やはり俺のVR青春ラブコメは間違っている   作:青鬼ちゃん

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五話目の投稿です

元々自分の妄想を形にするために書いてた小説なので、たまに読み返したりしているんですが...。
すっごいゾワゾワしますね。

ということで五話目です。
今回も妄想におつきあいいただければ幸いです。


一章 五部

 

 パチリと目を覚ます。

 

「む、知らない天井だ・・・」

 

 なんつって、一度は言ってみたいセリフを言ってみたかったり。

 

 首をすこし動かし窓の外へ顔を向けるとまだ明るい。壁に掛かっている時計を見ると14時を少し回ったところ。

 

 会議が終わってから3時間ほど眠っていたようだ。

 部屋には人の気配はなく、どうやら女子4人で仲良くお出かけしているらしい。

 べ、別に独りっきりで寂しいなんて思ってないんだからね!むしろぼっちの方が落ち着くまである。これ真理ね。

 

 とはいえ、目が覚めてしまった以上、二度寝をする必要性もイマイチ感じられず、人差し指と中指を揃えて空で下にスライドさせストレージを開く。

 

 回復アイテムこそ少ないが、モンスター素材は大量にある。

 武器の強化とか生産に使えたりしないのだろうか?某狩りゲーではモンスターの牙や皮なんかで作れたりしたものだが。

 

 そういえばここ、始まりの街もまだ探索しきれてなかったなと思い体を起こす。

 

 ・・・あー、ダメだ。やっぱ動きたくないな。

 今ここにはいつもダラダラしていると口うるさい小町はおろか、誰も居ないのだから文句を言われることもない。素晴らしきかな、ぼっちライフ。

 

 ダメだ。ひとまず今の生活がある程度落ち着くまではもう少しがんばろう。

 

 そう決意して、なんて表現は少し大袈裟かもしれないが、気合いをほんの少し入れてソファから立ち上がる。

 軽く伸びをして血液に酸素を流し込む。

 まあ、データの体なんだから血液なんて流れてないんだけど。

 

 ソファに脱いだままにしていた防具のレザーベストを着込んで、水道から出る水を喉に流し込み玄関の扉をくぐる。

 

 一階に降りてとりあえず受付のお姉さんに一週間延長分の宿代を支払い街へと繰り出す。

 

 外に出ると日はまだ高く、太陽の眩しさに今すぐにも挫けそうになる。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。

 よし、帰ろう。今日くらいはゆっくりしたっていいじゃないか。お天道様も「お前の出る幕じゃねえ。」と言っているようじゃないか。

 

 踵を返し再び宿屋に戻ろうじゃないか。ふかふかの布団とは言えないが。俺の相棒、ソファくんが待っている!

 

「えっとハチマンくん?なにをしているのな?」

 

 声の方を向くとアスナが買い物袋を抱えて立っていた。

 

「今のキミ、なんだかすごく怪しいよ」

 

 そう言ってアスナ呆れたように笑いながら、よっと手に抱える買い物袋を持ち直す。

 

「・・・少しよこせよ。持ってやるから。」

 

 きょとんとした後、アスナは軽く礼を言いながら袋を一つこちらに寄越してくる。

 それを受け取りさっき降りてきたばかりの階段を登る。なんか俺アホみたいだな。

 

「んふふ、優しいんだ?」

 

「別にそんなんじゃねえよ、妹にいつも言われてるだけだ」

 

 女の子の手が塞がってたら手伝ってあげなきゃダメだよーごみぃちゃん。

 なんて、世界一可愛く言ってくるんだろう。

 一色もそんな感じのことを言ってたしな。

 

「へー、小町ちゃん、だっけ?できた妹さんだね」

 

「おう、世界一可愛いぞ」

 

 自信満々にそう告げる。少なくとも俺にとっては世界一可愛い妹だ。

 最早世界の妹と言っても過言ではない。うーむ、ついに小町もワールドクラスか。感慨深いものだ・・・。

 

「・・・さっきはありがとうね」

 

 む、なんのことだ?

 

「これのことか?」

 

 そう言いながら手に持った袋を掲げてみるも首を横に振られる。ふむ、どうやら違ったみたいだ。

 

「さっき、私の意見を聞いてくれたでしょ」

 

 なんだ、そんなことか。とは言わない。

 そんなことがどの程度のことなのかはその本人にしか推し量れないことだから、それを口にするのは憚られた。

 

「別に。ただ、変に遠慮されると俺がやりにくいってだけだ」

 

「ん、そっか・・・」

 

「そうなんだよ」

 

 んふふー、と上機嫌そうに笑いながら前を歩いていた俺を追い越して部屋に入る。

 なにがそんなに可笑しいんですかねえ。

 

 しかし、その表情は初めてあった時よりもいくらか軽くなったように見えたのは、気のせいではないと思いたい。

 

「ちなみにこれは何を買ってきてたんだ?」

 袋をテーブルの上に置きアスナに尋ねる。

 

「そりゃ女の子ですからね。色々と入り用なんですよ。いろいろと」

 

 ふーん、色々ねぇ。見れば香り付きの美容液や洗髪用のトリートメントやらが入っているようだ。男の俺にはよく分からん。

 VRなのだから皮脂汚れも出なければ肌荒れもないだろうに。

 

「そういえば他の三人は?」

 

 てっきり女子四人で姦しくお出かけしていたものだと思っていたのだが。

 

「ゆきのんとユイユイはフィールドでアルゴさんに戦闘の仕方を習うんだって」

 

 なんかそんな事を眠りにつく前に話していたのが耳に入ってきてたような気もするな。

 眠気には逆らえず俺はそのまま寝ちゃったけど。

 

「ハチマンくんは今日これからどうするの?」

 

 洗面所の方で買ってきた戦利品を並べながら、こちらへ声を飛ばす。

 これからねえー・・・。アスナが帰ってきた以上ゴロゴロできる雰囲気でもなくなったしな。

 

「一応、街をぶらっと見て回ろうかと思ってる」

 

 デスゲーム開始から一夜明けてどうなっているか、状況もこの目で確認しておきたいからな。

 

「ふーん、それ、私もついて行ってもいい?」

 

「別に俺といても大して面白いことにはならないだろうし、ここでゆっくりしててもいいんだぞ」

 

 実際ただ街を散策するだけになるだろうしな。

 

「いいの。私がハチマンくんについて行きたいだけなんだから」

 

 さいですかい。

 

「好きにしてくれ。」

 

「ん、よろしい。好きにします」

 

 遠慮せずに自分の意見を言えとは言ったけど、少しぐいぐい来すぎじゃありませんかねぇ・・・。なにがそんなに楽しいやら。

 

 

 

 

 そんなわけで今はアスナと街をマッピングがてら散策している。

 別にデートだとかそんな色っぽいものではない。勘違いなんてしてないんだからね!

 

 どこにどんなお店があるのか把握しているのとそうでないのとでは生活のしやすさが全然違うだろう。

 

 道中、広場で見かけたクエストボードに目を通してみる。

 NPCからの依頼の他にもプレイヤーからの依頼なんかもあるみたいだ。主に多く見られるのは回復アイテムの納品や、フィールド探索の護衛。パーティメンバーの募集の張り紙なんかだ。

 

 その中に一つ気になる依頼書が目に留まる。

【空き店舗、譲ります。】

 NPCからの依頼で期限は3日、現在2/3となっていることから昨日から貼られていて、明日までなのだろう。報酬は少額のコルと空き店舗。討伐系の依頼である証が打ってある。

 とりあえず記憶に留めておくか。

 

「ここに奉仕部の宣伝を書いてもいいんじゃないかな?」

 アスナの声に思考を切り替える。

 ふむ、たしかにここなら大勢の目にも止まりやすいだろうし、悪い案ではない。

 

「まあ、悪くはないが、無作為に人を選ばず仕事ができるほど人でも余裕もないからな」

 

「そっか。たしかに大勢の手助けをしようとして、本当に困っている人が助けられなくなるのも本末転倒って感じだしね」

 

 ま、そういうことだ。

 とりあえず今の手持ちのモンスターの素材で完了できそうな依頼をいくつか受注する。

 

「そんなに受けて大丈夫なの?」

 

「余分に素材を持っていてな。ただストレージの肥やしにするよりいいだろ」

 

 どうせ街の散策をするついでだ。

 マップを確認してクエストのアイコンの付いたNPCを探していくことにする。

 

 結果、NPCからは中々有益な情報が得られた。ほとんどは近所の井戸端会議レベルの会話だったが、いくつか1層のボスへの手がかりとなりそうな情報も得られた。

 このあたりはアルゴと情報の精査が必要だな。

 

「ちょっと武具屋を覗いてみてもいいか?」

 

「うん、私も見てみたかったし、行こっ」

 

 アスナの了承を得られたところで武具屋を目指す。

 

 

 

 

「いらっしゃい。何かご入り用で?」

 

「あー、武器を見せて欲しいんだが・・・」

 

 あいよっと景気良さそうな声で言って、武器の一覧を見せてくれる。NPCに話しかけるというのはなんだか少し恥ずかしい気もするが、そこはさすが高性能AIが搭載されているだけのことはあり、会話のレパートリーは豊富で驚くほどスムーズだ。多分俺より会話上手まである。

 

「そういえば、アスナの武器は何を使うんだ?」

 

「私は今はこれかな」

 

 そう言ってアスナが取り出したのは、初期装備の片手直剣だ。

 

「でもなんかしっくり来ないんだよね」

 

 そう言ってえいっと剣を振り下ろす。

 なるほど、多分斬る、振り下ろす、ということに抵抗があるのかもしれない。それならば・・・。

 

「コレを見せてもらってもいいか?」

 

「あいよっ」

 

 そう言って出してもらったのは刃がなく、細く先端が鋭利に尖った細剣(レイピア)

 

「アスナ、これで突いてみろ」

 

「え、うん。分かった・・・」

 

 ふぅ、と一呼吸を置いて

 

「はっ!」

 

 剣圧で風がふわっと起こる。大したものだ。正直ここまで様になるのとは思わなかった。

 

「すごい・・・。ウソみたいにしっくりくる・・・」

 

「もともと女性の方が骨格の可動域が広く、構えから突きを放った際のリーチが長くなるからな。それに筋肉の付き方も柔らかく靱やかだから連続して突きを放つには向いていると思ったんだ」

 

 それでもここまでとは正直思わなかったがな。

 

 アスナは楽しそうに細剣を振り続けている。

 女の子が楽しそうに刃物を振り回す画って中々に恐怖だな・・・。

 

「店員さん、こいつの一番ランクの高いやつは出せるか?」

 

「あーっ。すまねえな兄ちゃん。今ちょうど材料を切らしちまってるんだ。グラスワスプの針が二個とグラスウルフの爪が五個あれば何とかなるんだが」

 

 ビコンとログが発生する。

 

【武具屋の依頼、素材の納品】

【受注しますか?】

【○YES】 【×NO】

 

 へえ、こんなクエストの受注の仕方もあるのか。

 メニューには載っていないし、会話から持っていかないと発生しないクエストっていうのもあるのかもしれない。

 

 とりあえずYES、と

 

 素材は持っていることを確認してそのまま店主に再度話しかけ納品を完了させる。

 

「おう、兄ちゃん、ありがとうな!それじゃあちょいと待っててくれ!」

 

 そう言って店主はカウンターの奥の部屋に消えていった。金槌を叩く音が聞こえることからおそらく工房の役目があるんだろう。

 

 カーン、カーン、カーン ガチャ。

 

「待たせたな、出来たぜ」

 

 いやはえーよ。全然待たされてないよ。三分クッキングもびっくりの早さだよ。・・・さすがはゲームだな。

 

 受注から納品までが早かったこともあり、代金は安くしてくれるという。それは助かるな。

 代金を支払い店主に世話になった礼を伝えて、アスナと店を出る。

「ハチマンくん、何か買ったの?」

 

「ん、あぁ。これをアスナにな」

 

 そう言ってストレージを開いて先ほどの細剣をアスナに渡す。

 銘は【グラス・スプリンガー】

 StrとDexに補正が付いて攻撃力もそこそこに高めだ。序盤に入手できる武器にしてはなかなかに強い方ではないだろうか。

 キリトが持っていたアニール・ブレードとかいう剣に及ばないだろうが。

 

「え、何この武器、性能すごっ!」

 

「まあさっきの武具屋の店主とちょちょいと話してな。安く譲ってもらったんだよ」

 

「でも、私なんかの装備より、ハチマンくんの装備を整えた方が.・・・」

 

「俺は外に出ることはないから別にいいんだよ」

 

  実際今のところ初期装備の短剣で不自由はしていないな。

 

「・・・そっか。わかった。ありがとう!大事にするね」

 

 いや、そんな武器を大事になんかされても困るんですけど。性能のいい武器が見つかったらぜひ乗り換えてね?

 

 しかし、こんな笑顔が見れるのなら贈り物をした甲斐があるというものだ。

 武器なんて色気もクソもないものだが。

 

 日が傾いた頃には二人して宿屋に到着することができた。

 部屋の方を見ると明かりが点いていることから三人が帰ってきていることが伺える。

 

「ただいまー!」

 

「うーす」

 

「あら、おかえりなさい。随分と機嫌がよさそうね。ハチマンくんと一緒だったのね」

 雪ノ下はエプロン姿で夕食の準備をしていたのだろう。そんなものも買ってたんですね。

 

「なんだ、メシ作ってたのか」

 

「ええ、あなたを仲間はずれに食事するのも可哀想だから、不本意ながらついでに用意してあげたわ。感謝しなさい」

 

 へーへー、そいつはどうもありがとうよ。ありがたすぎて涙ちょちょ切れちゃう。

 でもなあ、ここの食事って文字通り味気が無いからな。

 目の前に広がる料理は見た目は美味しそうだがその味気の無さを予想してすこしげんなりする。とは言ってもせっかく作ってもらったのだ。手をつけなければ失礼というものだ。

 

「じゃ、頂きます・・・」

 

 スプーンでオムレツを掬い、口へと運ぶ、

 その時ーー八幡に電流が走る。

 至福っ......!男たちの夢っ......!満悦......垂涎の至福っ......!嬉々として動く食指、至福の咀嚼......!ゆきのん......!ただ傍観しているだけ......!至福の傍観っ......!無論、八幡も......至福っ!桃源郷を彷徨うが如くの圧倒的至福っ......!

 はっ!俺は、一体、なにを・・・?

 

「ふふ、無言でがっつくなんて、よっぽど美味しかったのかしら」

 

 気づけば目の前の皿は空になっていた。どうやらあまりの美味さに無心で食べていたようだ。

 

「あぁ、なんなら毎日でも食べさせてもらいたいくらいだ」

 

 ぽろりと本音が零れてしまう、が。それも仕方ないなだろう。本当に美味しかったのだから。

 

「そ、そう。まだおかわりはあるのだけれど、余らせてしまうのも勿体ないし、よければいるかしら?」

 

「お、おう。それじゃよろしく頼む」

 

 キレイに空になった皿を雪ノ下に差し出すとサラッと受け取って台所に向かって行った。

 お皿だけにネ☆

 しかしその後ろ姿が機嫌がよく見えるのは気のせいだろうか。

 

「それにしてもこれ、どうやったんだ?」

 

 てっきり昨日飲んだお茶やクッキーのように味のしない形だけの料理かと思っていたのに。

 

「アルゴさんが教えてくれたのよ。料理スキルを取得して素材を組み合わせれば、ある程度の料理は作ることができるって」

 

 なるほど、この世界で作られた出来合いの既製品より、プレイヤーメイドの方が上質になるってことなのか?

 

「それなら装備なんかもお店で買うものより、プレイヤーが作り上げた武器や防具の方が性能が高くなるってことなのか?」

 

「ま、理屈のうえではそういうことだナ。現状では、そこまで満足のいく鍛治スキルを持ったプレイヤーはいないだろうし、しばらくは店で買ったりドロップした武器を使うのが一番だナ」

 

 ま、たしかにそりゃそうだな。

 鍛治スキルってのはおそらくだが武器を作る、修理する、で修練していくものだろう。字面のまんまだな。

 一朝一夕で身につくものでない限り、モノになるまでは時間がかかるってことだろう。

 

「あ、そうだアルゴさん。これ見て欲しいんだけど」

 

 そう言ってアスナがストレージから取り出したのは先ほど俺がアスナにあげたグラス・スプリンガーだ。

 こらこら食事中に武器を出すもんじゃありません。しまっちゃいなさい。

 

「・・・っ!アーちゃん、これはどこで手に入れたんダ?」

 

 およ?思った以上の食いつきだな。βテストから情報屋をしているアルゴですら知らなかったのか?

 

「えっと・・・。今日ハチマンくんと街を歩いてて武具屋でこれを入手してプレゼントしてくれたの」

 

 なにをふにゃっと笑っているんですかねえ。訂正するなら、プレゼントというより装備の進呈だよ?

 そんなに色気のあるものでもないでしょ。

 そもそも俺からプレゼントなんてもらってもさして嬉しくもないだろうに。女の自尊心を満たすってやつなのかね?

こわっ!女ってこわい!やっぱり戸塚が一番天使だよ。大天使トツカエル様だよ。

 

「・・・まあ、プレゼント云々はともかくダ。ハー坊、これは購入したやつなのカ?オレっちの揃えてる各店のメニューには載ってないやつなんだが」

 

「いんや。なんか店主と話してたらクエストを受注してな。そのまま納品したら、なんか安く売ってくれた」

 

「なるほどナ。隠しクエストカ。アーちゃんありがとうナ。これは返すヨ」

 アスナに細剣を返し、アルゴがこちらへ向き直る。無論、オムレツを食べる手は止めないままだ。

 

「正直言ってこの細剣はキー坊の持つアニール・ブレードより性能が高いかも知れなイ」

 

「そんなことないだろ?多分攻撃力はあっちの方がいくらか上だろ」

 

「たしかに、数字上はアニール・ブレードの方が上ダ。あれだって4階層までは十分に通じる壊れ武器ダ。でもアーちゃんの剣は細剣だロ?目に見えない数値の補正がつくんだヨ」

 

 ・・・なるほどね、たしかに両手剣と片手直剣で同じ位の数字なら、手数の多い片手直剣の方が強いのは自明の理だな。

 

「細剣の特徴は突きによる連撃と攻撃の速さダ。それが高威力を誇るのがどういうことカ、ハー坊には分かるだロ」

 

 まあ理解はできたな。

 だが、そんなに驚くことか?

 

「ハー坊、実はβテスターなんじゃないのカ?」

 

 ・・・まあ、別に隠してた訳でもないしな。聞かれなかったから言わなかっただけで。

 

「えっと、そのぺーたてすたー?って確か当選したってヒッキーが珍しく喜んでたやつだよね」

 

「そうね、たしかにそんなことを言って妙にはしゃぎいでいて少し、いえ、とても気持ち悪かったのを覚えているわ」

 

 なんだよ、そんなにはしゃいで無いだろ。

 嬉しさのあまりに部室で小躍りしたりコサックダンスして筋肉痛になったくらいだろ。

 それくらいみんなやってるっつーの。俺を含めた俺だけの世界のみんなだけど。

 

「でも、たしかあの時期って・・・」

 

「ええ、合同クリスマスイベントで忙しかった時期ね」

 

「そうだよ。だからβテストに参加できたのは最初の数日と最後だけだ」

 

 実際、あの時はそれどころじゃなかったしな。

 イベントを成功させるために、そっちに集中してたしな。ゲームにうつつを抜かしてリアルを疎かになんてしたら小町に嫌われちゃう。

 

「そういうことで、一応βテスターってことにはなるが、それでもにわかにも劣るほどだ。別に隠してたつもりはなかったんだが、悪かったな」

 

 軽く頭を下げて謝意を示す。

 ちょっとアスナさん?アホ毛をちょんちょんするの辞めてもらえます?

 緊張感がないんだから、まったく。

 

「別になんも怒ったりなんてしてねーヨ。それよりこっちこそ、悪かったナ。βテスター云々なんて話はプライバシーに関わることだし、普通は踏み込んで聞くのはご法度なんだがナ。ついつい気になっちまっタ」

 

 お互い頭を下げてドロー!

 これで引き分けってことでなんにもなかった。いやー、よかったよかった。

 

「いや、気にするな。そういえばβテスターってのは隠しておいた方がいいのか?なんか不都合があるとか?」

 

「そういう訳じゃないんだガ。...まあ暗黙の了解ってやつだナ。いくら仕様が変わっているとはいえ、やっぱり情報を持つ人間てのは良くも悪くも目立つからナ。特にオレっちの“鼠のアルゴ”みたいな通り名持ちの有名人はナ」

 

 そっか、そういえばコイツβテスターなんだっけ。すっかり忘れてたわ。

 

 ふむ、有名人・・・。鼠のアルゴ・・・。

 

「アルゴ、ちょっといいか」

 

 席を立ちアルゴの方へと歩みを進める。

 

「ナ、なんだよヨ・・・」

 

「いや、少し目をつぶってくれ」

 

「な、なんで急にそんナ・・・っ!」

 

「急じゃねえよ。前からいいなって思ってたんだ」

 

「で、でもほら、周りにみんなもいるじゃないカ・・・」

「周りなんて気にするなよ。大丈夫だ。俺も初めてだけど、優しくするから」

 

「う、それじゃあ・・・お願いしまス・・・」

 

 お、唇まで突き出して、準備万端じゃねえか。それじゃあ遠慮なくやらせてもらうか。

 

 きゅっ きゅっ きゅっ

 

 それにしてもコイツ肌キレイだなー、それに意外とまつ毛も長いし、鼻筋もキレイに通ってる。それにほっぺたやわらかっ!

 

 きゅっ きゅっ きゅっ

 

 女らしくしたら、意外と化けるんじゃないか?そりゃないか。でもアルゴだしな・・・。

 

「よし、目を開けていいぞ」

 

「へ?」

 

 うむ、予想通り、良く似合うじゃないか。なんということでしょう。匠の手にかかればこの通り!ほっぺたに三本線を足すだけで鼠アルゴの完成だ!(劇的なアレのbgm)

 

「あら、よく似合うじゃない。可愛いらしいわよ」

「アルゴさんちょー可愛いんだけど!」

 

「わー、アルゴさん可愛い!」

 

ふふん、我ながら会心の出来と言っても過言ではないな!線を三本ずつ書いただけだけど。

 

「ハー坊・・・」

 

 およ?様子がへんだぞ?

 

「オネーサンをおちょくって辱めるのは関心しないなあ?」

 

 いや、おちょくったのは認めるけど、辱めてはいないからね!

 てかアルゴさん?気のせいか口調が変わっていないでせうか?

 

 ゆらっと立ち上がり、そのまましゃがんでいるこちらを見下ろすアルゴ。いやー、いつも俺が見下ろしてるから逆になるのは新鮮だなー、なんて・・・。

 

「天・誅っ!」

 

 振り上げた足をそのまま脳天に落とされようとするその刹那。世界がスローモーションのように流れる。

 鼠だけに天、ちゅーってか。ははっ。結構なお手前で。

 

 そんなことより大事なことがあるッ!

 今ッ!この瞬間ッ!

 アルゴの足は未だ目の前で開かれたままだ。

 そして迫りくる至福の瞬間ッ!

 ショートパンツから伸びるスラリと健康的な脚!そして布と肌から見える絶対領域の隙間ッ!

 まだだ、まだ、まだ、まだ...。今ッ!

 八幡アイ(腐りかけ)を限界まで見開き、網膜に焼き付けるッ!

 

 ピンクのレース・・・か。

 

 やるじゃねえか、アルゴ・・・。

 

 我が生涯に一遍の悔いなし・・・。いや、全然あるんだけどね。

 

※この間およそ0.002秒

 

 そして約束の時は訪れる。

 

「ネリチャギッ!?」

 

 ウェスカー顔負けのキレイなネリチャギだ。

 もちろんダメージはない。が、衝撃はどうしようもない。ああ体が動かない。

 アスナが近寄って体を揺する。アタマを強く打ったひとは無闇に動かさないようにね。

 ゲームの中だから大丈夫だろうけど・・・。

 

 そうだ、こんなふざけてる場合じゃない。

 アルゴに伝えないといけないことがあるんだ。

 

「あー、アルゴ、その髭には理由があるんだ。聞いてくれ」

 

 痛む頭を抑えてアスナの肩を借りて立ち上がる。うわっ、すっごいいい香りするー。

 あれかな?昼間に買ってきてたトリートメントの香りかな?トリートメントの神様、少し侮っていたようだ。

 

 って違う違う!

 やっぱりイマイチ頭が上手く機能していないな。ナーヴギアの故障か?なにそれ恐ろしすぎる。

 

「アルゴには“鼠のアルゴ”のネームを活かして信頼できそうな人間に奉仕部を宣伝して欲しいんだ」

 

「・・・それはつまり、困ってそうなプレイヤーを調べてどんな需要があるのか、奉仕部に紹介しても大丈夫なのか吟味しロ、ってことカ」

 

「まあ、大方その通りだ」

 

「それはいいけどヨ、この髭はなんのためダ」

「え、だってその方が可愛いし鼠っぽくてキャッチーだろ?」

 

「は、ハー坊、お前そんな、可愛いなんてよく言えるナ!」

 

 ははーん?なるほどなるほど。こんなイケメンに可愛いなんて褒められて照れちゃってるのか。ういやつめ。

 

 などと甘い展開ではないことを俺は知っている。

 あの態度はアレだ。クラスの女子が髪型を変えたのに気づいてそれを褒めようと指摘したら「は?なにこいつ急に喋りかけてんの?お前に気付かれても嬉しくもないし、ってか普通にキモいだけだし。お前に褒められるくらいな坊主にした方がマシだし。」アハハ チョーウケルww 的なやつだな。

 はっ、別に褒めようとしたわけじゃないし。前の髪型が似合わなさすぎて今の髪型で少しはマシになったな、くらいなものだし。

 むしろお前らみたいな性格ブスを少しは見れるようにした美容師の腕前を褒めたいくらいだし。

 だから断じて傷付いてなどいない。

 断 じ て い な い。

 

 よし、少し落ち着いた。

 小町、お兄ちゃん、泣かなかったよ!

 

「あなた、この世界に来てから色々と変よ。やはりナーヴギアの不調なのではないかしら?」

 

「む、失礼だな。俺はいつも通りの平常運転だ。その証拠に今日も俺の目は腐っている」

 

 いつも通り腐っちゃってるのかよ。

 こんな要らないとこまで再現する機能をつけた茅場晶彦、許すまじ!

 とはいえ、たしかに最近の俺は少しらしく無かったな。柄にも無く行動的すぎだ・・・。

 だけどもそれも今だけだ、俺の精神衛生上必要なことをしているだけだ。

 

「ハチマンくんて、前からこうじゃなかったの?」

 

「そうね、現実での彼は捻くれていて自堕落でものぐさ。暇さえあれば何やら訳の分からないラノベ・・・?というのかしら。それを読んでニヤニヤするか、あの腐ったような目つきで女子を視姦することを常としていたような男よ」

 よくもそうつらつらと罵詈雑言を述べられるものですね。

 ちなみに俺は捻くれてなどいない。むしろ自分に正直すぎるまである。正直すぎて周りに理解が及ばないだけだ。

 

「でもなんだかんだで優しいところもあるんだよね、ヒッキーは」

 

「はっ、俺なんかが優しいんなら世の中聖人君子だらけで戦争なんて起きないまである。むしろ世界がもっと俺に優しくあるべきだな」

 

「ほら、こういうところよ」

 

「アー・・・、なるほどナ」

 

 ちょっと、何を女子だけで納得してるんですか。男の俺は蚊帳の外ですか。あ、それいつも通りだわ。

 なんなら男女問わず蚊帳の外。世界からも孤立しているまである。

 

「とにかくだ、あー、話が逸れてしまったが。本筋に戻ってもいいか?」

 

 話題がだいぶ逸れてしまったな。これだから女子は恐ろしい・・・。いつの間にか話が転々と脱線して延々と喋り続けるまであるからな。

 

「明日からアルゴには“鼠のアルゴ”として奉仕部の宣伝をしてもらいたい。俺もそれなりにはバックアップをする。とりあえずそれでいいか?」

 

「オウ!ハー坊が必要なことって言うんなら異論は無いゾ」

 

「それじゃ今日の活動は終わりだ。お前らはシャワー浴びるんだろ? 俺は少し街に出てるから、1時間くらいでいいか?」

 

「自ら部屋を出ていこうなんて殊勝な心がけね、ハチマンくん。こっそり女子のシャワー音を盗み聞こうだなんてするようなら叩き出すところだったわ」

 

「へーへー。あ、そうだアルゴ。少し時間いいか?」

 

 話したいことがある。とだけアルゴに告げて先に外に出る。

 一階に降り宿屋の外で待つこと1分ほどしてアルゴが出てきた。

 

「なんだハー坊。ついに愛の告白カ?まだ早すぎるってなもんだゼ」

 

「俺が愛を叫ぶのは妹の小町だけだ。それと、今夜みんなが寝静まったら着いてきて欲しいところがある」

 

「ふーん、内緒の話カ。でもいいのか?のんちゃん達には相談しなくて」

 

 その“のんちゃん”ていうのはおそらく雪ノ下のことだよな・・・。どういうネーミングセンスしてるんだコイツは。

 

「ああ、アイツらには報せなくていい」

 

「ふーん、ま、ハー坊がそれでいいって言うならいいんだけどナ」

 

「・・・なんか含みのある言い方だな」

 

「別ニ。そんな大したことでもないサ。それよりも要件がそれだけならオレっちは戻るゾ。一緒にお風呂入るためにアーちゃんを待たせちまってるからナ」

 

 二人づつお風呂に入ってるのか。

 てことは今ごろ雪ノ下と由比ヶ浜がお風呂で百合百合してるわけですか。まったくけしからん。

 あんまり妄想を捗らせると後で顔を見づらくなってしまうから止めておこう。

 

「ハー坊も一緒に入るカ?」

 

 なん、だと・・・。それはなんて魅力的で甘美な誘いだろうか。

 しかしこれは孔明の罠。

 悪ノリでも乗っかったフリをしてしまえば、その後には決して免れない糾弾、そして行われる弾劾裁判!

 

 ふう、危なかった。現世に蘇った仲達と呼ばれる俺じゃなきゃやられてたね。

 

「俺はこれからもう少しブラついてから適当に帰るから、お前らはゆっくり風呂でも入ってろ」

 

 ヒラヒラと手を振りながら石畳を歩く。

 スピードワゴンはクールに去るぜ!あまぁーい!じゃない方ね。

 

 さて、何をするかな・・・。

 

 時刻は21時少し前くらいか。しばらく歩いていると気づけば人気のない、薄暗い路地に入っていた。

 無意識のぼっちの習性というやつか人のいない場所を好む癖が出てしまったようだ。

 

 今から宿に引き返せば21時には宿の部屋に帰れるだろう。予定をこなす前に少し寝ておきたい。

 

 踵を返し、元来た道を引き返そうとした矢先、視界に十字路を横切って走る女の子が映る。

 こんな時間に?

 しかも格好からしてプレイヤーではなくNPCだろう。

 

 そのすぐあとを追いかけるようにして走るプレイヤーと思しき男が二人。

 

 ・・・厄介事の予感だな。

 そういうことには関わりあいにならないのが一番!オレハナニモミナカッタ。

 

 ふと、走る女の子の姿に小町の姿が一瞬ダブる。背格好も全然似てないっていうのに・・・。

 

「チッ・・・」

 

 思わず舌打ちを鳴らす・・・。このまま放置して帰れば俺の安眠の妨げになりかねない。

 それは精神衛生上よろしくない。

 面倒なことには変わりないが、俺の安眠のためだ。少し首を突っ込むことにしよう。

 

 そう決め込んでローブを深く被り石畳を蹴り、男たちの後を追う。

 

 男たちを追いかけ着いた先は行き止まりの袋小路だった。

 女の子はその腕に、ポーションだろうか、瓶をかかえ後ずさるも、すぐ後ろは壁。万事休すってやつだ。

 

「なあ、アンタらなにやってんだ?」

 

 追いついた男たちに声をかける。中々に頭の・・・柄の悪そうな兄ちゃんたちだな。

 

「ああ?」

 

「誰だおめえ!」

 

 男たちはこちらを振り返り唸る。

 おお、こわ。そんなに凄んで睨まないでくださいよ。こちとら大人しいぼっちなんだから。

 そのナリにその台詞。さてはテンプレ属性だな!

 

「いや、大の男が二人で女の子追い回して何やってんのかなーって、気になっただけですよ」

 

「あぁん?俺らはよ、そこのガキが持ってるポーションを善意で譲ってくれないかって交渉してたところなんだよ。」

 

「そうそう!NPCにポーションなんて必要ねえだろ!俺らが有効活用してやろうって話だよ!」

 

 はぁ、交渉、有効活用、ねぇ・・・。

 女の子方をチラリと見やる。

 その目をは警戒の色を更に濃くしているようで、ポーションを抱える腕はより強く締められる。

 

「こ、このポーションはおばあちゃんに飲ませてあげないといけないのっ・・・!」

 

 だからっ・・・と言葉は続かなかった。

 声の震えから察するまでもなく、その感情は恐怖と混乱で塗りつぶされているのだろう。

 それもそうだ。ただでさえ男二人に追いかけられて袋小路に追い詰められた上、に訳の分からない第三の男が現れたのだ。

 

「つまりアンタたちはその女の子の持ってる二つのポーションが欲しい、ってことでいいのか」

 

「ま、そういうことだな」

 

「なんだ?正義の味方気取りかァ?」

 

 指を振り下ろしストレージを確認する。

 ふむ、ちょうどあるな。

 

「ポーションは二つやる。だからその女の子は見逃してやってくれ」

 

 そう言ってストレージから出したポーションを二人に投げ渡す。

 

 受け取った男たちはきょとんとした表情から下卑た表情に変わる。

 

「なあお前、まだ持ってるんだろ?その装備、初期装備ってことはフィールドに出ず攻略もせずに街の中でブルってるだけなんだろ?」

 

「それならよ、攻略に役立てるためにも俺らに投資した方が賢いと思わないか?」

 

「生憎と他のポーションは全部売っちまったんだ。だからポーションはその二つで最後だ」

 

 実際にはアルゴに預けたままにしてただけだけどね。

 

「それならやっぱりそのガキから頂かないとなァ!」

 

男は振り返って女の子に手を伸ばそうとする。が、その手は届かない、届かせない。

 

「おい、欲の張りすぎは身を滅ぼすぞ」

 

 警告をして男の手首を握る。

 

「なっ!コイツ、いつの間にっ!離せ・・・っ!」

 

 反対の手で殴りかかろうと腕を振り上げる。

 瞬間、握ってた手首の力が緩むのを確認して軽く捻りながら重心の乗った足を払う。

 

 こんな所で雪ノ下に喰らった技が活きるとはなあ。何が起こるか分からないもんだ。

 

 何が起こったのか分からないという表情の男A、男Bも理解ができずに固まっているようだ。

 

 男を見下ろし、ゆっくりと語りかける。

 

「・・・俺の知り合いにな、“鼠のアルゴ”って情報屋がいるんだが・・・。残念なことに俺はお前らの顔を覚えてしまった。何気ない雑談のなかで“うっかり”今日のことを話して、お前らの人相も喋ってしまうかもしれないな」

 

「・・・アルゴは汚いことをするやつが嫌いらしくてな。もしかしたら明日の朝にはお前らの男前な人相書きが掲示板に載っているかもしれないな。そうなればこの世界で危険人物として張り出された第一人者になれるぞ。よかったな。歴史に顔を刻めるじゃないか」

 

「おまけに武勇伝の添え書きまでついている。【男二人でポーション欲しさに女の子のNPCに襲いかかるも、間に入ってきた初期装備の男になすすべも無く返り討ちに逢う⠀】ってな。よかったじゃねえか。みんなの笑い話として一役立てるな。望むところだろ?」

 

 男たちの顔色はだんだんと青ざめていく。

 ・・・もうそろそろいいか。

 

「しかし、俺のアタマも出来が悪くてな。これ以上悪ふざけをしないようなら、今夜の出来事も忘れちまってるかも知れん・・・」

 

 チラッと男たちを見ると、顔を見合わせてどうするか考えているようだ。

 

「・・・はあ、もう行けよ。ってことだよ」

 

「お、覚えていやがれよ!」

 

 シッシッと手を振り、走り去る二人を見届ける。覚えられて都合が悪いのはお前らだろ・・・。

 ここまでテンプレ通りならもはや賞賛したくなるまである。

 名も無き暴漢に、敬礼っ!

 

「あ、あの・・・っ!」

 

 む、そういえばこの少女がまだいたな。

 しかし安心してくれていい。平穏は保たれた!主に俺の心の。

 

「その、膝が震えちゃって・・・、上手く歩けなくて・・・」

 

 あぁ、まあそれなりに怖い思いをしたんだろうしな。つまり動けないから送ってけ。ってことね。

 しかしここまでAIの感情をリアルにつくる必要があるのかね。

 どんなAIを組み込んだらここまでリアルになるんだろうか。あまりに人間らしすぎる。

 

「まあ乗りかかった船だ。送ってやるから、家はどこだ?」

 

 少女をおぶり、あっちと指を指される方向へ歩いていく。なんかこうやっておんぶしてると昔の小町を思い出すなあ。

 

 探検に行きたいと少し遠出をしては帰り道は疲れた、歩きたくないと言って泣くものだからこうやっておんぶして帰ったものだ。

 小町、元気にしてっかな・・・。

 小町のことだから「まったくごみぃちゃんは仕方ないなあ。」とか言って病院で寝ている俺の顔に落書きをしてたりするかもな。

 

 ・・・そうこう考えてるうちに少女の家に着いたようだ。

 お礼がしたいから少し待っててと言われて玄関の前で有無を言わさず待たされる。

 早く帰りたいんだけどな・・・。

 

 少し待っていると、開かれた玄関から老婆が出てきて家の中へと通される。

 そういえばNPCの民家に入るのは初めてだな。

 家の内装自体は宿屋のそれと大差ない気がする。強いて言うなら天井が高く、明かりが少し暗く感じるくらいか。

 

「この度は孫娘を助けていただき、ありがとうございました」

 

 老婆はそう言って深々と頭を下げて礼を示す。

 NPCとはいえ、こうも丁寧に礼を言われるとなんだがムズムズする。

 

「いえ、ただ見かけたから勝手に首を突っ込んだだけですので、礼を言われることはなにも・・・」

 

「それでも、この老い先短い婆あの余生を引き延ばしていただいこと。感謝致します」

 

 そう言って再び頭を下げられる。

 それから老婆はぽつりぽつりと語りだした。

 

 どうやら老婆の体は相当に弱っているらしく、少女はその治療のために必要なポーションを知り合いの薬問屋から譲り受けていた帰りだったようだ。

 

 もしポーションが無ければ老婆は明日をも知れぬ状態だったらしい。

 

「つきましては何かお礼をと思いますが、何分質素な生活故、大した礼は出来ませぬ・・・」

 

 そうだろうな。家の中はお世辞にも裕福な暮らしとは到底言えないような環境だ。

 別に礼を期待していたわけじゃないから全然いいんだけどね。

 

「代わりと言ってはなんですが、この婆あの持つスキルから一つを授けさせていただきたい」

 

 目の前に三つの選択肢が浮かぶ。

 

 一つは【鷹の目】

 少し遠くまで見通せるようになる。スキルレベルに応じて範囲が拡大する。

 二つ目は【堅牢】

 スキルレベルに応じてステータスのVitに補正がかかる。(最大10%)

 三つ目は【交渉術】

 スキルレベルに応じてNPCの店舗で購入、売却の金額が増減する(最大20%)

 

 ふむ、どれもある程度役に立ちそうではあるが・・・。

 

「それじゃこれを」

 

 一つ目の鷹の目を選択し、習得する。

 

「おお、気に入っていただけてよかった。それと、これをどうぞ。」

 

 受け取ったスクロールは薬問屋の紹介状だった。

 え、これ持ってポーション買ってこいとか言わないよね?唐突にパシられちゃうの?

 

「それを持っていけば融通してくれることでしょう・・・」

 

 どうやらパシリの要請ではないようだ。

 ま、貰えるっていうんなら貰っておくか。あって困るようなものでもないだろうし。

 

 少し話した後にそれ以上有益そうな話も聞けなさそうと判断し民家をあとにする。

 

 しまった。ケンシロウのお約束の台詞を忘れていた・・・。まあ、またの機会でいいか。

 ・・・次があるか知らんけど。

 

 時刻は22時半をまわっている。だいぶ時間を潰してしまったようだ・・・。

 街を歩くのもプレイヤーがちらほらと見かけられるくらいだ。

 早く宿に戻って少しでも横になりたい。

 

 宿に戻り部屋の扉をくぐると寝間着に着替えた雪ノ下がテーブルでお茶を嗜んでいた。

 

「あら、おかえりなさい。随分と長い散歩だったみたいね」

 

「お前らがゆっくりシャワーを浴びれるようにっていう俺の気遣いだ。感謝してくれ」

 

「あなたにそんな気遣いができたなんて初めて知ったわ。今後も精進してせいぜい人様に迷惑をかけない程度に生きなさい」

 

 へいへい、なんでそんなに一々上から目線なんですかね。しかしそれも初めて会った時に比べれば不快にならなくなったのも事実。むしろ心地よくなっているまである。

 あれ、もしかして俺調教されてる?

 

「あー、俺もシャワー浴びたいんだが、今使ってもいいか?」

 

「・・・好きにすればいいじゃない。それと、お湯は抜いてあるから乙女の残り湯は堪能できないわよ。残念だったわね」

 

 そんなに俺を変態扱いしたいのか・・・。

 そういえばなんだかんだで初めて風呂にに入るんだな。そう思いながら脱衣所に足を踏み入れる。

 なんだか自分の家じゃないシャンプー?やらの香りがして少し落ち着かないな。

 

 おっふろー♪おっふろー♪おっふっろー♪

 なんて某銀髪腹ペコシスターよろしく鼻歌を歌いながらいざ服を脱がんと手にかける。

.

 ・・・はて待てよ。これ装備の欄から脱げるんじゃね?

 そう思いメニューを操作し装備を一括解除する。

 おお、思った通りだ。一瞬にしてすっぽんぽんだ。これ、現実でも取り入れらんないかな。

 

 生まれたままの姿になったところでいざ行かん、テルマエへ!

 

 浴室はそこそこ広いようで、確かにこれなら二人でも十分に入れるスペースはあるみたいだな。

 雪ノ下の宣言通り、浴槽の水は空になっていたが。

 椅子に腰掛け、蛇口を操作しシャワーから水を出す。VRとはいえ、ここまでリアルに風呂の感触を感じられるのは凄いな。

 アスナが買い付けたであろうシャンプーを手に取り髪を洗い流し、石鹸で体を洗う。

 

 風呂は命の洗濯だとサービスお姉さんが言っていたが、まさにその通りだな。

 昨日今日の疲れが、心の汚れが洗い流されるようだ。

 この調子で目の濁りも洗い流してくれないものかね。そうはいかんか・・・。

 

 風呂を堪能し、脱衣所に据えてあるタオルで体を拭いて、再び装備を身につける。

 ずっと着ていた服だが不快感はない。むしろサッパリした気分だ。

 

 脱衣所から出ると雪ノ下がお茶を淹れていたところだった。

 

「どうだったかしら、こちらのお風呂は」

 

「まあ、悪くはない、かな」

 

 昨日まで軽視していた手前、素直に認めのが憚られてしまうのも仕方のないことだろう。

 

  ふふふ・・・と笑いながら二人分のお茶をテーブルに用意してくれる。

 せっかく淹れてくれたのだから頂くのが礼儀というやつだな。

 

「アイツらは?」

 

 椅子に腰掛けながら雪ノ下に問いかける。

 ユイユイとアスナさんはもう眠ってしまったわ。アルゴさんは調べたいことがあるとかで、あなたが帰ってくる少し前に出かけたわ」

 

 アルゴとは入れ違いか。

 まあ、夜中にでもまた会うし、話す機会もあるだろう。

 

「そうか。これを飲んだら俺ももう寝るが、お前もあまり遅くはならないようにしろよ」

 

そう言ってグラスを深く傾けて紅茶をあおり、ごちそうさまと一言礼を述べて寝床であるソファへと足を運ぶ。

 

「ハチマンくん」

 

 なんだ?と首だけ雪ノ下の方へ向ける。何か伝え忘れたことでもあったのだろうか。

 

「・・・その、おやすみなさい。」

 

 少し素っ気なく感じる言い方ではあったが、少しの感情は感じられた。

 

「おう、おやすみ」

 

 また明日な、と残して再び背を向ける。

 雪ノ下の頬が少し上気していたように見えたのは眠くなって体温が上がっているからだろう。

 

 ソファに体を預け静かに目を閉じる。何か考え事をする間もなく、俺は意識を手放していた。

 




00:00に投稿するつもりが寝てしまいました。
意思が弱すぎる!

釣り行ってオールからだから仕方ないですよね?よね?

ということで次回もよろしくお願いします。

次回予告てきなもの

「ククっ、またしてもオレっちの知らない情報カ?ハー坊。」

「うん、そうだね...。そうであって欲しいな...。」

「 油断はよくないが、それよりも恐怖で足を止めてしまうのは論外だろ。」

「ハチマンくん、私はね、怒ってます。」

「そんじゃ、俺も働きますかね。
二人とも、そっちは任せたぞ。」

「リニアーっ!」
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