やはり俺のVR青春ラブコメは間違っている   作:青鬼ちゃん

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昨日、ようやく蔓延防止が解けて初めての会社での飲み会でがっつり二日酔いです

「その着せ替え人形は恋をする」を観ながら訂正箇所探してました

北川さんマジで尊い・・・優しいギャル系いいですよね。

というわけで十一話目です


一章 拾壱部

 攻略会議から4日目、すなわちボス攻略当日の朝を迎えた。ドキドキしすぎて少し早く起きちまったぜ。遠足前かな?

 ・・・いや、これから向かうのは文字通りの死地だったな。

 あれからキリトやアスナと連携の訓練もしたし、回復ポーションなどの準備にも抜かりは無い!と言いたいところだが、不安にはなるものは仕方がないので一応、念の為にと数度目のストレージ内の確認をする。

 

「ハチマンくんおはよう。起きてたんだ」

 

「おう、アスナか。随分と早いんだな・・・」

 

「えへへ・・・。ハチマンくんこそ。なんだか緊張しちゃって早く目が覚めちゃったみたい」

 

 アスナのその表情を見るに、早く目が覚めたというよりは全く眠れなかったといったところだろう。笑顔を作りはしているものの、目の下には少し隈ができているし、表情もどこか固い・・・。

 まあ上手に演技されてムリしているのが分からないというのも考えものだし、これくらい分かりやすい方が助かるというものだ。

 

「まだ少しは時間には余裕はあるんだから、まだ寝てた方がいいぞ」

 

「うん・・・。そうなんだけど、ね。・・・少し話していいかな?」

 

 ストレージを操作していた手を止めて静かに頷くとソファに座っていた俺の横に腰掛ける。

 なんなの?距離感近すぎない?パーソナルスペース0なの?そもそも人と認識されているのか怪しいという線もある。なにそれ悲しい。

 

「・・・あのね、別に弱気になってるって訳じゃないんだ。多分・・・。でも、不安・・・なのかもしれない。正直死ぬかもっていうのもピンと来ないし、もしかしたら何も分からないまま・・・何も成せないまま死ぬかもしれない、なんて・・・。

 そんなことずっとグルグルと考えちゃってて・・・。ダメだね、私!」

 

 たははー、と力なく笑うアスナの姿はいつもの快活さは無く、不安に押し潰されそうな、怯えたーーーただの女の子だ。

 仕方ない。こんな状況で竦み上がるのも無理もない、というか当然だ。俺だって現に不安に駆られて、落ち着かなくて何度もストレージ内を確認していたくらいだ。

 

「・・・まあ、怖いのは当然だ。多分、ここで逃げ出してもみんな許してくれる・・・とは言えないかもしれんが、少なくとも奉仕部のヤツらは受け入れてくれんだろ。むしろよく逃げてくれたって褒めてくれるまであるかもな。知らんけど。

 アイツら、ゆきのんやユイユイも不安なんだろうな。気づいてたか?ゆきのんは不安になったり焦ったりすると口数が多くなるし、お茶を飲む回数が極端にふえるんだ。ユイユイは不安を隠そうといつもよりたくさん話すし、よく笑う。それにスキンシップが増えるんだ。あれはぼっち男子には厳しいものがあるから勘弁して欲しいんだがな・・・」

 

 そう、ここ最近はその傾向が多く見られるようになった。趣味を人間観察にしているのは伊達じゃないってことだな!雪ノ下にバレたら通報されそうだな。

 

「少し話が逸れたが、まあ・・・なんだ。無理なら、苦しいなら、辛いなら・・・逃げていい。逃げたっていいんだ・・・。一番大事なのは生きることだ。

 どれだけ他人に失望されようと、敵を作ろうと、理解されまいと、最後に生きていればいいんだ。それで最後に笑えてたら、最高だろうな」

 

「それに、もし危険があるようならアイツ、キリトに守って貰えばいい。キリトは強いから、多分俺より全然強い。いや、自分を卑下しているとかじゃなくてね?今はステータス的には同じくらいかもしれんが、後々追い越されるだろうしな。

 それに、いざとなったらフードを外せ。こういう言い方をしたらいやらしいかもしれないが、アスナは誰から見ても美少女だ。だから男たちは必死で守ろうとするだろう。

 そういう手を使うのはアスナは嫌いかもしれんが、それも立派な生存戦略だ。男は可愛い女の子の前ではカッコつけたいものだからな」

 

「び、美少女って・・・。でも、ハチマンくんらしい、のかな?

 でも、それじゃあハチマンくんは守ってはくれないの?」

 

「俺か?そん時はもちろん俺だって守るが・・・正直頼りになるか分からんぞ?なんなら頼りにならないかもしれん。

 それでもアスナに何かあったなら護るつもりではいる・・・。あいつらが悲しむからな」

 

「それに・・・」の次の言葉がなかなか出ない。が、アスナは期待するような目でこちらの顔を見て続く言葉を待っているようだ。

 観念するしかないですかね・・・。

 

「・・・一応仲間、だからな。奉仕部の」

 

 やっぱりムリだ。恥ずかしすぎて顔を逸らしちゃう!あー、ガラにもないこと言ってしまったよ。多分今顔赤くなってるな。

 なに?仲間って。俺ってそんなこと言うキャラだっけ?

 

 ・・・でも、うん。認めるしかないんだろうな。

 俺の中の護りたい、大事なリストには新たに入ってしまっているんだな。アスナもアルゴも・・・。

 

 そりゃ1ヶ月近くも命のかかった環境で時には背中を預けたりして生活しているんだ。

 情が湧くのも仕方の無いというものだろう。

 

 相も変わらずになにかと理由を付けないと決心が出来ない自身に辟易してしまうが、これが俺という人間なのだから仕方がない。

 そしてこんな俺を俺は嫌いじゃないからな。

 

 それにしてもなんで無言なんですかね。もしかして気持ち悪すぎて絶句しちゃったとか?もしそうなら、俺の黒歴史がまた追加されちゃうんだけど。今さらすぎる気もするけれど・・・。

 

 おそるおそるアスナの方を見てみると、若干顔を俯かせながら手で顔を覆っていた・・・。

 え、そんなに嫌だった?ごめんね?勝手に仲間意識なんて持っちゃって。

 

「護りたい、大事って・・・それって・・・」

 

 おんやー?もしかして口に出てました?

 ちょっと待って、ホントに?マジのガチで?

やばいやばいやばいやばい。何がやばいってもうやばいがヤバい。確実にさっきより顔赤くなってる。ってか黒歴史確定だよ。殿堂入りだよ。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 いやいやいや。なにこの沈黙。これからボス戦に挑むんだよ?大丈夫?戦闘中に思い出して集中が乱されたりしない?主に俺が。

 

 もともと喋る方でもないし、沈黙はさして気にならない方ではある、というより好きとまで言えるのだが・・・。今はこの沈黙が痛い!

助けて小町!戸塚!

 はい、自分でなんとかするしかないですよね・・・。ってなんとかできるんならぼっちなんてやってませんのことよ。

 

「あー・・・。まあほら、アレだ。俺なんかが護るって言うのも烏滸がましいとは分かってはいるんだが・・・ほら、なんていうの?

 そう!小町にな、男ならいざという時は体を張ってでも女の子を守らなきゃいけないって言われててな!つまりはそういうことなんだよ!」

 

 ・・・厳しいか?

 どうにも落ち着かなくなってソファから立ち上がりアスナの様子を窺ってみる。

 

 どうやらアスナも少しは落ち着いてきたようで、少し上気したような顔でこちらを上目遣いで見ている。ぐぬぬ、可愛い・・・。どこぞのあざとい女子代表の一色さんにも見習って欲しいものだ。

 

「ふふっ。・・・あーあ。何に悩んでたのか忘れちゃったなー。これもハチマンくんのおかげ、なのかな?

 ハチマンくんが護ってくれるんなら私、怖くないよ。うん。戦える、大丈夫。

 だから責任とってハチマンくんは私を護ってね。私はハチマンくんを護るから・・・」

 

 そう言って立ち上がったアスナの表情は数分前までの暗さはどこへやら。実に晴れ晴れとした良い笑顔だった。

 ま、黒歴史を増やした甲斐があったってなもんですかね。完全に事故だけど。

 

「んんっ、さてと・・・。そろそろいい時間になってきたところだし、集合場所に向かっていた方が良いだろうな。

 遅れたりなんかしたらキリトに何言われるか分かったもんじゃないからな」

 

 この場の空気を変えるには少し強引すぎるかもしれないが、集合場所であるボスのいるダンジョン手前の町まで行くことを考えればちょうどいい時間になってきたのもたしかだ。

 

「うん、それじゃあよろしくねハチマンくん!」

 

 そう言ったアスナの表情は・・・うん、言うまでもないな。

 すごくいい、曇りのない眩しい笑顔だ。

 

 

 

 

 時間に余裕を持って宿を出たからか、特に問題もなく目的地までの道程を二人で歩いていく。

 

 道中モンスターを倒しながら進んで、少し疲れたら適当なセーフティエリアで小休憩にお茶を飲んではまた再び歩き出す。

 宿から出る直前に雪ノ下と由比ヶ浜に渡されたものだ。

 どうやら前日の夜のうちに準備をしていてくれたようで、由比ヶ浜が料理に手を出したのか、確認のため雪ノ下に聞いてみると、クッキーの形を整えるのを手伝ったのだそう。道理でところどころ歪になっていると思ったよ・・・。

 

 なんにせよ、太陽が直上に到達する前には目的地に到着することができた。未だ集合時間には少し早いためか人もまばらなようだ。

 集合時間に余裕を持って到着しておく。社会人として、いや、人として貴ぶべき在り方だと思うね、ぼかぁ。

 

「あ、私念の為にショップにポーション買ってくるね。道中少し使っちゃったし」

 

「そんなら俺のを使えよ。余分に持ってきてるから自分の分にはまだかなり余裕があるからな」

 

 瞬間、何人かの目線がこちらに集中した!・・・ような気がした。ぼっちは視線に敏感なんだよ。

 まあ十中八九アスナに向けての好奇の視線なんかだろうがな。俺に向けられるとしたら美少女と一緒にいることへの嫉妬や、やっかみの類の視線だろう。

 

「あのー・・・すみません、ポーションに余りがあるって本当ですか・・・?」

 

 ・・・誰だこいつは。

 声の先には今まで話したことも関わったこともない茶髪、と言うより金髪に近い髪色をした男性プレイヤー。いやホントに誰?

 見たところそこそこにいい装備。おそらく今回のボス攻略の参加者の一人なのだろう。

 

「あ、ああ。確かに多少の余裕はあるけど・・・」

 

「よ、よかったら!少しでいいんです!分けてはいただけないですか・・・?」

 

 お、おうふ・・・ずいぶんと食い気味に来るねキミ・・・。

 

 話を聞いてみれば、どうやら今日のボス攻略に備えてのレベル上げで、思ったよりポーションを使いすぎてしまったみたいで、今の手持ちの分だけだと心許ない、とのことだ。それ、俺関係ないよね・・・?

 とは言えない。これからお互い背中を預けて戦う仲だ。ここで断った結果、前線に出ることに臆して負担が増えるのはゴメンだからな。主に俺の。

 

 それにポーション一つが無いがために死なれてしまっては目覚めも悪いというものだ。

 

「あー、それは構わないんだが・・・いくつだ?」

 

「あ、えっと・・・3つほど頂けるなら・・・」

 

「それなら5つやる」

 

 そう言ってストレージを開いて目の前の青年にポーションを5つ譲渡する。昨日のうちにアルゴに預けていたポーションを多めに引き出しておいたからな。まだまだ余裕はある。

 

が、なんだろう・・・。青年の動き、というより挙動?に違和感があるような気がする。趣味を人間観察としている俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

もちろん、彼に対して不審に思うようなものではないのだが、なんというか・・・物理的な距離感が掴めていないかのような違和感だ。

 まあ他人との距離感の掴めなさに関して俺の右に出る者はいないけどな。ふひっ。

 

「ありがとうございます・・・。それと、もしかしてですけど、“奉仕部”のハチマンさん、ですか?」

 

「そうだけど・・・それがなにか?」

 

 おそらく取り引き画面に出た名前で知られた・・・とは思うけど。

 なに?俺からの施しは受けないように誰かに言われてるの?巷でウワサになっちゃってるの?ちがうよね?

 

「い、いえ!その・・・ハチマンさんは面倒臭がりで高圧的で、人を食ったような性格をしていて、目が腐ってて数人の美女を侍らす最低のクズ野郎だと聞いていたので・・・」

 

 誰だよそんなウワサ流したやつ。最初と目のところしか合ってないじゃねえか。ってかウワサにまでなっちゃってるのかよ。誰だよ目が腐ってるってウワサしてるやつ。天誅下してやる。

 大方、俺が依頼を断った誰かだったり美少女の周りをウロチョロしているのが気に食わない誰かだったりする輩なんだろうけどな。

 

「そんなことないよ。ハチマンくんはいつも優しいし、困ってる人は見過ごせない人だよ!ね、ハチマンくん?」

 

ええ・・・誰ですかそのキレイなハチマンくん。俺の知らない人ですね。劇場版のジャ〇アンかな?でも目は腐ったままなのね。

 

「ま、大体は合ってるんじゃねえの。火のないところに煙は立たないって言うくらいだしな。ウワサもなんの根拠も無く立たないだろ」

 

 その言葉にアスナは可愛らしく抗議の目を向けるが、すぐにその視線を逸らして男と向き合う。まずはこっちの問題を解決するのが優先だ。

 

「あの・・・ところでおいくらほど支払えばいいですか?」

 

「いや、金はいらない。報酬を払いたいって言うんなら精々死なない程度に戦闘で役立って俺に楽をさせてくれ。それとーーーーーを頼む」

 

 最後の頼み事の部分は、アスナには聞かれないように男の耳元で小さく呟く。アスナに聞かれたら面倒な事になりかねないからな。

 

「え、そんなことでいいんですか?」

 

「あぁ、そん時は頼むぞ。それより、ポーションが足りていないのはアンタだけじゃないんだろ。他のパーティメンバーも呼んでくれ」

 

「そんな、これ以上そちらに負担をかけてしまう訳には・・・。それに、起こり得ないことに対する頼み事じゃ、対価にならないですよ」

 

「これ以上たかられないようにするとための口止め料だ。それに、俺にとってはそれが助けになるかも知れないからな。必要ないならそれはそれでいいんだが・・・。そんなことより周りに人が集まる前に早く呼んでこい」

 

 俺のその言葉を聞くやいなや、急いで仲間達の元へと走り出して行った。忙しないやつだ。

 

 それで、なんでアスナさんはそんなにニヤニヤしているんですかね。

 

「ほら、やっぱり優しいんだ」

 

「・・・うっせ、そんなんじゃねえよ」

 

 俺にできる精一杯の反撃も全くの効果は見られず頬を指でつつかれて成されるがままになってしまった。ぐぅ・・・可愛い・・・鬱陶しい。

 

「お待たせしました、ハチマンさん!」

 

 うん、元気が良くて大変よろしい。でもね、もう少し声を抑えてもらえると八幡嬉しいかな。周囲の人たちに注目されちゃうから。

 

「あー、いいからいいから。とりあえず全員ストレージを開いてくれ。ポーションを送る。それと念の為に周りからは取り引きをしているように見えるようにしてくれ。

 他のプレイヤーに変な風に思われたくないからな」

 

 良いカモ見つけたとか思われたら今後が面倒そうだ・・・。

 

「ありがとう、俺はこのメンバーの中でリーダー的なことをやらせてもらってるオルランドだ。よろしく」

 

 そう言って手を差し出して来たのはガタイの良い、おそらく、というよりどう見ても年上と言った風体の男性。先の青年同様にそこそこに良い装備を身につけているし、ほかのメンバーも皆似たような感じだな。

 

 彼らはゲーム開始、それともそれよりも前からの付き合いなのだろう。でなければこんなに年齢がバラバラのグループで、こんなに仲良くするのは簡単な事ではないような気がする。俺には絶対ムリだげど。

 一人一人の人間性もそうだが、このリーダーであるところのオルランドという男が上手に纏めているのだろうと推測できる。素直にいいパーティだと思えた。

 

「ハチマンだ、一応奉仕部ってところで働いて・・・いや、活動している?まあそんなところだ。」

 

 体良くこき使われてたりするけど、働いてはいないよね?いつの間にか社畜になってるなんてホラーすぎ。

 

 差し出された手を俺にしては珍しく警戒すること無く握り返す。小町、お兄ちゃんはこんなに対人能力が上がったよ。不本意ながらだけど。

 

 ポーションの受け取りを完了したオルランド一行は各々に礼を述べてボス攻略のために集まった人集りの中へ向かっていく・・・と最後に青年が。

 

「すみません、ハチマンさん。これだけお世話になっておきながら未だ名乗りもしないで・・・。俺、ネズハって言います。」

 

「へー、ネズハっていうのか。てっきり俺はナタって呼ぶんだと思ってたんだけどな。

 ナージャやナーザは日本ではあまり一般的ではないし。」

 

「え、どうしてそれを・・・?」

 

「だってお前らの仲間ってジャンルはバラバラだけど、全員神話とか伝説に関係する名前だろ?それならNezhaの読み方はナージャ、ナタ、ナタクのどれか。

 一般的にはナタで呼ばれる事が多いけど、封神演義なんかではナタクって呼ばれることもあるけどな」

 

 まあこれだけ蘊蓄かましておいて違ってたら恥ずかしすぎて顔真っ赤ものだけどね。え、間違ってないよね?むしろ合っててくれ。

 

「・・・ハチマンさんの言われる通りです。実際には少年神のナタクからあやかって付けたんですけど・・・。仲間内以外からはネズハって呼ばれてるんで、そう名乗るようにしてるんです。一々説明するのもなんだか恥ずかしいし・・・」

 

 あー、すっごい分かるぞー。ゲームキャラにかっこいい名前付けても「それ、どういう意味?」とか聞かれるとそれはそれで説明に困るもんな。俺の場合は小町くらいしか聞かれる相手もいなかったけど。

 

「まあ自分で納得のいく呼び方ならいいんじゃねえの」

 

「はい、ありがとうございます。なので、ハチマンさんには“ナタク”で呼んでもらえればと思います」

 

「ん、それじゃあナタク。ボス攻略戦の時はよろしくな」

 

「はい!任せて下さい!がんばりますので!」

 

 おいおいおい。ちょっと前のめりすぎじゃない?まあ、あのリーダーさんがいるんなら大丈夫か。知らんけど。

 

 ナタクが俺とアスナに一礼して仲間たちのいる所へと戻っていくと同時にキリトが入れ替わりでやってきた。

 

「よっ、おはよう。悪い、待たせたか?・・・って言っても予定していた待ち合わせよりだいぶ早いんじゃないか?」

 

「こっちが少し早く来ただけだから気にしないでくれ。それよりキリトは準備はできてるのか?」

 

「ああ。こっちの準備はバッチリだぜ!その様子だとアスナとハチマンも大丈夫そうだな」

 

「うん!来る途中でポーション減らしちゃったから、ハチマンくんから補充させてもらえば私は完璧だよ」

 

「そうだ、キリトはポーション大丈夫か?」

 

「ああ、俺の方は問題ない。それにしてもハチマンママは心配性の過保護だな」

 

おいおい、誰がママだ誰が。

 

「俺の将来の夢は専業主夫であって主婦ではない、そこのところ大事だから間違うなよ」

 

「あはは、指摘するところはそこなんだ・・・」

 

「ユイユイが言ってた時は冗談かと思ってたんだが、本当だったんだな」

 

「まあな。なんなら職場見学は自宅を希望するまである」

 

「でも、ハチマンって将来毎日夜遅くまで仕事して疲れ切った目で家に帰ってそうだよな」

「あ、それなんか分かるかも」

 

 え、なにその怖すぎる未来予想図。不穏な予言はやめてくれない?

 予言者なの?予言者キリトなの?ライトブリンガーで攻撃力500のバニラなの?クルト見てるとバニラアイス食べたくなるよね。俺だけか・・・。

 

「ウチは親父がそうだから俺は絶対そうはなりたくないと思ってるだけだ。尊敬はしてるけどな」

 

 親父、毎日家族のために文字通り身を粉にして働いててマジリスペクト。社畜の鑑すぎて憧れられない。

 

「ご両親のこと、尊敬できるって言いきれることはすごくいいことだと思うよ」

 

「まぁな。そして両親をそういう風に思える、そんな俺のことを俺は嫌いじゃない」

 

「ハチマンは相変わらずだな・・・」

 

 頭に片手をあてて軽いため息を吐き、その横でアスナが苦笑いしていた。なに、キミら妙に絵になりますね。やっぱり美男美女の組み合わせだからか?

 キリトの代わりに俺がいたら・・・アスナが頭を抱えてその横で不気味に笑う目の腐った男。うん、完全に事案だな。

 

「そんなことよりアスナ、ポーション受け取っておけ」

 

「あ、うん。ありがとう。・・・うん。これだけあれば大丈夫だよ」

 

 アスナにポーションをようやく渡し終わり、一息・・・というタイミングで“ヤツ”がやってきた。

 あぁ・・・俺のアホ毛レーダーがぞわぞわする。

 

「すまないハチマンくん!ハチマンくんにしか頼れないんだ!」

 

 そう言って目の前まで血相を変えて慌てた様子で走ってやってきて、頭をさげて手を合わせて頼み込んできているのはーーーディアベルだ。

 厄介事の予感しかしない。俺のサイドエフェクト・・・ではなく、アホ毛レーダーがそう言ってる。何事か、なんてことは聞きたくもない・・・。

 

「いったいどうしたの?ディアベルさん。」

 

 すでに反射的に背を向けて逃走を図ろうとしていた俺よりも早く、アスナが疑問を口にしてしまった。

 おお、アスナよ。聞いてしまうとは、恐れ知らずにもほどがあるぞ。

「あぁ、実はだな・・・」

 

 ディアベルの話をまとめると、要はアレだ。

 安全にダンジョンへ向かうために、前もって先遣隊と称した露払い部隊を送る予定だったが、その内の一人が臆病風に吹かれてドタキャンしたから代わりを務めて欲しい、ということで白羽の矢が立ったのが俺ということだ。

 なんだよ、臆病風に吹かれるって・・・。チックなの?黒蠍盗掘団なの?

 

「・・・分かった。その依頼、引き受けた」

 

 俺の反応がよほど意外だったのかアスナもキリトも、ましてやディアベルまで驚いた顔をしている。

 え、そんなに驚くこと?そりゃ俺だって働かなくていいんなら働かないけどさ。やらなきゃいけないならやるしかないでしょ。要は適材適所ってやつだ。

 アスナ一人に行かせるのは論外だし、キリトにはボス戦の時にベストコンディションで挑んでアスナを守ってやって欲しい。

 そうなれば消去法として残るのは・・・俺だ。

 

「でも先遣隊だなんて、危ないんじゃないの?」

 

 あのー、アスナさん?信用できないのは分かるんだけど、裾のところチョンと摘むのはやめてね。うっかり萌え死にそうだから。

 

「先遣隊として派遣されるのは2パーティ。前衛部隊とバックアップのための後衛パーティだ。補充したいのは前衛の方だが・・・。ハチマンくんが望むならもちろん後衛にまわってもらっても構わない」

 

「いや、その気遣いは無用だ。土壇場で人員の入れ替えをして、本来の実力が発揮出来なくなっても困るしな」

 

「・・・すまない、ハチマンくん。君の優しさにつけ込む形で頼ってしまった」

 

「そうだな、でもそれも今さらだな。こうなったら報酬の件も更に期待してるからな」

 

「あぁ!任せてくれ!」

 

 いや、ほんとに頼んだよ。今回、敢えて報酬については明言しなかったけど、そこそこいいものを期待してるよ。いや切実に。

 

「じゃ、そういうわけだから俺は行くが、キリト・・・。アスナを頼んだぞ」

 

「お、おう。なんか急にそう言われるとむず痒いな・・・。だけど親友からの頼みだ。引き受けたぜ」

 

「ハチマンくん・・・。お願いだから無茶はしないでね」

 

「それこそ大丈夫だろ。急遽補充要因になった人間に、そこまでやらせるほど鬼畜はいないだろ」

 

 フラグじゃないからね。大丈夫だよね?立ってないよね?

 

「おーおー。見せつけちゃってくれるね」

 

 は?何を言ってるんだキリト。俺はただ、信用してくれず不安がっているアスナを落ち着かせるために、頭を撫でているだけだが・・・。頭を撫でている?

 気づいて急いで手を引っこめる。多分今ならマッハ突きも放てる速さ。

 

「おっと、わりぃ・・・。妹にやるクセでつい・・・」

 

「べ、別に嫌とかじゃないから・・・。というより少し落ち着くし・・・。帰ったらもう一回してね」

 

「・・・まあ、善処する」

 

「それ、やらない人の言い方なんだけど・・・。約束!だからね」

 

 ええ・・・なんかどんどん約束増えていってませんこと?どんどん縛りプレイになっていく・・・。

 というか、雪ノ下も頭を撫でろだの言っていたが、女の子って気安く頭撫でられたり髪触られるの嫌なんじゃなかったの?どっちが本当か分からなくなってきた。

 何はともあれ、少しいたたまれなくなったその場を後にしてディアベルの背を追いかける。

 別に逃げ出したわけじゃないから。ほんとだよ。ハチマンウソツカナイ。

 

 

 

 ディアベルに案内され着いた先に二組のパーティが待ち受けていた。

 どの顔も歴戦の猛者然とした風格・・・ということもなく普通の大学生の兄ちゃんっぽい人や会社員っぽい人たちだらけだ。

 それもそうだ。ここにいる誰もがつい1ヶ月くらい前までは、普通の日常を送っていたのだ。話題の最新作ゲームで遊んでたらデスゲームに巻き込まれるなんて、誰も予想はできなかったのだろうからな。

 

「お待たせしてしまったね。この中には知っている人もいるかもしれないが、彼はハチマンくんだ。今回臨時で助っ人を引き受けてくれた」

 

 そう言うとこちらに視線を送るディアベル。

 え、なにその視線。自己紹介しろ的なアレですか?そういうのは誰も求めてないぞ、ディアベル。

 ただでさえぼっちは注目に慣れてないんだ。

 だが、俺はぼっちではあるがコミュ障では無いというところを見せつけてやるか・・・。

 

「・・・うす。ハ、ハチマンでしゅ・・・。よろしく」

 

 決まったー!これは完璧な自己紹介だっただろ。ムダを一切省き、ダラダラと他人の時間を浪費せず、必要な情報だけを相手に伝える。尚且つ礼儀も忘れないとは、俺の中では10点満点ですね。

 

「あ、あはは・・・。この通り彼は少し人見知りがあるけど、腕は確かだ。よろしく頼むよ」

 

 おい、今の自己紹介のどこを見てそんな苦笑いと人見知りだなんて感想が出てくるんだよ。完璧だっだろ。だったよね?

 

「パーティリーダーのベンジャ☆ミンだ。噂は聞いているよハチマンくん。よろしくな」

 

ベンジャ☆ミンと名乗る七三分けにした男性が手を差し出す。握手ってやつですね分かります。まあ?俺もコミュ障とかじゃないから?握手くらいなんでもないですけどね?

 

「あ、あぁ。よろしく頼む・・・」

 

 嘘ですごめんなさい。多分、今の俺手汗凄いことになってる。手のひらから水を出すマジシャンに張り合えるレベル。

 どうでもいいけどその名前、どう呼べばいいの?

 ベンジャミンさん?ベンジャさん?ミンさん?もうめんどくさいからベンジャミンでいいか。

 

 それから残りのパーティメンバー達も自己紹介を始め、持ち回る役を決めることになったが、ふと気づいたら、というか自己紹介が始まった段階でディアベルはどこかへと立ち去って行ってしまった。

 え、丸投げなのかよ。会社の上司とか先輩にいたら絶対根に持つぞ。現に俺の中の許さないリストには既に記入されてるからな。

 

 そうして、役回りが決まった俺を含めたベンジャミンのパーティとバックアップのパーティは、他のプレイヤーに先んじてボスのいるダンジョンへと向かうことになった。

 

 




というわけでようやく第一章の終わりが見えてきましたね。

次回も楽しんでもらえるもの書いていきますね!




次回予告てきなもの

「だから別に俺は寂しくなんかない・・・」

「おっすハチマン、お疲れ様。活躍してたみたいじゃないか」

「俺たちの担当はルイン•コボルト•センチネル。ボスの取り巻きだな」

「ハチマンさん!こんなところで死んじゃダメっす!早く回復をっ」

「俺はお前の邪魔をしたかっただけなんだよ、ディアベル。」

「攻撃、開始ィー!!」

その時はその時の俺に任せよう。どうにかなるだろう。多分、知らんけど
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