やはり俺のVR青春ラブコメは間違っている   作:青鬼ちゃん

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すみません、本当はまた来週くらいに投稿しようと思ってたんですけど、読んでくださる方が思った以上に多いのが嬉しくてまた投稿してしまいました...。
10連ガチャとかガマンできないタイプですね。

それはそうと、文章量減らして分割にした方がいいですかね?
その方が読みやすいだろうし、小分けにした方が楽しみも増えますかね?

意見等ありましたら感想お待ちしております。


一章 三部

「さてと、行きますか・・・」

 

 気だるい体を起こして二度目の自分への宣言とため息、もとい深呼吸。一度目の宣言から五分経過。

 ふぇぇ、行きたくないよお。

 

 音をたてないよう、抜き足差し足忍び足。ステルスヒッキーを発動して、気配を消してドアから外へ出る。

 

 一階へと降り、外へ出ると月明かりに照らされ、なんだかムズッとした気分になる。

 

「よう、いるんだろ。出て来いよ」

 

 なんつって。虚空へ呼びかけるも返事はない。これ、本当に誰もいなかったら相当に恥ずかしいやつだよね。八幡の黒歴史に殿堂入りしちゃう。

 

「ククク、さすがだナ。いつから気付いていタ?」

 

 うおっ!びっくりしたぁ。後ろかよ。

 振り返ると、宿屋の路地の影からゆっくり現れたソイツは小柄な体に、ローブで顔を隠していた。

 どうでもいいけど、みんな顔を隠しすぎじゃない?

 

「そうだな・・・最初に気づいたのは俺がアイツらと合流した時、いやそれより前だな。多分、俺ともう一人で捜索して探し回っている時だな。でも俺に目を付けたのはそれよりも前だろう?ーーー多分、そう。デスゲームの宣言の中、俺が人混みの中から抜け出した時、かな。」

 

「ククク、驚いたナ。本当にそこまで気づいていたとはナ。オレっちも気配隠したり、尾行したりするのには自信があったんだけどな。ちょっと自信なくしちまったゾ」

 

 やれやれといった所作で少し大げさに、ワザとらしく肩を竦めてみせる。ぼっちにスニーキングで勝負するなんて100万光年はええよ。しまった 100まんこうねんは きょりだ!

 

「ま、昔から人の気配やら視線には敏感でね。ほら、俺、ぼっちだから。」

 

 お返しにとばかりに、わざと少し大げさに俺も肩を竦める。

 べつに、やれやれキャラで対抗意識を燃やしたところで仕方ないんだが。

 

「これだけ世間話をしたんだ。そろそろお互いに自己紹介しとこう。敵意があって近づいた、ってわけでもないんだろ?」

 

「お、少年はオレっちに興味津々カ?いいゾ、おれっちの名前はアルゴ。情報屋なんてのをやっていル。ちなみにスリーサイズは上から・・・。おっと、ここから先は有料だゾ」

 

 そう言ってローブをとったアルゴの姿は、短めに切られた金髪に一見少年のようにも見えたが、本人の態度曰く恐らく女性なのだろう。

 どこで判断して少年に見えたのかは・・・あえて言わないが華だな。それに、どこか外国人っぽい。ハーフか?

 

「あー、俺はハチマンだ。つってもそれくらいしか自己紹介することがないぞ。それにそれくらい調べはつけてあるんだろ?」

 

 なんと言っても情報屋さんと名乗るくらいだ。目をつけた人間の情報くらい、自分で見つけられるだろう。

 だがそんなことより気になるのはーーー。

 

「なんで俺なんかに目をつけた?俺なんかより目をつけた方がいいプレイヤーはごまんと居るはずだろ?」

 

 なんと言っても一万人近くのプレイヤーがいるんだ。俺なんてその中でも没個性もいいところだ。モブという個性なら負けないんだがなぁ・・・。

 

「いやいや、そう捨てたもんでもないゾ、ハー坊。あの状況、デスゲームの開幕の宣言の中、誰よりも早く動いていタ。おれっちは少し遠くから見ていたから分かるのサ。あの状況の中、誰よりも先んじて動き、最適解を導き、実行スル。そうできたもんじゃねえヨ」

 

 そのハー坊ってのは、もしかしなくても俺の事ですかね?

 あの状況の中で、別の場所から全体を把握していたのか。こいつの方がよっぽどなんじゃないのか?

 

「極めつけは夜だナ。これだけ絶望的状況において、あれだけの笑い声が出せるものかト。正直、呆れを通り越して興味をそそられたネ」

 

 あぁ、やっぱりアレ外まで聞こえてたのね。窓開けっ放しだったし。

 人の営み、生活感を出すためとはいえ、やっぱり防音にはしておいた方がよかったんじゃないですかねえ、茅場晶彦さん。

 

「それで宿の近くで俺を張っていた、と。なるほどね...。それで、俺を張っていた本当の目的は?」

 

「お願いします宿を貸してくださいなんでもしますカラ」

 

 敬礼、それは見事な最敬礼と言わざるをえなかった。人間ここまで瞬時に最敬礼を繰り出せるものかと、思わず関心しそうになったくらいだ。

 

「それはまあ、俺は構わないんだが、知っての通りウチには他に三人いるぞ?だからアイツら次第だな」

 

「む、まあそうだよナ。かと言ってこの時間にわざわざ起こしてもらって心象を悪くするのも避けたいナ・・・」

 

 チラッとこちらを見る。まぁ仕方ないか。俺も遅かれ早かれ経験しておこうと思っていたしな。

 

「アルゴ、これから時間あるか?」

 

 クイッと親指で街の外へと続く門を指差す。

 

 

 

 場所は変わって門の前、まだ初日というだけあって、みんな慎重になっているのだろう。門の前でウロウロとする者や、パーティメンバーの声掛けをする者、露店を開いている者。さっきちらっと値段を見たがーーーーだいぶぼってるな。

 死んだら終わり。体力回復アイテムの有無が生死を分けるのなら当然といえば当然か。

 恐らく、明日以降も値段は高騰するだろう。

 

「さて、これから外に出るわけだが、回復ポーションと回復結晶は持ったか?転移結晶は?」

 

「ハー坊も中々しつこいナ。オイラのかーちゃんかヨ」

 

 アルゴはぶつくさ言いながらストレージを確認する。ここから先は死ぬ可能性も十分に有り得る世界だ。用心に越したことはないだろう。

 

「ン、大丈夫だゾ。どれくらい狩るんダ?」

 

「気が向くまで、かな」

 

 実際具体的な目標は決めていない。危ないと感じれば即時撤退も考えている。命を大事に、だ。

 

「そんじゃまあ、行きますか」

 

 一歩踏み出して門の外へ出る。あぁー、行きたくねえなあ。

 やらなくていいなら一生部屋に引きこもりたい。だが、いずれやらなければならないのなら早いうちに。

 

 

 

 フィールドを二人で歩く。

 始まりの街周辺といっても夜だ。昼に比べてモンスターが少し強化されるらしいとの情報だった。ちなみにソースは隣にいるアルゴ。

 

 レベルは俺もアルゴも1だ。

 アルゴ曰く、最初に武器を軽く慣らしてからは、街での情報収集に専念していたとのこと。多分βテスターの一人なんだろう。

 

「ちなみにアルゴの武器は、その両手の爪みたいなやつか?」

 

「ン?あぁ、両手爪(クロー)っていってナ。攻撃力はそんなに高くはないケド、手数もそこそこだし、武器の取り落としが無いってんでナ。オイラ、Str低いから剣よりこっちの方が扱い易いんダ」

 

 ふむ、そういう武器もあったのか。俺はゲームを始める前からアサシンロールプレイに憧れてたから、使いたい武器は決めていたが。色んな武器を触ってみるのも悪くないかもしれない。

 

「ハー坊の武器はその腰に下げてる短剣(ダガー)カ?」

 

「まあな、一応、片手剣(ソード)、両手剣(ツーハンドソード)、片手棍(メイス)も試してはみたけど、コイツでチクチクやるのが性に合うみたいだ」

 

「ハー坊らしいナ」

 

 らしいってなんだよ、らしいって。

 そんなにチクチク陰険なタイプに見えます?俺自身、陰険だとはおもうけど、チクチクはしないよ?多分。むしろねっとりしてそう。

 

「しかし、その短剣一本カ?盾は使わないのカ?」

 

「まあ、苦手なんだよ」

 

 盾ねえ、安全マージンを優先して取るのであるならば、もちろんあった方がいいんだろうけど、感覚が鈍って戦いにくいんだよな。

 

 さて、そろそろ敵さんが現れるころだ。

 俺の索敵によれば周囲に三体だが、ミニマップを一応確認して、と・・・ビンゴ。周囲に三体と少し離れたところに二体。

 

「まずは俺が相手をする。打ち漏らしたり危なくなったら交代してくれ、各個撃破で一体ずつ仕留めるぞ」

 

「ン、りょーかいダ」

 

 右手に握った短剣を前にグッと構えて、こちらに背を向けているフレンジーボアとの距離を一気に詰め、そのまま背後攻撃(バックアタック)、奇襲攻撃(ハイティングアタック)。おまけに致命攻撃(クリティカル)も乗り、一撃で断末魔もそこそこにmobの体が倒れ、データの量子とか化し、消滅する。

 

「ほえー、強いんだナ、ハー坊」

 

「たまたまだ、たまたま。それより、ドロップアイテム拾っておいてくれ。俺は次にいく」

 

「ナ!ちょっと待ってくれヨ!ハー坊!」

 

 その声を聞くよりも早く、次の獲物目掛けて足を踏み込む。

 猪はまだこちらを向いていない。

 背後攻撃のチャンスだ。

 

「二体目.・・・」

 

 呟き、次の獲物を見ると、先ほど見た時より少し移動していた猪が仲間の断末魔を聞き届けてか、こちらへ突進してくる。

 ふむ、ちょうどいい。練習に付き合ってもらうとしよう。デスゲームとなったこの世界でも通用するのかどうか。

 

「・・・来いっ」

 

「Bohhyyyy!!」

 

 気合いの入った嘶きとともに突撃してくる。

 攻撃が当たる瞬間。攻撃判定の直前に短剣の刃を滑らせ、そのままいなす。

 

「Boo?」

 

 猪は硬直したまま、動かなくなる。

 

「三体目だ・・・」

 

 瞬時に固まった猪の背後へと滑り込み、短剣を突き刺す。背後攻撃、致命攻撃。

 そのまま猪は地面に倒れ込み、量子データと化した。

 

「ハ、ハー坊。今のはなんダ?」

 

 およ?情報屋のアルゴが知らないのか?基本的な戦闘知識だと思っていたんだが。

 まあ、アルゴは戦闘が専門では無いと言っていたしな。

「今のはパリィングだ。ソードスキルとかではなく、技術的なものだから、多分武器の種類に限らず使えるんじゃねえかな?

あ、ちなみに今の情報はいくらだ?」

 

 パリィング、格闘技なんかでも使われる技術だ。相手の攻撃を受け止めるのではなく、いなし、受け流す。

 受けるダメージを抑えるのではなく、0にする。

 決まれば0、失敗すれば無防備にダメージを喰らう、まさに一か八かだな。

 ちなみに完全に余談だが、一か八かはチンチロで用いられる“丁半”から来ているらしい。丁の上の横棒を一、半の上にある逆八の字を八としているらしい。これ、豆な。誰得だけど。

 

「正直、今のを見てもオレっちには何が起きていたのかさっぱり分からねェ。だから情報に値段を付けようがないんダ。すまナイ・・・」

 

 そう言って俯くアルゴ。おや、別に本気で情報の対価を貰おうなんて考えていなかったんだが・・・。急にそんなしおらしくなられると、八幡、困っちゃう☆

 

「まあ、なんだ、俺はまだしばらくレベリングがてら狩りを続けるつもりだし、俺のやり方じゃ失敗した時一人じゃ立て直すのが大変だからサポートしてくると、その、助かる。だから情報料はそれでチャラってことで」

 

 これならお互いプライスレスな取り引き、win-winだ。

 あぁ、なんと素晴らしき甘美な響きかな、win-win。いいじゃない。

 

 アルゴの方へ目を向けると目をパチクリと開いている。が、それも一瞬。

 

「ククク、そんなことでいいのカ?ハー坊、お人好しすぎて苦労するタイプだロ」

 

 ニヤニヤと笑いながら、それでもその笑いはどこか不快な感じはなく、友人に向けるソレのようで、少し気恥しい。いや、友人なんていたこと無いから知らないんですけどね。

 あっ、いたわ。友人、マイエンジェル戸塚。

 ニヤニヤ顔でおちょくるように笑う戸塚。アリだな。アリすぎて悶死するレベル。

 材木座?知らない人ですねェ・・・。

 

「それなら、交渉成立ってことでいいのか」

 

「ン、ありがとうナ!」

 

 そう言ってこちらに笑顔を向ける。

 こちとらぼっち歴長いんだから、そういう邪気のない感謝には慣れてないんだよ。笑顔を正面から受け止めることもな。

 

「んじゃ、続き、行きますか」

 

「オウ!」

 

 SAOの夜はまだ長い。人の居ない草原に剣戟の音と少しの談笑する声が響く。

 

 

 

 あれから数年後・・・

 嘘ですまだ3時間くらいです。時刻は朝6時を回ったくらいか。

 空も白みはじめてきて、もうすぐ朝日が登ろうとしているころだ。

 

 今の俺のレベルは5、アルゴが4となった。

 お互いウィンドウを開き、ステータスを振り分けている最中だ。

 俺のステータスはStrは最小限必要な分だけ上げ、DexとAgiに残りを振り分ける。耐久力ガン無視の紙装甲だ。

 当たらなければどうということはない!フハハ!

 とは言ってもこの周辺の雑魚相手に何度かパリィングに失敗して、攻撃を受ければかなりのHPを減らされる。耐久に関しても今後考えなくちゃな。

 

 アルゴはAgi極振りにステータスを上げるみたいだ。それでもここら辺の雑魚なら、レベルとステータスでゴリ押しで勝てるくらいには強くなっている。

 

「・・・さて、そろそろ明るくなってきたし、アイツらも起きてくるかも知れん。そろそろ戻るか」

 

 というか少しは寝たい。狩りに夢中になって予定より長く続けてしまった。

 とはいえ、その成果もあってドロップアイテムもそれなりに潤沢だ。回復ポーションが26個、回復結晶が2個にモンスター素材が・・・まあたくさんだ。

 そういえばイノシシの肉なんて物をいくつか入手していたが、これって食えるのか?

 

「そうだナ、収穫も大漁だし、なによりレベルもかなり上がったナ。」

 

 ふと少し考え込むアルゴ。なにか引っかかる事でもあるのか?

 何事かと目を向けていると、アルゴは顔を上げ少し重そうに口を開く。

 

「・・・正直言って、ハー坊の戦い方は少し・・・いや、かなり異質ダ。オレっちもハー坊の言う“パリィング”っていうのを何度か試してみたが、結局一度も成功しなかっタ。エフェクトが発生し、判定が組み込まれている点を踏まえて、バグやチートなんかじゃなく、そういう現象だってことは分かル。ーーーこれは推論になるだガ、技術的なものや才能、センス云々より、もっと別なモノが起因しているんだと思ウ」

 

 たしかに、俺の中で眠っていた才能が、この極限の状況において目醒めた!ってマンガやラノベみたいな展開なら大歓迎なのだが、生憎とVRの中ではあるものの、ここはリアル。

 そもそもセンス云々に関しては、βテストの時にアイツに散々笑われたからその線はないな。

 そうなると、考えられる心当たりは・・・。

 

「・・・感情か」

 

 コクンと頷くアルゴ。

 

 たしかに、mobからの攻撃を受ける直前、頭の中にあるのは“死”への恐怖。それにより思考が一瞬爆発的に加速するような感覚。そしてその後に訪れる“死にたくない”という生存本能による、脳から身体への信号を待たずして行われる行動。言わば反射のようなものだ。

 それらはただのゲームだった時、βテストの時より明確に強く感じられた感情。

 たしかに、それなら何となくだが納得は出来ないでもない。理解はできんがな。

 

「おそらく、ハー坊は感情をコントロールするのが無意識レベルで得意になっているんだロ。リアルでどんな経験したらそんなになるまで感情のオンオフを切り替えられるのか、気になるところではあるガ、プライベートな詮索は野暮ってもんだナ」

 

 どんな経験ねえ、こちとらごく普通のぼっちを極めた高校生にすぎないんですがねえ・・・。

 そう言えば魔王さんからは、“理性の化け物”なんて称号をもらってたっけか。

 

 少し考え込むようにしてボーッと遠くを見ていると、離れたところで一人のプレイヤーが狼のmobと戦っているのが見える。

 ふむ、身のこなしが上手いな。それに剣の扱いに慣れているようだ。リアルでも何かやってたクチかな。

 

 そんなことをボーッと考えていると、プレイヤーの背後から狼のmobが三体と蜂のmobが二体近づいている。

 プレイヤーは未だ気付いていない。おそらく対峙している狼が仲間を呼んだのだろう。

 プレイヤーとmobの間の距離はまだ少しあるみたいだが、時間の問題だろう。

 

「アルゴ、休憩は終わりだ。最後に一狩りするぞ」

 

「お、なんダ?お人好しが発動しちまったのカ?」

 

 そんな厄介なスキル持ってねえよ。

 これはただのーーー。

 

「なに、漁夫の利を得ようと思ってな」

 

「ふぅん、ま、そういう事にしておいてやるヨ」

 

 信用されてないのね。八幡、悲しくなっちゃう。でも泣かない。男の子だもん。

 

 アホなことを考えながら走っているうちにも、mobとの距離は縮まる。

 幸い、ソロプレイヤーにターゲティングしているため、未だこちらに気付いていないようだ。

 

「アルゴはそっちの狼を頼む。俺はこっちの蜂を叩く」

 

 簡潔に指示を出し、蜂の方へと駆ける。

 40cm〜50cmほどの大きさのある蜂。

 攻撃手段はその尻に付いた、殺意ムンムンの大きな針だ。

 グラスワスプという名前のそいつに背後から飛びかかる。どこを狙えばいいのかは分かっている。羽の付け根より少し下。尻と胴の間の細く括れているところに一閃。

 背後攻撃、隠蔽攻撃、致命攻撃のハッピーセットをお見舞し、真っ二つに分断する。

 

 mobの消滅を確認するまでも無く、次の蜂へと向かう。

 先ほどの戦闘音を聞きつけてか、既にこちらへと臨戦態勢をとっている。

 

 ブブブブと不快な羽音を鳴らし、カチカチとアゴを打ち付けて警戒音をならす。

 右へ左へと軽快にホバリングしながらこちらの隙を伺おうとする。なるほど、そういうアルゴリズムか。

 蜂に向かってわざと背を向ける。ここぞとばかりにぶら下げたでっかい釣り針にひっかかってくれちゃって。

 針が体を貫かんとする刹那。いつものアレがくる。スローモーションのように世界がゆっくりと動きだす。

 まだだ。まだ・・・。針が、攻撃が衣服に触れる直前を狙う。

 ーーーーここだっ!

 

 パァン!という最近になって聞き慣れた音とともに発生する衝撃波。瞬時に硬直した蜂の背後へと回り込み、先ほどの蜂と同様に一閃。

 

 蜂の消滅の確認を待たずにアルゴの方を見やる。

 さすがに三対一の状況に苦戦しているのか、HPゲージは半分を下回り、イエローゾーンまで減っている。

 このままだとあと数撃喰らえばゲームオーバー。すなわち死が待っているだろう。

 死?死ぬ?アルゴが?俺の知っているやつが、俺の目の前で?俺の指示のせいで?俺が見も知らないソロプレイヤーを助けようとなんかしたせいで?

 

 ーーーーふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな。

 それは許されないだろ。

 お前らじゃ死神を気取るには役不足だ!

 

 刹那、未だスローモーションが続いていることに気づく。落ち着いて見ると、ソロプレイヤーの剣士は最初に対峙していた狼を倒したのだろう。アルゴの救援に向かわんとしていた。ーーーーだが、だめだ。

 それでは間に合わないんだ。

 

 ふぅ・・・と呼吸を吐き出し、右足を前に踏み出す。瞬間にパァンと聞き慣れた音。

 アレはパリィングに成功した時に出る音じゃなかったのか?

 

 今はそんなことを気にしている場合ではない。今にも狼の爪が、牙がアルゴに届かんとしていた。

「サイドバイド・・・」

 

 その呟きとともに横薙の一閃、そしてソードスキル発動を報せる剣閃が狼二体をまとめて撫斬りにする。

 

 キャウンという鳴き声とともに3mほどノックバックさせる。

 横目でアルゴの方を見ると剣士がもう一体を受け持ったようだ。

 

「アルゴ!今のうちに回復だ!早くしろっ!」

 

「お、おう。ヒール」

 

 回復アイテムの使用により、体力がグリーンゾーンまでみるみる回復したのを見て安堵のため息が零れる。

 

 さて、あとはコイツらだ。

 一対一のタイマンならパリィングすれば問題ないのだろうが・・・。ま、なんとかなるだろ。

 

 グルルルとこちらを威嚇しながら、二体は別々に周囲を徘徊する。

 こちらも一体を目で牽制しつつ、もう一体の攻撃を誘う。別々のタイミングで攻撃してくれるとありがたいんだが・・・。

 

 しかし、そんな目論見も虚しく、唸り声とともに同時に襲いかかる。

 まあ、そうなるよね。知ってたよ!

 

 どちらの攻撃が早いか、見極めろ。視覚による情報を減らせ、限定しろ。

 色は要らない。背景の空も、草原の草も要らない。

 ここにあるのはただ一人と1匹、自分と敵が二体だけ。

 感覚がいつもより研ぎ澄まされるのが分かる。なんだ、こいつら。よく見ればこんなにノロノロ攻撃してるじゃないか。欠伸が出ちまう。いや、実際には出ないけど。

 

 右後方から飛びかかる狼の攻撃が服を掠める直前、振り向き様にその爪をいなし、その流れのまま今向いている右前方から脇腹目掛けて伸びてくる爪を短剣の腹でいなし、そのまますれ違う狼の肩口に短剣を添える。

 慣性により、自由落下していくだけの狼の体は添えられた短剣により切り裂かれ、消滅した。

 残る一体も硬直がまだ解けていないようだ。

「・・・アーマーピアース。」

 

 一歩踏み込み横から喉を一突き。

 狼たちの消滅を確認して、ようやく一息をついてその場に腰を落とす。

 どうやらずっと呼吸を止めていたようだ。

 体が求めて止まない新鮮な空気を取り入れる。例えVR空間の、たかが電気の反応による信号だと分かっていても。生きてると実感するには十分だ。

 

「ハー坊!大丈夫カ?」

 

 声の方向に顔だけそちらへと向けると、心配そうな面でこちらへと駆け寄ってくるアルゴの姿が見えた。

 

「ま、なんとかな。生きてるよ」

 

 生きてる。アルゴも、俺も。あのソロプレイヤーの剣士も。

 

 それを実感して草原へと身を投げ出す。

 あぁー、現実世界の草原なんて、野生動物の糞尿やら虫やらが気になって寝転べたもんじゃないけど、VRはそんな心配がないっていうのはいい所だな。

 

 ふと、視界に映るアルゴと先ほどの剣士が現れる。

 

「さっきはありがとうな。助かったよ」

 

「いや、こちらこそ。出過ぎた真似かとは思ったんだが、つい、な」

 

 差し伸べられた手に少し戸惑いながらも握り返し、よっと体を起こす。

 

 立ち上がって見ると剣士は思ってたより若く、幼く見えた。青年、というよりまだギリギリ少年だろうか。多分歳も1つか2つ下くらいだろう。

 

「本当に助かったよ、あそこでアンタとアルゴが助けに入ってくれなきゃ、死んでたかもしれない」

 

「それは無いだろ、アンタは俺の助けが無くったってどうにか出来たんじゃねえか?その剣、初期装備より断然いい性能をしているっぽいし、おそらく街で売られてる武器やその辺のモンスターからドロップする武器なんかより性能がいいだろ?」

 

「・・・驚いたな、アルゴから聞いたのか?」

 

「いんや、多分ハー坊は何も知らねーヨ。もちろんオレっちもキー坊のことは誰にも話してないしナ」

 

 アルゴからの言葉を受け、腕を組み少し考える剣士。

 なに?もしかしていけない秘密を知っちゃったの?謎の組織に狙われちゃうの?

 

「というか、お前ら知り合いだったのか?」

 

 話を少しでも変えるべく、というか純粋に気になったものだから、単刀直入に聞いてみる。

 

「あぁ、すまなかった。自己紹介がまだだったよな。俺はキリトだ。よろしく」

 

 そう言ってはにかむキリトはなんというか、イケメンなオーラが醸し出されていた。べ、別に年下のイケメンオーラに気圧されてなんかいないんだからね!

 

「あ、いえ、こちらこそ、ハチマンだ。・・・です。キリト、さん」

 

 しまった!つい敬語になっちゃったじゃないか。気圧されてる感満載じゃないか。

 

「はは、キリト、でいいよ。こちらこそ、ハチマンって呼んでもいいか?」

 

「お、おう。好きにしてくれ」

 

 なんてコミュ力!このコミュ力お化け!

 俺には絶対に無理だな

 

「で、だ。お二人さんでよろしくやってるとこ悪いんだガ、キー坊、そろそろオレっちとの関係を説明した方がいいんじゃないカ?」

 

「おっと、そうだった。すまない。」

 

 キー坊もとい、キリトの説明によるとこういうことだ。

 もともとβテスターとして知り合い(二人がβテスターであることは内緒にしてくれとのことだった)、キリトはβテスターとして、序盤を楽に進められるこの強武器の存在を知っていたため、情報屋のアルゴと接触し、いち早く情報を得て狩場が騒がしくなる前にアニール・ブレードを入手すべく動いていた。というわけだった。

 

「そういえばアルゴはパーティを組んだんだな。てっきり俺と同じでソロを貫くんだと思っていたよ」

 

「まあナ、一時的に臨時のパーティってやつだヨ。ハー坊もキー坊と同じで孤独を好んでるみたいだしナ」

 

「失礼な、俺は決して孤独を好んでいる訳では無い」

 

 むしろ孤独が俺を好んで離さないのだ。そう、例えるならば、近所に住んでいる年下の妹のような幼馴染みたいなものだ。

 ずっとお兄、お兄と言って慕ってくれていたかと思えば上京を機に関係が一変。今まで女としてなんて意識したことなんて無かったのに、離れたくないないという涙に思わず女を意識してしまう。そんな孤独ちゃん。

 あれ?孤独ちゃん、可愛くない?どうしよう、俺が一生幸せにしてあげたくなってしまう。俺が、俺こそが・・・!

 

「つまり俺こそがお兄ちゃんなんだっ!」

 

 おっと、つい心の声が口に出ていたのか。溢れ出るお兄ちゃん成分が発散できずに、つい漏れ出てしまったみたいだ。

 

「?よく分からないけど、ハチマンは強いんだな。なんか特殊な武器とか使っているのか?」

 

「いや、武器は初期装備の短剣だな」

 

 ほれ、と装備していた短剣をキリトに渡すと目を見開く。

 

「ハチマン、これ、本当に普通の短剣なんだよな?」

 どういうことだってばよ?

 

「てっきりハチマンが戦っていた時に見えた衝撃波は、武器による付属の能力かと思ったんだがな」

 

「あれは多分、そんなんじゃねえよ。なんかこう、ぶぁってなってパァンてなるんだ」

 

 あれ、なんか今の俺の説明すげえアホっぽい?

 

「ま、ハー坊自身もよく分かってないみたいなんダ」

 

 おお、ナイスアルゴ。いい助け舟だ。nice boat。ってそれ放送中止になってるじゃねえか。首チョンパされてるじゃねえか。

中に誰もいませんよ?

 

「スキルやステータスの詮索はマナー違反だったな。ありがとう、コレ返すよ」

 

「おう」

 

 そうなのか、スキルやステータスの詮索はマナー違反なのか。そういうことは教えといて下さいよ、アルゴさん。あなた情報屋なんだよね?

 

「今日は二人とも助かった。この恩はいつか必ず返させてもらうよ」

 

「別に、助けようと思って助けたわけじゃねえよ。たまたま目の前に手頃なモンスターが複数いたから、練習に良いと思って横槍を入れただけだ。それで助かったって言うんなら、それは運が良かったってだけだろ。俺のおかげとかじゃねえよ。少なくとも礼をするならアルゴにしてやってくれ」

 

「ま、こういう奴みたいなんダ、ハー坊はヨ」

 

 やれやれと仕方ないなという風に肩を竦めて首を振る。おい、やれやれキャラは俺の専売特許だぞ!

 

「ははは、ハチマンってやつが少し分かった気がするよ」

 

 ふっ、愚か者め。貴様が見た八幡は氷山の一角にすぎん。この俺を理解するなど100万光年早い! しまった 100まんこうねんは きょりだ!

 

 しかし、まあ、なんだ・・・。キリトは悪い奴じゃ無いのかもしれない。初めて会ったばかりだし、お互いよく知らないが、そう思う。

 今後もなんだかんだと顔を合わせる仲になりそうだ。

 俺のサイドエフェクトがそう言っている。そんなもんないけど。

 

「ん。じゃあ、な。キリト。また直ぐに会うかもしれんが、まあ、達者にやれよ」

 

「おう、そっちこそな!ハチマン。ヘタなところで死ぬなよな!」

 

 ニカッと笑ってキリトがこちらに手を差し出す。

 その瞳は力強く、朝日を受け、生きるという希望に満ち溢れているように見える。俺の腐った目と揶揄されるソレとは正反対のようだ。

 きっと彼のような人間こそ、陽向を歩くべきなんだろう。それならば俺は日陰を行こう。

 陽キャ、なんてのは俺の嫌いな人種だが、このキリトはそうは感じられない。それはここがVRで俺自身にも何か心境の変化があったからなのかは未だ分からないけど。

 

 それでもーーーーと、差し出された手を握り返しながら俺は思う。友だちってやつができるのはこんな瞬間なのかもしれない、と。

 

 お互いに背を向け、俺はアルゴと、キリトはキリトでお互いの道を往く。

 またな、と約束を叶えるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやー、それがなんでこんな事になってるんですかねえ。

 せっかくいい感じに別れたと思ったのに。

 

「そりゃお互いに街に帰るなら目的地も帰り道も同じなんだからこうなるだろうヨ」

 

 ぷくくと笑いながら飄々と歩くアルゴ。

 

 そう、なんかいい感じに別れたと思って歩き出した30秒後には、バッタリとキリトと出くわしてこうして帰路を共にしているところだった。

 

 なんか、校門の前でじゃあねー!って別れた直後に信号で再び会って、その後もとくに話すことなく何となく一緒の帰り道を帰る、みたいな気まずさ。まあそんな友だちいなかったから知らんけど。

 

 道中mobを適当に転がしながら、特に会話もなく無事に門まで着いて改めて別れの挨拶を交わす。

 さすがにその日二度目となると最初の時のような感慨もなく淡白なものだ。

 

 βテスターか、一応俺もそうなんだって、伝えそびれたな。まあ特に聞かれた訳でもないし、うん。別にいいよな。

 

 そういえばβテストの時知り合ったアイツはどうしているだろうか。サービス開始には絶対ログインすると息巻いていたが。

 まあ名前もβテストの時と同じとは限らないし、リアルの顔も性別すら知らないんだから探しようがないな。うん。

 仮にこのデスゲームに巻き込まれていたとしても、アイツなら大丈夫だろう。戦闘センスっていうかゲームセンスが異常に高かったし。

 

 このデスゲームに巻き込まれていないなら、それはそれで喜ばしいことだ。こんな、いつ終わるとも知れないデスゲーム、無理に付き合う必要はない。

 

 ま、考えても詮無きことだな。

 

 そう考えをぶち切りアルゴと共に宿への道を往く。

 デスゲーム二日目の朝。日は高く登りはじめており、もう既に眠い。

 

 

 




というわけで今回始めての戦闘描写でした。

もう私の中のご都合主義すぎて、駄文と化してしまって申し訳ないないです。

これからも駄文への批評、批判お待ちしております。




次回予告てきなもの


「さすがに手土産の一つも無しに行くわけにはいかないだろ。」

「昨日散々私を辱めておいて放ったらかしにしてロクなフォローもしないで朝帰りと洒落込むクズ谷くん。」

「んふふー?あれー?ハチマンくんだー?なんでー?夢の中にも出てくるのー??」

「誇りを持て!今こそ戦いの時なのだ!ジークジオン!」

「俺に仲間なんていねーよ。」

「...ハー坊。オレっちのこと、何歳だと思ってるんだ?」
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