ようやくクリスマス回に突入できます…
書きたいことが多すぎて、添削できないんです…
ほんと、簡潔にわかり易い文を書けている人ってすごいなって思いましたまる。
ユナの死から1ヶ月ほどが経った今日、12月24日。
一部のプレイヤーはクリスマスイベントに色めき立って、浮き足立っていた。
俺?俺はアレだよ、ウチ仏教だし?聖歌の代わりに般若心経唱えちゃうくらいだし?会ったこともない故人の生誕祭を祝うなんて趣味はないし?一年365日の内の一日というくらいの認識だし?なんなら街頭でコスプレして働いてる売り子さんを応援してあげたいくらいだし?
つまりアレだ。お前らクリスマスイベントなんてリア充イベントにキャッキャしてないで攻略しろよ、ってこと。
しかしまぁ…、そんなリア充御用達のクリスマスイベントだが、攻略に関しては全くの無関係というわけでもないようだ。
オンラインゲーム然り、ソシャゲ然り、古今東西その手のゲームでもクリスマスという一大イベントには必ずと言って良いほど乗っかってくる。
それはこのデスゲームと化したVRMMO“SAO”も、漏れなく例外ではないようで…。
「クリスマス限定イベントボスを倒して蘇生アイテムをゲット、か…」
「あぁ…。各種方面から集めた情報やNPCから聞いた話によると確かな情報ダ」
クリスマス当日の真昼間に雪ノ下から奉仕部に呼び出されたかと思えばそこにアルゴが居るではないか。別にいいんだけどね、ええ、もちろん予定なんてありませんでしたから?
で、アルゴから話があると聞いてみれば、どうやら12月24日の決まった場所、決まった時間を訪れることで現れるボスがいるんだとか。
ソイツを倒せば何やら蘇生アイテムが手に入るんだとかなんとか…。
正直、とても興味をそそられる話ではある。これまでどれだけ探しても見つからなかった蘇生アイテムだ。もしも本当に手に入るのであればユナだって…。そう考えずにはいられない。
「…ゆきのんとユイユイはこの話、どう思う?」
「あたしは…可能性があるんだったら試してみたい…とは思うよ」
「そうね、確かに眉唾ものではあるのだけれど、アルゴさんが入手した情報なのだし…。何より私も、僅かな可能性であったとしても、賭けてみたいわ…」
「……」
二人の言うことは至極真っ当、もっともなことだ。
だけど、こんなデスゲームを仕組む人間性の破綻したような人間が、そんな救済措置を施すだろうか…。俺ならそうはしない。今さらそんなヌルゲーにするなんて…。だからこその“SAO”という名のデスゲームなのだ。
ーーーそれに茅場晶彦は最初の説明の時に『一切の蘇生手段はない』と言い切っていた。そんな彼が死んだ者を生き返らせるような真似をするだろうか…。
「…ハー坊の懸念も分かル。ハー坊が来る前にのんちゃん達には話したケド、二人ともやる気はあるみたいだゼ」
「…そもそも、なんでこんな話を持ってきたんだよ」
「それは私が頼んだのよ」
え、なんで?
「え、なんで?」
思わずモノローグのまま声に出てしまう。いやだって、そんなこと雪ノ下がお願いするなんて思ってなかったものだから…。
「…私だって、もう一度ユナさんに会えるのなら会いたいのよ…。それに、あなただって随分と必死に探していたじゃない」
「それは否定しないが…」
というか否定できない。現につい最近まで手がかりを探していたのは確かだ。しかし、茅場晶彦はこうも言っていた。ーーー『HPがゼロになった瞬間に脳が破壊される』と。
本当にHPがゼロになった瞬間に脳を破壊されるのかは分からない。現にユナはあの時、最期の瞬間にHPはゼロになっていたにも関わらず口を動かしていた、しっかりと意志を伝えていた。少なくともその瞬間までは“脳が破壊される”ということはなかったということだ。
刹那、差し伸べた手が届かず護れなかったユナの姿が、脳裏にフラッシュバックする。
ユナの最後の瞬間を思い出し、胸に鈍く重い痛みが走る。
…いかんな。どうしても、ふとした瞬間に思い出してしまう。気持ちを切り替えないと。
「…デ?ハー坊はどーするんダ?」
「俺は…今回はパスだ」
「ヒッキー!?」
「…どういうことか教えて貰えるかしら」
こえーよ、なんでそんなに圧かけて睨みつけるんだよ。攻撃力下がっちゃうだろ。
「理由はまぁ、そうだな…単純に三つだ。一つ目はリスクの問題。ボスの推定レベルは65〜75って話だったが、最低でもパーティを組まないと今の俺たちでは太刀打ちできないだろうし、挑戦したところで無駄足…いや、最悪死ぬ可能性もある」
「そんなもの、他の高レベルプレイヤーに助っ人を頼めばいいじゃない」
当然、それだけじゃ納得はしないよな。
「まぁ聞けって…。助っ人を頼むってのは、二つ目の理由により難しいんだが…蘇生アイテムなんてもの、最前線の大手攻略ギルドがみすみす見逃すと思うか?今までのイベントボスの傾向から複数回出現するとしても、最低でも1日はインターバルを空けないとリポップしないと見ていい。ということは、クリスマス限定のこのボスは、今日“一回”だけしか出現しない。つまりはその分競争率も跳ね上がるってことだ」
「ちなみに、アルゴ。この蘇生アイテムの件、他の上位ギルドは把握しているのか?」
「まぁナ…いくつか既に動いているギルドは在ル。アーちゃんのいる血盟騎士団、聖龍連合なんかがそうだナ」
「たしかに、蘇生アイテムがあれば今後の攻略でも有利だろうしねー」
「攻略ギルドとしての面子もある…というところかしら」
「そういうことだ。で、三つ目の理由だが…正直、あんまり期待できないっていうのが大きいな」
「…それはどうしてかしら?」
今日は珍しく質問が多いですね、雪ノ下さん。
「“蘇生アイテム”と言っても、それがプレイヤーに適用されるとは限らないだろ。NPCやモンスター用の可能性だってある…いや、むしろその方が可能性は高いかもな」
「…あなたの意見も一理あるわ。でも、それはあなたの憶測で、私見でしかないのではないかしら」
そう、あくまでも俺の憶測だ。期待“できない”のではなく、“したくない”のだ。
自分勝手な我儘…思想、エゴの押し付け。俺がされて最も嫌いなことを、こいつらにしているのだ。
なんて度し難い大バカ野郎だ。内心で自嘲してしまうのも無理はない。
「そうだな、だから別にお前らにはイベントに参加するなとは言わない。したいなら勝手にすればいい。ただし、俺は参加しないがな」
冷たく、素っ気なく、突き放すように言い放つ。
「ヒッキー、そんな言い方は…ゆきのんだって…「いいの、ユイユイさん。いいの…」…」
分かってる。雪ノ下は俺の助力を当てにしてくれていたんだ。それ自体は何も問題はないし、むしろ雪ノ下に頼られるというのは嬉しかった。現実世界に居た時じゃ、なかなか考えられなかったことかもしれない。
だけど今は機会が悪い。雪ノ下には悪いが、ここはスッパリと断らせてもらう。
「…悪いな、せっかく頼ってくれたのに」
「あら、なんの事かしら?まさか私が攻略のために協力を乞うとでも思ったのかしら。自意識過剰ここに極まれりね。呆れてものも言えないわ。ついに欠片を残していた自意識ですら、その練乳に浸けた脳みそと一緒に溶かしてしまったのかしら。
でもそうね、あなたの言うことにも一理あることだし、少しは納得がいったわ。ええ、本当に少しだけね。
だから、というわけではないのだけれども、今回の攻略は私たちも見送ることにするわ」
「…さいですか」
長い、長いよゆきのん。要約すると『ふんっ、べ、別にアンタが言うから取りやめるわけじゃないんだからねっ!』ってことでしょ。ゆきのんまじツンデレ乙。いやデレられてないけど。
「でも、そうなったら今日の予定が丸々空いちゃうね。あーあー、せっかくのクリスマスなのになー」
いや、知らないよ。なんでこっちをチラチラみるの、ガハマさん?それ、そのクリスマスに人を巻き込んでボス攻略に行こうとしてた人のセリフじゃないからね?
「…そうね、急遽予定の変更を余儀なくされたのだから、その責任くらいはとってもらわないといけないわね」
「いや、さっきのやりとりで俺の助けなんか要らないって言ってたじゃん」
「あら、私はこうも言っていたのだけれど?あなたの言うことにも一理あることだから、納得させられた。と…その頭にはスポンジケーキでも詰まっているのかしら?」
「クリスマスケーキだけにってか?やかましいわっ」
それに“少し”って言ってなかったかしら、雪ノ下さん?
…アルゴも由比ヶ浜も、なんでそんな冷めた目で俺を見るんだよ。
「ヒッキー…それはちょっとセンスないってゆーか…」
「お、オウ…さすがにオレっちもこればかりは擁護できねーゾ」
俺が何したって言うんだよ…。多分前世でよっぽど悪徳を積んでる。明らかに言わされてたじゃん今。
「…なぁ、話が終わったんならもう帰ってもいいか?」
「どこへ行こうというのかしら逃げ谷くん」
「そうそう、逃がさないんだからね」
おうふ。なんで左右からがっつりホールドしてくるんですかね。見ようによってはモテモテハーレム系ラノベの主人公のように見えなくもないが、勘違いしてはいけない。
俺は知っている…これが地獄への序章、罠だということを…っ!
『美人に迫られたら美人局だと思え』という親父の教訓が活きたな。
しかし、右腕にかかる由比ヶ浜のたわわなたわわの誘惑に、八幡も思わずはわわしちゃうよ。いや、アホなことを考えている場合ではなくてだね。
「どうせハー坊も予定なんて無いんだロ?観念しろって」
「いやほらアレだ。今日はこれからアレがアレで…」
「あら、クリスマスなんて日にあなたに予定があるとでも?…もしかして女の子かしら…?」
痛い近いいい匂い。雪ノ下さん、そんなに腕にきつく抱きつかれると男としては悪い気はしないが、その…肋骨に押し付けらた腕ががががが!
「ってえ!何するんだよ!」
「ごめんなさい、邪なことを考えている気配がしたものだから、つい…」
“つい”で関節を極められてたまるかっ。
それにしてもこの雪ノ下…、微笑んでいるはずなのにこの殺気はなんなの?美人の冷笑を含む殺気がここまで怖いものなんて、小町…お兄ちゃん聞いてないよ…。
「こーなっちまったラ諦めるしかねーナ。ハー坊?」
神よ、救いは無いのですか…?
39層、主街区ーーー
結局、その後は雪ノ下と由比ヶ浜の二人に連れ回され、クリスマスムードになっている長閑な街中を散策することになった。
下層の方なんかは、有志のプレイヤー達がイルミネーションを追加したりで華やかになってはいるが、人が多いのは苦手だしな。それに美少女を二人も連れて歩いていたら妙な噂が立ちかねない。むしろ刺されそう。
一応、由比ヶ浜がアルゴも誘ってはいたのだが、予定があるからという事で断られたみたいだ。予定なら俺もあるって言ったのに…。
暫く街中を練り歩き、NPCの経営するカフェに入ってお茶をしたり、ウインドウショッピングをしている二人を後ろから眺めたり…。
別にクリスマスらしいこと、というのは特に何も無いかもしれないが、由比ヶ浜曰く『こういうのは雰囲気と、誰と一緒にいるかが肝心』だとのこと。これまで、独りか小町と過ごすくらいしか選択肢がなかった俺にはよく分からんな。
時刻も夕方にさし掛かろうとする頃、女子二人もようやく疲労してきたのか、町外れのベンチにようやく腰を掛けることができた。いや、マジで疲れた。多分ボス攻略より疲労感あるわこれ…。
しかしまぁ、なんだ。こうしてクリスマスに三人で歩いていると……
「…なんか、去年のクリスマスを思い出すね」
ちょうど同じようなことを考えていたのか、由比ヶ浜が不意に口を開く。
「そうね…とは言っても、去年はクリスマスパーティのゴタゴタで楽しむ余裕なんか無かったのだけれど」
「あの海浜高校の連中のせいでな」
今思い返しても海浜のやつらのやり方はムリがあっただろ。でもあの意識高い系の話し方が、一時期俺の中でムーブメントを起こしていたのは内緒。
「あはは、…でも、あたしは楽しかったよ。みんなで何かを成し遂げた、って感じで。…ヒッキーがあの時、頼ってくれたおかげだよ」
由比ヶ浜の一言に、俺も雪ノ下も考えていることは違うだろうが、言葉が上手く出てこなかった。
暫しの静寂。まるで一面の雪に音が吸い込まれているようだ。
でも、それも別に気まずいとか、不快とか、そう言った類いのものではなく…環境は違えど奉仕部の部室のような、久しぶりの心地の良い空気を感じられた。
「そうだヒッキー、これ、クリスマスプレゼント。受け取って」
メニュー画面越しではなく、直接手渡されるそれは何やら花柄の紙袋に梱包されていた。
「これは…バングル…?」
袋から取り出したそれは、水色の宝石が装飾された銀のバングル。特にこれといって付与された効果などは見当たらない。
「えへへ、最近知り合った鍛冶師の子に作ってもらったんだ」
へえ、プレイヤーメイドか。特筆してステータスが上昇したりする訳ではないが、デザインがかなり俺の好みだ。
「私からもこれ…受け取ってくれるかしら」
雪ノ下から受け取ったのは淡い桃色のミサンガのアクセサリー。華美なデザインではないが、男の俺が着けていても違和感がないような色使いになっている。
これも由比ヶ浜からもらったバングル同様、付与効果などは特にないが、なんだろ、こう…純粋に照れくさい。
「あー…その、ありがとうな。でも俺、なにも用意してなかったんだが…」
「いいのよ。これは私たちが勝手に用意していたのだから」
「そうそう。去年のお礼にね。受け取ってよ、ヒッキー」
…まぁ、貰えるって言うんなら貰っておくか。
バングルはまだ自分で着けられるが、ミサンガはな…。片手で結ぶのはやはり難しい…っ。
メニューから装備すればいいじゃないかと思ったが、それは野暮な気がして、どうしても直接身に着けたかったのかもしれない。
「ほらね、やっぱり言った通りだったでしょ、ゆきのん」
「本当に由比ヶ浜さんの言っていた通りになったわね。あなた、その行動の読みやすさはどうにかした方がいいわね。コボルトだってまだマシなアルゴリズムをしているわよ」
散々な言われようである。しかし現に予測が的中しているみたいだからグゥの音も出ない。しかも由比ヶ浜に。
「かしてご覧なさい」
「……?」
差し出された手を訝しんでしまい、まじまじと見つめる。なに、お手?それともやっぱり返して的な?
「着けてあげるから、ソレと手首をかしなさいと言っているのよ。は、早くしなさい」
「へいへい。俺の手首はフランキーじゃないから外せるかは分からんぞ」
雪ノ下の指示に従い、左手首にミサンガを乗せたまま突き出す。
「…?よく分からないのだけれど、…対面からでは結びづらいわね…比企谷くん、ちょっと失礼するわね」
「え、なに、ってうおっ!ちょちょちょ…っ!」
ちょっと待った!ちょ、ちょっと待った!これから勝負をするつもりもないし、張る必要もないけど、さすがにこの距離感は近すぎなのでは!?俺の向きから結ぶために雪ノ下の体が密着することとなり、程よい圧感と雪ノ下の髪の薫りが鼻腔をくすぐる。
たしかに他人の靴紐を結んであげたりネクタイを結んだことはないけれども、それがしづらいのはまぁ何となく分かるけど!これはさすがに近すぎ…というか体を密着させすぎではありませんこと!?
近い近いい匂い柔か…くはないな。うん。
「ゆ、ゆきのん!?ヒッキーに近すぎだし!」
「そうは言っても…んっ…、仕方ないじゃない。この男がアクセサリーの一つも自分で着けられないような、愚鈍で愚図なのだから」
いや雪ノ下さん、それ言いすぎィ!というか、そんなに密着した状態で、耳元で変に艶かしい声出さないでくださいます?なんだか変な気分になっちゃうでしょ!男の子なんだもん。
「…ほら、できたわよ」
「お、おう」
いつの間にかミサンガを結び終えた雪ノ下が立ち上がり、体に掛かっていた圧と薫りから解放される。別に名残り惜しいなんて思ってやしない。思ってないったら思ってない。
二人にもらったプレゼントの着いた左右の腕を並べて鑑賞する。左手に由比ヶ浜からもらったバングル。右手には雪ノ下からもらったミサンガを。
こういうのって着ける場所で何か意味があるんじゃなかったっけ?まぁいいか。こうして見てみると不思議としっくり来るしな。
「うーん、なんか、思った以上に似合わないね…」
え、そうなの?俺的には中々しっくり来てたのに、なにこの裏切り、辛い。
「…そうね、比企谷くん自体、あんまりアクセサリーなんて装飾品を着けるイメージがないかしらね」
「うっせ。…まぁ気が向いた時にでも着けるとするよ」
そうは言いつつも、なぜだか外す気にはなれなかった。多分今は気が向いているんだろうな。そういうことにしておこう。
不意に、ベンチの横に立っていた街灯に明かりが灯る。…もうこんな時間か…。
「ーーーさてと、そろそろ行くとするよ」
「やっぱり行くんだね、ヒッキー…」
「…あなたの事だから、引き留めても無駄なのでしょうね」
…なんだよ、俺がこれからしようとしていることなんてバレバレだったの?やっぱり、コボルト以下のアルゴリズムっていうことに関しては否定しきれないかもな。
「悪いな、やらなきゃいけないことがあるんだわ…」
「分かっているわ…。絶対に無理はしないでちょうだい」
雪ノ下の言葉に俺は返事を返すことはなかった。いや、出来なかった。こいつらに嘘をつくことはしたくなかったから。
「ーーー星が綺麗ね」
無言のまま立ち上がり、その場をあとにしようとしていた俺の耳に、雪ノ下の小さな呟きのような言葉が聞こえた。
その言葉に促されるように空を見上げるが、生憎の曇天。雪は降れど、星は欠片も見当たらなかった。
「よお、アルゴ。待たせたな」
「やっぱり来ちまったか、ハー坊…」
なんだよ、そっちから呼んだくせそんなこと言うの?来ない方がよかったかの?
「俺に頼みがあるんだろ?そのためにアイツらにも声をかけた…違うか?」
そう、元来のこいつなら“絶対”にありえないのだ。仲間内だろうと友人だろうと、“無料で情報を提供する”なんてことは。
そんな彼女が情報を提供したということは、何かを手伝って欲しい。もしくは…SOSのサインなのかもしれない。
「…あぁ、キー坊が…一人でボスを倒しに行くみたいなんダ…」
いつもの飄々とした声のトーンとは違って、その低い声のトーンから緊張の度合いが伝わってくる。
キリトのやつ…、最近少しは持ち直してくれたかとは思っていたけど、やっぱりまだ“あのことを”引き摺っていやがったな…。
「先に言っておくがオレっちはキー坊に情報を渡してネエ!
危ねぇから止めとけってオレっちは言ったんダ…!でも、キー坊は退かない、諦めナイ…。頼むハー坊…!あいつを…、キー坊を止めてクレ、手遅れになる前に…っ!」
そういうことか。しかし、疑問も残る…。
「…なんで今日の昼にその事を話さなかった?」
「本当はオレっちだけでなんとかするつもりだったんダ…。さっきまで、どうにかしてキー坊を諦めさせられないかと思って手を打ってみたんだガ…。でも、オレっちじゃキー坊は止められネエ…」
「なるほどな…。それで、予めアイツらに話してたってわけか」
そうであれば、アルゴが俺より先に奉仕部に居たというのも納得ができる。大方、雪ノ下たちに先に話しておいて、話が円滑に進むよう、根回しをしていたのだろう。
「すまナイ…。でも、信じてくれハー坊…っ!決してのんちゃん達を危険に巻き込もうとしたわけじゃ「分かってる」…!」
ーー言ったら分かるってのは傲慢なんだよ。
言った本人の自己満足、言われたヤツの思い上がりーー
そんなことを言ったのはだれだったか…。いや、誤魔化すのはよそう。
今なら少しは理解できるような気がする。違うな…俺は、もしかしたらそう思いたいだけなのかも知れない。
自己満足でも、思い上がりなんかでもない、そう…ただーーー
「信頼、してくれていたんだろ」
「……ハー坊…っ」
「“任せてくれ”なんて、頼もしいことは言えないけど…まぁ、あれだ。やれるだけのことはやってみるさ」
こんな風にしおらしく頼まれちゃ、そりゃ断れないだろ。ここで見ない振りなんかしたら、小町にドヤされちまう。
……それに、ユナにも合わせる顔がなくなったしまう。
「…ありがとう、ハー坊…。これが今回のクエストの詳細な情報ダ。…キー坊のこと、生きて帰してやってクレ…よろしく頼むヨ…」
「…おう」
さて、キリトのやつを再び説教してやりに行くとするかね…。
アルゴからクエストデータを受け取って、そのまま歩き出す。目的地は35層、迷いの森だ。
しんしんと雪の降る中、迷いの森手前でメニューを操作しながら独り佇む。
かれこれ一時間近くここで待ち伏せているんだけど、よもやもう先に迷いの森の中に入ってる、なんてことは無いよね?
なんかだんだん不安になってきたんだけど…。
いや、アルゴから受け取ったクエストデータによれば、規定の時間に迷いの森インスタンスエリアに入る必要があるはず。
キリトは優秀なゲーマーでプレイヤーだ。そこら辺は抜かりなく確認をしているはずだ。
ーーーっと、どうやら来たみたいだな。
「よっ、キリト」
「…ハチマン、か」
こちらへ向かってくるキリトの表情には、あまりにも余裕がない。まるであの時のみたいだ。
「これからイベントボスか?」
「…あぁ。ハチマンもか?」
「いや、俺は今回はパスするつもりだ。独りで勝てるような相手じゃなさそうだし、報酬も命を賭けるには割に合わない。それこそ、こんなものに命を賭けるだなんて馬鹿のすることだ」
「そうかよ…。それじゃ俺は行くから…」
キリトは依然として張り詰めた空気感のまま、俺の背後にある迷いの森へと足を動かす。
「なぁキリト…。まさかとは思うけど、お前…死ぬつもりじゃないよな…?」
「ハチマンには関係ないだろ…」
「たしかに、俺には関係ないな。お前がどんな執念に取り憑かれていて、それで結果として無駄死にしようが、俺には関係ない」
「無駄死に、だと…?」
俯いているキリトの表情はもはや窺い知れない。だけどその声色から、明らかな苛立ちの感情が読んで取れた。
「そうだ、無駄死にだ。だってそうだろ?死んだプレイヤーが生き返る?ハッ…。そんな都合のいい話があるもんかよ。そんな確証もない話に命を賭ける…。
もし“そんなこと”でゲームオーバーにでもなってみろ。それこそ“無駄死に”以外のなんだって言うんだよ」
「…“そんなこと”…?“無駄死に”…だと…?」
「そうだよ。違うのか?まぁお前が無駄死にしようと、犬死にしようと、俺にはどうでもいいことではあるんだがな。困ったことにお前には死んで欲しくないヤツも居るらしい…」
「だから?それがどうしたんだよ…」
ま、どう言ったところで諦めてはくれないだろうな。
「そうだな……ここを通りたければ俺を倒して行けよ」
完全に悪役の台詞だな。言ってみたかった台詞ベスト10に入るかもな。
というわけで、22話目でした!
せっかくのクリスマス回なんでね、もう少しラブコメ感出したかったんですが…
というか、アルゴのセリフ書いているときにどうしても頭の中でナナチに変換されてしまう…。多分そろそろ『んなぁ〜』とか言い出す。というか言わせたい。
次回予告てきなもの
「“こいつ”だけでも、そう捨てたもんじゃないさ」
「ははっ。随分と一方的だな…」
「ちょいちょいちょおい!」
「ねえハチマンくん、これどういう状況?」
「承知した!それでは一手お手合わせを願おうか、ハチマン」
「よっしゃ、大将…ここは俺らに任せてくれ」
「お前が“何か”に許されたいと思っているんなら、立ち止まるな」