ようやく今書いているストック分が一章が終わりました。
読み返してみると振れ幅がひどいですね・・・
みなさんどうやってるんでしょうか・・・
肌寒さを感じ目を覚ます。
どうやら考えごとをしているうちに眠ってしまっていたようだ。ふと人の動く気配を感じて視線を彷徨わせると、台所にアスナが立っているのが見える。
「・・・メシでも作ってるのか?」
「あ、起きたんだ。うん、ちょっと小腹が空いちゃったからお夜食に。ハチマンくんの分もあるから、食べる?」
たしかに、さっきまでクエストをこなしていたせいか、少し小腹が空いている・・・ような気がする。
ソファから立ち上がりながら、いただく旨をアスナに伝えてテーブルに着く。
「なんか手伝うことはあるか?」
「ううん、大丈夫。料理スキルで作ってるから、すぐ終わるよ」
言いながら皿に盛り付けテーブルに運んでくる。フレンチトーストか。こんな夜中に食べたら胃がもたれそうだな・・・。
「現実の世界じゃ、こんな時間に絶対食べれないけどね」
ん〜、美味しぃ〜。とフレンチトーストを頬張るアスナ。たしかに、夜中に高カロリーなものを食べると太るっていうしな。
俺は気にせずカップラーメンなんかも食べてたけど、小町は受験勉強中は敬遠してたな。
女の子ってのは大変だ。
俺も一口、フレンチトーストを口に運ぶ。
「ん、美味い。」
「えへへ、ならよかった。」
そう言って笑顔を見せてくれる。
どうやら、もう先刻の怒りはどこかへいってしまったようだ。
「アルゴはまだ帰ってないのか?」
「うん、まだみたい」
クエストが終わったらすぐに単独行動にはしりよって。そういうのは俺の役目じゃない?
実にけしからん!
「そっか・・・。ごちそうさま。俺はもう寝るから。おやすみ」
「うん、おやすみ。ハチマンくん」
ソファへと寝転がり、ゆっくりと意識を手放す。明日は俺、ゆっくりと惰眠を貪るんだ・・・。
なんかフラグっぽいな。
朝目が覚めて〜♪
真っ先に思い浮かぶ、キミ(戸塚)のこと〜♪
朝だよおー!今日も快晴!素晴らしいね!
朝日が眩しい!
よし、二度寝しよう。
「何を二度寝しようとしているのかしら」
頭まで被ろうとしていた毛布をひっぺがされる。
ダメだ・・・。この寝床にはプライベートもあったもんじゃない。早急に改善せねば・・・!
そういえばいつのまに毛布なんか・・・。
アスナがかけてくれたのか?
「おはよう、ハチマンくん。よく眠れたみたいね」
「おう、おかげさまで今日も俺の目は活き活きしてるよ」
憎らしげに雪ノ下を睨んで、体を起こす。
恐らく抵抗してもムダだろう。ムダななことはやらないに限る。それこそ労力のムダだからな。うん。
テーブルの方を見るとアスナも由比ヶ浜も眠そうだ。
しかし、なんでアルゴはあんなに普通にしていられるんだ?眠くないのか?
「今日の活動について、話し合うわよ」
「あー、そのことについてだが、少しいいか?」
一言断りを入れて切り出す。
「実は昨日、クエストをこなしていたらたまたま物件を譲ってもらえることになってな。そこを奉仕部の活動拠点にしたいと思うんだが、どうだ?」
「・・・クエストをこなしたって。あなた、まさかまた何か無茶をしたんじゃないでしょうね」
失礼な。その言い方だと俺がいつも無茶をしているみたいじゃないか。俺は無理も無茶もしない。自分の身の安全が一番だからな。
「そんなわけないだろ。アスナとアルゴに手伝ってもらったんだし」
「・・・そう、あなたがそう言うのなら信じるわ」
ひとまずは収めてくれたみたいですね。全然納得してない顔だけど。
アスナとアルゴにも話を合わせてもらうように目配せで合図する。大丈夫かな。なんだこいつ腐った目つきで見てきやがって、とか思われないよね?
そんなんなったらトラウマになっちゃう!
「ま、というわけでだ。各々準備ができたら早速いってみないか?」
全員の了承を得たところでみんなで朝食を摂り、各々準備にとりかかる。
ちなみに朝食はトーストにスクランブルエッグ、サラダでした。トマトは由比ヶ浜の皿に渡したが、何も気づかず食べてましたね。
さあ、やって参りました!“元”薬問屋。
なんて無理やりテンション上げてるけど、動きたく無さすぎる・・・。いや、これは働きたくない、だな。
だってアレでしょ?今からココ片付けたり模様替えしたりしなくちゃならんのでしょ?
どうせ俺の意見なんて聞き入れて貰えない。ってかそもそも意見なんてないんだから。みんなで好き勝手にやっててよ。
俺は屋根裏で昼寝でもしてるから・・・。
「どこへ行こうと言うのかしら、逃げ谷くん。ついに生きることから逃げるだけでなく、雑務からすら逃げるようになったのかしら」
なんだよ、生きることから逃げるなっ!てか?
いつの間に奉仕部アインクラッド支部から、フェンリル極東支部になったのかしら?俺がいつ生きることからにげだしたって言うのさ。
俺はいつも生と向き合ってるだろ。後ろ走りで。
決して逃げてる訳では無い。戦略的撤退というやつだ。ヤブイヌかよ。
ちなみにヤブイヌは天敵を見つけたら逆立ちしてマーキングしながら後ろ走りをするんだぜ。前にYouTubeで観たら腹抱えて笑ったものだ。
「へいへい。つっても得にやることはないだろ。物を運んだりはストレージで出し入れ出来るんだし」
ストレージさん、マジ便利。食べものも傷まないし、重いもの持ち歩く必要もない。俺の人生も入れて持ち歩きたい。
軽すぎるから自分で持ち歩けって?やかましいわ。
「そうね・・・。ティーセットが無いのはいただけないわね。ハチマンくん、用意してきてくれるかしら?」
それって宿屋のは持って来れないから俺が準備してこいってことですかね?
「つっても俺にティーセットやら茶葉の種類は分からんし、センスを求められても期待には応えれんと思うぞ」
「そうれもそうね。いいわ、誠に遺憾ではあるのだけれど私がついて行ってあげるわ。この機会にあなたも少しはセンスというものを学びなさい。
まったく、子どもにでもできるようなお使い一つこなせないと言うのだから、呆れを通り越して、もはや憐れね」
ええ・・・。なんでここまでこっぴどく罵倒されてるんですかねえ。
てか、雪ノ下もついてくるんなら俺要らなくね?とは言わない。言えない。口答えなどしようものなら一を十で返されるのは火を見るより明らかだからだ。
ここは穏便かつスマートに・・・。
「あー、そうだな。お前が来てくれるって言うんなら助かる。頼りにさせてもらおうかな」
「ふん。・・・ええ、せいぜいこの私に頼りなさい。そして自らの矮小さを少しは自覚することね」
言葉に棘はあるものの、その表情は機嫌が良さそうだ。罵倒して機嫌がよくなるって相当なドS気質だよな。
「なにをしているのグズ谷くん。時間は有限なのよ。さっさと行きましょう」
「へいへい」
女王様の御心のままに。俺はいつから召使いにジョブチェンジしたんですかねえ。
その後は雪ノ下と露店を見て歩いたり雑貨屋、家具屋、茶葉の専門店を覗いて歩いた。
傍から見ればデートに見える・・・こともないこともない。しかし生憎とそんな色っぽいものでは無いのだ。
道中雪ノ下が紅茶の起源のことを話したりどこの銘柄のお茶が美味しいとか。
全く興味がないんだが、こいつお茶の事になるとやたら饒舌になるんだな。アレか?オタクにアニメや声優の話をさせたらキリがないのと同じようなものなのか?
雪ノ下はお茶オタク、と俺内会議で結論が出たところで、雪ノ下の足がふと止まる。
何事かと視線の先を追えばウィンドウに飾られたティーセットを見ているようだ。
「なんだ、欲しいのか」
「いえ別に。今はお金もないのだし少しでも節約をするべきでしょう。こんなに高いものじゃなくて、もっと安いものでいいわ」
ほう、ゲームの中とはいえ、少しは庶民の金銭感覚というものがわかったか。感心感心。
「・・・中に入ってみようぜ。もしかしたら具合のいいのがあるかも知れんしな」
そう言って返事を待たずにウィンドウを素通りして扉を開けて店内を物色する。
店内にはティーセットの他にもグラスやマグカップ、湯呑みまで幅広く取り扱っているようだった。
ふと目についたマグカップを手にとる。あの部室で由比ヶ浜が使っていたマグカップによく似ている。
「ハチマンくん、これなんてどうかしら。・・・って奇遇ね。あなたも同じ考えなのね」
雪ノ下が持ってきたそれは俺が愛用していた湯呑みにそっくりで、少し懐かしい気持ちになる。
「せっかくだ、それも買おう。アルゴとアスナにはどうする?」
「そうね・・・。本人の好みもあるのでしょうけど。コレとコレなんかどうかしら」
雪ノ下が手に取ったのは青と白のストライプに持ち手が猫のしっぽになってるマグカップ。多分アスナへの物だろうけど、猫は雪ノ下さんの趣味ではありませんこと?
もう一つは、淡い緑地に縁に白いラインが入っていて黒いドットのような線が入っている。その線を辿ると申し訳程度にワンポイントの鼠が存在を主張していた。
これは確実にアルゴだな。なかなか粋なチョイスをする。
「いいな、それ。ぜひ買っていこう」
そう言って店員の方へと向かい会計を済ませ、戦利品をストレージへと収める。
値段を見て無かったけど、中々の金額になったな。7万コルあった残金が4桁まで減ってしまった。
とはいえ、昨夜の戦利品の素材なんかを売れば十分元はとれるだろう。
「茶葉も買えたし、目的は達成できたんだ。さっさと帰ろう、今すぐ帰ろう」
来た道とは反対の方向へ歩き出す。もう帰りたさが天元突破してるまである。
日はまだ頂上に登りきってはいないようだ。
雪ノ下は茶葉の入った袋を抱えて嬉しそうだ。 ストレージに入れればいいのに。そういう風情的なものを楽しむことも大事ってことか?
気づけば支部の目の前まで来ていた。が、雪ノ下は中に入ろうとせず、扉の前で立ち止まっている。
「どうした?中に入らねーのか?」
「いえ、その。私としたことが・・・。カップを探すのに夢中になってティーポットを失念していたわ・・・」
あー、雪ノ下さん?あなた、けっこう夢中になって周りが見えなくなったりしてること多いですからね? 残念っ!
「あー、大丈夫だ。適当なの見繕って買っておいたから」
「そうなの?・・・それならよかったわ。ふふ、それにしてもまさかハチマンくんにフォローされることになるなんてね」
何言ってんだ?お前は俺のフォローの上手さを一番近くで見てきていただろうに。フォロー上手のフォロ谷さんとは俺のことよ!
「そういうわけだからさっさと中に入ろうぜ」
願わくば模様替えが終わっていますように!
こんなことならもう少し遠まりして帰れば良かった。どうせ雪ノ下は方向音痴だから気づかないだろうし。
「いま、何か不快なことを考えていなかったかしら」
「・・・さぁな。気の所為だろ」
「・・・そう、ならいいのだけれど」
だから怖いって雪ノ下さん。なんで俺限定で思考を読みとっちゃうの?
中に入るとどうやら模様替えは終わっていたようだ。
壁は板目のままだが、色は白っぽくなっており。ホワイトボードも置かれている。中央には机と椅子が人数分用意されていた。
「なんだか奉仕部部室みたいだな」
「あっ、ヒッキーおかえり!アルゴさんが色々と用意してくれてたんだよ!」
アルゴがか。もしかして昨夜別行動をとっていたのはこのためか?
「そうか、お疲れ様だな。アルゴ」
「おうヨ。オレっちもここの一員だしナ」
「ハチマンくんたちは目的の物は買えた?」
「まあこっちも抜かりは無しだ。それとこれはお前らにお土産だ。雪ノ下が選んだ」
テーブルの上に先ほど購入したマグカップを並べる。と思い思いのものを手に取っていく。やはり順当に行き渡ったな。
雪ノ下を見ると小さく微笑みを浮かべている。
「わぁー!これ、奉仕部で使ってるやつと似てる!ありがとう、ゆきのん!」
「このネコちゃんかわいいー!これ、私が使ってもいいのかな?」
「ククク、このネズミはオレっちのだロ?ありがたく使わせてもらうヨ」
どうやら各々お気に召していただけたようで何よりだ。
「あれ?ヒッキーとゆきのんのは?」
「俺はこれだ」
そう言ってストレージから湯呑みを取り出し、テーブルの上に置く。
「ハチマンくんに湯呑みって・・・。なんだかイヤに似合うね」
うっせ。ほっとけ。いいだろ、湯呑み。和の心じゃねえか。
ささくれた心を和ませるには丁度いい。
「それと・・・これだ」
続けてティーセットもテーブルの上に並べる。雪ノ下がウィンドウから眺めていたものだ。
「あなた、コレ・・・!」
「あ?どうせいずれ買うんだからいいだろ。二回も同じようなものを買うなんて、それこそ浪費ってもんだ」
「でもお金は・・・」
「あんなもん大した額じゃねえよ。それより美味い茶が優先だ」
「そうやってあなたはいつも・・・。ふふっ、でもありがとう。大切に使わせてもらうわ。あ、今のはゆきのん的にポイント高い、ってことかしらね」
ふわりと邪気のこもっていない笑顔を見せる。ばかな!雪ノ下がかわいい・・・だと!?
おおおお、おちつけ!まずはそう!小町を思い浮かべるんだ!
千葉の兄貴は妹を思い出すと気分が落ち着くと言うしな。誰が言ってんだよそれ。
よし、セルフ突っ込みが出来るくらいには落ちついたか。
「むー、ヒッキーとゆきのんが微妙に良い空気作ってるし・・・」
「な、なんか新生活始めたてのカップルみたいだね」
「ハー坊とのんちゃんはそーいう関係だったのカ」
あっちはあっちで変な勘違いが生まれ始めているし・・・。お前らも小町を思い浮かべて気持ちを落ち着かせろ。
「そんなんじゃねえよ。それより一段落ついたんならせっかくだしお茶にしようぜ」
なんとか上手い具合に話を逸らし意識をそっちへ向けさせると雪ノ下は「それもそうね。」と言って奥の方へお茶の準備をしに、アスナと由比ヶ浜もそれに続いてお茶請けの支度についていった。
小町相手ではこうも上手く逸らせはしないのだろうが、こいつらチョロすぎないかね。
これぞ秘技脱線ノ術。
ガハハ、勝ったな。
「で、実際のんちゃんとの関係ってどうなんダ?」
そんなことなかったですね。アルゴがいましたわ。
「別にそんなんじゃねえよ。ただ同じ学校で同じ部活。部員と部長の関係だ」
それ以下ではあってもそれ以上はない。
「ふーん、そっカ。まあそういう事にしておいてやるヨ」
・・・なんだよ。やけに含みのある言い方をするじゃねえか。
間もなくして三人が戻ってきてティータイムとなる。ふわふわ時間だ!
「それで、これからどうするの?」
マグカップを置きながらアスナが口にする。これからどうするか、ねえ・・・。
「とりあえずは告知と宣伝ね。あとは・・・依頼者が来るのを待つことになるわ」
そうなんだよなあ。
雪ノ下の言う通り、あとは待つことくらいしかないんだよな。ま、ゆったりしたい俺からしたら望むところではあるんだが。
「そういう事なら一人アテがあるゾ。相談したいことがあるみたいでナ。呼んでもいいカ?」
「ええ、アルゴさんの紹介ということなら問題はないでしょうけど、女性の方なのかしら?」
「いんや、男ダ。それにハー坊とも一応面識がある」
そう言いながら指先はなにやら操作をしている様子だ。おそらく今から来ても大丈夫だという旨のメッセージを送っているのだろう。
アルゴの知り合いで俺と面識のある男・・・。多分、アイツしかいないだろうな。
程なくして控えめに扉をノックする音が聞こえ、雪ノ下がどうぞと迎え入れる。
そこに立っていたのは先日会ったばかりの黒髪の剣士だった。
「お邪魔します。・・・ってすごい女子率だな」
「おうキー坊。来たカ」
「よっ、アルゴ。それにハチマンも」
「うす・・・」
「初めましてになるわね。私はゆきのんよ。それとこちらが・・・」
「初めまして!アタシはユイユイだよ!えっと、奉仕部アインクラッド支部?の部員になります!」
「えっと、私も初めましてだね。私の名前はアスナ、よろしくね」
「あぁ、よろしく。俺はキリトだ。今のところソロプレイヤーでやってる。
今日はそこのアルゴの紹介で来させてもらった」
おお、これがコミュ力が高い者同士のファーストコンタクトか。俺には絶対真似できないな。
その後も何やら話していたからとりあえず席に座るように促す。
「それで、相談っていうのはなんなのかしら」
来客用にと余らせていたティーカップにお茶を淹れなが雪ノ下が尋ねる。
「相談、と言えば相談か・・・。今の現状を少しでも打破するために、どうしたらいいと思う?」
・・・ふむ、その悩みは理解できる。おそらくこのゲームに参加しているほぼ全員が考えていることだろう。だが。
「漠然としすぎだ。もう少し具体的に話してくれ」
なにをどうしたいのか。最終的な目的、着地点が分からないことには知恵もだしようがない。
「そうだな。すまない・・・。みんなは今現在のゲームからの脱落者・・・。死者数が分かるか?」
キリトちらりとアルゴを見る。多分、おそらくだがアルゴはその数を把握しているだろう。
「・・・オレっちの知る限りでは660人ダナ」
そんなになのか。未だ3日しか経っていないんだぞ。
「あぁ、そして大多数はサービス開始から始めたようなペーパープレイヤー、そして無作為に突っ込んだβテスターだ」
「正しい情報を得ずに、ゲームと思って舐めてかかった結果ね」
そう言われるとそいつらの自業自得、という気もしないでもない。
だがそれは俺らの身内にアルゴという情報屋がいるからそう思えるのだろう。
彼女がいなければ、由比ヶ浜はアホみたいにフィールドへ出向き、たちまちにゲームオーバーになる。なんてことも想像に難くない。
「このままだと死者数はもっと増える。それに歯止めを効かせるためにも知恵を借りたいんだ」
脱落者がこのまま増えればその先に起こりえるのは死へ対する恐怖によるパニック、暴動、もしくはーー停滞。
それは避けなければならない。こんな所にいつまでも閉じ込められているわけにもいかない。
どうすればいい.・・・?
一応俺なりのヴィジョンは見えている。が、それは今回の依頼の主旨とは方向性が変わってくるだろう。安全マージンを確保しつつ、攻略を進めるためには・・・。
茅場晶彦はこれはゲームであってゲームでないと言った。
死=現実の死と直結しているという以上、ゲームではない、リアルな感覚を持て、という意味だろう。現に俺たちはリアルの生活とあまり変わらないような生活をしている。
しかし、反面ゲームらしいのも確かだ。街を歩くNPCやストレージ、ステータス、レベルの機能。スキルや戦闘面だって、現実ではありえないことだ。
それを踏まえて考えなおす必要がある。
リアル、死、ゲーム、攻略・・・。
「なあ、お前らは普段、ゲームを攻略に行き詰まった時、どうしてる?」
「あ、あたしはあんまりゲームとかやらないからな〜・・・」
「私もあんまり・・・というよりちゃんとしたゲームというものにに触れたのはこれが初めてね」
「私もあんまり・・・。友だちなんかはよくゲームをする子も居たんだけど、お家の方針でね・・・」
まあ、女子はどうにもゲームにハマったりとかはしないみたいだしな。
あれってなんでなんだろうな?世界観がハマりにくいとかあるのか?
「俺はひたすらレベル上げだな!勝てるようになるまで武器を揃えたりアイテムを使ったり、だな」
これが普通のゲームだったらそれで全然問題はないんだけどな。
「オレっちは攻略サイトを見て回るナ。一番効率的だロ」
「そう、それだ。攻略本をつくるんだよ」
「えと、ヒッキー。こうりゃくぼんって?」
そうか、俺らの世代では馴染みが無いものだものな。親やじいちゃんばあちゃん世代なら知っているんだろうが・・・。
「攻略本ってのは紙を媒体にした攻略情報誌みたいなものだな。
攻略サイトなんかを立ち上げられれば一番いいんだろうがここにはネット環境なんてなさそうだからな。
その攻略本をいくらか作って配布すれば、いくらか生存率は上がるはずだ」
ネットの中なのにネットがないとはこれ如何に。それはともかくとして、だ。
少なくとも現状が、改善されることは間違いないだろう。
「そういうことでだ。アルゴ、面倒をかけるが攻略本を作ってくれないか?」
「えっ、オレっちがカ?」
「あぁ、というかお前にしか、アルゴにしか頼めない!頼むっ」
もちろん俺たちも情報収集はするが、それでも微々たるものだろう。
情報屋、それもβサービスからのプレイヤーであるならこれ以上の適任者はいないだろう。
「・・・もちろん、ハー坊も協力してくれるんだよナ」
「まあ、何が出来るかは分からないが。可能な範囲で協力させてもらう」
「でもヨ、オイラは情報屋だゼ?情報を売って生計を立ててるんダ。それをタダで公開するのはオレっちにとってデメリットがデカすぎるんじゃないカ?」
・・・ま、当然そうなるよな。
「・・・それならば、その攻略本は最前線で戦う人たちには有料で、というのはどうかしら?もちろん法外な金額ではなく落ちついた適正価格で、ということになるのでしょうけど。
最前線で戦う人たちならそうね・・・500コルくらいなら痛くは無いんじゃないかしら?」
「そうだな、それに攻略本に全てを載せるわけじゃない。あくまで値段相当に必要な情報だけだ。
そうすればもっと詳しい情報が欲しいって奴は直接個人的にアルゴの元へ来るだろ」
「・・・そうすれば結果オイラの懐も潤う・・・ってことか」
まあそいうことだ。それにしても流石雪ノ下だ。
少ない情報から最適解を導き出して尚且つ商売の方へ持っていくとは。奉仕部部長の名は伊達じゃないっ!
「どうだ?やってくれるか?」
「あぁ、そういうことなら構わねーヨ。オレっちも協力してヤル。キー坊はどうダ?それでいいカ?」
「ああ!それでかまわない!助かるよ!」
どうやら依頼人も納得してくれたみたいだな。俺たちだけで盛り上がっても依頼人が納得してくれなきゃ意味も無いからな。
「それならここに何部か置いておくのはどうかな?ここに来るのって基本困っている人ばかりなんでしょ?」
「アスナンそれいいね!コンビニのフリーペーパーみたいな感じでさ!」
ほほお、中々面白い着眼点だな。確かにその方が広く行き渡りやすくなるし宣伝にもいいか。
「無料配布の方は、そこまで気合い入れて情報は載せなくてもいいだろうしな。そこらへんの情報の取捨選択はアルゴに任せる。」
「オウ、任されたゾ!」
「てなわけだキリト、お前にも協力してもらうからな。…ってどうしたんだ?」
キリトを見れば呆けているようだ。
「いや、少し驚いてさ。こんなにあっさり解決するとは思って無かったから・・・」
「安心するのはまだ早いな。今は未だ案を出しただけだ。
これから実行に移して、結果が見えてからようやく解決した。って言えるだろ」
「うん、そうだよな・・・。俺に出来ることは何でも協力させてくれ」
「ほう?言ったな・・・?」
思わず口元に笑みが溢れてしまう。
「ヒッキーが悪い顔してる・・・」
何を言う。この腐った目を除けばイケメンの部類に入るだろ。全てを台無しにする目。
腐ったミカン理論だとそこから周りも徐々に腐っていくね。早く切除しなければ・・・。
「あの男がいやらしい顔をしているのはいつも通りでしょう。それよりも攻略本に載せる情報まとめましょう。
アルゴさん、お願いできるかしら。」
「オウ、任せてクレ。」
「あっ、それじゃアタシ板書するー!」
由比ヶ浜が板書という言葉を知っていたことに驚きだ。
「そうね、それじゃハチマンくんは・・・」
「俺はキリトと少し出てくる。あ、アスナもついてきてくれ」
そう言って席を立つとキリトもそれに続いて立ち上がる。
「え、私も?うん、分かった」
アスナも少し慌てたように立ち上がりパタパタとこちらへ寄ってきた。
「そっちは情報を纏めておいてくれ。こっちも色々調べたり精査してくる」
「ねえゆきのん、せいさってなに??」
「あのね、ユイユイ。精査っていうのは・・・」
よかった、由比ヶ浜が少し賢くなったかと思って驚いたがそんな事はなかったようだ。
母親に言葉を教えてもらうような由比ヶ浜を尻目に俺たちは支部をあとにした。
「それでハチマンくん、私たちはどこへ向かっているの?」
「そうだな。キリト、効率の良い狩場ってあるか?」
「それなら南門を出て少し行ったところにある森だな」
ふむ、それなら遠くもないし、時間的には丁度いいな。
「よし、これからそこに向かう。そこでアスナには一人で戦ってもらおう」
「ちょっと待ってくれハチマン。こんな女の子一人で戦うなんて無茶だ」
あー・・・、アルゴには口止めされていたが、キリトなら大丈夫だろ。
「アスナはこれでもレベル7だ。それに傍に俺やキリトがいるなら大丈夫だろ」
「な、7・・・。マジか」
「マジなのです♪」
ふふんとなぜか得意気なアスナ。うーんドヤ顔かわいい。
これがあざとい後輩なら頭を一発叩くんだがなあ。
「それに装備も俺なんかより断然いいのを使ってる。多分キリトのソレと同じくらいの性能だぞ」
「そういえばアルゴさんがそんなこと言ってたっけ?」
「マジか・・・」
おいおいキリトさんや。最早マジか製造機になってしまっているぞ。
「そういうわけだから、よっぽどが無ければ大丈夫だろ」
フラグじゃないからね。断じて。
「まあそれなら大丈夫か・・・。あの森近辺には強いボスクラスモンスターの目撃情報もないしな」
はははと笑うキリト。ほんとにフラグ立っていないよね?
辿り着いた南門には昼のせいか昨日、一昨日通った東門より明らかに人の数が多く見られた。
「アスナ、一応だ、フード被っておけ」
「え?う、うん。分かった」
これだけ人気があれば女性プレイヤーは否が応でも目立つだろう。それが容姿のいい美少女プレイヤーなら尚更だ。
下手に顔を晒して目立つことはない。なにごともひっそりできるに越したことはない。
「さて、着いたぞ。ここが例の狩場だ」
南門から伸びる街道を真っ直ぐ行き15分ほど歩いたところで街道を外れて森の中へ入った所にあるエリア。
鬱蒼と木々がしげっているが、剣を振るうのに邪魔になるほどでは無い。足元も注意していれば落ち葉で滑らせて転んでしまうこともないだろう。
「どうだ。いけそうか?アスナ」
「うん、多分、大丈夫そう」
「フォローはしっかりするからなー」
目の前には昨日も戦ったイエローワスプが一体見える。どうやらこちらにはまだ気づいていないようだ。
足元を確認して一呼吸。
「ハァッ!」
一気呵成にイエローワスプに飛びかかりダメージを与える。敵のレベルが少し高いとはいえ、半分以上は減らせているみたいだ。
その調子でダメージを与えて次々に敵を倒していく。
どうやら敵は一体ずつしか出てこないようだ。
「アスナ、本当に強いんだな」
「まあな。武器の相性もいいんだろ。・・・っと。悪いキリト、一体取りこぼした」
少し離れたところでキリトと近くに寄って来そうなmobを間引きながら少し雑談をする。
「まかせろっ!・・・ハチマンもかなりのもんだよな。リアルでなんかやってたのか?」
「俺は普通の目立たないぼっち高校生だよ。部活も奉仕部しか入ってない。そういうキリトだって、なんかやってたんだろ?」
「まあ、俺はじいちゃんに道場に通わされててな。妹と剣道をしてたんだ」
ほう、キリトにも妹がいたのか。
「妹はゲームはしてなかったのか?」
「あぁ、スグはゲームに興味があるようなタイプじゃなかったからな」
「妹とは、仲良かったのか?」
「どうだろうな.・・・。良くもなく悪くも無かったかもな。最近はお互いあんまり干渉していなかったかもしれない・・・。ハチマン、そっちに二体行ったぞ!」
「あいよ・・・っと。ということはキリトは千葉県民じゃないな?」
「あ、あぁ。千葉県民ではないけど、なんでだ?」
「千葉の兄妹は仲がいいって相場が決まってるから・・・な!」
こっちに回り込んできた二体を仕留めながら妹、マイエンジェル小町を思い出す。お兄ちゃんは一日に一度はお前のことを思い出してるよ。
「て言うことはハチマンにも妹がいるのか」
「おう、いるぞ。世界一かわいい自慢の妹だ。もはや世界の妹と言っても過言ではないな」
「へえ、それは。フッ!機会があれば会ってみたいな」
「・・・言っておくが小町はやらんからな」
「そんなんじゃねーよ!」
そんなこんな話しているうちにどうやら30分ほど経っていたようで、先に戦闘を切り上げたアスナがこちら歩いてきた。
「お疲れさま、ハチマンくん」
はいこれ、と言ってストレージから水筒とコップを渡してくる。
・・・いつの間に用意してたんだ。
「出かける前にゆきのんが持っていきなさい。って。お母さんみたいだよね」
さいですか。雪ノ下のオカンスキルはともかく、アスナまで俺の思考を読むのはやめてもらえませんかねぇ。
ジト目でアスナを見やるがアスナは気づいた様子もなく俺のコップにお茶を注いだあと、自分とキリトの分にも注いでいた。
「おーい、キリト。一旦辞めにして休憩しよう」
「わかったー!そっちに行くー!」
キリトも戦闘を切り上げて俺とアスナの元へ駆け寄ってくる。
「この辺にセーフティエリアはあるか?」
「ああ、それならあっちの木の根元がセーフティエリアになっているはずだ」
「ならそこで少し休憩しよう。俺は疲れた」
そう言ってキリトの指差した木の根元へと向かう。・・・デカイな。木というより樹だな。
こいつを見て、どう思う?
すっごく・・・大っきいです・・・。
てバカ!俺はノンケだ!そういうのはどこぞの海老名さんにでも喰わせておけ!
「ふぅ、わりと疲れたな。アスナはどうだ?」
「こっちはそれほどでもなかったかな。二人が敵を引き付けてくれてたから安全に倒せたし。
キリトくん、お茶どうぞ」
「お、サンキュ、アスナ」
「アスナ、レベルは上がったか?」
「えっと、確認するね。・・・うん、2上がってるね。と言っても元々もうすぐで上がりそうだったから1レベルとちょっとって感じかな」
今回、一人あたりの経験値取得量を調べるためにアスナをパーティから外していたが、まあ、この時間でそれだけ上がるなら上出来だろう。
mobのリポップするサークルタイムも5秒と悪くないし、固定位置からのリスポーンなら罠に嵌めて、という手もとれるだろうしな。
「よし、それならここの検証はもう良いだろう。キリト、他にも効率の良い狩場はあるのか?」
「それならあと二箇所ほど心あたりがある。今から行くか?」
「そうだな、攻略本も出来るだけ早く発行させて出回らせたいし、出来れば今日の内に済ませておきたいが...。アスナは大丈夫そうか?」
「うん、大丈夫!そこまで疲れてないし、回復ポーションもまだ全然残ってるしね」
それなら行くか、と小休憩もそこそこにしてキリトの案内で残る狩場二箇所を回り終わるころには日も暮れようとしていた。
「はぁー!休憩を挟みながらとはいえ疲れたっ!」
大きく伸びをしながら俺たちは北門から街へと戻っていた。
出発したのは南門からだったが、そこから東側、北側へと移動したためだ。
門を潜り、街の中へと入る。人気はもうだいぶ減ったようだ。
「それじゃ、もう奉仕部に戻るのか?」
「そうだな、アルゴにも結果を伝えないとならないしな」
「あっ、そうだハチマン!依頼の報酬は・・・」
「いらねーよ。多分アイツらも受け取らないと思うぞ。
まあアレだ。アルゴの紹介っていうのと、奉仕部初の依頼だからな。お試しってやつだ」
部活としてやっていたころにも報酬なんかは貰っていなかったし、アイツらが報酬を受け取らないのは事実だろうしな。・・・アルゴは知らないが、いざとなったら有益そうな情報でも提供してやればいい。
「いや、それでも・・・」
「ハチマンくんがこう言ってるんだからいいの!男の子なんだから細かいことは気にしない!」
それ、もしかして俺にも言ってます?確かに細かいこと気にしいだが、そんなに酷くはないからね?・・・ないよね?
「そっか、それなら・・・うん。お言葉に甘えさせて貰うとするよ。でも、もし何か力が必要になった時は言ってくれ。必ず助けになると約束する」
義に厚いやつだな。意外と熱血なのか?
「ああ、その時は助けて貰うことにする。よろしく頼むな」
「ああ!任せてくれ!」
そう言ってキリトは笑顔で街の方へと消えていった。
「ふふっ。お人好しさんだね、ハチマンくん」
「あ?なにがだよ」
今のを見てどこがお人好しだというのか。
キリトは依頼を解決できて、俺たちはいざという時の助力を約束できた。WinーWinの取引じゃないか。
「んーん、なんでもありません」
アスナは笑顔を見せて機嫌が良さそうに前を歩いていく。その足取りは軽やかだ。まったく、何がそんなに嬉しいんですかねえ。
しかし、これだけ働いたというのに、不思議と気分は悪くなかった。
まさかこれが、達成感・・・?勤労の、喜びだというのか・・・?
ハッ!危ない危ない。
もう少しで社畜八幡ルートに突入するところだった。小町、やったよ。お兄ちゃんは踏み留まれたよ・・・。
「ハチマンくん、またバカなこと考えてるでしょ。ほんと、ゆきのんの言った通りだね」
「ちょっと待て、バカとは心外だな。というよりアイツからなんて言われたんだ」
「ふふっ、教えてあーげないっ♪」
アスナは軽やかに石畳を駆けていく。まるで疲れなんて感じさせないようだ。
かくして、俺たちは奉仕部への帰路につくのだった。
「ただいまー!」
「うす、たでーま」
奉仕部アインクラッド支部へ戻ると雪ノ下はアルゴと話しており、由比ヶ浜は机に突っ伏していた。
見ればホワイトボードにはアルゴが収集していたであろう情報がビッチリと書かれていた、が。最初の方の文字が大きすぎたせいか、後に書かれた文字につれて小さくなっていたのはいかにも由比ヶ浜らしい。
「おかえりなさい。あら、キリトくんはどうしたのかしら?」
「ああ、もう遅い時間だしな、先に帰した。それと報酬の件だが、今回は経費もかかっていないし、断っておいたぞ」
「あなたにしては妥当な判断ね、ハチマンくん。・・・アルゴさんもそれでいいかしら」
「ああ、オレっちは全然構わないゾ。むしろサービスにしてくれさんきゅーナ、ハー坊。
キー坊はオイラにとって弟みたいなもんだし、今後もよろしくやってくれると助かるってなもんダ。」
やっぱりこいつらは良いやつだな。さっきはアルゴなら請求しかねない、とか思っちゃってごめんね?
雪ノ下はその正義感から分かっていたが、アルゴも情報屋なんて怪しいロールプレイをしているが、根は良いやつなんだろう。
「それで、収穫の方はどうなのかしら?結果は見られたの?」
「バッチリだよゆきのん。あのね、先ず南門から出て真っ直ぐ行ったところから・・・」
そうして俺たちはアルゴの情報と擦り合わせ、情報をより確かなものにしながら話し合った。
「・・・今日のところはこんなものかしらね。攻略本の作成は明日にしましょう。今日はもう夜も遅いわ」
ふと時計を見ると、なんともう夜の8時だ。学校なら全校生徒下校のチャイムが鳴ってたから感覚が分からなくなってるな。
「そういうことなら宿に戻ろう。すぐ戻ろう。腹も減ったし、なにより眠い」
「呆れたわね。あなた目を開けながらも脳は眠っているじゃない。まだ寝足りないと言うのかしら。」
おい、それじゃあ俺は夢遊病患者じゃないか。しかも話し合い中もちゃんと発言してたよね?
もしかして、アレも夢・・・!?
そんなことを考えてる最中に雪ノ下は由比ヶ浜を揺り起こす。
「ぅんー・・・。ゆきのん?もう部活は終わりー・・・?」
「ええ、帰ってご飯にしましょう」
その由比ヶ浜に対する甘さを俺にも少し分けてくれませんかねえ・・・。甘さといえばそう。アレがない。
千葉県民のソウルドリンクたるMAXコーヒーだ。あぁ、あの黄色と茶色の美しいコントラストが俺には足りていない・・・。
どうにかして味を再現して作れないものだろうか。
今度アルゴに聞いてみよう。
宿に戻った俺はソファに深く座り込む。今日は疲れたな・・・。俺にしては働きすぎだ。
いや、ここに閉じ込められてからずっとか・・・。ほんとに俺らしくない。
雪ノ下はご飯を用意すると言ってキッチンの方へ行き、アスナも手伝うと言って雪ノ下についっていった。
由比ヶ浜とアルゴはテーブルに座ってなにやら楽しげに話している。
会話の内容は聞こえないが、時折「へー、そうなんだー」とか「すごーい!」とかアホっぽい由比ヶ浜の相槌が聞こえてくる。
誰とも会話をせずに気を遣う必要も無い時間・・・。ああ、なんて尊いんだ・・・。
惜しむらくばここがプライベートの無い空間であるということだろうか。今さら言い出しても仕方の無いことだが、やはり個室は欲しいな。
「お待たせしたわね、食事ができたわ」
かくして俺の尊い時間は破られたのだった。とはいえ、食事も大事だ。美味い食事にありつけるだけ感謝しないとな。
由比ヶ浜は手伝いに行ったみたいで、食器をカチャカチャ鳴らしながら運んでいる。
見ているだけで危なっかしいな・・・。ハラハラしてくる。
アルゴの右隣には由比ヶ浜が座っていたな、と思い出し、俺はその反対側に座る。
食器と料理を並べ終えた二人も席につく。
アスナが俺の左に、その隣に雪ノ下が着席するなり由比ヶ浜が雪ノ下にすぐさまくっつこうとするが、雪ノ下に阻止されていた。
・・・やっぱり百合っ気あるよなあ。
「それじゃあ、いただきましょうか」
全員で手を合わせて「いただきます」
今日はポトフか・・・。よくこんなの作れたな。・・・うん、美味い。美味い。美味い。
ぴゃあぁぁぁ!美味ひぃいぃぃ!マスオさんのアレ、どうやって発音してるんだろ。
「今日のポトフは私が作ったんだよ。お味はどうかな?」
「うん、美味いぞ。肉にも味が染み込んでいていい感じだ。というかアスナも料理スキルとったんだな」
「えへへ、ありがとう。私も元々料理するのは好きだしね」
料理好きか、それは結構なことだな。俺も将来は仕事で疲れて帰ってきたら奥さんに料理を作ってもらって・・・。
っていかんいかん。
俺が働く前提になっているじゃないか。俺の夢はあくまでも専業主夫。こればかりは譲れないね。
こうして賑やかな食事の時間は過ぎていくのだった。
「それじゃあ私たちはシャワーを頂くから、ハチマンくん?」
「へいへい、分かってますよ」
食事で腹を満たすのもそこそこに部屋を追い出されてしまう。
ちがう、俺は自らの意思で出て行ったのであって女子の圧力に負けたわけでは断じてない!
そんな誰へのともつかない言い訳をしながら階段を降りていき宿の外へ出た。
さてどうするか。ブラつこうにもまた昨日みたいな厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。大人しく座ってるか。
宿の前に置いてある樽に腰掛けボーっと月を見上げる。とてもVRとは思えない星空。
でもそれは紛れもなく仮初のもので、偽物だ。
街に人気はなく周りは雑音一つしない静寂。目を閉じていると世界中に一人、取り残されたような気がして少し落ち着く。
最近は周りに人が居てばかりだったからなあ。
しばらくそうしているとどこからかメロディーのようなものが聞こえてくる。いや、これは歌・・・?こんな時間にいったい誰が?
酷い雑音なら文句の一つでも言いつけてやるところだが、その綺麗な歌声に興味が湧き歌声の元を辿ってみる。
宿の裏をまわり、通りを一つ挟んだ街の中にある林の中。
鷹の目スキルをつかってようやく見えるくらいの明るさだろうか。林の中を進むと一人の少女が切り株に腰掛け歌を奏でていた。
ーーーその姿は月明かりを浴びてまるでセイレーンのようだった。
今回も妄想にお付き合いいただきありがとうございました
次回はいよいよ例のあの娘が出てくる!?
今後にどう作用してくるか、私にもわかっていません(笑)
というわけで次回もよろしくおねがいします。
次回予告的なもの
「ひっ!こんなところにモンスター!?」
「誰がグールだこのやろう!」
「うん、さすがに人前で歌い続けるのは恥ずかしいしね。そこまで神経強くないよ。」
「「それはダメだ(よ)」!」
「二人とも息ピッタリだ!?ってか酷いしー!」
「あなた、もしかして女子の入った直後のお風呂に入るつもりなの?」
プラチナムカつく!