ヴァンパイアを退け、サロンで休むファニマとメイの前に第二の刺客が放たれた。メイは〈ドラゴンメイド〉達と絆を交わし、『ドラゴンメイド・ハスキー』を融合召喚する。
だが、敵の魔もやられっぱなしではない。反撃が来るのだ。
・4ターン
「大言壮語を吐いたものだ、人間。だが、吾の場にはまだ『マウス』が1体残っているぞ。倒し切れなかったな。もはや、このターンで貴様の命運は尽きると知れ。吾のターン、ドロー!」
腕に付いた炭が剥がれ落ちる。900は大したダメージでもないのに傷が回復しない。ここに居るにも無理をしているのだろう。
……それはお嬢様を喰うために。だから、メイは決してコイツを許さない。
「スタンバイフェイズ! 『ハスキー』の第二の効果発動! 場の『ティルル』を選択し、レベルが一つ高い、もしくは低い〈ドラゴンメイド〉を特殊召喚できる。墓地のレベル4『ドラゴンメイド・チェイム』を蘇生! 【ハウスメイド・コール】!」
「さらに『チェイム』の効果で、デッキから『ドラゴンメイドのお心づくし』を手札に加える!」
「吾のターンで好き勝手してくれおって……!」
「『マウス』が居る限り、テメエは融合しかできない! さっさと融合しやがれ!」
メイがビっと中指を立てた。滅茶苦茶、育ちが悪い。
人形は舌打ちを一つして気を取り直す。
「――言われずとも。だが、まずは魔法『魔玩具補修』を発動、『エッジインプ・ソウ』と『融合』を手札に加える。そのまま『融合』を発動! フィールドの『マウス』と手札の『ソウ』で融合。昏き闇より現出せよ、呪いの
「……それは!」
「ふん、こいつの恐るべき効果を知っていたか。なら、その威力を我が身をもって思い知れ! 『ライオ』の効果発動! 『ドラゴンメイド・ハスキー』を破壊し、その攻撃力分の直接ダメージを与える! 【ライオニック・ソウ】!」
「――ぐ! 効果を使っても1体しか破壊できず、蘇生もできず、直接ダメージを与えるしか効果がない上、使いにくい『エッジインプ・ソウ』が指定されているからお嬢様も殆ど使わないカードを……! きゃああああ!」
〇 メイライフ:8000ー3000=5000
『ホイールソウ・ライオ』が投げたノコギリがメイを切り刻み、倒れ伏す。動けないほどの激痛、けれどお嬢様に訓練に付き合ってきたメイだ。歯を食いしばって立ち上がる。
「そのダメージでは減らず口も利けまい! 吾は『ファーニマル・オウル』を通常召喚、ライフを500払って効果発動! 自身を含む融合召喚を行うことができる!」
「『デストーイ』モンスターが場に居る。……つまり」
「こいつも知っていたか。『ライオ』と『オウル』で融合、昏き闇より現出せよ、呪いの謀殺人形『デストーイ・サーベル・タイガー』! 効果発動、『デストーイ・チェーン・シープ』を蘇生する! 【デストーイ・リバイバル】!」
「ここで『シープ』を蘇生すると言うことは、お嬢様の使う水属性デストーイは持っていないのね。クソ人形ごときに〈デストーイ〉の真の力を引き出すなんて不可能よ!」
「そのダメージの癖に口ばかりよく利く! 吾を舐めるな! フィールドの〈デストーイ〉は『サーベル・タイガー』の効果で攻撃力を400アップする。バトルだ!」
「バトルフェイズ開始時、『ティルル』と『チェイム』の効果発動、変身召喚! 現れよ、『ドラゴンメイド・フランメ』、『ドラゴンメイド・ルフト』!」
めきめきとメイド達が真の姿を現わす。
「ならば、『デストーイ・チェーン・シープ』で『エルデ』に攻撃! 【チェーン・ストライク】!」
「迎え撃ちなさい、『ルフト』! 手札の『フランメ』を墓地に送り、効果発動! 攻撃力を2000アップする! 【タイラント・ウィンド・ブレス】!」
◆『ドラゴンメイド・ルフト』 ATK:4900
VS
◆『デストーイ・チェーン・シープ』 ATK:2000
〇 人形ライフ 7100ー2900=4200
凄まじい嵐の息吹に晒され、人形はずたずたとなり中身の綿が散乱する。
「ぐ……があああああ! だが、『シープ』は1ターンに1度、攻撃力を800上げて蘇生する! 次は『フランメ』に攻撃! 【チェーン・ツインストライク】!」
◆『デストーイ・チェーン・シープ』 ATK:3200
VS
◆『ドラゴンメイド・フランメ』 ATK:2900
折れた刃がメイの頬をかすめて出血した。
「痛ぅっ……! 二重の攻撃力アップで、攻撃力がアップしていない方のドラゴンメイドを狙ってきたのね。さすがはクソ人形。
〇 メイライフ 5000ー300=4700
「『ホイールソウ・ライオ』の直接ダメージでボロボロになっている分際で偉そうな口をほざくな! 吾はこれでターンエンド!」
「ならば、『ルフト』変身召喚! 手札の『ティルル』を特殊召喚! 効果でデッキから『ドラゴンメイド・ナサリー』を手札に加え、手札に戻った『ルフト』を捨てる!」
場:◆『デストーイ・サーベル・タイガー』 ATK:2800
◆『デストーイ・チェーン・シープ』 ATK:3200
・5ターン
「メイのターン、ドロー。『ティルル』、あなたと一緒にあいつをやっつけるわよ」
宣言するように静かに言った。フィールドに残っている『ティルル』はおしとやかに一礼する。
「『ドラゴンメイド・ナサリー』を召喚、効果で墓地の『ラドリー』を特殊召喚! 『ラドリー』の効果でデッキの上から3枚のカードを墓地に送る!」
『フルス』、『パルラ』、『お見送り』が落ちた。これで奴を潰す最後のピースが揃った。
よし、と頷く。
「フィールドの永続魔法『お出迎え』の効果を発動! 墓地の『フランメ』を手札に加える!」
「手札から魔法『ドラゴンメイドのお心づくし』の効果発動! さっき墓地に落ちた『ドラゴンメイド・パルラ』を特殊召喚! さらに追加効果によりデッキから『ルフト』を墓地に送る。そして特殊召喚された『パルラ』の効果で、デッキから『ドラゴンメイド・エルデ』を墓地に送る!」
「……ぬぅ。瞬く間にこれほどのモンスターを!」
人形に焦りが見える。メイは嗜虐的な笑みを浮かべ、躊躇なく抹殺の手を下す。
「バトル! この瞬間、フィールドの4体の効果を発動! さあ、行くわよ!」
4体のドラゴンメイド達、揃って見事なカーテシーを決める。しかし、それは主へ向けた礼儀。
不届きものを誅殺する許可を頂く儀礼。捕食者の笑みをこっそり浮かべ、その真の姿を現わす。
「『ティルル』、『ナサリー』、『ラドリー』、『パルラ』変身召喚! 今こそ主の敵を排除するとき! その牙で、その息吹で、主の城の侵入者を撃滅せよ! 現れよ『フランメ』、『エルデ』、『フルス』、『ルフト』!」
ついに揃った4体の竜、ドラゴンメイド竜形態。統括者を再度呼べるほどメイは強くない。だが、4種の竜形態が揃った様は圧巻の一言である。
「『ルフト』で『タイガー』に攻撃! 【ウィンド・ブレス】!」
◆『ドラゴンメイド・ルフト』 ATK:3100
VS
◆『デストーイ・サーベル・タイガー』 ATK:2800
「ぐぅっ! 『サーベル・タイガー』が破壊されたことで『チェーン・シープ』の攻撃力は400下がる……!」
〇 人形ライフ 4200ー300=3900
「『エルデ』で『シープ』に攻撃! 【アース・ブレス】!」
◆『ドラゴンメイド・エルデ』 ATK:3000
VS
◆『デストーイ・チェーン・シープ』 ATK:2800
〇 人形ライフ 3000ー200=2800
「がぁぁ……っ!」
人形がボロボロになり千切れていく。
「『フルス』で『シープ』に攻撃! 【ウォーター・ブレス】!」
◆『ドラゴンメイド・フルス』 ATK:3000
VS
◆『デストーイ・チェーン・シープ』 ATK:2800
〇 人形ライフ 2600ー200=2400
「がふっ! ま……待て、吾が消えればこの人形もボロ人形のようにゴミになる。それでもいいのか!? 主の持ち物だろう?」
「危険物を処理するのはメイドの役目です。『フランメ』で攻撃、さらに手札の2体目を捨てて攻撃力を2000アップ! 燃え滓になれ、人形! 跡形もなく消え去れ、悪霊! この一撃で決める! 【タイラント・フレイム・ブレス】!」
◆『ドラゴンメイド・フランメ』 ATK:5100
〇 人形ライフ 2400ー5100=0
「ひっ……! いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ! こんな、こんな人形の身で……何も成れず、ただ消えるなんて……!」
天井まで届くような火柱が全てを飲み込み、塵と変える。そいつは何者にもなれないまま、羊の執事人形に憑りついた悪霊の1個体として消えていった。
「……メイの、勝利です」
ガクリと膝をつく。ただの少女に闇のデュエルは重すぎた。目の前すらもおぼつかない。ファニマの様子を確認しようと思うけれど、足が震えてベッドにまでたどり着けない。
「お嬢様……」
倒れ伏す……その一瞬前に。
「よくやりました、メイ」
抱き留める力強い腕。落ち着いた渋い声。この方は。
「セバス……様?」
「あなたが敵を倒してくれたおかげでここに入ることができました。どうやら、結界と認識疎外の効果があったようです。初めから目的地であった私はともかく……他の方たちはまだ時間が要るでしょう」
メイをファニマの横に寝かせる。
「……ファニマ! 大丈夫? なんか、魔物がまだ残ってたみたい……!」
エールが窓から箒で駆けてきた。窓の鍵はエールのためにと、サロンに誰かがいる場合は開けていた。
「姫サマ、ここら一体がジャミングされてタ! 無事か!?」
フューが凄まじい勢いで走って来て、扉を殴るような勢いで開いた。
「ふふ……ファニマ様は良い仲間に恵まれたようで。不覚にもこの爺、涙が……」
結界が解けて間もない。それでこんなに早く着いたと言うことは、認識疎外にも関わらずもっと早くから合流しようとしていたということだ。
よよよ、と涙を拭うセバスだった。
「あら、無事ね。良かったわ」
エールはそのまま歩いて行ってごそごそとファニマの懐を探り出す。
「……何のご用事で?」
「ファニマは奴らの司令塔を倒した。だから、”鍵”を持っているはず……!」
フューはさっと後ろを向いた。
「ええと……ファニマ、どこに入れたの?」
ごそごそと探りすぎて、酷くきわどいところにまで手が入っている。後から、やはり窓の向こうから現れたアイネがあわあわと止めようとしている。
なお、セバスもファニマの服が崩れてブラが見える前に後ろを向いた。
「――何しているの? エール」
そこで、ファニマが目を覚ました。
「鍵を頂戴」
「え? ああ、ええ……」
相手が女の子でなければ寝込みを襲われたにしか見えない状況だが……実はファニマは婚約破棄の一件で身体、というよりも外見にトラウマを持っている。
簡単に言えば、権力がなければ自分みたいなトロールなんて相手にされないと思っている。彼女の凛とした美しさは誰もが認めるところだが、ただ一人ファニマ自身だけが認めていない。
むしろ、自分なんかの身体をまさぐらせたことを申し訳なく思う。
「ああ、それならメイに持たせたわ。……はい」
寝ているメイからごそごそとポケットを探ってそれを渡す。ただ古くて厳ついだけの何の変哲もない鍵だが、それは滅ぶヴァンパイアが塵と消えた中から唯一残ったものだった。
何かの手段で奪われることを恐れ、どうでもよいと捨て置かれているメイに持たせたのだ。
「ありがと」
持っていた組木細工に入れる。それも魔導道具、外界と隔絶させる封印の箱だ。名だたるウィッチクラフトなのだから、これくらいは当然。
「おおい、皆大丈夫だった? ま、あまり心配してなかったけど。アイドルのアニーちゃん、ただいま戻りました!」
「ふん、今回の騒動の元凶を撃退したと聞いたぞ、ファニマ・ヴェルテ! さすがはこのキングを倒した女よ!」
アニーと、それからなぜかキングまで到着した。
「……そう言えば、変態はどうしたのかしら? あいつも来るかと思ったのだけど」
「あれは体育館の方で女生徒達に捕まっておりますな。どうやら地に堕ちた名誉は今回の騒動で回復されてしまったようで。……少なくとも、生徒たちには」
「あ、そう。まあいいわ。あいつへの説明は校長に任せましょう。……私も、聞きたいことがあるのだけどね……う」
ベッドの上で身を起こしていたファニマがふらりと倒れかける。
「お嬢様、ご無理はなさらずに。車を用意しております。館へ帰りましょう」
「……そうね。けど、この状況となっては校長も動かざるを得ないはず……ただ、私たちにも時間が必要ね」
「じゃ、エールは少し工房の方でやることがあるから」
箒で飛んでいった。戦ったのは雑魚だけとはいえ、やるときはやる女だ。いつもはソファでサボっているけれど。
「アニーちゃんは休憩したいなあ」
「ふむ。キングも少し休んでおこう」
そして、目立つ二人組はしかし学園において後ろ盾を持っていない。このまま帰ると何も関われないのでは、と不安が残りつつ。しかし、やはり休息は必要だ。
「――では、アニー様とエルピィ様は当家に宿泊なさりますかな?」
すかさず爺が提案した。一つ屋根の下と言ってもヴェルテの屋敷には客人用の部屋などいくらでもある。
「良いの?」
「ふむ。では、厄介になろう!」
アニーは遠慮がちに、キングはなぜか自信満々に厄介になることにした。
「おっと、セバス様。……俺は?」
「フュー様はここで仕事がおありでしょう?」
冗談のような声音で言う。フューの仕事はこれからが本番と言っていい。もちろん、学園に現れた悪霊の退治も大きな仕事だったけれど。
「へいへい。了解了解。ま、給料も貰ってることだし、真面目に仕事をやりますカ」
それで一旦解散した。
誤字指摘で先攻が先行になっているのに気づきました。後行なんて言葉はないですもんね……
パッチワークの補修が漢字変換で出ないからそのまま載せてしまったりと、誤字修正してくれる方には感謝しかないです。