あと、少し長めです。
side綾佳
シエルの《直覚》に最初に反応があった場所から大型種と斬騎君の反応はかなり遠くまで移動したらしく、周囲にはアラガミの気配も人の気配もなかった。
私は今、手分けして斬騎君を探している。
彼はいつも不運だったが、流石にここまでになると、運の良い悪いとかの問題じゃないと思った。
確率の歪みか、誰かの陰謀か?
そんなレベルで呪われている。
『隊長、大型種の反応が消えました。
近くには天霊さんと思われる反応があります』
「え………?
それってまさか斬騎君がその大型種を倒したってこと………?」
私は耳を疑った。
いや、だって斬騎君は神機を握ってまだ二日、三日くらいの新人なのだ。
あり得ねー、超あり得ねー。でも斬騎君ならやりかねないなぁ。
危機が去ったことで気を抜いた私がそんなことを考えていると、突然全身が総毛立つ様な咆哮が聞こえた。
『!!隊長っ!
感応種です!
この反応は……』
「うん、あの時と同じ、マルドゥークだ。
こっからでも紅い柱立ってるの見えたし」
『それだけではありません。
急ぎましょう!
私の《直覚》から天霊さんの反応が消失しました!』
まさか!
斬騎君が………!?
私は一瞬取り乱したが、すぐに落ち着いて、ミッションの経過時間を確かめた。
よし、何とか間に合ってる。
リンクサポート《黄泉がえり》。
指定した5分間の間に死んだ場合のみ一度だけ死をなかったことにするという驚異のデバイスだ。
リッカさんによって開発されたばかりのこのデバイスを私は今回安全マージンとしてセットしてきた。
大丈夫、まだ間に合う!
「シエル!斬騎君の反応が消えた場所まであとどれくらい?」
『隊長の位置からなら二分程です。
私もナナやギルに合流してすぐに向かいます』
「わかった、また後でね!」
私は通信を切ると、速度を上げて一気に目的地に辿り着く。
そして、信じがたい光景を目の当たりにした。
side斬騎
謎の場所から帰還した俺は、傷が全て治っていることに気が付いた。
推測だが、さっき紅陽が言っていた《黄泉がえり》の効果だろう。
俺は警戒のため、起き上がらずに状況を探った。
どうやらマルドゥークも俺の傷が治った事には気付いているようだ。
そういえば、綾佳さんが感応種は通常の神機を機能停止させる特殊な偏食場パルスを発生させるとか言ってた気が………?
どうしよ?
神機が動かないんじゃ戦えないし、逃げるにしてもさっきのガルムとの追いかけっこを考えると逃げるのは無理だろう。
…………詰んでね?
幸い、マルドゥークは俺の異変を警戒して、こちらの出方を窺っている。
よし、死んだふりを続けよう!
ってあれ、なんか近づいてきてる?
ちょっ!タンマ!ストップ!ストーーップ!!
俺が内心で超焦っているとマルドゥークは俺に確実にトドメをさそうと、先程と同じで爪を振り上げていた。
ええい!もうどうにでもなれ!!!
俺は素早く立ち上がると、爪の落とされる位置から離れ、避けると、カウンターとして呪刀で斬りかかった。
ズバッ!
グオォン!?
あれ?なんか効いてる。
ふと、手元の呪刀を何度か変形させると、正常に機能しているようで、簡単に変形出来た。
これなら………!
俺は素早くゼロスタンスを構える。
そこである変化が起きていた。
黒い靄の様な何かが呪刀の刀身を覆っている。
その靄は俺がさっき飲み込まれかけた《くらやみ》にどこか通ずるものがあった。
『新しい力が発現している』
さっき貞○ーー呪刀はそう言っていた。
これが……?
マルドゥークはこの暗い輝きを見ると、怯えたように一歩後退りする。
……もしやこれは噂に聞くところの゛ブラッドアーツ″というものでは?
綾佳さん曰く、感応種に対抗する方法は大きく分けて二つあるらしい。
一つは《ブラッド》の使用する第三世代神機。
これは感応種に対抗するために極致化技術開発局が造り出した最新型の神機だ。
では、それ以前の神機使いは感応種に対抗出来ないのか、と訊かれるとそうでもない。
これが二つ目の対抗策、《喚起》だ。
綾佳さんに発現した血の力は《ブラッド》に限らず、旧型や新型にも゛ブラッドアーツ″や゛ブラッドバレッド″を可能にする。
これにより、覚醒した神機使いは感応種が発する特殊な偏食場パルスによる弊害を抑えることが出来るらしい。
どうやら俺は後者のパターンに当てはまるみたいだ。
俺は刀身に黒い靄を纏わせた状態でマルドゥークに挑む。
グオオォォォォン!
怯えを打ち消す様に叫んだマルドゥークはガルムとは比べ物にならない速さでこちらに迫る。
巨大なガントレットを素早く降り下ろし、俺を打ち据えようとする。
だが、俺からすればまだ遅い!
ガントレットを軽く躱すと、俺は先程のガルムとの戦闘を参考にして、俊足を切りつけた。
すると、刃がするりと俊足に通った。
俺がそのまま切り裂くと、黒い靄の一部が俊足にまとわりつく。
マルドゥークは苦悶の声をあげると、自分の周りに大爆発を発生させた。
何もかもをまとめて吹き飛ばす無差別攻撃に対応しきれずに俺は地面に叩きつけられる。
激痛が走るが、ぐっと耐えてもう一度マルドゥークに呪刀の切っ先を向ける。
あれ?黒い靄が消えてる…?
俺は刀身を覆っていた靄が雲散霧消していることに愕然とした。
何か条件があるのか?
そこまで考えてふと、黒い靄が現れる直前にとった行動を思い出す。
「ゼロスタンス…か!」
マルドゥークの攻撃をバックステップで躱し、もう一度ゼロスタンスを構えると、あの暗い靄が刀身を包む。
!やはりそうか。
俺はこの靄がゼロスタンスで発生することを確信した。
マルドゥークの爪を弾き、躱し、逸らしながら少しずつマルドゥークに細かな刀傷を負わせていく。
いける!これなら…!
しかし、マルドゥークは接近戦が不利だと感じると再び距離をとって、ガルムと同じ、いや、それ以上の速さで溶岩弾を放つ。
すさまじい速度で放たれた溶岩弾にまともに当たり、俺は全身に火傷を負った。
マルドゥークは勝ち誇るかの如く咆哮をあげる。
そしてなんの前触れもなく、俊足とガントレットがいきなり自壊した。
何が起きたか理解できないマルドゥークのスキだらけな顔面に黒い靄を纏わせた一撃を叩き込み、そこで限界が来た俺はその場に崩れ落ちる。
side綾佳
斬騎君のブラッドアーツがマルドゥークの破壊可能な最後の部位である顔を結合崩壊させた。
斬騎君はそこで限界がきたようで刀身に纏っていた漆黒の靄を霧消させ、荒い息をつきながら、倒れそうになる。
私の時と同じだ。
私は斬騎君を助け起こすと、あの日の隊長ーージュリウスのように彼に賛辞を送った。
「大した奴だよ、君は。
大丈夫、こっから先は私たち《ブラッド》に任せて……!!」
マルドゥークが顔を振り、こちらに向き直ると残った片目で鋭く睨み付けてくる。
だがこちらも斬騎君が時間を稼いでくれたお陰でシエル、ナナ、ギルが集結していた。
もうあの時の様に禍根は残さない。
ロミオ先輩の様な犠牲はもうださない。
さぁ、
「かかって来い、ここで決着をつけてやる!!!」
次回、決着ーー!