校門前にやってきたエクスはエールを睨みつける。
「どう言うことだ?」
彼は敵意を瞳にみなぎらせている。それはもはや殺気とすら呼んでいい。それは――
「あら? 何か不満でもあった? 事実でしょ。あなたが役立たずなのも。そして、あなたごときに、あの頭がかわいそうな娘を守り切ることができないのも――妥当な評価じゃない」
ニタリと笑って返した。可愛らしい子供の姿をしてようが、言ってはいけないこともある。しかも、悪ガキらしく悪びれもせずに挑発を重ねるのは。
「エール。いくら君が女の子でも、子供のいたずらで済ませられないことがある」
「エールは大人よ。貴方と違って、高額な納税だってしているの。そういう意味ではエールほど大人な人は、そうはいないわ」
けらけらと笑っている。やはりその幼い顔は悪ガキそのままだが、言っていることはかなりエグい。
しかも、わなわなと握った拳を震わせていようが、どうせ手を上げられないんでしょうとでも言いたげに。
「俺のことはいい。だが、ふわりのことを――彼女を”頭がかわいそうな狂人”どと……撤回しろ!」
「あれ、怒るのはあなたに関してのアレコレじゃないんだ。……あは。じゃあ、あなたはかわいそうじゃなくて、ただの猪ね。馬鹿は見下されるだけ、馬鹿を見世物にするのは楽しくても。実際に関わるとなると面倒この上ないのよね」
憤慨するエクスを前に、エールはやれやれとわざとらしく肩をすくめる。
「――デュエルだ! 君のことは凄い人物だと知っている。何が凄いのかまでは理解できないが、政界にも影響を及ぼすウィッチクラフト工房は……なるほど俺がどうこう言うまでもなく凄まじいのだろう。強敵に違いない。だが、男には引けない時がある!」
「あは! いいことを教えてあげる。馬鹿じゃあね、最後に勝利することなんてできないのよ。このエール様の手の上で踊るがいい!」
二人、デュエルディスクを構えた。
「誇りを賭けて、デュエルを!」
「――デュエル!」
・1ターン
「俺の先攻!」
エクスはカードを引き、手札を眺める。
「自分フィールドにモンスターがいないとき、『フォトン・スラッシャー』は特殊召喚できる! さらに手札から魔法『おろかな埋葬』を発動! デッキから『H-C サウザンド・ブレード』を墓地に送る!」
「……うげ。アレを墓地に送ったってことは」
エールが思わず顔を歪めた。
「ああ! 名だたるウィッチクラフトを相手にするため、俺はあらゆる手段を尽くす! そうでなければ、俺に次のターンなど来ないだろうことは
「……痛ぅ。よくもエール様に焦げ跡を作ってくれたわね!」
〇 エールライフ 8000ー1000=7000
〇 エクスライフ 8000ー500=7500
轟と燃え盛る火炎が、エールのお尻を焼いて、あたふたと小さな体で転げまわる。ダメージが弱いはずのエクスは全身を焼かれて黒煙が上がっているが、その目は油断なく前を見据えていた。
「お互い様と言うことで勘弁してくれ! 俺はダメージを受けたことで墓地の『サウザンド・ブレード』を蘇生! 【リボーン・ペイン】!」
「レベル4が2対揃った。このために自分にもダメージを与えたのね! こしゃく!」
「その通りだ! 俺はレベル4『フォトン・スラッシャー』と『サウンザンド・ブレード』でオーバーレイ! 現れよ、弓矢を持ちて民を守りし騎士『H-C ガーンデーヴァ』! 守備表示!」
召喚されるは騎士。だが、その目は弓を射かけるために油断なく小さな彼女を見つめている。
「このカードはレベル4以下のモンスターが特殊召喚されたとき、そのモンスターを破壊する効果を持つ! ウィッチクラフトの連続召喚はさせない! 俺はこれでターンエンド!」
それはあまりにも儚い陣。エクスとて自分が強くはないことは分かっている。だが、好きな女を守るために全霊をかけることに躊躇いはない。
どんな攻撃が来ても耐え抜いて見せると決意を瞳に浮かべた。
場:『H-C ガーンデーヴァ』 DEF:1800
・2ターン
「あは。凡庸な1ターンね。とてもじゃないけど、そんなんじゃ魔との戦いについてこられるとは思えない。本気の戦いと言うものを見せてあげる! エールのターン、ドロー!」
けらけらと笑うエール。その程度の布陣など一息で消し飛ばしてあげると嗤った。
「エールは手札の『ウィッチクラフト・ポトリー』を通常召喚、そして効果発動! 自身と手札の魔法『ウィッチクラフト・クリエイション』をリリースして、デッキから『ウィッチクラフト・ハイネ』を特殊召喚!」
現れるエース。そして、前のターンに現れたエクスの盾は。
「フィールドに現れた『ハイネ』の効果発動、手札の『クィッチクラフト・コラボレーション』を墓地に送り、あなたの『ガーンデーヴァ』を破壊する!」
「なにッ!? 効果を使う前に破壊されてしまったか。……だが、厄介な『シュミッタ』を墓地に送ることは防げたはず。2400の直接攻撃ダメージを受けても墓地の『サウザンド・ブレード』が復活する!」
簡単に破壊されてしまった。だが、布石は機能したことに胸を撫でおろす。そいつが墓地に落ちればエンドフェイズに好きなウィッチクラフト魔法を持ってこれる。
「甘いわね。ウィッチクラフトの連続召喚を防いだところで、丸裸なら意味はない! エールはデッキから『ウィッチクラフト・マスターヴェール』を墓地に送り、手札の『マジシャンズ・ソウルズ』を特殊召喚!」
「『ソウルズ』……もしや、ヴェルテの力を借りて生み出されたアレが来るか……!」
戦慄する。強力な融合モンスターが来る予感がエクスを戦慄させる。
「あは! そうよ、我がウィッチクラフトはあの子のおかげで融合を手に入れた! 『ソウルズ』の効果発動! 手札の『おろかな埋葬』を墓地に送り、カードを1枚ドロー! 【マジカルコンバーション】!」
引いたカードを見てニタリと笑う。
「そして引いたわ。魔法『ウィッチクラフト・コンフュージョン』を発動! フィールドの『ソウルズ』と『ハイネ』で融合、現れなさい。我がウィッチクラフトの代表者! 融合召喚、『ウィッチクラフト・バイスマスター』!」
現れる切り札。その攻撃がエクスへと襲い掛かる。
「『バイスマスター』で攻撃! 【ウィッチクラフト・シャイン】!」
◆『ウィッチクラフト・バイスマスター』 ATK:2700
〇 エクスライフ 7500ー2700=4800
バイスマスターが生んだ光球がエクスを焼く。
「ぐ……があああああ! だが、ダメージを受けたことで『サウザンド・ブレード』が復活する! 【リボーンペイン】!」
だが、攻撃に耐えて次のターンの布石を。
「エールはこれでターンエンド!」
「――エンド。だが、これからがウィッチクラフトの本番……!」
苦々しく呟くエクス。そう、ウィッチクラフトはエンドフェイズに動くデッキ。
「ええ、その通り。墓地の〈ウィッチクラフト〉魔法は、フィールドに〈ウィッチクラフト〉モンスターが居る時回収できる! 墓地の『コラボレーション』、『クリエイション』は手札に戻り、そして『バイスマスター』の第1、第2の選択効果が発動する!」
バイスマスターが掌をサウザンドブレードに向ける。
「『サウザンド・ブレード』を破壊! そして墓地の魔法『コンフュージョン』を手札に加える! わざわざ特殊召喚したそのモンスターは成す術もなく墓地へ逆戻りね。気分はどうかしら? あなたごときでは、何をしたってエールには勝てやしないのよ!」
場:『ウィッチクラフト・バイスマスター』 ATK:2700
勝ち誇るエール。次のターンの布石もついでとばかりに潰された。戦意を失っても仕方ない状況だが、エクスに”諦める”なんて頭のいいことは出来ない。
・3ターン
「いいや、決して諦めない。諦めない限り、可能性はあると信じる! どのような痛みにも耐え、そして俺はふわりを守って見せるのだ! 俺のターン、ドロー!」
エクスの目がぎらりと光る。この状況でも光明を見出した。その猪突猛進ぶりこそが彼だ、一々考えることなどしない。
「相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札の『H-C 強襲のハルベルト』を特殊召喚! さらに『H-C モーニング・スター』を通常召喚、効果発動! デッキから魔法『ヒロイック・チャンス』を手札に加える!」
これでまた、レベル4モンスターが2体揃った。
「俺は『ハルベルト』と『モーニング・スター』でオーバーレイ! 混沌たるこの世界に、我が一振りにて安寧をもたらさん! 聖槍、抜錨……ランク4『H-C クレイヴソリッシュ』!」
そして現れる聖槍。ファニマにありもしない罪を押し付けて、しかもその末に彼女自身に倒されてしまうという無様を晒したあの時。地の底にまで堕ちて、しかし這い上がることにより掴んだこのカード。
「そして手札から魔法『ヒロイック・チャンス』を発動! このカードは、『クレイヴソリッシュ』の攻撃力を倍にする!」
その力は聖剣にすら勝る。だが――その攻撃力一辺倒な能力は、破壊を無効化する力などない。
強力な力は一撃で敵を倒すことができるが、横からの攻撃には弱い。
「魔法を発動したわね? 貴方のデッキは一撃で勝負を決めなければじり貧になるだけ。けれど、魔法を使わなくては勝負を決するほどの火力は得られない。あなたに勝利など来ないのよ! エールは『ウィッチクラフト・バイスマスター』の選択効果発動! 『クレイヴソリッシュ』を破壊! 【アトリエアート・1st・デストラクション】!」
嘲笑い、『クレイヴソリッシュ』を破壊する能力を発動した。そのモンスターはこの破壊に耐えられない。
「いいや、俺は決して諦めない! どんな困難にも立ち向かう! 絶望に心を飲まれることなど、ない! 手札から速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動! ターン終了まで『バイスマスター』の効果を無効にして、攻撃力を400アップさせる!」
そして、これこそがエクスの秘策。『バイスマスター』の能力さえ封じれば攻撃は通る。その一撃こそが勝利へのか細い一本道。
「馬鹿ね。『禁じられた一滴』と違って、それにチェーンを封じる効果などない。エールは『バイスマスター』の第2の選択効果を発動! デッキからレベル4以下のウィッチクラフトを特殊召喚する。現れなさい、『ウィッチクラフト・シュミッタ』! 【アトリエアート・2nd・サモン】!」
シュミッタが炎を上げながら現れた。
「新たなモンスターを呼んだか。だが、俺は突き進むのみ! さらに『クレイヴソリッシュ』の効果発動! 我がライフを500にして、攻撃力を更に倍にする! 【サクリファイス・オブ・ストームブリンガー】!」
〇 エクスライフ 4800⇒500
「けれど、下級ウィッチクラフトは上級ウィッチクラフトを呼べる。そして、呼び札になる魔法カードも手札にある! 『シュミッタ』の効果、発……ッ!」
エールはわざとらしく”しまった”という顔をする。
「どうやらデッキの上級ウィッチクラフトは尽きているようだな!」
「ぐ……! 風呂覗いた女の敵のくせに!」
効果破壊のハイネ、攻撃力上昇のマスターヴェール。どちらを呼んでも窮地を凌げるはずだったのに。
……デッキに彼女たちが居なければ、呼ぶことは出来ない。融合素材として墓地に送ったハイネ、そしてコストとして墓地に送ったマスターヴェール。
「例え真実そうであったとしても、俺はふわりを守ると誓ったのだ! 『クレイヴソリッシュ』で『バイスマスター』に攻撃! この瞬間エクシーズユニットを一つ使い、『バイスマスター』の攻撃力分、自らの攻撃力をアップする! この一撃に我が全てを賭ける! 【グレート・シャイニング・クラウ・ソラス】!!」
◆『H-C クレイヴソリッシュ』 ATK:13100
vs
◆『ウィッチクラフト・バイスマスター』 ATK:3100
〇 エールライフ 7000ー10000=0
「っひ。きゃあああああ!」
エールが倒れた。
「まさか。あなたがこれほど……」
それだけ言って意識を失う。彼女は、今日の夜にでも意識を取り戻すだろうけど。隠れていたアイネがエールを運んでいった。
「勝てた……! 俺が!」
残ったのは強敵を倒したことに感極まるエクス一人。その様を一言で言うなら……そう。道化ほど誂えたような言葉もないだろう。
そして、それを隠れて見ている残りのセブンスターズたちも……その光景を信じたあたり同類なのかもしれなかった。