験用の…」
『試験用兼模擬戦闘空間内専用武器、[ボックス・ウェポン]と呼ばれるものだ。近接戦闘科の基礎として格闘武器を使い、試験を受けてもらう。もし、君が素手で戦うようなものでなければ、その剣を受けとりたまえ。』
そう言われ、右手に剣を持つ。
すると、本来の剣の刃の部分がある場所から光の刃が出てくる。
『それは[ライトソード]と呼ばれるボックス・ウェポンだ。斬っても斬られても痛みは生じないが、特定のエフェクトが発生し、一定の数のエフェクトが与えられると、そこで模擬戦闘は終了する。いわばゲームのようなものかな。』
「…軽いな」
試し振りをすると、光の刃の部分は重さがなく、基本的には短い棒を振り回している気分で振ることができる。
『それでは、試験…始めっ!!』
ファインから見て数m先にエフェクトが発生する。ライトソードが出てきた時と同じものだ。
すると、同じライトソードを持った人型のビジョンのようなものが出現する。
「あれが標的かな…」
そして、間も経たない内に、人型のビジョンはライトソードをファインに向けて走り始める。
速度は人が走る速度と対して変わらない。
「来る…っ!」
少々呆気を取られていたが、すぐに立ち直り、臨戦態勢に切り替わる。
ビジョンとファインの間合いは次第に迫り、そしてビジョンの間合いになったのか、右手で持ったライトソードで斬りかかる。
「あぶな…」
だが、ファインにはその動きは目で捕らえ切れていたからか、ファインの左顔面に向かう刃をしゃがんでかわし、
「隙だらけだ…!」
横になぎ払った際の隙をつき、ビジョンの脇腹を切り裂くように斬撃を決める。
「(弱い魔物ならこれで終わるが…ビジョンはどうだ…?)」
ビジョンの脇腹には、斬った跡が分かるように赤いエフェクトが発生している。斬った際も、血が出るかのように赤いエフェクトが飛び散ったのだ。血に比べれば目にはやさしい。
そして、次第にビジョンは揺らぎ始め、最後は結晶が破裂するかのようなエフェクトでビジョンだったものが飛び散り、宙に消えていく。
「よし…!」
『ふむ、基礎的な動きは中々だ。では…次行くぞ…!』
すると、今度はファインを囲むように3体のビジョンが現れる。
2体はライトソードを持ち、1体は拳銃を持っている。
「敵はまだまだ現れる…か。まぁ…1体だけを倒すのも楽すぎるかね…!」
模擬戦闘用空間内より外、試験会場
「どうですか?学園長。」
「あぁ、中々いい動きをしている。見てみたまえ。」
ベラースがその場を譲ると、空中に電子的な画面が出ている。
その画面には今まさに模擬戦闘用空間にて戦っているファインの姿があった。
「集団vs単独の戦闘ですね…それにしても、ファインさん…冷静に立ち回っていますね。」
「あぁ、それどころじゃない。次に何をするべきか。それをコンマ数秒の中で即座に判断し、次の標的へ向かう。戦い慣れ過ぎてると言ってもおかしくないだろうね…」
「えーと、試験の合格最低条件は…[死と隣り合わせの覚悟]と[模擬訓練用人型電子映像[ドール]の1体の撃破]ですよね?」
「そうだ、ファイン君には伝えていなかったのだが、ドールを何体倒そうが構わない。それどころか最初の1体だけでも構わないのだからね。」
「…(にしても…)」
ロールは疑問に満ちた表情を浮かべながら画面を見つめる。
画面の中では、丁度ライトソードを持つ2体目のドールを倒し、拳銃持ちへ向かっていく。
「…!拳銃持ちにそんな風に接近しては…!」
「…いや…」
ロールのそんな不安心を打ち消すかのように画面の中で答えがあらわれる。拳銃持ちのドールは発砲する。が、その弾丸による弾道をかなり冷静に見計らい、最低限の動きで避けたのだ。
ファインの間合いは直前。
ドールは再度発砲しようとするが、また読んでいたかのようにその場でファインから見て右方向へ回避。弾丸はファインが回避する前にいた場所の後ろの壁へ被弾。さらに、今の回避行動で間は完全に詰めており、ファインのライトソードの刃は、ドールの腹部を貫く。
ドールの姿は揺らぎ、破裂する。
「…弾丸を…避けた…?」
とても試験者とは思えない動きを見せつけられたロールは、その動揺とともに、震えた声で話す。
「いや、弾丸を避けたというより…弾道を予測したと言うわけか…」
「弾道を予測…?そんなことができるのですか?」
「…おそらく、彼は銃口を見て、どこに弾丸が飛ぶかを即座に予測、その場から離れれば弾丸は、ファインがいた場所へと飛んでいく。そうすれば弾丸を回避することはできるが…この技術は、相当の鍛錬を積んだものにしかできない技術だ…」
ベラースの表情からも動揺の色はしっかりと確かめられる。
ファインは試験者。なのにも関わらず、技術は上級者。この差を知れば動揺するのは確実とも言える。
「では、ファインさんがドールとの間合いを詰めた時の弾丸はどうやって…?」
「これも予測だ。それも、銃口を見てからは間に合わない距離だがな…」
「つまり?」
「反射だ。彼の直感がもう一発の弾丸が飛ぶことを予測し、あえて攻撃前にドールの右回りに走り込めば、避けられないことはない。だが、これはタイミングがとても難しい。早過ぎれば距離を取られ、標準をまた定められてしまえば、遅過ぎればそのまま被弾するほど…ね。」
「…反射…」
「…さて、実力は十分に分かった。模擬戦闘用空間をオフにしてくれ。」
「わかりました…」
真剣な表情になりながらロールは、試験を終了させるために模擬戦闘用空間のコントロールを開始する。
…が、
「…え?…なにこれ……」
同時刻、模擬戦闘用空間内…
「よーし、これで最後か?」
広々とした空間内にはファイン以外誰もいない。
本来なら数秒後にドールが現れるはずが、なかなか現れない。
「(ま、いくらでも来ようが倒すまでだけどな。)」
と、安心しきっていると…
突然目の前にウィンドウが出現される。内容は
「エラー?…誰だ!!」
気配のようなものを感じ、瞬時に後ろを振り向く。
そこにいたのは人間と同じ姿をしたものだが、そこから感じるのは今までに味わったことのない重圧感、そして人ならざるものと対面した時の恐怖。
「…………」
「…(なんだ…こいつ…魔物ともちがう…いったい…)」
殺される。
ファインの感じる重圧感や恐怖から思い浮かばれた言葉は、この一言だった。
そうならないために右手にライトソードを持ち、構える。
が、
『待つんだファイン君!』
アナウンスのように声が飛び、ファインを我に変えさせる。
あのお気楽な雰囲気を出している学園長ベラースの声なのだが、その声からはかなり真剣な声なのが読み取れる。
『いいか、よく聞くんだ。今そこにいるのは今回の試験の対象となる模擬訓練用人型電子映像、ドールではない。』
「…なら…なんだって言うんだ?」
『…上級試験、対悪魔戦のデータだ。』
「…悪魔?」
悪魔とは、神話などで登場する架空の生物だ。
そんな架空の生物との戦闘とはなんなのかと疑問が生じる。
「悪魔って…どういうことなんだ…?」
『悪魔に関しては後で話す。それよりも、まずは君の置かれている状況を説明しよう。』
「置かれている状況…」
この説明でファインの置かれている状況、そして出現した相手の正体である悪魔、それらが全て分かるのだ。
そのおかげか、先程までのファインの困惑した表情が、迷いのない真剣な表情へと切り替わる。
『まず、君が本来受けるのはプログラムは適性試験用戦闘プログラム。だが、こちらのほうでバグが発生したのだ。』
「バグ…?」
『そのバグの影響か、模擬戦闘用空間のデータが強制的に切り替えられ、対悪魔戦試験へとなってしまったのだ。』
「まぁ…プログラムが変わってしまうのはかなりの問題だが…それだけじゃないんだろう?」
『その通りです。』
ベラースに変わり、ロールが解説へと変わる。
プログラムのセットをしたのはロールだ。ベラースに比べ、詳細まで詳しいのだろう。
『ファインさんの受けている試験はゲームに近い感覚のプログラムになっているのです。これにより、斬られたり、撃たれたりした際の痛みを感じることはなく、代わりに被弾数や被弾箇所によって死亡判定が行われ、もし死亡判定に引っ掛かってしまった場合は訓練が自動終了となるのです。』
ここで相槌を打ち、会話を切り替える。
『ですが、対悪魔戦試験のプログラムはかなり実戦に近い状況。つまり、攻撃が当たれば痛みを感じ、当たりどころが悪ければ死亡してしまいます…』
「な…!?」
ベラースは言った。対悪魔戦のプログラムは上級試験、ファインの技術と比べてもその差は一目瞭然。その上、ここでの死は現実での死。限りなく死ぬことに近い状況下に立たされているのだ。
『それに、対悪魔戦の試験に関しては模擬戦闘用空間ではなく、別の試験会場で行うものとなっていますが、今ファインさんのいる場所は模擬戦闘用空間…つまり、密室での殺し合いとなっているのです…』
密室での一対一。本来なら逃げ出したりすることができるのだろうが、模擬戦闘用空間ではそうはいかない。
模擬戦闘用空間は現実世界から隔離されたデータの世界。故に特定の空間のみを形成されている。つまり、模擬戦闘用空間から出る方法はベラースたちのいる現実世界からプログラムを操作している側でのみでしか出れないのだ。
「なら、すぐに出してくれるんだよな…?」
『いえ…それが…』
『模擬戦闘用空間で空間から出るためにはある条件を満たす必要がある。』
「条件?」
『1、模擬戦闘用空間が試験にて使用されている場合は、プログラミングされている標的の全滅。
2、または死亡判定の命中による強制終了。』
「…つまり…2を満たせば死ぬから…1を満たすしかない…勝てるのか…?」
『いや、無理だろう。』
ファインの淡い期待はベラースの一言で叩きのめされる。
「ならどうすればいい?」
『今こちら側で強制終了プログラムを稼働させるためにロール君に手伝ってもらっている。それまで時間稼ぎを頼む。』
「なるほど…そうだ、頼みがある。」
何か策があるのだろうか。とくに迷う様子もなくベラースに尋ねている。
『何かね?』
「メタルブレイカー…俺の大剣をこちらに転送してもらいたい。いいか?」
『…分かった。ロール君、彼の武器を転送したまえ。』
考える間も無く承諾を得る。迷っている暇がないのは目に見えているからだ。
すると、先程ライトソードが出て来たようにメタルブレイカーがファインの手元に出現する。
『どうする気かね?』
「…ライトソードは俺には軽すぎてな。なら、メタルブレイカーのほうが手に馴染んでいるからな。」
ライトソードを投げ捨て、メタルブレイカーをしっかりと握りしめる。
鍛冶屋で洗練された武器のズッシリとした重さはファインの手にすぐに馴染み、そして戦闘時の構えをとる。
「倒せなくても…やれることはやってやる…!!!」
第四話へ続く……
人物紹介
ロール・クリケット
性、女 身、150.6 種、人間
W・Sの生徒だと分からなければ幼い少女だろうと思えてしまうほどの容姿をしたW・Sの生徒。その見た目故か、W・S両方の性別層からもかなりの人気を持っている。
その見た目とは裏腹に、武器や機械などには強いらしく、実際はかなりの実力者なのだとか。
ベラース・ウィリアムズ
性、男 身、185.0 種、人間
W・Sの学園長。
基本的に服装は白いスーツ姿で、ダンディなイメージをまとわせている。
性格はかなりお気楽。W・Sの生徒には中々の人気を持っているが、服装と性格が故に[女たらし]に見えてしまうとか。
本人は変える気はないようだ…
模擬訓練用人型電子映像[ドール]
模擬戦闘用空間内において行われる訓練や戦闘試験に使われる物。
戦闘データなどは見習い兵士から、名高い傭兵までとレベルが設定されている。
さらに、武装や姿なども設定できるというロールの作った訓練用データである。