炭治郎はツバキと共にアカリの案内の元、談話室に向かっていた。廊下では色んな機械妖精や機械精霊たちが忙しなく走り回っていた。その中には遠目で炭治郎たちを覗いているものや炭治郎の背負っている木箱に興味深く見つめているものもいた。
そんな光景を横目にしながら、一行は談話室に辿り着くと、ツバキが扉を開ける。すると、そこには──。
「よ、よう、ゼエ、炭治郎・・・ここでお世話になるって・・・ルティアさんから聞いたぜ・・・ゼエ」
疲れ切ってソファーにもたれている翔太郎とフィリップの姿があった。どうやらフェアリー達相手に体力をほとんど使い切ったようだ。翔太郎たち以外にも
「どうだフィリップ?少しは俺たちの気持ちが分かったか?」
「そうだね・・・あの子たちの相手をするのは・・・これほど大変だとは・・・」
「ちょっと!兄さん!!えっと大丈夫ですか?フィリップさん。」
金髪の髪を三つ編みにし赤いコートを纏った少年がフィリップに話しかけ、動く甲冑が金髪の少年を兄と呼び、たしなめていた。その隣に
「あ!姉さん、それにツバキさんと炭治郎さんも!」
佐城マリナとスプリガンがいた。スプリガンに肩車している見慣れない機械妖精がおり、その機械妖精は炭治郎たちの方を向くと
「うわ~本当に竈門炭治郎だ!マジモンの竈門炭治郎だ!!」
「イリス、炭治郎ニ対シテ失礼ダ。」
スプリガンがその機械妖精を窘める。だが、当の本人は気にした様子もなく、スプリガンから飛び降り 炭治郎に近づいてくると、手を差し出してきた。
「私は機械妖精”ハイ・フェアリー”のイリスだよ、よろしくね。」
炭治郎はその手を握り返すと イリスと名乗った機械妖精は嬉しそうに笑いながら握手をしていた。他のフェアリー達より大きくマリナと同じくらいの背の高さ、背中の羽もフェアリー達のようなトンボに似た羽ではなく、蝶のような羽であった。
「そんでもって、あっちの金髪がエドワード・エルリックでおっきい鎧の方が弟のアルフォンス・エルリックだよ」
イリスは二人の紹介を終えると再び炭治郎の手を握ってきた。そしてそのまま炭治郎を引っ張ると 二人の元に連れてきた。
「エド!ここでお世話になる竈門炭治郎だよ。ほら、炭治郎も挨拶しなよ。」
「初めまして、俺は竈門炭治郎です。よろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。俺の名前はエドワード・エルリックだ。こっちは弟のアルフォンスだ。」
「僕の名前も覚えておいてくださいね。」
お互いに自己紹介をしているとエドの頭の上にフェアリー達が集まってきた。
「あ、えどがせんぱいかぜふかしてる!」
「ほんとだ、ちっちゃいのに!!」
「背も器もちっちゃいのにね~」
フェアリー達の言葉にエドは怒りの形相をあげ
「誰が!!マイクロチビだ!!コラ~~!?」
「「「きゃあ~~えどがおこった~~♪」」」
フェアリー達との追いかけっこが始まった。それを見ていたマリナはため息をつくと、炭治郎に声をかけてきた。
「毎回こんな感じなんです。エドさんは背の事について気にしていますし、フェアリー達もそれをだしにして構ってもらっていますし・・・」
「まあまあ、元気があっていいじゃないか。それにしてもここは随分賑やかなんだね。」
「はい、ここなら炭治郎さんもすぐに馴染めますよ。」
そんな会話をしているとふとアルフォンスと目が合った。アルフォンスは軽く会釈をすると兄を止めるため動きだす。
「炭治郎さん?アルフォンスさんがどうかしましたか?」
「あ、いや、ちょっとね・・・」
マリナの問いに炭治郎が言葉を濁していると後ろが来たスプリガンに
「アルフォンス、人間ノ匂イ、シナイカラカ?」
と質問していた。それを聞いたマリナ達は驚いた表情をする。
しかし、炭治郎はすぐに事情を説明すると、納得したように首を縦に振っていた。
「なんと説明すればいいのかな・・・ん?炭治郎さん、人間の匂いはしないけど猫の匂いはしたんですか?」
「はい、少しだけですけど。」
炭治郎が答えると、マリナはアルフォンスの方を向く。当のアルフォンスたちは、
「いいかアル、そこを動くなよ。」
「に、兄さん!ちょっとは落ち着いて・・・」
なぜか、エドがアルを取り押さえようとしていた。どうやらアルの鎧の中にフェアリー達が逃げ込んだようだ。
「アルフォンスさん、すこしいいですか?」
「え?ど、どうしたの?マリナ。」
エドたちの方に近づいたマリナは一言、
「後処理の際、また猫を拾ってきましたか?」
「・・・ナンノコトデショウカ?」
アルは顔を背けながら答えた。そして幾分かの沈黙が流れる。
にゃあ
沈黙を破るように猫の鳴き声がアルの鎧の中から聞こえた。その鳴き声を聞いたエドは
「アル!!お前また拾ってきたのか!?」
「仕方ないじゃないか!!具合悪そうだったし!!保護してもいいでしょ兄さん!!」
「駄目だ!!元の場所に戻してこい!!」
「兄さんの人でなし!!」
二人は口喧嘩を始めてしまった。そんなこと露知らずにアルの鎧に入っているフェアリー達は
「わあ~~ねこだ!かわいい!」
「ほんと!でもぐあいわるそう?」
「あ、これしってる、はすいだ。」
フェアリー達の言葉にエドたちの口喧嘩が止まる。それはつまり、アルの鎧に入っている猫はもうすぐ出産するという事だ。
「ど、どどど、どうしよう兄さん!?」
「待て待て!?落ち着けアル!?おい炭治郎なんか妙案出せ!!長男だろ!?」
そんなエドの無茶ぶりに炭治郎は
「長男だからってそんな妙案出ませんよ!?」
談話室はパニックに陥った。アカリはソファで項垂れているフィリップの肩を掴みながら、
「フィリップさん!!”地球の本棚”で検索を!?キーワードは”猫””出産””方法”で!!」
「い、いや、ちょっと待って・・・」
「おい!?お前はフィリップに何検索させようとしてるんだ!?」
そんなアカリに対して、翔太郎が止めに入り
「ツバキさん、猫の赤ちゃん何匹ぐらいいますか?」
「そうだね、4匹はいるね。」
マリナはツバキにそんなこと聞いていた。ツバキもツバキでアルの鎧を透視でもしているような発言をしていた。スプリガンはただ沈黙しイリスはその光景をにやにや見ているだけであった。
「つ、疲れたな・・・」
「はい・・・」
炭治郎とエドはソファに座って項垂れていた。猫の出産騒動であちこち走り回った結果である。
「まったく、さっさと私かアズサさんを呼べばよかったのよ。」
そんなエドたちの後ろで文句を言う少女、名はフレイヤ。ほぼ人間の見た目だが彼女も立派な機械精霊であり、異世界どうしを繋ぐ術を模索しているのもこの精霊である。
「悪かったよ、ウィ・・・フレイヤ。」
「あんたまた私を故郷の幼馴染と間違えたでしょ!!」
「仕方ないだろ!!そっくりどころが瓜二つじゃねえか!?」
そうこの機械精霊・フレイヤの見た目は髪の色以外エドの幼馴染、ウィンリィ・ロックベルと瓜二つであった。
そんな二人の口喧嘩をよそに炭治郎はアカリたちの方を向く。彼女たちは箱の中にいる猫たちを見つめていた。
「「「「子猫、可愛い」」」」
箱の中には母猫と4匹の生まれたばかり子猫がいた。そしてこの母猫を連れてきたアルは、
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサ・・・」
談話室の隅っこで膝を抱えて震えていた。どうやらアズサという人物に説教受けた後ずっとこんな状態である。
「ほらアルフォンス、もうアズサさんは怒ってないからこっち来なよ。猫可愛いわよ。」
「ウン・・・」
アカリに手招きされ、アルも彼女たちの方に向かう。そして箱の中を覗き込むと
「うわあ、可愛い・・・」
アルは鎧のため表情が分からない。だがその嬉しそうな声を聴いたマリナたちは思わず微笑んでいた。
「アルフォンス君、次こんな事があったら覚悟するように。」
「は、はい!?」
長い黒髪をポニーテールにまとめている女性、黒木アズサが女性としては低い声で言った。
その言葉を聞いたアルはビクッとなりながらも返事をする。そんなアルを見てクスリと笑いながら、 アズサはアルの頭を撫でた。
アルは少し驚きつつもされるがままになっている。
そうしているうちに談話室のドアが開き、タイタンがテーブルワゴンを押して入ってきた。ワゴンには大量のおにぎりやサンドイッチが積んであった。
「今回は趣向を変えてみた。さあみんな食べてくれ。」
そう言って彼はおにぎりの乗った皿を配り始めた。
今回の料理は、具が沢山入った塩むすびに鮭、昆布、梅干しが混ざったものなど色々ある。
早速炭治郎たちが手に取り食べる。その味は、
「おいしい!」
炭治郎は一口食べた瞬間笑顔になった。それは他の面々も同じようで皆頬を緩ませながら食べていた。
「お米の甘みがよく出てますね!美味しいです。」
「ありがとう。握った甲斐があるな。」
「え、これ全部タイタンさんが握ったんですか。」
「ああ、ここでの料理は基本私が調理している。」
炭治郎が驚いているとアカリが近づき
「炭治郎さん、こっちのサンドイッチもおいしいわよ。」
「ほんと?じゃあ貰おうかな?」
炭治郎はアカリに勧められて、サンドイッチを食べる。するとこちらもまたいい感じにパンに具材の旨味が染みて、とてもおいしかった。
「これもすごくおいしいですね。」
「でしょ、タイタンってすごいでしょ、戦いだけじゃなくて料理だって裁縫だって出来ちゃうのよ。」
「アカリ、君は少し料理の事を勉強した方がいいぞ。そのままだとマリナのほうが料理上手になるぞ。」
「・・・善処します。」
そんなことを話しながら食事を続ける炭治郎たち。そこに黒木アズサが炭治郎に近づいてきた。
「君が炭治郎君かい、私は黒木アズサ。ここで医者として働いている。よろしく頼むよ。」
「こちらこそお願いします。」
アズサは炭治郎と挨拶を交わすと禰豆子の入っている木箱に目をやる。
「そういえば君の妹は鬼だったな。」
「はい、そうですよ。」
アズサの言葉に特に気にすることなく答える炭治郎。
「私自身、鬼の、特に君の妹の体質について興味がある。問題がなければ採血させてもらえないか?」
「・・・どうする?禰豆子。」
炭治郎は箱の中の妹に声をかける。
『・・・』
しばらく沈黙した後、箱の中からカリカリと音が聞こえてきた。おそらく了承の意だろう。
「大丈夫だそうです。」
「そうか、ありがとう。それとここでお世話になる以上、必要以上に体を酷使するのは許さん。特に君は長男だからといって無理しなくていい。エド、これは君にも言えることだぞ。」
「はい・・・」
「分かりました。気を付けます。」
アズサの言葉に二人は素直に従う。アズサはそれを確認すると、再びおにぎりを食べ始める。
その後、談話室にルティアがほかの職員と共に訪れ、炭治郎に紹介していった。職員たちも炭治郎に好意的に接してくれた。そしてルティアや職員たちを交えて食事会となった。
「ふぅ・・・すごい一日だった。」
炭治郎は用意してもらった部屋で休んでいた。こういった洋装の部屋に泊まるのは慣れていないのかキョロキョロとしている。
だが、今日あった出来事を思い返すと、凄いことを体験していると実感していた。
(まさか別世界に来て、俺たちの戦いが空想扱いされて、ほかの別世界の人たちに出会って、それから・・・ツバキさんのあの剣術・・・)
炭治郎が考え事をしていると木箱が開き、禰豆子が出てきた。禰豆子が炭治郎のそばに寄ると
「ムー」
そう言って抱き着いた。その頭を優しく撫でながら炭治郎は呟く。
「そうだね、俺がしっかりしないとな。」
「ムー!」
元気よく返事をする妹を見て微笑む炭治郎であった。
コンコンとドアを叩く音が聞こえ炭治郎はドアを開けた。しかし誰もいない。下を見ると鴉のカンタロウがそこにいた。なぜか嘴にビー玉を咥えている。
「あれ?カンタロウ、なんでここに?」
炭治郎が疑問に感じているのも知らずに、カンタロウはスタスタと入ってくる。そしてビー玉を置くと鳴き声を上げた。どうやらカンタロウなりの歓迎のあいさつのようだ。
「あ、ありがとうな。」
炭治郎が礼を言うと満足げに鳴きながら出ていく。禰豆子はカンタロウの持ってきたビー玉を興味津々に転がしていた。
「あ、それあげるよ。」
「ム!」
禰豆子は嬉しそうに受け取ると大事にポケットに入れた。
禰豆子が木箱に戻るの確認した炭治郎は一旦部屋を出た。ツバキを探すためだ。しかしこの洋館、思っていたより広いせいか中々見つからない。すると、
「およ、あんた、タンジロさん?」
声を掛けられ振り向くとそこには機械でできたモグラのようなものが二足歩行で声を掛けてきたのである。
「おっと、挨拶が遅れました。あっしは機械精霊の”ノーム”言います。よろしゅうな。」
「あ、俺は竈門炭治郎と言います。よろしくお願いします。」
「おう、それで何してんの?」
「ああ、実は人を探していて・・・」
炭治郎は事情を話すと、
「ああ、ツバキさんならあっちのベランダで夜風にあたっておりましたよ。」
「そうですか、教えてくれてありがとうございます。」
「いえいえ、またなんか困ったことがあったら遠慮なく言ってくれや。」
「はい、その時はお願いします。」
そう言うと炭治郎はその場を去った。
炭治郎はノームに聞いた場所に行ってみるとツバキが浴衣姿で夜風にあたっていた。
「ツバキさん!」
「おや?炭治郎君、どうかしたのかい?」
炭治郎に呼ばれ、振り向くツバキ、そして
「ツバキさんにお聞きしたいことがあります。」
「何かな?私に答えられることなら答えられるけど。」
炭治郎は一息入れ、ツバキに問う。
「ヒノカミ神楽、または日の呼吸について知っていますか?」
ツバキが少し驚いた顔をし、炭治郎は答えを待つ。そもそも何故炭治郎がツバキにこの質問をしたかというと彼女が鬼の頸を刎ねた際に見せた技がヒノカミ神楽・円舞と同じ技だからであった。
「・・・よく知ってるよ、ヒノカミ神楽も日の呼吸の事も。」
ツバキの答えに炭治郎は驚く。
そしてツバキは続けて、
「この世界では炭治郎君は空想の存在だとしても、私にとっては君は・・・いや、貴方様は過去の偉人なんだ。」
そう語ると風が吹く、ツバキの前髪が揺れるとその額には炎を思わせる痣がそこには存在していた。
後処理担当になっているエルリック兄弟。主に錬金術で壊れた建物を修復しております。