焼き付いては、離れない。
屋上での話合いからその日の放課後。
とりあえず結界に関しては神代の代物らしいので手も足も出せず、学校の各所に刻まれた起点を消して発動を遅らせることしかできないそうだ。
何とも後手にまわってるような感じだが仕方がない。校舎爆破するなりして登校できないようにするとか提案してみたのだが、下手に相手を刺激したくはないしなにより監督役の言峰さんにいらん借りと嫌みを貰うのはまっっぴらごめんだと全会一致で却下された。まあ、当然の結果である。
というわけで放課後、結界の起点探しとその消去に動くことに相成り現在、俺はというと
「お、重い……」
職員室へ提出用のプリントとノートを運んでいた。
うん、あれだけそれっぽいこと言っといて全く関係ないことしてるね、俺。
いや、だってしかたないのだ。こういう結界の起点を探すというのは元々第三者に発見されないように細工してあることが多く見つけることは難しい。だからこそ人海戦術として手分けして探すことにしていたのだが、意外や意外、士郎が空間の異変に敏感という隠れた才能を発揮しあれよあれよと結界の起点を探し当てていくのだった。気分は花咲じいさんである。そこ掘れわんわん。
なので凛に『やっぱりあんたいらないわ』とあっさりとイラン子宣言されたのでさっさと帰ろうとしたのだが、
ちょうどその時偶然出会った後藤に『おおちょうどいいところに。我が輩、突破的な所用が出来てしまってな今日の社会の提出物を職員室の葛木先生のところに持っていってくれはしまいか? 我が同士笠原よ』
などとなにに影響されたか知らないが、十万五十一歳生きてる閣下みたいな口調で頼まれてしまった。まあ、しっかり昼飯奢って貰うことは確約して貰ったが。(『え、マジで。今月ピンチなのに……』なんて口調が素に戻っていたようなきもするが気のせいだろう)
「失礼しまーす」
えっちらおっちら何とか扉を開け職員室の中に入る。
最近新都で騒ぎになっているガス漏れ事故や殺人事件など聖杯戦争によって引き起こされた数々の事件の影響か、うちの学校は生徒の安全を考えて放課後の部活動が禁止となり、下校時間を早めるため授業時間の短縮を行っていた。どうやらそれは生徒だけなく先生もなのだろう。
外の刺すような冷たさとは裏腹に無人の職員室の中はそこかしこに置かれたストーブが所在なさげに飴みたいな暖気を吐き出し続けていた。
「…………」
誰もいないはずなのに妙な居心地の悪さ感じながら目的の席探す。
窓側に背を向けた前から三番目の席。
業務用のパソコンや筆記用具、授業用の教科書・資料など必要最低限の荷物が持ち主の性格を表す用にビッシリと几帳面に並んでいた。相変わらずさすがというか何というか今にも葛木先生の顔が机の上に浮かび上がってきそうだ。
「……すげぇ。棚の本もちゃんとあいうえお順に並んでやがる」
まあ、前々から知ってはいたのだが。なにせ期末テストの時に誤字が一か所見つかったからって、即時に全クラスのプリントを回収して後日にテストを仕切り直したほどだ。しかもご丁寧にテスト問題も全て変えて、だ。同じ問題がでるのだろうと思ってたかをくくっていた俺は本当に痛い目を見たのだった。テストの結果はお察しの通りである。
「それに比べてこっちと来たら」
チラリと左の席見やる。授業で使うであろう平積みの教科書はうず高く積まれ、さながら終盤のジェンガよろしく不安定な有り様だし、お煎餅やらなんやらちょっとした駄菓子屋が開けるぐらいに種類豊富なお菓子たちが、『俺たちは常識の枠に捕らわれないぜ、ヒャッハー!!』と俺たちよりも青春を謳歌するように所狭しと机の上を蹂躙していた。というか三国志のマンガまである。なんでもありか。
「フリーダムすぎんだろタイガー。少しは片付けろよ」
机には使っている人の性格が出るとは言え、右と左の机は出過ぎだろ。もうちょい静かにできんのか、机が五月蠅すぎるってどういうことなの?
とりあえず左の机の現状は是非とも出来のいい弟分にチクっとくして、頼まれたことをさっさと終わらせようとしたところに、ゆっくりと職員室の扉が開き、いかにも生真面目な顔をした右の机の持ち主が入ってきた。
「……笠原か」
「こんにちは葛木先生。頼まれてた提出物を持って来ました」
「ご苦労。しかし頼んでいたのは後藤だったはずだったのだが」
「なにやら、急用とかで代わりに俺が来ました」
「……そうか」
こうして俺と話している間も眉一つ動かない。ビシッと延びた背筋や規則正しすぎる呼吸と全然足音が聞こえない身のこなし、そしてそれなりに重量のある提出物をあっさりと持ち上げる筋肉もあいまって出来のいいロボットなのではないかと勘違いしてしまいそうになる。いやどちらかというと武術の達人と言われた方がしっくりとくる。ああいう当たり前のことを当たり前に高水準で行うことこそが武術の基礎であり、奥義でもあるのだ。なので初めて会ったときは少しばかり面を食らってしまっていた。なんでこの人教師なんてやっているのだろうと。
と、そこまで考えていたら何とも違和感のあるものが葛木先生の手にあった。なんとも可愛らしい花柄の包みに包まれた弁当箱だった。
てか、花柄ァ!?
目の錯覚じゃないよな。え? マジで。
「……む。どうした笠原。まだなにかあるのか」
こちらの視線に気づいたのかぽつりとそんなことを言う葛木先生。もちろん無表情である。
……何だろう。なんというか強烈な違和感がある。未来からきた殺人ロボットがド派手な星形のサングラスつけてるようなそんな感じが。
「いえ、可愛らしい弁当箱ですよねそれ」
「これか、知り合いに持たされたのだ」
ということは弁当箱の中身も含めて作って貰ったのか。というか相手は女だな。
しかも結構乙女な趣味の。
「ああ、そうなんですか。もしかして作った人、女の人ですか」
「そうだが、なぜわかったんだ」
だろうなチクショウ!! くそ、死ぬほど羨ましい。
『はいこれ。今日はお弁当を作ってきたんです(ハート)お口に合えばいいんですけど』
『む、そうか。ありがたく貰っておこう』
『今日はいつぐらいにお帰りになられます?』
『遅くはならない。早めに帰ってくるつもりだ』
『そうですか ならご飯の用意をして待っていますね(ハート!)』
『ではいってくる』
『はい、いってらっしゃい。ア・ナ・タ(ハート! ハート!)きゃっ!!(ハート! ハート!! ハート!!)言っちゃった(ハートォォォオオオ!!!!)』
ここまで想像できた。同時に死にたくなってきた。
クソなんでだ。なんで俺の周りにはこんな奴がいっぱいいるのだ。おかしいだろ。何か悪いことでもしましたか、俺。なんなの、そんなに俺をいじめて楽しい? ねぇ、楽しいの? だから世の中クソなんだよ。クリスマスとかバレンタインとか滅べばいいのに。
「いや、先生の趣味じゃなさそうですしね、それ。まあ作って貰ったならちゃんとおいしかったって感想いっといた方がいいですよ」
「そうなのか?」
「そういうもんですよ」
珍しくほんの少し不思議そうに眉をあげた葛木先生は少しだけ机の上の弁当箱を見つめたあと。
いつもの墨を落としたような声音で呟いた。
「……む、そうか。忠告感謝する」
「いえいえ、どういたしまして。では帰りますね」
「気を付けて帰れよ。最近物騒だからな」
「はい。では失礼します。先生」
「うむ」
俺は頭下げたあと職員室の暖かさを名残惜しみつつ、職員室のドアを閉めた。
※※※
予想外の予定が入り濃いオレンジをぶちまけた様な空の色だったが、それももうまもなく夜の闇に染まっていく。
そうなればそこはもう魔術師の領域だ。一般人がフラフラ入り込もうものなら、即座に喰われていくのだろう。
逢魔が時とはよく言ったものだ。
何か得たいのしれないものに引きずり込まれるような雰囲気に昔の人々は魔を想像し、せき立てられるように帰ったのだろう。
カゴメカゴメを口ずさみながら寒々しい、音が落ちきった昇降口にさしかかるとショートカットを揺らた凛々しい顔立ちをした、また凛とは違った和服の似合う美人の少女が向こう側からやってきた。
「よう美綴、今から帰りか」
「あら、笠原じゃない。まあね、うちの部のきかん坊とちょっとやり合ってて。今ちょうど終わったとこだよ」
やれやれといいながら億劫そうに弓道部の部長、
「弓道部の問題児と言えば間桐のやつかそりゃ、お気の毒に」
「まったくね。なんか最近間桐のやついつにも増して荒れててさ、下級生に当たり散らしてんのよ。なにがあったのかは知らないんだけどさ」
アンタなんか知ってる? とお疲れ気味の美綴に対して思わず知らないと笑ってごまかしていた。スイマセン多分、うちの幼なじみの仕業です。
「だよね、あんた間桐のこと蛇蝎のごとく嫌っているもの。知らなくて当然か」
「当たり前だ。あれだけ散々好き勝手しといて女子に人気とかなんなのアイツ。顔面に媚薬とか塗りたくってんの? やっぱりあの悪ぶってる感じがいいの? なんで俺はモテないの? 俺とアイツの違いってなんなの?」
「あははは。アンタ一度自分の胸に手を当てて考えてみなよ。」
あんたの魅力は? 魔王を滅ぼすことが得意です。 なにそれ などと美綴と話しながら校門のところまで歩いていくどうやら本当に俺たちが最後だったようで生徒の姿は見えない。いつもなら帰り道が違う美綴とはここで別れるのだが。
「じゃあね。かさh「今日は送っていってやるよ美綴」……なんで?」
ただしそれは聖杯戦争がなかったらの話だ。今の時間帯に美綴を一人にはしてはおけない。
本当に美綴には思いがけない提案だったようで、ぽかんとしたあどけない表情だった。
普段凛々しい美人な美綴が見せる可愛らしい一面に心がざわつくの感じたのだが、なんかシャクだったので意地でも顔には出さなかった。
しかし、そんな俺を見て何かを察したらしい美綴は意地悪く笑い、わざとらしく両腕で武術によって磨かれた見事なスタイルを体現している体を抱きしめると
「なに、笠原もしかして。あたしになにかするつもりなの? 送り狼?」
いやーんと色気もなにもない声音で言う美綴に対してため息をついた。 ガラじゃないことするもんじゃないな。
「ちげーよ、バカ。最近なにかと物騒だろ。学校の下校時間が早まるくらいには。そんな時に、女のお前を一人にしておく訳ないだろ。黙って送られろ」
「_____」
予想以上に真剣な俺の様子にしばらく面食らっていたが暫くすると よ、よろしくお願いします。と蚊の鳴くような声でごにょごにょ呟き綺麗な髪を勢いよく振り乱して後ろを向いたあと、すたすたと恐ろしい速さで歩いていった。多分、美綴の耳が真っ赤に染まっていたのは寒さだと思いたい。
「オイ、コラ! おいてくnって速ええ! なんだあれ!? 瞬歩かよ!?」
※※※
「そういえば士郎も弓道部に入ってたんだろ?」
「そうだよ。あれはすごいね、一種の天才って奴? 衛宮がはずしたとこなんて一回しか見たことないもの。しかもわざとはずしたのを一回」
あれからなんとかいつもの感じに戻った俺たちは美綴が住むマンションへ歩を進めていた。
「なんだそれ。冗談だろ?」
「それがさ、ホントなのよ。見ててすごいよ衛宮の射は。なんというか凄みとかは全然なくて、気がついたら的の真ん中に矢がある感じでさ。実際、衛宮も弓を引くときにはもうすでに中るイメージというか確信があるらしくって」
「へえ」
だとしたらそれは天性の才能という奴なのだろう。凡人には決してたどり着くことのできない境地。正直にいって俺にはその手の才能はからっきしだ。自分を育ててくれた師匠にもそう言われたっけ。
お前には剣技だけでは凡人の域を出ることはないのだと。だから少し羨ましくもある。自分の至らなさのせいでこぼして、落としてしまったものが沢山あったから。
「でもねぇー衛宮は自分の射の腕前っていうのにそれほど思い入れなかったみたいなのよ。ほら、なんて言うの? 熱がないって感じ」
「まぁな、あいつ自身自分のことには疎い感じっていうか、執着ってものが薄そうだしな。あいつが弓道部をやめたときだってケロリとした顔で何でもないような感じだし」
「そうなのよね、だってやめた理由もほとんど間桐の奴に追い出されたみたいなもんだったし。少しは怒るでもなし、『そうだな、慎二の言う通りだ』なんていってあっさりとしたもんだったよ。逆に間桐のほうが悔しがってたし」
そう、衛宮士郎という人間は一成に言わせれば喧嘩っ早いやつだとの評価をしているのだが、あいつは、自分自身のことでは滅多に怒らない。決まって怒るのは他人のためだけだ。いつも自分を小馬鹿にしている間桐に関しても味だなんだとのらりくらりとかわすくせに、間桐の妹の桜ちゃんが兄の間桐に暴力を振るわれ怪我をした時には怒髪天に怒って間桐の奴と乱闘騒ぎにまでなったほどだ。どうもあいつには我というものが薄い気がする。
「だからさ、あたし自身もったいないなぁーと思うわけよ。武芸百般で通るこの美綴綾子が負け越してるんだよ。だからこそ衛宮にはぜひ弓道部に出戻ってもらって私に負けて貰わないと」
ニシシ、と快活な彼女の性格そのままに笑う美綴を見てこう思う。逆に我強すぎるのもめんどくさいよなー、と。
「でさ、話は変わるんだけども」
「なんだよ。美綴」
「その衛宮が遠坂と一緒に放課後に一緒にいるの見たんだけど、最近二人一緒に行るところをよく見かけるんだよね。もしかして、あの二人ってできてるの。よしんば出来たとしたら遠坂の幼なじみである笠原入れて恋のトライアングルっていうマンガみたいな感じになるだけど、どう?」
「どうもしねぇよ。だから目を輝かせるな、ワクワクすんな」
実はこの武道少女こう見えても中身は乙女だったりする。ソースは凛。
俺の家に来るときに時々凛がどこぞの商人のごとく装備してくる紙袋一杯につめこまれた少女マンガの出所がそこだったから。多分、美綴の部屋には大量のマンガがぎっしり詰まっているのだろう。人は見かけにはよらないものである。
「あの二人は特になんもねぇよ。ちょっと最近俺つながりでツルむようになっただけさ」
「なんだ、そっか。とうとう遠坂に負けちゃったのかなとか思ったんだけど」
「なんの勝負してんだよ。お前」
「どっちが先に恋人つくれるか勝負」
「はあ?」
なに言ってんだコイツら。
「バカじゃねーの?」
「バカっていうな。バカって」
しまった。つい本音が。
「いや、だってそうだろうが。恋人っていうのはそうホイホイ気軽につくるもんでもないだろ。こう、なんていうか、お互いの気持ちというのをだな、特に女は大事なんだろそういうのが」
「アハハハハ!! 笠原、あんた女の子に幻想持ちすぎだよ。確かに安売りはしないけどさ、自分に釣り合うだけの男がいたらそりゃ、ちょっとは考えちゃうって」
盛大に笑われて肩をバシバシ叩かれた。うるせぇよ、持ってちゃ悪いか、つーかお前等に釣り合う男とか存在すんのかよ。
「……で勝ったらどうなるんだその勝負」
散々美綴は笑ったあとに目の端に溜めた涙を拭いながらこっちを見る。あ、また俺の顔を見て笑いやがった。なに? その顔でそんなこという俺が悪い? ふざけんな。好きでこの顔に生まれた訳じゃねーよ。
「__あー笑った笑った。ごめんてば笠原。そんなにすねないでよ……で勝負に勝ったらだっけ? そりゃシンプルに『負けた方が勝った方の言うことを聞く』よ。あの完璧主義者の遠坂を思いのままに出来るんだよ。乗らなきゃ損でしょ」
……などと自信満々に話していらっしゃるが、どう考えても双方共倒れの自爆エンドにしか見えないんですが、それは。
「……よし、俺にも一口噛ませてくれ。俺の賭ける結果はこうだ『双方とも彼氏出来ずじまいで売れ残り、美綴が究極奥義として自分の弟を彼氏役として抜擢。しかし結局ばれて弟君が赤っ恥を掻く』に俺の全財産を賭ける!!」
「なんでそんな具体的なのよっ!!」
美綴は顔を真っ赤にしてして俺の背中を叩いてくる。フム、図星か。
「……絶対に彼氏つくってやる」
「やばいな、その発言からしてもうお局OLの負け惜しみにしか聞こえん」
さっきのおかえしとばかりに笑ってやる。あー気分スッキリ。
「でもね。ホントは遠坂のほうが先に出来るんじゃないのかなって思ってた。多分相手は笠原で」
ひとしきり笑ったあと、美綴がそんなことをポツリと言った。
もう日は落ちきっていて冬木の大橋を渡って来た新都では背の高いビルや外灯が日の光の代わりにあたりを照らす。でもそこには太陽の様な暖かさはなく、機械的な電灯が灯っているだけ。俺にはそれがよけいに冬の寒さを増しているようにも感じられた。
「それは、きっとないよ」
はーっと自分の口から出る白い吐息を見つめながら言う。
そうだ。愛を、恋人を見つけるのは、この心に蜃気楼のように彼女の姿が焼き付いている限り。ずっと。
「……好きな人でもいるの?」
「ああ、いるよ。ずっとなにも出来なかった俺を信じて、支えてくれた人だった。__何よりも大切だった。でもさ、結局。離ればなれになっちまった」
空色の瞳がどんな風にやさしく綻ぶかを知っている。絹のような金の髪が風に美しく揺れる様を覚えている。泣き顔も怒った姿もみんな、みんな。
どんなに女の子にモテたいだとか羨ましいとか口で戯れ言を吐いておちゃらけても、道を歩いている途中、彼女に似た声を聞いたときにはみっともなくあちこち走り回ってしまう。
……俺は怖い。
いつか、いつか。彼女の姿を思い出せなくなって。こんなことがあったんだぜ、と与太話を聞かせるように誰かに話して笑っているそんな時が来てしまうのが、なによりも怖い。
だから俺は必死でこぼれ落ちないように、泡沫の宝物をかき集めて抱きしめている。彼女が消えてしまわないように。
「……こりゃ、遠坂大変だ」
「なにが?」
「あら、白々しい。分かってんでしょ」
なにを、とは美綴は言わなかった。
……言わなくても分かっている。何年も一緒にいたから。
「まぁ一番の問題はあの子自身、その気持ちに気づいてないってことだけど、なんというかアンタら二人揃って不器用というかなんというか」
……ああ、知っている。知っているんだ、あいつがどんなことを想っているかなんて。
でも俺はそれに知らないふりをしている。目をそらし続けている。
笠原輝一にとって遠坂凛は右腕であり、心臓であり、鏡だった。だからこそアイツの悲しませるようなことはしたくはなかった。
そうやって俺はアイツの心を握りつぶしてる。
こんなのはただの甘えで、最低だとわかっていても。
「卑怯者のクソ野郎だな、俺は」
「世間一般にはそうでしょうね。乙女の純情を弄ぶ男は痛い目みるべきよ」
でも、と美綴は、遠坂凛の永遠の宿敵と豪語する少女は続けた。
「きっと、遠坂は怒るだろうね。わたしを甘くみるなってさ」
「だからね、覚悟しといたほうがいいよ。そうなったらアンタは逃げられなくなってるだろうから」
「その時位は男らしく真っ正面から向かい合いな」
……まいった。
なんともまぁ俺の周りには男前な女の子が多すぎる。
快活な笑みを浮かべた美綴を見てそう思う。
曲がっていた背筋がしゃんと延びるようなそんな元気を入れてくれた友人に小さく呟く。
「さんきゅ」
「お礼なら今度クレープおごって頂戴。いっちばん高いヤツね!」
聞こえてたのかよ。
クッソ、お礼なんてホント、柄にもないことするもんじゃねーな。
思わず頭を抱えそうになりながらも渋々俺はうなずいた。
いつの間にか目的地には着いたようで見上げると首が痛くなりそうな高層マンションの前に着いていた。
「んじゃ、じゃーな美綴」
「うん、じゃ、また明日ね。笠原」
軽い挨拶もそこそこに思い出したかのように全身に寒さを感じた俺はそそくさと士郎の家に戻ろうと踵をかえす。
けど、
「笠原」
美綴の声に肩を押さえられた。
「なんだ」
「あたしと付き合ってみない?」
__一瞬。息が、詰まった。
「……どうして?」
振り返らずに、背を向けたまま後ろへと声を放り投げた。どうして___。
「言ったでしょ。背もあたしより高くて、一緒にいて退屈しない。それでいて女の子として優しくしてくれる。それは十分、あたしの中では十分に釣り合ってるよ」
背後から覆い被さる美綴の声はいつもどおりの声音でまるで明日の天気をたずねるかのようで、ひどく優しく聞こえた。
でも、それでも。
まだ、俺の目の前では彼女の残像が揺れている。
「安売りはしないとも、言ってたよな」
振り返らずに後ろにいる女の子にそう告げた。
「そうだね。でも、あたしは天下御免の美少女美綴綾子様よ?」
ああ、そうだった。そういうヤツだよな。お前も死ぬほど負けず嫌いなところはウチの幼なじみ様とそっくりだ。
思わず吹き出しそうになりながらも、肩越しに手を振って足を前へ、一歩踏み出し歩き出す。
やっぱり俺は、卑怯者のままだったけれど。
豪快な戦線布告をした美少女はきっと笑顔だったんだとそう感じた。
※※※
と、このまま気分良く帰りたかったのだが。
ちょうど橋を渡ってすぐの例の聖杯戦争跡地の公園で粘つくような、視線を感じた。
殺気。そういうものが滲みでていた。
ちょうどジョギングの為に舗装されたのだろうコンクリートで均された場所には、心を癒すためにに木が植えられているが、冬の冷たい風にさらされてゆれているせいか、規則正しく植えられいるのもあって人工的な不気味さを醸し出していた。
足下に荷物を落とすと同時に。
ニヤニヤ笑いながら、今もっとも会いたくなかった人物が前からやってきた。
「__やあ、笠原。こんな夜に奇遇だねぇ」
「ああ、そうだな。間桐」
偶然であったかのように青毛の少年……間桐慎二は言う。
しかしその表情と声は愉悦を隠しきれないとでも言うように、笑みの切れ端がはみ出ていた。
「笠原、ダメじゃないか。こんな遅くに一人でいるなんて。学校でも言われたろう? 最近、物騒だって誰かに襲われるかもよ」
「よけいなお世話だよ。間桐、お前には関係のないことだろう」
普段なら俺がこう言った時点で声を荒げるはずの間桐は正反対にますます笑みを深くしていく。
「よくないなぁ。僕にそんな口の利きかたなんてして。襲われたらどうするつもりだ? 自分の立場ってものを弁えろよ笠原」
なぁライダー。
そんな猫なで声とともに虚空から現れたのは、見事な豊満なスタイルをとても小さな黒のボディコンの様な服に押し込めている鮮やかな紫色の長髪をした女性だった。
ただ立っているそれだけなのにむせかえるような色気を感じるのに、顔の大半を覆うバイザーと辛うじて見える唇から表情を伺えないせいか精巧な人形とでも錯覚してしまうような。おかしな雰囲気をまとっている。
サーヴァント。
つまり凛の言っていた学校にいるもう一人のマスター。
それがこのライダーのマスター、間桐慎二なのだろう。
おいコラ、むちゃくちゃ近所のやつじゃねーか。このやろう。
灯台下暗しとはまさにこのこと。誰か一人気づけなかったのかよ。
そんな呆れにも似た考えをしている俺をよそに間桐はますます調子づいて饒舌に語り始める。
「それにしても今日は僕に刃向かってきた生意気な美綴をヤってやろうと思って様子見してたけどまさかお前がマヌケな顔してフラフラでてくるだからラッキーだったよ。お前にとってはアンラッキーだったかもしれないけど。まぁ、お前にはわかんないだろうけど、安心しろよ、泣いて地べた這いつくばって僕に命乞いをするってんなら命くらいは助けてやらないでもないぜ」
ケタケタとおかしそうに嗤いながら言う間桐の科白を聞きながら俺はそのなかでどうしても聞き逃せない
「美綴を襲おうとしたのか、テメェ」
「そうだよ、あいつ最近、五月蠅いからさぁ。一度、痛い目みたほうがいいと思たんだよねぇ。まぁあいつも僕に犯られるんなら本望だと思うよ。どうせこの先あいつを抱く男なんていないと思うしさぁ?」
そうやって間桐が笑って言った瞬間。目の奥、後頭部のあたりから灼熱の血が通っていくを感じた。
直前まで隣にいた美綴の笑顔が脳裏をかすめた。
「__そうかテメェ。前々から性根が腐ってるとは思っていたがそこまでとはな。ちょうどいい。お前、五体満足で帰れると思うなよ」
抜刀・顕現(リリース・アウト)
右手に聖剣を握りしめゆっくりと間桐へ向ける。切っ先の向こうにいる間桐は信じられないものを見たかのように歯を食いしばり、鬼の形相でこちらを睨みつけていた。
「オマエ オマエ オマエ オマエ オマエ オマエェェェえええええ!!!!! なんだそれは!! なんなんだぁぁあああ!! オマエもか!! オマエも僕を虚仮にしやがってぇぇええ!! 八つ裂きにしろっ!! ライダーッッ!!!!」
「やれるもんならやってみろ。クソ野郎」
お互いがお互いに対して沸き上がった怒りをぶつけようとした、そのとき。
「盛り上がってるとこ、ワリィが、オレも混ぜてくんねぇか?」
ゆらりと、赤い魔槍を片手に青いライダースーツを纏った男が楽しそうに犬歯をむき出しにして俺と間桐に笑いかけた。
サーヴァント ランサー 参戦。
よっしゃああああああ!!!! Fate hollow に間に合ったあああああ!!!
投稿したときは日付まわってたけど、まだソフマップ空いてないし、セフセフ。
というわけで、何年振りかは知らんけど最新話お届けました。
まいどまいどのことながらおそいねー(白目)。
でもタグには牛歩更新あるし、こんな木っ端落書きなんていつまでも待っているドMなんていないでしょ(開き直り)
というわけで最新ですが、やっぱり私には恋愛うんぬんは無理だ。うん
だってこれ書いてんのおっさんだぜ。女の気持なんかわかるかよ。誰か教えて下さい。
美綴に関して言えばぽっと出の登場すぎて彼女の今の気持に関するバックグラウンドを書いてなかったのが特に反省です。またぞろ美綴視点で短編をかかなければならない感じがします。自分で自分の首を絞めていくスタイル。
反面、間桐くんは書きやすかったし楽しいね、うん。やっぱり思考がゲスい人物は輝いてこそナンボだよ!!
というわけであとがきはここら辺にして。
感想に関しては時間を見つけてお返しいたします。
大変長い間、楽しみに待っていただきありがとうございます。
次はガッツリ、勇者 VS ライダー VS ランサーの三つ巴デスマッチです。
次回予告 ランサーは死にましぇんん!!!