悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第15話 3人目の攻略対象(上)

 

 そしてメイは挑戦者相手に勝ったり負けたりを繰り返し、早一週間。ただし挑戦者はメイに勝ったとしても、その次の瞬間にはつまらなさそうなファニマに叩きのめされてしまったのだが。

 しかし、一種のお祭りとして上から下まで大騒ぎだ。

 勝ち星の多い人間が挑戦権を得る、途中参加のエレメなどは厳しいが順調に勝っている。このまま行けば、再挑戦の日も近いだろう。

 

 学園生の中堅から上位の人間は、授業などよりよほど実力の伸びが見られるという副次効果まで起こした。やはり実践に勝るものはないと言うことだろうか。うかうかしていれば彼も負け星を重ねることになる。

 

 そして、”今日”はメイが勝った。

 

 用は済んだとばかりに去り行くファニマ。もはや王党派、ヴェルテ派も関係ないお祭り騒ぎだ。トトカルチョまで出ているのだから。

 歓声の中、メイは手を観客に手を振りながら帰っていく。――その騒ぎを、一睨みで黙らせた者がいる。

 

「……なるほど、それが王家の力『ドラゴンメイド』の実力か」

 

 足音が静寂を切り裂いた。威厳に満ち溢れたコートを翻し、黄金の髪を風にたなびかせたその男が歩いていく。 

 燃える瞳が厳然とファニマを射貫いた。

 

「あら? これはこれは……無粋な男もいるものね」

 

 ファニマがゆらりと振り向いた。顔には凶悪な笑みが浮かんでいる。悪役令嬢と呼ばれるのも納得な、美しく冷たい横顔だ。

 

「放っておくわけにもいくまい。俺は軟弱な王党派とは関わりを持たぬが。まさか、ヴェルテの国盗りを指をくわえて見ているわけにもいかんからな」

「この国の未来の話かしら? ならば、ヴェルテが全てを支配するのは当然の話よ。なぜなら、私は儀式のデュエルで第1王子を倒したのだから」

 

 くすくすと笑う。子供は次代を担う。王族の息子とヴェルテの娘の格付けが済んだ今や、誰が覇者となるのかは自明である。

 ヴェルテがこの国を支配する。勝利者ゆえに。更に言えば、この祭り騒ぎの中で”最強”とはファニマ=ヴェルテのこととの認識が出来上がってしまった。

 

「――そう、最も強い者が覇権を執るのは必然よな」

「ならば去りなさい。覇者を決める戦いに、名もなき雑魚が入る余地はない」

 

「否! 貴様を倒せば、この国の覇権を握るのはこの俺! スカ-レッド・エルピィこそがキングなのだ!」

 

 覇を唱えた。

 まあ、幼稚な考えと言えばその通りである。ヴェルテが国を支配する……それはファニマ・ヴェルテなどではなく、その父の手腕が10割だ。

 もちろん王族の失態を引き出したと言う点ではファニマの手柄だが、それは一風変わったハニートラップでしかないだろう。

 ファニマ・ヴェルテを倒したところで、名乗れるのは【学園のキング】が精々だった。

 

「気に入ったわ」

 

 くす、と笑い。誰にも聞こえぬ声で「さすがは攻略対象様、覇気が違う」と呟いた。

 今日はデュエルをしなかった。退屈していたところだ、強者の挑戦なら受けるまで。ファニマは人知れず笑みを濃くした。

 

「ふん。気に入った? 愚かな。俺こそが王と仰ぐに足る唯一絶対のキングなのだと教えてやろう。さあ、デュエルディスクの盾を掲げ、カードの剣を引くがいい!」

 

 彼の障害はファニマ・ヴェルテだけではない。なぜなら彼は、貴族の血を引いていないのだから。そして、それは周知の事実だ。

 稀に居るのだ、血に依らず、メイのように誰かに貰ったデッキを使っているわけでもないのに――【強い】奴が。

 ファニマを倒せば全てが手に入ると言うお花畑的な思考ではない。それはただの足がかり、本気で挑んでいく気だ。王に、そしてファニマの父に。

 

「大言壮語を吐く。それが口先だけではないと証明してみなさい。賭けるは、互いの誇りのみ! さあ、私たちの戦いを始めましょう!」

 

 決するは【儀式のデュエル】、ものを賭けるのではない。魂を賭けた本気の戦いだ。心無いものに言わせれば、ただダメージが現実化するだけの悪趣味だが……これはそういうことではない。

 言葉通りに、カードという剣で切り合う死闘である。

 

――1ターン――

 

「先攻はキングが貰う!」

 

 5枚のカードを引く。轟風が吹き荒んだ。

 

「俺は『レッド・リゾネーター』を召喚、効果で手札の『スカーレッド・ファミリア』を特殊召喚!」

 

「更にフィールド魔法『スターライト・ジャンクション』を発動、このカードは自分フィールドのチューナーをリリースしてレベルの異なる「シンクロン」モンスターを特殊召喚する。『レッド・リゾネーター』をリリースしてデッキから『ジェット・シンクロン』を特殊召喚だ!」

 

 悪魔が音叉を響かせると、蜃気楼のように姿が揺らめく。次の瞬間、扇風機の姿をした飛行機が現れていた。

 

「『ジェット』に『ファミリア』をチューニング! 吹けよ嵐! 唸れよ轟風! 大いなる風に導かれし軍列を見るがいい! シンクロレベル5、『ジャンク・スピーダー』」

 

 機械の戦士が突風を唸らせて現れる。その道には何者かの姿が見える。それこそがジャンク・スピーダーの恐るべき能力だ。

 

「効果発動! デッキから異なるレベルの『シンクロン』チューナーを特殊召喚できる。俺はこの4体を特殊召喚!」

 

 これでフィールドに5体が並んだ。ただフィールドに出ただけで、この能力。ジャンク・スピーダーは強力で、そしてその本領はこれからだ。

 

「まだだ。『ジャンク・シンクロン』に『ジャンク・スピーダー』をチューニング、シンクロレベル8、『えん魔竜レッド・デーモン』!」

 

 竜が吠える。

 

「レベル4『ロード・シンクロン』はレベル2としてシンクロ素材にできる! 更に墓地の『スカーレッド・ファミリア』の効果発動! 『レッドデーモン』のレベルを8から7に変更だ!」

 

 竜が吠える。機械が唸りを上げる。何か……凄まじいものがやってくる。

 

「これで準備が整った! 見せてやろう、我が魂のカードを!」

 

 轟、と炎が燃え上がった。凄まじいまでの魔力の波動を感じる。ここまで強力な存在感はファニマでさえ、ついぞ見たことがない。 

 父ならどうか、とは思うがその本気は見たことがなかった。

 

「『レッドデーモン』に3体のチューナーをトリプルチューニング! 悪魔を喰らい、赤き魂が覚醒する! 今こそ絶対王者生誕の時! 荒ぶる魂よ! 今こそ現世(うつしよ)に覇を唱えるのだ! シンクロレベル12『スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン』!!!」

 

 悪魔の炎を身にまとう深紅の竜。生けとし生けるもの全てが恐れ、その王威の前には平伏以外の選択肢を許さない。

 馬鹿げたほどの圧迫感。ファニマですら、その威圧の前に笑みが曇る。背筋を冷や汗が伝った。

 

「あう……う……」

 

 隣で見ていただけのメイがふらりと揺れ、倒れかけたのをアイネが支えた。他の有象無象など、立つことすらできずに跪いている。

 彼らは王党派であって、この自称キングとは何も関係がないのに。

 

 ちなみにエールは居ない。彼女は伝言役として彼女を残してどこかに出かけている。

 

「ふ、凡骨ではスーパーノヴァの前に立つだけで精神が砕け散るものだ。だが、貴様はまだ戦意を失っていないようだな! それでこそ、我が覇道の第一歩として相応しい!」

「あは。あはははは! こんなに楽しい気分になったのは初めてよ。王者の証たるその竜、貶めて墓地へと埋葬してあげる! 我が呪い人形の祝福を受けるがいい!」

 

「そう来なくてはな。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

場:『スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン』ATK:7000

魔法+罠:『スターライト・ジャンクション』+セット1

 

・2ターン

 

「さあ、私のターン。ドロー! まずは『魔玩具補修』を発動、『融合』と『エッジインプ・チェーン』 を手札に加え、『融合』を発動! 手札のチェーンと『ファーニマル・ペンギン』で融合を行う」

 

 冷たい笑みを浮かべたファニマがカードを引く。この氷のような美しさこそがファニマ・ヴェルテその人である。

 

「海の底より現れなさい、『デストーイ・ハーケン・クラーケン』 ! 『チェーン』と『ペンギン』の効果で『魔玩具融合』を手札に加え、カードを2枚ドロー! そして手札の『ファーニマル・ベア』を捨てる。『スーパーノヴァ』の力は破壊耐性、『クラーケン』の呪いには対抗できない!」

 

 スーパーノヴァは効果により破壊されない耐性を持っている。それは、裏を返せば破壊以外の除去なら通じると言うこと。悪魔が潜む蛸人形、その触手が竜へと伸びる。

 

「墓地送りにはさせん! 罠『スカーレッド・レイン』を発動! このカードはレベル8以上のシンクロモンスターがいる場合に発動可能! レベルが一番高いモンスター『スーパーノヴァ』以外のフィールドのカード全てを除外する!」

 

 深紅の竜が吠える。紅の雨が降ってきて全てが燃え上がる。クラーケンも燃えた。

 

「更に『スーパーノヴァ』は、このターン自分以外のカード効果を受けない! これで墓地送りも不可能だ!」

 

 更に紅の雨が集まり、竜の防壁となった。攻撃力7000の、如何なる効果も通用しないモンスターは打倒できない。

 

「そう、じゃあ今は準備のターンにしましょうか。『ファーニマル・ドッグ』を召喚、『ファーニマル・ウィング』を手札に加える! そして『トイポッド』を発動、手札の『ウィング』を捨ててデッキトップを確認。……残念、『E-HERO アダスター・ゴールド』ね。墓地に送るわ」

 

 手の打ちようがない。が、ファニマはそれがどうしたと言わんばかりにカードを繰る。

 

「けれど、本命はこちら。墓地の『ウィング』の効果発動、『ベア』とともに除外し、更にフィールドの『トイポッド』を墓地に送ることで2枚ドロー。さらに『ファーニマル・ペンギン』を手札に加える!」

 

「更に手札から魔法『魔玩具融合』を発動! 墓地の『チェーン』と『ペンギン』で除外融合、現れなさい『デストーイ・クルーエル・ホエール』! 効果で『ドッグ』とあなたのフィールド魔法を破壊する! 【ホエール・クライング】!」

 

 鯨が吠える。そしてフィールドにいる『ファーニマル・ドッグ』と、スカーレッドのフィールド魔法『スターライト・ジャンクション』が砕け散る。

 

「そして『ホエール』で攻撃! この瞬間、効果発動【マックスホエール】! 自身の攻撃力を上げる!」

 

◆『デストーイ・クルーエル・ホエール』 ATK:3900

vs

◆『スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン』ATK:7000

 

 鯨は更に吠え立てる。耳を塞ぎたくなるほどの高周波じみた叫びを撒き散らす。攻撃力を上げたとしてもスーパーノヴァには届かないにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべた。

 

「攻撃力を上げて突破する気か? いや、まだ届かん。だが――貴様の好きにさせるものか! 『スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン』は相手モンスターが効果を発動した時、フィールドのカード全てを除外する! 次元の彼方に消え去るがいい【アルティメット・ノヴァ・エクスプロージョン】!」

 

 深紅の竜が吠え、全てを燃え上がらせた。鯨の人形は炭と化し、何も残らない。

 

「――」

 

 ファニマはくけけ、と悪い笑みを浮かべた。実は無策だった。いや、相手の反応を確かめるためなのだが……ホエールの力ではスーパーノヴァを打ち破れない。返り討ちになっていた。

 とはいえ、わざわざバトルステップに使って見せたのだ。これで警戒しなければデュエリストではないだろう。

 

「……けれど効果は残る。私はデッキから『デストーイ・リニッチ』を墓地に送るわ。私はターンを終了」

 

 ファニマの冷たい笑みは陰らない。自らの身を守るモンスターも居ないのに。

 

場:なし

 

 

 

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