悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第25話 混乱

 

 

 ファニマはいつものごとく居座ってサボっているエール、そして最近出入りするようになったアニーの四人で机を囲んでいる。

 なんだかんだで相性の悪いエールとアニーだが、お菓子と紅茶の前で喧嘩はしない。

 

「……平和ですねー」

 

 メイが紅茶を淹れながら呟いた。

 

「そうね。けれど――いつまでもつか」

 

 その瞬間、世界が揺れた。

 

「きゃあ!」

「メイ!」

 

 カップを取り落とし、倒れかけたメイをファニマが立ち上がって支える。そして、油断なく周囲に目を配る。

 

「……地震? アニーちゃん、こわーい!」

 

 アニーはささっと机の下に隠れた。身のこなしが素早い。

 

「なるほど。これは……始まったわね!」

 

 逆にエールは椅子の上に立ち上がった。ゆれても落ちる様子がないのは、”立っていないから”。浮かせた箒を掴んでいる。

 

「エール、ついに来たのね。この時が」

 

 メイを抱きしめたままファニマがエールと視線を交わす。

 

「そうよ。邪神の復活が始まる、そして邪神の落とし仔どもが騒ぎ始めた」

 

 そのエールはくすくすと艶然と笑っている。想定していた中でも最悪の事態だ。魔の森から落とし仔共の侵攻が始まった。

 エールは生徒の心配などしていなくて、新兵器を試せるのが嬉しいのだろう。警告すら出せていないから、その生徒たちは怯え惑い……そして奴らに魂を奪われることだろう。

 

「この混乱。私たちも対処に向かう必要があるわね。……フュー!」

 

 スマホを耳に当てた。……が、雑音しか聞こえない。

 

「チ。瘴気の蔓延が電子機器を狂わせているわね」

「まずは雑魚を片付けないと始まらないわ」

 

「ええ、それも落とし仔達が魔の森から溢れ出すなんて――ね。フューの上げたシナリオの一つではあるけれど、実際に起きるとは正直私も疑っていたのよね」

「あなたが狩っていたしね、ファニマ」

 

「こうなるんだったら、暇つぶしじゃなくてもう少し真面目にやっておいた方が良かったわね」

「どうせ犠牲になるのは愚にも付かない生徒どもよ。強いデュエリストなら、助けるまでもない。自分で戦えるわ」

 

 そこに、扉がバンと開かれた。

 

「ファニマ! この騒ぎはどういうことだ! お前なら何か知っているんじゃないか!?」

 

 慌てた元婚約者殿がやってきた。後ろには兄も居る。

 

「変態、来たのね。詳しい事情が知りたければ後で校長にでも聞きなさい。私たちは生徒たちを襲う敵を始末する。あなたはエレメとともに避難誘導を行いなさい。避難場所は体育館で良いでしょう。あそこは頑健な建物だわ」

 

 一気にまくし立てた。初手から”これ”は予想外でも、学園内での市街戦は予測済みだ。当然、避難場所に相応しい場所も選定してあった。

 

「了解だ! 誘導係と言うのは忸怩たる思いだが、誰かがやらねばならぬし俺はお前に勝っていないからな! 校長に話を聞くときはお前も来いよ!」

 

 走って行った。思い込みの激しい男だが、その分行動は速い。逃げ惑う生徒たちは彼に任せればよいだろう。

 

「行ったわね。ならば、反撃を始めましょう。人がただ狩られるだけの存在ではないことを、文字通りの人でなしに教えてあげましょう」

 

 ファニマが宣言する。纏まりなどなさそうなこのメンバー、リーダーを務めるとすればスポンサーの彼女しかいない。

 

「三……いえ四手に別れて敵を撃滅するわ。サーチアンドデストロイ、目についた端から始末していく。結局はこれが一番被害が少なくなるはず。あの変態がディフェンス、私たちがオフェンスよ」

 

 そして、スマホに学園の地図を出す。電波が死んだだけで、電気機器がおかしくなったわけではない。そして、ある地点を指さして。

 

「フューはここに居る。これはGPSが途切れた時点での位置だけど、彼も戦っているはず。取り決め通りに動くわ。エールはこちらの方面へ。アニーはこちら。私はこのルートで敵を殲滅する。今一度の確認は済ませた? では、学園を救いに行きましょう」

 

 三者が向かい合わせに顔を合わせ、頷いた。

 

「作戦開始!」

 

 サロンを出て、走り出した。

 

 そして、一番初めに敵と出会うのは箒という最強の移動手段を持つエールだった。

 

「さあ、見つけたわ。叩きのめしてやるわよ、アイネ!」

「ええ、あんな奴らに学園を好きにさせるわけは行かない」

 

 そして、敵――瘴気が凝ったような不定形が相手だ。人を喰らう闇の球体が獲物である学園生に迫るのをやめて、彼女たちを見据えた。

 その球体からデュエルディスクが突き出した。

 

「「デュエル!」」

 

 闇のデュエルが始まった。

 

・1ターン

 

「我の先攻」

 

 球体から不気味な声が響く。

 

「我の『聖刻龍ーアセトドラゴン』はリリースなしで通常召喚できる。代償として攻撃力は1000となる」

 

 聖なる刻印を持つ龍が吠えた。

 

「場の『アセトドラゴン』をリリース、手札の『聖刻龍ーシユウドラゴン』を特殊召喚。そして、リリースされた『アセトドラゴン』はデッキ・手札・墓地からドラゴン族通常モンスターを呼ぶ」

 

 龍はリリースされたが、その聖刻印のみが残る。それに呼ばれ、現れるは新たなドラゴン。

 

「デッキから『エレキテルドラゴン』を特殊召喚。ただし、代償として攻撃力は0となる。守備表示」

「レベル6が二体揃った。エール様、来ます……!」

 

「我はレベル6『エレキテルドラゴン』と『シユウドラゴン』でオーバーレイ、エクシーズネットワークを構築。聖なる証を刻まれし龍よ、その大いなる姿をもって凱旋を。ランク6『聖刻龍王ーアトゥムス』」

 

 龍王が現れた。一般生徒はその攻撃力だけでも対処しがたいモンスターだが、これは始まりに過ぎない。

 

「オーバーレイユニットを1つ使用し効果発動、デッキから攻撃力を0にしてドラゴン族を呼び出す。『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を特殊召喚。そして、その攻撃力は失われたが、効果までは無効になっていない。墓地の『シユウドラゴン』を特殊召喚」

 

 地面を殴ると聖刻印が刻まれる。聖刻印を破り地から現れたるは、紅き瞳の闇龍。恐ろし気な咆哮を響かせた。

 

「さらに手札から魔法『招集の聖刻印』を発動。聖刻モンスターであるもう1体の『シユウドラゴン』をデッキから手札に加え、場の『シユウドラゴン』をリリースして特殊召喚!」

 

 また、聖刻印が宙に残る。ドラゴンが現れる。

 

「リリースされた『シユウドラゴン』の効果により、デッキから攻撃力を0にして『ラブラドライドドラゴン』をデッキから特殊召喚! 守備表示」

 

「レベル6が更に2体……? まさか、上級モンスターでのエクシーズを1ターン中に二度もやろうと? 落とし仔、そこまでの力を……!」

「そういうことね。けれど、エールの前では雑魚よ」

 

 アイネは慌てふためているが、実際に目の前にしているエールはせせら笑いを浮かべている。

 

「再びネットワークを構築、『シユウドラゴン』と『ラブラドライド』でオーバーレイ。現れよ2体目の『聖刻龍王ーアトゥムス』! そして同じように『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を特殊召喚! ……ただし、その効果は名称ターン1のため蘇生はできない」

 

「2体の『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』により、三度目のオーバーレイネットワークを構築! 紅き瞳持つ龍よ、その死骸をもって鋼鉄の兵器へと生まれ変われ! あらゆる生命を蹂躙する忌むべき戦火がここに現出する! ランク10『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』!」

 

 龍の装甲を引きはがして作られたのは超弩級の戦車。戦争の象徴。その強大なる威力は人々の命を奪い去った。

 

「『グスタフ』はオーバーレイユニットを1つ使用することにより、相手に2000の直接ダメージを与える! 【マックス・シューター】!」

 

 あまりにも大きな砲塔がエールを狙う。これは1ターン目、エールには防ぐ手段もなく喰らってしまう。

 

「きゃあああああ!」

 

〇 エールライフ:8000ー2000=6000

 

 アイネとともに大ダメージを喰らってしまった。ボロボロになったローブ。それでもエールはアイネを支えに立ち上がる。

 

「我はこれでターンエンド」

 

場:『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』 ATK:3000

 『聖刻龍王ーアトゥムス』 ATK:2400

 『聖刻龍王ーアトゥムス』 ATK:2400

 

・2ターン

 

「……無事ですか、エール様?」

「痛いわね、お返ししてあげる! エールのターン、ドロー!」

 

 攻撃権を持っていれば叩き潰されていたこの攻撃力。『アトゥムス』は効果を使ったターンに攻撃できないが、『ガイアドラグーン』にすれば攻撃力を200上げたうえで攻撃できるようになっていた。

 

「ふふ。うふふふふふふ」

 

 手札を見て、皮肉気に笑った。

 

「感じる、感じるわ……ヴェルテ本家の技術を元に作った新しいカードの鼓動。あなたはデッキに眠っているのね。いいわ、お前程度にはもったいないカードだけど、栄誉ある実験台にしてあげる」

「……我がフィールドのモンスター、その総攻撃力は8000を優に超えている。このターンが終わった後、貴様に次のターンは来ない」

 

 強力な攻撃力を持つモンスター達を並べ、勝ち誇る闇の球体に対してエールは失笑を漏らす。

 

「くく、あはははは! 何と言う笑い話ね! デッキに眠っているから安全などと、そんなことがあるわけないでしょうに!」

 

 そう、現代遊戯王でデッキに触れないのは1ターン目。それも、相手に先攻を取られたときの話でしかない。いくらでも”まくれる”し、そうでなければ勝利などできない。

 

「手札の『マジシャンズ・ソウル』の効果発動! デッキからレベル7『ウィッチクラフト・ハイネ』を墓地に落とし、こいつを特殊召喚! そしてモンスター効果を発動! 手札の『ウィッチクラフト・デモンストレーション』と『ウィッチクラフト・バイストリート』を墓地へ送り、エールは2枚ドロー!」

 

 引いたカードを見てニヤリと笑う。

 

「ふ……来たわ。これこそが新たなるウィッチクラフト魔法! そう、ヴェルテは融合の家系! ゆえに私たちも、その力を扱えないはずがないのよ! 手札から魔法『ウィッチクラフト・コンフュージョン』を発動! このカードはウィッチクラフトモンスターを含む融合を行う!」

「……融合。来るか」

 

「場の『マジシャンズ・ソウル』と手札の『ウィッチクラフト・ピットレ』で融合召喚! 思えばあの子も立派になったものね? 現れなさい、我がウィッチクラフトの代表者! 『ウィッチクラフト・バイスマスター』!」

 

 これこそがウィッチクラフトの集大成。ヴェールは黒幕、6属性を主とした6人が集まった。6つの専門を束ねた力こそが最強である。

 そして、このカードは仲間の力がないと発動しない。

 

「墓地の『ピットレ』の効果発動! 自身を除外しカードを1枚ドロー、そして手札のウィッチクラフト『ウィッチクラフト・シュミッタ』を墓地へ送る!」

 

「この時、『バイスマスター』の効果も発動している! 魔法使い族モンスターの効果が発動した時、選択効果を発動! 第1の選択効果、デッキから『ウィッチクラフト・ポトリー』を特殊召喚! 【アトリエアート・1st・サモン】!」

 

「さあ、次よ! 墓地の『シュミッタ』の効果発動! 自身を除外しデッキから魔法『ウィッチクラフト・サボタージュ』を墓地へ落とす!」

 

「この時、『バイスマスター』の第2の選択効果を発動! 墓地のウィッチクラフト魔法『コンフュージョン』を手札に戻す! 【アトリエアート・2nd・コール】!」

 

「そして特殊召喚された『ウィッチクラフト・ポトリー』の効果発動! 自身と先ほど手札に戻した『コンフュージョン』を墓地へ送り、デッキから『ウィッチクラフトゴーレム・アルル』を特殊召喚!」

 

「この時、『バイスマスター』の最後の選択効果を発動! 『グスタフ・マックス』を破壊する! 【アトリエアート・3rd・デストラクション】!」

 

 6つの光条がグスタフを貫き、炎上させた。

 

「バトル! 『アルル』で攻撃! 【ゴーレムナックル】!」

 

◆『ウィッチクラフトゴーレム・アルル』 ATK:2800

 VS

◆『聖刻龍王ーアトゥムス』 ATK:2400

 

 美しい少女の形をしたゴーレムが龍王を殴り飛ばす!

 

〇 ライフ 8000ー400=7600

 

「『バイスマスター』で攻撃! 【ウィッチクラフト・シャイン】!」

 

◆『ウィッチクラフト・バイスマスター』 ATK:2700

 VS

◆『聖刻龍王ーアトゥムス』 ATK:2400

 

 6人分の力を合わせて出来た光球が龍王を飲み込んだ。

 

〇 ライフ 7600ー300=7300

 

「私はこれでターンエンド。そして墓地の『サボタージュ』と『デモンストレーション』が手札に戻り、フィールドに『ウィッチクラフト・バイストリート』が復活。これでエールの魔法使い族モンスターは1ターンに1度だけ破壊されない」

 

場:『ウィッチクラフト・バイスマスター』 ATK:2700

 『ウィッチクラフトゴーレム・アルル』 ATK:2800

魔法+罠:『ウィッチクラフト・バイストリート』

 

・3ターン

 

「我……の……ターン」

 

 1killが可能だった総攻撃力が今や、場が空となってしまった。

 衝撃で壊れかけたような歪んだ音声。その球体は傷ついて凸凹になっている。いや、そもそも聖刻は大量展開して一撃で決めるデッキだ。使った手札が3枚とはいえ、1ターン目にあれだけ展開すればリソースも尽きる。

 すがるようにカードを引いた。もっとも、腕もない球体だからふわふわとカードがひとりでに動いているように見えるのだけど。

 

「――そして相手のスタンバイフェイズに『アルル』は私の手札に戻る」

 

 エールはそんな相手を見てニヤリと笑う。ウィッチクラフトは継戦能力にも優れる。次のターンの不安などない。

 

「……モンスターを一体伏せてターンエンド」

 

 たっぷり時間をかけて考えたが、しかしそれしかできなかった。

 

場:セットモンスター1

 

・4ターン

 

「ふふ。どうしようもないみたいね。哀れで弱い、下らない存在。その生に引導を渡してあげるわ。エールのターン、ドロー!」

 

 勢いよくカードを引いた。

 

「エールは手札から魔法『ウィッチクラフト・サボタージュ』を発動! 墓地の『ウィッチクラフト・ハイネ』を蘇生!」

 

 『マジシャンズ・ソウル』でデッキから直接墓地に落としたモンスターだ。

 

「そして『バイスマスター』の選択効果は魔法カードを使用した時にも発動する! そのセットモンスターを破壊! 【アトリエアート・1st・デストラクション】!」

 

 光条がセットモンスターを貫いた。そのモンスターは『リンクアップル』、手札から捨てて1枚カードをドローできるが……どうやら盾に使うことを選んだらしい。

 

「さらに手札から魔法『ウィッチクラフト・デモンストレーション』を発動! さっき手札に戻った『ウィッチクラフトゴーレム・アルル』を特殊召喚!」

 

「さらに『バイスマスター』の選択効果を発動! デッキから『ウィッチクラフト・シュミッタ』を特殊召喚【アトリエアート・2nd・サモン】!」

 

「絶望し、そして消えなさい。お前など所詮、邪神の瘴気から零れ落ちた一滴の悪意。我が霊妙なる魔法の前に、魂ごと砕け散るがいい! 『アルル』、『ハイネ』、『バイスマスター』、『シュミッタ』の4体でダイレクトアタック。【マジカル・カルテット・デッドエンド】!」

 

◆『ウィッチクラフト・バイスマスター』 ATK:2700

◆『ウィッチクラフトゴーレム・アルル』 ATK:2800

◆『ウィッチクラフト・ハイネ』 ATK:2400

◆『ウィッチクラフト・シュミッタ』 ATK1800

 

〇 ライフ 7300ー2700ー2800ー2400ー1800=0

 

「……」

 

 敵は悲鳴の一つすらも上げず、霞すら残さず消滅した。

 

「さて、1体目ね。アイネ、どんどん始末していくわよ」

「はい、エール様」

 

 そして、箒を駆って次の狩りに向かった。

 

 

 





 アンケートで「デュエルが見たい」の投票が多かったので作った一口デュエル5連発です。たぶんアニメだとカットで流されるはずの、ワンキル合戦となります。
 防御札がないと即殺される現代遊戯王(これでも強くはない)をお楽しみください。

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