side斬騎
あれから更に3日。
傷も順調に快復し、ある程度動いても大丈夫になった俺はサカキ博士に呼び出されて支部長室にいた。
「まぁ、飲みたまえ」
と渡されたのはいつぞやのピンク色の缶ジュース。
あの日、俺の味覚を蹂躙した悪夢の如き飲料。
゛初恋ジュース″
「飲みま……せんよ?」
期待に満ちた眼差しを向けてくるサカキ博士に俺は告げる。
「ってか、二度も同じ手口には引っ掛かりません!」
「同じ、ではないよ。
よくここを見たまえ」
サカキ博士は゛初恋ジュース″と書かれた隣の小さな文字を指差した。
Ver2.0
「………えぇ~?」
2.0ってなんだよ…?
「従来比二倍だよ。
さぁ、飲みたまえ」
「何が二倍なんですか!?
こんな怪しい物の何を二倍にしたんですか!?」
再び期待の視線を向けるサカキ博士に問うが、やはり何も答えてはくれない。
「で、本題はなんですか?
ある程度動いても平気になったとはいえ、まだ体のあちこちが痛いんで早めに済ませたいのですが…」
サカキ博士は少し残念そうに缶ジュースをデスクに置き、本題に入った。
「では単刀直入に訊こう。
斬騎君。君、ブラッドアーツに覚醒したね?」
「はい、多分」
あの黒い靄の事だろう。
「やはりか。
君がマルドゥーク討伐に貢献したと聞いてまさかとは思ったが、そうかこんなにも早く……」
「あの……?
なにかおかしいところでもあったんですか?」
「普通、感応種に通用するような強力なブラッドアーツは一度や二度の戦闘では覚醒しないものだからさ。
昨日今日神機を握った君にはわからないかもしれないが、元《ブラッド》のメンバーの中にも一人、なかなか自分の力に目覚めることができずに悩んでいた者もいたよ」
「つまり、俺の成長速度は普通じゃない、と?」
「そうだね。
ここまで驚かされたのは君で四人目だ」
「あ、結構いるんですね」
一人は恐らく綾佳さんだとしても残る二人は誰だろうか?
「とにかく君が感応種に対抗出来る戦力になったのは確かだよ。
だが、君はまだ新人だ。
実戦経験を積ませるためにまずは第一部隊に入隊してもらう。
異論はないね?」
第一部隊……?
確かコウタさんとエミールがいる部隊か。
「はい、了解しました」
「では、君の怪我が治る予定日の翌日ーーつまり三日後から任務を受けてもらうよ」
そしてサカキ博士は未だデスクの上に置いてある缶ジュースと俺を交互に見てきた。
「絶対に飲みませんからね」
そう言って俺は支部長室を後にした。
出る寸前に見たのはサカキ博士がどこかに連絡を入れている姿だった。
ニ日後
side綾佳
私は斬騎君の快気祝いとして彼の元に足を運ぶことにした。
……エリナと一緒に。
「怪我も快復したみたいだし、そろそろ顔を合わせておこうと思ってね。
私の後輩になるのはどんな奴なんだろう?」
エリナさ~ん?
なんかキャラ変わってる。
まさかこんなに期待しているとは……。
そこまで後輩が出来るのが嬉しいのだろうか?
私とエリナが斬騎君の病室を訪れると、斬騎君は見舞品と思われるピンク色の缶ジュースをじっと見つめていた。
゛初恋ジュース Ver2.0″
そう銘打たれた缶ジュースを憎らしげに睨み付ける斬騎君に私は声をかけた。
「斬騎君、それまさか例のサカキ博士が作った……?」
「!綾佳さん。
えぇ、そうです。
ここ二日間に渡って何故か毎日俺の病室に運ばれてくるんです」
「っていうか、捨てればいいじゃない」
エリナがそう提案したが、斬騎君は悲痛そうに首を振って、
「いくら捨てても帰ってくるんですよ、コレ。
どうやら俺が飲むまで続くみたいです」
「なにか心当たりはないの?
それが送られてくるようになった理由とか」
「………二日前、サカキ博士に呼び出された時、コレ飲むの全力で断ったからですかね?」
………あー
「斬騎君、飲もう。
飲まないと先へは進めないよ……」
「ちょっ!先輩?!
駄目でしょう!?
下手したら快気祝いどころかまた病院送りになっちゃうよ!」
「やっぱりですか。
ま、覚悟はしてました」
斬騎君は青いを通り越して真っ白になった顔をなんとか笑顔にした。
そして意を決して飲んだ!
エリナは状況についていけず、オロオロしている。
私は斬騎君の勇姿を一瞬たりとも見逃さないようにじっと見つめる。
そして、
「!!?!グフッ!?」
斬騎君は吐血したようにジュースを噴き出すと白目を剥いて倒れた。
「ざ、斬騎くーん!!」
その日、何故か支部長室から笑い声が聴こえたらしいが、それはまた別の話……。
初恋ジュースver2.0はその後、様々な事情から姿を消した。