Fate/Day to break   作:キラクマー

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地獄を見ました。





楽しい楽しいお話会

「─────輝一」

 

 ふと、鈴が鳴ったような声をかけられて前を向く。

 

 

 目の前にいつも見慣れた顔────遠坂凛の姿が映っていた。

 

 

 真新しい絹のような黒髪に大きくパッチリとした青い目や瑞々しい赤い唇、陶器のような白い肌は一つ一つのパーツがまるで一流芸術家によって作られたように端正で美しい。

 

 

 なるほど、こりゃあ学園でアイドルにもなるわな。

 

 

 そう漠然と思いながら何だ? と目の前の幼なじみに問いかけてみる。

 

 

「ねぇ、輝一。私、アンタにお願いがあるんだけど」

 

 

 まるで恋人にでも甘えるような声。

 

 

 ………そういえば、よく見てみるとその白い頬も上気し赤くなり、瞳も若干潤んでるような気がする。

 

 

 なんだこれ? なぜこんな状況に? これじゃまるで凛と俺が恋人同士にでもなったみたいじゃないか。

 

 

 大量の疑問符が頭の中を幼稚園児なみのわんぱくさで駆け巡って処理が追いつかない。

 

 

 そんな絶賛混乱中の俺を尻目に凛が染み一つない白魚のような手を俺の両肩にソッと乗せた。

 

 

 え? なにこれ? 何なのこの甘ったるい雰囲気。

 

 

 

 思いがけず鼓動が早くなる。

 

 

 金縛りにでも会ったかのように俺は身動き一つ取れず、じっと凛を見つめることしか出来ない。

 

 

「あのね────」

 小さな口が動き、肩に置かれた手がぎゅっと力をいれたのがわかった。

 

 

 その声を聞き俺の体は情けなく震え、汗がツー、と顎を伝う。

 

 

 

「──────解剖させなさい」

 

 

「なにそれこわい」

 

 

 あ、なるほど。この汗は冷や汗だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺がなぜ危うく我が幼なじみにショッカーにされそうな状況に落ちいったのか、それは少し話を遡っていかなければならないだろう。

 

 …………バーサーカー戦を無事に乗り切った俺達だったがその突然極度の緊張状態に放り込まれたせいだったのだろうか? 士郎がめまいを起こしてぶっ倒れたらしい。

 らしい、と推測系になったのは他でもないあのバイオレンス幼なじみのせいだった。

 

 あの野郎、俺が守り抜いたガリガリ君を食ってたらいきなり足払いをかけ、そのままマウントポジションをとって俺の顔面に拳の嵐を落としてきやがったのだ。

 

 しかもバーサーカー戦で出来た傷よりもボコボコにされた傷のほうが重いというなんともギャグみたいな感じになってしまった俺に無情にも気絶した士郎を士郎の家まで運ぶ事を命じたのだ。

 

 ………ひいひい言いながら重い士郎を担いでる間、凛に向けて何度地獄に落ちろと思ったかは計り知れない。とりあえず三桁はいったと思う。

 

 一時間程かけてようやく俺の家がハムスターの飼育籠みたいに思えてしまうようなバカでかい武家屋敷まで運び入れ、士郎の自室に寝かせたのだった。

 

 とりあえず士郎が起きるまでは自由行動と相成り、どこか適当な所で寝ようかと久しぶりの戦闘で疲れ果てた重い体を居間に横たえようとする俺に向かって凛は明日覚悟しなさい、と恐ろしい事を言ってきたが僕は聞こえませんでした! アレ? 作文!?

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 昨日の事についての話し合い(尋問ともいう)をするためにいつまでもグースカ寝ている馬鹿野郎を脚を使ったスタンピングで叩き起こし、ブツブツ文句を垂れる士郎を連れて一階の居間へ向かった。

 

 すでにセイバーと凛はスタンバっており、いつでもオーケーといった感じ。

 

 だが。

 

「………うっ」

 

 士郎が小さく呻き半歩、後ろへ下がる。

 

 それも無理からぬことである。なんたって居間に満ちている雰囲気がヤバい。

 

 そう例えるなら砂漠で腹を空かした猛獣に囲まれたような、今にも喰い殺すぞーみたいなそんな殺伐とした気配がある一人の少女によって展開されていた。

 

 …………しかし、士郎もまだまだだな。このくらいの殺気、数々の修羅場を経験した俺にとって蚊みたいに些細なモノだ。しかも俺は勇者。勇者は勇気を持つ者と書いて勇者と読むのだ。しかも駆け出しのペーペー新人ならまだしも俺は世界を救った英雄だよ? エリートなんだよ! この程度の恐怖、臆せずしてなにが勇者か!!

 

「────笠原。オマエの膝がスゴく笑っているんだが大丈夫か?」

 

 おい。いままでの描写が全てパーになっただろうが。どうしてくれる。

 

 ………………やっぱ怖いもんは怖い。だって目がアレだもの。今すぐにでも俺を殺っちゃう感じだもの!

 

「オイ! 本当に大丈夫か!? なんか体中からガタガタと変な音が聞こえるぞ!」

 

 いけない。あまりの恐怖に歯の根があわなくなってきているようだ。

 

「────輝一くん」

 

 発している殺気とは裏腹に優しい猫なで声。

 

 顔は……………ダメだ今見たら絶対泣く。

 

「な、なんでせう?」

 

「ちょっとそこに座りなさい」

 

 そう言われて恐る恐る座る。無論正座で。士郎も空気を読んでか正座してくれている。ありがとう、士郎。後でガリガリ君買ってやるよ。

 

「私がいいたい事はわかるわよね?」

 

 真正面から絶対零度の瞳で睨み付けられる。

 

「まあ落ち着けよ、遠坂。そんなにピリピリしてちゃ笠原だって話しずらいだろ?」

 

 そんな俺を見かねてか士郎がそっとフォローを入れてくれるが凛はそんなのお構いなしにバン、と机を叩き、

 

「そりゃあ、ピリピリもするわよ!! コイツが昨日何をやらかしたのか衛宮くん、ホントにわかってる!? サーヴァントと戦って生きて帰れるなんて人間技じゃないわよ!」

 

 今まで溜めに溜めたものを一気に吐き出したようにまくし立てた凛に思わず士郎は黙り込む。

 

「で、どうなのよ?」

 

 セイバーは我関せずといった調子で一枚の絵画のように正座をして静かに目を閉じている。

 

 完全に孤立無援。一生のお願いです。誰か、誰でもいいから俺をたすてけ。

 

「どうなのよって言われてもなぁ。コッチは全然昨日の事把握しきれてねーんだぞ。サーヴァントって何? あの馬鹿でかい巨人は? なんでオマエが魔術師なんだよ? どうして殺し合いなんかしてやがる?」

 

 援軍が期待できないなら自分でなんとかすべし。とりあえずこちとら命のやりとりをしてんだ。それ相応の知る権利があると思うんだが。

 

「…………はぁ。仕方ないわね。じゃあ、まずコッチから話しをしましょうか」

 

 ただし、後でちゃんと話しなさいよね、と釘を刺してから話しはじめた。

 

「私たちは聖杯戦争っていうゲームをしているの。あらゆる願いを叶える万能の器、聖杯を巡り七人の魔術師と七体のサーヴァントが殺し合うバトルロワイアルをね」

 

「はぁ?聖杯? アレってキリストの血を受けた杯だろ? 別に願いを叶えるとかそういう機能はないだろ。 だいたい聖杯ってのは本来、キリストの子孫を表す意味として使われてたはずだ」

 

「別に本物って訳じゃないわよ。あくまでも便宜上そう呼んでるだけ。本来は大規模な魔術儀式なの。それは大体五十年周期で巡って来る。まぁ、今回は十年って最短周期だったけど。そして今までされてきた聖杯戦争は計五回。つまり正式に呼ぶなら第五次聖杯戦争ね」

 

 ふーん。百年も前からこんな殺し合いをやってんのかご苦労なこって。

 

 というか、魔術師って人種はみんなこんなヤツばっかなのか?うちのドM魔術師の研究もおかしなモノが多かった気がするけど。

 

「…………なんでだろ? 思い出したらなんだか涙が出てきたよ。お母さん」

 

「ちょっと、なんでアンタ泣いてのよ?」

 

 スマン。いらん思い出を思い出したみたいだ。

 

 心の汗を拭いながら怪訝な顔をする凛にどうぞ続けて、と先を促す。

 

「次はサーヴァントの事についてね。サーヴァントってのは簡潔に言うと過去・現在・未来で名を馳せた英雄の事なの」

 

「はぁ? ちょっと待て。つまりあれか? 英雄ってスネークとかマスタング大佐とかヤムチャとかそういうの?」

 

「………なんでそこでアニメキャラクターの名前しか出てこないだよ。オマエは」

 

 士郎が呆れ顔でこちらを見てくる。

 うるさいやい。ヤムチャの凄さも解らんヤツにつべこべ言われたくねーよ。

 

「まぁ、色々言いたい事はあるけど、それで理解出来るなら構わないわ。つまり、それぞれ“自分の生きた時代”で名を馳せたか、あるいは人の身に余る偉業を成し遂げた人物がその死後人々に祭り上げられ一種の精霊に近い存在になるの。そうした英霊たちを聖杯が呼び寄せて召喚したモノをサーヴァントって呼ぶのよ」

 

 なるほど、英霊はそれ相応に強力な力を保有しているから魔術師といえど生身の人間では対等な勝負にすらならない。だから戦闘をするにしてもサーヴァント同士をぶつけ合う事に終止すると。

 なんかただのポケモンバトルにしか見えないのは俺だけだろうか?

 

「じゃあさ、セイバーとかバーサーカーとかって何? どう考えても本名じゃなさそうだけど」

 

 というか、そうであること祈る。チラッと凛の隣にいる少女を見やった。だってあんな美少女にセイバーだなんて、俺が本人だったら問答無用で改名してる。セイラとかそんな感じに。

 

「ああそれはね、真名を隠すためよ。英霊は確かに強力な存在だけど、それ故に弱点が記録に残ってる。名前を明かす────つまり正体を明かすって事は、その弱点も教えることにもなるの。でもそれだけが理由じゃない。聖杯によって召喚されたサーヴァントは七人いるけど、それぞれが“役割”に応じて選ばれてるの」

 

「クラス………? ああ、剣士(セイバー)とか弓兵(アーチャー)とか?」

 

「そう。元々英霊を丸ごと召喚するなんて事本来は奇跡でも起こらない限り不可能なのよ。しかも、それを七人分、なんて聖杯でも無理があるわ。だからその解決策として聖杯は予め七つの器を用意して、その器に適合する英霊だけを召喚するの。その七つの役割が」

 

 

 

 セイバー、

 

 ランサー、

 

 アーチャー、

 

 ライダー、

 

 キャスター、

 

 アサシン、

 

 バーサーカー、

 

 

「で、昨日戦った怪物はバーサーカーのクラスになるわ。理性をカットして戦闘能力を飛躍的に上げる。これは本来弱い英霊が喚ばれるはずなんだけどアレは例外みたいね」

 

  ということは、士郎がセイバーを引き当て、凛がアーチャーを召喚したのか。

  それなら白兵戦はまず負けはしないだろう。まぁ、これは曲がりなりにも“戦争”なんだから、安心は出来ないけどな。気を付けないと背後からグサリとやられる可能性があるし。というか、こちらが白兵戦主体である以上そっちの方が多いのかもしれない。

 

「他にはないのかよ? なんかこれには注意しろー、とかなんとか」

 

「ええ、あるわよ。飛びっきりキツいのが。宝具って言ってね。いわばサーヴァントのシンボルとなる武具の事よ。英雄は、それ単体では英雄とは呼ばれない。宝具と英雄でワンセットなの。そのどれもが強力な切り札になるものよ。それこそピンチをチャンスに変えるようなね」

 

 隣で士郎が何かを思い出したように語りだした。

 

 ……士郎曰わくランサーの宝具を見た事があるらしい。その時ランサーが言葉を発した瞬間、大気中の魔力を吸い上げ、有り得ない軌跡でセイバーの胸を貫いたそうだ。といってもそれだけじゃわかりにくい。ここは実際受けた本人に聞いてみるか。

 

 

「それじゃあ、セイバーはどうだった? 実際に受けてみた感想は?」

 

「そうですね。あの槍の効果は因果の逆転と見て間違いないでしょう。私があの呪槍を回避しえたのも幸運でした」

 

 

 

 因果の逆転。

 

 

 つまりは“槍が命中している”という事象を先に発生させ、後から“槍を相手に放つ”という原因を導くのだ。だからどんなことをしても既に心臓に命中している事実は揺るがないため防御しようが回避しようが関係ない。

 

 

「なんだよソレ。アホじゃねーの?」

 

 

 話は至極簡単。RPGのコマンド─────『たたかう』とか『まもる』などが載ってる欄に『倒す』なんてふざけたコマンドが有るのと一緒だ。敵が何してこようが確実に勝利をもぎ取れてしまう。そんな理不尽さ。

 

 ………もうヤダ。何だか馬鹿馬鹿しくて疲れてきた。

 

 ハァと仕事終わりのサラリーマンのようなため息を吐く俺をよそにセイバーが宝具の説明を続ける。

 

「しかし、逆にこちらが相手の真名を知るチャンスにもなりえます。宝具とは、ある意味カタチになった神秘ですから。魔術の発言に詠唱が必要なように、宝具の発動にも詠唱───真名による覚醒が必要になる。だからサーヴァントが宝具の真名を口にすれば、そのサーヴァントの正体も判ってしまう」

 

 ああ、そうか。英雄と武具はセット。持ってる武器が判ったら、必然的に持ち主の名前も判明するようになる。

 まぁ、宝具を受けて無事でいたならば、だけどな。

 

「まぁ、これが簡略だけど聖杯戦争の全容ね」

 

「ふーん。大体は掴めたな」

 

 そうやって凛が最後にそう締めくくり、聖杯戦争についてのレクチャーが終わった。

 

 さて、

 

「まぁ話はこれでおわっ「てないわよ?」痛い!痛い!頭が割れるぅぅぅぅぅぅ!」

 

 極めて自然に、流水のごとくこの会議をお開きにしようと立ち上がろうとしたら、凛にアイアンクローされてまた正座の姿勢へと強制的に振り出しに戻された。

 

「魔術師の基本は等価交換。解るわよね?」

 

「ハイ」

 

「こっちは誠意を持って聖杯戦争について説明した。だったらアンタも誠意を持って説明するべきよね?」

 

「イエス」

 

「じゃあ、話しなさい」

 

「イエス、マイロード」

 

 やっぱり逃げ切れませんでした。

 

「………で、何が聞きたいんだよ?」

 

「全部よ、全部。何でサーヴァントと対等に戦えるのか? あの魔力は何なのか? あの異常な神秘を内包した剣はどこで手に入れたのか? 隅から隅まで詳しく話しなさい」

 

「───フ、良かろうお前がそこまでのぞむのなら教えてやろうッ!! 私は!巨乳がだいす────指はそっちには曲がらないぃぃぃぃいいい!!」

 

 ひどい。コイツせっかく俺が教えてやろうとしたのに指をあらんかぎりの力でサバ折りにしやがった。

 

「別にアンタの性癖なんてどうでもいいの。次にふざけた事を言ったらネジキルワヨ?」ダメだ。このままいくと俺の永久就職先がゲイバー一本に絞られてしまう。

 

 「あー、……なんて言ったらいいのやら」

 

  ふいに、ギラギラとこちらを写す外国の血が入らしい凛の青い瞳に置き去りにしてしまった彼女を思い出す。

 

  結局のところ俺は未練タラタラらしい。力の抜けた苦笑が喉の奥から漏れる。

 

  誰にも話したくないと思ってしまっていた。この目もくらむような冒険譚を自分一人だけのものにしたくて。

 

  しかしそれと同時にもしかしたら異世界〈あそこ〉に戻れるかもしれないと頭の隅をよぎったのも事実だった。

 

「あのさ───」

 

 ボリボリと頭を掻く。自分の中にこびりついた何かをはがすように。

 

「───伝説の剣持って異世界で勇者してましたって言ったら笑う?」

 

 そう言ってごまかすように笑った。

 

 ※※※

 

 

 

 

 ……で、語り終わった後の反応があれである。

 

 ちくしょう。せっかく俺が珍しくシリアス路線を走ろうとしたのに邪魔しくさりやがって。

 

「いいじゃない。別にちょこっと切るだけだし、麻酔も打つから痛くないわよ?」

 

「なんだその軽い感じ。お前はいいかもしれないがこちとら一大事なんだよ」

 

 それに肩がスッゴく痛い。顔は清々しいくらい笑顔だけど肩に置かれた手はこれでもかというぐらい万力のごとく握りしめられている。

 

「な、なぁ遠坂。オマエ、表情と体の動きが一致してないぞ。それに解剖はダメだろ」

 

 士郎が突っ込むが凛の迫力に腰が若干引き気味だ。

 

「フフフフ………………。アイス買いに行ったら、世界を飛び越えちゃいました? 何、ソレ? わたしをバカにしてるわけ? こっちは一族を挙げて必死にたどり着こうとしてるのにアンタのお使い程度に負けちゃうの? フフフフ─────!!」

 

 なんか凛のプライドの基盤を壊しちゃったらしい。怪しい笑いを唇から量産しながら俺をガックンガックン前後に揺すり始めた。

 

 っていうか、誰か止めてぇぇぇええ!!

 

 俺吐きそう! 昨日のガリガリ君がリターンしてきそう!

 

「あば、あばばばばばばばばばばばば、あば」

 

「ちょ………、大丈夫か!? 輝一!! オマエ泡吹いてるぞ!? しっかりしろぉぉぉぉおお!!」

 

「いけませんリン! このままでは本当にキーチは死んでしまう!」

 

 

 

 

 リンを止めたとき、キーチの心肺は停止していました。

 

 

 大変真面目な顔でセイバーが俺にそう話してくれた。

 

 

 もちろん冗談だと思う。

 

 

 

 

「んんっ。みっともない所を見せちゃたわね」

 

 ごめんなさい、とどこぞのお嬢様みたいに取り繕う凛。

 

 しかしながらもう手遅れだ。

 

 凛の一族の家訓に『常に優雅であれ』とかあるらしいが、眼科行って目を洗浄してからもう一度考え直せと俺は小一時間くらい正座させて言いたい。

 

「それで、率直に訊くけど。衛宮くん、貴方これからどうするつもり?」

 

 俺を亡きものにしようとしたのは凛の中では無かった事になったらしい。極めて自然に話を始めてきやがった。

 

 一方、話を振られた士郎は自身の今後の自身の身の振り方を聞かれ、考え込むように少し黙った後、ポツリポツリと話だしす。

 

「……正直、判らない。聖杯を競い合うって言うけど、魔術師同士の戦いなんてした事がない。けど─────」

 

 そこで覚悟が決まったのか士郎はスッと真っ直ぐな目で凛を見据えて、

 

「────この戦争で巻き込まれる人たちがゼロってわけじゃないだろ? もしかしたら故意に巻き込まこむマスターがいるかもしれない。だったら俺はそれを止めたい」

 

 そう、言い切った。

 

「呆れた。自分からマスターは倒さない、けど他のマスターが悪事を働いたら倒すっていうんだ。衛宮くん、自分が矛盾してるって解ってる?」

 

「ああ、都合がいいのは分かってる。けど、こればっかりはどんなに論破されても変えないからな」

 

「ふーん。問題点が一つあるけど、言っていいかしら」

 

 凛はまるで童話にでてくる猫のような笑みを浮かべる。

 

 ………企んでる。あの顔は絶対ろくでもないことを考えてやがる。何度となく痛い目にあってきた俺にはわかる。

 

「い、いいけど、なんだよ」

 

 士郎も感じとったのか返答がしどろもどろだ。

 

「昨日のマスターを覚えてる? 衛宮くんとわたしを簡単に殺せ、とか言ってた子だけど」

 

「────」

 

 忘れるわけねぇ。完璧に目ぇ付けられたしな。

 

「あの子、必ずわしたちを殺しに来る。それは衛宮くんにも判ってると思うけど」

 

「──────」

 

「あの子のサーヴァント、バーサーカーは桁違いよ。マスターとして未熟な貴方にはアレは撃退できない。自分からは何もしないで身を守るって言うけど、貴方は身を守る事さえ出来ないわ」

 

 そりゃあそうだろ。あんなもん死亡フラグが服着て歩いてるようなもんだし。あ、服は着てないか。

 

「────悪かったな。けど、そういう遠坂だってアイツには勝てないんじゃないのか」

 

 

「正面からじゃ勝てないでしょうね。白兵戦ならアレは最強のサーヴァントよ。きっと歴代のサーヴァントの中でも、アレと並ぶヤツはいないと思う。わたしもバーサーカーに襲われたら逃げ延びる手段はないわ」

 

「………それは俺だって同じだ。今度襲われたら、きっと次はないと思う」

士郎がそこまでいってはっとした顔で凛のほうを見た。

 

「も、もしかして手を組むのか俺と遠坂が?」

 

 ────そういうことにはなるわな。一人で戦えないなら二人でっていうのは戦術の基本だし。

 

「勿論、同盟の代価は払うわ。マスターとしての知識も教えてあげるてる。ああ、あと暇があれば衛宮くんの魔術の腕を見てあげてもいいけど、どう?」

 

 随時と太っ腹だな。ドけちの凛にしては珍しい。

 

 うーんと士郎は少し悩んだ後。

 

「─────分かった。その話に乗るよ、遠坂。正直、そうしてもらえればすごく助かる。セイバーも、それでいいよな?」

 

「ええ、マスターが決めたことなので反論はありません。わたしとしてもリンの協力はマスターにとっては必要だと思います」

 

「決まりね。それじゃ握手しましょ。とりあえず、バーサーカーを倒すまでは味方同士ってことで」

 

 そう言った凛の手を握った瞬間。士郎の顔がぽー、と赤くなる。

 

「ははーん」

 

 うわ、なんつー意地の悪い顔だ。生まれてくるとこ間違ったんじゃねーの?凛。

 

「な、なんだよ。つまんないコト言ったら契約破棄するからな。するぞ。絶対するからな!」

 

 目を泳がせながらまくしたてるように士郎が言うが残念、もう手遅れである。

 

「貴方、女の子の手を握るの初めてだったんでしょ?なんだ、顔が広いように見えて士郎ってば奥手なんだ」

 

 ほら、来た。

 

「ち、違うっ! そんなじゃなくてただ」

 

 テンパる士郎。仕方ない、助けてやるか。これから仲間になることだしな。え? なんの? もちろん遠坂凛被害者の会です。

 

「そこまでにしとけ、凛。話が進まねぇじゃねーか」

 

「そうね。変に意地はられても困るし、この位にしときましょうか」

 

 ムフフ、と人を喰ったような笑みを浮かべるコイツは絶対悪代官とか似合いそう。

 

「じゃ、まずは手付け金。これあげるから、協力の証と思って」

 

 どこに隠し持っていたのか、凛はテーブルに一冊の本を持ちだす。

 

 タイトルはなく、表紙は凛のイメージカラーであるワインレッド。

 

「わたしの父さんの持ち物だけど、もう要らないからあげる。一人前のマスターには必要ないものだけど、貴方には必要だと思って」

 

 じゃあ、失礼して、などといいパラパラとページを捲る士郎。

 

着いたどうやら話はまとまったようだな。じゃあここが仕掛け時か。

 

話がひと段落しようやく落ち着いたところでおずおずと話し出す。

 

「あの、士郎サン?」

 

「ん? 何だよ」

 

 士郎がこちらを向く。

 

「お願いがあるのですが─────」

 

 

 刹那。

 

 

 俺の頭は畳の上にこすりつけられていた。

 

「─────この俺を養ってくださいっっ!!」

 

 同級生に恥もプライドも全て捨て去り、情けなく土下座をする高校生がそこにはいた。

 

 というか、俺だった。

 

「えぇぇぇぇえええ!?」

 

 困惑する士郎。まぁ、それもそうだろう。俺の土下座は弓道部の主将、美綴───通称姐さんに『全てを投げ捨てたような気迫がある』と言わせ、土下座キングの称号を手に入れたのだ。無理もない。

 

「───と、とりあえず頭上げろよ。というか、どうして突然そんな事言い出すんだ?」

 

 そう士郎に言われて頭を上げ、昨日の置き手紙事件の全容を洗いざらい話した。

 

「─────なんというか、相変わらずね。アンタのとこのおばさまとおじさまは」

 

 凛は毎回ウチの両親に振り回されてるのでまたいつものか、と呆れた調子だが、

 

「──────」

 

 士郎とセイバーにはいささかハードだったみたいだ。茫然自失している。

 

「───ま、まぁ、そういう理由なら仕方ないよな。うん、仕方ない。そうだよなセイバー」

 

「─────え、ええ。大丈夫です、キーチ。ご飯はちゃんと食べられます」

 

 なんとも引きつった笑みでオーケーしてくれた。

 

 衛宮家の優しさに全俺が涙した。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 あの狂乱の会議の後、藤村先生から電話で昼飯持ってこいとラヴコールがかかり、士郎は無理やりついてくるセイバーと揉めながら学校へと弁当を届けに行った。

 

 つまり今、士郎の家にいるのは留守番を任された俺と凛だけなのだが。

 

 どうしてだろう? 夢にまで見た美少女とふたりきりなのに全くドキドキしないのだ?

 

 あれ~?と首を傾げているみる。

 

「ねぇ、輝一」

 

 しばらく考えていたその疑問だが、凛がこちらに話しかけてきたのを機にテレビから視線を外して声のする方へ向いたら簡単に解決した。

 

 ああ、そうか。

 

「胸がないからか」

 

「殺すわよ」

 

 毎度毎度感じるのだが、俺の土下座スピードは光を超えてると思う。

 

「で、何か訊きたい事でもあるのか?」

 

「まぁね。アンタ世界を救ったって言ってたじゃない? その時どんな気持ちだったんだろうなと思ってね」

 どんな気持ち、か………。

 

 ごろん、と横になって改めて考えてみてみると。

 

「そーだな。楽しかった」

 

 やっぱりこの一言に尽きると思う。

 

「楽しかった?」

 

 凛が予想外の答えに驚いていた。まぁ、わからんでもないが。

 

「そりゃあ、辛いこともあったけどさ、それこそ何度も死ぬような危険な目にもあってきた。でもさ────」

 

 そこで俺は顔にハテナマークを浮かべる凛に向かってニヤリと笑い、

 

「─────異世界で冒険だなんて、めったに出来ないだろ? なら、楽しまなきゃ損だ」

 

 そう、言ってやった。

 

「はぁ、アンタのこと馬鹿だとは思ってたけれどここまでとは思わなかったわ」

 

 呆れたと、呟く凛をよそに俺は中庭にでて外を見上げ、うーんと伸びをして身体をほぐす。

 

「本日も快晴っと」

 

 さて、今日も一日気張りますか




皆様おひさしぶりです。

キラクマーです。

就活もようやく終わったので長らく放置していたこちらに久しぶりの投稿。

いままで碌に時間が取れずに書かれた感想も返信せずに申し訳ないですorz

とりあえず過去に投稿したものは順次修正したものを投稿するつもりです。

最新話のほうはいまだ未定です。時間には余裕ができたので少しづつ書いてはいますが。

とりあえず暇つぶしにでもなれば幸いです。

では。

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