悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第24話 作戦会議

 

 

 アイドルのライブ、そしてフューが闇の遺跡へ侵入した三日後。アニーがファニマのサロンへ顔を出した。

 

「やあ、久しぶりだね!」

 

 あっけらかんとした顔でやってきた。彼女は学園に転校してきた。そして、転校してきたからには友達を訪ねるのも当然だろう。お誘いも受けたことだし。

 ……ファニマはある意味では教師以上のアンタッチャブル=権力者だが、そこを気にするアニーではなかった。

 

「あら、いらっしゃい。この学園の居心地はどうかしら?」

「いやあ、以前の学校だと遠巻きにされちゃったりしたけど、ここは親し気に話しかけてくれる生徒さんが多いね! それに、待遇もいいし!」

 

 メイが彼女の分の席を引く。アニーは遠慮なくその席に座った。

 

「では、メイはアニーさんの分の紅茶を用意しますね。暫し、お嬢様のお話相手になってあげてください」

 

 紅茶を淹れに奥に引っ込んだ。

 

「そうね。元々この学園は王族・貴族が通うものだから平等という考え方が薄いのよ。身分の差が前提にあって、その人によって扱いを変えるのは学園組織としてはありえないわね?」

「ああ、そういうこと。アニーちゃんはアイドルだから授業に出れないから授業免除してくれたけど、そういう考えの違いなんだ。そういう教育的スタンス? とか、あまり考えたことなかったなあ」

 

「学生の考えることではないわね。ちなみにそこの働きかけはヴェルテからだったりするわね。経済を動かすほど”力のある”人間の時間を拘束するのは無駄だもの。それで現状、血筋で授業免除されているのがヴェルテの小娘一人だけなのは笑い話ね」

「あなたも凄い人だと思うわよ? あれ、でも待って。王子様も居るんでしょう? その人は条件を満たしているんじゃない? あのキングさんはなんか自称みたいだけど」

 

「ああ、あいつらのは親の教育方針。もっとも、そこら辺を決めているのは王室でしょうけど。息子の教育方針に口も出せない父親って言うのはずいぶんと冷淡だと思わない? 私はお父様の言う通りにここに通っているのに」

「ふーん、王子様って言っても遠目にしか見てないけど色々大変なんだね。なんか二人もいるらしいけど、そういえば弟の方は……」

 

 そこに、紅茶を淹れて来たメイが慌ててやってくる。

 

「アニー様、紅茶です! お菓子はどれがよろしいでしょうか!?」

 

 慌ててがちゃがちゃと音を立てながら置くと、一つお菓子が転がって行く。

 

「ふふ、メイってば慌てんぼね?」

 

 転がって行ったそれを手に取ってぱくりと食べてしまった。行儀が悪いと自覚して、くすくすと笑う。

 

「それで、アニー様! 今日はどのようなご用事で!?」

「ああ、うん……誘われたから来ちゃった。ちょうど暇だったし。……授業を中途半端に受けても効率が悪いのよね」

 

 アニーも一つ取って、大口を開けてパクリと一口。異性が居ないと言うのも気楽なものだ。

 

「そう? まあ、授業レベルであれば私が教えてあげられるけど」

「ほんと? やりい!」

 

 話題が別の方向へ逸れていってメイが胸を撫でおろす。

 

「それにしても教師に聞きに行った方が良いと思うのだけどね」

「いやあ……なんか、行きにくいじゃん?」

 

「気持ちは分からないでもないけどね」

「あはは……ご迷惑おかけします……学年1位様」

 

「どこでそれを?」

「いやあ、皆言ってるし。アニーちゃん、魔王に挑んだ勇者扱いだよ? 挑めただけ凄いってさ。まあ、皆ネタで言ってるだけだけどね」

 

「……あなた、コミュ力高いのね。たったの三日でしょう? それでここまでクラスメイトに溶け込めるなんて」

「まあ、アイドルは愛想の良さが売りみたいなところあるから」

 

「それは私の方が教えてほしいかも」

「あは! 教える教える! ま、周囲のイメージが固まってると覆すのは難しいものだけど。ね、悪の女王様?」

 

「やっぱりそんなイメージなのね」

「でも、雨に濡れる仔犬に傘を貸してあげるような良い不良?」

 

「コメントに困る」

「あはは。まあ、悪い噂じゃないから安心してって」

 

 くすくすと世間話に興じる女の子達。そこに不機嫌な幼女の声が突き刺さる。

 

「――呑気なものね」

 

 ソファでまどろんでいたエールがむっくりと起き上がった。

 

「エール? どうしたの、あなたの分はちゃんと別によけてあるけど」

「そういうことじゃないわ、ファニマ」

 

「アイドルなんて、所詮は人気稼業。吹けば消える一過性の熱狂、うたかたの夢。熱狂する愚民も、顔も知らない誰かの人気を集めるだけのお人形。……下らない」

 

 吐き捨てた。

 

「聞き捨てならないね。アニーちゃんはアイドルに誇りを持ってる! たとえ時が経ってアニーちゃんが忘れ去られても! ライブの時に見せてくれる笑顔は本物だ! それが一瞬だったとしても、その刹那は真実だってアニーちゃんは思ってる」

 

 椅子から立って指を突き付けた。

 

「ふん、笑顔なんて現実の前には一瞬で吹き飛ぶわ。愛だの恋だの言ったところで、現実の前に意味はない。世界を支配しているのは血と鉄よ。人間の歴史はいつだって、人間を殺すことで紡がれてきたのだから」

「いつまでも前と同じじゃ芸がない! アニーちゃんは誰かに笑顔を与えるために、いつだってどこだってライブを開く! その一瞬一瞬がアニーちゃんの宝物で、真実だ!」

 

「……」

 

 ファニマは傍で見ているだけだ。持論など持っていない。今、学園でデュエルの腕で君臨していることですら、借り物だ。

 本来のファニマにそんなタクティクスはない。融合した魂が消えれば、それも消えるだろう。”世界”、それを語れる言葉がない。

 

「あの二人、相性悪いみたいですね」

 

 メイが囁いてくる。彼女はその話に参加する資格はある。メイはずっとお嬢様に仕えるメイドとして生きてきた。

 年幼い彼女が長年そうしてきたのだ。幼い方がずっと洗脳にかかりやすいのは言うまでもなく、ゆえにメイにはもう他の生き方など想像できない。

 

 ――メイの世界はお嬢様と自分、そして屋敷で完結する狭い世界。だが、そこが狭かろうが”世界を知っている”ことには変わりない。

 

「そうね。エールは可愛らしい女の子だけど、その商売分野は戦場よ? 死の商売人と呼ばれる類ね。人に笑顔をもたらすアイドル家業とはまるで正反対」

「……ううん、仲良くしてくれると嬉しいんですけどね」

 

「いかにもメイって感じの感想ね?」

「あ、馬鹿にしてますね! メイだって怒る時は怒るんですよ」

 

「こわくないわねえ」

「もう!」

 

 こっちはこっちでわいわいやっていた。もっとも、険悪な雰囲気はどこにもなかったが。

 

 

 

 そして、そのうちにもう一度ドアが開く。

 

「――やあ、姫様。全てが分かったわけではないが、中途報告に来たヨ。……あ、いや。ちょっとタイミングが悪かったみたいネ」

 

 フューが来たが、開いた扉をそっと閉じようとする。

 

「フュー様! 来たんならあの二人を止めてください!」

「おいおい、無茶を言わないでくれよ、メイ。というか、あのかわいい嬢ちゃんはどこのどなただい?」

 

「この子はアニー・フロスト。強いから戦力になるわ。まあ、それも校内に居るときにコトが起きればだけれど」

 

「あう! アニーちゃんを知らない人が居るなんて! アニーちゃんはアイドルやってます!」

「ほう、こんな可愛い子の歌なら一度聞いてみたいものだネ」

 

「じゃあ、特別にショートバージョンを一曲!」

 

 今にも踊り出しそう。サービス精神旺盛だ。

 

「フュー。その子に構わないで。早く報告を」

 

 一方でエールは機嫌悪げにベッドの上で腕を組んでいる。誰が見ても分かるほどスネている。

 

「……どうする、姫様?」

「そうね、報告の方をお願い。アニーも聞いておくといいわ」

 

 アニーは一旦エールから離れてファニマ達の席に戻る。エールは相変わらず専用のふかふかソファーに陣取っている。

 

「お、おう。では、単刀直入に言わせてもらうが……かなりヤバイ状況だ。今日明日にでも何かが起こるかもしれない」

「……何かとは?」

 

「分からない。けれど、【魔の森】から悪霊が溢れてくるかもしれない。もしくは何かしらの天災が起きても不思議じゃない」

「そんなにマズイことになっているの? 早すぎる」

 

 ファニマが目を逸らした。それはゲームの知識、まあ使い物になるかは怪しいところだが……それでも開始時期の検討くらいはつけられると思っていた。

 本格的な人と魔の抗争は、攻略対象たちに鍵を渡してからのはずだった。そこを区切りとして動くつもりだった。

 

「フュー、データを見せて」

「あいよ、エール様」

 

 敬称は敬称でも、ファニマとは響きが違う。エールはお子様の外見だが、こと戦争に関わりのある人間であれば知らない人間はいない。ウィッチクラフト製の最新兵器を知らずに戦争をすれば、即ち負けだ。

 尊敬されるだけの理由はある。もっとも、それ以上に命を狙われる理由もあるけれど。

 

「……ふうん。その見方は妥当ね」

 

 雑多なデータが多重に表示されていて、見てもファニマには何が何やら分からない。

 

「お嬢様? お嬢様には分かります?」

「分からないわね。けれど、信用する専門家のことを信じればいいのよ。理論的には正しくても都合が悪いことがあるから、そこは別の専門を用意しておくのが政治家だけど」

 

「なるほど……!」

 

 まあ、そういうことだ。理論は重要じゃない。テレビが映る原理が分からなくても、ボタンを押せば電源が付くことが分かっていればそれでいい。

 知らなくてはいけないのは理論が導く結果の方だ。

 

「それで、フュー。時間は特定できる?」

「無理だよ、姫様。さすがにデータがなさすぎて判断付かなイ」

 

 おどけて首と手をひらひら振って見せた。ふざけてはいるが、声音は真剣だ。ここに居る誰もが無駄に犠牲が増えることは望んでいない。

 むしろ、減らせるものならば減らしたいと願っている。

 

「警告も無理そう?」

「閾値の設定も無理だしな……いや、コトが起きなきゃ駄目だ。姫様は校舎の閉鎖も考えてると思うが、このデータじゃ説得材料には弱いと思う。悪いが」

 

「――別に、そんなこと考えてないけど」

 

 つい、と目線を逸らした。

 

「こういうのがツンデレって言うのかしらね。で、フュー。そうすると、あなたはどう動く気?」

 

 エールはそんなファニマを見て艶然と笑う。

 

「遺跡を探索する。強力な悪霊が守っているから調査が進んでいない。だが、手がかりはあるはず」

「手助けは必要?」

 

「必要ない、俺はソロでやるのが慣れてる。んじゃ、もう一潜り行ってくるゼ」

「待ちなさい、非常時の動き方を決めておきましょう。戦力は揃っているのだから、遊ばせておくのももったいないわ」

 

「さすがエール様、ご慧眼だ。ぜひとも戦力配分のご意見まで伺いたいところだね」

「メイ、学園の地図を。相手が少数なら各個撃破すればいいけれど、多数だったりした場合は適当に分散するのは効率が悪い。片端から殲滅していくには……そうね、このルートを使えばいいと思うわ」

 

 机に地図を広げて、遠慮なくペンを滑らせる。届かないから椅子の上に立っているのがまた可愛らしいが、戦術はガチだ。

 

「なるほど。良い戦略眼だな。だが、生徒が残っている場合のことを考えると、避難場所が必要だな。そうだな、体育館を避難所にすればいいダロ」

「そうね。そこに押し込めておけば邪魔にならないわね。ファニマも、それでいいかしら」

 

「ええ、あなたたちの策ならば間違いはないでしょう。アニー、あなたはどうする? 来たばかりでよく分からないでしょうけれど、この学園に魔の脅威が迫っている。あなたには逃げるという選択肢がある」

「ふふん。ファニマちゃんはアイドルを誤解しているわ。アイドルはいつだって命がけ! 誰かに笑顔をプレゼントするため火の中水の中ってね!」

 

「そう。……あなたも、お人好しね」

「誰に言われたわけでもなくそれをやってるファニマちゃんが言う?」

 

「ふふ、確かにそうだった」

 

 一息ついて、厳かに宣言する。

 

「始めましょう。魔の脅威を払いのけんがため、【ヴェルテ・ユニオン】は行動を起こす。地上の支配者が誰であるのか、身の程知らずに教えてあげましょう」

 

「「「――おう!」」」

 

 と、拳を合わせた。

 

「あれ? アニーちゃんも入ってる?」

 

 一方で、首をかしげた。

 

 

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