納豆こねこねウマ娘   作:TAKE

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「なんでお前今日鼻と顎が尖ってんの?」
「フェスタとEカードやってた。」


タレが多い納豆は邪道

来たっ…!

 

ついに来た!

 

重賞の中でもさらに格のある賞。

 

GⅠ

 

…長かった。

 

今まで、本当に苦労した甲斐があった。

これを獲れれば、俺も晴れてG1トレーナーになる訳だ。

 

ああ、今まで同期たちにバンバン先を越されちまってたワケだけど、

これで俺もようやく胸を張れる。

 

母ちゃんをようやく安心させられる。

 

…おっと、気が早いな。

これからだってのに。

 

いよいよ明日だ…頼むぜ、アズキっ!!

 

そうしてトレーナーは練習場へ赴く。

今日の彼の気合の入りようは過分なほどだった。

 

明日は彼のチーム初のG1、東京大賞典が控えている。

コースはアズキが得意とするダート。

これは…本当にあるんじゃないか。

 

そのはやる気持ちを彼は抑えられずにいた。

そして、荷物を置き、アズキとの約束の場所へ。

 

ゴールラインの真正面に、一人のウマ娘が指導者を待ちわびるように佇んていた。

 

「アズキ!お待たせ…あれ?」

 

と、彼は声をかけたはいいものの、そこで待っていた娘は何か様子がおかしい。

アズキにしては幾分背が高いし、青毛でなく黒鹿毛…。

声のトーンを落としながらも、トレーナーはそっと彼女に近づく。

 

(別の娘?…でも、この時間は貸切ったハズなんだけど。)

 

…やはりその娘はアズキではなかった。

しかし、これから始まる練習にやる気十分モードなのがはっきりと伝わる。

 

「…あの。」

「あ!はい!あなたがトレーナーさんですね!」

とその娘は愛想よく答える。

 

「いや…君って確か、スピカのとこのスペシャルウイークだよね…?」

「はい!そうです!」

彼女の肩にはたすきがかかっていた。

 

『本日の身代わり』という文言付きで。

 

「さっき、ちょっと納豆の臭いがする青毛の先輩から、このたすきかけて、ここに来るようにって言われたんです!」

「…」

 

もう言葉が出なかった。

練習に代役立てるってなんだよ。ってか明日本番なのアイツわかってんのか!?

ドコいったんだよマジで…。

 

そうトレーナーは頭を抱えた。

 

(ちょっとめまいがする…。)

「あの!」

そんな彼にスペシャルウイークは声をかける。

 

「なんだかよくわかりませんけど、任せて頂いたのなら私、全力で頑張ります!」

「ええ…。君に頑張られてもなぁ…。」

だけどスペは耳をピンピンと、尻尾をブンブンと。

 

…どうせアイツ戻ってこないだろうし、こうなりゃヤケだ。

 

――――――――――――――――――

 

その日、コースには夏が舞い戻ったかのような熱気が包み込む。

その場所を、黒鹿毛の彼女は全力で駆けていく!

 

「よぉし!!いい感じだスぺちゃん!もう少し…粘るんだ!」

「はいいぃ!!!」

「よぉし…オッケー!…いょし!!」

そういってストップウォッチを切る。

 

「よく頑張ったスペちゃん!自己ベストだ!この調子ならきっといける!明日のレース!マジで獲りにいこう!君は出ないけど!!」

「はい!トレーナーさん!明日のレース!絶対!絶っ対に勝ちましょうね!私は出ませんけど!!」

 

「お疲れ様でした!」

そういってスペシャルウイークはやり切ったという満足げなステップで、練習場を後にする。

トレーナーはその背中を見届けて、つぶやいた。

 

「…マジで終わった。」

 

――――――――――――――――――

 

「トレーナーは?」

本番当日、納豆をこよなく愛するそのアホ毛、もとい青毛の娘は関係者出入口付近で納豆をこねながらトレーナーを待った。

 

「なんか、渋滞にハマってるとかでちょっと遅れそうって。」

「マジか。」

「あ、ライン来た。先に受付済ませとけってさ。」

と同チームのその娘はスマホをアズキに見せつける。

 

「これ食べ終わってからね。」

「アンタ…緊張とかしないワケ?」

「会長にドヤされることに比べりゃマシ。」

 

そうして納豆パックが空になったところで、アズキたちのチームは受付へ。

 

「でしたらここに、出走者の方のお名前とチーム名と担当トレーナーの名前を記入してください。」

と用紙を渡される。

 

「…アタシらのチーム名ってなんだっけ?」

「ベガだよ…アレ?そういえばこの間新しい名前に変わったんだよね。えっと、なんだっけ?誰か知ってる?」

 

チーム一同みんな首を横に振る。

 

「まぁ、テキトーでいいでしょ。…んじゃこれで。」

「はい!受付いたします!」

そういってアズキは用紙を出した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

「はぁ…ったくこんな大事な日に遅刻しちまうだなんて!幸先悪いなぁ…。」

と彼は走りながら彼女らを探す。

 

「…えっと、ラインも返信ないし、どこだぁ?」

その時、会場アナウンスが。

 

『お呼び出しをいたします。えー。チーム自業自得のトレーナーは至急、本部までご連絡ください。もう一度繰り返します。』

 

「はぁ?チーム自業自得ぅ?…ったくどんなふざけたチームだよ。トレーナーの顔が見てみたい。」

『チーム自業自得のトレーナー。明智良樹さんは至急本部までご連絡ください。』

 

…?

 

明智良樹って…。

 

 

「俺じゃねぇか!」

 

その時。

 

「お、いたトレーナー。」

「アズキ!!」

「アンタ呼び出されてるよ。」

「んなこたわかってんだよ!てかなんだチーム自業自得って!!」

「ほら、昔ドリ天にそういうチームいたじゃん。」

「だからなんなんだよ!ってかいつの世代だお前!俺たちのチームはカペラだっつっただろ!!」

「いや、覚えてなかったからテキトーに。」

「せめて星の名前にしろ!!」

 

『繰り返しお呼び出しを…。』

「ほら、呼ばれてる。」

「…クソ!」

 

―――――――――――――――――――

 

「…はぁ、入るぞ、アズキ。」

そういってトレーナーは彼女の控室をノックする。

 

「おうよ。」

と声が聞こえてきたので戸を開ける。

 

そこには、おどろおどろしくも、煌びやかな、悪魔のような衣装に身を包み、顔におしろいを塗りたくって悪魔メイクを施すアズk

「聖飢魔Ⅱか!」

「誰がルーク篁だ。」

 

そして彼女は髪の毛をツンツンヘアーに。

 

「お前の勝負服ちげぇだろ!なんで聖飢魔Ⅱなんだよ!」

「聖飢魔Ⅱって決めつけんなし。」

「じゃあお前トシいくつだよ。」

「10万とんで16歳」

「聖飢魔Ⅱじゃねぇか!アホ!今すぐちゃんとした勝負服に着替えろ!!」

「はぁ?…しょうがねぇな。」

「あ、待て。そういやお前、昨日どこで何してやがった。スペシャルウイーク身代わりに置いていきやがって。」

「笑ってこらえて(所さんトーン)」

「…もういい。」

 

――――――――――――――――――

 

「ああ、母ちゃん?俺だけど。うん。そう。やっぱトレーナーダメそうだわ俺。今日の重賞無理だったら、仕事辞めて実家に帰るよ…。うん。ありがとう。じゃあね。」

 

その後に大きなため息を吐く。

 

「やっぱ俺、トレーナー向いてなかったんだなぁ…。もうすぐ時間か。アズキはもうゲートかな…軽く飯だけ食っとくか。」

そういって彼は場内の食堂へ。

 

「おばちゃん!かけそば!なるはやで!」

「アタシ納豆巻きね。」

「っち。わかったよ。おばちゃん!こいつに納豆ま…。なんでいんだよお前!?」

彼の横にアズキはいた。

 

勝負服のままで、食堂に。

周りの客からはイロモノを見る目で見られる。

何かのショーか?とざわざわ。

 

「おなかすいちゃって。」

「お腹すいちゃってじゃねぇだろ!もうゲートインの時間だろ!?」

「納豆食わなきゃ走れん。」

「そういってお前直前に納豆食って負けたの忘れたか!?」

そんなやりとりの中。

 

「はいよ納豆巻き。」

と彼女の前に納豆巻きが。

 

『選手のお呼び出しをします。7番オグラアズキ選手。今すぐゲートまでお越しください。なお、出走時間になりましても見えられない場合、出走取消となりますので…。』

というアナウンス。

 

「ああ!やべぇ!!もういい!!食いながらいけ」

「ふぁーい。」

とアズキは納豆巻きを咥えたままゲートへ走った。

 

―――――――――――――――――――

 

『さぁ青空が降りしきる元行われます東京大賞典…各ウマ娘ゲートインが完了しました…7番オグラアズキは棄権でしょうか…ああっと!!今出てきました!オグラアズキ!食べてます!本番直前だというのにムシャムシャと納豆巻きを食べてます!!学習していません!レース直前にモノを食べることが悪手だと!理解していません!!』

『いやぁ~これは面白い。』

 

「キミ!早く入って!」

とスタッフから促され、アズキはゲートに押し込まれる。

 

「…」

隣でモシャモシャと納豆巻きを食べるアズキを、隣のゲートの娘は奇妙なモノを見たといわんばかりの表情で彼女を見る。

「あげないよ。」

「…いらないよ。」

 

そうしてゲートは解放された。

 

 

―――――――――――――――――――

 

『さぁ始まりました注目の大一番!先頭を捉えるのは2番アサノタマゴ、それに追走6番キノウノカレー。』

 

「…まぁ、走ってくれただけよしとするか…。」

明智は屋外の観戦場で項垂れていた。そこに。

「おう、明智。」

「あ、沖野さん。お疲れっす。」

現れたのは彼の先輩にもあたるチームスピカのトレーナー沖野。

 

「お前、昨日スペの指導したんだって?」

「あ…。やっぱマズイっすよね。申し訳ないっす。」

「いやいいさ。スペのやつも満足してたみたいだし。」

そう沖野は笑い飛ばす。

 

「んで、どうしたんだ暗い顔して、担当が走ってんだろ?」

「そうなんスけど…。やっぱ無理かなって。」

「アホかお前。ゴールがまだ先なのに、無理ってなんだよ。」

「レースだけじゃないっすよ。…トレーナーとして、俺は無理かなって。」

「ほぉ。」

「アズキ…俺の言うことまったく聞かないし、好き勝手ばっかやって。肝心なところで負けて…。なんだろ、信頼関係とかやっぱ俺あいつと築けてないんだなって。…沖野さんは凄いっすよ。あのゴルシを手懐けて。」

「そうかぁ…なるほどな。でもそのアズキとやらは、なんでお前を選んだんだろうな?」

「え?」

明智はそっと顔を上げる。

 

「トレーナーを選ぶのはウマ娘たちの自由だ。トレセンには腐るほどトレーナーがいる。その中で、なんであいつはお前を選んで、トレーナーを変えることもなく居続けてるんだろうな。本当に信頼関係なんてなけりゃ、とっくに離れてってると俺は思うけど。」

「沖野さん…。」

 

『さぁ注目のラスト!!アサノタマゴ!逃げに入る!!誰も追いつけないか!…っとここで!?』

 

明智は目を見開いた。

 

「…ピアスもらった分くらいの仕事はするさ。」

アズキは誰にも届かない声でそっとつぶやく。

 

『ここで7番オグラアズキ!!抜けた!!抜け出した!!その勢いで!先頭とぐいぐい差を狭めていく!!粘る!!粘る!!納豆のごとく粘る!!』

 

先頭を走るその娘にその大きな影が忍び寄る。

 

「ウッソ!!ふざけないでよ!こんな納豆くさいやつにぃ!!」

「…納豆パワー…なめんなし。」

 

そして、時は動く。

 

『差した!!差し切った!!オグラアズキ!!!その納豆パワーで!!見事に貫いた!!』

 

会場から大歓声が上がる。

オグラアズキ…文句なしのG1 一着。

 

「…なんなんだよアイツ。俺もうわかんねぇ。あいつが本当にわかんねぇ。」

明智は涙をボロボロとこぼしながら、そう口にした。

「でもアイツはちゃんとわかってるみたいだぞ、お前のこと。」

そう肩を叩いて、沖野は去っていった。

 

―――――――――――――――――――――

 

『さぁG1を制しましたウマ娘!オグラアズキ選手によるウイニングライブの開演です!』

立派なステージの中央にアズキは立つ。

 

そして、マイクをとってこういった。

 

「今日ここまでこれたのは…皆さんのおかげです。本当に長い道のりだった。苦しいことも多かった。でも、そんな私がここまでこれたのも。…トレーナーや支えてくれたみんなのおかげだと。そう思っています。」

 

アズキ…お前そんな立派なコメントいえるのか…。

明智の感情は頂点に達していた。

 

「そんな私を支えてくれた仲間やトレーナー。そしてファンの皆さんの為に歌います。…聞いてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みかんのうた」

 

 

 




「…あいつあんな声出んの?」
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