The Warrior World 第一節「忘れられた剣」   作:犬丸ミケ

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前回のあらすじ
対悪魔戦闘用プログラムによって試験者でありながらも悪魔と戦う羽目へとなってしまった俺、ファイン・エクスロード。
悪魔の力はとても凶悪なもので、俺自身、成す術もなく惨敗してしまったのだった………


第5話

ーーここは…?ーーー

 

先ほどまで悪魔と戦っていたのだが、模擬戦闘用空間とはまた違う場所にいた。

あたりは真っ白の空間。どこが前か、どこが後ろか、さらにはその空間がどこまで続くか分からないような場所だ。

 

ーー俺は…死んだ…のか?ーーー

 

ふと記憶が蘇る。

意識が朦朧とした中、悪魔の出した巨大な光球に飲み込まれる…ところまでは覚えている。

が、それ以降の記憶がまるでない。

 

ーーいいや、お前はまだ死んではいないさ。ーーー

 

ーー…誰だ?ーーー

 

どこからか聞こえる聞き覚えのない青年の声。いや、覚えている。この声を。

 

ーー…レックス?ーーー

 

そう、W・Sに向かう際に乗った列車の中で見た夢の中に出てきた青年。

大剣、メタルブレイカーを持ち、複数の悪魔を焼き切った青年でもある。

 

ーーお、俺の名前は思い出せたようだな。久しぶりだな、ファイン。ーーー

 

ーー……俺のことが分かるのか?ーーー

 

ファイン自身、レックスとの面識はない。いや、レックスの言動からあったのかもしれない。ファインは記憶を持たないからファイン知らない…と考えられるだろう。

 

ーーまぁな。でも、お前はまだ思い出せてはないな。本来の記憶の9割程は失っているって言っていいだろうな。ーーー

 

ーー……まぁ、名前を思い出せなかったくらいだからな…ーーー

 

だが、ファインという名前はファイン自身の名前と分かる。

レックスは失った記憶の中の知り合い。そのレックスがファインと呼ぶからには間違いはない。

 

ーーメリナばあさんは元気か?てか、メリナばあさんにお前のこと教えておいて正解だったな…そうじゃなきゃ、お前の名前を知る人はいねぇだろうからねぇ……ーーー

 

ーー…感謝すべき…なのか?ーーー

 

ーーどっちでもいいさ。っと、そろそろ時間だな。ーーー

 

ーー時間?ーーー

 

ーーんじゃ、また会おうぜ。ーーー

 

すると、レックスの姿はファインの視界から薄っすらと消えると同時に、ファインの視界が暗転し、やがて意識を失う………

 

 

「……ん……」

 

目を開ける。

視界にまず広がったのは白い天井。そして周りを囲むカーテン。さらに鼻についたにおいは薬品のにおいだろう。

たった今、ファインは仰向けの状態で寝かされている。体を包む白い毛布に、あまり寝心地の良くないベットに寝かされている。

それらの情報から、次の答えが出る。

 

「……医務室…?そうか……俺……あの戦闘で……」

 

記憶の中を探ってみる。

そこに出てきた新しい記憶と言えば、適性試験時に使う模擬戦闘用空間内にて試験中にプログラムに不具合が起き、悪魔と戦わされていた。

そして、その悪魔にとどめを刺されたところまでは覚えているのだが、

 

「(なぜ…俺は生きている?学園長とロールの説明が偽りでないなら…あの時にとどめを刺されて俺は死ぬはずだよな…?それに…戦っていた時の痛みがまるでないのも…不思議だ…)」

 

もし、空間内から引きずり出されたとしても、ファインは重傷を負っていたのだ。ならば、今頃は体が1mmも動かないほどに包帯に巻かれているようなものだが、現にファインは、そういった類の物を身につけていなければ、痛みも走らない。

すると、コンコンと小さくドアが叩かれる音がする。

 

「失礼します…ファインさーん……起きてますか…?」

 

ドアが開かれ、幼さを思わせるような声が聞こえる。

その声が聞こえた後、すぐにファインのベットに足音が近づき、そしてベットの周りのカーテンの一部を開けられる。

 

「…よう…ロール。」

「あ、起きていらしたのですね…よかった……」

 

カーテンが開かれ、見えたものは、身長は子供のように小ぶりで、幼さを感じさせるような顔つきに、綺麗な長い銀髪、そして一切の曇りを感じさせないかのような純粋に満ちた青い瞳の少女、ロール・クリケットだ。

 

「いきなりで悪いが、一つ質問……俺は生きているのか?死んでいるのか?」

 

に対しロールは、少し頰を膨らましつつ答える。

 

「…もう……目覚めてからいきなりその質問ですか…縁起が悪いですよ?ファインさん。」

「…いや、なんというか……今俺さ、生きているという実感がなくてな…実は死んでいたらとも思ってさ。」

「ご安心を、ちゃんと生きてますよ。だって、体から空間内で負った痛みはないにせよ、記憶にはあるでしょう?」

「…それが一番の不安要素であるのだがな……こういう時って言うのは、だいたいは包帯でグルグル巻きにされた上に、ちょっと体を動かせば痛むようなものなんだぞ?それなのに痛みが全くないんだから死んでいるようにも思ってしまうのさ。」

「むー…どうしてそこまで悲観的な考え方なんですか〜…私を信用していないのですか?」

「…いや…えーと…」

 

そもそも、こうなったのはあなたの作ったプログラムの不具合からじゃないのか…?と言いたいが、そう言うとロールは余計に責任を感じてしまうだろうと思い、答えに悩む。

 

「…冗談ですよ。」

「え?」

「そもそもこうなったのは私のミスでもありますからね。信用できなくても無理はありませんよ。」

「えーと…(おーい……それをあえて言わないようにしていたのに…それを言われちゃ俺が悪いみたいになるじゃないか!)」

 

すると、少し申し訳なさそうにしつつも、笑みを浮かべて会話を続ける。

 

「ですから…今回の失敗を次はしないようにしないと…ですね。」

「ロール……」

 

失敗をしても、そこで留まらずに次へと生かそうとする。さすがはW・Sにおいては先輩と言うべきであろう。

すると、またドアがノックされる。

 

「失礼するよ……っと、もう起きていたのかい?ファイン君」

「…学園長……」

 

長身で白いスーツを身にまとったダンディな男性が入ってくる。彼こそが、このW・Sの学園長のベラース・ウィリアムズだ。だが、この人が学園長と知らなければ、授業参観日に子供を見に行った誰かの父親のようである。

 

「それにしても、また災難だったね。」

「すごい他人事だな……」

「戦場においては、今回のような予期せぬ出来事はいくらでも発生するものさ。今回の試験用プログラムは我々のミスではあるが、それを対処して見せる判断力も必要なものだ。分かってくれたまえ。」

「…学園長……ファインさん。今回の出来事は私のミスが原因です…ですから学園長を責めるのでなく、私を責めてください……」

「ロール……」

 

学園長の言うことには一理ある。

戦場に出てしまえば、今回のような出来事なんて多々あるようなものだ。実際に、ファインもマイヤール樹林にて森の主と突然あったこともあるのだ。

……なんだか自分のミスを庇っているようにも聞こえるが、あえて気にしないことにした。

 

「…そうだな。これ以上何か言うと言い訳になりそうだ……?」

「?どうしました?」

 

学園長も来たので、寝たままもどうかと思ったので体を起こそうとするが……体が動かない。力は入る。だが、体が何かに縛り付けられたかのように動けないのだ。

 

「あぁ、言い忘れていたが、ウチの学校では怪我人が無理して動いて、傷口などが開かぬように呪術を用いてるからね。口を動かしたり、呼吸したり、喋ったり、首を動かすことはできても、体を動かすことはできないからね。」

「すみません、ファインさん……」

「…なるほど、ロールお手製の…ね。」

 

それにしても、本当に動かない。

脳で「動け 動け」と命令させても、コンクリートで固められたかのように動かない。金縛りと呼ばれるものもこう言う感覚なのだろうか。

 

「そう言えば、学園長は何しに来たんだ?ただ見舞いに来たようには思えないけども…」

「うん?ただの見舞いのようなものだけども?」

「…さいですか」

「そんなことよりファインさん。」

「ん?」

 

まるで話題を変えるかのようにロールが話し掛けてくる。

 

「一つ質問なのですが……あんな予想外の事態が起こった後でも、この学校に入る気はありますか…?」

「え?うーん…まぁ入る気だけども。」

「……それが、こちら側の不具合でもないとしても…?」

 

その小さく、弱々しい声で出された一言で、俺の心を驚きに変えるには十分なほどであった。

こちら側の不具合だけではないと…?

 

「あの時の試験で出た対悪魔戦闘用プログラムなのだが…どうも変なのだよねぇ…」

「どういうことだ?」

「戦闘用プログラムは戦闘の集中のためにあえて言語プログラムは入れていないのです。ですが、あの時ファインさんは対悪魔戦闘用プログラムにて出現した悪魔と会話をしていましたよね?…それがおかしいのですよ…」

「…本当におかしかったんだな…やたらと喋ってくるからおかしいとは思っていたが……でも、なんでそんなものが?」

「………」

 

「…あれは外部からの攻撃のようなものです……それもファインさんを対象とした……」

 

「……おいおい、冗談だろ…?」

「残念だが冗談ではないのさ。君を空間内から引きずり出したあと、再度点検をしてみたのだが…あのプログラムだけはどうしても検出されなかったのだよ。翌日に試験は再開したのだが、君のような事態には一度も発生しなかったのさ。」

 

誰が、なんのために?

ファインの頭の中はその考えだけでいっぱいであった。

でも答えは出ない。なぜならファインは記憶がないのだ。どれだけ記憶を掘り出そうとしても、一番昔の記憶と言えば、マイヤール村で、トレディアたちの家のベットで寝ていた記憶だけだ。それ以降は何もない。

 

「そんなことができるのか?」

「最近の話なのですが……中央島の都市にてとあるサイバー犯罪のようなものが行われました。その内容が、ある人物データの知能値、戦闘値、その他身長や体重などの数値から、コンピューター内にその人物と一致するようなもう一人の人物を作り出すというものがありました。」

「我々はそのようなデータを[アバター]と呼んでいる。まさにゲーム内の自分を作り出したかのようなものだからね。その技術を元に模擬戦闘用空間が作られたのだ。」

「そしてコンピューター内に作られたアバターは、あらかじめプログラミングされた行動をするのではなく、その人物の判断力のデータのみでコンピューターの情報を盗んだり、削除したりのようなウイルス的行動をとるのです……今は対処されましたが…まさか今回の試験でそんなことがおきるなんて…」

「…つまり、あの悪魔は悪魔の中の一人をそのまんまデータ化し、俺を襲わせたと…?」

「…その通りです。」

 

分かりにくいという人のために少しまとめよう。

ファインを襲った悪魔のデータというのは、誰かがその悪魔と類似する悪魔の知能値などの数値を全てデータ化し、その悪魔と瓜二つと言っても良い悪魔がコンピューター内にて作られたものだ。

そして、それを模擬戦闘用空間内に入れることで、ファインと戦わせる。それもプログラムによって作られた動きではなく、その悪魔がその状況でどう動くかなどの判断もさえデータ化されているものということ。

つまり、ファインは本物の悪魔と戦っていたと言っても過言ではないのだ。

 

「…誰かが俺を狙う…か。」

「W・Sで誰かにその命を狙われるというのは、この四年制のW・Sのうち、一年生は訓練や学問で訓練し、そして二年生で付近のギルドの依頼を代わりに受けて、実戦を経験してからやっと狙われ始めるものだ。でも、君は入学前から狙われていることとなる。いつ、どこで、誰に、どのように殺されてもおかしくない状況を君は4年間引きずらなければならなくなる。そんなのは私でも怖いものさ。それでも君は入学すると言えるかね?」

 

4年間、このW・Sという場所に閉じられ、常に誰かから命を狙われ続ける。常人ならとても酷な話だ。

そして、迷うだろう。そんな危険な状況においても、その危機を味わいながら、W・Sに入るか。それとも死ぬまでの障害を安全な場所で生きながらえるか。普通は迷うもの。

だが、ファインは違った。

 

「入ります。入らなければならない理由があるのです。」

「ファインさん……」

「…私は止めはしないよ。それが君の選択ならそれを尊重してやりたい。」

 

記憶を戻す。

過去に自分が、何をしていたのか。そして、あのレックスという人物のことを知るためには止まってはいられない。ただそれだけの理由がファインの決意を揺るがすことはなかった。

 

 

 

「…ファインさん。」

「どうした?」

 

あの後、ベラースは会議にでるために医務室を後にし、その後特に会話することなく、ロールはファインの眠るベットの横の椅子に座っており、ファインは相変わらず金縛り状態だ。

窓を見れば、すでに空は茜色に染まっていた。もうすぐ夜になるだろう。

 

「…ファインさんの入らなければいけない理由…というのは?」

「あー…俺な、記憶がないんだ。」

「え?」

「んで、記憶の手掛かりになるかもしれないこの学園に来た……ってところだな。」

 

特に質問に答えないわけもないので簡単に話すが、ロールは驚きを隠せないのか、表情に困惑の色が見える。

 

「そういうロールはどうして?」

「というと?」

「いや…ロールの家は鍛冶屋なんだろ?そういうのって跡を継がないといけない…とか、そういうのはないのか?」

「そうですね…」

 

話すか迷っているのか、少し考えた後、またロールの口は開いた。

 

「私…小さい頃病弱で、ずっと寝たきりのままだったんです。」

「へぇ…」

「ですから、私にできることと言えば、本を読むことや勉強くらいで…そんなある日ですね、私はとてつもない高熱でうなされていたんです…村のお医者様でも手がつけられないほどの…」

「…それが…どうやって治ったんだ?」

「ええと…ある日ですね、村の入り口で人が倒れていたんです。その人は旅の魔導師様で、食料が尽きて倒れた所がちょうど私の村の入り口で…そしてしばらく村に泊めていたらお礼がしたいと…そしたら私のお父さんが私の病気を治してくれと言ったら…魔導師様は引き受けてくれて、ある魔術を施したら、私の病弱な体はみるみると治っていったんです。」

「すごいな…」

 

魔術とはそのようなことができるだなと感心していると、会話を続ける。

 

「私はその人に憧れて、W・Sの魔法支援科に入ったんです…そしたら、あの人から手紙が来たんです。」

「その…魔導師様の?」

「えぇ…私の病弱な体は体質ではなく、私の体内にある魔力に耐えきれずになってしまったみたいなんです……魔力というのはいわば呪いのようなもので、私はまだ小さかったので、その呪いに耐え切れなかったというのが分かりやすい言い方ですかね。」

 

産まれながらに強い魔力を持つ。だが、その場合は体が耐え切れなく、そのまま体が衰退していくものらしい。そして、衰退していくに連れて、より重い病気にかかりやすくなり、そして死に至るという。

ロールは産まれながらにその運命を辿るはずだった。だが、そのロールの村にやってきた魔導師のおかげでその運命を脱するどころか、このW・Sにいて、好きなことができるということは、さぞやとても幸運なことだろう。

 

「そんなに強い魔力を持ってるってことは…W・Sのロールの成績ってどんなものなんだ?」

「え!?……えーと…」

 

なぜか躊躇いがちだ。

言いたくないのか。

 

「ふふふ…ロール君は我が校が誇る魔法科生、クラス【ウィザード】なのだよ。」

 

と、ノックもなしに唐突に入ってきたベラースは話を始める。

…医務室なのだからノックはしよう……学園長でもね。

それを話されてロールはかなり困ったような表情をしている。「はわわわわわ……」と言いたげに。

 

「ウィザード?」

「この学園は適性試験の成績でクラスが決まり、そして一年の成績でクラスが上がったり下がったりするシステムでね、彼女の魔法支援科には下級クラス【マジシャン】中級クラス【メイジ】上級クラス【ソーサラー】とある。その中でも彼女は[特級]と呼ばれるW・Sの生徒内の中でもかなり希少な才能と、優秀な成績を収めた者なのだよ。」

「…つまり……特級クラス【ウィザード】ということ…か?」

「その通り!!正直私も驚きなものだよ。W・Sは設立してから30年ほど経つが、特級クラスに上がれたのは彼女で5人目ほどなのさ。」

 

ベラースがロールのことを誇らしげに語っているが、一方のロールは恥ずかしがっているかのように、両手で顔を隠している。

 

「へぇ…すごいな…ロール……」

「…むぅ……こういうのはあまり知られたくないのに……」

「……なぜ知られたくないんだ?」

「それは……特級クラスにいるというはとても誇らしいことなのですが、その……こんな外見でそんな力があるって…恥ずかしいじゃないですか…」

「…女心とは複雑だね。君もそう思うかい?」

「…なんとなく。」

 

ロールはあまり自分の力を出したがるようなタイプではないらしい。

まぁ、見ていればなんとなく分かるようなものだが。

それと、ベラースはこう言った。「適性試験の成績でクラスが決まる」と。

 

「そういえば学園長、俺の合否結果はどうなっているんだ?」

「あぁ、そのことか。まぁそれを伝えるために来たのだがね。」

 

コホンと一息。

話題を変えるときはやるようなものだが、まさかこの学園長までやるとは。

 

「えー…試験No.1998、近接戦闘科のファイン・エクスロード君。おめでとう、君は無事試験に合格したよ。本来はそれを知らせるのは明日なのだがね、君には迷惑を掛けたことだし、少し早く伝えても問題はないだろう?」

「あぁ…まぁ。」

 

正直、あまり喜べるようなものではなかった。

普通に試験を受けて、合格をしたのなら、ファインは普通に喜べるだろう。だが、今回は異例が重なってしまい、死にかけて、そして合格というものは、何か情を掛けられているような気分になるからだ。

死にかける……つまり負けたようなものだ。

負けた上で受かるというのは、あまり実感が持てるようなものではないのだ。

 

「あまり…喜んでいないようですが…?」

「なんというか……実感がないかな。」

「無理もないさ。通常試験で悪魔と戦った時のようになるというのは、本来は不合格なものだ。だが、今回は違う。だろう?」

「まぁな……勝ったのではなく、負けた気がしてならないね…」

 

そして、またコホンとベラースが一息をつく。

 

「ま、何がともあれ合格は合格だ。それと…君のクラスについてだが、君のクラスは近接戦闘科中級クラス【ウォーリア】だ。」

「少し解説を交えると、適性試験の成績で上がれるクラスは中級クラスまでなのです。それ以上を目指すには、一年の課程を終わらせる時期に始まる成績会議にてクラスが上がるかどうかなどを決めるようになっています。」

 

つまりは成績が高ければ上がり、低ければ下がり、平均値ならばその場にとどまるということだ。

 

「より良い訓練を受けたいのならば、とにかく上へ上がるしかないわけなのさ。それに、二年生になった後に受けられるギルドの依頼の質も変わってくるというわけだ。」

「依頼の受注の際の金額は学園で負担され、報酬金はその半分を学園に収めるように決められているのです。残りの半分は、依頼を受けた人に渡されることになっています。学費などに至っては中央政府から必要分は受け取っているので、実質ただで入学ができるのです。」

「ずいぶんとまぁ……いいサービスなんだな…」

「今や悪魔と人間の闘争の時代だ。質の良い兵士を政府側から欲しがっているようなものさ。」

 

兵士を求める代わりに、政府側から学費等を免除されるということは、かなり戦力にも差ができてしまっているということなのだろう。

悪魔の強さはファインがその身を持って思い知っているためか、質の良い兵士を求める政府側の考えも理解ができないわけではなかった。

 

「だいたい分かった。そうだ、近接戦闘科はどんなクラスがあるんだ?」

「近接戦闘科は下級クラス【ファイター】中級クラス【ウォーリア】上級クラス【ナイト】そして、幻と言われつつある特級クラス【セイバー】、特級クラスに至っては今まででたった一人しか入ることがないとされるほどのものなんです。」

「どうしてなんだ?」

「悪魔は魔力を司った戦闘を得意とする性質にある。その魔力を物ともしないくらいの力が、近接戦闘科の兵士には求められるからね。あえて厳しくなっているんだ。」

 

それでも入っている人物がいるというのはとてもすごいと思ってしまう。

ふとファインは、「魔力を司った戦闘を得意とする」という言葉に不思議と疑問を抱く。どこかでそんな人物もいたような……

 

「…まさか……特級クラスのその一人って……レックスって名前か?」

 

そう、ファインがふと頭によぎった人物はレックスであった。

W・Sへ向かう際に使った列車の中で見た夢の中で、レックスはメタル・ブレイカーを持ちながらも、魔術を使用していたのだ。

レックスが戦っていた人たちはこう言った。

「な…!?魔術だと!」と。

あの時視界は良くはなかったが、あの時こう言っていたことから、レックスは魔術を使えることは察することができていた。

それに対して、学園長とロールは少し驚きの表情を作った後

 

 

「そうだよ、よく知っているね。」

 

 

と、学園長から返された。

やはりだった。やはりレックスであったのだ。

 

「なるほど…通りであの剣は…」

「剣?メタルブレイカーがどうかしたのか?」

 

ロールは何かを思い出したかのような表情を浮かべている。

まるでどこかで見たんだけど、どうにも思い出せない。

というものだ。

 

「えーと…その…ファインさんの持つメタルブレイカーはですね……」

「あぁ…」

 

 

 

「あれは…私の故郷の鍛冶屋で作られた剣なんです…特製のグリップも…全部……」

 

 

 

 

あの時の話から数時間は経った。

外はすでに真っ暗で、部屋も消灯されてとても暗い。

W・Sの中は誰もいないかのように静かだ。

 

「………」

 

ファインは考えていた。

自分、そして失った記憶、森に落ちていた剣ことメタルブレイカー、そしてあのメタルブレイカーはロールの故郷の鍛冶屋で作られた剣だということ。

まだ他にもある。

試験の時にファインの命を狙ってきたあの悪魔。しかもその悪魔のデータは外部からのものだという。

ただただ疑問に疑問が重なり、何が何だか分からなくなっていた。

ちなみに、呪術は解いてもらったため、体は自由に動くようにはなったが、医務室を出ないようにと言われている。

 

「…(俺は…何者なんだ…?レックスとロールの間の繋がりの中に…なぜ俺が入っている?俺もW・Sに関わっていたりするのか…?それと…あの悪魔もそうだ。なぜ俺を狙った?……あー…全然分からねぇ…なーんで記憶ないんだよ…俺は…)」

 

今更ながら、記憶がないことにここまで困ることはなかった。ただ疑問が疑問を生み、その連鎖を繰り返すうちにファインの心は霧に包まれたようにモヤモヤした上、答えが気になって眠れなくなっていた。

 

「(…まぁいいか……まずは今の状況だけを見るようにしよう……とにかく俺はW・Sに入学はできた。しかも最初から中級クラス【ウォーリア】だ。とりあえず…自分を褒めてもいいのかな…)」

 

それにしても、ここまで眠れないのは珍しいことだった。村にいた時はヘトヘトになるまで働いて、帰って、メリナの食事を食べ、風呂に入った後に部屋のベットに入ったら即座に眠れるようなものが、まさかここまで眠れないことが起きるとは思いにもよらなかった。

 

 

 

翌日……

 

「…………」

 

結局、全く一睡もできないまま、世が明けてしまった。小鳥のチュンチュンという鳴き声が、朝が来たことを知らせているかのようで、なんだか心が安らぐ。

すると、ドアがノックされる。

 

「失礼するぜ…と、早起きとは縁起がいいねぇ…患者君。」

「…誰だ?」

 

ドアを開けてきたのは見覚えのない女性だった。黄色がかった長い髪をそのまま下ろし、前髪に至ってはM字を描くように根元から立ち上がった髪型だ。

身長は女性にしては高めで、白衣を羽織っている。

……中々胸も大きい…

 

「あー、そういや昨日は会っていなかったな。私はフィリア・S(セカ)・ヴァルフってんだ、よろしくな青年。」

 

見た目はかなり良いのだが、口調が男勝りな気がする。この人の治療を受けていたと考えると、どんなものか想像がつかない。見た目、魔術とか使うようにも思えない以上、本当に医療術を使うのだろうか。

 

「えっと、俺はファイン・エクスロードだ。」

「クラスは?ほらあるんだろ?【ウォーリア】とか、【ガンナー】とか。」

 

【ガンナー】というのは初めて聞いたのだが、これはおそらく遠距離射撃科のクラスなのだろう。どのくらい上なのだろうか。

 

「そうだな、クラス【ウォーリア】だ。まだ入りたてだがな。」

「へぇ、初っ端【ウォーリア】ってこたぁ中々腕が立つようじゃねーか。ま、私は基本的にこの医務室にいるからよ、怪我でもしたり、鉛玉ブチ込まれたりしたらいつでも来な。怪我をしたのかも分からねえほどに治療してやっからよ。」

 

すごい男勝りの口調だ。

容姿はとても綺麗なのだが、男勝りの口調のせいか、姉御と呼びたくなってしまう。ちょっと勿体無い気がしてならない。

 

「それと、私は医療の他にも武器の点検、コンピューター関係にも精通してるからよ、困ったことがあったら私を呼びな。」

「コンピューター関係にもか…それはまた……あ。」

 

コンピューター関係という言葉を聞いてふとある疑問を思い出す。

あの悪魔のプログラムについてだ。

 

「なら質問をいいか?コンピューター関係なんだが…」

「お、早速頼りにしてくれるとは嬉しいね。なんだ?」

「…今回の俺の試験の時について…何か知ってますか?」

 

コンピューター関係ならば、今回のことについて分かっていることがあるだろう。それに、ここは医務室で、フィリアはその医務室担当の職員にも見える。それならば、俺がなぜ、怪我人として運ばれているかの理由も把握しているだろうと、その場の直感で思って聞いてみる。

それに対してフィリアは、

 

「あぁ、ありゃドールのプログラムじゃあねえな。アバターって知ってるか?」

「アバター……確か、人物の数値などを入力したシステム体で、プログラムによる判断ではなく、その人物の判断基準で動くっていう…」

「正解だ。」

 

やはりフィリアは何か分かるようだ。会話を続けてみよう。

 

「ドールとアバターの違いって?」

「まず、ドールはあらかじめプログラミングされた動きしかしない。判断に至っても、プログラミングされた性格に乗っ取っての計算の上でしか行動をしない…ま、人形だな。平たく言うと。」

「人形……か。」

「そしてアバター。こいつのプログラミングというのは、さっきお前が言った通り、データ化された人物の判断基準に乗っ取っての動きをする…要するにドールと違って行動をするための計算を必要としない。まるで人間のようなものさ。」

「…つまり、システムの上で動くためだけの人形と普通の人間の差ということか?」

「正解、だからドールに向かっていくら喋りかけても、言語機能をプログラミングされてない限りは永久的に無言だが、アバターは人間の性格などを数値化し、データ化したものだから言語機能をプログラミングしていなくても話しかければ、データ化した人物の口調や判断で普通に会話できる。最近はアバターを使って、会話の練習をする人もいるくらいだ。」

 

ロールと違って結構分かりやすい気がする。そう考えると、フィリアはロールよりもコンピューターに関して精通していると考えても良さそうだ。

 

「で、今回お前を襲ったのはドールとアバター、どっちだと思う?」

「アバターだな。」

「即答か、では根拠は?」

 

実際に戦った以上、答えに自信が持てる上、その上の根拠も考え付く。

 

「まず動きだな。最初に戦ったドールに比べて、悪魔の方は明らかになめらかだった。そして会話もできた。戦い中だというのに、俺の疑問に答えてくれるほどにな。」

「なーるほど、いい考えだ。動きに関してだが…ま、話すほどでもないな。戦闘プログラムに基づいての計算後の動きに比べりゃ、戦闘経験に基づいての動きのほうがはるかに良くなる。会話に関してはさっき話したからいいな。」

「なるほどな……」

 

戦闘中というのに考えついてしまった疑問はこれでスッキリした。では、次の質問っと。

 

「じゃあもう一つ。学園長に俺が狙われているようなことを話したんだが、このことについてはどうだ?」

「100%……って言い過ぎてるから現実的に考えると99.9%その通りだな。」

「そんなにか…?」

「あぁ、んじゃ少しおさらいしよう。アバターはその人物をデータ化した物。つまり、それを作るには誰が必要だ?」

「……悪魔?」

「正解だ。人の手で、しかもマニュアルでその人物のデータを完全に再現するってのは不可能な話だ。だから、前もって何かしらの機械で数値を取るしかない。脳波から判断力、知識、直観力、筋力、性格、言語能力、身体能力、持ってるものには魔力とか、そんなの人の手で完全に再現しようとすれば半年以上掛かる。だから、それはお前を襲った悪魔のアバターは悪魔によって作られたと納得がいく。」

「では…俺を狙ってくるのはこの学校にいたりは……」

「あるわけがねえな。考えても見ろ。W・Sは悪魔を倒すための兵士を育成するための、中央政府公認の学園だ。その中に悪魔が入るなんてことがありゃ…完全に裏切りに違い行為さ。悪魔が入るなんて考えたくないな。となると、学園内ではなく、完全に外部からの攻撃となる。しかも、学園長の話だと、お前が悪魔のアバターに殺されかけた後試験にゃ、悪魔のアバターなんて出現はしなかったみてぇだし、おまけにお前が襲われた後の点検で、悪魔のアバターは検出されなかったとも来た。つまり、完全にお前狙いな理由になるってわけだ…他にあるか?」

 

なるほど、とても納得した。

少しまとめると、ドールとアバターの違いは、プログラミングされたロボットと普通の人間ほど違う。

ファインが狙われた根拠として、悪魔のアバターは悪魔でしか作れず、おまけに悪魔を倒すためのW・Sに悪魔が入るなんてことはまずない。

そして、それ以後は悪魔のアバターは出現していない。

では、最も疑問なことを質問に表すと、こうなる。

 

「……なんで…俺を狙うんだ?」

 

それに対してフィリアは、

 

「知るか、んなこと。」

「まぁ、そうだよな。」

 

即答。

ドールのように考えるのではなく、アバターの反射能力並みのスピードで即答される。

……答えは分かりきっていたけど…

 

「ありがとう、もう充分だ。」

「お、そうかい。役に立ったのなら嬉しいもんだがね。ま、一つ言えることと言えば………」

 

 

「お前は狙わている。そしてそれが、今でもそうだということを忘れるなよ。」

 

 

「…分かってるさ。」

「ならいいさ。気をつけろよ、ファイン・エクスロード君。」

 

美人な容姿なのに関わらず、男勝りな口調と変わった人物であるが、この人物は信用してよさそうだ。

それだけでも、充分に安心できるというものだ。

 

「そだ、学園長からの伝言。「だいたい9:30頃に放送が流れて、10:15には入学式を始めるから、制服に着替えておいてくれ。」だとさ。ほれ、これが制服だ。」

 

そういうと、スーツケースのようなものを持ち出し、ファインに投げ渡す。

…そういう重要そうな物が入っているカバンは投げないでいただきたいのだがね……

 

「そうそう、着替えはベットのあるところでやってくれ。カーテンを閉めれば更衣室代わりぐらいにゃなるだろうしな。」

「あぁ、分かった。」

 

そう言われ、ファインはさっきまで寝ていた自分のベットの上にスーツケースを置き、周りのカーテンを閉めて、スーツケースの中を開ける………

 

 

数分後……

 

「お、似合ってるじゃねえか。男前だぜ?」

「そ…そうか?」

 

スーツケースの中に入っていた制服は、濃い緑色のブレザーに白いYシャツに革製のベルトに、ブレザーよりも少し薄めの生地のズボンであった。

ブレザーの心臓のある胸のあたりにはW・Sの校章らしき刺繍が施されている。校舎に入る前に見た、盾に二本の剣が交差しているあのマークだ。そして、盾の中にW・Sと刻まれたかのように刺繍されている。校舎に入る前に見た校章にはそのようなものはなかった気がするが、おそらく見逃しただろう。違いない。

 

「そういえば…この学園の各科目には中級クラスとかそういうものがあるが…見分け方はあるのか?」

「あぁ、ブレザーの色でわかる。初級は紺色、中級はその緑色、上級は黒色、んでもって幻と言われている特級には、それを示すロングコートが渡される。これに関しては着衣は自由とされているんだ。ま、学園内で行動するときだけだがな。ギルドの依頼を受けるときは着ないとダメだがね。」

 

初級と上級は似た色なのに、なぜ中級で緑色なのだろうか。少し疑問である。

フィリアは特級クラスはロングコートがあると言っていたが、ロールは着ていなかったことをふと思い出す。どうやら本当に自由らしい。

 

「さてどうする?入学式までにはかなり時間があるが?」

 

現在の時刻は、会話も続けていて6:30ぐらいとなっている。(フィリアが来た時はだいたい5:30あたりだ。)

 

「そうだな…校舎を見て回りたいが……許可は下りているのか?」

「あぁ、問題なしだ。学園長から許可が下りているくらいだしな。自由に徘徊してくるといいさ。」

「なら…そうするか……」

 

 

 

どれくらい経っただろうか。

日は完全に昇っており、だいたい8:45あたりだろう。

特にやることもなかったため、自分が行くであろう教室などを巡ったりして時間を潰していた。

 

「この学園…どんだけ広いんだ…まだ全部見切っていないよな……」

 

すると、曲がり角のあたりで何かにぶつかり、後ろに仰け反ってしまう。なんかこんなこと前にもあったような。

 

「っと、すまない。」

「いやいや、俺の方こそ悪かったって……ありゃ?」

 

ちなみに、上の方がファインのセリフで、下がもう一人のセリフだ。

ファインがそこで見たのは、少しクセはあるが、白い前髪を全て後ろに寝かせて、長めのオールバックのような髪型をした、青年だった。緑色のブレザーに、胸のところにW・Sの校章があるということは、W・Sの生徒だろう。

だが、その「ありゃ?」というセリフは、どこかでそんなことを言いそうな輩に出会った気がする。

 

「お前…あのフライング試験生か?俺分かるよな?な?」

「フライング試験生ってなんだ。てか、誰か分からないんだが?」

「ほらほら、駅の改札口で会ったろ?忘れちまったのか?」

 

なんとなく鬱陶しいと言いたくなるような輩だ。

ファインは記憶の中を掘り返してみる。駅の改札口、このなんともお気楽そうな口調、そして男性…と、思い返してみても、そんな人物……たった一人しか思いつかなかった。

 

 

 

「…お前……あの黒ローブか…?」

 

第六話へ続く……




人物紹介

フィリア・S(セカ)・ヴァルフ
性、女 身、170.5 種、人間

W・Sの医務室にて働く職員。
身長は女性にしては高めで、体型に至ってはまるでモデルのようで、さらに足も長い。
顔つきは完全に美人な女性なのだが、なぜか男勝りな口調で、姉御と呼びたくなるような女性だ。
一人暇な時は、とある薬草を巻いたオリジナルの葉巻を吸うらしい。なんでも、その煙は有害などころか、疲労回復などになるとかなんとか。
酒にはとても弱い。アルコールの弱い酒を一杯飲んだだけで酔っ払うとか。
そしてW・S内の噂では、フィリアに弟がおり、その弟に溺愛する重度のブラコンとかなんとか。
さらに、その弟をイジメたものには……………

用語紹介

アバター

人間の身体能力、頭脳、筋力、判断力、などを数値化し、コンピューターの中で、その人間に瓜二つなコンピューターを作り出したもの。
戦闘においても、計算能力ではなく、その人間の実戦経験に基づく戦闘を行ったり、会話に関してもその人物の言語能力で会話をするという、電脳世界における人間のようなものだ。

クラス

W・Sには[近接戦闘科][遠距離射撃科][魔法支援科]のように3つの学習科目があり、適性試験の際にそれを決めて、それに適応する試験を行うことになっている。
そして、成績によってクラスが変化するようになっている。
近接戦闘科なら、下級【ファイター】中級【ウォーリア】上級【ナイト】
遠距離射撃科なら、下級【シューター】中級【ガンナー】上級【スナイパー】
魔法支援科なら、下級【マジシャン】中級【メイジ】上級【ソーサラー】となっている。
そういったクラスの見分け方が、制服のブレザーの色で、下級生は紺色、中級生は緑色、上級生は黒色となっている。
ちなみに、適性試験の成績で上がれるクラスは中級までである。
さらに、W・Sでは、どんなクラスであれど、4年間の学習及び訓練を無事に終わらせることができれば卒業は可能である。
卒業後は、戦闘に関わろうが関わらなかろうが、自由である。


特級クラス

W・S内でも幻とされているクラス。
近接戦闘科は【セイバー】
遠距離射撃科は【バレット】
魔法支援科は【ウィザード】
となっている。
このクラスに入るには、希少たる才能を持っているか、常人には熟すことが難しいほどの努力を積み重ねるかでしか入ることはできない。
クラスの変わり方が、一年の終わりに開かれる会議でのみ決まり、その中で特級クラスに入るに相応しいかは、職員から候補生としてあげられたあと、昇級のための試練をこなさなければならない。
なので、ロールのような存在はかなり希少で、学園の誇りともされている。
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