The Warrior World 第一節「忘れられた剣」   作:犬丸ミケ

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前回のあらすじ
黒いローブの男、デスバザ・B・サイズととりあえず的なペアを組むことにしたファイン・エクスロード。
指定された教室に行くと、自分の席を陣取って眠っている少女、サーシャ・レイニードとファインの席を巡って勝負をすることに。サーシャは、精錬された戦闘技術でファインを翻弄し、結果はサーシャの勝利となり、ファインの本来の席はサーシャのものとなった。
勝負が終わり、部屋に戻るとサーシャの姿があり、そのままの流れで同棲することになったのだった……


第7話

「あ、ファイン、そこシーツ引っ張って?」

「………こう…か……?」

「……うん、大丈夫。」

 

W・Sに入学、そして俺の記憶探しのためのこの学園生活を始める予定が……どうしてこうなった……?

きっかけはこの日行われた模擬戦で、俺と目の前の少女、サーシャ・レイニードと教室での席をかけての勝負を行ったのだ。

まぁ、結果は俺の負けで、サーシャがあそこまで強いとは思わなかった……というのが数時間前までの話。

そして現状、俺は目の前の少女と何を間違えたのか、ルームシェアをする羽目になってしまったのだ。無責任にも感じる学園長の許可も得て。

 

「……ファイン…?さっきからずっとムッとして……どうしたの…?」

「…教えないと分からんか……?」

「………?」

 

これはボケているのだろうか。

それとも分かっている上で分からないフリをしているのだろうか。

なら、分からないのなら教えるまで、俺の胸に秘めた不満をぶちこもう……なんか男らしくない気がしてならないが。

 

「あのなぁ……まず男女でルームシェアというこの現状、それを許可した学園長、そしてそれを申請した目の前のお前、あわよくば俺の席どころか俺の平穏すらも奪おうとしているお前……これでムッとしないと思うか…?」

「……ファイン……」

 

言いすぎたか?

いや、この現状をおかしいと思ってもらうためだ、心を鬼にしてでも言ってやろう。

 

「…もしかして……女性より男性の方が好きなの……?」

「待て待て、さりげなく俺を同性愛者みたいな認識をするんじゃあない。てか勘弁してくれ……」

 

前言撤回、諦める。

こればっかりは何と言ってもダメな気がする。というか、これが村で育った人間と暗殺者として育ってきた環境の違いというものなのか?

そんな環境違いでここまで価値観が違うというなら……俺はちゃんと折れよう。

 

「大丈夫、男の人とならよく寝てる……死体だけど。」

「死体じゃなかったら色々と問題だ。てか、最後の付け足しがなかったら勘違い行きに直行だからな?」

「……どうして?」

 

……さて、どうしたもんだか。

俺の目の前の暗殺者様は男女の隔たりどころか、何かしらの常識が欠落しているご様子。

こればっかりは家の教え方で常識が欠けているのか、それとも暗殺のことだけしか教わっていないのか。

とりあえず、キツめに言うことにはなるが自分がどんなことを言って、そしてそれが常識のある人間にはどう認識されるか……教えなければ。

 

「つまり、お前は節操なしの売春婦だと思われーーー」

 

トスッ

壁に何かが刺さる音だ。それも、俺のすぐ後ろから。

後ろを見る。そこには、光の反射にて輝きを出す白く、短く、そして鋭いサーシャのナイフだった。

 

「……次は…外さないよ…?」

「………スンマセンでした」

 

この目はやばい。

この目は模擬戦の授業前に俺の席に寝ている彼女をどかそうとした時に、俺にナイフで反撃を試みようとした時の目だ。

彼女の赤い眼が俺を睨んでいる。それだけで背中に刃を押し当てられているどころか、少し刃が体内に侵入しているのではないかと思えるほどに鋭く、冷たく、そして己の殺意を周りに散らすことなく、俺という人間を一点に集中させている。

ある程度殺意に当てられて慣れていない人間なら、その視線が与える恐怖で失神するかもしれない。それほど鋭い。

 

「だがなサーシャ、お前がさっき言った『男の人とはよく寝ている』というセリフはそういう意味を含んでいるんだからな?」

「……最後に死体ってつけた」

「残念だが、そこまで聞いていない人間も出てくる、そこから勘違いの嵐だ。そしたら最後、サーシャ・レイニードという暗殺家業の少女は[男の人とよく寝ている節操なしの少女]という程で悪目立ちすることになるだろうよ。そうなったら暗殺者としてのお前としては望ましくはないと思わないか?」

「……それもそうだね…前言撤回、私は死体とならよく寝ている……仕事上ね。」

 

それはそれで死体マニアと思われそうだが……これ以上踏み込めば深みにハマってしまいそうだから何も言わないでおこう。

とりあえず、俺の後ろに刺さっているナイフは刺さりっぱなしだと後々何か言われそうなので抜いておこう。

 

「ほら、ナイフ。返すぞ。」

「……いや、いい。あげる。」

「なぜ?」

「………お詫び?」

 

やっぱりこの少女はよく分からん……

いや、もしかしたら大剣だけでは至近距離の戦闘では太刀打ちはできないだろう、ナイフの扱いも覚えていていいかもな。

それにしても、このナイフはなんというか、近接戦闘で使うものにしては大きさが小さく、なおかつ軽いのはなぜか。

 

「そうか、なら貰っておくか。ついでに鞘になるものとかないか?」

「…それ、投げナイフ。基本ホルスターにしまう物……」

「あ………そう」

 

道理で軽いわけだ。

戦闘で使うには少々軽すぎる気がするとは思ってはいたけど、まさか投げナイフとは。

てか、投げナイフ1本貰ったところでどうしろと……あれ?俺ってもしかして使い捨てで使用済みのゴミを貰ったような物なのでは?

………複雑な気分だ。

 

「……まぁ、投げナイフとしてではなく練習用のナイフとしてもらっておく…」

「?そう……あ、枕のカバーって余りはある?」

「お前って暗殺者の割には寝ることには特にこだわるのな。普通はどこでも寝れるようにするもんじゃないのか?天井裏とか。」

「……就寝は大事……特にこんな風に寝れる場所では。」

「……そうか。」

 

こいつの睡眠に関してのこだわりはどこまでのものだろう……そういえば、さっきから布団の設置を手伝っているが、そのどれもが学園で支給されたものではなく、自分のものだ。

 

「支給されている布団を使わないのは、外部の物を使ってはならないとか教えられているからか?」

「………自分の枕じゃないと…寝れない…から。」

 

子供か。

まぁ、気持ちは分からなくない、枕を触ってみたが、少し固い気がする。もう少し柔ければ安眠できそうだなー…と思っていたが、こいつにとっては、この違いがそこまでとは……

ということは、だ。こいつにとってマットの反発の度合いも、布団の材質から重さ、さらにシーツのふわふわ具合など、すべて自分用でなければ納得いかないのだろうか……

 

「……眠れる時は寝る、必要以上の疲労は敵。」

 

戦闘以外はボーッとしているようなサーシャの目がキリッとしている。

いや、そこはキリッとして言うんじゃない。

うむ……こいつは暗殺者というより、ただ良い寝床が欲しいから暗殺の技術学んで、寝首をかいて無理やり奪おうとしているような気がしてならない。

それはないだろうけど、サーシャのお家の事情上で。

 

「…まぁ、お前が眠ることに関してはこだわりがあるのなら……これ以上は何も言わんが……あ、そこのシーツ曲がってるぞ。」

「ん……ファインって……」

「どうした?」

「意外に……マメなんだね……潔癖症?」

 

そんなにマメなのか…?

いや、寝る前の布団とか、綺麗な状態で寝たほうが、寝返りでシーツが取れたりすることが少なくなるだろうし、俺としての気遣いのつもりだったが……ちょっと気を使いすぎてるのか?

 

「いや、潔癖症ってことはない。寝てる時にシーツ取れたら寝心地はあまりよくないだろ?」

「んー……というより、大剣使いだから細かいことさあまり好きじゃないのかな……と。」

 

謝れ!全国の大剣使いにそんな偏見を持って発言したことについて謝れーー

 

「おい待て、どうして俺が大剣使いだと分かる」

 

違和感なく普通に受け答えしてしまったが、俺はサーシャに大剣を使っているところを見せたことがない。

模擬戦の時に使っていたのは片手用の剣だ。なのになぜ俺が大剣使いだと分かったんだ?

疑問に思い、サーシャに問い詰める。

 

「ファインの剣の使い方……なんだか重い物を持ちながら、得物の重さと筋力で押していく剣撃……このあたりが大剣使いだって判断した特徴。」

「そうか?もしかしたら戦斧とか、大槌の可能性もある。もしかしたら盾かもしれないぞ?」

 

と言うと、サーシャは首を横にふるふると振る。

 

「確かにその線もあり得る。けど、間合いの取り方と詰め方、私との間合いの距離からも判断はできる……戦斧にしては間合いは短いし、大槌も同じ。盾にしては距離は遠い上に防御からの攻撃を行う人間の動きには見えなかった。近距離でありながらも刃の長い獲物となれば刀か大剣の二枠に絞れてくる。」

「……で、武器の重さで押していく戦い方は大剣使いの特徴……と。よく見てるな。」

「このくらい常識。」

 

とは言いつつも、いつもの眠そうな表情ではなく、じゃっかんドヤ顔をしている気がする。だって眉が妙にキリッとしているからな。

 

「で、なぜ大剣使いな細かいのを苦手としていると?」

「私が見てきた大剣を使う人は……なんだか理屈を苦手とした上に、ちまちまとしたことが嫌いな上に、何事も手早く済ませてしまおうという印象がある……」

「つまり大雑把みたいな感じだと?」

「そう。」

 

さらにひどい偏見を見た気がする。

そりゃ、細かいことが苦手な人間は技術の多い短刀よりも、原始的に叩き潰すような大剣を使う人の方が多い気がするが、サーシャの言ったことは大剣使い=大雑把とカテゴライズしてしまっているから、なんとなく癪に触る。

数多くの大剣使いを見たからと言ってその全員が1つの概念に縛り付けられているわけではないのだがな……

 

「どの大剣使いも大雑把な人間ってわけじゃないからな。あと、俺は元いた村で狩人やってたから、細かい作業は慣れてる。あと大剣を使っているのもつい最近からだしな。」

 

マイヤール樹林でメタルブレイカーを見つけたのはつい最近だ。それ故に大剣を扱っての戦闘なんて指で数えられるくらいしかないだろう。

なんて思っていたら、サーシャはなぜか怪訝そうな表情で見つめてくる。

 

 

「……本当に?」

「え…」

「本当に大剣を使い始めたのは……最近からなの…?」

「そう……だけど……いや、分からないな。何せ俺は記憶喪失だからな……」

「記憶が?」

 

っと、そんなに俺のことを話す気はなかったが……ま、ルームシェアをする相手だ。デスバザ同様に隠し事をしておく必要はないかな。

 

「あぁ、名前からどこに住んでいたか、さらに今の今まで何をしていたのかも、全く覚えていないんだ。だから、大剣を使い始めたのは今の俺からすれば最近だけど、もしかしたら記憶を失う前にも使っていたのかもしれないしな……」

「………そう…えっと…」

「ん?」

「私の予想だと……多分ファインは記憶を失う前から大剣は使ったことあると思う……私と模擬戦した時に、あなたが大剣慣れしているように……見えたし。」

 

記憶を失う前から……ね。

思い当たる節はある。メタルブレイカーを持った時、妙に持ち慣れた感じはあった。

それだけじゃない。森の主を仕留めた一撃は今となっては俺の剣術の1つ、今では【一閃】という名前として扱っているが、あの時の俺は剣の扱いに慣れていないのに関わらず、あんな剣戟を放てたのだ。

考えすぎかもしれない。だが、これも俺の記憶に関わる1つの情報かもしれないから、ただの偶然と受け取るのも……どうかな。

 

「そうか……ありがとなサーシャ。少し希望が湧いた気がする。」

「ん、席を奪ったところか、ファインの許可なしにルームシェアを強いたから……この程度のことならいつでも……」

 

あ、悪いとは思ってるのか。

それとも、ただの口実か……分かんね…

だが、戦闘やら暗殺やらに経験のあるサーシャの言うことだ。信用するには値するだろう。

……こう考える俺って何様か……

 

 

 

夜も更けて………ファインの部屋。

 

 

「……(寝れん…)」

 

あぁ、全く眠れない。眠れる気がしない。

なぜかって?言わなくても分かるはずだ。

今俺の部屋にはサーシャ・レイニードという異性でありながら暗殺者である彼女がいるのだ。ただでさえ、異性と同部屋で寝ること自体が初めてだというのに(森の主に傷を負わされてトレディアに看取ってもらったのはノーカウントで。)暗殺者と一緒に寝るなんてどれだけ緊張してしまうことか……

いっそ「暗殺者と同じ部屋で寝れるか、俺は別の部屋で寝る」と言って出て行ったほうが………いや、そうしたらなぜか死んでしまう気がしたぞ?……なぜ?

 

「……すぅ……」

「……サーシャ……そういや寝慣れていると言ってたっけな……死体とだが」

 

危ねえ危ねえ……これ最後に死体とつけなかったら凶弾ならぬ凶刃が俺を襲ってDead End………そんなわけにはいかない!

俺は記憶が戻ったら村に帰っ………なぜだ?これ以上のことを言ったら、それこそDead Endの気がしたぞ……?

………暗殺者の女子と同室で、しかも寝ようとしているわけだから気が気でないのかな…

 

「…ファイン…?」

「!……サーシャ…?起きてたのか…?」

 

まさか、寝慣れているではないかという独り言で目が覚めたのか?だとしたらこいつどんだけ自分の悪口に対して敏感なのか。

……まずいな、サーシャと同室してからか妙に緊張する……

異性と寝てるからだって?

違う、寝首をかられるのが怖いからだ。

 

「……ファインがずっと起きているようだから……寝れる気がしなくて…」

「待て、なぜ俺が起きていると分かった?」

「……呼吸」

「………それだけ?」

「暗殺者なら……これくらい普通」

 

さすが暗殺者、怖い。

こんな真っ暗闇でも俺の姿は見えているのかもしれないのに、さらに呼吸だけで起きているかなんて分かるなんて……こいつの寝込みを襲う輩がいたとしたら、俺は寝込みを襲う奴に同情する。……選択を誤ったな……と。

 

「……普通…そうか…」

「……うん………」

「…………」

 

なんか喋ってくれ。静寂が辛い。

ただでさえこんな状況で眠気が一欠片も湧いてこないと言うのに、さらに両者起きている状態での静寂とか、どんな罰ゲームだよ。

あれか?俺がサーシャとの模擬戦で負けて席を奪われた上に、ルームシェアをなんだかんだで許してしまった俺の気の弱さに対する罰ゲームか何かか?

 

「……ファイン。」

「な……なんだ?」

「記憶喪失って……どんな気分なの?」

 

どんな気分…か。気分……ね。

最近じゃあまり違和感がない。むしろこれが普通とも思えてきてしまっている……ってのは本当はダメなんだが……

だが、こうして思い返すと、確かにマイヤールの村で目覚める以前の記憶はないが、今こうしている状況ではあまり困ることはない。いや、思い出話を頼まれると困るが。

 

「……そうだな、例えるならお前が産まれた瞬間の記憶ってあるか?母親の体から出てきて、産声を上げていた時の」

「……ない…けど…」

 

そりゃ分からんだろうな。

産まれた直後の記憶なんて誰も持ち合わせてないだろう。

だが、記憶喪失ってのはそういう感じなんだよな。その部分が穴でも空いたかのようにポッカリとしているというか。

 

「そう、これは記憶喪失というより、元からない記憶だが、その何も分からない感じに思い出せそうだが思い出せないような靄がかかっている感じかな。付け足せば、そこにさらに何も思い出せないことの不安まで加わる……分かってくれたか?」

「……うん、辛い……すごく」

「だろ。これが今の俺ってことだ。」

「………」

 

…これは重い話だったな。なんか悪い気にさせてしまった気がする。

 

「……ねぇ。」

「ん?どうした。」

「………辛く……ないの?」

「辛い……確かに思い出せないのはな。でも、幸いなことに俺がいた村の人たちはすごい優しくてな、時折自分が記憶喪失なこと忘れるくらいだったな。」

「そう……よかった……?」

「あぁ…でも、記憶がなくなったままじゃ、お礼を言うに言えないからな。ちゃんと記憶を戻して、いつかちゃんとお礼を言いに行きたいよ。」

「…………」

 

マイヤール村の人々は俺を受け入れてくれた。余所者の俺を。

これは俺が記憶喪失が故なのか、それともマイヤール村の人々がただ優しいだけだったのかは分からないが、村人たちは俺をマイヤール村の一員かのように扱ってくれた。

距離を置かれているわけでもなく、警戒をしているわけでもなく、まるで元から俺がマイヤール村で生まれ育った人間のように優しくしてくれた。

お礼をするためには、まずは記憶を取り戻し、本来の自分を思い出してからお礼をしなくては、優しくしてくれた彼らの面目が立たない……と、俺はそう思っている。

だから、そのためにも俺は記憶を取り戻さなきゃならないし、何よりも俺自身が俺を知らないと言うのは気味が悪い気しかしないからな、早くなんとかしないとな。

 

「……私は……」

「ん…?」

 

何かを言いかけるが、サーシャは口を止める。サーシャが発言を躊躇うなんて珍しい気がする。少なくとも、今日一日一緒にいた身の感想というか、なんというか。

 

「……なんでもない……寝よっか…」

「そうだな、明日も授業あるし、何よりお前が授業中寝ないためにな。」

「…私……寝ていても話を記憶するくらいならできるけど……」

 

便利な技術なことで……

少し羨ましいと思ってしまった自分がいる……過去の俺ってダメ人間……ってわけじゃないよな……?

頼む、そうであってくれ。

 

「……そうじゃなくてだな……お前が授業中寝ると必然的に先生が起こしに行くだろ?そしたらどうなる?答えは簡単、先生がお前の反撃を食らうわけだ。」

「………私程度の反撃に対応できないようじゃ……W・Sの教員は未熟……」

「そうだろうが、少しは迷惑をかけるということを考えろ……だから授業中寝ないためにも今のうちに寝ておくぞ。」

「……うん。」

 

不満そうに言いながらも、サーシャは言うことを聞いてくれて、その後はなんとか眠れた。

……実を言えば、このあと1時間は眠れなかったのだがな………

 

 

W・S 近接戦闘科 クラス【ウォーリア】A組

 

「………で?」

「ん?」

 

眠れない夜も明けて、前日と同じようにA組の教室に行く。

なお、前日というか俺本来の席は今はサーシャの席となっている。

そんなわけで窓側列の真ん中の席から中央列の最前列の席に座る俺の目の前には、白の強い灰色っぽい長い髪をオールバックのように後ろに回している死神様、デスバザ・B・サイズがいる。

挨拶をするなりいきなり話しかけてきたが、何の用なのか……

 

「お前……サーシャ・レイニードとルームシェアでもしてんのか…?」

「ぶっ…!?」

 

な ぜ バ レ た

なんだ?匂いか?犬みたいにサーシャの匂いでも俺にするのだろうか。

まさか……もう噂となって……と真相が気になるのでデスバザの耳元で囁くようにして聞いてみるか……

 

「……なぜ分かる?」

「お前からサーシャの魂の残留がある……って言えばわかるか?」

「魂?死神だからか?」

「言ってなかったな……俺は死神の中でも特別で、【不可視のものを可視化する】力を持ってるんだぜ?」

「……異能力……ってやつか?」

「そそ、そゆこと。

 

異能力。

それは魔術とはまた違うが、魔術を使うための魔力を必要としたり、己の存在の概念のようなものを力としたものと色々諸説はある。

と、本で一度目にしたことはあるが、こうやって実際に異能力を持っている人間(厳密には死神)は初めて見た。

いや、初めてではないかもしれないが、記憶を失った現段階においては初めてである。

 

「んでもって、俺は魂の残留つって、犬でいう匂いって言えば分かるか?とりあえず、その魂の匂いが目で見てわかるってわけだ。ちなみに、俺以外の人間に見えるようにすることもできるお得な能力だ。」

「へぇ……で?俺からサーシャの魂の匂いが見えると……?」

「つまるとこそう言うことだ。で?実際どうなんだ?」

 

なんてことだ……

なるべくならバレたくなかった……だってバレたら間違いなく騒ぎになるからな……俺がこの学園に入れるかも怪しくなるレベルに……

いや、この場合は許可した学園長に責任押し付けるか。うん、そうしよう。

 

「……あぁ、あいつとはルームシェアをしている……」

「なんでまた……暗殺者と同部屋とか、死神の俺でも遠慮したいところなんだが」

「俺に聞くな……あいつは俺の部屋の周りがうるさくなくて寝やすいとは言ってるが……本当のところの目的はなんなんだか…」

「ふむ……」

 

デスバザも黙ってしまう。呆れたのだろう。

まぁ、騒がれるよりかはまだマシだな。

たとえサーシャがどんな理由で俺とのルームシェアを希望するのか。本当に寝たいだからなのか、それとも暗殺者として俺が警戒対象または監視対象になったか……は考えすぎだな。

先日の模擬戦は俺のまごうことなきボロ負けだ。それも俺の唯一の剣術をカウンターで返されたのだ。そんな俺にサーシャ自体が警戒する部分とかあったりするのだろうか。

 

「……これは考えすぎだとは…思うんだが……ファイン。」

「なんだ?」

「あいつ、お前の記憶の何かしらの手掛かりがあったりするんじゃないのか?」

 

またどうしてそうなった。

サーシャがまず俺に記憶がないことを知らないんだぞ。というか、昨日が初対面でサーシャと何かしらの面識があったとは思えない。

 

「確かに考えすぎだな。俺とあいつは昨日が初対面で、サーシャ自体が俺が記憶喪失だということを知らないんだ。だからその線はまず無いと考えていいと思う」

「だよなぁ…でも、あの暗殺一家のレイニード家から来た奴が、昨日会ったばっかりの人間とルームシェアをするとは思えないんだよなぁ…」

 

言いたいことは分かる。というか暗殺者でなくともほぼ初対面の人間とルームシェアの申請する勇者は少ないだろう。

申請する人間のパターンは、故郷から共にW・Sに来たり、教室で話してみたら意外と気があってそのままの流れで…と考えてもこの2通りしか思いつかないな。

だが、俺とサーシャはこの2通りのどちらにも当てはまらない。だからこそデスバザの言いようも分かることは分かるが。

 

「だからって、どうしてサーシャが俺の記憶の手掛かりだということに繋がるんだ?」

「お前、武器は?」

「これだが」

 

といって頭の中でメタルブレイカーの形状をイメージする。

すると、右手に"まるで最初からすでにあったように"大剣が出現する。

武具展開術式「ウェポンスイッチ」

模擬戦後の教室で先生から学校の規則等などの説明があった後、この術を教え込まれたのだ。

なんでも、兵士を育成するこの学園において、いつ、どこで戦闘が起こるか分からないからこそ、緊急時に武器を出すための術のようなのだ。

武器を出せる数は複数で、今俺が出せる武器はメタルブレイカーと、模擬戦用の武器にサーシャからもらった投げナイフだ。

ただし、武器は制限なく出せるわけではない。

出せる武器は手に持ち、そこから「ウェポンスイッチ」と唱え、武器をしまったものだけに限る。だから、今俺が拳銃だの槍だのを出そうとしても出すことはできないのだ。

 

「……やっぱりな。それ、お前の大剣じゃないな?」

「……分かるのか」

「あぁ、その大剣には"お前以外の魂が混じっている"。しかもお前より濃くな。俺の予想じゃ、その大剣の本当の持ち主だろうな」

「本当の……持ち主か……」

 

メタルブレイカーはこう言ってしまえばあれだが、単なる落し物だ。今の俺からすれば。

これは実際に、記憶のない部分で使っていたかもしれない。だが、証明のしようのないところが困ったところだ。

このメタルブレイカーはどんな経緯があって俺の手元にあるのか。誰かの落し物か、誰かから貰ったのか、それとも誰かのものを盗んだのか、真実は謎のままだ。

 

「だが……本当の持ち主がいるとなると、なんか妙な感じがする。」

「妙?どんなだ?」

「確かにこの剣は落ちてたのを拾ったってのが正しい。でもな、この剣を握った時、何というか……持ち慣れているというか、今まで握っていたような気がするというか。」

 

森の主と戦う数分ほど前、俺はメタルブレイカーを見つけ、手に持った瞬間、妙な慣れた感じがあった。

今まで俺が愛用していた剣のように。

 

「ふむ、確かに持ち主の方がお前の魂より濃く残ってはいるが、それでもお前の魂も持ち主の魂に劣らず残っている。なんつーか、ほんの誤差程度にな。」

「てことは……どういうことだ?」

「その剣は、持ち主が愛用していたのをお前が貰った、しかも持ち主から渡したかのようにな?」

「俺が盗んだ、という線は?」

「ないな。」

 

即答だった。

持ち主の魂と俺の魂の濃さはほんの誤差、このことから俺も長く愛用していたことは分かる。

ただし、そうなると残る答えは2つ。

1つはデスバザの言う通り本来の持ち主が俺に渡し、持ち主に負けないくらい使っていたという答え。

もう1つは持ち主から奪い、俺が同じように長く使っていたという答え。

という答えが出たので、俺が盗んだという線を聞いてみたが、即答でそれはないと答えたのだ。

 

「なぜ?」

「お前の魂と持ち主の魂が互いにぶつかり合うことなく、じわりと1つになるように混じっているんだ。お前が盗んだのなら、持ち主の魂はお前の魂とケンカするはずだからな。」

「……そこまで分かるのか……死神怖い。」

 

メタルブレイカーがどういう経緯で今この手にあるかは分かったが、肝心な本題は解決していない。

 

「話戻すが、結局俺とサーシャに何か関わりがあるとは思えないのだが。」

「そうだな、お前とサーシャ・レイニードもは何もないだろうさ。」

「……?」

 

ますます意味が分からない。

サーシャが俺の記憶の手掛かりを持っていると言っておきながら、結局サーシャとは関わりがないという。

これでは余計に混乱する。

 

「これは単純な疑問というか、仮定みたいなもんだが……その剣の持ち主とサーシャ・レイニードのいるレイニード家にヒントがあったりするんじゃないか?」

「……この剣の…か」

 

根拠や理由もないただの直感に等しい疑問。

そこに確定的なことは何もないが、俺にとっては手掛かりとなった。

俺、ファイン・エクスロードの記憶には手掛かりがなくとも、メタルブレイカーの持ち主の過去が分かれば、俺自身のことも何か分かるかもしれないのだ。

今まで考えたことなかった、俺とメタルブレイカーの持ち主の接点、デスバザはこのことに気づかせてくれたのだ。

だからこそ、これは俺にとっては鍵となりうるかもしれない手掛かりなのだ。

 

「……考えたことなかったな……メタルブレイカーの持ち主と俺の接点か……」

「運が良けりゃ、その剣の持ち主を知る人間がお前のことを知っていたりしてな。ま、これはあくまでヒントみたいなもんだからあんまり深く考えるなよ。」

「…いや、今までなんの手がかりもなしに記憶を探してきたんだ。こういうヒントも嬉しいさ。」

「手がかりなしに記憶探し……お前も随分と苦労しているんだな……」

 

そうさ、お前の想像もつかない苦労をしてるんだぜ!はははっ!なんて心の中でヤケになりながらの呟きをしておく。

と、そんなことを話していると

 

「……ファイン」

「ん?」

 

横からしんみりとしながらも透き通るような声が俺を呼ぶ。

噂をすればなんとやら、サーシャだ。

 

「なんだ?」

「来て」

 

と言って、俺の返答を聞くことなく手を引っ張っていく。強引に。

 

「ちょ、授業始まるぞ?……てサーシャ?聞いてるのか?」

「………」

「無視するのはやめてくれないかな!?」

「おーいファイーン、先生に俺が話をつけておくからお前はサーシャ・レイニードとピクニックでも行ってこーい」

「おま、なんで止めないんだよ!?あとピクニックじゃないと思うからな!」

 

と、抵抗を何度も試みるが、その度にサーシャにいなされ、教室を半ば強制的に後にするのだった……

 

 

 

「………ふーん」

 

ファインがサーシャに連れ出された後、デスバザは1つの疑問を持っていた。

 

「あいつのバンダナ……あれもあいつの物じゃないよな……」

 

ファインのバンダナ、トレディアが幼馴染のレックスという人物に渡そうとしていたバンダナだ。マイヤール村を抜ける前日にファインがトレディアに渡されたものだ。

ファインにとってはお守りのようなものだろう。

 

「…あのバンダナ……1番濃い魂は別人、2番目に濃い魂はファイン……そして……」

 

デスバザは一度発言を止め、こう続ける。

 

「……3番目…かなり薄いが残ってる魂……あれってあいつの剣の持ち主の魂そっくりなんだよなぁ……言った方が良かったかねぇ…」

 

 

第八話へ続く……

 




重要になりそうな単語解説

異能力
武術や魔術以外にも力がある。それが異能力。
基本的な異能力は自身の魔力を介して発動するものが多く、魔術との違いは消費する魔力との違いである。
例として火の魔術を扱う人間はそれ相応の魔力を消費して発動する。これが能力者【火を操る能力】ならば、消費する魔力は火の魔術よりもはるかに抑えられるた上、魔術以上の火力を発揮することができる。
その他にも、自身の魂の存在の力、例えで神など存在するだけで周囲に影響を与える者の異能力は魔力を一切使わず、人間が呼吸したり、手を動かすことと同じ要領で異能力を使うことができる。
なお、デスバザの能力【不可視のものを可視化する能力】はデスバザの死神種族的な存在が魂を狩るものとしてあるので、いくら能力を使用しても魔力は消費されない。
なお、SHI「スティック・ヒューマン・アイランド」の住民は全員が異能力を持っているが、自身の体内の魔力を操る修業を得ることで異能力は身につくため、実質SHIの住民のほとんどは異能力が使えない。
だが、ごく稀にではあるが、なんの修行も積んだりしていないのにも関わらず、何かしらのきっかけが原因で異能力が扱えるようになってしまうケースもあるという。
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