学園を襲う落とし仔たちはファニマを狙うヴァンパイアの策略だった。多勢に無勢で疲れ果て、しかし諦めなかったファニマは今。
凄まじい攻撃力を持ったモンスター達と相対しなくてはならない。ただの1ターンで戦闘・破壊耐性を誇るマリシャス・ペインを撃破し、高攻撃力を誇るホエールすらも倒し。そしてファニマのライフは風前の灯である。
場:『ヴァンパイア・ファシネイター』 ATK:2400
『炎神ー不知火』 ATK:3500
『真血公ヴァンパイア』 ATK:2800
『ヴァンパイア・シェリダン』 ATK:2600
『ヴァンパイアの使い魔』 DEF:0
『デストーイ・クルーエル・ホエール』 DEF:2400
魔法+罠:『アンデット・ワールド』、『ヴァンパイアの領域』
〇 ファニマライフ 1700
・3ターン
「――」
状況は絶望的。だが、それ以前に……ファニマのダメージは大きく、彼女は指一本動かせなかった。
意識さえ飛ばされてしまっては。
「ふん、偉そうなことを言っていても所詮は人間。先の一撃で魂が砕けたか。なに、君は人間にしてはよくやったよ。苦しまず、逝くがよい。そして、地上を支配する種が人間からヴァンパイアになるのを天から見ていたまえ……はっはっはっはっは!」
笑う。嗤う。
これぞ策略。まともに戦い、そして負けるのは悪の美学ではなくただの負け犬の遠吠えだ。勝たなくては何も始まらないと哄笑を上げた。
「お嬢様……!」
メイがファニマを揺するが、ぴくりとも動かない。
「そんな……嫌。お嬢様……だって、メイ、お嬢様とずっと一緒に居たんですよ。それなのに、こんな、突然に居なくなることなんて……ひどい……」
涙が落ちる。魔物が居るのだ、逃げなくてはならないがそんな気にはなれない。絶望に足がすくんで、ただの一歩も動けやしない。
「メイ! ファニマはどうなっている!? その、男は……!」
「変態!? なぜ、あなたがここに……!」
エクス、彼は言われた通りに避難活動を頑張っていたが、今や学園の全域が危険地帯だ。彼も満身創痍になっていた。
そうして要救護者を探し回ってここにたどり着いた。頭が悪くとも、こういうところでは”持っている”男だ。
「君にまで変態と呼ばれる筋合いはないと思うが、今はいい。……どうやらファニマは倒されてしまったようだな。いや、ライフが残っている。ならば、俺が代わりに!」
「はっはっは。それは駄目だよ。エクス・ジェイド君、これは我々の戦いとは本来関係のない危険人物を排除するためのことでね。君とは”まだ”戦わない。外野は黙って見ていたまえ」
ちょちょいと指を振ると闇の結界が張られた。エクスはずかずかと足音荒く近づくが、その境界線から先には入っていけない。
「なぜ俺の名前を知っている? いや、今はどうでもいい! そんなもの全て、知ったことか! 彼女を傷付けようとするなら、今ここで貴様を倒す! 力を貸せ、『エクスカリバー』! 聖剣の力で結界を斬る!」
その指先で剣のように構え、カードを一閃した。が、結界には傷一つついていない。運だけではどうしようもない非情な現実だった。
「――部外者は黙っていたまえ。だが、彼女を倒した後、そして真実を知った後ならばデュエルを受けよう。……むん!」
「がっ! うわあああああ!」
ただの一睨みでエクスを吹き飛ばしてしまった。
「さて、立てないデュエリストにターンは回ってこない。吾輩たちのター……なにッ!」
「”僕”のターン、ドロー」
ファニマがメイの腕の中から吊られた人形のように立ち上がり、パントマイムのような動きでカードを引いた。
「……お嬢様?」
見たことがないファニマの姿に、メイはただ混乱するしかない。
「手札から魔法『烙印開幕』を発動、手札から『トイポッド』を捨てることでデッキから『デスピアの導化アルベル』を特殊召喚、守備表示」
その行動も、普段とは違う。勝利を確信したらとりあえず攻撃表示で出すのがファニマだ。素材にするから関係ないが、慎重を期すなら守備表示にしない理由はない。
「〈烙印〉だと? そんなカード、見たことがないぞ!」
「……はい」
エクスもメイもそのカードを見たことがない。そんなことは今までなかった。長い付き合いだ、互いの殆ど全てを知っているはずなのに。
「『アルベル』は召喚・特殊召喚成功時にデッキの〈烙印〉魔法・罠カードを手札に加えることができる。フィールド魔法『烙印劇場デスピア』を手札に加える。さらに墓地に落ちた『トイポッド』の効果で『ファーニマル・ウィング』を手札に加える」
抑揚のない囁き声。まるで、機械のような。
「そしてフィールド魔法『烙印劇場デスピア』の効果発動!! さあ、舞台が上がるぞ。愚か者を八つ裂きにする
一転、マグマのような激情が吹き荒れた。敵を殲滅するまで決して止まらない憎しみ。殺意の波動。
「この効果はレベル8以上のモンスターを融合召喚できる! 場の『アルベル』と手札の『ウィング』で融合! 劇場の道化よ、最も気高き至宝を傷付けた輩に誅伐を下せ! 現れよ、『デスピアン・クエリティス』!」
「効果発動! 場のレベル8以上の融合モンスター以外のモンスター、つまり貴様のモンスター全ての攻撃力を0にする! 【デストピア・イマージ】!」
道化の持つ槍の波動に当てられた瞬間、ヴァンパイアたちが力を失っていく。悼ましいまでの力、明らかに特別なカードだ。
「なんだと……! 吾輩たちの軍勢がいとも簡単に無力化された……ッ!? だが、貴様の身体は既に限界を越えている。このターンさえ凌げば、次のターンはドローする力も残っていまい」
「守備表示のモンスターが居れば凌げると思ったか? 『ファーニマル・ドッグ』を召喚、『エッジインプ・シザー』を手札に加える。そして手札から『融合』を発動、この二体で融合召喚。現れよ『デストーイ・シザー・タイガー』!」
「その効果により貴様の場の『デストーイ・クルーエル・ホエール』と『ヴァンパイア・グレイス』を破壊する! 【シザーブレイク】! 『ホエール』はお嬢様のもの、返してもらおうか!」
「……ぐ。吾輩たちの盾どもが、全滅!」
「さらに手札から魔法『魔玩具融合』を発動! 墓地の『ドッグ』と『チェーン』を除外融合! 昏き海の底より現れ、敵を食らい尽くせ『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」
「馬鹿な……吾輩たちの作戦は完璧だったはず。貴様に、融合モンスターを展開できるだけの力など残っているはずがなかったのだ!」
3体のモンスターが吠える。道化が呪い人形に力を与えている。血に飢えた刃が獲物を今か今かと待っている。
「貴様の場に居るのは攻撃力0の木偶のみ! 裁きを受けろ、腐った死体どもめ! そのみすぼらしいパッチワークごと消え失せよ! 『クラーケン』よ、【ハーケンダンス】二連打ァ!」
相手の場には攻撃力0の木偶達が攻撃表示で棒立ちしている!
◆『デストーイ・ハーケン・クラーケン』:ATK2800
「ひ……ぎゃああああ!」
〇 ヴァンパイアライフ 9300ー2800―2800=4100
「『シザー・タイガー』よ、【シザーダンス】を放て!」
◆『デストーイ・シザー・タイガー』:ATK2500
「ぐわあああ! 待て、待ってくれ。吾輩たちはただ……もう一度、太陽のもとで……暮らしたかっ……!」
〇 ヴァンパイアライフ 4100ー2500=1600
「今こそ断罪の時! 『デスピアン・クエリティス』よ! 太陽届かぬ永劫の闇の元へ奴らを葬り去れ! 【カーテンコール】!」
〇 ヴァンパイアライフ 1600ー2500=0
道化が手にした槍がヴァンパイアを貫いた。それは破滅の槍、闇から出来たそれは、生者であろうと死者であろうと滅ぼし尽くす”国墜としの牙”。
「「「「あああああああ!」」」」
悲鳴の四重奏が響き、身体は塵と化し――後には何も残らない。
「メイ」
〈烙印〉を使い、口調すらも変わったファニマ。どう見ても様子がおかしい彼女は、そのままの調子で話しかける。
「お嬢様のお体を頼みます。あの汚物には任せるわけにはいかない。……あなたのことは信頼できます。お嬢様にはあなたしか居ないのですから、どうかこのお方のことをよろしく頼みます」
ただそれだけを言って、倒れかける。
「わわっ!」
慌ててキャッチした。
「俺の呼び方は今更だが……それにしてもファニマはどうしてしまったんだ?」
結界が消えて、エクスが近づいてくる。
「ええと……メイにも分からないです。とりあえずは、サロンの方に簡単なベッドがありますので、そこに寝かせます。本家と連絡が取れる様になったら迎えに来てもらいます」
「そうするのが良いだろう。……それにしてもあいつがボスか何かだったのか? 周りの悪霊たちが消えたぞ。それに騒ぎの声が小さくなっている。すぐに事態は収拾するだろう。ファニマの容態が急変したら連絡を頼む。俺は助けを待っている人の所へ行く」
言うが否や走り出してしまった。
「まったく、スマホはまだ通じないのにどうやって連絡を取れって言うんですか。まあ、他の人を助けに行ったのなら仕方ないですね。……お嬢様、メイだけはずっと一緒に居てあげますから」
えっちらおっちらとサロンまで背負って行き、ファニマをベッドに寝かせた。暫し待つと、危険は去ったと放送が聞こえてきた。
「これでやっと……長かった一日が終わります」
安らかな寝息を立てているファニマを見て安心すると、メイもまた眠くなってきた。
「少しくらい、メイも寝ていいですよね」
ベッドに突っ伏してしまう。その手はずっとファニマの手を握っていた。
本来の主人公ポジ(悪役令嬢転生もの)が31話になってやっと出てきました。ファニマは彼を半分吸収したようなもので、1話以降のタクティクスは彼のものでした。
本来なら彼のプレイングを学んで強くなって、最後にはお別れですがファニマの場合はどうなるのでしょうね。彼女はあくまで悪役令嬢ですから。