生徒たちがアイドルのライブに気を取られている間、フォシル・フューは魔の森を調査していた。彼はファニマがアイズ社長から借りてきた男だ。
戦いにおいて情報収集をせずに勝てるのは主人公と言った運命に選ばれた者の特権だ。それに、ゲームと現実は違う。自業自得かもしれないが、生徒が襲われたなどゲームでなかったイベントだった。
「……これは、まずいナ。機器のあらゆる値が異常を示していル」
彼は背負ったバッグから機械を取り出して何やら弄っていた。表情は浮かない。そう、日も高いのにこれほど禍々しい魔力が溜まっているのは尋常ではない。
異常が起こっていると言うエビデンスが取れてしまった。ファニマの言葉は正しかったが、正しくあって欲しくはなかった。
「こりゃ、姫サマの心配も杞憂で済みそうにはないネ」
元から狂言は疑っていない。ただ、思っていたよりも具合が悪い事態に発展している。ここに立っていることですら既にリスクである、とんでもない危険地帯だ。
フュー自身もデュエルの腕に自信を持っているが、魔と戦いたいわけじゃない。
「中国のコトワザで言う虎穴にはいらずんば虎児を得ずってね。信頼してるぜ、俺のデッキ。さあ、共に闇の深奥へ向かおうじゃねえカヨ」
だが、不敵な笑みを浮かべ道なき道を歩む。瘴気はいよいよ物質化しするほどに濃くなり行く手を阻む。不気味に曲がりくねった枝が引っかかるが、特別製の服を着ている。その程度ではほつれもしない。
「これは、何ダ?」
うっそうと茂った森の奥。太陽の光すら届かぬ深淵の中には、闇の神殿があった。それは、冒涜的な角度でねじ曲がった柱で支えられた、見るだけで人の瘴気を侵す狂った神を祭る邪なる聖域。
「――どこに行こうと言うのかね。ここは人間ごときが足を踏み入れてよい場所ではないというのに」
どこからともなく、傲慢さと冷酷さをにじませた冷たい声が降ってきた。
だが、フューは事前に周囲と神殿には誰も居なかったことを確認している。彼は、幽霊のように忽然と現れた。
「番人と言うわけか!」
フューは振り向くと同時、デュエルディスクを展開した。一瞬でも気を抜けば、やられると確信する。
敵の姿を視認した。サングラスに黒服の男、一見した限りでは人間だ。だが、どことなく非人間的な気配がする。
「ほう。多少は心得があるようだ。……だが、デュエルとは本来神へ捧ぐもの! 人間ごときが我が物顔でそれを使うものではないのだよ!」
「……ハ、人間とはデュエルできないってか。それとも、臆病風に吹かれたかイ?」
「私が怖気づいたと? 良かろう! 貴様にはもったいないが、邪神に捧げる贄として闇のデュエルを執り行う!」
「望むところダ!」
奴が左腕を掲げた。そこから骨のようなおぞましいデュエルディスクが生えてくる。吐き気がするほどの瘴気、心得のない人間では前に立つことすらできない領域。
「神聖なるデュエルと人間の魂を、御身に捧げます。我が神よ」
「貴様、人間じゃないダロ?」
「先ほどからそう言っている」
フューは奴から視線を動かさず慎重に周囲の気配を探った。他の気配は感じない。油断した隙に後ろからグサリは、おそらくない。
ゆえに、まずはこの敵を倒すことに集中する。
「「――デュエル!」」
・1ターン
「先攻は私だ!」
人外の男がカードを引く。まるでマリオネットじみた、関節があるとは思えない気色の悪いその動作。
「……さて、何が来ル?」
フューは最大限に警戒する。これは儀式を超えた闇のデュエル。敗北した魂は、二度と太陽の光を拝むことはできないだろう。
「私は手札から永続魔法『未来融合』を発動、このカードは1ターン後の未来に融合素材をデッキから墓地に送り、2ターン後の未来に融合召喚する!」
「融合か! だが、融合ならヴェルテの十八番だ。人間を舐めるなよ」
「ふふ。人間を舐めるな、か。どうも君は融合のことを良く知っているようだ。博識な君は知っているかな? この最強のカードを。私は『
「F・G・D……! そいつは数あるデュエルモンスターズの中でも最高峰の攻撃力を持つと言う……ッ」
その存在はフューも知っていた。攻撃力5000という超弩級のモンスター、一度現れれば大ダメージは免れない。
それを超える攻撃力のモンスターを出す手段は、フューにはない。
「私はさらにカードを2枚セットしてターンエンド。さあ、君のターンだ。おっと、サレンダーは無駄とだけ言っておこうか。闇のデュエルはどちらかの魂が砕けるまで止めることは許されない」
彼は傲慢に笑ってターンを終えた。
場:
魔法+罠:『未来融合』、セット2枚
・2ターン
「だが、あんたの場はがら空きだぜ。ダイレクトアタックを決めてやるヨ!」
「ふふ。そううまく行くかな?」
ちら、と目線を合わせてフューはカードを引く。
「俺のターン、ドロー!」
2ターン後に現れるのは超強力モンスター。だが、2ターンは長い。2回攻撃するチャンスがあるのだから、そこで仕留めるまでとフューは殺気を向ける。
「俺は手札から魔法『手札断殺』を発動! 『風化戦士』と『怒気土器』を捨てて2枚ドロー! そちらもドローを行うがいい!」
「では、私は『トライホーンドラゴン』と『輝光竜セイファート』を捨てて2枚ドローさせてもらおう」
やはり彼は人外じみた動きでドローを行う。
「効果によって墓地に送られたとき、『風化戦士』はデッキから『化石融合ーフォッシルフュージョン』を手札に加えることができる! 今手札に加えた魔法『化石融合』を発動、墓地の『怒気土器』と貴様の墓地の『トライホーンドラゴン』を除外して融合ダ! 『化石融合』は相手の墓地のモンスターも融合素材にできるンダ!」
「なに……我が墓地の『トライホーン』が除外されただと!?」
ドラゴン族は墓地のアドバンテージを重視する。今除外されたのは決して小さい被害ではない。
「遥か古代の王者! 既に滅びしその姿を現代に再臨し、その雄々しき牙で敵を噛み殺すがいい! 融合召喚、『古代化石竜スカルギオス』!」
骸骨の竜ががしゃがしゃと身体を動かす。骸とはいえ、古代世界の王だったもの。その威容は敵を震えあがらせる。
「そして『マスマティシャン』を召喚、効果でデッキから『シェル・ナイト』を墓地に送る。そして、墓地に送られた『シェル・ナイト』の効果! デッキからレベル8『地球巨人ガイアプレート』を手札に加える!」
フューが一瞬だけ目を細める。『ガイアプレート』はそのまま特殊召喚できる。だが、2枚の伏せカードがある。
あれがもし強力な罠だった場合、『ガイアプレート』まで失ってしまうことになる。そして、3体でもライフ8000は削りきれない。ならば。
「バトル! 『古代化石竜スカルギオス』、『マスマティシャン』。ダイレクトアタックだ! 【ダブルバイト・ロック】!」
◆『古代化石竜スカルギオス』 ATK:3500
◆『マスマティシャン』 ATK:1500
そして、フューは彼が三日月の笑みを浮かべたことで罠だったのだと確信する。
「愚かな。ただの攻撃が、この邪神の遣いに通用するものか。自身の弱さを呪い、無念のうちに朽ち果てよ! トラップオープン、『聖なるバリア - ミラーフォース - 』! 貴様のモンスターを全滅させる!」
「なん……だとォ!? 伝説級のカード。そこまで強力な罠を使いこなすのカ!」
「その通り。地上を人が支配するのは間違っている。真に優秀なのは我々魔に属する側なのだよ」
「だが、”化石”融合モンスターが破壊されたとき、墓地の魔法『化石融合』は手札に戻ル! さらにバトルフェイズを終了、墓地の『シェル・ナイト』と『スカルギオス』を除外して手札から『地球巨人ガイアプレート』を特殊召喚!」
あれが罠なのは疑っていた。だからプランBは用意してある。
「『ガイアプレート』は戦闘を行う時、相手モンスターの攻撃力を半分にする! 俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」
場:『ガイアプレート』 ATK:2800
魔法+罠:セット2枚
「なるほど、そのモンスターは我が『F・G・D』の対策か。攻撃力5000の大型モンスターだが、半減させられては2500。貴様の『ガイアプレート』には敵わない。……などと思っているのなら、甘いぞ!」
「なに!? まさか、エンドフェイズに仕掛けてくるか!」
「そうだ! 私は伏せていた速攻魔法『スケープゴート』を発動! 4体の羊トークンを生み出す! ただし、このターン私はこれ以上の特殊召喚はできなくなる。もっとも、今はまだ貴様のターンだがな」
「……ミラーフォースと合わせて二重の防御。トラップを対処しても壁がある。そこまで防御を固めていたか」
「否、これは攻めのためのカードなのだよ。次のターン、君の生を絶望のうちに終わらせてあげよう。苦痛も、悲哀も、全ては生きているがゆえ。死は救済なのだ」
・3ターン
「私のターン、ドロー!」
引いたカードを碌に見ずに、敵は三日月の笑みを浮かべて殺意を飛ばす。
「そして、このターン『未来融合』の効果でデッキから5枚のドラゴン族モンスターを墓地に送る!」
「……好きにしろ」
フューは苦い顔をする。墓地に5体のドラゴン族が置かれた。『F・G・D』降臨は次のターンだが、これは厄介だ。
「そして――ふ、このカードは何か、貴様は分かっているのだろうな。融合を得手とするのなら、強力な融合カードの一つや二つを知らなくては恥と言うものだ」
「お前はドラゴン族の使い手。……ならば、そのカードはやはり『竜の鏡』か」
「……ふ。だが、その前に! 貴様には圧倒的な絶望をプレゼントしよう! 私は手札から『アボイドドラゴン』を通常召喚。羊トークン2体で連続リンク、現れろ2体の『リンクスパイダー』!」
「そして、フィールドの5体をリンクマーカーにセット。現れろ、究極のモンスター! 5つの魂より降臨し、地上の全てを燃やし尽くせ! 『
「リンク……! 融合だけじゃないのカヨ」
「そして、聡明なる君のご存知の通りに『龍の鏡』を発動、墓地のドラゴン族5体を除外し、このカードを融合召喚! 5体の竜が交わりしとき、地上で最も邪悪なるモンスターが誕生する! 出でよ、『F・G・D』!」
「そして、『L・G・D』で『ガイアプレート』を攻撃!」
「なに!? だが、俺の『ガイアプレート』には攻撃力半減効果がある!」
「『L・G・D』は他のカード効果を受けない! よって、攻撃力半減効果は無効! その哀れなモンスターを引き裂け【フィフス・リンク・ゴッドフレイム】!」
◆『L・G・D』 ATK:5000
VS
◆『地球巨人ガイアプレート』 ATK:2800
「ぐ……があああああ!」
〇 フューライフ 8000ー2200=5800
土の巨人は燃やし尽くされ、フューもまたその魂ごと燃やされる! 凄まじい苦痛にフューは叫ぶ。
このままでは、デュエルが終わる前にフューの命が燃え落ちてしまう。
「さらに『F・G・D』でダイレクトアタック! この力、人間ごときには耐えられまい! やれ【フィフス・ヘッド・ゴッドフレイム】!」
「ぐ……! だが、永続罠『化石岩の解放』を発動! 除外されている『怒気土器』を特殊召喚、守備表示!」
◆『F・G・D』 ATK:5000
VS
◆『怒気土器』 DEF:500
「ぐあっ!……だが、俺はまだ生きてるゼ! モンスターとの絆が俺を生かしてくれた! これでお前の攻撃は終わりか!」
「なるほど。今の一撃でライフを削りきれずとも魂を砕くには十分だと思っていたが……まさか盾を用意するとはな。だが、『L・G・D』は他のカード効果を受け付けない究極の耐性を持つ。そして『F・G・D』とともに、光モンスターでなくては戦闘破壊できない」
「まさか、カード効果を受けないモンスターが居るとはネ。すさまじい耐性、それに次のターンには『未来融合』の効果で最初の『F・G・D』まで召喚されるというわけカ」
「そうだ。これこそが我々魔に属する者のデュエル。お遊び半分の人間たちとは違うのだよ。もっとも『L・G・D』は、その強力な効果の代償として君のターン終了時に私の墓地のカードを5枚除外する必要があるのだが」
「墓地の……? そうか、あの連続リンクはそのためニ!」
奴の墓地は8枚。そう、『リンクスパイダー』2体を出していなければ6枚。なんとか化石融合で相手の墓地を2枚除外すれば、次のターン終了時に『L・G・D』は自らの効果で消えていた。2枚除外は自爆特攻で『化石融合』を手札に戻せば難しいことではなかったはずなのに。
では、更にもう1ターン耐えるか? 効果を受けない耐性、2体目の『F・G・D』まで出てくるのに。
「さあ、脆く儚い人間よ。この圧倒的な絶望を前に何をしてくれる? 私はこれでターンエンド」
・4ターン
だが、攻撃力5000のモンスター2体を前にフューは不敵に笑って見せる。彼が喰らった一撃は決して浅くないのに。
それが闇のデュエル。儀式のデュエルが誇りを賭けた決闘ならば、魂を賭けた殺し合い。
「へえ。戦闘破壊できない……ね。イイこと聞いたぜ、あればいいってわけじゃないと教えてやるヨ。人間を舐めるな。人間がその歴史の中でどれだけデュエルのテクニックを磨き上げて来たか、わからせてやル」
――激痛をこらえ、カードを引いた。
「俺のターン、ドロー!」
焼け焦げてボロボロになっている。だが、威風堂々と敵に立ち向かうのだ。攻撃力5000、それも耐性まで持っているモンスターだが、立ち向かう術はある。
「手札から再び魔法『化石融合』を発動! 墓地の『風化戦士』と『ガイアプレート』を除外融合! 現れよ、新たなる古代の最強マシン。その雄大なる躯体で世界を巡れ! 『古生代化石マシン スカルコンボイ』!!」
それは骨を纏う装甲車。凄まじい速度で疾走し――F・G・Dはその加速について来れない。置いて行かれる。
「『スカルコンボイ』がある限り、相手の場のモンスターの攻撃力はその元々の守備力分ダウンする!」
「『L・G・D』は効果を受けず、守備力もない!」
「だが、『F・G・D』の守備力は5000。……よって、攻撃力は0だ!」
「ぐ……だが、貴様のモンスターの攻撃力はたかが2100! それでは私のライフは削り切れない! そして、次のターンで『L・G・D』によって破壊すれば、その効果もなくなる!」
「それは貴様のライフが残った場合の話だ! バトル! 『スカルコンボイ』はモンスターに3回攻撃できる! 受けろ【トリプルアクセル・ストライク】!」
◆『古生代化石マシン スカルコンボイ』 ATK:2100
VS
◆『F・G・D』 ATK:0
〇 ライフ 8000ー2100ー2100ー2100=1700
超高速で走るスカルコンボイが後ろを振り返る、無防備なF・G・Dに体当たりし、その衝撃が謎の男を引き裂いて行く!
「ぐ……があああああ! まさか、破壊耐性を逆利用して私のモンスターを的にしただと!?」
膝をつく。人外とは言え、奴もダメージを受ける。だが……今の連続攻撃では倒すには至らない。
「だが、私のまだライフは残っている。詰めが甘かったな」
今にもちぎれそうな腕でデュエルディスクを保持する。身体がぐちゃぐちゃなのに、その声は恐ろしいほど落ち着いていた。
「俺のターンが終わりだって? 勝手に人のターンを終わりにしないでもらいたいネ! 伏せていた速攻魔法『マグネット・リバース』を発動!」
「馬鹿な……速攻魔法だと!? そうか、貴様もまた攻撃のためにカードを伏せていたのだな!」
「ああ、そうだ! このカードは墓地もしくは除外された通常召喚できない機械族・岩石族モンスターを特殊召喚できる!」
「除外された……では、あの時に攻撃力が高い方を選択しなかったのは!」
「そう、この瞬間のためサ! 戻ってこい『古代化石竜スカルギオス』! 『F・G・D』に4度目の攻撃! 【タイラントバイト】!」
◆『古代化石竜スカルギオス』 ATK:3500
VS
◆『F・G・D』 ATK:0
〇 ライフ 1700ー3500=0
「馬鹿な。この私が、人間ごときにィィィ!?」
スカルギオスの牙がF・G・Dごと彼を八つ裂きにした。
「――オレの勝ちだ」
デュエルが終わり、フューはへたりこんで空を見上げる。
「ああ、きっつ。滅茶苦茶痛ェ、こいつはもう本当にヤバイところまで進んでますぜ。なあ社長、姫サマ……」
ボヤいて、バッグからいくらか機械を取り出してごそごそやった後、すぐに立ち上がって来た道を引き返す。
調査にかけた時間は5分ほどだ。ここは特級の危険地帯だと理解した。すぐに去らなければ自分の命が危ないと判断し、引き際は見誤らない。
ちなみに手札運が良い人、悪い人と言うのは居ると思います。
私は後者です。「ヌメロン」を使えば3割以上事故り、融合フェスで「D-HERO」出張セットを使えば、4枚すべてが手札に揃えたことも(しかも先行)。