Fate/Day to break   作:キラクマー

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この小説の主人公はハーレム系主人公ではありません。
というかさせません(迫真)



俺の休日その2

 日も落ちすっかり夜になっての夕食時。

 

「ただいまー! うー、寒い寒い、雪降ってきたよー」

 

 ちゃーす、とばかりに藤村先生が帰ってきた。

 どうやら士郎から聞いた話によると、昔ながらの馴染みのようで毎回毎回、朝と夜、士郎の家で食事をするそうだ。

 

 まぁ士郎の弁当を食した身としては解らんでもない。なにしろ手が込んでるし、何よりうまい。そりゃもう、どこぞのシェフか、つーくらいに。実際実例として士郎が弁当を持ってきた時にはクラス一丸となって強奪してくるもんだから、生徒会で食べることを余儀なくされた程にだ。

 

 

「おかえりー。雪降ってたんだ。外」

 

 

「おかえりなさい。藤村先生」

 

 

「おかえりなさい。タイガ、お勤めご苦労様です」

 

 

「桜ちゃんもセイバーちゃんもただいまー! 本当に今日は寒いわ。小降りだけどけっこう積もりそいよ。わ、今日は鍋ものだ。さっすが士郎。冴えてるじゃない。んー、気分もいいしお酒とかのんじゃおっかなー」

 

 

 などと言いつつ藤村先生は居間に入ってくる。

 

 

「お邪魔してます。藤村先生」

 

 

「うーいす。こんちはー、藤村センセー」

 

「あ、遠坂さんに笠原くんだー。どうしたの、士郎んちで会うなんて珍しいね」

 

 

 …………? え、それだけ?

 

 

 そんな俺の困惑をよそにふんふんと鼻歌を歌いながら居間を素通りして台所へ。

 

「へえ、いいたらじゃない。雪身のたらは極上だっていうし、ますますお酒が似合いそう」

 

 

 がちゃり、と冷蔵庫を開ける藤村先生。

 

 で。

 

 

 中から取り置きしたバームクーヘンを取り出して、モムモムとつまんだあと。

 

 

「って、なんで遠坂さんと笠原くんが士郎んとこいるのかーーーーーー!!!!」

 

 

 大爆発。

 

 

「ちょっと二人とも! お邪魔してますじゃないでしょ。こんな時間に何やってるのよあなた達。」

 

 バームクーヘンをごくんと飲み込んで、藤村先生はドスドスと居間へ進軍していく。

 

「なにって、衛宮くんの家で夕飯をご馳走されてるのですが。そういう藤村先生こそ、チャイムも押さず上がり込んでくるなんて非常識ではないんですか?」

 

 ちょっと腰が引けてしまうような勢いもなんのその。凜は澄ました顔でさらっと迎撃する。

 

 

「うっ………わ、わたしはこの家の監督役なんですっ! しろ────衛宮くんのお父さんから任されているんですから、ここでは家族も同然なのっ!」

 

「そうなんですか。じゃあ改めて挨拶しますね。お邪魔しています、藤村先生。今日から隣にいる笠原くんと一緒に下宿させていただきますので、今後ともよろしくお願いします」

 

「げ、下宿ぅー!? ちょっと士郎!! コレはどういうことっ!? セイバーちゃんは仕方ないにせよ、同い年の女の子を下宿させるなんてどこのラブコメだい、ええいわたしゃそんな質の悪い冗談なんかじゃ笑ってやらないんだから!」

 

 下宿、という凜の言葉に更に暴走を加速させる藤村先生。

 

 まぁ、そりゃあそうだよな、青春真っ盛りの男女が同じ屋根の下で過ごすっていのはいくら何でも許せる事態じゃないだろう。

 

「どうもこうも、俺がこの手の冗談苦手だって知ってるだろ。とにかくこの二人とあと、桜もうちに泊めるだ。文句は聞くけど変更はしないから言うだけ無駄だそ」

 

 

「えぇぇ!? 桜ちゃんも!? そんなの大却下! な、なんのつもりか知らないけどダメに決まってるでしょう! お、同い年の女の子と一緒に暮らすなんて、そんなのお姉ちゃんは許しません!」

 

 があー、あだ名に恥じないくらいに吠える藤村先生。

 

 でも、いくら言われようとも無理やりにでもこの案を通さないといけないのだ。その役目を背負った士郎の額に冷や汗が流れているのが分かる。頑張れ少年、応援はするけど助けることは無理だ。怖いから。

 

「いや、そこをなんとか。別にやましい気持ちなんてないし、遠坂とはそういう関係になってもないんだ。ただ、たまたま事故に遭ったっていうか、成り行きで部屋を貸すってコトになっただけなんだってば」

 

「うるさーい! ダメなものはダメなのーーーーーー! わたしは下宿なんて許しません! 遠坂さんの事情は知らないけど、ちゃっちゃと帰ってもらいなさい!」

 

 うん、全く聞く耳もってないな。

 

 なんか、士郎の顔にも諦めムードが漂ってるぞ。

 

「先生。下宿は許しません、とおっしゃいますけど、わたしたちはもうすでに一泊してしまったのですが」

 

 

 と。

 

 

 藤村先生の顔に冷水をぶっかけるような台詞を、さらりと凜は口にした。

 

「────え?」

 

 

「ですから、昨日泊めさせていただいたんです。今は別棟の客間をお借りして、荷物も運んであります。どうでしょう先生。客観的に見て、わたしたちはもう、下宿してる状況なんですが」

 

「────」

 

 さあー、と顔が青くなっていく藤村先生。

 

「し、し、士郎、アンタなんてコトするのよぅ……! こんなコト切嗣さんが知ったらどうなるかわかってんの!?」

 

 

「どうなるかって、親父だったら間違いなく喜ぶぞ。男の甲斐性、とかなんとか言って」

 

「う………同感。切嗣さん、女の子にはとことん甘い人だったからなぁ………そっか、それが遺伝してるんでしょ士郎のばかー!」

 

 がくがく、と士郎の襟を掴んで体を揺さぶる藤村先生。

 

 なるほど、端からみると今朝の俺もあんなんだったのか。

 

 ほーう、と感心してる所で士郎は前後に揺さぶられながらも救援要請をしてきた。

 

「なに? 助ける船、出してほしいの?」

 

 ……なんかこういう場面に遭遇すると、コイツも女の子扱いしなくちゃいけないなんて男って損な生き物だなってつくづく思う。

 

「………頼む。俺じゃあ、現状を打破出来ない。遠坂の政治手腕に期待する」

 

「オッケー。それじゃサクっと解決しますか」

 

「藤村先生。衛宮くんを振っても出るのは悲鳴だけですから、そのあたりで止めてあげてください。」

 

「む………なによ遠坂さん、そんな真面目な顔したって怖くないんだから。教師として、なにより士郎の教育係として、遠坂さんの下宿は認めませんっ」

 

 藤村先生は士郎から手を離して凜と対峙する。

 

 野生の勘というヤツだろう。士郎にかまっていては凜に寝首をかかれる、と察したに違いない。

 

「それは何故でしょうか。うちの学校には下宿している生徒も少なくありません。生徒の自主性を伸ばすのが我が校の方針ではありませんでしたか?」

 

「なによ、難しいコト言ったってダメなんだからっ。だいたいですね。こんなところに下宿したって自主性なんて芽生えません。ご飯は勝手に出てくる。いつもキレイ、お風呂は勝手に沸いてるっていう夢のようなお家なんだから、ここ。こんなところに居候してたら堕落しきっちゃうわよ。遠坂さん」

 

「………だ、そうだが士郎」

 

「………藤ねぇ」

 

 教師としていかがなものかという藤村先生の発言に士郎がため息を吐く。

 

「それにね、原則として下宿していい生徒は家が遠い生徒だけよ? 遠坂さんのおうち、たしかにここより遠いけで登校できない場所じゃないでしょ。桜ちゃんもあっちから通ってるんだから、下宿する必要なんてありません」

 

「それが、今うちは全面的な改装を行ってるんです。古い建物ですから、そこかしこにガタがきてしまって。改装が終わるまでホテルで暮らそう、と考えたのですが、偶然通りかかった衛宮くんに相談したところ、それはお金が勿体ないからうちを使えばいい、と言ってくれたんです」

 

 スラスラと凜の口から出る嘘八百。本当に詐欺師だな。

 

「むっ………それは、確かに士郎っぽい発言ね」

 

「はい。あまり面識のない衛宮くんからの提案には驚いたのですが、確かにホテル暮らしなんて勿体ないし、なにより学生らしくありません。それなら学友である衛宮くんのおうちにご厄介になったほうが勉強になる、と思ったのです」

 

「む………むむむ、む」

 

 凜の申し訳なさそうな顔加え完璧な答案に対して藤村先生は教師として反論が出来ないようだった。

 

「は、話は判りました。けど、それでも問題はあるでしょう? 複数の男の子と女の子が一つ屋根の下で暮らす、といのはどうかと思うわ」

 

「どうか、とはどんな事でしょうか、先生」

 

「え………えっと、だからね、ほら士郎や笠原くんだって男の子だし、間違いがあったらイヤだなって」

 

「何も間違いはありません。わたしの部屋は別棟の隅、衛宮くんの部屋とその隣の笠原くんの部屋は蔵の近くにある和室です。距離にしてみれば二十メートル以上も離れているじゃないですか。ここまで離れていれば何の問題はないと思いますが」

 

「う………うん、別棟には鍵もかかるし、違う家みたいなものだけど………」

 

「でしょう。それとも藤村先生は衛宮くんを信用していないとでも? 先程、先生は衛宮くんの教育係だと仰いました。なら衛宮くんがどのような性格かは、わたしより藤村先生の方がご存じだと思います。それにそこにいる笠原くんとは十年来の幼なじみですし、その性格はよく知っています。それに彼らがそのような間違いを犯すと言うのでしたら、わたしも下宿先には選びませんが?」

 

 間違いもなにも何かやらかしたら消し炭にするだろ、オマエ。

 

「失礼ね、士郎はちゃんとしてるもん! ぜったいに女の子を泣かせるような子じゃないだから!」

 

「なら安心でしょう。わたしも衛宮くんを信用してますから。ここなら、安心して下宿できると思ったのです」

 

「むーーーーー」

 

 どこか戸惑っように視線をさまよわせた藤村先生とふ、と視線があった。

 

 あ、マズい。

 

「なら笠原くんはどうしてここに下宿するの? 別に家に帰ってもご両親がいるものね?」

 

 凜との勝負では旗色が悪いと悟ったのか今度はその矛先をこちらに向けてきた。

 

 ……なんて言うと思ったか。

 

 確かに俺は凜よりも頭は悪い、それは認めよう。今更そんな所で鶏冠なんてたてない、大人ですから。ある時、英語の時間に担当先生に「お前だけ高校じゃなくて寺子屋に通ってんだな」と半笑いされた時だって「俺もそんな感じしてたんですよねー。なんか俺だけ上靴じゃなくて、下駄だったんで。HAHAHA!」というウィットに富んだ返しを出来るくらいクールなのだ。

 

 しかしながら今回は相手が悪かったですね藤村先生、いやタイガーッッ!!

 

 普段から口から生まれた男として数々の難局を言葉巧みに、口八丁に出任せを口から量産し、全てを煙に巻いて巻きまくって鳴らした俺に挑むなんて百年早いわ!!

 

 それに加えて、今の俺はダンボール生活が後ろで体育会系の顧問よろしく両手を広げながら仁王立ちして待ち受けているのだ。

 

 正に背水の陣と言えるこの状況下では俺のスペックは普段の三倍に増加、赤い彗星もビックリの口の速さの領域に達するッッ!!

 

 

 さぁ、覚悟はいいな、冬木の虎よ。

 

 

 俺の口撃に惑いやがれ──────!!

 

 

「ふふん、俺を攻略しようなんてまりゃいまりゃすぎぎだべっっ!!」

 

 

 

 ──────────。

 

 

 

 

 どうやら俺は英語の他に国語もダメだったようだ。もう意志疎通能力が原始人レベルである。

 

 

 つーか、やべー。なんか変な空気になっちまったよ。沈黙が痛いすぎる。

 

 まともに前が見れねぇぇぇぇぇ!!

 大丈夫だよね? みんな笑って無いよね? まだ挽回できるよね!?

 つーかもう笑えよぉぉおおおおおお!!

 

 

「…………あの、もう一回だけ、やり直させて貰ってもいいですか?」

 

「……ど、どうぞ………」

 

 今年、初っ端からの最大級に恥ずかしい発言だった。

 

「───で、笠原君はたいした家事スキルもないのに千円握らされてご両親に置いてけぼりにされた、というわけね?」

 

「概ねその通りです。ハイ」

 

 改まって言葉にされるととんでもない話だ。息子差し置いて楽しい旅行にいくなんて。しかも隠れて準備していた所を見ると俺を置いていくの前提だし。

 

「でもね。別に泊まる必要はないんじゃないかな? わたしみたいにご飯だけ食べにくればいいじゃない」

 

 ずいぶんアッサリと生徒に飯たかる宣言するがそれでいいのか教育者。

 周りを見てみろ。全員が全員なんとも言えない顔してんぞ。

 

「そうしたいのは山々なんスけどね。……止まってました」

 

「へ? 止まってた、て何?」

 

「ガスとか水道とか諸々のライフラインが全部」

 

 荷物取りに帰った時にせめてシャワーだけでも浴びようとしたらまさかの水。二月、真冬の冷水が保有する殺傷能力のハンパなさに死を覚悟するも、途中でその水も止まり、後に続くように浴室の電気も消え、最終的に真っ暗なタイル張りの部屋で唇を紫に変色させて震える俺、という構図の出来上り。

 一体なんの罰ゲームだ。ふざけんな。

 

「だいたい何だ。停電したから冷蔵庫の中身だけでもなんとかしようと開けてみたら、キンキンに冷えたキュウリ一本ってお前………バッッッカじゃねぇぇぇの!?となりのトトロじゃねぇんだよッッ!! 電報貰ったってテメェらの見舞いになんて行かねぇーよ!! むしろねこバスの臑にローキックかまし続けるわッッ!!」

 

「どうどう……。と、とりあえず落ちつきなさい笠原君」

 

 正座から右足を立ててヒートアップしている俺をどうにかなだめようとする藤村先生だがここまで人におちょくられたままでどうして黙らいでか。あの母親には一度本当に拳で語り合わないと気が済まないのだ。そうでもしないとこの怒りのやり場がなくなってしまう。

 

「そ、そうですよ、笠原先輩。お、落ちついてくださいっ! 」

 

「ああ、そうだね。桜ちゃんの言う通りだ。男はクールにいかないとね」

 

 居住まいを正して爽やかな笑顔。

 

 何事も平和が一番なのだ。桜ちゃんがいるだけで俺はガンジーになれる。右頬打たれてもヘラヘラ笑って左頬も差し出してみせよう! ……ゴメン嘘ついた。間違いなく俺はソレやられたら聖剣の刀身の平たい所で相手の顔面をぶん殴ってる。

 

「あれ、わたしと桜ちゃんとで態度が全然違わない?」

 

 なーんて藤村先生の憮然とした声が聞こえてくるがそんなのどうでもいい。未だに俺の態度がぐるりと変わったことに目を白黒させている桜ちゃんの手を握りしめて、微笑む。

 

「桜ちゃんのお陰で俺は生まれ変われた。柔らかなその声を聞いてるだけで俺の心は癒やされてしまうんだ。だから俺と結婚してほしい」

 

「イヤです」

 

 超速かった。

 

 即答だった。

 

 あまりにも速すぎて『結婚してほしい』の『ほ』と『し』の間にはもう言い終わってた。

 

 どんだけ嫌われてんだよ、俺。

 

 

 

 

「……なぁ、セイバー」

 

「何でしょう。キーチ」

 

「俺、どこか悪かった?」

 

「一から十まで、足の先から頭のてっぺんまで全部ダメです」

 

 なに言ってんだコイツ、みたいなしれっとした顔で緑茶を啜るセイバーによって魔王を前にしても決して折れなかった俺の不屈の魂は根っこから引っこ抜かれて丸ごと焼却炉に放り込まれてしまった。

 

 ………おかしい、何でか知らんが目が霞んで来やがった。アレ? 今日、雨なんか降ってたっけ?

 

 ぼやけてよく見えない視界の中で藤村先生の方を向いてやっちゃいました、テへッ、みたいな感じの照れ笑いながらを頭を掻く。

 

 

「先生の言う通りですよね。やっぱり年頃男女が共同生活ってのはマズいですよね………。今日は帰ります。お邪魔しました。───────生きててスイマセン」

 

「ちょ、ちょちょちょっと!! ままま、待ちなさいッ! 笠原君!! わかった、わかったから。していいから、下宿!! つーか、しなさいっ!! 今すぐに!! そんな顔で出て行くと心配だからっ!! 先生!」

 

 慌てふためきながら玄関へ向かう俺の腰をガッチリとホールドして離さない藤村先生。なにしてんだ? この人。俺がせっかく先生の忠告を聞いて家に戻ろうとしてるのに。

 

「離せよぉぉおおおっっ!! 別に気にしてねーしっ!! 俺、超ポジティブだから! アッチ(異世界)の方でも国際指名手配にされたことあったけど挫けなかったからね、俺。ルフィとお揃いだーとか言って喜んでたからっ!! たかだか一人の女子にフラれたくらいどーってことねーし!! 本当だからねっ!! だから今からちょっと車に惹かれて天に召されるけど、全然大丈夫!」

 

「どこが大丈夫!? 完璧に死にいってるじゃない!」

 

「お、おい。止めなくていいのかよ。遠坂」

 

「そ、そうですよ。いきなりああ言われたからあんな言い方になっちゃったけど、わたしにも責任があるような気がしますし…………」

 

「べつに桜が責任感じる必要はないわよ。いつものようにバカ(輝一)が馬鹿やってるだけだから。放っておけば元に戻るわよ。でももう夜だし、いくらここ(屋敷)が広いからってあんな大声だして近所迷惑もいい所よね。………セイバー、あのバカ黙らせてくれる?」

 

「はい。わかりました、リン」

 

 は、な、せ!! イ、ヤ、だ!! と壮絶な戦いを繰り広げてる俺と藤村先生の決着はセイバーが俺の後頭部を鮮やかな手際でぶん殴って強制終了となったのを薄れゆく意識の中で悟ったのであった。

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