スカーレッド・エルピィ、彼はゲームの攻略対象だ。ヴェルテと王党派、どちらにも属さず第3勢力としてたった一人でキングを目指す孤高の男。
彼は王国制覇の第一歩としてファニマ・ヴェルテへと挑んだ。そして今、戦況はスカーレッドに傾いている。ファニマのフィールドには何もなく、そして彼のターン終了時には恐るべき『スーパーノヴァ』が帰ってくる。
・3ターン
「俺のターン。『レッド・スプリンター』を通常召喚! 召喚に成功したとき手札・墓地からレベル3以下の悪魔族チューナーを特殊召喚できる。墓地の『レッド・リゾーネーター』を蘇生!」
「さらに『リゾネーター』の効果発動! 『スプリンター』の攻撃力分、1700のライフを回復する!」
悪魔がまた音叉を鳴らした。今度は祝福の音となり、スカーレッドのライフを回復させる。
〇 スカーレッドライフ:8000+1700=9700
「『リゾネーター』と『スプリンター』でチューニング。シンクロレベル6『レッド・ライジング・ドラゴン』! 効果で墓地の『レッド・リゾーネーター』を蘇生! 更に墓地の『スカーレッド・レイン』は己の効果により手札に戻ってくる!」
悪夢に等しい効果がもう一度来ることが確定した。だが、それを心配するのもファニマがこのターンを凌げたらの話である。
「連続シンクロだ、『ライジング』に『リゾネーター』をチューニング、シンクロレベル8『レッド・デーモンズ・ドラゴン』! 更に手札の魔法『コール・リゾネーター』を発動。『シンクローン・リゾネーター』を手札に加え、特殊召喚。このカードはフィールドにシンクロが居る時、手札から特殊召喚できる!」
「さらに行くぞ、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』に『シンクローン・リゾネーター』をチューニング。王者の咆哮が天地を揺るがす! 悪魔が地上を蹂躙する! シンクロレベル9『えん魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」
悪魔そのものといった姿の竜が現れた。あたり一面を火の海に変え、フィールドを我が物顔で回遊する。
『スーパーノヴァ』はこのターンのエンドフェイズに戻ってくるのだ。こんなモンスターまで居ては逆転もままならない。
「『シンクローン・リゾネーター』が墓地に送られたとき、墓地の『レッド・リゾーネーター』を手札に加えることができる。そして『ジェット・シンクロン』は墓地に居る時、手札のカードを捨てて特殊召喚できる。『レッド・リゾネーター』を捨てて自己蘇生」
ファニマの眼が光る。
「たったの2枚からそこまでやるのは褒めてあげる。そして、あなたのEXには『ベリアル』が眠っているわね? 私にダメージを与えれば、蘇生効果から『アビス』と『ベリアル』を並べることすら可能。さらにエンドフェイズには『スーパーノヴァ』まで並ぶ」
まさに王者に相応しい威容である。これこそが本来の攻略対象の力である。
1ターンキルされたエクスは弱かった。少なくとも、ゲーム的には彼は”育てるキャラ”である。それが一切の育成を挟まなかった結果があれだ。次に会ったとき、そのデュエルは見なかったが強くなっているに違いない。
だが、本来のゲームでは中ボスでしかなかったファニマとて、原作とはかけ離れた力とテクニックを併せ持つ。フィールドが空だからと言って、何もできないなどありえない。
……誰も彼も、プログラムごときで再現できるレベルではない。鍛え上げてきたデュエリストなのだ。
「でも私の手札は6枚もある、見せてあげるわ。手札の『エッジインプ・サイズ』の効果を発動、手札の『ファーニマル・ペンギン』と融合。現れなさい『デストーイ・クルーエル・ホエール』! さあ、私の敵を押し潰しなさい! 【ロアー・オブ・ホエール】」
「ならば俺は『アビス』の効果を発動! 『ホエール』の破壊効果を無効にする!」
「ならばチェーンして攻撃力を上げる効果を発動。墓地に送るのはEXの『デストーイ・チェーン・シープ』。あと、素材となった『ペンギン』の効果で2枚ドローして『ファーニマル・オウル』を捨てるわね」
◆『えん魔竜レッド・デーモン・アビス』 ATK:3200
◆『デストーイ・クルーエル・ホエール』 ATK:3900
「ぐぐぐ……このまま攻撃しても返り討ちに遭うだけか。俺はカードを1枚セット。そして、ターン終了時に『スーパーノヴァ』は除外から帰ってくる! ターンエンドだ!」
場:『えん魔竜レッド・デーモン・アビス』 ATK:3200
『スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン』 ATK:7000
『ジェット・シンクロン』 DEF:0
魔法+罠:セット1
・4ターン
「私のターン、ドロー。ターンが切り替わったことでホエールの強化が切れた。だからもう一度使うわね、『デストーイ・クルーエル・ホエール』の効果を発動」
「させんぞ、『アビス』で無効!」
吠えた鯨は灼熱の熱波によりぐったりしてしまう。だが、そこまでは想定内。
「なら、私は『ハーピィの羽根箒』を発動。さあ、『スカーレッド・レイン』の効果であなたのモンスターを除外してもらいましょうか」
ニタリと笑みを浮かべた。ホエールの効果を先に使ったのはアビスの効果を使わせるため。無効化されなければ戦闘破壊するまで。
これぞ第二矢。それは厄介な罠だが、そのカードが伏せてあることは分かっている。ならば、先に使わせるように動けば良いのだ。
「っぐ……! 『スカーレッド・レイン』の効果発動! これで残るのは効果を受けない最強の『スーパーノヴァ』のみ!」
怒涛の攻防が一息ついたときにフィールドに残るのはスカーレッドのモンスター。このターンは彼が制したと言っても過言ではない。
レインの効果が残るかぎり、ファニマのモンスターはスーパーノヴァは倒せない。
「墓地の『デストーイ・リニッチ』の効果発動、除外されている『ファーニマル・ウィング』を墓地に戻す。そして手札から『トイポッド』を発動。墓地の『ウィング』の効果、『ドッグ』と共に除外。更に『トイポッド』を墓地に送ることで2枚カードをドロー、更に『エッジインプ・シザー』を手札に加える」
だが、ファニマの笑みは濃くなっている。レインは2度の効果を発動したことにより除外された。そして相手の手札は0、次のターンに新たなモンスターを召喚することは難しいだろう。
ならば、次のターンで攻め立てるのみ。
「『ファーニマル・ドッグ』を召喚! 『ペンギン』を手札に加える。さらに永続魔法『デストーイ・ファクトリー』を発動! 墓地の『魔玩具融合』を除外して融合する。手札の『エッジインプ・ソウ』とフィールドの『ドッグ』で融合……現れなさい、『デストーイ・デアデビル』。守備表示」
さすがのファニマですら効果の利かない攻撃力7000はどうにもできない。ただ壁を立てただけで終わる。……が、舐めては行けない。手札は5枚もあるのだ。
「ターンエンド。勝負は次のドローにかかっている。あなたに私を倒し切れるかしら? 攻撃の手を緩めた瞬間、私の人形たちはあなたの喉笛を噛み千切るわ」
場 『デストーイ・デアデビル』 DEF:2200
・5ターン
「俺のターン、ドロー! キングは立ち塞がる全てを粉砕し、無数の骸の上に立つもの! キングは揺るがない! 『スーパーノヴァ』で攻撃、『デストーイ・デアデビル』を粉砕! 【超新星創造撃】!」
王威が悪魔を焼き尽くす。大きな目の愛らしい悪魔人形は炭になるまで焼き尽くされて。だが、怨念は残る。
「ならば、悪魔の呪いを受けなさい。『デアデビル』は破壊されたときに墓地のデストーイ一体につき500のダメージを与える。墓地のデストーイはデビルとシープの2体。計1000のダメージよ」
「ち、わざわざ融合召喚した狙いはそれか。だが1000ごときのダメージ、キングにとっては針で刺されたようなものよ!」
〇 スカーレッドライフ:9700ー1000=8700
その怨念がスカーレッドを襲うが、彼は表情を動かしもしない。儀式だ、かなり痛いはずなのだがおくびにも出さない。
「へえ、悲鳴を上げないのは褒めてあげる。でも、息切れしたみたいね?」
「世迷言を。我が『スーパーノヴァ』の力に手も足も出ない分際で。キングに小賢しいバーンなど通用せん! キングの力の前に震えるがいい! 俺はターンエンドだ!」
場:『スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン』 ATK:7000
・6ターン
「私のターン、ドロー!」
ファニマはドローしたカードを見もせずに怜悧な笑みを浮かべた。
「もはや『スカーレッド・レイン』はない。破壊できず、効果も効かない攻撃力7000は脅威だった。けれど今となっては破壊できないだけ。攻撃力が高いだけの”今”なら攻略できる」
「……ふっ。ならば、見せてみるがいい。ファニマ・ヴェルテ。このキングを超える力を持つと言うのならば――見せてみよ! このキング、逃げも隠れもせん!」
スカーレッドは堂々と迎え撃つ構えだ。ダメージを恐れるのならばサレンダーしても良い。何も賭けていないのだ。それが賢い選択だが、彼に痛みから逃げる選択肢などない。
「もちろんよ。フィールドの『デストーイ・ファクトリー』の効果発動、墓地の『融合』を除外! 手札の『エッジインプ・シザー』と『ファーニマル・ペンギン』で融合召喚を行う! 再び海の底より現れ、怨嗟の声を上げよ『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」
「『ペンギン』の効果で2枚ドロー、『エッジインプ・チェーン』を捨てる! そして『チェーン』の効果で『魔玩具融合』を手札に加える!」
蛸人形がうねうねと触手を伸ばす。クラーケンならば破壊することなく墓地へ送れるのは前述したとおり。だが、『スーパーノヴァ』はもう一つの効果を持っている。
「『クラーケン』の効果で『スーパーノヴァ』を墓地に送る! 【アビスアンカー】!」
「させるか! 『スーパーノヴァ』の効果で全て除外! 【アルティメット・ノヴァ・エクスプロージョン】! そして俺のエンドフェイズに帰ってくる」
「だが、このターンだけはあなたの守りはなくなった。我が下僕たる呪い人形の力で粉々に砕け散るがいい! 手札の魔法『魔玩具融合』を発動、墓地の『エッジインプ・シザー』と、そして4体のファーニマルを除外融合!」
4つの人形が宙に浮かぶ。ハサミにバラバラにされる! そして悪魔が操る糸がそれらを繋ぎ合わせる。
「悪魔宿りしハサミよ! 愛らしき布の肌を切り裂き、その柔らかい腹から白綿を引きずり出し供物とくべよ。現れなさい、そしてその爪をもって獲物を八つ裂きにするがいい『デストーイ・シザー・ウルフ』!」
現れたる四肢をハサミで繋げた狼の人形。その口は大きく裂け、その奥には悪魔の瞳が覗いている。
忌まわしき悪魔の笑い声が響く。
「このカードは融合素材の数だけ攻撃できる! よって、5回の攻撃よ! 【シザーダンス】五連打ァ!」
文字通り、八つ裂きにせんと迫る狼。
◆『デストーイ・シザー・ウルフ』 ATK:2000
〇 スカーレッドライフ:8700ー2000ー2000ー2000ー2000ー2000=0
「まさか。そんな……ぐわああああっ!」
見に纏う衣服さえもズタボロになりながら吹き飛んだキング。どんなに強靭な肉体を持とうとも、立ち上がることはできないだろう。
「……ふふ。貴方との戦い、面白かったわ。ええ、どんなダメージよりもよほどスリリングで興奮した。ふふ。そして勝ったのはこの私。あは。あはははは!」
上機嫌でその場を後にする。メイがそそくさと付いて行った。
実は最初にホエールで殴りかかった時、スーパーノヴァの効果で除外したのはプレミと呼べるかもしれません。スカーレッドレインの効果でその時は弱体化が通じなかったので、そのまま返り討ちにできました。
まあ、それは【ファーニマル】のカード全てをネットで見れるリアル世界の話です。何が出てくるか分からないという前提で、キングの行動は丁寧に相手の攻め筋を潰す「慎重さ」として描写しました。
次のターンにはアビスからベリアルまで繋げる算段も付いていましたし。今の遊戯王は何か効果の発動を許すと、あれよあれよと並べられてしまうのはよくあることなので潰せる行動は潰しておいた方がいいです。デッキに触れる場合は特に。
一方で、ファニマとしては相手の対応を確かめるためのブラフの行動でした。駄目だったら手札を消費して壁を出していただけです。返り討ちの3100ダメージは、現環境では気にする必要はないと思います。
ライフが8000で無傷だったのは、一度攻撃を許すと一気に0にされるからですね。これは、守ろうとして守ったわけではありません。
本人が”楽しい”と言っていたように、裏では熾烈な心理戦が行われていました。という言い訳。