やはり俺のVR青春ラブコメは間違っている   作:青鬼ちゃん

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今回から二章へ突入していきます
アニメで言えば3話の部分になるかと思われますので、少し駆け足になるかもですがお付き合いいただければと思います



二章 一部

 一層の攻略から4ヶ月ほどが経過し、現実世界では5月終わる頃になっていた。階層の性質によって気候が変わるから四季の感覚が無くなるな。

 

 あれから色々とあったものだ。

 魔法学校に入学して、「なぜか名前を呼んでは行けない例のあの人」の率いる闇の勢力とドンパチしたり、ひょんなことから手に入れた魔法の指輪を巡る争いに巻き込まれ、火山にその指輪を葬りに行く冒険をしたり、ビームサーベルのような剣を片手に、ビーム銃や念力みたいな力を使うやつらと戦っていつしか宇宙戦争をしていたり・・・。

 

 なんてことは、もちろんなかった。

 相変わらずこのデスゲームは終わりを見せない。だが確実に、着実にクリアへと向かっている。最初のフロアボスを倒すまでに1ヶ月ほどかかっていたのが、あれから4ヶ月で27層までクリアしていた。

 

 要領を覚えた、というのもあるんだろうが、やはり一番の要因は、台頭して最前線を戦う“攻略組”と呼ばれるギルド達の存在だろう。そしてそのギルド達を牽引しているのがディアベルだ。

 

 ディアベルは“聖龍連合”というギルドを結成し、俺との約束を守ってくれているようだ。やっぱり俺の見立ては間違っていなかったな、うん。

 

 俺はといえば、一層の攻略の際に盛大にやらかしたこともあり、しばらくの間は気まずい思いをしていたので、大人しくしていたのだが、雪ノ下や由比ヶ浜達、奉仕部の面々の働きかけや、俺自身の奉仕部での働きもあり、以前ほど敵対的な目で見られることも少なくなった・・・ように感じる。

 

 俺のせいであいつらに迷惑をかけてしまうのも心苦しいしな。そもそもあいつらを守ってやろう、なんてのが烏滸がましい話だったんだ。近くにいれば迷惑になる?それなら離れればいいだけだ。

 意外や意外にも反対されたが、そこはまぁ、俺だ。説得したところでムダだということはみんなもわかってくれたのだろう。

 晴れて現在は、一時の自由という名のボッチライフを謳歌することができたのだが・・・。

 

「なんでお前がついて回るんだよ・・・」

 

「え?だってハチくんは私のファン一号でしょ?」

 

 最近ことあるごとに行動を共にする・・・というよりも付き纏ってくるユナだ。というかファンが付き纏うならまだしも、逆はおかしくない?もしかして無意識に俺が付き纏っていた・・・?無いな・・・。

 

 別に毎日四六時中一緒にいるわけでもないし、たまにフィールドへ狩りに出かける時に同行したり、町での買い物に付き合わされたりするくらいだが、どうにも距離感が近くなってきていて緊張してしまう。なんなの、俺のこと好きなの?なんて、そんな勘違いをするほど俺のメンタルは柔じゃない、主に理性的な面で。

 

「というかこんなにしょっちゅう俺なんかと一緒に居ていいのか?ノー君とやらに勘違いされちまうぞ」

 

「なんでノーくん?」

 

 変なハチくん、とおかしそうに笑うユナ。しかし、何度かユナとノー君の二人が一緒にいるのを見たことがあるが、アレは完全にホの字だろう。憐れ、ノー君・・・合掌・・・。

 

 ただ、このままユナ一緒にいたら、いつか刺されそうだな。ノー君はなんとなくそんな危うさがありそうだ。

 

「ところで今日は例の約束、付き合ってくれるんだよね」

 

 ユナの言うとことの例の約束、と言っても別に大したものじゃない。たまにフィールドに連れ出してやって俺監督の元、戦闘訓練をたまにやってるだけだ。

 でも今日はなー。昨日の夜クエスト周回してて少し寝不足なんだよな・・・試したいことを試したら早く寝たいんだが・・・。

 

「いや、今日はアレだ・・・。アレがアレしててちょっと立て込んでてな・・・」

 

「要するに暇なんだね!それなられっつごーだ!」

 

 ユナは元気にそう言って俺の腕を取って歩き出すが・・・。いや、俺の話聞いてくれてた?くれてないよね?なんなの、アレがアレだって言ってるのに問答無用じゃん。選択肢?買えるとしたらいくらで買えるんですかねぇ・・・。

 

 

 

 

「ほっ、はっ、やっ、っとわわわわ」

 

 兎のようなmobを相手にユナは剣を振り回し、最後に盛大に空振りをして尻もちをつく。その体勢じゃ下着まで見え・・・ないか。くそっ、俺の身長があと5cm低ければ自然に見られたのに・・・っ。

 

 ユナもそこそこレベルが上がってきているとはいえ、未だ12層のmobを相手取るのが精一杯といったところだ。ユナの今のレベルなら20層はいけそうなんだけどな・・・。よっぽど戦闘センスが残念なことになっているらしい。

 

「おいユナ、そろそろ一旦休憩にしよう」

 

「うん!」

 

 俺の呼びかけた言葉が聞こえたのか、ユナは嬉しそうに顔を綻ばせてこちらの方へ駆け寄ってくる。

 二人で適当なセーフティエリアへ歩き出し、隣で少し興奮した様子のユナの顔色を見る。

 多少疲労の色は見えるが、それでも楽しんでいるようだ。正にゲームしてる、って感じだな。こんなデスゲームの最中でなければ、きっとこんなふうに楽しんでプレイすることができたのだろう。

 

「今日はどうだった?ハチくん」

 

「ん、まぁまぁじゃねえの。知らんけど」

 

 近場にあったセーフティエリアに腰を落ち着けながら、先ほどの戦闘の感想を求められるが・・・お世辞にも「良かった」とは言い難い。実際適正レベルが10も下の相手に遊ばれてたようなもんだからな・・・。

 

「そっか・・・ねぇ、ハチくんはやっぱり反対?」

 

 ユナの問いかけはつまり、こうして戦闘に出てわざわざ命を危険に晒すこと、について聞いているのだろう。不安そうなユナの声音から、自分でも気付いてはいるんだろう。

 

「・・・賛成か反対かで言えば反対だな。不必要に危険に身を晒すこともないとは思うし、いらないリスクを負うのも賛成しかねるな・・・」

 

「・・・やっぱりハチくんも、ノーくんと同じような事を言うんだね」

 

 俺の言葉に少し気落ちしてしまったのか、ユナの表情に少し翳りが見える。まぁ、他人から心配されても、その大事さを自分で気付くのは難しいよな。実際、俺自身もアスナや雪ノ下、由比ヶ浜達によく心配をかけては怒られている。こればかりは気をつけていても仕方のないことだ。

 誰かと関わりを持つ以上、どうしても心配になることは増えていく一方だ。

 

「まぁ、それでもせっかくのゲームだしな。危険のない範囲で楽しむことも大事だろ」

 

 俺がそう言うと、ユナの表情が一気に明るくなるのが分かった。感情の忙しないやつだ。

 ・・・大切なのはバランスだ。心配だから、大切だからと縛りつけていては、その反動はいつか大きくなって暴発しかねない。だからこうやって、たまにはガス抜きもさせてあげないとな。俺の目の届く範囲で、だけど。

 

 

 

「んんっ・・・、そろそろ休憩は終わり!ハチくんからのお許しも出たことだし、訓練の続きいくよっ」

 

 ユナは立ち上がりながら伸びをすると、元気よく歩き出していた。

 別に許可を出したわけじゃないけどな・・・。というか別にわざわざ俺に許可を得る必要もないのに、それでも俺からの言いつけを守って、俺と一緒にいる時だけフィールドに出るようにしているあたり、よっぽど律儀なんだろうな。なんか犬みたいなやつだな。

 なんて考えているうちにも置いていかれそうだ。

 

「・・・へいへい、分かったから少し待ってくれ」

 

 ため息を吐きながら立ち上がり、楽しそうに歩くユナの後ろを、見守るようにしてゆっくりと歩く。

 ほんと、ユナと一緒に居ると“お兄ちゃんしてる“って気分になれるな。

 

 

 

 それからユナの気が済むまでmobとの戦闘を続け、頃合いを見計らってこの日の戦闘訓練という名のお散歩は終わりを告げる。

 あんまり遅くまで連れ回すとノー君に要らぬ心配をかけてしまいそうだしな。

 

 ユナが拠点を構えている18階層の転移門をくぐり抜け、街をぶらっと散策する。もちろん俺ではなくユナの提案だ。どうせヒマしてるんだから買い物に付き合え、だとさ。暇はしているが、その時間の使い道の自由くらいあってもいいんじゃないですかね・・・。

 でも最近はこういう何気ない時間が、割と嫌いじゃなかったりする。そんなふうに考えられるようになったのだから、我ながら驚きだ。

 

「それで、なんか見たいものでもあるのか?」

 

「んー、特にはないんだけど・・・。あ、ハチくん、あそこ見て!噴水のところ!」

 

 ユナの指差す先にはそこそこの大きさの広場の中心に、大きすぎず小さすぎもしない噴水が、一定のリズムで水を流していた。

 

「・・・噴水だな。それがどうかしたのか?」

 

 見たままを口にする。いや、それ以外にどう言えと?別に俺は噴水マニアとかじゃないんだから、種類とか全然詳しくないぞ。むしろ噴水は噴水の一種類しか知らないくらいだ。

 

「それはそうだけど、そうじゃなくて!・・・ほら、ああいうところで歌ったら気持ち良さそうじゃない?」

 

 ああ、そういうことね・・・。それならそうと早めに言ってよね。ムダにローマっぽい噴水かギリシャ風なのかとか考えちゃったじゃん。俺の無駄な思考時間を返してよね。

 

「まぁ良いんじゃねえの?ここら辺なら既に最前線でもないから変に騒がしくもないし、雰囲気も良さそうだし、昼寝もしやすそうだしな。」

 

 落ち着いた雰囲気の石畳と、そこに違和感なく佇む噴水。そこに立って歌を歌うユナと、それを聴く観客たちの姿が幻視として視えたような気がした。・・・ちょっと疲れてるのかもしれん。

 

「やっぱりハチくんもそう思う?あたし、こういう所で歌ってみたいな・・・」

 

「歌えばいいじゃねえか。やる気があるんなら今さら躊躇う事はないだろ」

 

 実際ユナの歌をたまに聴かせてもらっているが、元々上手かったのが更に磨きがかかっているように感じる。プロの卵と言っても過言じゃないレベル。ヤックデカルチャー。

 

「・・・他人事だと思ってるでしょ。言っておくけど、その時はハチくんにはマネージャー兼ボディーガードとして働いてもらうんだからね」

 

「いや、なんで俺が・・・」

 

 そういうのはイケメンでなんでも出来ちゃうブレラさんの役目じゃないの?俺との共通点なんてなくない?ちょっとシスコンなところくらい・・・あれ、意外とあったわ。

 というかこの娘、もしかしなくても狙って言ってないよね。明らかに世代じゃないよね?銀河の歌姫の座狙っちゃうの?私の歌を聞けー!

 

「決定事項だから。ハチくんがあたしをこんなにやる気にさせたんだから・・・責任、取ってよね」

 

 ・・・どちらかと言えば俺の話を聞いて欲しい。タイガー&○ニーよりタイガー&ド○ゴン。タイガータイガー焦れっタイガー!このネタ分かる人どれくらいいるんだろ・・・。

 

「責任云々はともかく、まぁ、ボディーガードとかマネージャーなんかは出来るか知らんけど・・・見守るくらいはしてやるよ」

 

 俺に見守られるなんて喜べるようなもんじゃないだろうけどな・・・。しかしユナの様子は存外にも嬉しそうに見えた。これで勘違いとかだったら、枕に顔埋めて足バタバタしちゃうレベル。

 

「うん!言質はとったからね、ハチくん!あとでやっぱナシって言うのは無しだから!」

 

「え、なに、もしかして俺ハメられたの?」

 

 いや、違うか。俺が勝手にハマったんだわ。うわぁー、これが眠気の妖怪のせいか・・・。あれ、なんだか眠くなってきたぞ。むにゃむにゃ・・・。寝言ってことにはできませんかね・・・。

 

「もうなんでもいいからそろそろ帰ろう。ぼちぼち暗くなってきたし、俺も良い加減に眠くなってきた」

 

「あ、そうだよね・・・。ごめんね?長く連れ回しちゃって・・・」

 

 そう言うとユナの表情が少しだけ暗くなり、傍目にも反省しているのが分かっでしまう。

 別にお前を責めたいわけでもつもりも無かったんだがな・・・。そうしおらしくされると、俺も調子が狂ってしまう。

 

「・・・まぁ、今日は良い気分転換になったしな。偶にならこういうのも、まぁ悪くはないだろ」

 

「・・・だよね!そうだよね!最近ハチくん何かと忙しそうだったから、少し心配してたんだよ。でも気分転換になってくれたならよかったよ」

 

 先ほどまでのしおらしい様子はどこへやら。一気に調子づいて明るくなるユナに思わず小さく溜め息が溢れてしまう。本当に気分の忙しないやつだよ。

 

「ほれ、もう帰るぞ・・・つってもユナは今この辺に泊まってるんだっけか」

 

「うん。この18階層も落ち着いてきたしね。ノーくんたちのパーティのレベルが丁度この辺の敵に合ってるんだって。多分しばらくはここを拠点にしてレベリング?するんじゃないかな」

 

「へぇ・・・ノー君も頑張ってるんだな。ユナはそっちのパーティとは組まないのか」

 

「え、だってハチくんといる時じゃないと、フィールドには出られないでしょ」

 

 ユナは何言ってんだコイツ、みたいな顔でキョトンとした顔をしている。うーん、何故か小町を思い出す。

 というか、そんな序盤のころの縛りを未だに守っている事に驚きだよ。なんなの?忠犬なの?ちなみに西郷さんとハチ公は実は関係無いという説が濃厚らしい。本当にどうでもいいけど。

 

「今度また特訓?って言って良いのかは知らんが、まぁ、フィールドに出かけたい時には、なるべく早めに言っておいてくれ。じゃないと俺にもほら、予定があるからな・・・」

 

「でもハチくん、友だちいないじゃん」

 

 ぐぬぬ・・・痛いところを突いてくるじゃないか。しかし、そんな事で負けるようでは、プロぼっちは騙れないというものだ。

 

「いいか、俺は友だちが居ないんじゃなくて、作らないんだ。そこんとこを履き違えるなよ」

 

 別に人間強度が下がるからとか、そんな某吸血鬼のりゃりゃりゃ木さんみたいな思考ではないが、それでも友人関係なんて煩わしいものは、少数でいい。

 だから俺は友だちが少ない。あれ、どっかで聞いたことあるような・・・。ラノベのタイトルにしたらヒットするんじゃね?キマシタワー!

 

「・・・またそうやって、真顔でアホなこと考えてそう。ま、いいけどね。次はハチくんに言われた通りに前もって連絡入れるから、ちゃんと返信してよね。それじゃあね」

 

「おう、じゃあな」

 

 そう言うとユナは、夕闇に染まりつつある町並みの中に消えていった。

 

「さて、と・・・俺も用事を済ませるとするかね」

 

 一人、誰に言うでもなく呟いた後に、先ほど潜ったばかりの転移門へと足を動かす。

 寝たいのは山々だが、先ずは用事を済ませてからだな。

 

 

 

 

 コンコンっ

 

 陽も落ち、既に辺りも暗くなった路地に面した、少し寂れた雰囲気の宿屋の扉の前に立つ。

 事前にメッセージで伝えられていた宿屋へと向かう。どうやら彼らは、現在24階層のこの宿屋を拠点としているようだ。

 ノックの音に反応するように扉が開く。こいつ、待ち構えていたのか?

 

「ハチマンさん!よく来てくれました。ささ、上がって下さい」

 

「おう、邪魔する・・・。他のメンバーは?」

 

「今は出払っています。なんでも今日中にこなさないといけないクエストがあるらしくて・・・」

 

「そうか、・・・悪いな、そんな時に頼み事をしちまって。別の日でもよかったんだぞ」

 

「いえ、僕がハチマンさんに早くお渡ししたかったので・・・。例のもの、出来てますよ」

 

 そう、俺が会いに来たのはナタク。

 あの後も二階層でもまぁ・・・色々あったな、うん。

 その後も何かと世話を焼いていたのだが、最近になってナタクに頼み事をするようになっていた。というのも・・・。

 

「ハチマンさん、これが今回の分です。・・・実は最近鍛治のレベルが上がって、前より頑丈になったんですよ」

 

「へぇ、そりゃ助かるな。ほら、今回の分の報酬だ。受け取ってくれ」

 

 そう言ってナタクから受け取ったアイテムをストレージへと収納して、報酬をナタクへと支払う

 

「はい.確かに。・・・ってこれ聞いてた報酬よりも多いですよ!受け取れません!」

 

「あ?そうだったか?・・・ただの操作ミスだ。ラッキーと思って受け取っておけ」

 

 実際、ナタクから貰っているコイツには助けられているしな。それを考えれば5万のチップなんて安いもんだ。腕のいい鍛治師とは良好な関係でいたいしな。

 

「・・・それなら受け取らせてもらいますけど、そんな捻くれたやり方じゃなくていいんじゃないでか?これじゃ奉仕部の人たちも大変そうだな・・・」

 

「うっせ。それに奉仕部の奴らとは、最近は関わりを持たないようにしているしな。面倒くさいやつが顔を出さなくて清々しているだろうよ」

 

 実際、最近会うとしたらたまに出席するボス攻略でアスナと出くわすか、アルゴから情報を仕入れる時くらいだしな。

 

「ハチマンさん、それ本気で言ってるんですか・・・?」

 

「は?」

 

 本気も何も、それがお互いのためにベストな選択だろうよ。だからこそ、雪ノ下たちも俺のソロプレイを了承したんだろうしな。

 

「・・・まぁ僕から言えるような事じゃないんで、あまり首を突っ込みたくはありませんけど・・・。後悔しないで下さいよね」

 

「何をだよ」

 

「・・・知らないんですか?奉仕部の方々は有名ですよ。美人ばかりで構成されたクランだって」

 

「・・・それがなんだよ」

 

 あいつらの見てくれが良いのは周知の事だろうう。何を今さら・・・。

 

「彼女らを狙っている男も多いって事ですよ。・・・僕から言えるのはそれだけです」

 

 そう言うとナタクは、これ以上は話す事は無いと言わんばかりに口を噤む。

 あいつらを狙う、ねぇ・・・。まぁ、見てくれは良いからな。内面を知らなければそんなもんだろ。いや、性格が悪いって言うんじゃないけどな・・・慣れない人には厳しいものがあるだろうから、ね。

 

「・・・そうかい。ま、気が向いたら偶には顔を出すようにはする」

 

 ただし、いつ気が向くかは言っていない。

 

 それから短い別れの挨拶を交わして、ナタク達の泊まる宿を後にする。

 試しておきたいこともあるが、それは明日でいいだろう。今日はとにかく眠い・・・。

 

 転移門を潜り、28階層にある自分の泊まっている宿の部屋へ着いた途端にベッドへと倒れ込む。時刻を確認する気力もなく、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 次の日の朝、というよりも、もう昼近くだな・・・。

 視界の端にメッセージアイコンが“早く見ろ”と言わんばかりに自己主張を繰り返していた。

 これは多分、うん、アレだ。見ない方が良さそうだ。見たら絶対ロクなことが起きない、そうに違いない。

 尚も自己主張を繰り返すメッセージを差出人も見ずに無視して、洗面所へと向かい顔を洗う。データの世界だと分かってはいても、染み付いた習慣というのは中々離れないものではあるのだと実感する。

 

 顔を洗い、さっぱりしたところで、昨日試しておきたかったことを実践するべく外へと出ることにする。

 日は既に高く登っており、現在この階層が最前線ということもあるためか、人通りもそれなりにあるみたいだ。

 とは言っても、最前線に出てくるヤツなんてのは攻略組と呼ばれるヤツらくらいなもんだろう。

 

 街の中を最前線で突っ切ってフィールドへと出るため、門を潜る。目指す目的地は東に広がる狼ヶ原だ。

 

 フィールドへ出てから十数分程で目的の狼ヶ原へと到着した。道中で何組かのパーティを見かけたが、どうやら知り合いは居なさそうだ。よかったよかった。

 幸い、ここにも視界に映る範囲には人影も見当たらない・・・というわけでもなさそうだな。

 既にお馴染みとなった鷹の目スキルを使い、離れたところで骨の突き出た狼型のmob、“ボーンエッジ・ウルフ”と戦闘をしているパーティを観察する。

 赤い武者鎧・・・。随分と個性的なパーティだな。一人一人が強い、と言う訳ではないが、連携がしっかりと出来ているパーティだ。

 

「・・・ま、あの分じゃ特に心配はないだろ」

 

 おっと、いかんいかん。人の心配をする程の余裕なんてものは持ち合わせてはいないんだ。自分の身のことで精一杯。身の丈にあった身の振り方を・・・ってな。

 

「ーーーさて、こっちも始めるかね」

 

 手頃な距離にいる狼型のmob、さっき見かけたパーティが戦っていたやつと同種のmobに狙いをつける。

 まだ気付かれてはいないようだし、このまま背後攻撃で速攻で仕留めても良いのだが、それでは、わざわざ試そうとしていたことも試しようが無い。

 その辺に落ちている小石を一つ掴み取り・・・。ーーーmobへと投げつける。

 

 シングルシュート。投擲スキルの初歩的なスキルで、モノを投げて相手にダメージを与える。・・・のだが、いかんせん小石程度では微量ほどのダメージ与えられない。精々注意を惹くのが関の山だ。

 しかし、今回の目的はシングルシュートの練習に来た訳ではない。ストレージから昨夜ナタクから受け取っていた物・・・苦無を取り出し、左手に逆手にして構える。いいね、案外しっくりくる。

 

「さて、どうなるかな・・・」

 

 

 

 

 戦闘を開始してから、すでに2時間程の時間が経過していた。

 一区切り付いたところで、俺はセーフティエリアにある岩場に腰掛け、戦利品の整理とステータスの振り分けをしていた。ステータスは相変わらずDEXとAGIに振り分けている。VITとSTRが心許ないが・・・敵の攻撃が当たらなければVITは必要ないし、DEX上げて致命攻撃の確率とダメージを上げればSTRもそこまで気にならないしな。

 

 朝食、と言うよりももはやおやつの時間に差し掛かってはいるが、本日初の飯も摂っておくことにする。サクッと食べられるサンドイッチだ。

 プレイヤー達の中にも味に飢えていたり、料理が好きな者達も、中には数多く居るんだろう。今ではそれなりに味のある料理が販売されるようになっていた。

 ・・・それでも、雪ノ下やアスナの料理に比べると、どうにもいまいちな感じがする。スキルレベルなんかは今の生産色のプレイヤー達の方が高いはずなのに、どうしてなんだろうな。

 

 考えたところで結論は“餌付けされた”としかならないな。

 

 不意に東側の方が騒がしくなり、鷹の目スキルでそちらを確認する。

 砂埃と複数の影が段々とこっちへ近づいて来る。その先頭を走るのは・・・先程の赤い武者鎧のパーティだ。

 その後ろには狼型のmobが10・・・いや、15体は居るな・・・。そしてその更に後ろには・・・。

 

「おいおい、マジかよ・・・。フィールドボス連れてんじゃん・・・」

 

 恐らく、不意のエンカウントにセーフティエリアへの撤退を試みるも、遁走しながらも周囲のmobまで惹き付けてしまい、いよいよ本格的にマズくなってきた。といったところだろう。

 しかし、悲しいかな。 mobにターゲッティングされている状態ではセーフティエリアに入る事は叶わない。この階層で活動しているプレイヤーがそれを知らないとも思えない。つまり、そこまで思考が追いつかない程マズい状況なのだろう。

 このままでは、彼らの見る最期の光景は、セーフティエリアで優雅にサンドイッチを貪る無慈悲でアホな男となってしまうだろう・・・。なにそれ悲惨すぎない。

 ともあれ、そんな事になってしまっては俺の精神衛生上よろしくない。・・・何より、こんな状況で放置したとあっては奉仕部の連中にドヤされかねないからな。

 

 食べかけのサンドイッチをそのまま口の中に放り込み、少ない咀嚼で飲み込んだ後に立ち上がる。短剣を右手に、苦無を左手に素早く装備し、砂埃を巻き上げこちらへと近付く集団へと駆け出す。

 

「ーーーっ!おおーい!そこのあんたっ!逃げてくれぇ!」

 

 向こうのパーティも俺の姿に気付いたのか、先頭の男が大声で呼びかけてくる。いや、俺だって無視できるんならそうしたいけどさ。

 

 一行との距離は、既に10mも無いところまで近付いていた。

 

「・・・時間を稼ぐ。その間に態勢を整えろ!」

 

「は!?でもっ!待っ・・・」

 

 返される言葉を聞かないままに赤い武者鎧の一行とすれ違い、狼型のmobの群れへと突っ込みながら、短剣により突きを放ち、一体目を仕留める。瞬時にヘイトが俺に集中し、標的が変わったのを確認して進路を逸らす。

 彼らは・・・どうやらセーフティエリアへ無事に逃げ込めたようだ。まさかこのまま見殺しにされることなんてないよな・・・。ないよね・・・?

 

 一抹の不安を抱えながら狼共に相対し、瞬時に状況を確認する。現在、一番近くにいる二体の狼は既に攻撃の体勢に入っており、その他は俺の背後へと回るために旋回をしようとしている。そしてフィールドボスである大狼“ボーンエッジ・ウルフ・オルタネィティブ”は少し離れたところで様子を伺っていた。

 一緒に襲って来ないのならば好都合だ。

 

 二体が同時に飛びかかり、獰猛そうな爪と牙を体に食い込ませんと襲いかかる。一体目の爪を短剣でいなし、二体目の牙を苦無で弾く。発生した隙に間髪入れず一体に体術スキルによる蹴りを、そして二体目に蹴りの勢いで流れた体勢のまま短剣で斬りつける。

 蹴りによるノックバックで一体は遠ざけるものの、もう一体は仕留め損なったみたいだ。だが、未だに張り付いてくるというのなら・・・。

 

「サイドバイトッ!」

 

 短剣を逆手に持ち替え、ソードスキルによる一閃でトドメを差す。

 

 あと13体・・・。正直厳しい戦いだと思う。2体、いや、3体までなら同時に相手取れるかもしれないが、それ以上になると無傷で乗り切るのは不可能だろう。回復する暇も与えないほどの攻撃を喰らえば、いくらAGIを上げていて回避力が上昇しているとはいえ、そんな綱渡りみたいな戦い方では限界が来る。その前に勝負を決めなければ・・・。

 

「・・・いくぞワンコロ共」

 

 一息吐いて、短期決戦に持ち込むべく狼の群れに突っ込む。

 

 

 

 ーーーーーーあれからどれくらい戦っていたのだろう。

 10分?30分?1時間?ーーーいや、実際には5分も経っていないのかもしれない。それでも、体感で感じる時間と疲労は凄まじいものだった。

 狼の数は残り4体ほど。いや、めちゃくちゃ頑張ったよね。大健闘だよこれ。

 既に手持ちの苦無は、今手に持っている1本と腰のポーチに差している2本とストレージに2本。

 ナタクの鍛治スキルが上がって苦無の耐久度が上昇してなけりゃ、本当に死んでたかも・・・。生きてたら今度ボーナスあげるね。

 

「おぉーい!すまねぇ!立て直すのに時間食っちまった・・・ってなんだこれ!?お前さん、一人でやったのか・・・」

 

 赤みがかった髪にバンダナ。それに無精髭が特徴的な男が後ろから声をかけ、横に並んだ瞬間に驚嘆の声を上げる。先ほど先頭を切って走っていた男だ。恐らくコイツがリーダーなんだろう。

 ようやく戻ってきてくれたか・・・。ほんとに見捨てられたのかと思って、危うく闇堕ちしかけたぞ。

 

「おせぇよ・・・。粗方倒したし、残りは頼むわ・・・。とはいえ、フィールドボスの動きが奇妙だ。油断はするなよ」

 

「お、おぅっ!残り4体だろ?まぁかせとけっての!行くぞっ、野郎どもぉ!」

 

 無精髭の男が声をあげると、周りからも野太い声があがる。完全に男だらけのパーティだ。いや、別に珍しいってわけじゃないんだけどさ、多分奉仕部がおかしくて感覚が麻痺してるんだな。これが普通なんだ。

 

 ともかく、残る狼の数は4体。先刻見ていた彼らの熟練度ならば、さして危なげもなく戦えるだろう。

 その間、俺は岩に座って高みの見物・・・ではなく、体を癒さないとな。回復結晶は温存しておいて、回復ポーションでチビチビと回復していく。

 相変わらず不味いな・・・。戦闘中ならそんなに気にする余裕もないから思うこともないが、素面で飲もうと思うと、これがなかなかに不味い。だれか美味しく味付けしてくれたポーション作ってくれねえかな。できればマッ缶味。

 

 そんな呑気なこと考えられる余裕があるのも、彼らが今奮闘してくれているから。そして大狼が未だに後方で様子見をしているから。

 しかし、いつ動き出すのか分かったものではない。油断は禁物だな・・・。

 

 そしてついに最後の一体が光るエフェクトを残し、消滅した。体力も回復したことだし、俺もそろそろ戦線に加わるかね。実は少し前には回復しきっていたことは、クラスのみんなには内緒だよ。

 座っていた岩から腰を上げ、リーダー格の男の近くまで寄る。

 

「おっ、ようやくおいでなすったか大将」

 

「・・・いや、大将とかじゃないから。それよりも、ボスの方はどうだ」

 

「おう、奴さんも動き出すみたいだぜ」

 

 リーダー格の男がそう言うと、大狼がのそりと動き、一呼吸置いたかと思えば・・・盛大な雄叫びを上げる。

 

「ぐっ・・・!うっせ・・・!」

 

 そのつんざく様なハウリングに思わず全員が耳を塞ぎ、体を硬直させてしまう。

 どうやら第二ラウンド開始の合図のようだ。

 




というわけで二章一話目でした

ちょっと引きが下手くそすぎますね。ほんと、このセンスの無さはどうにかならないものか・・・
参考に色んな小説も読んでるんですが、全然活かせないです

次もお楽しみにしていただければ幸いです




次回予告てきなもの

「おいおい、嘘だろ・・・」

「とりあえず、雑魚は俺が引き受ける。その間抜けるが、ボスを頼めるか?」

『こんどは木っ端微塵にしてやる・・・。あの髭バンダナのように!!!』

「やったか!?」

「報酬ハーーーオネーサンと添い寝カ、いつものカ・・・どっちがイイ?」

「ちょっと可愛いけど、あざとい。12点だ」

そんな困るような事態になる前に撤退するのが俺なんですけどね。押してダメなら諦めろ。

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