悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第34話 作戦会議

 

 

 そして、屋敷へ帰ってきたファニマは、連れてきた2人とともに軽食を取る。

 なお、お父様は本日帰ってこなかった。基本、彼が家に帰ることは稀だ。アニーはともかく、男であるキングを連れ込めばどうなるか分からなかったが……今はとりあえずその危機は逃れたらしい。

 

 そして、腹に食事を詰め込んだ後はそれぞれ戦いで負った傷を癒す。

 闇の儀式は勝利すれば外傷と言えるような痕は残らない。

 ただし、精神的なそれは別だ。ファニマと、そしてアニーは少しパンを食べるくらいが精いっぱいだった。もっとも、メイとキングは何事もなく食べていたが。

 

 が、それでも限界だったのか言葉少なに食事を詰め込んで部屋で休むこととあいなった。

 

 ファニマも、ゆっくりと湯治をする。もちろんすぐそばにメイが居るし、キングは他のメイドが監視している。

 ……ファニマからは何も言っていないが、変態と言う前例があったためだ。

 なお、お世話という名目で監視されてもキングは、「キングとは常に衆目の目に晒されるもの!」と気にしなかった。しかもコーヒーを頼むなど図々しい真似をしている。

 

 ファニマのいる浴室は、だだっ広い中に中央にぽつんと3人分程度の大きさの浴槽があるのみだ。広いのか狭いのか分からないが、ゆっくりとお湯の中でたゆたっている。

 気持ちよさそうに目を細めるファニマに、メイが声をかける。

 

「お嬢様、傷は大丈夫ですか?」

「ええ。デュエルとはすなわち魂の決闘、身体に傷が残ることは余りないわ」

 

 ちゃぷ、と音がする。

 ファニマが浴槽の中で腕を持ち上げた音だ。その繊手には痛々しい赤痣が刻まれているが、そのハリのある肌を見れば、若さがすぐに元の美しい肌を取り戻すことは瞭然だ。

 

「――」

 

 湯船の中で少し身動きをする。豊かな胸から水滴が滑り落ちる。お団子にまとめている絹のような光沢をもつ髪の下、上気して少し赤くなったうなじがいやに色っぽい。

 宙を見つめていた彼女はすす、と流し目を後方に向ける。

 

「……そして、魂の方は、あなたが守ってくれたのかしら?」

 

 湯気の中、ファニマは視線を何もないはずのところに投げかけた。”どこか”にということではない。”それ”はいつでもファニマの中にあったのだから。

 

『あなたを守ることが我が望みであれば』

 

 すう、と幽霊のように現れたそれ。仮面、そして闇の鎧を纏う男……姿を描写するとしたらそうなる。浴室の中では、そいつは酷く場違いだった。

 その彼は、喜劇の演者のように芝居らしい態度で跪いている。

 

「誰ですか!?」

 

 その声が聞こえたメイが飛び込んできた。

 

「――大丈夫よ、メイ。私の味方だわ」

「そう言えば、お嬢様が変わられたとき……!」

 

 あの時はファニマの声だった。今のそれは幽鬼のように響く透けた男性の声。どう見ても人間より魔に近いように見える彼。

 とはいえ、味方であるのは違いない。何か変、ということであれば魔について知悉しているらしいファニマも十分変だ。もっとも、そいつが知識の出どころでアンサーなのだが。

 

「頭を上げなさい」

『いえ……そのような訳には……』

 

 そいつは跪いたまま姿勢を変えない。……まあ、当然である。ここは風呂。彼とて声を掛けられなければ絶対に姿を現わさないつもりだった。

 畏れ多いにもほどがあるとばかりに額を地面に擦りつける。というか少しめりこんでいる。実体はないらしい。

 

「あなたは誰です?」

 

 きょとん、とメイが首をかしげる。まあ、謎生命体だが男のように見える彼が浴室に居るのは大問題だ。

 まあ、そこはファニマが許しているので――いや、それでも駄目だろうと睨みつけた。彼は消え入りたい気持ちになった。

 

『僕に名はありません。記憶はなく、姿は偽り。お嬢様、我が力はあなたのためにある。この虚像の命と力の全て、あなたの糧へ』

 

 仰々しい物言いだが、それは自分を喰えということだ。ファニマのデュエルタクティクス、それは彼の知識が流れ込んだためだ。だが、それは半端な状態で終わっている。 

 その存在の全てを喰らえば、この男の全ての力を得てファニマは”完全”になれる。

 

「……ほえ?」

 

 メイは話についていけていけていない。

 

「駄目よ」

 

 そして、ファニマは恥ずかしがるそぶりもなく湯船にゆっくりとつかりながら自然に命を下す。命令するのに慣れた態度だった。

 

『しかし……』

「しかし、ではないわ。あなたは私のものなのでしょう? 勝手に消えるなど、許さないわ」

 

 にべもないその様子に彼は諦める。そも、主の命令に逆らうつもりなどない。仕えろと言うならば、そうするまで。いや、風呂の中で呼ぶのは勘弁してほしいが。

 

『承知致しました。ところで、僕を呼んだと言うことは何かご用事でも? ですが、我がおぼろげな記憶は既にあなた様のもの。この下僕に残っているものは、いくらかのカードのみでございます』

 

「――そう」

 

 少し考え、そう言った。疑うつもりはない、事実を踏まえ行動の方針を考えた。すでにセブンスターズとの戦端は開かれた。

 ならば、配下を率いて戦うまで。それは決まっている。重要なのは”どう”戦うかだ。今は戦力配分以前に敵の出方が何も分からない。すでに原作から外れた侵略があった以上、その知識は当てにならないから。

 

「それで、あなたには名前がないのだったわね」

『はい、その通りでございます。お嬢様。僕のことは道化とでも呼んでいただければ』

 

「なら、アルと呼ぶわ」

『――お嬢様に頂いた名前、大切にします』

 

 深く深く、跪いた。名前を貰う、というのは重要なことだ。攻めてきた魔物ども、名もなき尖兵共には名前さえもなかった。

 今や人間よりも魔に近い彼にとって、名付け親にも等しい。

 

「アル。次に私たちがやるべきことは何かしら?」

『お嬢様でしたらお分かりでしょう? あの校長が次の手を打つ。我々はそれに乗ればいい』

 

「そうね、キングの奴が居るのだもの。私たちも……くっ!」

 

 痛みに顔を歪め、自らの身体を抱きしめる。その多くをアルが引き受けたとはいえ、ヴァンパイアとのデュエルは甘くなかった。

 もともと、ゲームで言えば彼女などはチュートリアル中ボスに過ぎないのだ。学園に居る凡百のモブとは比べ物にならないにしても、その魂の強度は決して高くない。

 

「お嬢様!」

 

 濡れるのも構わずファニマを介助しようとして湯の中に腕を入れる。

 

「大丈夫よ。溺れるほどではないもの。まだ寝る訳にもいかないしね……アル、こっちを向いたわね?」

『申し訳ありません』

 

 膝を上げかけたアルが土下座した。

 

「……ふふ。別に私の裸なんて見る価値もないわよ? まあ、いいわ。そろそろエールとフューの用事も一段落付いたところでしょう。少し、集まって話しましょうか」

 

 風呂から上がる。メイに服を着させた。バスローブだ。そのままつかつかと歩いていく。

 

「あの、お嬢様? もしかしてこのまま行く気ですか?」

「ええ、そうだけど」

 

 風呂上がりのファニマは頬が上気している。しかもバスローブの胸元からは、その豊かな双丘がわずかに覗いているのだからたまらない。

 水着よりもよほど隠れているのに、逆にこちらの方がエロい。男であれば誰もが生唾を飲み込むだろう。

 

『あそこにはキングとか名乗る馬鹿も居ります。どうかご自愛を』

「アル? 何も心配なんてないわよ? だって……私なんて」

 

 す、と顔を伏せる。これも婚約破棄のトラウマだ。あの男への恋心など残っていないが、自分の容姿にコンプレックスを持ってしまった。

 ただ一人、ファニマだけは自分の身体に興味を持つ異性なんていないと思っている。

 

『お嬢様……!』

 

 アルは仮面の奧でエクスへの殺意を滾らせた。

 

「お嬢様、そんなはしたない格好で出るとお父様が悲しみますよ」

「あ、そうね。それはいけないわ。服を用意させて頂戴」

 

 一方でメイは慣れている。お嬢様に自分の女としての魅力を説いたところで無駄だと分かっているし、扱い方も知っていた。

 アルは一転ぎりぎりと仮面の奧で歯ぎしりし、メイは勝ち誇る。そんな一幕があった。

 

 

 そして、サロンに皆を集めた。当然だが、学校でのそれよりもずっと品質が良く、落ち着いている。

 

「さて、集まってくれたわね」

 

 大テーブルの上にお菓子が乗っている。キングはメイドの淹れたコーヒーをがっぽがっぽと飲んでいた。

 逆にアニーは水しか口にしない。夕食後は水以外取らないアイドル根性とのことだった。

 

〈ああ、こっちも準備は出来てるわ〉

〈こっちもダ。ま、あまり分かってることもないけどナ〉

 

 2つのPCから響く声。簡単に言えばLine通話である。

 

「で、キング。何かないの?」

「……む? ――あ」

 

 ファニマの誰何に少し間抜けな声で返す。ポケットを探ると、スマホに着信履歴が残っているのに気付いた。

 

「校長からね」

「そのようだ、メールも入っているな。……夜、校長室まで来いとのことだ。これもお見通しだったか? ファニマ・ヴェルテよ」

 

「予想はつくわ。私も行こうかと思ったのだけど」

「――お嬢様。ヴェルテ家の令嬢が夜間に外出など、はしたない」

 

「爺やがこう言うものだから、ね。爺やには責任をもって私の代わりに行ってもらうわ。そういえば、アニーには何も来ていなかったかしら」

「うん。通知は会社の人だけだね」

 

「まあ、もちろん私にも校長からの連絡は来ていないのだけど」

「当家の方に釈明は届いておりますな。ただ、今回の件は事故として処理するつもりのようです」

 

「ヴェルテには何も説明する気がないのね。まあ、あの校長のことだし、そういうこともあるでしょう。さて……エール、フュー。何か分かった?」

 

〈この鍵について調べたけれど、凄まじい闇の力が籠められているわね。あのヴァンパイアは過去に滅んだものを蘇生させたみたい。確かにそれだけの力を秘めている〉

 

〈ねえ、ファニマ。こんなものがあと6個もあるの?〉

 

「そのヴァンパイアは、己をセブンスターズと名乗っていた。むしろ、リーダー格のそれは比較にならないレベルということすらありえる。もしかしたら、いえ。生きているからこそヴァンパイア以上の力を持っていると考えるべきね。あれは死者、蘇生のリソースを強化に回せば更に強大な力を得られるわ」

 

〈ま、最初に出てきた奴は1番弱いってのはありがちよね。しかも、今回は余計な仕事をさせられた使い走りっぽいし〉

 

〈じゃ、今度はこっちの調査結果だナ。学園の方は堰を切ったように瘴気が溢れてやがる。それに、こんな事件もあったんだ。一時閉鎖の材料には十分だナ〉

 

「データは取れた?」

 

〈そっちももちろんさ。だが、あまり説得材料になるかは怪しいと思うけどナ〉

 

「ああ、お偉いさんはデータさえあれば納得するから原理とかはいいのよ」

 

〈……ハハ。姫様は豪胆だナ。了解〉

 

「では、キング。あなたは爺やの車に乗って校長室に行きなさい。それと、爺やはPCを持って行ってね」

 

 そういうことで、ヴェルテ邸での作戦会議は終了した。

 

 

 

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