The Warrior World 第一節「忘れられた剣」   作:犬丸ミケ

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前回のあらすじ
記憶喪失、謎の夢、そして悪魔にこの命を狙われる自分。
自分はなぜ記憶がないのか、あの夢に出てくるレックスと自分はどんな関係にあったのか、そして、なぜ自分は悪魔に狙われるのか……
そんなことを悩みながらもW・Sの適性試験の合格を知らされ、学園内を回ってみていると、W・Sの制服を着た、黒いローブの男と出くわしたのであった。


第6話

「………」

「……どした?早速だまりこんで。」

 

たった今、W・Sの内部を回って見ていた記憶喪失の男、ファイン・エクスロードの目の前にいるのは、W・Sに入る前に出会ったあからさまに怪しそうな黒いローブを着ていた青年であった。

 

「まさか…お前もW・Sに?」

「おう、近接戦闘科でクラスは【ウォーリア】だ。そういうお前も制服の色から察して……中級クラスだろ?」

「あぁ、お前と同じ近接戦闘科だ。」

 

そしてクラスまで同じという。

出会った時は、あまりの格好のために近寄りがたいと思っていたのだが……まさか同じ科目で同じクラスとは……運命とは残酷なものである。

 

「あの黒いローブはどうしたんだ?」

「黒いローブ?あー、あれか。あの格好のままで入ろうとしたら警備員さんに捕まっちまってさ、そのまま黒いローブは没収されたってわけさ……あはははは……まぁ昼飯を食う頃には返して貰ったけどさ。」

 

まぁそうなるだろうとは思っていた。あの格好は怪しすぎるからな。

 

「酷いとは思わねえか?「試験生がそのような格好で受けるとは何様か!!その服は没収させてもらう!」って言って、そのまま没収したんだぜ?俺たちの種族じゃアレが正装だって言うのにさ。」

 

どんな種族だ。そしてその口調の警備員がどんな人間かも気になる。

……あらかじめ容姿を見ていれば見えた瞬間に避けることができるからな…少々面倒ごとは勘弁だ。正直、こいつにも会いたくなかったぐらいだ。

 

「まぁでも……結構綺麗な女性だったから逆らうに逆らえなかった俺も俺なんだけどねぇ…しかも上級生の制服を着ていたし。」

「……大変だったな…」

 

まさかの女性。どんな人だよ、ますます気になってきた。

と、少しの楽しみのような不安を抱えつつ、ファインは目の前の青年の話を聞いていた。

 

「そういや、あんた名前は?」

「……ファイン・エクスロード…」

「おー、そうか。俺はデスバザ・B(ボーン)・サイズだ。よろしく。」

「また長い名前だな……」

「趣味は、悪霊集めと魂観察の死神だぜ。これからよろしく頼むぜ〜?フライング同級生さん?」

 

長い名前の上に、なんて趣味を持って……死神?

 

「…デスバザ、死神ってどういうことだ?」

「え………あっ!!」

 

あ、これは聞いてはならない内容だったようだ。というより、こいつから話してしまったことについては触れないでおこう。

 

「え…えーと……ほら、異名だ!異名!!青い死神とか、そういう異名ってあるだろ?だからつまり、そういう…」

「もういい……さっき趣味が魂観察とか言ってる時点で、それは嘘だと分かっているから……」

「あはは〜……デスヨネー」

もう言い訳する気はないようだ。もう目が諦めている。というより、もうメンドクセェや…って顔をしている。大丈夫か、この死神。

 

「まぁいいさ。お前が何であれ俺にはさっぱり分からないことだからな。」

「どういうことだ?」

「お前も秘密を話した……というより、自分で勝手に話したけど…それはいいや、俺も隠していることを話す、だからとりあえずこの話は終わり…な?」

「おー、お人好しだなお前。」

 

誰のせいだと思ってやがる!!誰の!!と心の中で叫びながらも、ファインは自分の置かれている状況を説明する。記憶がないこと、悪魔に命を狙われていること、これで対等な立ち位置になれる。

 

「ふーん、悪魔ねぇ……お前も面倒なことになってんのな。」

「言わないでくれ。それに、俺自身もなぜ悪魔に狙われているのかも分からないんだ。」

「で、その答えは失った記憶にあるかもしれない……と。なんか薄っぺらな望みだな。」

「……正直、俺もそう思う。」

 

今までにおいて、ファイン自身が分からないことは失った記憶のせいにして、うやむやにしていたが、それはただすがりついているだけだと、デスバザの一言で再度思わされる。ファイン自身、今置かれている状況には多少なりと恐怖を感じている。どうしようもない、だからこそ失った記憶が原因と無意識に言い聞かせていたのだ。

 

「分からなくないぜ。俺も似たようなことあったしな。」

「……お前も?」

「あぁ、昔…お前が生まれるよりも前に、突然死神の力が目覚めて、周囲に被害を及ぼしたことがあるのさ。今は死神の中でも偉い人に封じられているけどな。だが、それに関しての記憶は一切ない。なぜ俺は、そんな力があったのか、そして何がスイッチで目覚めてしまったのか……全く分からん。」

「………」

「だから、とりあえず成されるがままに死神になって、死神の仕事をしつつ、俺自身の封じ込められた力を出しても、正気を保てるようになるように…と、この学校に来ることになったのさ。」

「封じられた……力……」

「それでも、身体能力は人間よりはるかに上なんだけどな。試験を受けている時、見学に来ている連中に影でバケモノ呼ばわりされるくらいにな。」

 

デスバザは死神、人間と違うのはその生まれながらの寿命と、長い時間の間で身につけた戦闘の経験と技術だろう。このW・Sに試験に受けに来たのは人間がとても多い。試験日の時にW・Sに来た時は、人間しか見えなかったが、デスバザのように死神という身分を隠してW・Sに来ているのだろう。

 

「ま、おかげで近接戦闘科のクラス【ウォーリア】になれたから結果オーライだがな。」

「見た目通りポジティブなんだな。」

「当たり前だ。俺自身の戦闘能力に後ろめたさを感じてちゃ……いつまでたっても成長はできないさ。お前も同じだ。」

「は?」

「お前もさ、悪魔に命を狙われている原因が分からないことに恐怖を感じているのは分かる。でもさ、分からないままにしていたら恐怖なんてさらに募るばかりだ。そしてまた突然悪魔に襲われた時、今度も今回と同じように戦えるか?」

「……俺は……」

 

分かっている。頭では分かっているが、心はまだ恐怖している。未知の存在に狙われることが、そしてその原因が分からないことに。

 

「……戦えるさ……俺の命が掛かっているんだ。俺の命を守るのは俺だ。お前でも、学園長でも、ロールでもない……それに記憶もない。」

「……ロール?」

「そして、このW・Sに来たのは失った記憶の手掛かりを得るためだ。せっかくいいクラスに入れたんだ。何もしないのは勿体無いだろう。」

 

そう、俺はW・S近接戦闘科のクラス【ウォーリア】だ。この貴重な機会は逃すわけにはいかない。そう思えば恐怖した心も、自然と緩和できる。だからそう思うことにした。

 

「…んじゃあさ、俺ら組まないか?」

「組む…?」

「そっか、お前説明会にいなかったもんな。んじゃ説明してやる。」

 

ファインはプログラム通りに動いたわけではない。本来は説明会の後に適性試験を受けるのだが、ファインは説明会をすっ飛ばして適性試験を受けたのだ。つまり、説明会での内容は全く知らないのだ。

 

「この学校の授業の中には2人1組で受ける内容の授業があるんだ。正直、俺は周りに気味悪がられているからな。ペアを組んでくれる人はいなさそうだし、お前も説明会すっ飛ばして適性試験を受けたマヌケ扱いされているだろうしな。てか、お前の行動は噂でもう学校中に広がっているしな。」

「……マジか………」

 

人が多いところでは、悪い噂やいい噂というのはどうしてここまで巡るのが早いのだろう。

 

「つまり、お前もペアを組んでくれるであろう人間はいないという答えに行き着く。」

「ざっくりとしたな……当たってるだろうけども…」

「そんな問題児(仮)な俺とお前、ペアを組んでくれる人がいない者同士が組めば、何もかもが結果オーライってわけだ。どうだ?組む気はないか?」

「……なんか嫌な言い方だな。」

 

だが、こうも悪い噂が立っていると聞くと、本当にペアを組んでくれる人はいなさそうだ。バケモノ呼ばわりの死神と、せっかちな記憶なき者……すごい変わったペアだなと思いつつ、すでに心の中ではペアを組んでいいと思っていた。……すごい負けた気分ではあるが。

 

「あぁ、分かった。こうなったらとことん着いて行くし、お前も俺の記憶探しに貢献してもらうからな?」

「おうよ!改めまして、死神のデスバザ・B・サイズだ!」

「声でかいぞ……ファイン・エクスロード、失った過去の記憶を探している。」

「いいじゃねえか、本来ならこんな時間に外に出歩くべきじゃないんだからさ。」

「…?」

「この時間帯……日もまだ浅いだろ?今の時間帯は魔物の動きも活発化するし、悪魔や他の魔族も活性化するから、常識ある人間ならこの時間は外に出ないのさ。」

「なるほど…言っておくが、俺はこの学校で治療を行われていたからこの学校にいるわけで、決して常識がないからこの学校にいるってわけじゃないからな!」

「そうだな。ちなみに、俺はハナから人間じゃないから常識あるないなんて関係なしだ。」

「常識ハズレな戦闘能力らしいけどな。」

「やめろ、なんか悲しくなって来るじゃねぇかよ……」

 

ここに、死神と記憶のない人間の、世にも奇妙なペアが出来上がったのだった……

 

 

 

話し込んでいるうちに、外が騒がしくなってくる。どうやら、合格通知を受けた人々によるものだろう。それから時間も全く経たないうちに校内放送が流れ、そのまま入学式へと移っていき、やがて俺が入るクラスの教室へ向かった。

 

「……近接戦闘科……クラス【ウォーリア】A組……ここか。」

 

スライド式のドアを開けると、ファインと同じ色のブレザーを来た人間が多くいた。赤いバンダナを巻いている男子から、人との関わりを避けながら本を読み続ける女子、黒いローブを羽織った男子……あれはデスバザか。デスバザの周りには人が全く寄っていない。どうやら気味悪がられているのは本当のようだ。

教室の内装は、後ろの席に連れて段数が上がっていき、まるで講義を受ける席のようだ。机は一人一人と分かれているが、椅子は列で繋がっている。窓側の列に2席、廊下側に2席、真ん中に4席、そして窓側と真ん中の席の、廊下側と真ん中の席には境界線のように階段がある。デスバザは真ん中の列の後ろの方だ。

 

「デスバザ、同じ教室なのか。」

「そりゃあな、だってクラス【ウォーリア】もとい、中級クラスに上がれた人数は1クラス分の人数しかいないって話だぜ?そりゃ同じクラスになるさ。」

「1クラス……確かにそうだな。」

「お前の席は?」

「窓側列の……真ん中あたりだな。」

「了解、暇なときにちょっかい出しに行くぜ。」

「……冷やかしならお断りだ。」

 

と言い切って、自分の席へ行く。

そして、自分の席に座ろうとしたのだが…

「…zzz………」

 

すでに誰かが座っていた上、寝ている。服の外観からして女子だ。白髪…と言っても、ロールの髪のような青みもない、純粋な白い短髪に、近接戦闘科の人間とは思えないほどに華奢に見える体つきをした、それはまさに少女と呼べるような女子だった。

少女は机に突っ伏し、日に当たりながら気持ち良さそうに寝ている。

 

「……誰だ……こいつ………」

「……zzz……」

「…なぁ……」

「……zzz……」

「そこ……俺の席なんだけど……」

「……zzz……」

 

ファインのことなど、全く気にせずに少女は眠っている。というか、ファインが自分の横にいることにすら気がついてないかのように見える。

 

「……起きてくれ…」

 

少女の体を揺すって起こそうと手を伸ばす、その時ー

 

「……!」

「っ!?」

 

少女の右手から即座に刃が生え、ファイン頸動脈のある首元に迫るも、間一髪、ファインは少女の手首を自分の手首で受け止め、刃は首元に刺さる寸前で受け止めることができた。

よく見ると、少女の右手には逆さに持たれたナイフがあった。さらに、少女は己の殺気をファインに気づかせず、即座に始末しようとしたのだ。

 

「……おい……」

「……誰……私の不意打ちを受け止めるなんて……」

「こういうのは…自分から名乗るのが礼儀じゃないのか……?というか、そこは俺の席だからさっさとどいて欲しいのだが……」

 

少女の瞳はゆっくりと開かれ、透き通るような赤い目でファインを睨む。その目は人と会話する目ではなく、獲物を狩る狩人のようなの目をしていた。

 

「席……あなた……ここの席の人…?」

「……そうだが…」

 

人と話すことすら気怠く思っているような声で、少女はファインに質問をする。ファインが質問を答えた後、何か察したような表情でナイフを持った右手をゆっくり下ろし、腰元の鞘にナイフを収める。どうやら警戒を解いたようだ。

 

「さて……なぜいきなり殺そうとした?」

「なぜ……寝てる私の体に触れようとしたから……反射的に……」

「どんな反射だそれは……」

 

だが、殺気を一切悟られず、急所を狙った所を見ると、そういうこと、つまり暗殺などに長けた人物であるには違いないと、ファインは推測する。ファインもファインで、何か来ると思い、少女のナイフを握る手を受け止めたのだ。その間1秒にも満たず。コンマ数秒の中、ファインはとっさの判断で防御の姿勢を取ったのだ。

 

「で?お前は誰だ。」

「……あなたさっき……こういうのは自分から名乗るのが礼儀だって……」

「…ファイン・エクスロード、その席に座る本来の人間だ。」

「……サーシャ・レイニード……」

「そうか…で、サーシャはなぜ俺の席で眠っているんだ?」

「………」

 

数秒の沈黙の後、少女の口はゆっくり開かれ、こう続く。

 

「…私の席……真ん中の最前列…」

「あぁ。」

「……あそこ…人が溜まってうるさい……眠れない……」

「……あぁ。」

「この席……人が寄らない……日当たりがいい……イコール……とても寝やすい……」

「…………あぁ………」

「………終わり。」

「……………」

 

どうやら、サーシャはただ寝たいがために、ファインの席を占領していたようだ。確かにサーシャの言う通り、真ん中の最前列の席では、人が集まりしゃべっている。あそこで寝ようと思ってもなかなか寝付けないだろう。

 

「……物は相談で……ファイン?」

「なんだ?」

「ここの席変わって。」

「……一応聞くが、なぜ?」

「…寝やすいし、授業中に寝ても……私の技術で気づかれないようにできる……ベストプレイス……だから席を変わってほしい……」

 

寝るためにサーシャは、ファインに席を変わって欲しいと要求する。それに対しファインは。

 

「気持ちは分かるが……それを無断でやっていいか分からないから断る。」

「……本気?」

「あぁ。てか、お前寝たいだけだろ。」

「………じゃあ……」

「…?」

「力づくでー」

 

と、サーシャがナイフを抜き、飛びかかる瞬間、教室のドアがガラッと開けられる。

 

「おはようございます。皆様、指定された席にお戻りください。」

 

入ってきたのは大人の男性、多分このクラスの先生だろう。そんな先生と思しき男性は優しく、そして礼儀正しい口調で、教室内の生徒たちに指示をする。それを聞いた生徒たちは、各々の席に戻っていく。

 

「……命……救われたね……」

「…だな。」

 

サーシャはナイフを腰元の鞘に収め、しぶしぶと自分の席へ座れる。というか、自分の席に座るために命を2回も狙われるとはファインも思わなかっただろう。やっとの事で、ファインは自分の席に座る。

 

「皆様、改めましてご入学おめでとうございます。私、学校経営者の1人、ロザリオン家当主の専属執事のキルマ・ログリヌスと申します。私はこのクラス、近接戦闘科のクラス【ウォーリア】A組の担任の教師を務めさせていただきます。」

 

黒い髪に前髪に白いメッシュのついた、執事服の礼儀正しい男性が、教室の教卓で会話を進めている。見るからにとても真面目な先生ではあるが、体格からは決して戦闘するような人間には思えないような雰囲気を持っていた。

 

「さて、これからA組の皆様には模擬戦ルームへと移動していただき、模擬戦闘用武器を持って1対1の戦闘をしていただきます。」

 

「……模擬戦…?入学初日にか…?」

 

教室内が一気にざわつく。入学式を終えた初日いきなり模擬戦をすることになるのだから、無理もないだろう。というか、説明会ではそのこと、入学式の後に模擬戦を行うことを説明されていなかったのだろうか。

 

「では皆様、準備が整い次第、模擬戦ルームへ移動してください。尚、模擬戦闘用武器は模擬戦ルームで準備させていただきます。では、また後ほどに。」

 

と言い残すと、キルマは瞬時に黒い霧に変わったかのように姿を消す。まるで人間業とは思えない。

とりあえず、入学式を終えてから教室に行く前に渡された実戦訓練用ジャージに着替え、模擬戦ルームに移動する。

 

 

模擬戦ルーム

 

「皆様、これで全員でございますね。では、これから内容等についてご説明します。」

 

ちなみに、男子の服装は半袖短パンの体操着のような服装で、女子は半袖にブルマと、完全に学園長の趣味が混ざったような服装で、模擬戦ルームに集まっている。

 

「まず、皆様には自分がどのようなクラスにいて、周りの人間がどのような実力を持ってるのかを知ってもらうために、誰かとペアを組み、こちらで用意した模擬戦闘用武器を装備し、模擬戦をしていただきます。なお、模擬戦闘用武器で相手を殴りつけたり、斬りつけたりしても痛みはありませんが、攻撃を受けるたびに体力を奪っていき、やがては疲労困憊で動けなくなるように改造はさせていただいております。」

 

なるほど、試験の模擬戦闘用空間での戦闘みたいな感じか。だが、なぜ模擬戦闘用空間を使わないのか……いや、聞くだけ野暮だろう。なぜなら、その理由の第一要因をファインは知っている上、この身を持ってその危険を思い知らされたのだから。

 

「ルールは一対一、勝敗は相手が動けなくなるまでか、相手が負けを認めれば勝利となります。ペアはこのクラスの人間で組んでいただきます。そして、全員の戦闘能力を覚えるために、試合は1組ずつ行わせていただきます。なお、この模擬戦にトーナメントのようなものはなく、組んだペアとの模擬戦が終わりしだい、そこで終了とさせていただきます。尚、勝敗の結果に関しましては、成績に影響は出ないので、思う存分力を振るっていただきたいと思っております。では各自、ペアを決め、私に申請してください。」

 

キルマの説明が終わり、クラスの人間はペアを探し始める。ファインは最初からデスバザとペアを組んでいるため、デスバザを探そうとするが、何者かに腕を掴まれ、静止させられる。そこには…

 

「ファイン……あの席をめぐって勝負……」

「……サーシャ…おまえ……」

 

ファインの腕を掴み、静止させた小さな手はサーシャによるものだった。

 

「悪いけど…俺はもうペアがー」

「ファイン、やってやれ。」

 

と横から声が割入る。デスバザだ。

 

「デスバザ?なぜまた。朝にペアを組むといったよな?」

「まぁそうだが、とりあえず今回はそっちの子と勝負してやれ。多分、いい経験になると思うぜ。」

「……?お前がそう言うなら……いいぞ、サーシャ。」

「…うん」

 

サーシャがコクリと頷き、俺を連れてキルマの元へ向かう。

俺とサーシャが向かう前に申請されたペアはいたらしく、俺とサーシャの模擬戦は5番目に行われることになった………

 

数分後………

 

「では、第5試合目、ファイン・エクスロードとサーシャ・レイニードによる模擬戦を行います。各自、所定の位置についてください。」

 

模擬戦の開始位置に移動し、武器を構える。ファインは試験の時と同様、片手装備のロングソードタイプの剣だ。したがって、サーシャの装備は短剣一本。ファインに不意打ちを喰らわせようとした時に持っていたナイフから予想はついていた。

 

「んじゃ、俺の席をかけての勝負…」

「勝ったほうが……あの席の所有権を有する……」

「では、模擬戦開始!!」

 

模擬戦開始の合図の瞬間、サーシャは瞬時に間合いを詰めていた。それもサーシャの間合い、ロングソードでは対応しにくい距離まで。

 

「くっ……!」

「……また受け止められた…」

 

かろうじてロングソードの刃でナイフを受けるも、殺されかけた時と同じように反射的に避けたのだ。これがいつまで続くかは分からない。

 

「…でも、私の攻撃はこれだけじゃない」

 

攻撃を受け止められた後、また瞬時に間合いを離し、別の方向からまた攻撃が飛んでくる。

 

「…早い……!」

 

不意打ちに比べれば、警戒もできるため余裕を持って受け切ることはできるが、問題は、サーシャの攻撃が飛んできた後、反撃する前にロングソードの間合いより遠くに離れられ、そしてサーシャの間合いに詰められ、攻撃の繰り返しで、攻撃することができないのだ。

 

「どうしたの……守ってばかりじゃ…」

「くっ!」

 

剣を振るも、その頃にはサーシャはもうおらず、そして間を空けることもなくまた距離を詰められ、攻撃を受けることになる。

 

「負けるよ。」

「分かってるよ…!!」

 

救いなのは、今のところ全ての動きを受け切れていることだ。まだ試験の時の悪魔の時ほど絶望的でもなければ、攻撃に重さはそこまでない。だが、サーシャは重さこそはないが、その素早さと鋭さが脅威となる。

 

 

「てやぁあああ!!」

「…っ」

 

攻撃をまた刃で受ける寸前、サーシャのナイフを弾き、攻撃へと移る。が、

 

「ふん……っ!」

「がっ……!?」

 

弾かれた勢いを利用し、ファインに回し蹴りをくらわせ、ファインを吹っ飛ばす。ちなみに、模擬戦闘用武器でしか攻撃できないというルールはないため、有効な一打とされる。

 

「……っ……こいつ……」

「隙だらけだよ……風刃【かまいたち】…」

 

蹴り飛ばされ、距離は空いても、また瞬時に詰められ、今度は一撃だけでなく、連撃となる。

 

「……受け切れ…っ!!」

「今の君の状態じゃ……到底受け切れないよ……!」

 

距離を詰めた時の勢いを利用し、斬撃を当て、少し距離を離し、間髪入れずに距離を詰め、その勢いで攻撃し、少し距離を離してはまた距離を詰め、その勢いで攻撃を当てる。その勢いを例えると、風である。サーシャ自身が風となり、ファインを追い詰める。

一方のファインは、数発は受け切れるも、連撃の中の数発は受け切れず、斬られ、斬られ、受け切るタイミングも混乱し、さらに受け続ける。

一発一発はとても軽いが、それこそサーシャ独自の速度で当てられると、その積み重ねが大きなダメージへと変わっていくのだ。

 

「どうしたの?これで終わりー」

「閃!!!」

 

同じように攻撃を当てる寸前だった。ファインの攻撃がサーシャをかすめたのだ。

 

「なに……!」

 

思わぬ誤算、動揺したサーシャはまた間合いを離す。サーシャの中で、風刃【かまいたち】の連撃をくらったものは、受け止めようとムキになり、結果的に対応できずに混乱し、攻撃をくらい続けるという技のようだが、ファインはむしろ、反撃してきたのだ。それも、先ほどまでの反撃のための一撃とはまるで違うスピードで。

 

「……君も……スピードアタッカー…?」

「さぁ、どうだろうね…!」

 

強がってはいるが、ファインの様子はあまり余裕そうではない。模擬戦闘用武器で攻撃をくらうと、くらった人間の体力、いわば持久力を減らしていくのだ。風刃【かまいたち】の連撃のせいもあるのか、ファインはあまり余裕を見せることはできないのだ。

 

「いくぞ……サーシャ…!」

「……!」

 

ファインが腰を落とし、剣の刃をファインの後ろに向けるように構える。これは賭けの一撃だろう。

 

「剣技……一ッッッッ閃ッ!!!!」

 

ファインの切り札的奥義、剣技【一閃】だ。この技はマイヤール樹林の森の主を倒し、W・Sに向かう道で襲ってきたゴブリンを倒した技だ。今やファインにとっての切り札だ。

 

「!早い……!でも……!」

 

瞬間的にサーシャはナイフを逆手に持ち、そして迫り来るファインに反撃を試みる。

そして、ファインの瞬間的な速度と、重みを合わせた最大の一撃は、サーシャの反撃と、互いに交差する形となったのだった……

 

 

 

一方、ギャラリーは

 

「なんなんだあの戦闘……本当に俺たちと同じ人間によるものなのか?」

「いや、それ以前にこの中級クラスのレベルじゃないかもしれないぞ…?」

「確かに、レイニードはそうだけど…エクスロードはそうでもなくないか?」

「でもさ、あのレイニードの速度を受け切った上、さっき反撃までしていたよな?てことは、エクスロードにも勝機が…」

 

ファインとサーシャの模擬戦の前の模擬戦は、試験を普通に合格できるレベルであり、いわば、一般より少し強い程度の戦闘であった。が、ファインとサーシャの模擬戦で空気は一気に変わり、緊張感とざわつきの合わさるギャラリーと化したのだ。

 

「(ギャラリーがざわついている……当然だ。あんな戦闘…普通なら戦いに長く関わった上でできるような戦闘だ…俺とファインが戦ってもそうなっただろうな……だが……)」

 

そんなギャラリーの中にいるデスバザは不意にサーシャからファインに視点を移す。

 

「(さすが悪魔とやりやっただけあって、ファインもいい動きをしている……あいつ…普段は何と戦っているんだ…?)」

 

ファインの謎の戦闘力、これはマイヤール樹林の一件でここまで成長するようには思えないのだろう。ファインは、それほどまでに戦闘力があるのだ。

 

「(…失った記憶……あいつの過去に何があったんだ…?あれは記憶以前に、体が覚えているような……)」

 

そんなざわつくギャラリーは、たった1人の一言で静かになる。

 

「皆さん、少しお静かに。」

 

そう、担任のキルマの一言だ。ギャラリーの視線がキルマに集中し、ざわついたギャラリーに静寂が訪れる。

 

「これからファインさんとサーシャさんの最後の一撃が決まります。互いの攻撃が交差した時、勝敗は決します。皆さん、決して見逃さないように。」

 

 

一方、ファインとサーシャ

 

「……………」

「……………」

 

ファインの剣技【一閃】、サーシャの反撃、互いの一撃が合わさり、周囲には静寂が訪れていた。そして、

 

「……っ…」

 

最初に動きを見せたのは………サーシャだ。

サーシャの右手からスルリとナイフが落ちる。ナイフを握っていた右手は痙攣し、ナイフを持つほどの力を入れることができないようだ。

 

「……ファイン……君の重み……すごいと思う……でも……」

 

痙攣する右手を左手で押さえ、こう続ける。

 

 

 

「私の前でその一撃は、選択ミス…だよ……」

 

 

 

この一言のあと、すぐにファインは、膝から崩れ、そのまま音を立てて倒れる。勝ったのはサーシャだった。

 

「君のそれが切り札であるように、私にも切り札がある。これはその1つ、流技【受け身暗殺】だよ。」

 

ファインの剣技【一閃】はとても重い。だが、その重みこそがサーシャの前では弱点となった。サーシャの流技【受け身暗殺】は、相手の攻撃の重みを利用し、反撃する技で、利用する攻撃の重みが重いほど、サーシャの技は強さを増すのだ。

だが、サーシャの誤算はその重さに反する速度だった。本来なら、攻撃をいなした上で成り立つ反撃技が、反撃が当たる直前に右腕にファインの一撃をまともに喰らい、その上で流技【受け身暗殺】を当てたのだ。

 

「…あの一撃……もう少し早かったら……流技【受け身暗殺】は失敗してたよ……私の間合い外からの一撃だったから……ね。」

 

 

 

結果的に、模擬戦は無事終了し、この日の授業はすべて終えた。

約束通り、ファインとサーシャの席は入れ替わるように先生に交渉し、成り立ったため、ファインとサーシャの席は入れ替わったのだった。

 

「あぁ〜…まさかサーシャがあんなに強いなんてな……」

「そりゃあな、レイニードの一家は通称暗殺一家。家族の全員が暗殺者で、サーシャはその次女だからな。」

「次女?上がいるのか?」

「あぁ、サーシャの姉が今のレイニード家の当主、フブキ・レイニードなんだ。前代当主の親父さんが病気で亡くなって以来、彼女の姉が当主としてレイニード家を成り立たせているのさ。」

 

さすがは死神といったところか、闇の業界に関してはなかなか詳しい。魂集めの死神に暗殺のレイニード。少し怖い印象を受ける。

 

「じゃ、俺はここで。」

「おう、ファインまたな。」

 

W・Sは寮制で、男子寮と女子寮、そして個室に分かれている。学園長の許可があれば、ルームシェアも可能なようだが、デスバザはあまりプライベートな部分を知られたくないからか、ファインのルームシェアを拒否したので、彼らは互いに別々の部屋にいるのだ。

 

「さて、今日は部屋に戻ったらもう寝るかな…」

 

部屋のドアを開け、中に入る。鍵はファインが所持している他に、内側からもロックをかけられるなど、最低限の安全性は保障されている。……なのだが……

 

「…………………」

「……zzz………」

 

このデジャヴ感。その正体は、ファインの部屋のベットで少女がスヤスヤと眠っているのだ。そう、少女の名は、

 

「…おいサーシャ……なんでこの部屋で寝ている……」

「むにゃ……あ、おかえり……」

「お、ただいま……じゃなーい!!」

 

まるで戦闘に敗れ、死んだふりをし、あたかも死んだように見せかけ、起き上がった時に言うようなセリフを思わず叫んでしまう。

 

「サーシャ!なんで俺の部屋にいて部屋のベットを占領している!!」

「えーと……ルームシェア……?」

「なぜ疑問系…てか、まさか許可降りたのか…?」

「うん。あ、学園長からファインにって…」

「ベラース学園長から?」

 

サーシャから手紙を渡され読んでみる。

 

『やぁやぁファイン君、君も入学早々スミに置けない男子生徒だね。暗殺一家、レイニード家からのご令嬢を部屋に招き、あまつさえルームシェアの許可まで求めさせるとは…いやいや、びっくりしたもんだよ(笑)

まぁ、それを横で見ていたロール君は顔をトマトのように真っ赤にして慌てふためいていたがね、彼女……どんな想像をしちゃったんだろうね(笑)

さてさて、とりあえず面白そうだから許可は出しちゃったから、せいぜい可愛い女の子との同棲生活を頼むといいよ♪

最後に一言、仲が発展しすぎて、部屋の住民を増やすような真似はしないでおくれよ…?そうなったら私の権限でもどうにもできないからねぇ……んじゃまたね!!

 

汝に戦神の加護があらんことを

W・S 近接戦闘科:クラス【ウォーリア】A組、ファイン・エクスロードへ 。

W・S 学園長、ベラース・ウィリアムズより。』

 

「……なんだこれは……」

「…ファイン……学園長と仲良いんだね。」

 

どうしよう、この手紙を今すぐ破り捨てたい。というか跡形もなく燃やしたい。

 

「というか、どうして俺の部屋に」

「ここからベランダに行くと月が見やすいのと……男子寮の端にの部屋なだけあって隣の部屋がうるさくない……から。」

「つまり、寝やすいと…?」

「…………うん」

 

まぁ、なんとなく予想はしていた。予想はしていたが、ルームシェアは予想外であった。

 

「……で、俺はどこで寝ればいい。」

「……一緒に……寝る?」

「寝るか!!」

「冗談…私は布団敷いて寝るから……」

「……そうかい。」

 

これからのW・Sでの生活、学園長に遊ばれ、サーシャに振り回される男、ファイン・エクスロード。彼の身は記憶を取り戻すまで持つのだろうか………

 

第七話へ続く……




人物紹介

デスバザ・B(ボーン)・サイズ
性、男 身、180.5 種、死神
近接戦闘科:クラス【ウォーリア】

死神としての潜在能力に耐えられる心を持つためにW・Sに入学した青年。
その昔、突然死神の力が覚醒し、暴走したところを現在の死神の長によって封じ込められており、今の段階で引き出されている力は2割も満たないのだとか。
性格はとてもお気楽だが、真面目になると人が変わる。彼もまな、過去の記憶がない。


サーシャ・レイニード
性、女 身、152.3 種、人間
近接戦闘科:クラス【ウォーリア】

レイニードという暗殺一家のための授業として、W・Sに入学した少女。
見た目は少女のような幼さと純情さを持っているが、戦闘になると途端に獲物を狩る狩人となり変わるほどの腕利き。
武器はナイフ1本。体術を交えた戦法を得意とし、訓練によって培われてきた足の速さと反射神経と、身体能力で相手を翻弄させ、連撃で相手の防御を崩していき、確実に命を刈り取る一撃を相手に見舞う。
寝るのがとても大好きで、めんどうごとを嫌う。ファインの席や部屋を占領するのは、寝心地が良いという理由からであるらしい……
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