その砂が落ちきるまで   作:斉藤努

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どうも、斉藤努です。
週一投稿とか難しすぎるので不定期なのはご愛嬌。四月ということでもう新年度が始まっている方も多いはず。私の近所の桜並木は満開で自転車で走るのはとても清々しい気分になります。
話はそんな春、出会いの季節、霧香と香澄のもうひとつの交わり。それではどうぞ。


第三話:緊張

 今日、久しぶりに夢を見た。ユーモアのある楽しい夢なら良かったけれど実際に見たものはあの日の光景。

 

 生まれて初めて歌が嫌いになった日。本当は私の歌で楽しんでもらえたり、元気が出たらいいな、そう思ってた。けど、周りの人達はそんなこと思ってなくてそれは私の絵空事だった。歌で誰かを傷付けた自分にはもう歌う資格なんてないし、歌いたいとも思わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の私は折角の高校入学式の日なのに朝からゲンナリとしていた。夢のはずなのに起きてそれなりに時間が経った今でも鮮明に覚えている。

 男の子達が寄って集って私の歌を揶揄った。それを責めるように女の子達は私を擁護した。私はただ歌いたかっただけなのに。

 

 そんな負の感情を背負いながら最寄りの停留所に歩を進めていく。静かな世界に響く音は鳥の鳴き声と近付いてきている電車の走行音。

 誰も乗っていない空っぽの電車が目の前に止まる。これから毎日これを見るのだと思うと少し寂しい気持ちがする。……寂しい? そんなことない、多分だけど3年間何も思わずに過ぎていくと思う。だってこんな私に友達とか好きな人とかできる事はないから。

 暫く乗っていると誰かが電車に入ってきた。こんな朝早くに珍しいな、と目線を向けると同じ制服を着た生徒だった。今日は在校生の登校はないみたいだから同級生のはず。あの子、とても優しそうな雰囲気を纏っている。優しい子ならこんな私でも受け入れてくれたりするのだろうか。

 ……とても気まずい。よくよく考えてみるとこんな狭い密室空間に男の子と2人っきりってものすごく緊張する。どこを見ればいいんだろうか。すごくソワソワす……ふぁっ!? 目があっちゃった。あ、着いた! に、逃げよう。

 

 はぁ……はぁ、急ぎ足をしてしまった所為で息が上がる。乱れてしまった息を整えるために数回、深く息を吸う。折角微笑みながら反応してくれたのに逃げてしまった。あの子が不良でこの後3年間ずっと脅されたり、変な噂を流されたら……この後どう生活すればいいのだろうか? また……あの生活を、と思うと息が苦しい。兎に角、この3年はひっそりと誰にも認識されずに卒業するんだ。

 

 そう決意しながら満開の桜を背にして学校の敷地内に踏み入る。生徒が誰も居ない学校はとても静かで居心地が良い。壁に留まったクラス分けの表を見つた。自分の名前を探し、じっくりと眺める。最初のクラスに戸山香澄とあるのを発見して控え室に向かって足を伸ばす。

 特にすることもないから窓から中庭の桜を視界に入れる。あの桜の木は満開に花を咲かせとても綺麗だが、私は冬の枯れ果てたかのように何もない。私なんかには爽やかな風よりも冷たく鋭い木枯らしがお似合いだ。

 はぁ、とため息を零すと横から声が聞こえる。

「あっ、あのっ! これ、学校来る途中に落としましたよ。戸山さん」

 そう言った人は戸山香澄と書かれた紙束を持っていた。私はその人の目を見ようと顔を上げると罪悪感が込み上げてきた。なぜなら学校を来る途中に変な妄想をして結構失礼なことをしてしまった人がいたから。慌てて謝ろうとしたが『感謝の言葉を述べた方がいいのでは?』とも思ってしまい結論が出ないまま言葉が口から零れてしまった。

「えっ!? あ、ありがとうございます。……もしかして朝一緒に電車に乗ってましたか?」

 ありがとうの言葉を相手に伝えられたなら良いと、思うことにした。

 彼は「そうです……」と紙束を拾った時の話をした後に一拍開けて彼自身の名前を口にした。とみひさきりか君……その名前を聞いた時に魚の骨が喉に引っかかったような感じがした。でも、以前あったことがあるのなら私はともかく()()()()君は覚えているだろう。だからきっと私の思い込みだと信じ、机に突っ伏して入学式までの時間を潰したのだった。




いかがだったでしょうか。
いつもと違って前書きも頑張って書いてみたのですが、こちらは全然思いつきません。とにかく感想とか評価とかお気に入りとかしてくれると作者は跳びます。もしかしたら飛ぶかも知れません。


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