天竜人のア○ルにデスソースを突っ込んだら海軍大将に追われてしまった   作:肛門デスソース

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 想定以上に感想や評価をいただきました。
 誤字脱字の報告もありがとうございます。

 1話分の文字が多くなる前に投稿。

 文章書くの難しすぎて4回くらい挫折しました。
 オリジナルとか二次創作で何十万何百万の「読める」文章を書ける人たちスペック高すぎない?

 見切り発車作品の設定は後付けするものだよね。



お菓子の国でドーナツを食べてたらビッグマムの“食いわずらい”に遭遇してしまった

 ここは万国(トットランド)。

 多種多様な種族が暮らす差別のない理想の国。

 美味しいご飯と甘いお菓子が死ぬほど食べられる、幸せが詰まった場所。

 

 とまぁ、こんな風に良い部分を強調してみた。

 実際はね? ちょっとだけ違うのよ。

 

 ここは世界最強の女海賊が君臨する危険地帯。

 四皇ビッグマムの理想を実現するための、大きな箱庭なの。その規模は世界政府に加盟している大国と遜色ないほどね。

 つまり、すっっっごい、でっかいのよ。わかる?

 

 そして、私にとっても馴染み深いお気に入りの場所でもある。

 ふふ、今日は何を食べようかしら?

 

 ふぅ〜、と肺の空気を入れ替えてリラックス。

 今日はサプライズの予定だったから仮面を付けていない。私の美貌が惜しげなく晒されているわ。海賊女帝にだって負ける気はないんだから。ハンコックちゃんも良い女になったわよねー。

 緑色の混じった銀髪もちゃんと手入れをして、服装だってお洒落したのよ。ポニーテールってうなじが魅力的で大好きなの。お化粧もネイルも決めてあるし、色んな男に声を掛けられるんじゃないかって期待してたんだから。

 まぁ全員もれなく振る予定だったんだけど。

 

 そう。そうなの。予定、だったの。過去形よ。

 

 

 ……今回の現実逃避はここまでね。

 問題解決の第一歩は、事態を正しく把握することから始まるらしいわ。

 そうと決まれば、問題を細分化しましょう!

 

 

 第一に、私は店主の消えたカフェでドーナツを盗み食いしています。紅茶も良い味してるわ。

 

「美味しい〜〜! タダ飯って最高ねっ!」

 

 ドーナツうめー、無銭飲食ってサイコー!

 また一つ、海賊らしい悪行を積み重ねてしまったわ。えへっ、懸賞金が上がっちゃうかも?

 

 

 第二に、リンリンが500mくらい先で大暴れしています。

 

「おれのお菓子は、どこにあるんだィ〜〜!?」

 

「早く逃げろ、ビッグマムの“癇癪”だ!」「向こうでオーブン様が避難誘導をしていたぞ」「町は諦めろ。命が最優先だ!」「おい、さっさと進めよ!」「そこどけよ、前に行けねェだろうが!」

 

 全く近所迷惑な子よね。元気なのは良いことだけど、騒音被害を甘く見過ぎだわ。耳が良いと本当に辛いのよ?

 ビッグ・マムなんて呼び名が付くくらいにデカくなったんだから、少し落ち着いて欲しいわ。

 

 耳を澄まさなくても、逃げ惑う人々の悲鳴が各地から聴こえてくる。カフェの店主が消えてるのも逃げたからだ。普段は安心安全な四皇の縄張りだけど、この国ではリンリンが暴れ始めると誰も止められない。時間稼ぎを出来る男なら1人居るけどね。まぁ、彼女を本気で止めようとしたら同じ四皇を連れて来るしかないもの。

 リンリン相手に真っ向勝負なんて、私には無理な芸当だわ。

 

 さてさて、この街が更地になる前にシュトロイゼンは“お題”を持ってこれるのかしら?

 気に入ったお店が幾つか増えたから、早くリンリンを止めて欲しいんだけど。

 

「……わざわざ遊びに来たってのに。厄日よね。なんで今日に限ってリンリンは“食いわずらい”なの? ──ねぇ、貴方はドーナツ食べる?」

 

 これ美味しいわよ、と私は機嫌よく隣の男にドーナツを差し出してみた。

 あからさまに微妙な顔をされた。辛い。

 

 第三に、旧友の次男が私に武器を振ってきます。

 私の肌を突き刺す覇王色はいっぱしの海賊でも失神しかねない強力なものであり、三叉槍「土竜」を自分の身体の一部のように扱う槍捌きは達人のそれだ。

 

「俺に聞くな。それと避けるな。ドーナツはいらん。お前の施しは受けない。デスソース入りドーナツの恨みは忘れんぞ」

 

 シャーロット・カタクリ。

 シャーロット家の最高傑作と名高い、ビッグマム海賊団で最強の男。懸賞金13億7542万ベリー。

 この海賊団で唯一、癇癪中のリンリンを相手にマトモな時間稼ぎが可能な男である。

 

 カフェの姿見からヌルッと現れたかと思えば、偶然居合わせた私を見て即座に襲い掛かってきた男だ。

 この書き方だと犯罪現場みたいで面白いわね、ふふふ。後でニュース・クーに投稿しましょう。

 

 「オーブンやダイフクも食べたのよね。『ロシアンドーナツ』懐かしいわ。三個あって、貴方が食べたドーナツだけデスソースが入っていたのよね。ふふふ、今となっては良い思い出ねっ!!」

 

「……積年の恨み、ここで晴らすとしよう」

 

 おっと、ピキッたな? 

 普段は冷静なのに、昔のネタで弄るとすぐ熱くなるんだから。可愛いとこあんのよね。

 

 小さい頃の彼にデスソース入りドーナツを食べさせてから凄く恨まれているのよね。今では顔を合わせる度に攻撃されるのよ。もう40年くらい続いてるのね。

 ここまで来ると、殺し合いはコミュニケーションの一種なんじゃないかなって最近考えてるわ。

 ほんの出来心だったのよ。反省してるわ。

 子供のお尻にデスソースは流石の私でも良心が咎めたから、彼の好きなドーナツに混ぜたら良いんじゃないかな? って思ったんだけどねぇ。お気に召さなかったらしいの。なんでかしらね。私の調合するデスソースって凄く美味しいのに。

 デスドーナツから生還したカタクリが「──お前を殺す」って宣言したとき、覇王色が初めて発現したのよ。切っ掛けがそれで良いのかな。

 あれには私もビックリしたし、リンリンも喜んでたっけな。カタクリの成長を早めたってことで寧ろ感謝してくれても良いのでは?

 

「つまり、私はカタクリの育ての母だった……?」

 

「お前が何を考えているのかを探るのは、見聞色の無駄遣いになるのだろうな」

 

 彼は不機嫌さを隠すこともせず、それでも律儀に会話をしてくれる。そういう真面目な性格が家族や部下に信頼を向けられる理由なんでしょうね。

 今は急所に飛んでくる槍を避けながら、ドーナツを食べているわ。ポンデリングって無限に胃袋に入るのよ。いま50個目。美味しい。

 真面目な子って、ついつい揶揄いたくなるのよ。

 

「カタクリ君ってば、遅めの反抗期?」

 

 ちょっと悪ふざけ。

 そしたら凄い、返答代わりに最初より数段鋭い突きがビュンッと襲ってくる。またピキったな?

 彼の全力の武装硬化は私よりも数段強力だから、まともに当たると怪我しちゃう。まぁ当たらないから問題にならないけども。

 無言で笑顔を崩さずに避け続けていたら、カタクリは不本意だという態度を崩すことなく、私に向かって槍を刺し続けながらも返答をくれた。

 

「……反抗期ではない」

 

「なら思春期「死ね」うーん我ながらバッドコミュニケーション」

 

 思春期といえば、14歳のカタクリに「お風呂上がりで裸のお姉さんと遭遇する」シチュエーションをお届けしたんだけど、顔を真っ赤にして「タオル巻くだけじゃなくて服を着ろよッッ!!」と最もな突っ込みをくれたわ。

 いやね、完璧な男を目指していたから、私なりに揺さぶりを掛けたのよ。本当よ?

 

 「強がってる男の子って可愛い」とかそんなんじゃないの。当時のリンリンに「あんたショタコンって奴なのかい?」と真剣に問い質された時は居た堪れなかったわ。あれは不審者から息子を守る母親の目だったもの。いつでも振り抜けるようにナポレオンを構えてたんだからね? 必死に否定したけど未だに信じて貰えないし。

 

 『私はただ少年少女が好きなだけなの! ねぇ信じてよリンリン!!』

 『ただの小児性愛者じゃねェか!! おれのときも似たような理由で近付いたんじゃないだろうね!?』

 『…………いや、だってルーキー時代のリンリン可愛かったし』

 『テメェそこは否定しろよ! 暫くウチに近付くんじゃねェ!! 威国ゥゥ!!!』

 『危なっ!? 当たったら死んじゃうでしょうが! ぶっ殺すわよ!?』

 『それはおれの台詞だろうが変態女、死ねェ!』

 

 ふふ、良い思い出だわ。

 仲直りに3年くらい掛かったけどね。

「私はシャーロット家の未成年に悪戯しません」という誓約書にサインしたのよ? そうしないと万国入国禁止令を解いてくれないって言われたんだから。

 

「──余所見とは随分と余裕があるな」

 

 カタクリがギアを上げて猛攻撃を仕掛けてくる。多少の揺さぶりでピキらせても、すぐに冷静さを取り戻して見聞色を切らさない。強いわねぇ。

 

 でもね、人に槍を刺しちゃいけないのよ?

 全く親の顔が見たいわね……いや親って現在進行形で街を壊してるリンリンじゃん。やっぱり食いわずらいってクソよ。子供の教育に悪いわ。

 

「この間まで私より小さかったのに、少し目を離した間にこんなに大きくなるんだから人間は不思議よね」

 

 むむっ、突きの軌道が複雑になり始めたわね。

 さては私の動きを先読みしたな?

 でも残念、未来視勝負なら私の勝ちよ。見聞色で私に勝とうなんて100年くらい早いわ。ワッハハ。

 

「俺に言わせれば、お前が変わらな過ぎるだけだがな。尻狩り魔女め」

 

「酷い言い草ね。エーフィン族は妖怪じゃないっての。巨(・)人(・)族(・)よ(・)り(・)も(・)少(・)し(・)長(・)生(・)き(・)なだけなんだから、そんな言い方しなくても良いじゃない。泣くわよ?」

 

 およよよ、と泣き真似をしたら返答代わりの無双ドーナツが飛んできた。ツンデレなのかしら?

 

 

 さて、今はカフェの外に移動しての手合わせに勤しんでいる。カタクリとの戦いは先読み合戦になるから歯応えあるのよ。

 カタクリの技を避けたり防ぎ流したりして距離を取ったら、すぐさま遠距離攻撃を繰り出してきた。

 

「焼餅」

 

 しかし、カタクリの攻撃は当たらなかった!

 無駄に洗練された曲芸じみた動きで回避する。サーカスのバイトで大道芸やった経験が生きたわ。

 

「狙いが甘いわ!」

 

 ふふん! と得意げな顔をカタクリに向けたら、ドギャンッ!という金属同士を高速で衝突させたような耳障りな音が後方から聞こえて、思わず顔を顰めちゃった。

 

「あァん?」

 

 ……えっ、リンリンに当たっちゃったの?

 

 リンリンは今の一撃で気が逸れたのか、落ち着いて、立ち止まって、こっちに振り向いて…………バッチリ私と目が合った。

 

 あっ、あら。少しだけ癇癪から正気を取り戻したのね。やっほー?

 

 ──L:みぃつけた❤︎

 

 ──A:こっちみんな、あっちいけ

 

 ──L:今そっちに行くからねェ!

 

 ──A:私の話を聞けよ

 

 視線だけでの会話を試みたが、私の想いは届いていないようだ。こっちが一方的に相手の考えを読み取っても、向こうがそうとは限らないのよ。

 察して欲しいなんて我儘よね。円滑な人間関係を構築したければ、恐れずに自分から話しかけなきゃいけないんだわ。今のリンリンに話し掛けたい人がいるとは思えないけどね。

 

 う〜〜〜ん、狂気に満ちたリンリンがナポレオンを片手に爆走してくる。

 ドシンッ、ドシンッと重厚感に溢れた足音でね。

 

 ふふふ、ねぇ知ってる?

 

 リンリンってば、若い頃と比べて体重激増した癖に、今でもCP9の剃並に速く走れるのよ。

 『秒速25mで突進してくるビッグマム』って字面だけでも中々の恐怖映像でしょ?

 『時速90kmで25トンの金剛石が轢き殺しにくる』と表現しても良いわ。

 どっちも同じ意味だからね。聞き手によっては後者の方が想像しやすいのかしら?

 

 しかしまぁ、隙だらけの無防備な状態でカタクリ渾身の一撃を後頭部に直撃してんのに、素の身体能力だけで無傷って理不尽すぎる。

 ひとまず、主犯の次男くんに責任取って貰いましょうか。カタクリならお菓子到着までの時間稼ぎもできるし。

 

「ねぇカタクリ? あんた責任を……えっ、いつの間にか消えてる!!?」

 

 まさか、私の見聞色を掻い潜って逃げたっ!?

 本気でビックリして周囲を見渡したら、近くに不自然に割れた大きな鏡があった。なるほどブリュレの仕業ね、と把握できた。そういえばカフェに現れたときも姿見からヌルッと出てきていたもんね。

 あの子はカタクリ大好きっ子だし、リンリンを相手にするリスクを考えたら助けたいに決まってるわよね。

 

 ……私も一緒に連れて行ってよ。お姉さんを置いていかないで。小さい頃は一緒に遊んだじゃない。

 

 『三日三晩の新世界月歩旅行〜〜アホみたいな悪天候を添えて〜〜』はブリュレのお気に召さなかったのかしら? 刺激的な遊びにしたんだけどね。

 あれ以降、微妙に避けられてる気がするわ。

 

 そんな取り留めもない思い出に浸っていた私は、リンリンの大声で辛く厳しい現実に向き合わざるを得なくなった。

 

「ハ〜ハハハ〜ッ! おれの頭を殴るなんて、随分なご挨拶だねェ!! お菓子は何処に隠したんだい、アンナッ!!」

 

 寝惚けてるようなもんだから仕方ないけれど、食いわずらい中のリンリンは私の話をあ(・)ん(・)ま(・)り(・)聞いてくれない。

 

 ここで私が逃げ出しても、リンリンは楽園まで余裕で追い掛けてくる。

 ロジャーが海賊王になってからの暴飲暴食が原因で太り始めてからは、昔みたいに月歩で空を跳べなくなったけど……ゼウスやプロメテウスに乗れば追跡は容易い。

 音速で見聞色の感知外まで離れても「ママママ……アンタならここら辺に居る気がしたよ!」と直感だけで居場所を突き止めてくる。実際に2回も経験がある。流石の私も真顔になったわ。

 プロメテウスで空中移動しつつ、高笑いしながら威国を乱射してくるのよ? 悪夢だわ。

 「リンリンなら巨人族の技も使えるんじゃね?」なんて安易な発想で、この子に色々と教え込んだのは間違いだったかもしれない。反省を通り越して後悔してる。ただ、私が教えなくても自力で覚えただろうし、遅いか早いかの違いだったのかも。

 

 

 さて、ここは逃げずに殴り合うのが最適解ね。

 

 

 足止めして、お菓子制作班の到着を待つ。普通に考えたら生贄じみた役割だけど……私は誰が相手だろうと生き残れる。生き汚さなら誰にも負けないの。でもゴキブリって言ったやつは許さないわ。ケツを出しなさい。

 

 本気のリンリンならともかく、理性が蒸発してる今の彼女に負けるほど、私は弱い女じゃない。

 まぁ、自分の教え子と久々に遊ぶ良い口実だわ。

 

 

 歯応えある闘争を予感し、心の奥底に抑え込んでいた狩猟本能が呼び起こされる。

 愛用の長槍、『紫苑』を構える。150年を超える戦歴の果てに黒槍と成った業物だ。私が産まれるより前にワノ国の鍛治士から贈られた、友好の証明。

 槍に全力の覇気を込め、纏わせる。

 

 私がこの武器を使うのは、狩人として、戦士として、本気で臨むと決めた証なのだ。

 

「お菓子が来るまで、子守をしてあげるわ」

 

「おれと戦う気かい? ママママ、面白え。お菓子の場所はおめェを倒してから聞くとしよう」

 

 私のやる気を感じ取ったのだろう。

 リンリンは実に愉快げな様子だった。

 彼女は走りながらナポレオンを構えると、ググッと力を込める。

 私は大技が放たれる未来を視て──

 

「良いわよ、来なさい」

 

 ──全身の力を抜き、地面に倒れ込んだ。

 

 

「ハ〜ハハハッ! くらえよ、エルバフの槍ィィ……“威国”ッッ!!」

 

 

 ♢♦︎♢

 

 アンナとリンリンが衝突する少し前のこと。

 

 鏡世界。ミラミラの実を食べたシャーロット・ブリュレの能力で入ることのできる異空間。

 そこには戦場を監視する無数の目があった。

 

 帰還したカタクリがそっと言葉を紡ぐ。

 

「──アンナの雰囲気が変わる。珍しく、ママと本気で戦うらしい」

 

 年長の兄や姉達は姿勢を正した。

 くくくく、と怪しげな笑い声をあげたのは長男ペロスペロー。

 

「ペロリン♪ お菓子の到着まで、退屈せずに済みそうだな」

 

 楽観的な長男に対して、リンリンとアンナの衝突に頭を抱えたのはオーブンである。

 

「総料理長は後1時間でお菓子の完成と言っていた。それだけあれば、戦闘の余波であの街は崩壊するぞ? 住民の避難は済んだから良かったが、再建費が嵩むのは痛い。金だって無限に湧いてくるわけじゃないというのに」

 

 他にも早くに生まれた兄や姉が思うままに意見を交換する中、若い世代の妹と弟を代表して、フランペが心底不思議そうに疑問を呈した。

 

「ねーねー、ペロスお兄様? あの人って本当に1時間も生きていられるの? 正直、そんな強そうに見えないんだけど。ママにプチっと潰されたりしない?」

 

 フランペとて、アンナの懸賞金くらい知っている。昔は今より暴れていたとも聞いている。

 ただ、実際にアンナを目にして、耳にした情報からは想像もできない程に気(・)配(・)が(・)弱(・)い(・)のだ。

 まるで、殆ど鍛えていない一般人かのような空気を醸し出している。「こんな弱そうなのが?」と拍子抜けしてしまうのも無理はない。

 フランペは見聞色をあまり鍛えていないが、ある程度の見極めくらいはできる。少なくとも自分の感覚では、噂に尾鰭が付きまくったんじゃ? と疑いたくなる相手だったのだ。

 それを言葉にしたのは、兄や姉の実力を信頼するからこそである。きっと自分の疑問を解消してくれる筈だから。

 

 若輩の妹フランペの疑問は、アンナと付き合いの浅い者にとっては当然のものである。

 頼れる長男ことペロスペローは、信じられないかも知れないが、と前置きして語り始めた。

 

「今は『尻狩り乙女』。ママが生まれるより古い時代の手配書では『森の妖精女王』。アンナは、覇気の操作がズバ抜けて巧みだ。覇気を一般人並に抑え込んで群衆に溶け込んだり、自然と同化して世界から消えたりする。お前ら、この恐ろしさが分かるか?」

 

「一般人に擬態してた奴が、突如として大海賊に豹変するなんて反則だぜ。並の見聞色使いじゃアンナの擬態を見破れないんだ。自然と同化するとかいう馬鹿げた所業に至っては、おれも見破れん」

 

「本気で隠れたアンナを見付けられるのは、うちだと三人。ママとカタクリと総料理長だけさ。ママは野生の勘で、総料理長は膨大な経験で、カタクリは研ぎ澄ました見聞色で。周囲の違和感からアンナを探し出す。……くくくく、おれらが餓鬼だった頃は、アンナと『隠れんぼ』で遊んだんだぜ? 一度も勝てなかったがな。今思えば見聞色の練習も兼ねてたんだろうが、大人げねえにも程がある」

 

「罰ゲームで食べさせられたデスソースキャンディの恨みは忘れねえ。いつかぶっ殺すぜ、ペロリン♪」

 

 ペロスペローの愚痴まじりの説明を引き継いだのはカタクリだった。

 

「アンナは異次元の見聞色を持つ反面、武装色が苦手だ。ママが調べた情報では150年以上も海賊をやっている筈だが、とっくに成長が止まっている。もっとも、あの女には武装色の弱さを補ってあまりある見聞色の強さがある。覇王色を含めて、総合力の高さは脅威だな」

 

 フランペは、長男らの説明に唖然とする。

 他の若い弟が不安そうに尋ねた。

 ママは大丈夫なのか、と。

 

 すると、愚痴を終えたペロスペローが弟の頭を撫でながら「問題ない」と口にする。サディスティックな彼を知る者からすれば目を疑うような、家族を愛する優しげな声で。

 

「くくくく、そんな心配しなくても良い。確かにアンナの実力は大海賊の肩書きに相応しいものだろう。──だがな、おれたちの船長は、ビッグマムだぞ? 大海賊が可愛く思える理不尽、だからこその“四皇”だッ!! まっ、見てりゃ理解できるさ。お前らにも良い勉強になるだろうぜ。海賊王と鎬を削ってた強者同士の衝突なんて、今の時代は滅多に拝めるもんじゃねえからな」

 

 

 ♢♦︎♢

 

 

 時間感覚が引き延ばされる程の、極限の集中。

 

 身体の隅々まで、筋肉と神経を意識する。

 細胞の一片に至るまで、支配下に置く。

 

 

 フッ、と呼吸を整える

 

 

 瞬時に全身を脱力し

 

 

 重力に従って倒れ

 

 

 地面とぶつかる直前に

 

 

 

 

 ──バゴンッッ!!

 

 

 

 

 全力で、大地を踏み砕いた。

 

 

 『脱力を極めれば極めるほどに、力(りき)みの爆発力が増していく』

 

 『純粋な膂力で劣る者こそ、工夫が大切なのよ』

 

 『生涯無敗の英雄伝説、先祖から伝わる奥義こそが──』

 

 

 

「神を貫く英雄の槍(グングニル)ッッ!」

 

 

 

 アンナの奥義が、リンリンの大技と真っ向から衝突し

 

 

 

 僅かな拮抗の後、威(・)国(・)を(・)貫(・)い(・)た(・)。

 

 

 ♢♦︎♢

 

 

 アンナの繰り出した一撃は、音速を可能にする強烈な踏み込みと極限の肉体操作が掛け合わさり、音の壁を易々と突き抜ける。

 

 荒々しい竜巻を伴う一撃は、轟音と共に直線上の全てを破壊し食い破る人為的な災害だ。

 ビッグマムの癇癪で壊れた建物より、アンナの移動による衝撃波で壊れた建物の方が多いだろう。

 

 それは威国と真っ向から衝突し、空(・)を(・)乱(・)し(・)た(・)。

 

 一点突破で威国を貫通し、そのままリンリンの胴体を狙い進む。

 

 しかしながら、相手は四皇ビッグマム。

 

 癇癪中で理性が蒸発していようが、60年以上も積み重ねた濃密な経験と技術は身体に染み付いている。彼女はナポレオンの刀身を、アンナの突きの軌道上に置き、衝撃を斜めに受け止めると、容易く受け流してみせたのだ。

 一連の動きは殆ど無意識の反射である。

 何度もこの技を見聞きし、受け続けた彼女からすれば、自分の攻撃と衝突して勢いの衰えた一撃など、対処に苦労する筈がない。

 建物群が倒壊するほどの竜巻? そんなもの、リンリンにとっては涼しい向かい風に過ぎない。

 

 ビッグマムは怪物的な身体能力や悪魔の実に注目が集まりやすいが、剣士としても剣豪に数えられる技量を持つ。たとえ標準的な身体能力で生まれ落ちたとしても、間違いなく新世界の強者に数えられていたであろう傑物なのだ。

 もっとも、現実には身体と技術が高次元で組み合わさったからこそ、彼女が何十年間も『世界最強の女海賊』として君臨し続けているのだが。

 

 奥義を流されて明日の方向に吹っ飛ばされたアンナもまた、特に動揺することなく月歩で宙を跳びながら体勢を立て直し、愛槍を構える。

 

 彼女は肺を新鮮な空気で膨らませると、大音声でビッグマムを挑発する。

 

「お菓子なんか知るかこのバ〜〜カ!! あと最初に殴ったのは私じゃなくてカタクリだっつーの!!!」

 

「な〜〜〜ん〜〜だ〜とォ! てめェアンナ、お菓子を勝手に食っただけじゃ飽き足らず、おれの息子に罪を被せんのかィ!? いくらあんたでも許さないよッ!! 死ねェえええ!!!」

 

 怒ったビッグマムの振るうナポレオンの軌道は、より単調になる。代わりに武装色の覇気が強まったが、当たらなければ問題にならない。

 アンナは寧ろ、避け易くなるからもっと怒って欲しいくらいだと考えている。

 

「今回は私こそ被害者だろうがボケェ!!」

 

 ……やっぱり違うかもしれない。ただ怒りのままに真実を訴えているだけの可能性もある。

 アンナの真意は不明だが、両者は子供じみた口喧嘩をしながら得物をぶつけ合う。

 

 

 ──5分、10分、20分……40分。

 

 

 両者の戦場となった街は、メルヘンチックで甘い匂いの充満するお菓子の世界から、ポストアポカリプスじみた荒廃世界に様変わりしていた。二人が衝突するたびに衝撃波で周囲の建物が倒壊していく。

 

 余裕のあるリンリンとは反対に、アンナは苦々しい顔を隠そうともしない。

 純粋な膂力と武装色の格差は致命的であり、アンナの攻撃は100発命中させても有効打にならない。対して、リンリンの攻撃は1発でも受け損なえば戦いの趨勢が決する理不尽の権化である。

 

 そもそも、リンリンの攻撃を馬鹿正直に受け止めたら、アンナは踏ん張ることも出来ずに遥か彼方へと飛ばされてしまう。パワーの差を埋めて拮抗に持ち込んでいるのは、やはり見聞色と身体操作技術なのである。

 迫る暴力の流れを完全に読み切り、それに逆らわず方向をズラす為に自分の力を上乗せする。すると自分に掛かる負担は激減し、アンナのパワーでも受け止められるようになる。さらに、受け止めた衝撃の一部を利用して反撃を繰り出し、相手に痛撃を与える。

 

 以上が、アンナが強敵と戦う際の基本戦法なのだ。以前に黄猿にも使ったカウンター攻撃だが、あのときは武装色で見事に止められた。

 

 ではビッグマムはどうなのか?

 答えは、覇気を使うまでもなく素の肉体硬度のみで完全に耐えるのである。痛みなど微塵もなく、あるのは僅かな痒みだけ。どれだけ繰り返しても「ママママ、ちょっと痒いねェ」で終わりだ。

 

「ハァ〜〜。これでも弱くなってるのよねぇ」

 

 アンナは一旦距離を取り、僅かに乱れた息を整える。万国を謳歌していた当初のお洒落姿など悲惨なものだ。縛った銀髪は乱れ、化粧も崩れ、褐色の肌には生々しい裂傷や打撲だらけで、血が滲んで痛々しい。この程度の怪我で済んでいるのは、アンナの技量ゆえである。

 対するビッグマムは、肘と膝など同じ箇所に集中して反撃を貰い続け、微かな打撲痕が出来ている。それがアンナの努力の成果だ。到底見合わない。

 

 最初に使った奥義ならば、直撃さえすればリンリンが武装色を纏っていてもダメージを与えられるのだろう。だが残念なことに、四皇がそんな隙を与えてくれる筈がない。“溜め”が必要な一撃は易々と使わせて貰えないし、使えたとしても技をぶつけて威力を減衰させてくる。

 「とりあえず受けてみる」カイドウならば使わせてくれるかもしれないが、彼は一度戦い始めると情緒不安定な上にしつこさが尋常じゃない。アンナはカイドウが苦手だった。「あいつドMじゃね?」と本気で思っている。

 ビッグマムに話を戻すが、流桜で内部破壊を狙うにしても武装色が苦手なアンナには溜めが必要だ。そもそもアンナ程度の流桜では、リンリンに擦り傷を付けるのも困難だろう。使い物にならない。

 

 だからカウンターでの有効打を狙っていたのだ。

 

 だがそれも、時間切れらしいとアンナは悟る。

 距離を取って呼吸を整えたのは、好ましくない未来を視てしまったからだ。

 

「ママママ、一息入れんのかい? 気が合うねェ……おれも身体が暖まってきた所なんだ。んじゃあ、そろそろ」

 

 感情のままに仕掛けていたリンリンは、本気を出していなかった。癇癪から微かに意識が覚醒しており、いわば夢の中にいる状態だったのだ。

 それが、夢現の状態でアンナと戦い続けた事で、意識が呼び起こされてしまったようだ。

 

 

「──本気で行くぜ、アンナ?」

 

 

 理性と狂気の両立。

 食いわずらいの衝動に根っこの部分を支配されている自覚なく、理性的に暴力を振り翳せる状態。

 

「ゼウス。プロメテウス。ア(・)イ(・)オ(・)ロ(・)ス(・)。エ(・)ル(・)ー(・)ザ(・)。サボって観戦してないでお前らも手伝いなッ! おれとナポレオンだけじゃ、アンナを捕まえきれねェからよ!!」

 

 雷雲のゼウス。

 太陽のプロメテウス。

 二帽子のナポレオン。

 

 シャーロット・リンリンの魂が与えられた3体のホーミーズは、ビッグマムの標準装備と言っても過言ではない。

 

 暴風のアイオロス。

 氷雪のエルーザ。

 

 対して、同じくリンリンの魂が与えられたこの2体は、若い頃のビッグマムがア(・)ン(・)ナ(・)を(・)追(・)い(・)、(・)捕(・)ま(・)え(・)る(・)た(・)め(・)に生み出した。特殊な経緯を持つホーミーズなのだ。「対アンナ用ホーミーズ」と表現するのが妥当だろうか。

 

「なぁゼウス、ママ正気に戻ったのか?」

「違うんじゃない? アンナが相手だから楽しくなっちゃっただけさ。お菓子も諦めてないね」

「儂、アンナと戦うのは嫌なんじゃが」

「わたしも〜。面倒くさいからやだな〜」

 

「おいっ! お前らも早く来いよ! おれ一人だけでずっと頑張ってたんだぞ!?」

 

「ママママ……ナポレオンの言う通りさ! おめェらもさっさと仕事しな。さァ、『鬼ごっこ』の時間だよッッ!!」

 

 念のため補足しておこう。

 アンナが戦闘に乗り気だったのは、癇癪中で万全ではないリンリンが相手だからである。

 そうでなければ街の被害も全て無視して全力で逃げていた。カフェよりも自分の命を優先する。

 

 

 つまり、今のアンナの心境を表すとこうなる。

 

 

「うわもう無理やっぱ逃げるわまたねリンリン」

 

 

 逃げ足だけは海賊王級なのだ。この女は。

 

 





・アンナ
→ロリコンでもショタコンでもペドフィリアでもない。
 ただ幼い子をみると母性が刺激されるだけ。ただの本能です。
 ルーキー時代のリンリン(&シュトロイゼン)とは、5年間一緒に生活してた。
 原作崩壊の特大ガバムーブ。

 アンナ「リンリンは私が育てた!!!」
 政府&海軍「絶許」

 神を貫く英雄の槍(グングニル)……エルバフにも同名の技があるらしい

・カタクリ
→デスソースドーナツの恨みは忘れてない。
 尻狩り乙女のせいで原作より数段強くなってしまった。
 全力の大技はビッグマムにもダメージが入るらしい。

 カタクリの原作設定を洗い出してたら強過ぎて笑った。
 なんで当時のルフィが勝てたのか未だに理解できない。
 強すぎるんだよな、カタクリおじさん。


・ペロスペロー
→デスソースキャンディの恨みは忘れてない。
 「隠れんぼ」がトラウマになってる。


・ビッグマム
→原作より強化されちゃった最強のババア。

 「ビッグマムなら魔改造しても『だってビッグマムだから』という理由で許されそう」と考えた産物。作者は強いBBAキャラが好き。
 2話目の投稿がクソほど遅くなったのは、書いてるうちに新しい設定が生えまくってビッグマム関連の設定を丁寧に洗い出してたから。死ぬほど疲れた。

 今回は、アイオロスとエルーザというホーミーズを生み出していたと判明した。

 『暴風のアイオロス』……デバフ&サポート要員の爺ちゃん。
 竜巻の檻を作ってリンリンとのタイマンを強制したり、周囲の酸素濃度を薄めたり、圧縮した空気の塊を撃ち出したりする。
 「アンナの作り出した竜巻にリンリンがソウルを与えて生み出した」ので、実質アンナとリンリンの息子(?)。

 『氷雪のエルーザ』……某雪の女王を参考にさせていただいた。
 海を凍らせたり、氷人形を作ったり、気温を下げまくって体力を奪ったり動きを鈍らせたりする。ヒエヒエの実より規模は小さいが、反則的。

 リンリンとビッグマム海賊団に関する原作崩壊ガバは全部アンナのせいにして良いと思う。


・シュトロイゼン
→リンリンを海賊の道に引き込んだばかりにアンナに目を付けられた不幸な男。身軽な動きをアンナに気に入られた模様。
 とっくに現役を引退しているものの、実力的には将星クラスを維持している。老年の今でもクラッカーのビスケット兵を斬れる。
 作者は強いジジイが好き。
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