悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第17話 最後の攻略対象と社長

 

 

 ある日。

 

「お嬢様、少しよろしいですか?」

「ああ、セバス。どうしたの?」

 

 ファニマは自室でセバスを迎えた。格好はラフな白いワンピース、ベッドの上に寝転がっている。少々露出が過激だが、おじいちゃんの前では気にしなかった。

 彼女はイヤホンを片耳に差し込んで音楽を聴いている。もう一つは隣に座るメイが聞いている。

 

「アイズ様のアポイントが取れました。これから向かいますかな?」

「そう。少し待ったけれど、これは早い方かしら。おじさまもお父様もお忙しい方だものね」

 

 イヤホンを外してベッドの上に身を起こす。セバスは椅子を借りて目線を合わせた。

 

「エール様はどうされますかな?」

「デートは断られちゃったわ。メイと二人で行きます」

 

「承知いたしました。では、車を回しますので少々お待ちを」

「ええ。お願いするわ。それと、メイ。アイネに伝えておいてくれるかしら。今日は私のサロンは閉室よ」

 

「はい、お嬢様」

 

 そして、他のメイドの手を借りて着替え、車に揺られ――さぞご立派なビルの前までやって来た。一目でここらでは一番高いビルだと分かる。

 おじはそういうところがある。まあ、彼を一言で言うならば”社長”だ。派手好きで、デカいものが好きな自信家。出来ないことは何もないと慢心する野心家でもある。

 

「「「いらっしゃいませ、ファニマお嬢様」」」

 

 数十人規模の社員が出迎えた。……派手である。それ以外の感想が思い浮かばない。

 

「……いや、おじさまに会いに来ただけなのだけど」

 

 やれやれとため息を吐くファニマ。まあ、あのおじであればそういうことをすると思っていた。

 颯爽と足音が響く。

 

「ふ。よく来たな、ファニマ」

 

 すさまじく先端の尖った白銀のコートをたなびかせ、現れた男。彼は40手前なのをファニマは知っているが、ともすれば20台に見えるほどぎらぎらと燃える魂を持っている。

 

「お久しぶりです、おじさま」

 

 ファニマはしゃちほこばって、スカートをちょこんとつまんでお辞儀をしてみせた。からかうような笑顔を浮かべている。

 以前はあった余計な対抗意識は抜けている。前は、ヴェルデを継ぐ者は自分だと余計な悪戯をしたりして迷惑をかけたこともあった。

 

「良い顔をしている。貴様はデュエリストとして見どころなどないと思っていたが、三日合わざれば刮目せよとは男に限ることではなかったらしい」

「お褒めに預かり光栄ですわ。今日はお願い事があって来ましたの」

 

「ふむ。部屋でゆっくり聞こう。……のぞき見する虫けらを始末してからな!」

 

 彼はカードを引き抜くと鋭く投げた。

 

「なるほど。さすがは音に聞こえたアルティ・アイズ社長様と言うわけか。ヴェルテの派閥の中でも最先端を駆け抜ける、向かうところ敵なしのアイズコーポレーション」

 

 ナイフよりも鋭いその切れ味をこともなげに二本の指で掴み現れたのは黒髪の少年。彼を一言で現わすのなら”心に闇を抱えた美少年”といったところ。婦女子にカルト的な人気を得そうなこの少年は、その実攻略対象の一人だった。

 

「――フェル・キャノン。何の用かしら? ああ……貴方もエクス・ジェイドと同じく彼女に心を奪われた? 勝てば官軍、だけれどあの女狐は負けた側。負け犬は打ち据えられるのが世の常ね」

 

 嘲笑混じりに挑発した。

 

 彼女、ふわりはファニマからエクスを奪った。つまり、ふわりはヴェルテ派の敵であり、かつ平民のくせに王族にコナをかけた気に入らない奴である。ファニマが負けた側であればファニマの方がいじめられていたのだろうが。

 ――そして、これ(いじめ)はファニマが何かをしたわけではない。

 誰かを虐めたい人間にとって、それ以上の理由は不要だったと言う話だ。”正義好き”達がよってたかって責めるのだ。だが、責められる側にとって悪魔はファニマだろう。正義好きをいくら蹴散らしたところで、数はむしろ肥大化する一方なのだから。

 

「ファニマ・ヴェルテ! 悪役令嬢! お前のせいで彼女が……! 貴様を倒し、彼女を解放する!」

「あは。馬鹿ねえ、彼女がああなっているのは負け犬に乗ってしまったからよ。今さら勝ち犬を倒したところで無意味……ああ、つまりは貴方が勝ち犬となって彼女を手に入れると? 情熱的な男ね、彼女に嫉妬してしまうかも」

 

 くすくす笑う。

 光明を見出すとしたらそこしかないだろう。有象無象を蹴散らすことに意味はないどころか、状況を悪くなる一方。

 ならば、ファニマを倒してボスの座を手に入れる。人間も階級社会だ、”偉くなれば”何とでもなる。

 

「黙れ。僕は、ただ彼女の苦しみを取り除くため!」

「よって立つところも分からない羽虫が、この私に敵うとでも?」

 

「「――」」

 

 ファニマ、そして乱入したフェルがデュエルディスクの盾を構えた。

 

「ふん。貴様が出張る必要などない」

 

 アイズがファニマを腕で遮った。フェルを底冷えのする眼で睨みつける。そう、ここは彼の王国。コーポレーションが所有する、王国の中の治外法権。

 

「このアイズコーポレーションに不法侵入したのだ。相応の歓待は覚悟しているのだろうな?」

「この僕のデッキは闇のデッキ。怪我する前に消えろ、狙いはそこの悪役令嬢だけだ」

 

「闇? 闇だと? 下らんな。貴様ごときの闇など、ブルーアイズの烈光の前に儚く砕け散る薄暗闇でしかないと知るがいい!」

「言ったな? この僕の闇を、煉獄を……矮小と。ならば、受けろ――闇のデュエル。”これ”は儀式とは比べ物にならない、【魂を賭けた】決闘だ」

 

 脅しをかける。いや、それはまごうことなき真実。儀式ならばサレンダーしてしまえばいい。賭けた物は失われるが、それで助かる。それに、負けたとしても……エクスは何時間か休めば復活していた。

 このデュエルで破れれば、より”深く”魂に傷を負ってしまう。ただの力自慢では死に直結しかねないほどのそれだ。

 

「ふぅん。どんな小賢しい手段を使おうとも構わん。貴様が何をしようとも、オレは全てを粉砕し栄光のロードを進むのみ!」

「ならばその栄光のロード、我が煉獄にて燃やし尽くしてやろう」

 

 視線が交錯する。殺気すら混じる。……突風が吹いた。

 

「――磯野! 決闘の開始を宣言しろ!」

「ふん」

 

 互いにデュエルディスクを構えた。

 

「デュエル、開始ィィィ!」

 

 黒服の男が慌てて叫んだ。少しメガネがずれていてファニマは笑ってしまうが、すぐに顔をシリアスへ戻す。

 それに、あのフェルという少年は少し……洒落にならない魔力だ。

 

・1ターン

 

 アイズは勢いよくカードの剣を引き抜き、不敵な笑みを浮かべた。手札は上々、否――全てを従わせる彼は、自らのデッキすら掌握している。手札事故など起こすわけがない。

 

「ふぅん。……オレの先攻。このカードは手札の『青眼の白龍』を見せることで特殊召喚できる。来い、『青眼の亜白龍』! そしてチューナーモンスター『太古の白石』を通常召喚!」

「チューナーとモンスターが揃った。シンクロ使いというわけか。1ターンで揃えるのは、まあ当然だな。……来い」

 

 青眼の龍が吠え、傍らには神聖なる宝玉が現れた。これにてチューナーと非チューナーが揃った。ならば、やることは一つ。

 

「『青眼の亜白龍』に『太古の白石』をチューニング。蒼き(まなこ)の龍よ。今こそ天より降臨し、地上に祝福の鐘を鳴らせ。シンクロレベル9現出せよ、『青眼の精霊龍』!」

 

 白銀の龍が天より降臨、吠えた。

 

「そしてカードを1枚伏せてターンエンド。そして墓地に送られた『太古の白石』の効果を発動、デッキからブルーアイズモンスターを特殊召喚する。現れよ『ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン』!」

 

 さらに虚空より飛来した戦闘機、否……これも龍だ。身体を折り畳むことで極限まで空気抵抗を減らしたドラゴンが、音速を突破して降り立った。

 

「ジェットが存在する限り、ジェット以外のカードは効果によって破壊されない。さらに、このカードはバトルを行う時に相手フィールドのカード1枚を手札に戻すことができる。さあ、薄汚い侵入者め、儚い抵抗をするがいい。……ターンエンド」

 

場:『青眼の精霊龍』 ATK:2500

  『ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン』 ATK:3000

魔法+罠:セット1枚

 

・2ターン

 

 ジェットは強力なカードだ。だが、フェルは勝利のピースはすでに我が手にあると言わんばかりの凶悪な笑みでカードを引いた。

 ……キーカードはすでに5枚の中に揃っていたらしい。

 

「俺のターン、ドロー。……ふふ。くははははは! 残念だったな。我が煉獄のデッキは異次元の領域にある。人間ごときに理解できる範疇にはないのだよ。見せてやろう、暗黒渦巻く煉獄の力!」

 

 フェルのデッキはすさまじく厚い。ファニマは嫌な予感が抑えられない。ゲームであれば、対して強くなかった。所詮はCPUだ、うまいことデッキを回せやしない。

 ――けれど、ここは現実。CPU程度より強い生徒はいくらでも居た。それでも弱かったが……しかし、攻略対象ならばそれ以上の――とんでもないことまでやってしまえるのではなかろうか。

 

「……60枚のデッキか。強いカードをたくさん入れれば強い、と凡骨以下の愚物がやりそうなことだ。どんなに強いカードでも引けなければ意味はない」

 

 アイズが鼻を鳴らす。だが、一方でファニマは何かを気付いた顔をする。事故れば弱い、があの表情は違うと分かった。

 

「引けなければデッキに入れる意味はない? そう思っているのなら、アンタは大した道化だ。ならば見るがいい。僕は手札から魔法『名推理』を発動! さあ、レベルを宣言してもらおうか」

「下らん、高レベルモンスターでも呼ぶ気か? レベル8を選択」

 

 推理ゲート、レベルを散らして『名推理』もしくは『モンスターゲート』で特殊召喚するデッキ。だが、あれは違う。

 

「このカードはデッキトップを確認し、それが宣言されたレベルと異なる通常召喚可能なモンスターであれば召喚可能! 推理が正しければ墓地に送られる。ただし、魔法・罠・通常召喚できないモンスターの場合は墓地に送り、同じ処理を繰り返す! さあ、その推理が正しいことを祈れ……もっとも、貴様のそれは”迷”推理だがな!」

 

 カードを引き抜き、皮肉気な笑みを浮かべた。

 

「デッキトップはレベル8、『インフェルノイド・アドラメネク』。墓地に送られる。……だが、こいつは通常召喚不可能なモンスター! そう、このデッキに通常召喚可能なモンスターなど1枚しか入ってないのさ! 僕は更に31枚のカードを墓地に送り、レベル1『インフェルノイド・デカトロン』を特殊召喚! 特殊召喚時に効果発動!」

 

 勢いよく墓地に送られていくカード達。墓地は第2の手札と呼ばれる。それが……31枚も貯まってしまった。

 これが『芝刈』系統デッキの恐ろしさ。たった1枚のカードで馬鹿げたリソースを手に入れる。31枚の墓地リソース、それがあれば文字通りに”何でも”できる。

 

「ならば、『青眼の精霊龍』の効果を発動。自身をリリースし、EXから『蒼眼の銀龍』をシンクロ召喚扱いで特殊召喚する! 特殊召喚時に銀龍の効果発動! 自身とジェットはこのターン効果の対象にならず、さらに効果破壊は不可能!」

 

 精霊龍が天に消え、銀の龍が地の底より降臨する。蒼いヴェールが2体を包み、鉄壁の防壁と化す。

 

「ジェットドラゴンと合わせて鉄壁の守りと言うわけか。……が、その守りにも穴はある。まずはセットカードから潰すとしよう。デカトロンの効果発動! デッキから『インフェルノイド』モンスターを墓地に送り、その効果を得ることができる! 俺は『インフェルノイド・シャイターン』を墓地に送り、そのセットカードをデッキに戻す効果を得る!」

「ならば、セットカードを表側表示に変更! カードは『真の光』!」

 

「……チ、逃れたか。シャイターンは表側表示のカードを対象にできない。鉄壁の守りは崩れないと言うわけか。ならば、力技で粉砕してくれる!」

 

 カ、と目を見開いた。

 

「『インフェルノイド』モンスターは手札・墓地のインフェルノイドを除外することで特殊召喚できる効果を持つ! そして、我が墓地のインフェルノイドは――17体だ!」

 

 そう、17体のモンスターがたった1枚の『名推理』によって墓地に送られた。

 その他、表側表示の魔法・罠を破壊する『ギャラクシー・サイクロン』に、効果無効化の『ブレイクスルースキル』まで落ちている。これらは墓地に落ちたターンには使えないが。

 

「――ほう」

 

 アイズは少し感心した顔を見せた。すぐに戻したあたり、意図していなかったようだが……フェル・キャノン。強敵である。

 

 

 

 

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