そこは学園の一室である競技場。きらびやかなステージの上で、絵になるほどの美少年と美少女が顔を突き合せている。
豪華な衣装を纏い、しかし腕には不釣り合いなノーマルのデュエルディスク(GX系)が下がっている。そして向かい合って立つ真ん中にはモンスターが。
少年の前には凛々しく、大きい勇者のようなモンスター。紅の装甲で覆われた身体に、大きな剣を持っている。
それこそ、絵物語にある勇者のワンシーンのように。
「俺は『ヒロイック・チャンス』を『H-Cエクスカリバー』を対象に発動、攻撃力を倍にする! そして『ファーニマル・ドッグ』を攻撃! 我が聖剣の一撃で悔い改めるがいい、悪役令嬢! 【クリムゾン・エクスカリバー】!」
悪役令嬢と呼ばれた少女の前には犬のぬいぐるみが居る。愛らしい瞳に、大粒の涙を浮かべている。
「そんな! 私は、あなたのために――」
少女の眼には涙。哀れさを誘う光景だが……
「貴様はいつも嘘ばかりだ! 消え去るがいい!」
エクスカリバーが振り下ろされる。
◆『H-Cエクスカリバー』 ATK:8000
VS
◆『ファーニマル・ドッグ』 ATK:1700
かわいらしいぬいぐるみが無慈悲に一刀両断される。その強大な一撃はドッグを倒したにとどまらず、悪役令嬢すらも切り伏せる。
「――ああああああ!」
〇悪役令嬢 ライフ:8000ー6300=1700
そして、倒れた悪役令嬢は立ち上がれない。華美な衣装は、今や切り裂かれてズタズタだ。ちらりとブラすら見えるのだから、その惨状は推して知るべし。
モンスターは実体化している。この世界ではデュエルは神聖なる決闘の儀。強力な一撃を受けた者が命を落とすことなど珍しくない。
……そして、決闘の作法として立ち上がれなくなればそこで敗北だ。カードを引けない者に決闘を続ける資格はないのだから。
(……なんだ、ここは。私は、誰だ? ……私?)
悪役令嬢のストーリーとしての立ち位置は中ボスだった。迫り来る脅威の前に、悪意に満ちたただの人間を討ち果たす。
そう、主人公たちは邪神の下僕どもと戦う必要がある。これは、そのための覚悟を決める儀式だった。ゲーム的に言えばチュートリアルか。
(カード? 私は? 俺は? 記憶、が)
エクスカリバーの一撃は確かに悪役令嬢の心を打ち砕いた。本来ならそれで負けるはずだった。もしくは、先のターンでワンキルされることが史実だったのかもしれない。
少女はドッグを出してターンを終了し、少年はハルベルトを特殊召喚しサウザンドブレードを召喚、エクスカリバーを呼び出し魔法カードを使った。凡庸な回し方だ。
あるいは、設定よりも少年が弱くなっているのかもしれない。
ターンは少女に回る。
(私は――ファニマ・ヴェルテ。記憶はある。けれど、この魂はどこか別のところから流れて来たもの。……そちらの魂は男? 何も思い出せない。でも、関係ない)
少女の身体には激痛が走っている。ライフの8割を削る一撃だ、まさに魂を粉砕する一撃と呼べる。ただの悪役令嬢では耐えられない一撃だ。
「立つことすらもできないか? それが正義の裁きだ! 他の者を扇動し、ふわりを傷付けた断罪と知るがいい! カードを一枚伏せてターンエンド!」
少年の声が朗々と響く。
(そんなもの、私はやっていない)
そう、ファニマの記憶はきちんとある。このファニマ・ヴェルテは頭がお花畑のヒロインに嫌気が差して、少し注意しただけだった。それで泣き出してしまった。それが切っ掛けになった。
同じように目障りに思って、しかも王子たちに好かれているふわりに嫉妬した女生徒たちが言質を取ったとばかりに虐め始めた。全ては状況証拠しかなく、それも実行犯の言葉だけだ。
(けれど、この決闘で負ければそれが真実となる。……ああ、痛い)
決闘は神聖で侵されざるもの。ゆえに、決闘で決められた真実は誰も逆らうことができない。
遥か古代に3幻神と3幻魔が決闘を行い、3幻神が勝ったことでこの世は光あふれる大地になったと伝えられる創世神話。この世はデュエルでできている、とは過言ではないのだから。
「――正義、ね。ええ、正しき怒りを胸に振り下ろした拳は正義でしょうね。……ならば、その先に待つものが何が分かるかしら?」
悪役令嬢が立ち上がる。何か底知れぬものと共に。
「正義が成された後には民には笑顔が浮かんでいる。当然の理だ」
「いいえ。正義のために誰かを踏みにじる、そんな正義の後に残るのは憎しみの芽! 正当ならざる怒り! 私のターン、ドロー」
カードをドローする。だが、見もしない。
「ずっと、あなたに合わせて来たわ。あなたのデュエルタクティクスはまったくもってなっちゃいない。でも、私が勝ってしまうとあなたは怒るから――手加減していたのよ」
「なんだと? 負け惜しみか! 潔く負けを認めるがいい。俺のフィールドには攻撃力4000のエクスカリバーがいる! お前にこの攻撃力を超えることはできない!」
「たかが攻撃力4000のモンスターで何を勝った気になっているのかしら。あなたは私が手加減している時にしか勝機がなかったのよ。証拠に、新しく引いたカードなんて必要ない」
カードを懐にしまってしまう。
「馬鹿め! いくら言い募ろうと、最期には正義が勝つのだ!」
「そうね、だって勝った方が正義だもの。私は手札から魔法カード『
手札の『エッジインプ・チェーン』、そして『ファーニマル・キャット』が融合される。
「忌まわしき鎖の悪魔よ! 愛らしき己が肢体を抱きしめ、縛り、引きちぎれ! 融合召喚! 現れなさい、遥か黒き海の奥底から『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」
現れるは
「馬鹿め! 攻撃力2200では、俺のエクスカリバーには届かない!」
「チェーンの効果でデッキから『デストーイ・フュージョン』を、キャットの効果で墓地から『融合』を手札に加える。そして、クラーケンの効果発動――このターンの攻撃を代償に、エクスカリバーを墓地へ送る。母なる海に抱きしめられ、沈むがいい【プレッシャー・オブ・オーシャン】!」
エクスカリバーの下方に海が出現、そこから鎌のついた鎖がそいつに巻きつき――海へ、墓地へと引き連りこんだ。
「――なにィ!? 貴様、効果で破壊するだと! ……卑怯者め! だが、貴様のような不埒な輩のために対策のカードは入れてある! ライフを1500払って『我が身を盾に』を発動! 破壊は無効だ! ふはははは! 残念だったな?」
「いえいえ。……残念なのは、あなたの頭でしょう?」
エクスカリバーは墓地へ送られたままだ。そもそもデュエルディスクが反応していない。
「なに!? 貴様、まさか――デュエルディスクに細工を?」
「まさか。私は、墓地に送ると言いましたよ? 効果破壊でないのなら、使えなくて当然でしょう。ミラーフォースのような逆転のカードでないと教えてくれてありがとうございます」
にっこりほほ笑んで、そう言ってやった。
「き、貴様……俺を馬鹿にしているのか!」
「はい。では、このターンであなたに引導を渡して差し上げましょう。クラーケンは破壊効果を使ったターン、攻撃ができない」
「っは! 俺のライフは8000もある! 届くものか! このターンで終わるわけなどあるか!」
「ふふ。見せてあげます。……そして、私の傷のお礼を差し上げますわ! 手札から再び『融合』を発動! 『クラーケン』と手札の『ファーニマル・ウィング』を融合」
「大海にて蠢く悪魔よ、天へと羽ばたく羽根を手折り、ちぎり、喰い尽くせ! 融合召喚! 現れなさい、その刃で全てを切り裂くがいい! 『デストーイ・サーベル・タイガー』!」
「『タイガー』の効果発動、『クラーケン』を墓地より呼び戻す!」
「だが、そのモンスターは攻撃できないはず!」
「何を言ってますの? 冥界にて輪廻を回った以上、この場の『クラーケン』は別の存在なのです。誓約など置いてきましたわ」
「……だが、俺の墓地にはサウザンドブレードが居る!」
「チェーンの効果で手札に加えた『
「今一度抱きしめておあげなさい、鎖の悪魔。愛しき友を糧に、暴食の悪魔を呼び出せ! 現れなさい、その荘厳をもって君臨せよ! 『デストーイ・クルーエル・ホエール』!」
現れたるはクジラ。その巨体はエクスカリバーなどよりも遥かに大きく、腹から覗く悪魔の瞳が周囲を睥睨する。
「『タイガー』の効果! デストーイモンスターの攻撃力が400アップする。さあ、クラーケンでダイレクトアタック! 【ハーケンダンス】第一打!」
〇少年 ライフ:8000ー2600=5400
「だが、ダメージを受けたことでサウザンドブレードが復活する!」
「【ハーケンダンス】、第二打ァ!」
◆『デストーイ・ハーケン・クラーケン』 ATK:2600
VS
◆『H・C サウザンドブレード』 ATK:1300
〇少年 ライフ:5400ー1300=4100
怒涛の二連続攻撃に少年の服が傷ついていく。痛々しい傷が刻まれるのを見て少女は唇を歪める。
「ふふ。これでモンスターは居なくなった。『タイガー』でダイレクトアタック! 【タイガークラッシュ】!」
「……ぐ。うわああああああ!」
〇少年 ライフ:4100ー2800=1300
タイガーの爪による一撃が少年を引き裂く。……倒れ伏す。
「これで終わりよ! ホエールの効果発動! EXデッキからもう一枚のホエールを墓地に送り、攻撃力をその半分だけ上昇させる! 喰らいなさい、【マックス・ホエール】!」
くじらが口を開く。強大な衝撃波が彼を打ち据える。……もはやピクリとも動かない。ちらりと見て。
「……生きてるみたいね。立ち上がることもできないのなら、そのままそこに居るがいい」
胸がかすかに上下していた。
遠巻きにされる中、悪役令嬢は自身の部屋に戻った。執事に電話で一言入れればすぐに専属のドライバーが迎えに来る。
その部屋は見るからに少女趣味で、目も覚めるほど豪奢だった。そのほとんどは贈り物で、ファニマが選んだものは数少ない。
「――さて、どうしますか」
宙を見つつ、考える。これからの身の振り方を考えなくては。襲撃される――というのはない。先の決闘で決着を付けた以上、その決定に不服を言うのは神への反逆だ。
「定番なのは、夜逃げですね。父を頼る……記憶には横柄な態度しか残っていませんが、彼は娘のことを愛してはいるようですね」
ちらりとベッドの下を見る。そこには父からのプレゼントがあった。捨てられないけれど、目に入れたくもないと言う屈折した親子関係だ。
ほとんど顔も合わせたことがないし、プレゼントも趣味に合わない。けれど、誕生日は欠かさずにプレゼントをくれた。
「おそらく、頼れば聞き入れられることでしょう。それに、婚約者殿がアホなのはともかく、この私も最近は異常に過ぎました。それを恋の病と言えばそうなのかもしれませんが、為政者として病にかかるのは失格でしょう」
前世のことは何も思い出せないが、今更父とどうのという年頃ではない。大人の付き合い方も、納得できないものに心の折り合いを付けるのも訳はない。
「そうですね、父と相談するのが良いかもしれません。あまり迷惑になってもいけませんしね。では、次に考えることは”今の私”と”前の私”の差ですか」
まあ、性格で言うならば相当に変わっているだろう。この娘は目立ちたがり屋で、人の話を聞かないところがある。……おそらく、あの婚約者との相性は最悪だろう。
とはいえ、婚約なんてのは家の間での契約だ。性格が合う必要はない、そういう意味ではよくやっていたはずだった。婚約者殿が他の女と添い遂げようと滅茶苦茶をやる前までは。
「まあ、婚約者殿との確執でこうなったと言えば、納得はされることでしょう。何か、変な記憶があるわけでもありませんし」
プレイングセンス、という意味では前世のものだ。前世の家族を何一つ知らないのに、遊戯王ができるというのもおかしな話だが。
なぜなら運動などは身体で覚えるかもしれないが……遊戯王なんて、回し方を頭で覚えるものだろう。
「そこを考えていてもしょうがないですね。ああ、身体が痛い。……あのドローは『ファーニマル・ベア』。あと2体ほど追加で出して殴っておけばよかったでしょうか」
「しかし、なんですか……まさか【Duel Load Academia】の世界に転生するとは」
そう、ここはゲームの世界だ。キャラゲなど言われているそれがすでに出ているにしても、まさか遊戯王で乙女ゲームが発売されるとは誰も思わなかっただろう。
……まあ、基本的にゲームなどカードのおまけであるのだが。
そして、ゲームの世界だからかデュエルの攻撃は実際に魂にまで傷を刻む。
傷ついた身体は休息を求めている。表面的な傷は、それほど深くない。10代の回復力ならば来週には消えていることだろう。あの激痛だけは耐えられるものではなかったが。
「そうだ……デッキを見直さなくては……すぅ」
眠ってしまった。
小説の内容について、どの割合を増やしてほしいでしょうか?
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デュエルが見たい
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世界観が知りたい(他人視点を増やす)
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女の子同士のいちゃいちゃが見たい