納豆こねこねウマ娘 作:TAKE
「オグラアズキ…すまないね。足労をかけた。」
「いえ…。」
トレセン学園の生徒会室。
その対面式ソファの下座に、アズキはいた。
少し浮かない顔をして、しきりにため息にも似た息をふぅと吐く。
そんな彼女に生徒会長のシンボリルドルフはそっと声をかける。
「アズキ。この間の長期休暇中。他の娘たちが帰省をする中、君は学園の寮に残り続けたそうだね。…あまり野暮なことを聞くのは憚られる気もあるが、何か理由があるのかな?」
「理由…ですか。」
アズキはそっと口を開く。
「深い理由はないんです。ただ、両親からは帰ってくるなと言われているだけで…。」
「帰ってくるな、か…。」
そのセリフにルドルフは重い表情を掲げる。
「いいんです。私も、なんで帰っちゃいけないのか、なんとなく理解してますし。」
「…どうしてだい?と、訊くのはまた野暮かな。」
「両親は、お前が帰ってくると仕事にならないって。今が繁忙期だから、なおさら。」
「繁忙期だからといい、実の娘を拒絶か。冷酷無情と言ってやるべきか。君のご両親と、一度話をすべきかな。」
「大丈夫ですよ。…きっと時期が明ければ、両親も私を迎え入れてくれるはず。次の春には繁忙期も終わるはずですしきっと…。」
そうアズキは澄んだ目をしてルドルフにいう。
その言葉に数秒考えたルドルフはこくりと頷く。
「わかった。何か助けが必要なら、遠慮なく申し出てくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
そうアズキはルドルフに会釈をし、生徒会室を後にする。
その真正面に、トレーナーはいた。
「…お前んちの実家が酒蔵ってだけだろうが。」
「よく知ってんね。」
「お前がバカスカ納豆食うから、酒造りに影響するから期間中は帰れないってだけだろうが。」
「ご名答。」
「…謝りに行くぞ、生徒会に。」
「えー」
「えーじゃねぇ!ったくお前ってやつは!」
「だって嘘はついてないもん。それにさ…。」
アズキはトレーナーと目を合わせる。
「会長に理由話してみ?『納得…納豆食うだけに』って絶対言うよ。」
「いうからなんなんだ!…ほら行くぞ!」
―――――――――――――――――
「…まったく、手練手管、君も人が悪い。」
とルドルフはあきれた表情をする。
「ヒトじゃなくてウマむs…んぐ」
と余計なことを言いそうなアズキの口をトレーナーは塞ぐ。
「それにしても、納豆が原因で帰れない理由があったとは、実家が酒蔵でね…納得だ。納豆食うだけに。」
「…」
「…」
「…」
エアグルーヴのやる気が下がった!
―――――――――――――――――
さてと…。
とトレーナーは箱を持ってトレーナー室へ。
それは少しウキウキ気味な表情で。
それは彼が考案したプレゼント要望書。
自チームのウマ娘たちに、なんとかやる気を出してもらおうと、クリスマスのイベントに乗っかり、これを考案した。
これにお願いを入れておくと叶っちゃうかもな、と意味深なことを言い残してそれを部室に置いていたのだが、今日がその締め切りだった。
あまりに高額なお願いは叶えられないが、彼女らのため、今後のチームの発展のためなら、冬のボーナスを切ることも厭わなかった。
「なるほどなるほど…。ゲーム機にバッグにはは、香水かぁ。」
と一枚一枚ぺらりぺらりと捲りながら、担当ウマ娘たちのお願いをメモしていく。
「よし、この具合ならなんとか予算内…おっと。あと一枚か。これは…アズキ?」
『要望書
金
オグラアズキ』
かわいくねぇー。
ええ?ほかの娘たちがバッグとかゲーム機とか言ってんのに金?
具体的にいくらなんだよってかプレゼントで金って言うか普通。
その時、そいつは来た。
「トレーナー。始末書書いたからハンコチョーだい。」
「ノックをしろノックを。」
「ああ、2回ノックだっけ。」
「だれが便所だ。3回だ3回。って始末書って何したんだお前。」
「ゴルシたちと突発でメタルバンドライブやってたら怒られた。」
「そりゃそうだろ。」
「…メタリカのコピバンとか、めっちゃ頑張ったのに。」
「努力の方向性絶対間違ってるからなお前。」
そういって始末書を取り上げる。
「始末概要、学園の許可なくバンド活動を行ったことによる…なんでセトリまで全部書いてんだよ。」
「メモリアルチケット代わりになるかと。」
「ならねぇよ!…え?お前サイジェラやったの?え、マジサイジェラ!?え、見てぇ!」
「お、食いついた。Xの世代かこいつ。」
と熱くなりかけたトレーナーははっと我に返る。
「いや…まぁいい。わかったこれはそれとしてだなアズキ。お前これ。」
そういってさっきの要望書を見せつける。
「お前、金ってどういうこったよ!せっかく俺がみんなにやる気出してもらおうって企画したのによ!ふざけてんのか!?」
「失礼な。大真面目よ。」
「大体金って、普通モノとか書くだろ!」
「だって…必要なんだもん…お金。」
そっとアズキは暗い顔をする。
「え?…え、ちょっと。」
その変わりように思わずトレーナーは焦る。
「アタシだって、バッグとかお洋服とか、ゲームとか、ほしいよ。でも。今の私にはお金がいるの。」
「…いくら?」
「…200万。」
その真剣な言葉を聞いたトレーナーは、目を丸くする。
アズキはまさか変な事件に巻き込まれたのか。それとも脅されてる?
実家の両親が病気?
いろいろな憶測がトレーナーの脳内を支配する。
「と、とりあえず座れ。」
そういってアズキをソファへ。
「先に聞く。変な事件に巻き込まれたりしてないよな?」
アズキは黙ってうなづく。
「…じゃあ、どうして?」
「実はこの間…廊下でシービーと会ったの。」
「シービー…。ミスターシービー?」
またアズキはうなづく。
事件にシービーが関係している?
と、謎の相関図にますますトレーナーは困惑する。
「それで…?」
「うん。それで…あの娘にその帽子っていくらで売ってくれるかって聞いたの。そしてら…200万だって。」
「…は?」
「だからっ!私にはお金が必要なのよ!!」
そういってアズキは胸に手を当てて立ち上がる。
「そう。お金よ…お金がなきゃ。あの帽子は手に入らない…。」
「…お前それ冗談で言われてるだけだぞ。」
「まじで?」
「そもそもそんな帽子、買ったところでお前被らんだろ!」
「いや飾っときたいじゃん。それに、シービーの帽子がないバージョンとかも見れるわけだし。」
…一瞬でも心配した俺がバカだった。
とトレーナーは頭を抱える。
「金は却下だ。もっとマシなの言えよ。」
「じゃあ布袋寅泰のギター。」
「却下。」
「じゃあ高崎晃のランダムスター。」
「いらんだろ!」
「じゃあ高見沢俊彦のエンジェルギター。」
「置く場所ねぇだろ!ギター以外にしろギター以外!」
「じゃあマセラティかレンジローバー。」
「…お前のプレゼント甘納豆な。」
「ふざけんなし。」
―――――――――――――――――――――
こねこねこね。
と朝の寮の食堂でアズキは納豆をこねていた。
そこに、同チームの娘が。
「おはよーアズキ。って。またそんなオッサンくさいことして。」
そこにいたアズキは、寝ぐせそのままに、膝を立てて、爪楊枝を咥え、新聞紙を見ながら納豆を混ぜていた。
「アタシ中身オッサンだもん。トラックで事故っててんせーしてきたの。」
「はいはい。…そんでさ!サンタトレーナーからのプレゼント、叶った?あたしね、ダメ元で香水ほしいって言ってみたら、ほんとにもらえたの!」
「へー。」
「アズキは?」
「駐車場にマセラティは停まってなかったから多分却下されてる。」
「あんたねぇ…もうすこしトレーナーさんのこと考えなさいよ。」
と、彼女の横に包みが。
「あ、プレゼントはちゃんともらってるじゃん。開けてみなよ。」
「甘納豆だから別にいい。」
「そんなこと言わないでさ!」
アズキはしぶしぶ包みを開く。
そこからは、ウマ娘用の小さいピアスの箱が。
「え!?ピアスじゃん!いいなぁ!」
「マジか。」
それには、トレーナーからのメッセージ付きで。
『一応お前には期待してる。頑張ってくれ。』
とだけ。
「はえ~まったく人がいいとやら面倒見がいいとやら。」
そういってアズキはそのピアスをつける。
「まーいいか。んじゃ、次のレース気合入れるかな。」
そういってまた納豆をこね始めた。
(紅もSCARSも…。ヤベ、マジで見たかったな)