そして、ファニマは屋敷で訃報を聞く。
「お嬢様、スカ-レッド・エルピィが校門の前で見つかりました。そして発見された彼は意識を失っていたために病院に運ばれ、今も昏倒状態となっています」
「……そう。キング、先走ったのね。そして、やられてしまったのね」
先走って突入した彼は意識を失って二度と戻らない。それは敗北の代償。儀式のデュエルでは賭けた物を失い、多少魂に傷がつくのみ。
だが、闇のデュエルであったならば?
「はい。精密検査の結果、彼の身体に悪いところは見つかっておりません。なんらかの腫瘍、もしくは瘴気に侵された部位などがあれば分かりやすかったのですがな……ただ、脳波がないということだけが異常です。まあ、いわゆる植物人間ですな。診断した医師の話では、脳へのダメージもないのにこうなることは通常あり得ることではないとの話でした」
「――ええ、負けたからにはそうなるでしょう。儀式のデュエルは誇りを賭けたデュエル。そして、闇のデュエルは魂を賭ける。敗者に待つのは”死”以外にない。――彼も、馬鹿な真似をしたものね。……私の、いえ」
言いかける。自分の、というかアルの提案した作戦に乗っていればカモ撃ちで済んだ。わざわざ敵のテリトリーに乗り込んでいった結果が”これ””だ。
軍門に下ったわけではない、とは彼の言葉だが。従わないにしても一人で突っ込んでこれではただの犬死だろう。ファニアは言いづらいのか言葉をそこで切る。
「彼はお嬢様に従わず、自分の判断で向かいました。彼の死は彼の責任です」
「……そうね」
爺が言ってしまった。ファニマも、彼の死に何か感じるところがあったから。
とはいえ、そう悲観的になってはいない。原作で邪神を倒せば魂が戻ってきたことを知っている。……知人が死んでショックも受けないほど強い人間ではないから。
そこに、何も感じていないらしいエールが無遠慮に扉を開けた。彼女は可愛らしい幼女の姿でありながら、誰よりもクールでドライだ。
彼女の本当の姿は死の商人。人の死に、今更感じるところなどない。
「ファニマ、策を変更する必要があるわね」
「エール? まだ一人がやられただけよ。戦況が向こうに傾いたわけじゃないわ」
ファニマは動揺している。この状態では何かを決めることもできない。
エールはまあいいわ、と鼻を鳴らして自分の用件を告げる。それで失望することはないが、自分の好きなことをやる生き様は貫き通す。
「どうせ馬鹿が、馬鹿をやる。”鍵”を持っているのがあいつらな時点でお利口な策なんて通用しないことなんて分かりきっていたでしょう? どうせ監禁してもぶち破る奴らよ」
「……ふわりなら」
彼女なら私の言うことを聞いて大人しくしてくれる、と言いかける。だが、その言葉が虚しいものだと自分でも分かる。
「アレも、あなたに制御しきれるタマではないわ」
「……」
冷たく突き付けられて黙ってしまう。
アレは、誰かの忠告を受け入れるような生き物ではない。その場その場に合わせるだけの彼女は、自分の意見もなければ反省もない。ふらふらと危険地帯に足を踏み入れる様が目に浮かぶ。
「そういうわけで作戦変更よ。頭を冷やす前に突撃する馬鹿が出る前に、エールが行く」
「エール。……でも、いくらあなたでも確実に勝てるわけじゃないでしょう?」
座っているファニマが立っているエールを上目づかいで見やる。すがるような目の色。身長差があるから、この体勢でもなければそうはならない。
「ああ、勝てるわよ。学園に残しておいたアイネの使い魔が、キングのデュエルを見ていたから。奴のデッキはエールと相性がいいわ」
「使い魔? エール、そんなこと言ってくれなかった」
「あなたはフューと一緒に、一生懸命に電子での監視網を敷こうとしていたからね。邪魔するのもどうかと思ったし。それに、使い魔も見つけ次第潰されてるわ。アレは運が良かっただけね。実際、こっちで情報を取れる公算は高くなかった。もしかしたら奴ら、ドローンばかりを目の敵にして破壊していたのかも」
「……フューのあれも、無駄ではなかったと言うことね。彼本人は何も撮れなくて頭を抱えていたようだけど」
「割けるリソースには限りがあるのよ。私たちも、そして奴ら邪神の下僕どもにも……ね。どんな強力な永続トラップでもサイクロンに破壊されてしまうけれど、2枚あればどちらかが生き残ることもあるということね」
「ふふ、私に合わせてくれた例え? でも、相手のリソースを潰すのであればこちらの土俵ね。互いに手札を5枚から始めるのはデュエルだけ。なら、フューにはもっと頑張ってもらわないと行けないわ。私も、魔術よりも彼の電子側の方が詳しいし引き続き彼と作業することにするわ」
「ええ、あなたが動けば奴らは嫌でも警戒せざるを得ない。そして、エールの方でもう一つ仕込みをさせてもらうわ。それが、エールが鏡の敵を潰すと言うことともう一つ」
「……死なないでね」
「このエール様を、死にぞこないが倒そうなんて100年早いわ」
まるで世界の真理のように尊大に言い放った。
「行ってらっしゃい」
小さな身体、それに似合つかわしくないほどの頼もしさ。さすがは世界に名だたるウィッチクラフト工房のマスターだと、ファニマは思わず笑ってしまう。
「セバス、車を用意なさい」
「ほほ。では、お嬢様はここでお待ちください」
「――分かってるわよ」
釘を刺されたファニマは口を尖らせた。いざとなれば暴走しかねないのを自分でも分かってるために、椅子に座りなおした。
そして車で学園に到着したエールは、キングが倒されたところまで迷わずたどり着いた。まるで逃げ出した子犬に宣告するかのように言い放つ。
「虚仮脅しはもういいわ! さっさと出て来なさい。来ないならこのあたりの鏡を粉砕していくわよ!」
壊されてはたまらないと思ったのか、それとも単に本人の言う通りに虚仮脅しに意味はないと悟ったか。夢魔は鏡の中から出てきた。
「ふん、あのイレギュラーの配下か。どうやらお前は魔術を修めているようだね、それもかなり高度な。やはり、どこまでも我々の運命を邪魔してくる奴だ……あの女!」
機嫌が良かったキングとのデュエルに比べ、今は”彼女”である夢魔は忌々し気にしている。奴は”獲物”だった。
一方でエール。ファニマの配下などと言われているが、実際には一人でボスを張れるだけの器量はある。勝ってもあまり意味がない強力な使い手なんて、あまり戦いたくなかった。
「ふん。セブンスターズ、名前だけ仰々しい死にぞこないども。そんな奴らがエールには勝とうなんて、100万年早いってことを教えてあげる!」
「……どこまでも小憎たらしい口を利くガキ。けれど、お前だって要注意対象の一人。ここで後顧の憂い、その一つを断ち切ってあげるわ!」
「エールのことを舐めないで! エールはファニマを利用してるだけなんだから!」
「人間のことなんて知らない! お前はここで始末する!」
夢魔は殺気を込め、そしてエールは傲岸にデュエルディスクを構えた。
「「――デュエル!」」
・1ターン
「エールの先攻!」
まずはエールのターン。薄笑いを浮かべてカードを手繰る。
「手札から魔法『ウィッチクラフト・コンフュージョン』を発動! 手札の『ウィッチクラフト・ハイネ』と『ウィッチクラフト・ピットレ』を融合! 現れなさい、我がウィッチクラフトの代表者! 5つの属性をその身に降ろし、世界を裏から支配しろ! 融合召喚『ウィッチクラフト・バイスマスター』!」
最初からエースが来た。そして、これでは終わらない。
「そして融合素材として墓地に送った『ピットレ』の効果発動! 自身を除外、デッキからカードを1枚ドロー! そして手札の『ウィッチクラフト・バイストリート』を墓地へ送る!」
「――『バイスマスター』は魔法カード、あるいは魔法使い族モンスターの効果が発動した時に選択効果を発動できる! 第1の選択効果発動! デッキから『ウィッチクラフト・シュミッタ』を特殊召喚! 【アトリエアート・1st・サモン】!」
バイスマスターの杖が光ると、仲間が呼ばれた。槌を持つ鍛冶師は轟、と炎を吹き上げるとそのまま姿を変じる。
「『シュミッタ』のフィールドでの効果発動! 自身と手札の魔法『ウィッチクラフト・クリエイション』をリリース、デッキから『ウィッチクラフト・マスターヴェール』を特殊召喚!」
そしてすぐにバトンタッチ。幼く、しかし美しい
「さらに『バイスマスター』の第二の選択効果を発動! 墓地の魔法『ウィッチクラフト・コンフュージョン』を手札に回収する! 【アトリエアート・2nd・コール】!」
「さらに墓地の『シュミッタ』の効果発動! 自身を除外し、デッキから『ウィッチクラフト・サボタージュ』を墓地に送る!」
流れるような効果の発動。ウィッチクラフトは墓地に魔法が溜まるほど、その真価を発揮する。
始めのターンは上々の出来だった。
「これでエールはターンを終了! 墓地の〈ウィッチクラフト〉魔法は、フィールドにウィッチクラフトモンスターが居る時に回収できる。墓地の『サボタージュ』、『クリエイション』を手札に戻し、『バイストリート』をフィールドに復活!」
場:『ウィッチクラフト・マスターヴェール』 DEF:2800
『ウィッチクラフト・バイスマスター』 ATK:2700
魔法+罠:『バイストリート』
「……ふふ。『バイスマスター』はフィールドのカードを破壊する最後の選択効果を持つ。そして『マスターヴェール』はモンスター効果を無効化するわ。さあ、二重の封殺効果を前に、どうあがいて見せてくれるのかしら?」
けらけらと憎たらしい笑みを浮かべるエール。先攻を取れなかった夢魔は恨みの視線を向けていた。