というわけで、なんやかんやで24話目です!
まだそんなものなのか…
モチベ少し上がったので継続させたいと思います!
「ねーねーヒッキー、次はあそこのお店行ってみようよ!」
「……」
「あっ、ほんとだ!あのカフェすごく可愛いーっ!」
「…なあ」
「あのカフェのカウンターに見えている、白と黒のカラーリングに丸くデフォルメされたボディ…見間違うはずがないわ…。あれは…パンさんっ!」
「おいって…」
何この状況。幼稚園なの?引率の先生なの?誰も言うこと聞きそうにないんだけど…。
現在俺は、三人の女子に連れられて一層、始まりの街を練り歩かされている。
なぜだ…なぜこうなった…!
ことの始まりは、12月31日の今日、早朝だ。
“聖夜の決闘祭”と呼ばれる、今や一大イベントとなってしまったあの夜から一週間が経過していた。
クリスマスが過ぎれば次のイベントは年末。正月ということもあり、外は派手ではないが、それなりの賑わいを見せているようだ。
さすがの攻略組も、年末年始は階層攻略はお休みにするようで…。特にやることもない俺は、新しく仕入れた炬燵でぬくぬくしていた。
あとはここにみかんと小町が居れば最高、文句なしなんだけどなあ…。小町の居ない正月なんて、餅の入っていない雑煮だよ…。
思い出したら急激に小町が恋しくなってきた…。小町ィ…。
小町成分が不足しすぎてお兄ちゃん死んじゃうかも…。
「ふはァ〜…。やっぱ炬燵は日本人の魂…宝だよナ…」
「…で、なんでお前がここにいるんだよ、アルゴ」
俺が炬燵でうたた寝をしていると、いつの間にかアルゴがいた。
何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何を言っているのかわからねー…。迷宮入りじゃねえか。
アルゴに関しては、もう妖怪とか…、なんかそういう類なんじゃないかと思うことにしている。そうじゃなきゃ、こんなにホイホイ不法侵入されているのはおかしいだろ。システムどうなってんだよ。
「なんダ、あからさまにため息なんか吐きやがっテ。可愛い弟分が心配カ?」
ちげーよ。原因はお前だよお前。なんて言っても、また『にゃははー、オレっちはアルゴ様だからナ』なんて、適当なこと言って誤魔化されるのがオチだ。
「…まあキリトのやつの事も気になるが、今はそれ以上に妹が気がかりだな」
「あぁ、たしか、“コマチちゃん”だったカ?」
「そう、俺のスーパーグレートウルトラギガンティックに可愛い妹だ。というか、よく小町の名前なんか覚えていたな」
「そりゃああんだけうわ言のように聞かされていればナ…」
え、うそ…。俺そんなに小町の名前呟いてたの?ちょっと小町のこと好きすぎじゃない?あ、今の八幡的にポイントたか〜い♪
…一人でやっても虚しいだけだな。
「まったク…仕方がねーナ、ハー坊はヨ。しゃーなしダ。オレっちのことを妹だと思って愛でてもいいゾ」
「は?何言ってんだお前。小町は妹で小町だからいいんだろうが。妹なら誰でもいいってわけじゃねえ。というかそもそもお前、俺より歳上なんじゃねえか。歳上の妹なんて認めんぞ」
「……アー…うん、そうだナ…」
おい、なんだその間は。いかにも今思い出したみたいな声と表情だったぞ!
「おい、お前、俺と初めて会った時に『成人してる』とかなんとか言ってただろ!」
「アー、うん、そうそう。オレッチ、オトナノオネーサンダカラナー」
こいつ…っ、目を逸らしやがった!?益々怪しいぞ!
「さて、ト…。ハー坊で一頻り遊んだことだシ、オレっちはそろそろお暇するゼー」
あっ、こいつめ…っ。俺が炬燵から出られないのをいい事に、炬燵から脱出しやがったな…!それなら俺も……。いや、ムリだ。炬燵の呪縛からは逃れられない…っ!
「あっ、そうダ、ハー坊」
「あん?」
俺が悶々と炬燵と格闘しているあいだに、アルゴは既に部屋の扉の前に立っていた。
「……まぁその…なんダ…?がんばれヨ」
そう言ってサムズアップを掲げて部屋から退出して行った。謎と不穏だけを残して…。
いや、本当に何だったの?なんで俺激励されたの?
「ったく…なんだってんだよ、一体…」
一人ぼやきながら、開け放たれたままの扉を閉めるため炬燵から抜け…出せない!くそっ!なんてことだ…。このままではせっかく温めた部屋の空気が逃げてしまうではないか…!
アルゴ…許すまじ…っ!
アルゴへの怨念を撒き散らしながら、渋々と炬燵から抜け出す。
はふーっ!下半身が…寒い…っ!
そもそもアルゴがしっかりと“あとぜき”をしていかないのが悪い。くまもんだって『あとぜきはしっかりと』的なこと言っていただろ。知らんけど。
ゆるキャラレベルならうちの“チーバくん”だって負けてないだろ。いや、さすがにそれはないか…。
なんて考えている間に扉の前まで到着し、扉に手をかけた…
ーーーガシッ
「どぅわっ!?」
「きゃっ!」
扉にかけていた手に、不意に誰とも知らない手を被せられて、思わず奇声を発してしまう。
決して“ドア”と“どぅわ”をかけていた訳では無いことを、俺の名誉のために釈明しておく。
というか、今の聞いた事のある声は…。
「…アスナ、か?何やってんだこんな所で」
「い、いや〜、あはは…ご、ごきげんよう?ハチマンくん?」
「お、おう。ごきげんよう…?」
いや、ほんとに何、その挨拶。なんで疑問形なの?思わず俺も返しちゃったじゃん。いや別にいいんだけどね。挨拶されたらちゃんと返せって小町にも口うるさく言われてたから…。もしかして小町=母親説濃厚だった…?
「で、なんの用だ?」
「え、えとね。あー、あはは…あのね…?」
なんだ?いやに歯切れが悪いじゃないか。まさか厄介事じゃないよな…?
「ハチマンくん、今日ヒマ…かな?」
“暇”それは継続する動作などの合間に生じるわずかの時間。もしくは自由に使える時間。なすべきことの何もない時間。by goo辞書より抜粋。
カタカタカタカタカターーン
俺の中の8万bitの脳内CPUにより、この場における最適解を素早く算出。
導き出された答えはーーーー
「いや、残念ながら今日はちょっとアレな用事があってな、ホント本当に申し訳ないんだが、また別の機会にでm「ヒマなんだね!よかったぁ!」…」
おかしい…。認識に相違がなければ、今お断りを入れていたつもりだったんだが…。
俺の抵抗とも呼ばせてもらえない、ささやかな抵抗も虚しく、気付けばアスナに手を引かれて宿屋の外へ連れ出されていた。あぁ…っ。炬燵きゅんが遠ざかっていく…!
そうーー思い返せばこの時に俺は無理矢理にでも手を振り解くか、もしくは逃走を図るなりをするべきだったのだ。いや、もしくはもっと早い段階…アルゴの激励の言葉を聞いた段階で、ある程度これから良からぬことが起きると推測し、警戒をしておくべきだったのだ…。
まぁ、手遅れとなってしまったものは仕方がない。あとは“なるようになれ”だ。
できるだけ俺の負担が少なくなりますように…。もはや神頼みしかできないとは、我ながら悲しすぎる…。
で、なんで雪ノ下と由比ヶ浜がいるのか、ということに関してはいたってシンプルだ。
なんでも、もともと三人で年末の年越しの準備がてら、お茶でもしようとしていたところだったらしい。あれ、俺全く要らなくない?俺なんていても賑やかしにもならないぞ。なんなら盛り下げること請け合いだ。なにそれ悲しい。
ここで冒頭のくだりに戻るわけだが…。
「なあ…。結局のところ俺を引っ張り出した目的はなんなのか、そろそろはっきりさせてくれても…」
「決めたわ。あそこのカフェに入りましょう」
そうですか、無視ですか。まぁここまで碌に答えてもらってないから予想はできていたけどね。もしかしたら何かのペナルティか罰ゲームなのか?おい、誰だ。今、“俺と一緒に居ることが罰ゲームだろ”なんて言ったやつ。
結局流されるままに三人のあとに続いてカフェへと入店する。だって仕方ないだろ…このお店、なんと“練乳入りコーヒー”があるらしいんだから。いままでどれだけ練乳の入手方法を探しても見つからなかったというのに…!
パンさんといい、この練乳入りコーヒーといい、さてはここの店主は千葉県民、もしくは千葉好きだな?
丸テーブルを四人で囲むようにして座る。いや、俺はひとりでカウンター席に座ろうとしていたんだよ?だけどそれを察知したアスナに笑顔という圧力をかけられながら結局テーブル席へ引っ張られてしまった。
なんなんだろうね“みんなで来ているからみんなで行動しましょう”の精神は。
それぞれのライフスタイルに合わせて、それぞれで過ごすべきだと思うの。他人の行動に合わせれば、それだけ自分の目的を達成し辛くなる可能性がある。それなら初めから一人で行動していた方が目的の達成には容易くなる。つまりぼっちが最強。QED、証明完了。
そんな無意味なことを考えながらもアスナに引っ張られて、丸いテーブルの一席に着く。もちろん俺のお目当ては練乳入りコーヒーの一択。三人もそれぞれ決まっているようで、手早く注文が完了する。
由比ヶ浜は最後まで二つの品で悩んでいたが、結局雪ノ下とシェアすることにしたらしい。シェアハピですか、相変わらず仲がよろしいことで…。
「ーーーそれでさ、この後のことなんだけどさー」
ぼけーっと外を眺めていると、彼女たちの会話の中で、不意にそんな言葉が聞こえてきた。…待て、この後だと?
「ちょっと待て、“この後”って、まだ何かするのか…?」
「莫迦な人ね。それを今から決めようというんじゃない。あたなのコミュニケーション力不足は、そういう話を聞かないところから起因しているのよ」
どうやら聞き違いではなかったらしい…。というかコミュ力不足は自覚しているけど、原因まで断定されていたんですね。もっと早く教えてくれればよかったのに。
「そいつは悪かったな。フラッペだか、フラペチーノのだか、タランティーノのだかなんだか…俺にはさっぱりすぎて呪文かと思ったんでな」
ちなみにだがタランティーノ監督の映画は好きだ。あの取りとめもないやり取りとか、雰囲気なんかは観ていて飽きがこない。
「おじゃま虫のせいで話の腰が折れてしまったわね」
さいですか。俺はおじゃま虫ですか…知ってたけどね、うん。
それならおじゃま虫は早々に解放してあげた方がいいと八幡思うの。それかここに置いていくか。ある種の優しさだよ。
ちなみに俺的にはここに置いて行ってくれるのがベストアンサー。このMAXコーヒー擬きの作り方をご教授いただかなければ…!
「ーー。で、ヒッキーはどこか行きたいところはある?」
「んぁ?俺?」
まさか意見を求められるとは思ってもおらず、変な声出しちゃったじゃないの。とは言われても行きたい所なんて一つしかーーー
「ちなみに“帰宅”は却下だからね」
「……ねえ、なんで俺の思考を先読みできるの?」
やっぱりアスナはエスパー属性持ちだよね?あくタイプなれば勝てるかしら?
「じゃあ帰宿で」
帰るべきは宿だからな、だから帰宿で間違いはない。なんなら帰る家を持たないまである。
まさに家なき子。同情するなら平穏をくれ!
「ハチマンくん?」
「はい?」
「却下」
「…はい」
怖い、怖いよアスナさん…。笑顔なのになぜこんなにも恐怖を感じるのだろう…。
というか、帰宅も帰宿もダメならもはやお手上げだ。両手を上げてぷちょへんざだ。
やだ…俺の選択肢、少なすぎ…?
「悪いが他には思いつかん。任せるわ」
「諦めが早すぎるよヒッキー…」
「そうは言ってもな、ぼっちにとって自分の生活スペースというのは避難所であり、安らぎ、憩い、活力を高めることが出来る聖域…そう、サンクチュアリなのだ。であるならばだ、宿に帰りたくなるのも、それはもう必然というもの」
うんうん、と腕を組みながら首肯をする俺に同調の意を示してくれる者はこの場には皆無のようだ。どのような状況であろうと、自然と少数派、マイノリティを地でいけるのはある種ぼっちとしての才能ではないだろうか。
「…さて、ハチマンくんの下らない御託は聞き流すとして、いつまでもここで駄弁っていてはお店の方の迷惑になるわね。一先ずは予定通りに用事を済ませるとしましょうか」
なに?既に予定は組まれていたの?それならなんで一回俺に訊ねたんだよ…。そのくだり、絶対にいらなかったよね?
未だカップに残る、そのコーヒーと呼んでもよいのか分からないほどに甘い液体を見つめる俺をよそに、三人は席を立つ。これはあれですね。俺もついていかないとまた睨まれるやつですね。知ってた知ってた。
既に冷めてしまっていても尚、口内を蹂躙する甘さを一口に呷り堪能する。うん、やっぱりこの甘さだな。
空になったカップをテーブルに置き、席から立ち上がり三人の後を少し遅れて付いていく。
人の行き交う石畳を、三人の3歩後ろを付かず離れずの絶妙な距離を保ち、てくてくと歩いていく俺。まじ大和撫子の鑑と言っても過言ではないな。
もちろん、この絶妙な距離を保つのにも理由はある。
一つはこの三人と歩けば否が応でも目立つから。ただでさえ目立ちたくない、できる限り日陰でひっそりとしていたいというのに、こんな綺麗どころの三人と歩いていれば、いらぬやっかみを買いかねない。
もう一つは、不意に会話を振られてもギリギリ対応できる距離だから、というのもある。
聞こえない振りして無視をしようものなら、わざわざ俺の隣まできて確認にくるからね。そんなことをされたらそれこそ目立ってしまって仕方が無い。それは回避したいものだ。
ふふふ、どうだ完璧に背景に溶け込めて「だよね、ハチマンくん?」
「は?へ、あっ、ひゃい!」
誰だよ「不意に会話を振られても対応できる」とかドヤ顔で言ってた奴。俺じゃねえかちきしょう。
「もおー、ヒッキーまた話聞いてなかったでしょ!年越しはこのままみんなでどうしようかって話!」
“年越しを過ごす”と言ってもここはソード・アート・オンラインの世界。未だにVRの世界に閉じ込められたままだ。
笑ってはいけない子供の使いじゃないアレとか、紅白に分かれる歌番組なんかもあるわけじゃない。なんていうのは野暮すぎるな。初詣なんて行かなくとも、一緒に行く年来る年の瞬間を迎えることだけでも十分に価値はあるんじゃないだろうか。
だけども俺は…
「悪いが俺はパスだな。今年のうちに片付けておきたいことがあってな…」
「ヒッキーまたそんな適当なこと言って…」
「…それは、今日中に片付けて起きたいことなのね?」
不満を口にする由比ヶ浜の言葉を遮って雪ノ下が訊ねる。その瞳は強く、こちらを射抜くように見据えていた。まるでこちらの行動が見透かされていそうで、思わず目を逸らしそうになるのをなんとか持ち堪える。
そんな不穏な空気を悟ったのか、アスナもどうしたらいいものかと所在なさげに瞳を右往左往させている。
「…大丈夫だ。危険なことをしに行くわけじゃない。少し交渉をしに行くだけだ」
俺の言葉を聞いて少しは安心したのか、アスナは顔を少し綻ばせたが、雪ノ下の表情は依然として険しかったが、アスナを見て咳を一つして少し穏やかな切り替えたようだ。ほんと少しだけどね。
「そう、それならいいのだけれど。くれぐれも危ないことには首を突っ込まないことね」
「そうだよヒッキー!ヒッキーの命日が大晦日なんて、覚えやすすぎて毎年年越しの度に病むことになるんだから!」
「おいコラ。縁起でもないことを言うんじゃない。俺の事をなんだと思ってるんだ…」
「まぁ、ハチマンくんだし…ねえ…?」
アスナまで……。そんなに信用がないかね?
リスク管理に定評のある日本人の中でも、こと保身にかけては右に出る者はいないと自負するレベル。なんなら保身のためなら他人を差し出すまである。何それ超小物臭がすごい。
とはいえ、今夜のことに関してはあくまでも自分のため。多少のリスクは背負わないとな…。
その後もきれいどころとも言える三人に連れ回されるがままに歩かされ続けてヘトヘトだよ…。早くお家に帰りたい…。などと愚痴を零してもいられない。
無事に解散…というより解放された後には、その足で目的地へと向かう。師走とはよく言ったものだ。はっはっはっ。……はぁ…。
目的地である32階層にある、とある迷宮区。
密林のように茂った木々の間をぶらぶらと適当に歩きながら時間を潰す。
当然と言えば当然かもしれないが、周辺には人気の欠片もない。それもそうだ。誰が好き好んでこんな大した旨味のない場所で年を越すというのだろうが。
そんなのが居るとするならよほどの好き者か変わり者。もしくは…よからぬ事を企むような輩だろう。
索敵のスキルが数人の気配を感知する。
…いや、違うな。これは“感知させられた”ってとこだな。本命は多分…ッ!
キンッーーー!
腰に着けたのホルダーに予め収納しておいたクナイで突然の飛来物を弾き落とす。
闇夜に紛れるように黒く塗られたその投げナイフは、地面に落ちた瞬間に役目は終えたと言わんばかりにライトエフェクトを遺して消滅した。
多分ありゃ麻痺か毒の効果が付与されていたな…。殺意高すぎだろ!
「随分な挨拶じゃねえか…」
投げナイフの飛んできた方へ声を投げかけると、その方向からこれまでにも幾度か目にしたポンチョ姿の長身の男が姿を現した。
「ハッ!ちょっとしたお遊びじゃねえか。そうカリカリするんじゃねえよ」
明らかに首元を狙ってナイフを投げてたよね?たかだか遊びに付き合って死にかけたんじゃ洒落にならんぞ。
「熱烈なラブレターを送り付けてくる割には、随分と殺る気マンマンじゃねえかよ……PoH」
PoH…。その素性は一切不明だが、その実力と謎のカリスマじみた魅力で次々に同志を募っている…らしい。こいつのどこにそんな魅力があるのか知らんけど。
「本当にお前本人かを確認する必要があるからな。なんせ今日は特別な日だ。部外者はお呼びじゃねえ…。
もっとも、お前みたいに目の腐った奴はそうそう居ないだろうけどな!」
目が腐っているのは事実かも知れないが、それ言う必要ある?絶対余計だよね?
「俺じゃなかったらどうするつもりだったんだよ」
「お前じゃなけりゃ、そん時は殺すだけだ。今日という日にこんな場所に迷い込んだ、ツキのねえ自分を呪ってもらうしかねえな」
ポンチョのフードで目深く隠されていても分かるくらいにニヤリと口角を上げ、意地の悪そうな、楽しんでいるような声色っで軽々しく言ってのける。しかし、こいつは…PoHならやりかねない。というか確実にやるだろう。それこぞ文字通りの“ゲーム感覚”で。
…ほんと危ねえ奴だよ…。平時だったら絶対に関わり合いたくないタイプだな。
しかし今はそんなことも言ってはいられない。猛毒だろうが劇薬だろうが飲み込むしかない。
「…で?ハチマン、お前がここに来たっていうことは、“そういうこと”でいいんだよな?」
「あぁ…そうだな」
「クックックック…。そうか、ようやくお前もコッチへ来るか!カハっ、ハッハッハッハ!!」
PoHは喜んでいる様を隠そうともせず、大仰に破顔う。勢い余ってフードが外れるが、そんなことはお構いなしだ。その姿はまるで、欲しくて切望してた玩具を手に入れた子供のよう…。いや、そんな可愛げのあるものではないな。端的に言い表すなら、正に“狂気的”と言っても差し支えないくらいだ。
正直、コイツが何故にここまで俺に対して執着をしてくるのかもイマイチ分からない。しかし、勝手に執着をしてくれると言うのであれば、俺はそれを利用させてもらうまでだ。
「……あー、はしゃいでいる所悪いんだが、話に乗るにあたって条件があるだが、いいか?」
「ああいいぜ。今は機嫌がいいからなあ。なんだよ、言ってみろよ」
案外あっさりと受け入れてくれるんだな。…いや、まだ条件を飲まれた訳じゃない。油断はできないな…。
「それじゃあまずは一つ目だが…」
「オイオイ、そんなにいくつもあるのかよ」
文句を言いたげなPoHに向けて片手を上げて制する。
「まぁ先ずは聞けよ。まず一つ目だが、俺の周囲の知り合いには手を出すな」
人差し指をPoHの目の前に突き立てる。
PoHは少し考えるような素振りを見せたが、それも束の間。すぐに軽薄な笑みを浮かべる。
「ああ、いいぜ。お前の“お仲間”には手は出さねえよ。約束してやる」
「他の連中にも手を出させないように徹底させろ」
後々に「“俺は”手を出さないと言ったが」なんて言われたらたまったもんじゃないからな。
「チッ…用心深い野郎だぜ…。安心しろよ、他の奴等にも手は出させねえよ。それで…他にもあんだろ?」
とりあえず一つ目の条件は飲んでもらえた…ってことでよさそうだな。これでひとまずは“アイツら”が巻き込まれることは無くなったってわけだ。
再度立てていた人差し指の横に中指を並べて立てる。
「二つ目だ。俺は名前を伏せて素性を隠させてもらう」
「それは良いけどよ、んな事可能なのかよ。プレイヤーネームを見れば一発でバレるだろそんな事」
「その辺に関しては問題ない。“コイツ”を使う」
ストレージから例の仮面を取り出して着けて見せる。
「ハッ!なるほどな、隠蔽のアイテムか。そんなレアなアイテムどこで拾いやがったよ」
「お前にだけは絶対に教えねえ…」
どんな悪用をするか分かったもんじゃない…いや、“分かるからこそ”コイツには絶対に教えちゃならない。
「ハッ!ツレねえなあオイ!まぁいいさ…。それで?どうせお前のことだ、まだあんだろ…?」
「分かってんなら話は早い。つってもこれで最後だけどな…」
そう言って、連なるように薬指を立てる。
「俺はお前のギルドに入るが、仲間でもなければ部下でもない。必要があれば指示には従うが、それ以外は好きに動かせてもらう」
無茶苦茶を言っている自覚はある。だが、これは大事なことだ…。もしコレを飲んでもらえない場合は…「なんだそんなことか。別に構わねえぜ」
…へ?
「へ?」
「んだよ、素っ頓狂な声出しやがってよ」
「いや、だって…」
まさか、そんなにあっさりと認められるなんて思ってもみなかったもんだから、我ながら変な声を出しちまったなような気がする…。
「元々そういう面倒くさいことはするつもりはないし、なによりお前自身、他人にどうこう指図されて動くようなタマでもないだろ」
まぁ、そう言われたらそうかも知らんが…。コイツに見透かされているかと思うとそれはそれで…なんかムカつくな。
「で?お前から出す条件はそれで全部か?」
「…あぁ。まぁ後々追加するかも知れんが、とりあえず今はそうだな」
ここで下手に欲をかいて今までの条件を反故にされるのもよくないしな…とは言ってもあくまでも口約束だ。警戒は絶対に解けないし、解いちゃいけないだろうがな…。
俺の言葉に満足したのか、PoHは楽しそうに歩き出し、それに合わせて先ほどまで厚い雲がかかり、真っ暗だった空間に月明かり差していき、徐々にPoHの姿を照らしていく。
その姿は、そこにあるはずのないブロードウェイが見えてしまうかのような、錯覚すら起こしてしまいそうだった。
それくらいにPoHの歩く姿は、月明かりのスポットライトも相まって、芝居がかってみえた…。これも演出の一部だとしたら大したもんだよ…。
「クックック…。それじゃあ改めて、だ。ようこそ!俺たちの“殺人ギルド”…。【ラフィン・コフィン】へ!歓迎するぜ。“兄弟”(ブロ)?」
そう言って仰々しく振り返り、両の手を広げるPoH。
気付けば周囲には数人…いや、十数人のプレイヤーが姿を現していた。
よくみれば、レッドプレイヤーの危険因子として名を馳せているような奴もチラホラ居るようだ…。
そして、俺もコイツら、“殺人ギルド”の一員として名を連ねることになる…。
『ハチくん、は…わたしの…ヒー、ロー…だから…。みんなを…救け、て…あげて…、ね…』
思い浮かぶのは、ユナの最後の言葉。
悪いなユナ…。やっぱり俺は“ヒーロー”なんてのはガラじゃないんだ。だからーーー。
間違いだらけで、誤りだらけ、どうしようもなく曲がって、捻くれていて…それが多分、“俺”だから。
だから俺は“俺”のやり方で、俺の手の届くヤツらを出来るだけ守ってやる。もうあんな思いはたくさんだ…っ。
「…それで?呼び方はどうすんだよ“ネームレス”?」
呼び方…。そうか、そう言えば正体を隠すんだっけ…。すっかり忘れてたわ…。幸いにも今はマスクを付けているし、他のギルドの構成員の連中には正体はバレていないみたいだ。
というか、もしかしなくても、今PoHに気を遣われたのか…!?なんか軽くショックなんだが…。
それにしても呼び名か…どうするかね…。“名無し”とか?さすがに偽名としてはイマイチか…?
『ひっ!こんなところにモンスター!グール・・・?』
『誰がグールだこのやろう!』
…こんな時にまで思い出すのかよ…。それも、よりによって初めて会った時のことなんて、よくもまぁ憶えているもんだ…。
しかし、まぁ…そうだな。うん、いいか。
そして俺は、眼前の月明かりのスポットに照らされ、堂々と佇む男へと宣言する。
「俺の名前は…“グール”だ」
男、PoHは口の端をニヤリと上げる。
楽しそうに、愉快そうに、卑しく、怪しく、狡猾そうに、愉悦を噛み締めるように。
そしてただ一言、宣言する。
「It's Showtime」
これにて第二章、~完ッ~
くぅ〜疲れましたw
というわけで早速三章にいきたいところですが、ちょろっと気晴らしに番外編でも書こうと思うのですが、何かリクエストあれば承ります!
お手数ですがコメントにリクエストを書いていただければ、可能な限り応えたいと思います(^^)