悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第32話 追撃の呪い人形

 

 サロンまでファニマの身体を運んできたメイは、暫しのうたた寝をする。校内ではまだ混乱が続いているが、敵は撃退した。その収拾は教師たちの役目だ。

 

 だから、ここで休むことも許されるだろう。ほっとするような二人の光景の裏、奥の姿見の中に影が蠢いた。

 

「――誰!?」

 

 それは魔の森で散々感じてきた闇の波動。うたたねから飛び起きたメイは即座にデュエルディスクを構えた。

 彼女の眼光は鋭い。戦うことを許してはもらえなかったが、敵を倒せるだけの実力はあると思っている。そして、何より……まだエールが戻ってきていない。戦えるのは自分だけだと覚悟を決めた。

 

「あはは。さすがはあのイレギュラーの従者だ、中々に目ざといね」

 

 鏡の中から闇が語り掛けてくる。茫洋として得体のしれない声……姿すらはっきりしない。目を細めてそいつを観察するが、何も分からない。

 幼いのか、老けているのか。男なのか、女なのか。頭が混乱してくる。

 

「あなたも【セブンスターズ】とか言う奴らですか?」

「そうだよ。人と魔の戦いにおいて、君のご主人様は選ばれていないんだ。にもかかわらず、ここまで首を突っ込んでくれたんだよ。ならば、構ってあげないわけにもいかないだろうからね」

 

 ケケケ、と不気味な笑い声が響いてくる。人を嬲り、殺すのを愉悦する声だ。

 

「そんなことは知ったことじゃありません。お嬢様に手を出すなら、メイが守ります!」

「……ふふ。あははははは! 戦士でもなく、ご主人様に連れられておっかなびっくり我ら魔の領域を歩くだけの腰ぎんちゃくが、”魔を倒す”と? とんでもない思い上がりだ、人間。我らは邪神の加護を受けているのだよ、ただの人間に敵うはずなどない」

 

「それがどうしましたか!? メイはお嬢様にデッキを頂き、お嬢様にデュエルを教わりました! だから、絶対に負けません!」

「――そこまでイカれていると言葉も出ないよ、狂人。ならば、そのお嬢様を守れず死にゆく苦しみを味わうがいい」

 

 鏡の奥の影がカードを投げる。それはとある人形に吸い込まれていく。

 

「これは……!」

「そいつらの始末は任せるよ。今度こそ、人と魔の争いに宣戦の号砲を」

 

「――もう上がったでしょう、お嬢様の勝利で。だから、お嬢様のことを好きになどさせない!」

 

 立ち上がった羊の執事のお人形。魔が憑いたそれは、元の柔和な笑みとは似ても似つかぬ歪んだ嘲笑を浮かべた。

 

「ふん、脆弱な身体だな。まあいい……貴様らを殺すだけならば十分だ」

 

 メイはぎり、と奥歯を噛む。あれはファニマが置いた人形だった。別に友達が居ないからと言って人形に語り掛けるような趣味はもっていなかったお嬢様。置くだけ置いて忘れていたから、愛着を持っているのはむしろ掃除をしていたメイの方なのだけれど。

 ……だからこそ。

 

「お嬢様に逆らうと言うのなら、始末します」

 

 何も躊躇なく、八つ裂きにすると決めた。

 

「「――デュエル!」」

 

・1ターン

 

「メイの先攻!」

 

 人形を犠牲にしたとしても、もろともに必ず倒すと決意しカードを引く。

 

「『ドラゴンメイド・ティルル』を召喚、デッキから『ドラゴンメイド・フランメ』を手札に加え、捨てる。そして、カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

場:『ドラゴンメイド・ティルル』 ATK:500

魔法+罠:セットカード1枚

 

・2ターン

 

(あれ)のターン、ドロー。ふん、凡庸な1ターンだな。所詮はそれが人間の限界、このような身体であれど魔に属する吾に勝てようはずもない!」

 

 そいつはニタリと嗤う。

 

 実は、魔の森から敵が溢れてきたのはヴァンパイアの手腕だった。身を削り、命すらも削る行為でファニマを追い詰めたのだ。

 ひるがえるに、第二のセブンスターズはそこまでしていない。彼は人形を依り代に無理やりここに留まっている。メイに倒されれば、何もなくとも消滅するだろう。

 

 存在を賭けて戦う理由は、ファニマを喰らいその力を得れば悪霊として命を確立できるからだ。そうなれば、セブンスターズの配下として使い捨てられることもなくなる。それどころか、反逆の芽すらも見えてくる。

 全霊をかけて勝利をつかみ取ろうとしているのは彼も同じ。

 

「『ファーニマル・マウス』を召喚、効果発動! デッキから同名モンスター2体を特殊召喚する! 守備表示!」

 

 そして……そのデッキは〈ファーニマル〉。奇しくもファニマと同じデッキである。ゲーム的にはファニマはチュートリアル中ボス、ラスダンの雑魚が同じのを使ったところで不思議はない。

 無論、わざわざそいつを選んだのは鏡の影の悪意だが。

 

「さらに魔法『魔玩具補修』を発動! 『エッジインプ・シザー』と『融合』を手札に加え、発動! 『シザー』と手札の『ファーニマル・キャット』を融合! 昏き闇より現出せよ、呪いの切り裂き人形『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

 流々と手札を増強しながら融合モンスターを展開する。ファニマを思い出させるその手腕。

 

「効果発動! 『ティルル』とセットカードを破壊する、【テラー・ロアー】! さらに墓地に送られた『キャット』の効果、今使った『融合』を手札に加える! 【キャット・ブリングアップ】!」

 

 ウケケケ、と不気味な笑い声を上げる虎人形が2つのハサミを投げる。これが通ればメイのフィールドにカードがなくなる。

 

「――させません! トラップ発動、『ドラゴンメイドのお片付け』! 『ティルル』とあなたの『デストーイ・シザー・タイガー』を手札に戻します!」

 

 赤い髪のメイドが2つのハサミを手で止め、厨房に片付ける。シザー・タイガーはどこか物悲し気なウケケケ、との笑い声とともに消えていった。

 

「ふん、小癪な。だが『デストーイ・シザー・タイガー』が消えたところで、我が呪い人形の進撃は止まらんぞ!」

「……うぐぐっ!」

 

 だが、ここで終わらないのがファーニマル。いつもファニマのデュエルを見ていて、それを分かっているメイも苦い顔だ。

 あれは、罠をわざと踏んだだけだ。犠牲を承知で敵を測り、策を一つづつ潰して行く。本命はここから来る。

 

「今手札に戻した『融合』を再び発動! 手札の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・ペンギン』で融合! 昏き闇の底より現出せよ、呪いの斬殺人形、『デストーイ・チェーン・シープ』!」

「破壊耐性を備えたモンスター……! それに、今墓地に送られたのは!」

 

「そう、貴様はこのターンで終わりだ! 墓地に送られた『ペンギン』の効果で2枚ドローし、手札の『ファーニマル・ドルフィン』を捨てる。更に『チェーン』の効果で『魔玩具融合』を手札に加える!」

 

「そして、今手札に加えた『魔玩具融合』を発動! フィールドの攻撃表示の『マウス』に、墓地の『シザー』、そして〈ファーニマル〉2体を除外して融合召喚! 昏き闇より現出せよ、呪いの滅殺人形『デスト-イ・シザー・ウルフ』!」

「……何枚も何枚も、お嬢様のカードを!」

 

 メイが他人には見せられない表情を浮かべる。嫌がらせ、という点ではこれ以上なく効いている。

 もっとも、諦めるとはそういうのとは真逆の結果を生み出したが。まあ、さすがはファニマにずっとついてきた女というべきだろう。

 

「このカードは――」

「融合素材にしたモンスターの数、つまり4回の攻撃を可能にするのでしょう? 知っています。攻撃力2000の4回攻撃でライフ8000を削り切る。お嬢様も使うコンボです」

 

 今にも舌打ちしそうな声音でメイが口を挟んだ。

 

「知っていてその不遜な態度と言うわけか。もはや勝てぬと諦めたか? 貴様の場にはもはや盾となるモンスターも、窮地を凌ぐ罠もありはしない。さあ、そのお嬢様とやらも使うコンボで死ぬがいい! 『デストーイ・シザー・ウルフ』のダイレクトアタック、【シザー・バイト】四連打ァ!」

 

 狼人形が大きく口を開けて、メイを丸飲みにしようと迫る。

 

◆『デストーイ・シザー・ウルフ』 ATK:2000

 

「下らない。その程度の知恵でお嬢様を語るな! そんなコンボは、既にデュエルを諦めた者に使う程度の手管。お嬢様のタクティクスを侮るな!」

 

 吠えた。あまりにも拙い戦術、ただ敵のライフを削り切れる”だけ”の布陣……ファニマならば、そんな程度では終わらない。

 攻撃を防がれた場合に備え、次のターンの準備を平行する。

 

「メイは、お嬢様から貰ったこのカード! 手札の『速攻のかかし』の効果を発動! このカードを手札から捨てることで、ダイレクトアタックを無効にしてバトルフェイズを強制終了する!」

「……何だと!? 馬鹿な、フィールドのカード0の状態から『ウルフ』の連続攻撃を凌いだ!?」

 

 そして、敵の反撃を考えなかったツケがここに。手札は2枚、『ウルフ』と『シザー』が棒立ちになっている。

 メイの使う〈ドラゴンメイド〉では融合体を使えない。だからどうしても敵を封殺することができない。それなら、とファニマが入れてくれたカード。

 そっとデュエルディスクを撫でる。あのカードも、ディスクも、貰ったものだ。そして、タクティクスも教わったもの。全てがファニマからの頂き物。ゆえに。

 

「フィールドの『マウス』を素材に、更に展開をしないんですか? リンクとか言うの、お前たちなら第2の召喚法が扱えるんでしょう? いいえ、無理ですね。『マウス』が居る限り、〈デストーイ〉融合以外は不可能。……お嬢様は、自分で自分の首を締めるような状況は作りません」

 

 敵を許せない。あの程度で〈ファーニマル〉を操った気になり、そしてあろうことかお嬢様に危害を加えようとする。

 それは、八つ裂きでも足りない大罪だ。

 

「――好き勝手をぬかす。吾の場の4体のモンスターを倒し、ダメージを与えられる確信があるとでも? 不純物を入れるような愚か者では分からんのだよ」

 

 そして、敵は舐めた態度を崩さない。確かにこのターンを凌がれるなど思っていなかったが、相変わらずフィールドは0。それで何ができると。

 

「お嬢様は愚か者じゃない! 出来ることがないならさっさとターンを終了なさい、デク人形!」

「吾はこれでターンエンド。……ふん。『かかし』で1ターン寿命を延ばしたとはいえ、ただの人間に何ができる」

 

場:◆『デストーイ・シザー・ウルフ』 ATK:2000

◆『デストーイ・チェーン・シープ』 DEF:2000

◆『ファーニマル・マウス』 DEF:100

◆『ファーニマル・マウス』 DEF:100

 

・3ターン

 

「お前のモンスターを倒せる! メイのターン、ドロー!」

 

 カードを引き、驚いて動きを止めた。

 

「ふん、役立たずのカードでも引いたか?」

「……あなたたちも、怒ってるんだね。分かるよ、メイも――」

 

 言葉には答えず、優しくカードを撫でた。

 

「イカれたか?」

「メイは『ドラゴンメイド・ラドリー』を通常召喚、デッキの上から3枚のカードを墓地に送ります!」

 

 引いたカードを手札に加え、勢いよくカードを操る。

 送られたのは『ラドリー』、『フランメ』、『チェイム』。メイはよし、と頷いた。主の敵を倒すため、〈ドラゴンメイド〉もやる気だ。

 

「前のターンに使用した罠『ドラゴンメイドのお片付け』の墓地効果発動! 自身を除外、手札の〈ドラゴンメイド〉モンスターを特殊召喚できる!」

 

 ごちゃごちゃになった舞台、カーテンが引かれるとただ一人舞台に残った紅い髪の少女がちょこんとカーテシーをした。

 

「来て、『ドラゴンメイド・ティルル』! 効果で『ドラゴンメイド・ルフト』を手札に加え、捨てる!」

 

「更に手札から永続魔法『ドラゴンメイドのお出迎え』を発動! フィールドの〈ドラゴンメイド〉はその数だけ攻撃力を100アップする。そして第二の効果発動、フィールドに〈ドラゴンメイド〉が2体以上居るため、墓地の『フランメ』を手札に加える!」

 

 ギン、と人形を睨みつける。余りにも強い意思、そして背後の〈ドラゴンメイド〉が放つ滅殺の波動。

 メイには特別な血など流れていない。キングのような突然変異でもない。だが……彼女が使うカードは元々王族の切り札、懐刀のロイヤルメイドのみ使うことを許される特別なデッキ〈ドラゴンメイド〉。

 

「これがメイとカード達の絆。メイには、このカード達を従わせることは出来なかった。けれど! 同じ方向を向いて戦うことはできる! 尊き血を守るため、今こそ立ち上がれ竜の力よ!」

 

 どくん、とカードの脈動する鼓動が聞こえてくる。彼女にはついぞ使えなかったこのカード、〈融合〉。だが、引いたのは今こそ使う時だからと信じている。

 

「ドラゴンメイド専用融合魔法『ドラゴンメイドのお召し替え』を発動! 手札の『フランメ』と、フィールドの『ラドリー』で融合!」

 

 そして発動する融合。今こそ、ロイヤルメイドを統括する真のリーダーが降臨する。

 

「主に仕える4種の竜。彼女たちを統括するハウスキーパーよ! 主の寝室に侵入する不届きものに天罰を下せ! 融合召喚、『ドラゴンメイド・ハスキー』!」

 

 少女と呼べる年恰好のドラゴンメイド達。彼女たちより少しだけ成熟した女としての魅力がある彼女。

 今こそその翠色の瞳を開き、敵を睥睨した。

 

「バトル! 『チェイム』の効果、墓地の『フランメ』に変身召喚! そして変身召喚が行われたことで『ハスキー』の効果発動! 相手フィールドのモンスター1体を破壊する。メイは『デストーイ・チェーン・シープ』を破壊! 【ドラゴニックロアー】!」

 

 ハスキーが咆哮を上げる。

 

「だが、『デストーイ・チェーン・シープ』は破壊されたとき1ターンに1度だけ攻撃力を800上げて蘇生する! 【サクリファイス・ウール】……守備表示」

 

 真空波が空間を駆け、しかし惨殺したのは羊毛のみ。身を軽くして攻撃力を上げたはいいものの、その鎖で防御態勢を取っているなら何も意味がない。

 

「その効果は1ターンに1度のみ! 一回で駄目なら二回破壊するだけ! 『ハスキー』で『シープ』を攻撃【ドラゴニックテール】!」

 

 ハスキーがその尾で鎖ごと羊を打ち据える。

 

◆『ドラゴンメイド・ハスキー』 ATK:3200

 VS

◆『デストーイ・チェーン・シープ』 DEF:2000

 

「……ぐっ。だが、守備表示のため吾にダメージはない」

 

「『フランメ』で『ウルフ』に攻撃! 【フレイム・ブレス】! そいつは攻撃表示! 今度こそ戦闘ダメージを喰らって燃え腐れ、クソ人形!」

 

◆『ドラゴンメイド・フランメ』 ATK:2900

 VS

◆『デストーイ・シザー・ウルフ』 ATK:2000

 

 紅の竜が吐いた炎に狼人形は焼き尽くされた。

 

 そして、メイの口調も余りの激情で崩れてきていた。田舎で育ち培ったピー音必須の罵詈雑言、ファニマに余りにも悪影響とセバスから【教育】を受けてから続けてきた”なんちゃってですます口調”が今や見る影もなかった。

 

「多少焦げたが……この程度で消えてなるものか! 吾は、そこのイレギュラーを喰らい、魂を手に入れるのだ!」

 

 そして、人形も今や嘲笑ではなく執念を表に出している。この敵を必ずや倒し、求めるものを手に入れんがため死力を尽くす。

 

〇 人形ライフ 8000ー900=7100

 

「メイはこれでバトルを終了、『フランメ』は『ティルル』に戻る。守備表示で手札から特殊召喚。そして変身召喚が行われたことで『ハスキー』の効果発動、『マウス』の一体を破壊。ターンエンド」

 

場:『ドラゴンメイド・ハスキー』 ATK:3200

『ドラゴンメイド・ティルル』 DEF:1900

魔法+罠:『ドラゴンメイドのお出迎え』

 

 

 

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