やはり俺のVR青春ラブコメは間違っている   作:青鬼ちゃん

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お久しぶりです!
そしてあけましておめでとうございます!

いや、ほんとお久しぶり過ぎて、楽しみにして頂いていた方には申し訳ないです!
ちょっと先の展開で迷走して色々悩んでいました。
年が明けるまでには二章完結させたかったのに…泣

一応方針は決まりましたので、またちょこちょこ投稿できるよう頑張りますので、応援をよろしくお願いします!


二章 拾壱話

 

 

「そうだな……ここを通りたければ俺を倒して行けよ」

 

 雪の降る森の入口。対峙する二人。

 この背筋の寒さは外気温からくるものか、それとも…。

 

「…つまり、俺と“デュエル”をしよう、ってことでいいんだな?」

 

「まっ、そういう事になるな」

 

 デュエル…所謂“決闘システム”だな。両者の間で物事が決まらない時、意見が食い違う時や腕試しに使われることがある。

 ちなみに俺は殆ど使用したことが無い。なぜか?独りでどうやってデュエルしろって言うんだよ…。両者の内、片側しかいなければ、それは文字通りの“一人相撲”だろ。

 

「ルールはどうする?さすがにHPを全損させるわけにも、するわけにもいかないからな。半減か初撃決着になるが…」

 

「半減決着でいい」

 

 やっぱり、そうクるよな。初撃決着ならAgi特化型の俺に有利になるのは目に見えている。

 

「分かった。アイテムはナシナシでいいよな?」

 

「いいのか?回復アイテムはともかく、補助アイテムや投擲アイテムはハチマンの十八番だろ?」

 

 メニューからデュエルの画面を開き、決闘方式の設定を済ませてキリトへ参加の可否を伺うメッセージを送る。

 

「別に構わない。男のケンカに野暮なもんは不要だろ。それに…」

 

 右手の短剣を顔の正面に構え、臨戦態勢を取るーーー。

 

「“こいつ”だけでも、そう捨てたもんじゃないさ」

 

 俺が臨戦態勢を取ったのを見て、デュエルに承諾したキリトも片手直剣を構える。一見、防御を捨てた隙だらけの構えにも見えるが、あれは直ぐにでもソードスキルを発動できる構えだ。

 キリトのやつ、速攻で決めるつもりだな。

 

 キリトとの間にデュエルの開始を報せるタイマーがカウントを始める。

 お互いに無言の中、カウントを進める音だけが鳴り響く。

 

 残り10秒ーーー。

 

 踏みしめる雪の音ですらうるさく感じる。

 この心臓の高鳴りは緊張からか、はたまた高揚感からか…。

 

 5秒ーーー

 3ーー

 2ー

 1

 

 カウントが0になると同時にキリトが駆け出し、その刀身が強く光り出す。

 くそっ、相変わらず良い反応速度をしていやがるっ。フライングじゃないの?システム上不可能だから有り得ないんだろうけど…っ!

 

 こちらもコンマ差で遅れでソードスキルを発動させる。

 キリトの初手は恐らく右からの袈裟斬り、スラントっ!それなら…っ!

 

「フッ…っ!」

 

 カァンーーー!

 

 咄嗟にサイドバイトを放つと、剣と剣が激しくぶつかり合い、火花のエフェクトが飛び散る。

 あっぶねえ…。溜めの少ない短剣のソードスキルじゃなかったら今ので終わってたかも…。

 

 なんて、悠長には考えていられないよな…っ!

 

 キリトは弾かれた剣を構え直すことなく、弾かれた勢いのまま回転し、遠心力のままに左薙ぎの水平切りを放つ。

 

 ギャリギャリギャリーーー!

 

 こちらも弾かれた短剣を逆手に持ち替え、なんとか間一髪で横薙ぎの一閃を下方向へいなして、体勢を崩しかけたキリトの横腹に蹴りを入れる。

 

「ーーッ!はあああぁっ!!」

 

 が、そこは流石はキリトと言ったところか。瞬時に剣先をやや上に傾けたかと思えば、そのまま刀身が再び光り…ってやばっ!

 

「ぐっ…」

 

 不意の突きによる一撃が微かに横腹を掠める。ソニックリープによる緊急回避と攻撃を同時にとは恐れ入る。

 ダメージ自体は大きくはないが、確実に体力を削られた。

 

「流石だなハチマン、今のを躱すとはな…」

 

「…そりゃどうも…」

 

 実際かなりギリギリだったけどね。あと数センチズレてたら致命傷だったかも。

 

 突進攻撃であるソニックリープによって、キリトとの距離は少し離れている。仕切り直しか…。

 

 デュエルに於いて、ソードスキルの連発は禁物と言える。技後硬直の時間が発生するからだ。

 だから基本的には通常攻撃やフェイントなどを駆使して、隙が出来ればソードスキルでフィニッシュをかけるというのがセオリーなのだが…キリトは違う。

 ソードスキルで無理やり隙を作り、そこに攻撃を畳み掛ける。まさに攻撃主体、攻めのスタイルだ。

 

 正直、待ちの構えからカウンターを決めて、手数で攻めたい俺からしたら相性は最悪に悪い。…だけど勝算はある。というか勝算が無ければそもそもキリト相手にデュエルなんて吹っかけない。

 

「ふっ!」

 

 互いの間にはそれなりの距離があったはずだったが、キリトの一足によりその距離は瞬時に詰められてしまう。

 こいつ、今日のボス戦のために相当レベルを上げていやがったな…!

 

 静かだった雪景色は一転して、烈しい剣戟の音が鳴り響く。

 お互いに有効打がないまま、時間が流れていく…。いや、むしろ俺の防戦一方ってところだな。

 このままだと制限時間切れで、体力が少ない俺の敗北になってしまう…。

 

 …くそっ、例のスローモーションを使わないとこんなにしんどいなんて…っ!鷹の目と危機察知をフル稼働させてないと、とっくに負けてますよこれ。

 “補助アイテムなし”なんて、カッコつけるんじゃなかったな…。いや、クナイを使って勝ってもだめなんだ。同じ条件で戦うからこそ意味があるんだろ。

 

「ッシ!」

 

 キリトの四連撃を、右手の短剣で軌道をズラしながら三連撃までいなし、最後の一撃の切り上げをスウェーバックで回避する。

 そのままがら空きとなったキリトの胴体目掛けてソードスキルを発動させた右手を突き出す。

 キリトは持ち前の反応速度で後ろの飛び退き、回避を試みる…が、甘いな。

 

「なっ!?」

 

 本命はこっち。スウェーバックをした時に“左手に持ち替えた短剣”だ。右手側が光ったのは短剣ではなく、体術スキルのエンブレイサー、手刀による刺突スキルだ。

 

 一瞬ではあるが、完全にキリトの意識の外にあった短剣を振り抜き、今度こそソードスキル“バイパーバイト”を発動させる。

 突進しながらの斬り上げ、斬り下ろしによる二連撃でキリトの右腕を斬り飛ばす。

 

「くっ…そお!」

 

 キリトの咆哮が響く。

 っておいおい、まじかよ…!斬り飛ばされた右手に握られていた剣をそのまま空中で掴むだけでも大したものなのに、そのままソードスキルに繋げられるのかよっ!?

 

 躱す…?ムリ、技後硬直で動けない…!体術スキル…、ムリ、諸共斬り飛ばされる…!あっ、おわた…。

 

 ビーーーーッ

 

 けたたましいブザー音が鳴る。デュエルの終了を告げる音だ。制限時間…?いや、時間はまだ40秒近くある。

 キリトの剣は…俺の体に届いていない。寸止めをされたみたいだし…。

 となると、さっきの一撃が決定打になっていて、キリトの体力が半分を切ったのか?とも思ってキリトの体力ゲージを見るが、どうやらそれも違うようだ。

 

「……ぷっ…、っく…、あは、あはははは!!」

 

 キリトは寸止めのまま突きつけられていた剣を軽やかに翻し、左手に持ったまま背中に納刀する。

 てか何でそんな笑ってんの?いかん、状況に頭が追いついてない。

 

「ハ…、ハチマン…、ククク…っ!ゲージ…」

 

 なおも笑い続けるキリトに言われるままに自分の体力ゲージを確認する。

 …あ、本当だ。黄色になったゲージと紫のアイコンが目につく。

 

 しかし、いつの間に半分になっていたんだ?たしかにギリギリではあったけど、直前まで動けていたし、最後の一撃は寸止めだから喰らっていないし…。

 ゲージの下の紫のアイコンがピコピコと点滅を繰り返す。うーん、鬱陶しいなこのアイコン。…アイコン?

 

「って、毒じゃねえか!!」

 

「だははははははっ!!」

 

 くっそ…こいつ笑いすぎだろ。久しぶり…というか、ここまで笑ってる姿は初めて見たかもしれん。

 

 しかし、いつだ…?いつ毒を…って、あっ…。

 し、しまったあああぁ!!

 

「…あの時か…」

 

 “バイパーバイト”…二連撃に加え、付与効果として相手を毒状態にすることがある。しかし、“毒の付与に失敗した場合、自分が毒になる。”

 

 普段あまり使うことがないうえ、毒になったとしても直ぐに解除していたから完全に失念していた…。

 

「ぷくくっ…ははっ…、はぁ…。笑った笑った…」

 

 よっぽどツボにハマったのか、まだ笑い続けていやがる。

 たしかに間抜けな結果にはなってしまったけどさ。

 

「…くそっ、負けは負けだ。行きたきゃ行けよ」

 

「…いいのか?」

 

「あぁ…」

 

 負けてしまったからには俺にキリトを止める権利は無い。

 

 斬り飛ばしたキリトの腕が再生するまで、あと少しは時間があるか…。

 キリトを見れば、右腕の肘から先が無くなっているため、手持ち無沙汰となったのか、残っている左腕で剣を振るっている。

 さっきも思ったけど、君すごいね。なんで利き手じゃない腕でそんなに剣を操れるの?俺みたいに普段から使い分けてるとかなら分かるけどさ。

 

 なんて、聞きたいことはあるけど、ついさっきまで煽ってたのに聞きづらい。というか今更話しづらい…!

 

 俺がもやもやとあれこれを考えている間に、キリトの右腕の再生が完了したのか、剣を背中に納めてメニューを操作している。

 

「……独りで行くのか?」

 

「あぁ、これは俺自身、俺一人の手でケリを着けたいんだ」

 

 “ケリ”ねえ…。どうやら意思も固そうだし、一緒に着いていくという二つ目のプランはダメそうかな。

 

「そうかよ。それなら…ほれ、俺からクリスマスプレゼントだ」

 

 ポーションと回復結晶の詰め合わせをキリトへ送る。これだけあれば階層攻略だってできそうなくらいは十分にあるはずだ。

 

「死ぬ気はないんだろ?だったら生きて帰ってきて、証明してみせろ」

 

 ーーー『キー坊のこと、生きて帰してやってクレ』

 

 今回の依頼は、キリトを“生きて帰す”こと。

 本当は確実を期すために、デュエルで勝って、引き摺ってでも連れ帰るつもりだったんだけど、…まあ、あの結果だしなあ。

 

 一緒に行くのも遠回しにとは言え、すでに拒否られてるし、下手したら俺が足を引っ張りかねない。

 

 それならキリトが最大限にパフォーマンスを発揮できるようにしてやるのが、一番生還率が高まるのかも。

 

 そう考えたら結局、俺がやってたことは“要らぬ世話”だったのかもしれないな…。

 

「ハチマン…ありがとう…!」

 

「…別に、ここでキリトに死なれたら、今後の攻略に支障をきたしかねないからな。あくまでも投資であり、貸しだ。生きてしっかり元を取らせて貰うぞ」

 

 なんかこの言い回しだとツンデレっぽいな。いや、俺にツンデレ属性はないんだけどさ。

 

「ははっ。随分と一方的だな…。分かった、借りはちゃんと返すよ」

 

「おう、分かったんならとっとと行っちまえ。直に他のプレイヤーがここに集まるぞ」

 

 なんて言っている間にもプレイヤーの一団がご到着だ。…ってあの赤備えの一団は…。

 

「ーーーん?おー、大将!それにキリの字じゃねえか!」

 

 クライン率いる風林火山か。少人数ながらに最前線で活躍しているギルドだけあって、その装備も中々に充実したものになっているな。

 

「こんなところで二人で何を…、ってまさか、たったの二人でボスを攻略しようってんじゃないよな!?」

 

「まさか。二人で攻略なんてしないさ。キリト一人で行くんだよ」

 

「はぁー?そりゃいくら何でも無茶だぜ!今からでも遅くはねえ。俺たちなら知らない仲でもないし、一緒にレイドを組んで挑もうぜ。な?報酬はドロップした奴のもの。恨みっこはなしだ」

 

 クラインの申し出は当然だし、素直にありがたいと思う。ただし、今回に限ってはそれはダメだ。悪手だ。

 

 キリトの方を見れば、既に警戒心を顕にしているのが見てとれた。猫じゃないんだから…。いや、獲物を横取りされることを警戒する犬か?

 

「キリト、ここは任せてお前は行け」

 

「…いいのか?」

 

 元よりそうするつもりだったしな。キリト一人に行かせる以上、障害になり得る対象は排除させてもらう。

 そいつらにキリトを妨害してもらって、キリトを諦めさせるという手も考えたが…。それでは何も解決しないし、多分キリトの中に痼が残る。

 現状、攻略に於いてトッププレイヤーのキリトに最良のパフォーマンスを出してもらうためには、その痼を解消してもらう必要がある。

 

 そう、全ては攻略のため、引いては自分が助かるため。

 “他人のために”なんて奉仕精神を、俺は持ち合わせていない。

 

「ありがとうな…!」

 

 キリトが駆け出しながら礼を言って、迷いの森のあるインスタンスエリアへ消えたのを尻目に確認してクライン達の方へと向き直る。

 

「おいおい大将、マジかよ…。本当にキリの字一人で行かせていいのかよ!」

 

「……」

 

 何も答えない。否、答えられない。俺自身、キリトを独りで行かせるのが本当に正解だったのか悩んでいるからか。

 

「ーーーっくうー!あぁもう!仕方がねえっ!お前らっ、今日の計画は止めだ、止め!」

 

 頭を掻きむしりながら悶えるクラインに、思わず警戒体勢を解いてしまう。

 

「…いいのか?」

 

「だってよぉ、仕方ねえじゃねえか。大将にはいくつも恩があるしよぉ…。それに、キリト独りで行かせなきゃならない理由があんだろ?」

 

 クラインの背後にいる他の風林火山の面々も同意しているのか頷いてくれてはいるが…。

 まぁ、恩がどうのと言うのは、クラインが勝手に恩義を感じているだけだからともかくとして、キリトを独りで行かせなきゃいけない理由は、もちろんあるのだが…、それはクライン達、風林火山の面々には関係のない事だろうに…。全く律儀な奴らだ。

 

「悪いな…」

 

「いいってことよ!こんなことで今までの貸しの一つも返せるならお安い御用よ!そんなことより…」

 

 クラインの視線の先を辿れば、どうやら次の団体さんがいらっしゃったようだ。

 一つは統一制はないが、各々がそれなりに高水準の装備を身に着けた最前線で活躍する大型ギルドの一つ、聖龍連合。

 もう一つは赤と白の団服で統一された、最前線で双璧を成す大型ギルド、血盟騎士団だ。

 

「なんやお前ら、そんな人数で集まってこんな所で何しとんねん」

 

 聖龍連合の集団から聞こえてくる、この妙に耳に覚えのある関西弁はいつぞやのモヤッとボールか。

 聖龍連合をざっと確認したところ、どうやらリーダーであるディアベルは不在のようだ。

 

「ハチマンくん?」

 

 不意に聞こえた、これまた耳に覚えのある声に心臓が跳ね上がる感覚がした。

 なんでこんな所に…って、そう言えばアルゴが何か言ってたような…。

 

「よぉ、アスナ。副団長さん自ら攻略か?」

 

「うん、団長の指示でね。ハチマンくんも攻略目的?」

 

「いや俺は…「ちょいちょいちょおい!」…」

 

 うるさい奴だな。今アスナと話してるでしょっ!

 

「お前ら、何ワイを無視して話し込んどんねん!ワイが質問したのが先やったやろ!」

 

「あー…。聖龍連合の代表者はお前か?」

 

「お前やない!ワイの名前はキバオウや!ええ加減覚えやっ!」

 

 そんな名前だったっけ…?なんか妙にコイツの名前だけ覚えれないんだよな。なんでだろ?

 

「…で、血盟騎士団からはアスナが代表者…ってことでいいのか?」

 

「うん、そうだけど…。ねえハチマンくん、これどういう状況?」

 

「……悪いが、血盟騎士団と聖龍連合には今回の攻略は諦めてもらう」

 

 俺の一言に、その場にざわめきが生まれる。それもそうだろう。いきなり諦めろなんて言われれば「何言ってるんだこいつ」状態になることは目に見えている。

 

「はぁっ!?なんやそれっ!そんな横暴が許されるかいな!」

 

「ハチマンくん、理由は…説明してくれるんだよね?」

 

 まあ当然の反応だな。

 

「理由は…そうだな…。強いて言えば俺の都合だな」

 

「お前の都合なんて知るかいな!付き合うてられへん、そこをどきや!」

 

 我ながら酷い横暴だと思う。俺一人の都合でコイツらに諦めろだなんて、誰が納得するだろうか。

 

「冗談…とかじゃないんだよね?」

 

「ああ、デュエルで一騎打ちで俺に打ち勝てればここを通してやるよ」

 

「なんの権限があってそんなことっ!」

 

「権限?そんなもんないさ。言っただろ?これは俺の都合。せっかくのゲームだ。ただ進むより難易度を上げた方が楽しいだろ?」

 

 短剣を構えて正面を見据える。

 

「さぁ、誰からやる?全員でかかって来てもいいんだぞ」

 

 とは言え、ざっと見ても60人近くは居るこの人数を相手にデュエルをこなすのは骨が折れそうだな…。

 

「おいおい大将。なんか状況がよく分かんねえが、オレ達を忘れてもらっちゃあ困るぜ。手が要るんだろ?」

 

「いいのかよ?状況も把握していないのにそんなこと言ってよ。攻略組を敵に回すぞ?」

 

「おっ、おうともよ!どーんと任せてくれ!」

 

 クライン、今言い淀んだよね?本当に理解してなかったよね?

 とは言え、助太刀して貰えると言うのなら思う存分に甘えさせてもらおう。

 

「…というわけだ。ここで俺とこいつら“風林火山”を相手にしていってもらう」

 

「…わかったわ。それじゃあ先ずは私が…」

 

「お待ち下さい、副団長殿」

 

 スラリとレイピアを抜いたアスナだったが、それに待ったをかける声がかかる。誰だこいつ…攻略で何度か見たことはあるが、そういえば名前知らないな。

 

「失礼ながら副団長は、彼とは既知であるかと思われる。その知り合いに刃を向けるのは心苦しいものかと…」

 

「わたしが手を抜くとでも…?」

 

「そうは言わないが、無意識に手心を加えることもあるやも知れん。それなら私が出ようと言うまでよ」

 

 何やら俺を差し置いて剣呑な雰囲気だな。え、本当に俺のこと忘れてないよね?見えてるよね?ステルスヒッキー発動してないよね?

 

「…分かりました。それではあなたを代理として認めます。あなたが負ければこの場は退きます。分かりましたか、ゴドフリー」

 

 へえ、この気風の良さそうなおっさんはゴドフリーっていうのか。まあ今後関わることも無さそうだから覚えなくて良さそうだけど。

 

「承知した!それでは一手お手合わせを願おうか、ハチマン」

 

「…俺のことを知ってんのか?」

 

「あぁ…。例の40階層の件は私も聞いている。悲しい出来事であった…。同情はするが、今は切り離させてもらおう」

 

 そう言ってゴドフリーは身の丈程もあるその両手剣を構える。

 

「同情なんていらねえよ。アイツが自身で選択した行動の結果だ」

 

「…副団長から話には聞いていたが、お前は優しいやつなんだな、ハチマン」

 

 今のやり取りに優しいと思われるポイントはなかったよね?

 アスナめ…、何を吹き込んだのやら…。それとも、“大人”としての対応なのか。

 

「…そんなんじゃねえよ。俺は面倒くさがり屋だからな。利にもならないっていうのに誰かを恨むのも、それで誰かに怒るのも面倒くさいだけだ」

 

「そうか…。いや、すまなかった。同情など無粋だったな。ガハハハハ!」

 

 なんだこいつ、シリアスかと思ったら急に笑い出しやがって。いや、もしかしたら気を遣われたのかも…。それはないか?

 それにしても…。

 

「俺が言うのもなんだけど、本当にいいのか?アスナ」

 

「…うん、元々わたし達の方が遅れて来たんだし、本来ならここでどいてくれって言うのも筋違いだと思うんだよね。でも、それじゃ団の皆も納得してくれないだろうから…。ごめんね?」

 

「いや、こっちこそ悪いな」

 

「ううん、ハチマンくんのことだから…きっと何か理由があるんだよね?」

 

 そんなに信用してもらっている所悪いけど、俺だって理由もなく動くこともあるからね?けどまあ、今回はそうだな…

 

「…まぁ、強いて言えば男の約束、だな」

 

 決闘をして負けたんだ。その約束は守って然るべきだろう。

 

「オイ!なにをお前らで勝手に納得しとんねん!言うておくけど、ワイらにはそんなん関係あらへんからな。ジャマする言うんやったら全員蹴散らすまでや!」

 

 そう言えば、まだコイツらがいたか…。

 

「よっしゃ、大将…ここは俺らに任せてくれ」

 

 …見たところ装備も風林火山の方が整っているようだし、恐らくレベルも高いだろう。せっかくやる気を出して買って出てくれていることだ。ここは素直に任せることにしよう。

 

「ならそっちは頼んだぞ、クライン」

 

「おうっ!!」

 

 なんでそんなに嬉しそうなんだよ。頼られると嬉しくなっちゃって張り切るタイプってたまに居るよな…。ちなみに俺はげんなりしちゃう。誰かが楽するために俺が大変な思いをするのは納得がいかない。それでも、やらなきゃいけなければやるんだけど。やだ…俺って社畜の素養アリ?

 

 なんて、呑気に考えながらデュエルの申請をゴドフリーへ送信し、受理される。血盟騎士団のヤジが飛び交う上空にカウントダウンが表示される。おい、今どさくさに紛れて“腐った死体”って呼んだ奴誰だ出てきなさい。先生怒らないから。

 俺が腐っているのは、あくまでも目であって体は腐ってはいない。目が腐っているのは認めちゃうのかよ…。

 

 かくして、この騒動が後に“聖夜の決闘祭”と呼ばれる一夜になるのはまた別の話…。いや、本当にそう呼ばれるかは知らんけど。

 

 今ごろキリトはボスと対峙しているころかな…。頼むからゲームオーバーなんて笑い話にもならないからな。

 生きて帰って来いよ…。

 

 

 

 

 

 数十分後、迷いの森入口には、俺と風林火山の面々の体が転がっていた。決闘に負けたのかって?まさか…。もちろん、なんとか、ギリギリ勝てたさ。

 だがその様は、勝者のソレとはとてもじゃないが言えないほどに全員ボロボロになっていた。

 

 いや、本当に疲れた…。まじでくぅ〜つか。最初は半減決着にしてキリトが帰還するまでのらりくらりと時間を稼ごうと思っていたのだが、途中であの…関西弁の…。いかん、また名前が出てこない。モヤッとボールが埒が明かないと喚き出し初撃決着方式に切り替わった。

 

 それを承諾したのが良くなかった…。

 

 回転率が増加したせいで結局聖龍連合の全員と、それと血盟騎士団の連中から“面白そう”ということで何人も…というかその場にいたほぼ全員が列に参加することに…。

 なんで俺のところの列が一番多いんだよ。何人かは俺に“ハーレムクソ野郎”とか“誠氏ね”とか意味不明なことを呪詛のように呟いていた。心外すぎる…不名誉だ…。

 

 まあ、なんだかんだ言って、コイツらも大概ゲーマーなんだよな。こういうイベントがあれば乗ってくるしお祭り騒ぎで楽しむ。命がかかっていない分、楽しみやすかったのかもな。

 

 不意に迷いの森の入口のゲート部分が稼働する音が聞こえ、そちらに目を向ける。どうやらキリトが帰ってきたかな。…だよね?

 

 ゆっくりと黒で統一されたようなシルエットがゲートから出てくる。表情は見えないがその足取りは重く、そして力ない。よほど疲労しているのか、それとも……

 

「キリト!無事だったか…!」

 

 キリトの身を案じていたクラインが駆け寄る。だが、それに対するキリトに反応はない。いや、反応がない事が全てを物語っているのか。失敗…か。

 

「お疲れさん、キリト。…よく無事で戻ってきた」

 

 ボスを倒せたかとか、そんな成否は、正直なところ俺にとってはどうでもいい。キリトが無事に戻ってこれたのなら…。

 

 俺が近くまで歩み寄るとキリトは力なく顔を上げる。

 

「…ハチマン、“蘇生アイテム”はあったぞ…」

 

 そう言って弱々しく笑うキリト。“蘇生アイテム”があった、ということは当初の目的は達した、ということだろう。それなのに何故こうも活力が、覇気がない?何故こうも儚く、消えてしまいそうなのだろうか…。

 

「まさか…!」

 

「あぁ…ハチマンの言う通りだったよ」

 

 言いながらなにやら投げ渡される。キャッチしたそれを見れば、シルバーで縁取られた蒼い水晶石。“環魂の聖晶石”。

 アイテムの説明を読めば、つらつらとフレーバーテキストが記されているが、中でも目を引く一言。“プレイヤーの蘇生が可能。ただし、死亡後10秒以内とする”

 

 なんとも簡潔で、簡素で、無機質な一言だ。だが、芽生えていた希望を打ち砕くには十分すぎる一言だ。

 あまりの無慈悲さに、書かれた言葉の裏を探そうとしたが、ダメだ…どう捉えても額面通りでしかない。

 

 逆に、これでゲームオーバーから10秒後に死が確定することが判明した。解ってしまった。

 『もしかしたらゲームオーバーになった人間は未だ昏睡しているだけで、なんらかの方法で生き返らせることができるかもしれない』

 そんな淡い希望も潰えてしまった。

 

「そう…か…」

 

 それ以上に言葉が出なかった。キリトの表情を見たから、というのもあるが、俺自身、思っていたよりもショックを受けている。諦め、現実を見たフリをして、その実、期待してしまっていたのかもしれない…。

 彼女を、ユナを生き返らせることができる“可能性”を。

 

「…ほらよ」

 

 持っていた水晶石をキリトに返そうとするが…

 

「いい、それはハチマンにやるよ…」

 

「…は?」

 

 思わず素っ頓狂な声が出てしまう。いやだって、コレを手に入れるために頑張ってきたんじゃないのか?このボス戦だけじゃない。手合わせをしたからこそ分かる…。普通のレベリングじゃ、あそこまで強くはなれない…。それこそ、命を削る思いで相当に無茶なレベリングをしたハズだ。

 

「いやいや、受け取れねえよ」

 

「いいんだ。ハチマンが持っていてくれ」

 

 俺の抵抗は虚しく、先ほどより強く突っぱねられる。どうやら意思は固そうだな…。

 

「…分かった。一先ずこれは預かっておいてやる。ただし、預かるだけだ。いずれ返させてもらうからな」

 

「ははっ…返さなくてもいいさ。誰か、仲間か大切な人が目の前で死んだら…使ってくれ」

 

 “仲間や大切な人”。そう言われて脳裏によぎったのは雪ノ下、由比ヶ浜、アルゴ、クライン、エギル、キリト、そして……アスナだった。

 昔の…SAOを始める前の俺なら、こんなに大切だと思える人間が増えるだなんて、思ってもみなかったことだろう。せいぜい思い浮かべても小町か戸塚くらいか。

 

 でも今はそれが…ひどく重いものに感じられてしまう。

 まるで自分の行動を制限する重石、枷のようだ…。

 

 俺は、自分の“大切なもの”を守りきれるのだろうか。目の前で彼女、彼らが命の危機に瀕した時に護れるのだろうか。…ユナのことも救えなかった俺なんかが…。

 

「……まあ、そん時は遠慮なく使わせてもらう。だけどな、その対象には“お前”も含まれているんだ。忘れるなよ」

 

「はは…。なるべく世話にはならないようにしないとな…」

 

 そう言って、キリトは雪の降る中を歩き去る。

 なんだろう…キリトの危うい雰囲気…。猫は自分の死期を悟ると誰からも知られないようにひっそりと姿を隠すという。

 今のキリトはそれに似た危うさがある様な気がする…。

 だけど、どうする…。なんて声をかけてやれば…。

 

「死ぬなよ手前ぇ! 俺の目の前で死んだら許さねぇぞ! ぜってぇ許さねぇぞ!!」

 

 いつの間にか横に来ていたクラインの張り上げた声に我に返る。

 気づいたら体が、口が動いていた。

 

「気落ちするなとは言わねえ。落ち込みたきゃ好きなだけ落ち込めばいいし、過去に寄りかかりたければそうすればいい。でもな、足は止めるな。前でもいい、後ろでもいい…進め。

 お前が“何か”に許されたいと思っているんなら、立ち止まるな。何かを、誰かを言い訳にしたっていい。逃げてもいい。転んでもいい。だから…進めっ」

 

 俺の言葉は、雪の中に去り行くキリトに届いたのだろうか。

 違うな…。多分キリトに伝えたいってだけじゃない…。俺自身に言い聞かせていた言葉なのかもしれない。

 

 分かっている。キリトは進もうとしている。だからこそ、このイベントボス攻略を一つの踏ん切りにできたし、そのために強くなれた。

 

 多分…一番立ち止まったままでいるのは……、俺なのかもしれない。

 

 見上げれば、雪は未だにしんしんと降り続けている。

 クラインたちに別れを告げて帰路に着く。

 

 歩きながら、受け取った水晶石を静かに握りしめて空を見上げる。相変わらずの曇り空に、星なんか見えやしない。雪ノ下め…適当なことを言いやがって…。

 

 もう一度、その淡く蒼い光を放つ、美しく輝くような水晶石を眺めて、そっとポケットの中へとしまう。

 

 虚しい、希望の石を。

 

 




アニメに沿っていくとはいえ、どんどん暗くなっていっている気がする…
おかしい…書き始めた当初はハーレムものでも書ければえっかくらいで書いてたのに…

どんどん曇らせが楽しくなってきている気がする笑

というわけで、近い内に次の話も投稿したいと思っていますので、よろしくお願いします!




次回予告てきなもの

「しゃーなしダ。オレっちのことを妹だと思って愛でてもいいゾ」

「ったく…なんだってんだよ、一体…」

「決めたわ。あそこのカフェに入りましょう」

「ハチマンくん?」「はい?」「却下」「…はい」

「諦めが早すぎるよヒッキー…」

「クックックック…。そうか、ようやくお前もコッチへ来るか!」

間違いだらけで、誤りだらけ、どうしようもなく曲がって、捻くれていて…それが多分、“俺”だから。
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