僕っ娘Vtuberの話   作:Atlantis

8 / 23
まきちゃんの日常と

 Vtuberが何かを視聴者さんたちに聞いたら、なんだか変な雰囲気になってしまった。……もしかしたらVtuberは一般常識の言葉なのかもしれない。そんな不安がよぎった。……ちょっと、妹の雪菜に聞いてみよう。

 

 雪菜はアウトドア派の人間で、よく他の子たちと外で遊んでいて家にいることが少ない。その為おそらくネット文化に疎く、一般的な言葉については詳しいはずだ。もし、そんな彼女がVtuberを知っていたのならそれはネット文化だけで通用する言葉ではなく、一般的に使われる言葉だという事だ。

 

 僕はハーブティーを準備してから、雪菜の部屋のドアを軽くノックした。すると、「はーい」という声と共に部屋の中からドタバタと音が聞こえた。そして数秒後、扉が開かれ、僕の妹である雪菜が姿を現す。

 

「お姉ちゃん、どうかしたの?」

 

 彼女は少し眠そうな目を擦りながら僕の方を見つめてきた。

 

「なんだか最近疲れ気味のようだからね。良かったら、これ飲んでよ」

 

 僕は彼女にハーブティーが入ったカップを手渡す。

 

「ありがとう。ちょうど喉が渇いていたところなんだよ。でも、どうしてこんな事を?」

「……ちょっと、聞きたいことが」

「ん? なになに?」

 

 雪菜は不思議そうな表情を浮かべながら、ハーブティーを飲み干す。そして、興味津々といった様子でこちらの話を聞いてくる。

 

「あのさ、Vtuberって、知ってる?」

「……えっ!?」

 

 僕の質問を聞いた瞬間、彼女の目が見開かれた。

 

「う、うん。知っているけど……」

 

 雪菜は明らかに動揺しながら答える。……ネットに疎そうな雪菜でも知ってるってことは、やっぱりVtuberは狭い範囲で使われているネット用語ではなく、一般的に使われている言葉ってことじゃん……。僕は頭を抱えたくなる気持ちを抑えつつ、話を続ける。

 

「そっか。じゃあ僕にVtuberのことについて教えてくれないかな?」

「えっと……それは、その……」

 

 雪菜は明らかに困惑して冷静さを失っていたので、僕は彼女にハーブティーのおかわりを注いであげる。すると、彼女はそれを口にして冷静さを取り戻した。

 

「あっ! 別に嫌だったら話さなくていいんだよ」

「べ、別にそういう訳じゃないんだけど……分かった。教えるよ」

 

 雪菜が、Vtuberについて詳しく説明してくれる。そして、僕はそれを頭の中でまとめる。

 

 要するに、Vtuberとはイラストを使って配信するYoutuberの事のようだ。……それって僕じゃん。そりゃみんなに突っ込まれるわけだよ。

 

 僕は恥ずかしくなり、顔が熱を帯びるのを感じた。

 

「あ、あれ? なんかお姉ちゃんの顔が赤いような気が……」

「き、気のせいだよ。それより、ありがとう。おかげでスッキリしたよ」

 

 これ以上追及されたら困るので、話を打ち切りハーブティのセットをもって雪菜の部屋から退出する。……どうしよう、これから僕はYoutuberではなくVtuberを名乗るべきなのかなぁ。

 

 僕は、自分の部屋のベッドに飛び込み色々と考える。……というかそもそも、なんでVtuberとYoutuberを分ける必要があるんだろう。どっちも自分の好きなものを紹介して視聴者さんたちと気持ちを分かち合うという点では同じだと思うんだけどな。

 

 ……でもまあ、別れている以上は気にしていてもしょうがないか。それに、Vtuberってなんだか響きがカッコイイよね。……よし、決めた! 今度からはVtuberとして配信をすることにしよう。どうせ、YoutuberもVtuberも本質的には同じなのだから。Vtuberを名乗ったって、いいよね!

 

 

 早速僕はSNSのプロフィールを変更する。そして、『Vtuberと名乗ることにしました』と呟いた。

 

「ふぅ……」

 

 一息ついたところで、自分に届いた一通のメッセージを確認する。時々まきチャンネルのアカウントに届くのだ。たいていは応援のメッセージなので読んで元気をもらっている。

 

 しかし、今回届いたのは応援メッセージではなく、質問であった。応援メッセージの次に多いのが僕に対する質問なのである。……だけど、今回の質問に、僕はちょっと困惑してしまった。

 

《まきちゃんはマシュマロ食べないんですか?》

 

 ……どうやら、この人は僕がマシュマロを食べるかどうかを確認したいらしい。マニアックな質問をする人もいるんだなと思いながら、僕は素直に質問に答えていく

 

《マシュマロ良いですよね。甘くてふわふわで、とっても美味しいです。……でも、最近は食べてませんね。僕の家ではマシュマロを買う習慣もないですし。マシュマロの他にも、キャラメルとか金平糖とかも食べる機会が少ないんですよね、美味しいのに》

 

 僕は、少し悩みながらも正直に答える。すると、すぐに返信が届いた。

 

《そうなんですか。……あの、私は甘いお菓子が好きなので、まきちゃんがどんなお菓子を食べてるのか知りたくて。私はマシュマロが大好きだから、まきちゃんもマシュマロ好きだったらいいなって思ったんです》

 

 その文面を見て、僕は微笑む。この質問を送ってきてくれた人は可愛らしい人だなと思い、心がほっこりと温かくなった。そこで、僕はさらなる返信をすることにした。

 

《マシュマロの話を聞いていたら、食べたくなってしまいました。今度スーパーに行くときはマシュマロを探してみることにします。美味しいものとのめぐり逢いの機会をくれて、ありがとうございます》

《嬉しいのは、私の方。大好きなまきちゃんが私の大好きなお菓子を…………って、ちがぁぁうっ! マシュマロ、食べるほう、違う。マシュマロ、読むほう、正しい。……マシュマロは、いわば質問箱。SNSでマシュマロのサービスを使う事によって、まきちゃんに関する質問を集めることが出来るの。動画のネタにもなるし、視聴者とのつながりを作る事にもつながるから試してみてね》

 

 ……盛大なツッコミと共に、マシュマロについての解説が送られてきた。……えっ、もしかして僕、SNSのサービスを食べ物と勘違いしていた? やばい、恥ずかしい。顔が熱くなり、僕は頬に手を当てた。

 

 恥ずかしさを感じながらも、情報を送ってきてくれた人の為に僕は返信する。

 

《分かりました。ぜひ使ってみます!》

 

 僕はそう返事をして、まきチャンネルでマシュマロの募集を始めることにした。

 

 

 質問が来るのには時間がかかるだろうし、その間他の事をしよう。僕は、パソコンの前に座り、ゲームを始めた。しばらくすると、僕の元に一通のメッセージが届く。

 

「えっと……あれ? もしかしてこの人、アニマリの人?」

 

 名前のところに【アニマリ】と書かれている人物からのメッセージだった。僕はまだ狐野妖香さんしかアニマリの人を調べていないので、その人が本当にアニマリの人かどうかは分からなかった。でも、その人のフォロワーを確認してみたら1万を超えていたので、なにかしらで有名な人であることは間違いないだろう。とりあえず、メッセージを読んでみることにする。

 

《私は、熊野御堂 友次郎というものです。いきなりの接触、申し訳ありません。でも、私はどうしてもあなたと話しをしたいたいのです。……狐狸妖怪に詳しい、あなたと》

 

 ……狐狸妖怪。それは僕の大好きなゲームであり、マイナーなため世間にはあまり知られていないゲームでもある。まさか、この人からその話題が出てくるとは思わなかった。

 

《私はそのゲームに目がありません。誰かと話し合いたい気持ちが強く存在しています。けれどこのゲームをやる人は少ない。……そんな時、私はあなたの事を耳にしたのです。……狐狸妖怪に熱意を向けるVtuberがいる、と。そして、あなたの配信をみて、確信しました。噂は本当だったのだと》

 

 どうやら、熊野御堂さんは僕の配信を見てくれていたようだ。

 

《狐狸妖怪について、語り合いませんか?》

《……はいっ、もちろんです!》

 

 僕は熊野御堂さんの提案に即答する。

 

《ありがとうございます。……では、後程連絡いたします》

《こちらこそ、お誘いありがとうございます》

 

 僕はお礼を言ってから、熊野御堂さんのメッセージを閉じる。……やったぁっ! 狐狸妖怪について誰かと語り合える。しかも、アニマリの人とだなんて……。僕は興奮が収まらず、気分が高まる。

 

 僕は高まった気分のままマシュマロページを開き、何となく眺めるがまだ何も来ていない。

 

 ……そうだ、アニマリについて調べよう。そう思った僕はアニマリの公式サイトにあるライバー一覧を確認する。

 

「一期生は知らない人ばっかり。二期生は……あっ、 狐野妖香さんと熊野御堂さんがいる。こういうときに知っている子がいると嬉しいよね」

 

 部屋には他に誰もいないので、僕は独り言をつぶやく。そこで、僕はあることに気づく。……みんな、可愛い。多くの人たちから愛されるようにデザインされているんだ。あ、でも熊野御堂さんは可愛いというよりかっこいいの方が近いかな?

 

 ライバーたちを見ながら色々と考える。

 

「ふふっ……」

 

 なんだか楽しくなってきた僕は思わず笑ってしまう。……あ、そうだ。そろそろマシュマロ来ているかな? 

 

 まきチャンネルに届けられたマシュマロを確認すると、一通だけだがメッセージが届いていた。

 

《まきちゃん、イラストが作られたみたいだよ》

 

 謎のメッセージが、複数のSNSのリンクと共に送られてきていた。……イラストって何のこと?

 

 僕は不思議に思いながら、リンクを開く。すると、そこには僕の配信時の姿のイラストがあった。

 

「え、これ僕!? なんで?」

 

 何でまきチャンネルのイラストが描かれているんだ? Youtuberのイラストなんて、描かないのが普通だと思うんだけれど。……あっ、そうか。僕はVtuberでもあるんだ。Vtuberだからイラストが描かれてもおかしくないのか。

 

 僕は早速SNSの画像検索で『まきチャンネル』を検索してみる。……あっ、やっぱりまきチャンネルのイラストが描かれている投稿がたくさんある。しかも、どれもクオリティが高い。いつの間にこんなにたくさんの人に絵を描いてもらえるようになったのだろうかと思いつつ、少し嬉しくなる。

 

「……あれ? これってアニマリの人たちじゃん。なんで僕と一緒に描かれているんだ?」

 

 僕とアニマリの配信者達が一緒に描かれたイラストに目を引かれる。……凄い、僕がアニマリの人たちと一緒に手を組んでいる。

 

「……なんか、良いかも」

 

 胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。こういう絵を見ていると、ワクワクするんだ。……あれ? でも確か、アニマリは全部で8名だったよね。それに対して、この絵に登場するライバーも8名。でも、このイラストには僕がいる。人数が合わなくないか?

 

 しかし、その疑問は画面を下にスクロールすると解決した。

 

 狐野妖香@アニマリ

《何度も、イラストを見てみました。しかし、私がどこにもいないのです。……おかしいですわねぇ》

 

 彼女のコメントにより、疑問が解けた。イラストのどこを探しても、狐野妖香さんはいない。代わりとして、僕が描かれている。……この作品の作者さんは、狐野妖香さんと僕を間違えてしまったのかな?

 

 でも、この作品のタイトルを見てみると、『清楚な二期生と破天荒な一期生』となっていた。……まさか、あえて狐野妖香さんを僕に変えているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はとある人物に連絡を取っていた。その人物は、私の話を聞いてくれるだろうか。少し不安な気持ちもあったが、私にとってはとても大事な事なので、勇気を出して連絡を取ったのだ。すると、数分後に返事が来た。

 

《……はいっ、もちろんです!》

 

  その返信を見た瞬間、私は安心して息をつく。相手は個人勢のVtuberでこちらは企業勢のVtuber。本来なら、こんな関係になれるはずがないのだが、今回ばかりは話が別であったようだ。同じゲームを愛するもの同士、仲良くなりたいという気持ちがお互いに強かったからだろうか。

 

《ありがとうございます。……では、後程連絡いたします》

《こちらこそ、お誘いありがとうございます》

 

 

 そうして、会話を終わらせる。大きく深呼吸をして、スマホを置く。今日もいつも通り配信をする。最近はリスナーも増えてきて嬉しい限りである。

 

「皆さん、本日は私の配信に集まっていただき、誠にありがとうございます。私はアニマルリレーションシップ二期生、熊野御堂 友次郎でございます」

 

 私が挨拶をすると、コメント欄が勢いよく流れ始める。

 

 

コメント

・いえーい!

・本日も堅苦しくございますね

・おはクマ~

・クマモーニング~

・クマーマ!

・↑挨拶がバラバラなんだよなぁ……

・なんだか今日、クマさん嬉しそうじゃないかな?

・ほんとだ。今日はなんだかテンションが高い

 

 

 

「皆様おはようございます。本日の予定ですが、まずは雑談をすることにします。内容は、最近Vtuber界でひそかな話題となっているゲームについてですね。あとは、個人的な悩み相談なども受け付けます」

 

 私は今日の予定を話す。そして、ゲームの話へと移る。もちろん狐狸妖怪についてだ。狐狸妖怪は仕事、恋愛、生活などの様々な要素を含んだゲームであるが、私が一番魅力的に感じているのは戦闘要素である。マイナーなゲームにしては余りにも高すぎるグラフィック、そして何よりも魅力的な戦闘システム。この二つを兼ね備えたこのゲームには、魅力を感じざるを得ないだろう。だがしかし、その人気はそこまで高くはない。その理由として考えられることは、やはり不親切なゲームデザインだろう。ゲーム初心者にとってとっつきづらく、逆にアクション上級者にとっては恋愛や村の発展作業をしないと一部の必須スキルが取れないなどの…………しかし、狐狸妖怪はそれらの欠点を補えるほどの……

 

 私は狐狸妖怪の魅力について語っていると、ふと気がつく。あれ? これって……ただのゲーム語りになってないか……と。いけない、いけない。今は配信中なのだ。いくら好きなゲームだからと言って大事な配信中に話しすぎては視聴者に失礼というもの。そろそろ話しを変えなくては……

 

 

コメント

・クマッ!?

・おや、クマさんの様子が?

・どこかの娘を連想させる早口だな……

・???「僕の事かな?」

・クマさんがこんなに一つの話題をずっと話すなんて珍しい……

・そういえば、狐狸妖怪ってあの娘が好きなゲームだったような

・語ると早口になってしまう呪いのゲームかな?

・【悲報】狐狸妖怪、呪いのゲームだった

・名前からして呪いのゲームなんだよなぁ……

 

 

 どうやらリスナー様たちに突っ込まれてしまったようだ。私としたことが、つい熱が入ってしまったようである。反省せねば。私は落ち着いて雑談モードへと頭を変え配信を行う。すると、良い感じの配信になってきた。……よし、このまま最後までやりきろう。

 

 それから配信を続けていくと、配信開始から一時間ほど経った。丁度いい時間なので配信を終えることにする。

 

「……さて、そろそろ終わりの時間となってしまいました。本日はご視聴ありがとうございます。それでは」

 

 

コメント

・乙!

・面白かったです!

・またね!

・お疲れさまでした!

・楽しかったです!

 

 配信を終了させる。ふう、無事に終わったようだ。私は軽く伸びをして、息をつく。そして、まきさんへ連絡してみたところ、明日が暇であることが分かった。私も明日は自由なのでちょうど良かった。通話用アプリを利用していろいろと語り合う事にしよう。私はそのまま、配信用の機材を片付け、就寝した。

 

 次の日。何のトラブルもなく、無事にまきさんと話すことが出来た。私は狐狸妖怪の戦闘面が特に好きだが、まきさんがそうとは限らない。なので戦闘要素についてまきさんと語る事が出来るかどうか不安だったけれど、どうやらまきさんは狐狸妖怪のオールラウンダーのようで、戦闘面の話をしてもついてこられた。戦いに関する私も知らない小ネタを知っていたので、とても興味深かった。

 

 そして、あっという間に時間が過ぎていった。気がつけば午後五時。慌ててまきさんとの会話を切り上げようとしたが、私はそこで欲が出てしまった。まきさんをコラボに誘ってしまったのだ。私は企業勢の男で、まきさんは個人勢の女性なので最初は断られるかと思った。だが、まさかのOKが貰えた。

 

 私はとても嬉しくなって舞い上がり、その勢いのまま通話を切る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。