悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第13話 魔女のお茶会

 

 

 ファニマはいつも通りにエールをサロンに招いた。早三日……等と言うが、まだ1週間しか経っていない。

 けれどエールは仕事をサボりによく顔を出すものだから、すっかり馴染んでしまった。

 

「ああ、もう! エール様! またここに来ているんですか! 依頼の品がまだ出来上がってないでしょう!? エール様じゃないと対応できない案件なんですよ!」

 

 バン、と扉を開けて入ってきたのはアイネだ。先の苦労人の雰囲気はそのままに、しかしファニマにも遠慮がなくなってきた。

 

「やーよ。まだ今日の分のお菓子を食べてないんだもん」

 

 ぷい、と顔を背けた。”マスター”の位階を持つ幼女がそうする様は、とても愛らしくてファニマは思わず笑ってしまう。

 

「少しくらいならいいでしょう? 根を詰めても成果は上がらないわ。アイネも良かったらどうぞ。メイ、紅茶を」

 

 メイも、紅茶を淹れるのだけは慣れたもの。淀みない手つきで準備を進めていく。

 

「それとセバスに用意させた菓子もあるはずだから出して頂戴。エールが楽しみにしてたのよ」

「セバス様が? あ、これのことですか。あれ……わわっ」

 

 紅茶以外のこととなるとこうなってしまうのだった。そこはセバスも知っている、多少揺れたくらいでは崩れない菓子を用意してある。

 これで、あぶなげながらもお茶会の体裁は整った。

 

「アイネも座っていいのよ」

「いえ、ファニマ様。……私はここで十分ですので」

 

 と、本人は恐縮する。先の扉をぶち開けた一幕は目にしているのだから、今更体裁を整えたところで遅いが。

 

「いいじゃない、座れば。メイだって座るんでしょ」

「え、エール様……」

 

「そうね。準備が終わったらあなたも席に着きなさいな、メイ」

「ちょっと、お嬢様。そんな畏れ多い……」

 

「本音は?」

「お客様が居るのに席に座ったりなんてしたら、セバス様に絞られ……っあ!」

 

「まあ、黙っていればバレないわよ。……いつも通りに、ね?」

 

 相変わらずのメイに、ファニマはくすりと笑った。

 

 そして、アイネは紅茶を口にしてしみじみと語る。

 

「変わりましたね、ヴェルデ様」

「ええ、経験は人を変えるわ。……もしかしたら、それだけではないかもしれないけれど」

 

「……ヴェルデ様?」

「別に本家のお嬢様だからと言ってそう畏まる必要はないと言っているじゃない。あなたもファニマでいいわよ。そもそも、ウィッチクラフト工房は我がヴェルデに席を置いていても、仮に切り離されても困らないでしょ」

 

 彼女たちは一つの企業に等しい。スタートアップに類するが、超高水準に達する技術を持った「工芸家のファミリー」だ。もちろん、それは血の繋がりではなく職人として。

 そんなウィッチクラフト工房だから好きにできる。元より仕事は選びたい放題である。エール・アレイスターとはそういう才女だ。

 

「……くすくす。私は人格とか言うものにそれほど興味はもってないけど、以前のあなたは取引にも値しなかった。けれど、今のあなたは魅力的と思っているのよ。もちろん、お菓子だけじゃなくて」

 

 幼女のように小さいエール・アレイスターが妖艶にほほ笑んだ。人形のように着飾った可愛らしい女の子、だがその本質はマフィアに等しい。

 魔導の秘奥を弄ぶ、強力な魔法カード開発者の第一人者。この学園で授業免除特権を持っているのは、要するに客員教授待遇を受けているということだ。

 彼女に期待されているのは論文執筆に他ならない。それだけの知識と技術を持っている。

 

「ふふ、光栄ね。お父様に言えば、私を工房のスポンサーとかにして貰えるかしら」

「まあ、ファニマなら認めてあげてもいいわ」

 

 エールが傲岸不遜に頷こうとした瞬間、アイネが横から入ってくる。

 

「ありがとうございます、ファニマ様! いやあ、そういうのって権利関係が面倒なんですけど本家ならその心配もないですし! エール様の魔法理論をこっちがどこの出資だのあっちの出資だのと考えて、何個も黒塗り資料を作るのはもう御免です!」

 

 泣きそうな勢いでアイネがファニマの両手を握って振り回す。アイネの方は普通に学生のはずなのだが、すでに社会人の苦労を知っているようだった。

 

 要するにAの資金提供を受けて開発した技術はAにしか公開できないし、それはBもCも同様。けれど、技術は基本的に繋がっていくものだ。

 ゆえに、AにはBとCの社外秘情報を隠して、そしてBにはAとCを、CにはAとBを添削する必要がある。……それは、とてつもなく面倒で、しかも守秘義務を守るためと言うどうでもいい理由なのだからアイネもやる気が出ないだろう。

 

 なお、AとBとCの資金提供分をヴェルデ一家で出来るのかと言う疑問は愚問だ。その程度の端金に困るようで、国家の中で最大の貴族など気取れない。

 

「え、ええ。そんなに喜んでくれるとは予想外だけど」

 

 実際、ウィッチクラフト工房は金に困っているわけではないのだ。能さえあれば、企業から金を引き出すのは容易だから。

 それは極まった一握りの中の、更に厳選された「有能な」人間の証だ。

 

「ハイネ、お金なんて魔法理論の一つでも売ればいくらでも入ってくるじゃない。そんなにがっつかないでよ、私のお友達にさもしいって思われるじゃない」

「エール様は……エール様は全部私に押し付けるから書類仕事の大変さを知らないんですよう。大本を本家に一括してくれれば、書類仕事で徹夜しなくても済む……!」

 

 本当に、涙さえ流しそうな勢いだった。

 

「まあ、お菓子でも食べて気を取り直して頂戴。セバスに用意させたから間違いはないはずよ」

「そう言えば、セバスってあれかしら。当主様の執事って言う彼……白髪のおじいさん。なんかやたらと元気な印象があるわ」

 

「そのセバスよ。お父様は当然だけど、セバスも有名なのかしら?」

「そのお父上様の右腕ですからね、本家とある程度仕事の付き合いがあるなら、あの方が窓口になっています。私もお会いしたことがありますよ」

 

「アイネも会ったことがあるの? 世の中狭いものね。まあ、音に聞こえたウィッチクラフト工房ならそう言うこともあるのかしらね」

「いつまで生臭い話してるの」

 

 エールがテーブルの上に置かれたお菓子をわっしと掴み、一気にほおばった。ハムスターみたいにもぐもぐした後、紅茶で一気に流す。

 

「エール様……」

 

 アイネが目頭を押さえた。

 

「それ、早く見せて頂戴。今ならインスピレーションが湧きそうなのよ。さっさとしないとしぼむわ」

 

 自分勝手な言い分だが、どことなく可愛らしく思えるのは幼女の特権か。

 

「はい、どうぞ。先端が鋭いから怪我をしないように注意してね」

「子供扱いするなっ!」

 

 ひったくるようにして、ハサミと綿で出来たデュエルディスクをぶんどって行った。ほうほう、ふむふむと矯めつ眇めつする。

 その真剣な目つきはまさに研究者、もしくは魔女である。

 

「デュエルディスクの変形。いえ、これはもはや変身ね。何回か見たけど、やっぱり触ってみた方がよくわかる」

「そうね。でも、それほど難しいことではないと思うわ」

 

 ファニマは平然と紅茶を嗜んでいる。綿を引きちぎろうとしているみたいに伸ばされても、微動だにしていない。

 代わりにメイが注意していいものかどうか迷っておろおろとしていた。

 

「……ふんふん。大体分かった。返すわ」

「ひゃあっ」

 

 メイの方に投げて返した。

 

「こう……ね」

 

 エールがデュエルディスクを展開する。魔力が集中する。こんな幼女でも、表では最強クラスの魔法使いである。空間がひずむほどの魔力が空気を震わした。

 

「――てや!」

 

 ノーマルで無骨なそれが透き通っていく。氷を思わせるような透明な欠片が魔法のように浮かび、デュエルディスクを形成する。

 杖のような、ミニチュアの浮かぶ台座のようなデュエルディスクを完成させてしまった。

 

 ファニマは、森の悪霊を刈ってその力を使って作り変えた。参考元があったとはいえ、エールは一人でそれを成し遂げた。

 

「おみごと」

 

 ファニマはパチパチと拍手をするが、他の二人は呆然としていた。

 

「余裕の顔ね。そう、まるで――そのくらいできなければ資格はないとでも言いたげに」

「……知っているのかしら?」

 

「いえ、今思いついたことだけど。ねえ、アイネ。ファニマに噂になっているものはある?」

「ええ……と。森で見かけることがあるとの噂は聞いておりますが……」

 

 奥歯に物が挟まったような言い分だが、実際には誹謗中傷が混ざっているのだから仕方ない。前にも言ったが学園は王党派が強い場所だから。

 

「森。【魔の森】か……相も変わらず陰惨な魔力が漂ってる。いえ、これは浸食? なるほど、これに対抗するためね」

 

 その場所までは歩いて30分はかかる場所だ。なのに透視してしまうとは、エール・アレイスターの魔力は人知を超えている。

 それこそ、「ゲームの外」ではラスボスをやっていても不思議はない。

 

「何も言わずとも気付くなんて流石ね、エール。遥か昔から、人と魔はその領土をめぐり戦争を繰り広げてきた。魔はいつでも地上を狙っている」

「あいつら、しつこいものね。何度滅ぼされようとゴキブリみたいに湧いて出る。他人事じゃないし、協力してあげるわよ。次はどうする気?」

 

「私は勇者とかそういう自意識過剰じゃないのよね。王子様に何とかしてもらおうにも、あの腕前ではねえ」

「……ああ、学園長が進めてる奴ね」

 

「何か知っているの?」

 

 ファニマも驚いた。ゲームという原作があるから【ペンタグラム】を知っていた。それは4人の攻略対象とヒロインで結成される戦隊、闇の勢力【セブン・スターズ】と戦う正義の味方。

 どう結成されるのかは、覚えていない。地の分で一言説明があった気がするが。

 

「お気に入りを集めて、何かしようと動いていたわ。劣勢になった王党派のために何かやってるくらいの感覚だったけれど、あれは魔の力に対抗する精鋭集めか」

「そう、精鋭ね。王子様なんかより、私の方が強いけど。王党派なんかじゃ闇の勢力には勝てはしない。……これはただの感想」

 

「そうね。私も、あいつらに自分の命運を預けるなんて虫唾が走る」

「そのために、アルティ・アイズに会う必要がある」

 

 アルティ・アイズ、それは純粋にファニマの記憶から引きずり出した”当て”だ。その名前はゲームでは一文字たりとも出てこない。

 

「確か……ゲーム会社の社長だったかしら。あなたの親戚よね」

「多角経営と言う奴よ。あの人の力は当てになる。お父様は統治者だけど、開発者でも社長でもないものね。私が欲しいのは、動ける人間と新しいカード」

 

「あの学園長の代わりに魔と戦うパーティを結成しようと言うのね。ならば、私もまた力を示してあげる」

 

 エールが椅子の上に立つ。行儀が悪いが、彼女がやるならひたすらに微笑ましくて可愛らしい。

 

「……」

 

 ファニマは変な笑いを抑え込む。

 

「さあ、私とデュエルなさい!」

「ええ」

 

 ファニマが立ち上がり、部屋の隅へと歩いていく。エールも飛び降りて反対側へ行く。互いに異形のデュエルディスクを構え。

 

「「デュエル!」」

 

 試合が始まった。傷つくことのない、だが真剣勝負だ。

 

 

 

 

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