僕っ娘Vtuberの話   作:Atlantis

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初配信

 心臓が、どきりと鳴った。

 

 体が震えて、思わず胸を手で押さえる。ドクンドクンと、鼓動が早まっていくのを感じる。

 

(……凄い、流れ)

 

 ありえないとは思うけど、でも……。僕は恐る恐る顔を上げて、再びパソコンの画面を見つめる。

 

(コメントの流れ、すごく早い……)

 

 リズムよく流れる視聴者からの反応に、僕の頭は真っ白になった。

 

(何これ?僕、どうしたらいいんだろう?)

 

 初配信なんだから、もっと人が少ないかと思っていた。でもこの盛り上がり方は異常だ。もしかしたら、これが普通なのかもしれないけれど、それでも多すぎる気がする。こんなにも大勢の人に見られてると思うと、途端に不安になってくる。

 

(……ううん、大丈夫! 落ち着け!!)

 

 僕は自分に言い聞かせるように心の中で呟く。そして深呼吸して気持ちを静めようとする。すると段々と落ち着いてきた。そこで改めて、視聴者さんたちのコメントに目を向ける。

 

 

コメント

 

・つい来てしまった……

・好奇心には勝てんよ

・俺は狐野妖香ちゃんを見に来たのになんだこれは……たまげたなあ

・背景が実写なのか。新しい……

・アニマリの実写勢か……

・↑アニマリは関係ないんだよなぁ

・バーチャルじゃねぇじゃねえか!

・↑これが最先端Vtuberだ

・何だこれは……

・きれいなお部屋ですね。

・整理整頓された実写部屋の右下に、巫女服を着た美少女……ミスマッチ感が半端ないぞぉ……

・俺たちは何を見せられているのだろうか……

・狐野妖香ちゃんの配信はこちらであってますか?

 

 

 このコメント達は何なのだろうか、僕にはさっぱり分からない。……でも一つだけ言えることがある。凄い、と。こんなにも多くの人たちが僕一人に対してコメントをしている。今までに、経験したことのない感じ。これが、多くの人とつながるってことか。

 

 ……って、まずい。今は配信者なんだから黙っちゃだめだ。場をつなげないと。

 

 

「皆さんこんにちは。今日からゲーム解説系Youtuberを始める者です。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 そう言って軽く会釈をする。するとコメント欄が盛り上がった。

 

コメント

・Youtuber?

・Vtuberじゃなくて?

・Vtuberだとしてもおかしいんだよなぁ。背景実写だし。

・本人はYoutuberのつもりかもしれないだろ!

・↑それはさすがにない

・↑さすがに言い間違いだろ

・名前はなんていうの?

・狐野妖香(偽)でいいだろ

・↑それはやりすぎ

・↑いや、実際の偽物なんだから妥当じゃん

・↑まだ偽物かどうかは決まってないだろ

・what is your name?

・英語下手クソで草

・↑草生えるわ

・↑外国人さんかな?

・↑どう考えても使い慣れてない英語を使っている日本人、なんだよな

・きちんと英語の勉強をしようと決意した僕であった……

・主の部屋の本棚に英語の教科書沢山あってワロタ。英語系Vtuberかな?

 

 

 

 コメントによると、僕は狐野妖香さんという方の偽物らしい。……なんでそんな扱いされなきゃいけないの? 僕は誰かの名前を偽ったりなんかしていないのに。

 

 反論したいところだったが、止めることにした。親切な人が、簡単な英語で嫌な雰囲気を変えてくれた。ここで偽物じゃないと訴えて雰囲気を悪くしてしまったら、親切な人の厚意を踏みにじってしまう事になる。ここは、何事もなかったように話を進めなくちゃ。そう考えている間にも、コメントは流れ続けていく。

 

 

コメント

・名前教えてー!

・My Name Is Makihara. I'm waiting for you to know my name.

・↑何語?

・↑間違いなんだよな

・Makihara?マキハラ?マキタ?どれ?

・↑マキタどっから出てきたし

・↑ローマ字くらい読めろよ

・↑うるせぇ

・↑草ァ!!!

・↑お前ら仲良過ぎ

・↑仲良いとかそういうレベルじゃない気がする

 

 

 さっき僕を助けてくれた人は、マキハラさんって言うんだ。場の雰囲気を暖かくしてくれる、素敵な人だな。英語が下手くそなとこが玉に瑕だけれど。……って感動してちゃダメだ。Youtuberなんだから、何もしないで黙ってるなんて最悪だ。視聴者を退屈させてしまう。さっさと話しを進めないと。

 

 

「マキハラさん、英語の勉強を頑張ってくださいね。……っと、そうです。僕の名前です。みんなと一緒に話し合って決めたかったから、あえて付けなかったのです。……今から、僕の名前を募集します」

 

 僕は、みんなから名前を求める。一緒に名前を決めたほうが、視聴者との繋がりを強く感じられると思ったからだ。

 

コメント

・えっ、まじ!?︎

・マジか、俺たちで決められてしまうのか……

・アニマリ始まったな

・↑アニマリに実写で配信する人はいません

・↑正直あいつらならやりそうだけどな

・↑一期の奴らか。確かに、あいつらならこの実写配信に便乗した動画を出すかも

・それにしても、名前かぁ。

・急に言われても出てこないよね……

・しかたない、俺が考えてやるよ

・↑やるのか……

 

 

 

 

 僕の思惑通り、視聴者たちはワイワイと騒ぎ始める。そんな様子を眺めながら、僕は少し微笑んだ。

 

(よかった……。これなら大丈夫かも)

 

 初配信なのにこんなに人が来てくれて、しかもみんな楽しんでくれて。だからきっと上手くいくはずだ。根拠はないけれど、不思議と信じられる。

 

 

「それでは、僕の名前案をお願いします!」

 

 

コメント

 

・マキハラ

・マキハラ

・マキタ

・マキちゃん

・マキーバ

・マキちゃん

・まきたん

・まきたん

・マッキー

・マッキー

・まーくん

・真城

・マシロ

・マキママ

・ママー

・まこっちゃん

・まこと

・マキちゃん

 

 

「……皆さん素敵な名前をありがとうございます。それでは、多数決で決めますね。僕が気に入った『マキちゃん』『まきたん』『マッキー』『マシロ』『マキ―バ』の中から気に入った名前をコメントしてください。一番最初に3回コメントされたのが僕の名前になります」

 

 よかった。みんな、色々と名前候補を出してくれて。本当に嬉しいな。……でも、みんなマキハラさんに影響受けすぎじゃないかな。名前候補の頭文字が全て『ま』になってる。まあ別にいいけど。

 

 

 

コメント

・まきちゃん

・まきたんです

・まきたん

・しんせいなまき

・まきちゃん

・まきちゃん

 

 

 

「……なんか違うのが混じってるけれど、まあいいでしょう。『まきちゃん』が一番初めに三回コメントされました! それでは、僕は今日からまきチャンネルとして頑張っていきたいと思います」

 

 

 

 

コメント

・あれ、この人狐野妖香ちゃんとは別人なの?

・↑いまさらかよ……

・↑情弱乙

・名前が決まってしまった……

・成し遂げたぜ……

・↑お前だけの力じゃないんだよなぁ

 

 

 

 こうして、僕の動画配信者としての名称が決まった。正直言うと普通の女の子っぽい名前はどうかと思うけど、皆んなが喜んでくれるからいいかな? それにしても、このチャンネルの登録者数、いつの間にか300人を超えてるんだけど……どうなってるの?  困惑していると、また新しいコメントが来た。

 

 

コメント

・妖香ちゃん、素敵な声だね

・さすがアニマリ2期生。参加者1000人を超えるオーディションから選ばれただけのことはある。

・↑残念ながら、アニマリは関係ないし、妖香ちゃんでもない

・……なんか、良い声じゃない?

・可愛い声で癒されるかも

・声的に悪い人じゃなさそう

・もしかしたら本当に妖香ちゃんとは無関係なんじゃないかな

 

 

 

 

「皆さん、ありがとうございます。この声はですね、ある人に憧れてひそかに練習していた物なんですよ。大型Youtuberの、月丘撫子さん。ゆったりとした声で、とても聞き取りやすくて。憧れちゃいます。」

 

 狐野妖香さんの事は気になるけれど、今は僕の配信の方が大事だ。月丘撫子さんについて軽く紹介しなければ。そう思い僕は彼女の動画を表示させて、画面をみんなに見せるようにしてコメント欄にURLを打ち込んだ。

 

「月丘撫子さんは僕が最も大好きなYoutuberです。彼女が僕の目指すところであり、憧れでもあります。彼女のようになるのが僕の目標です」

 

 

コメント

 

・憧れの人はVtuberではなくYoutuberの人かぁ

・Vtuberなのに、Youtuberに憧れて配信者に? 

・基本VはVに憧れてなるものだろ

・まきちゃんは例外だから……

・憧れの人かぁ

・アニマリの先輩ではないようだな。

・↑奴らに憧れちゃだめだと思うんですが……

・↑だからアニマリは関係ないだろwww

・でもさ、マキちゃんの声の方が可愛くない?俺は好きだな

・↑同意

・↑同感

・↑禿げろ

・↑お前がな

・↑お前がな

 

 

「あ、あはは……。そうですか。まあ、褒められるのはとても嬉しいです。……っと、そろそろ次に進まなければなりません。早速ゲームの紹介をしていきたいと思います」

 

 みんなには、ゲームの紹介を通して僕の存在を認知してもらわなければならない。好きなものを紹介するときこそ、人は輝くのだから。

 

 

コメント

・その前に、まきちゃんのことについて教えて

・自己紹介まだだったよね

・そういえばそうだな……

・部屋がきれいだから、掃除好きなのかな?

・↑いや、配信前に掃除しただけだろ

・つまり、普段は汚部屋の可能性が微レ存?

・↑部屋が汚くても料理が上手な可能性があるだろ

・メシウマ美少女は最高

・メシマズでも可愛ければいいだろ

・自己紹介お願い!

 

 

 

 

 

「僕の部屋はいつもきれいですよ。勘違いしないでくださいね。料理も上手ですから」

 

 視聴者たちは一斉にいろいろなことを言ってくる。中には自己紹介を希望する人たちもいる。……このままゲーム紹介するのもあれだよね。仕方がない、ちょっとだけ答えてあげよう。

 

 

「僕は十五歳の高校生です。Youtuberとゲームが好きなので、それらを通して皆さんとつながっていけたら良いかなと思っています」

 

 

 

コメント

 

・15歳!?

・若っ

・学生かよ!

・本当かどうかは分からないぞ?

・社会人説も捨てきれないな

・ゲーム好きのJKとか……最高!

・俺の嫁にして一生愛し合いたい

・↑通報しました

・↑落ち着け変態ども

・妙だな。VtuberじゃなくてYoutuberが好きだなんて

 

 

 

 

 

 ……何か変なこと書いてくる人がいるんですけど。年齢は言わない方がよかったかな。正直、変態コメントを見るだけで目が疲れてくる。慣れないといけないんだろうね、きっと。

 

 

コメント

 

・ゲーム好きJKか。狐野妖香ちゃんの動画を見ようとしていたが思わぬ掘り出し物を見つけたぜ

・期待してみてもいいかも……

・期待半分困惑半分。どうなるかが気になる

・わくわく

・アニマリのゲーマー枠が決まったな

・↑だから、まきちゃんはアニマリじゃないって

 

 

 でも、ちゃんと応援してくれる人たちもいる。やっぱり、こうやって応援してもらうとやる気が出るよね! 何だか視聴者とのつながりを強く感じるよ。……今が聞きたいことを聞くいいチャンスかも。思い切って聞いてしまおうか。

 

 

「皆さん、応援ありがとうございます! ……ところで、アニマリって何ですか? あと、狐野妖香さんについても良く分かりません。さっきからコメントで何度か出てきますが」

 

 

 

 ずっと前から出て来ていたよくわからない言葉を尋ねる。すると、コメント欄が少し慌ただしくなる。どうしたんだろうか?

 

 

コメント

 

・知らないのか……

・animal relationshipのことだよ

・有名なVtuberの会社じゃけん、知らんのかいワレェ!!!

・簡単に言うならVtuberの会社です。本社所在地は新宿ですが、様々な企業コラボも盛んです。

・↑詳しい説明サンクス

・企業系Vtuberと言ったらアニマリだよな

・狐野妖香さんはアニマリ所属のライバーだね

・今日最初の動画をアップするはずだったんだけれど……

・今、狐野妖香ちゃんと連絡がつかない状態なんだよね

 

 

 

 

 へぇ、そんなものがあるなんて知らなかったぁ。……でも、どうして僕の動画でその会社とその所属メンバーの話題が出てくるのかな? 僕はその企業に入ってないはずなんだけれど。というか、Vtuberの会社? さっきからみんなVtuberとか言ってるけれど、youtuberの打ち間違いかな? ……まあいいや。

 

 不思議に思いながらしばらく見つめているとコメントが増えてきた。

 

 

 

 

コメント

 

・まさか本当に知らずに見てるとは思わなかった

・いやでもこれはマジで可愛いし……ありではあるよな

・ボーイッシュな見た目で僕っ子なのが可愛い

・まきちゃん男の娘説

・性別どっちなんだ? 男の子である可能性が微レ存

・でも、実際問題、マキちゃんって僕っ子なんだよな

・何がともかく、まきちゃんは可愛いくてかっこいい

・↑わかる。声だってすごい綺麗だもんな

・男の娘期待

 

 

 

 なんか色々言われてるなぁ。僕は男の娘じゃなくて、れっきとした女の子なんだけれど。確かに僕は自分の事を『僕』って言っているけれど、それだけで男の娘扱いは頂けない。

 

「あの、一応言っておきますが、僕は女の子ですよ。誰がなんと言おうとも、です!」

 

 これだけは何としてでも伝えておかないと。ここで勘違いされて後から面倒な事になるのだけは避けなければならない。

 

 

コメント

・そうなのか……

・……まあ、そうだよね……

・うん、分かってた(涙)

・別に嘘だと決めつけてるわけでもないんだけどな……

・それでも、俺は……

 

 

「あ、もうこの話終わりにしましょう。……次行かないと、尺もなくなっちゃいます」

 

 これ以上触れても話は進まないと判断したため、強制的に打ち切る。これで、僕の性別については視聴者たちにも伝わっただろう。……後は、僕自身の頑張り次第だ。一呼吸置いて心を落ち着かせる。よし、準備完了だ。

 

「それでは僕の一押しのゲームを紹介しますね。タイトルは……『うわぁぁぁっ、寝坊したぁぁぁぁぁ!!!!!』……あれ?」

 

 

 

 僕がゲームの名前を伝えようとしたところ、妹の叫び声によって遮られてしまった。……僕の妹はすぐに叫ぶような子ではないはずだし、何かあったのかもしれないね。心配になった僕はそのまま配信を切ることにした。

 

 

「すみません皆様。僕の家族がピンチのようなので、ちょっと助けに行くことにします。ゲーム紹介は次回という事で。それでは皆様ありがとうございました」

 

 

コメント

・え、ちょ

・待ってマキちゃん!!

・何かトラブル発生か!?

・おい、大丈夫かよ!

・続き早くぅ!!

 

 

 

 急展開にも関わらず、たくさんの人が見守ってくれていたみたいで申し訳なくなる。とりあえず一言謝罪をしてから、最後にもう一度お礼だけ言い残してその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

コメント

・緊急事態発生

・寝坊で配信中断?

・寝坊中断か。これは新しいトレンドになるぞ

・これから寝坊で中断するVは現れないんだよなぁ

・俺らは何を見せられたんだ……

・狐野妖香ちゃんが配信時間に間に合わなかったのは寝坊が原因なのでは?

・↑天才過ぎる

・↑なるほど!

・狐野妖香ちゃん寝坊説が濃厚になってきたな ふむ。

・ちょっと待てよ、という事はつまり……

・↑真実にたどり着いたようだな

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