悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第4話 愚かなる王族・前編

 

 森の亡霊を倒し、異形のデュエルディスクを手に入れたファニマは授業にも出ずに専用のサロンで一人紅茶を嗜む。

 ここは貴族の集う学園、サロンがあるのは当然である。そして筆頭に数えられるヴェルテ家であれば専用の部屋を貰うのも当然だった。

 

「……ええと、お嬢様。授業に出なくてよろしいので?」

「あんな程度の低いデュエル論、聞いても意味がないもの」

 

 辛辣なことを言いながら、ゆっくりとカップを持ち上げて紅茶に口をつける。この雰囲気、そして口調も以前のファニマと変わらない。むしろ、これでも多少柔らかくなっているほどだ。以前は真顔で断言していた。

 それでも真面目に授業を受けていた。他人に厳しく、そして己にはもっと厳しい。ファニマ・ヴェルテとはそういう女だった。

 ――実のところ、最も他人に嫌われるタイプと言っていいだろう。本人も人気者になることなど望んでいないのだから。

 

「えと……タルトになります。……苺の? クリームなんとか? ……です」

「やっぱりあなたは紅茶を淹れること以外はダメダメね。まあ、この学園で雇っている職人の腕もまあまあだから、あなたの紅茶がないと食べれたものでもないけれど」

 

 ファニマがくすりと笑う。つられてメイも笑う。

 

「ありがとうございます、お嬢様! 私、紅茶だけは得意なんです!」

「あなたは能天気よね。そんなところに救われる私も私なのだけど。まあ、いいわ。……メイ、あなたも座りなさい」

 

「……ええ!? だ、駄目ですよ。お嬢様。主人と同席するわけには行きません! というか、お嬢様はいつもおっしゃってるじゃないですか。いつ誰に見られているか分からないから、緊張感を常に保てって!」

「見られてなければいいのよ。もしくは目撃者の口を塞げばいいの。……簡単なことでしょう?」

 

「お……お嬢様?」

「ふふ、失恋して一つ大人になったのかしらね。大人はズルいものでしょう?」

 

 ファニマは艶然と笑う。余裕ができた、以前はツンツンと誰にも負けないようにと気を張っていたものだった。

 冗句など口にしない鉄の女だった。

 

「ええ、と……では。失礼して」

「そこで簡単に座っちゃうのがメイよねえ」

 

 くす、と笑うとメイは焦ってきょどきょどしだす。失敗したのかと思いつつも立ち上がらない。

 やがて困ったように上目づかいでファニマを見る。

 

「ふええ!? もしかして、試したんですか。お嬢様!?」

「違うわよ。ほら、食べなさい。甘くて美味しいわよ?」

 

「わあ、ありがとうございます! 甘~い! おいしー!」

「ふふふ。全部食べていいのよ? 横にたくさん成長してしまうかもしれないけど、ね」

 

「あう! えと……えと。お、お嬢様もどうぞ?」

「かわいいわねえ、メイは」

 

 授業をさぼって良い雰囲気になっていた。そこに乱入者が来る。閉まっていたドアが蹴破られた。

 

「ファニマ・ヴェルテ、悪役令嬢! 聞いたぞ、よくも我が弟を!」

 

 その男は第1王子のエレメ・ジェイド、ファニマの婚約者であった第3王子エクスの兄であり、ゲームにおける攻略対象の一人。

 燃えるような赤色の髪がたなびき、金の瞳がファニマを射貫く。ちなみにエクスの方は金髪碧眼と本当に血が繋がっているのかと思うが、そこはただのゲーム的事情である。

 

「あらあら……あなたはエレメ・ジェイド様。ですが、悪役令嬢は厳正なる儀式の場において否定させていただきました。それとも儀式の結果を認められないと? 我らが父祖たる三幻神に弓引くつもりなのかしら?」

 

 ファニマはけらけらと嗤っている。氷のような美貌に似合っていて、そして怖い。メイに向けるのとは違う、肉食獣のような笑みだ。

 

「ぐぐ……! だが、何を言おうが貴様の悪辣さは透けて見えている! 弟のかたき討ち。勝負だ、貴様の中の悪魔を暴いてくれる!」

「かたき討ち、ね。それは昨日のお粗末な決闘のこと? それとも、私の浴室に押し入った挙句頬を張られたお馬鹿の復讐? 駄目よ、女を見れば襲い掛かるようなオサルさんは檻の中に入れておかなきゃ」

 

 メイがモップを手に、女の敵を見る目でエレメを睨みつける。そう、彼の弟はファニマの婚約者(まだ婚約破棄は正式に決まったことではない)で、昨日ファニマの珠の肌を傷つけた上に風呂場に乱入した……まごうことなき女の敵である。

 

「貴様……! デュエルだ! 必ず倒してくれる!」

 

 彼はメイに構うことなくデュエルディスクを掲げた。しかし、それはただのノーマルディスク。つまりそれは、まだ光の力の一かけらも持っていないと言うことで。

 

「……デュエル」

 

 ファニマはその悪魔じみたデュエルディクを剣のように構えた。ハサミの刃、そして血のような紅が飛び散る鎖。どう見ても悪役の姿だった。

 

「俺のタ……」

「エレメ・ジェイド! あなたが勝てば私は”悪”ね。けれど、私が勝ったのならあなたが封印した闇の力、悪魔の(しるし)持つHEROをもらう!」

 

 彼がカードを引き構えた瞬間に、ファニマは指を突きつけて宣言した。これは儀式のデュエル、昨日の結果を覆したいならそちらも何かを賭けろと言うことだ。

 

「何だと!? 馬鹿な、何故E-HERO(イービルヒーロー)のことを知っている!? それに、あんなものを手にして何のつもりだ?」

「ふふ、我が野望を挫きたいのなら勝てば良いだけの話でしょう? それとも、あれかしら。変態の兄はやはり変態で、サロンの中で着替えてると思って侵入したはいいものの、違ったからキレて怒鳴ってるいうアレ?」

 

「濡れ衣だ! そんな根も葉もないこと、広められる前に貴様を倒す! 貴様は絶対に許さん! 俺のターンだ!」

「……あなたの弟って言う根はあるのだけど」

 

 エレメは勢いよくドローし、ファニマはやれやれと肩をすくめた。

 

「『E・HERO エアーマン』を通常召喚! 効果で『E・HERO リキッドマン』をデッキから手札に加える!」

「ふふ、HEROの基本的な動きね。つまらないわ」

 

「いい気になっているのも今の内だ! 手札から魔法カード『E-エマージェンシーコール』を発動、デッキから『E・HERO シャドーミスト』を手札へ!」

 

「そして、見るがいい。貴様も使った『融合』を、だがその真価はHEROが使うことにより発揮される! 手札の『リキッドマン』と『シャドーミスト』を融合。水の力もて戦う戦士よ、闇の霞に潜みし戦士よ。今こそ闇の時代が終わり太陽が昇る時、融合召喚『E・HERO サンライザー』!」

 

 そして、太陽纏う戦士が現れた。

 

「サンライザーの効果、デッキから『ミラクル・フュージョン』を手札に加える。さらにシャドーミストの効果で『E・HERO アイスエッジ』を手札に加え、リキッドマンの効果でデッキからカードを2枚ドロー、そして『E・HERO アイスエッジ』を捨てる」

 

 サンライザーという強力なHEROを召喚しながら、未だ手札は5枚。ここまで来て手札が減っていない。融合おなじみの手札増強だ。

 

「そして先ほどサーチした魔法『ミラクル・フュージョン』を発動、墓地の『E・HERO アイスエッジ』、『E・HERO シャドーミスト』を除外融合! 氷の刃もて戦う戦士よ、闇霞の力を受け継ぎ進化せよ! これこそ永久凍土より生まれしヒーロー、絶対零度で悪を氷漬けにしてしまえ! 融合召喚『E・HERO アブソルートZero』」

 

 あっという間に場には強力モンスターが3体も並んだ。そして、手札は4枚も残っている。

 メイがファニマを不安げに見た。1ターン目に3体のモンスターを並べるなんて、プロ級の腕前だ。並の生徒なら絶望してカードをドローすらできなくなってしまうに違いない。

 

「ふふん、それだけかしら? ただ3体のモンスターを並べただけじゃ、あなたの弟みたいに1killされてしまうわよ。弟よりも強いってところを見せなくていいのかしらね。それとも、これはドングリの背比べでどっちも大した実力はないってこと?」

 

 けれど、ファニマにとっては慌てる事態でもない。座興くらいにはなると傲慢な瞳で見つめている。

 

「……もちろん並べるだけじゃない。俺のHEROは強力な力を持っているぞ! サンライザーの効果、自分フィールドの属性の種類の数の200倍攻撃力をアップする。つまり、600アップだ!」

 

 サンライザーから太陽のごとき光が放たれ、その輝きを受けたHERO達がパワーアップした。

 

「攻撃力だけじゃ……」

 

 メイが微妙にビビりながらも援護攻撃を試みるが、エレメは怒鳴りつけて反論する。

 

「それだけではないぞ! アブソルートがフィールドを離れたとき、貴様のモンスターを全滅させる効果を持つ! そして攻撃力に劣るエアーマンを狙おうとも無駄だ。サンライザーが居る限り、このカード以外のHEROの戦闘前にカードを1枚破壊できるのだ! この布陣を前に、どうすることもできまい。悪役令嬢め。俺はこれでターンエンドだ!」

 

場:『E・HERO サンライザー』ATK:3100 

  『E・HERO アブソルートZero』ATK:3100

  『E・HERO エアーマン』ATK:2400

 

「当然よ、そんな備えで私を倒すなど片腹痛い。だから聞いたじゃないの、その程度かって。私のターンよ、ドロー」

 

 ぞわりと、冷たい空気がエレメの背筋を撫でた。

 

「……強がり、を」

 

 毅然と前を向くエレメを前に、ファニマは獲物を刈る肉食獣の笑みを向けた。

 

「私は手札から魔法『魔玩具補綴』を発動、デッキから『エッジインプ・シザー』と『融合』を手札に加えるわ。私も同じカードを使わせてもらう。手札から『融合』を発動、手札の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・キャット』で融合召喚。現れなさい、深き海の底から『デストーイ・クルーエル・ホエール』!」

 

 波しぶきとともにぬいぐるみのクジラが姿を現わす。ただのぬいぐるみではない、その巨体で押しつぶされればひとたまりもない。

 

「『キャット』の効果、今使った『融合』を墓地より呼び戻す。さらに『チェーン』の効果で『魔玩具融合』をデッキからサーチする。そして融合召喚に成功した『ホエール』の効果発動! 『アブソルート』と自身を破壊する! 【ロアー・オブ・ホエール】!」

 

 クジラが超音波じみた鳴き声を放射する。その雄たけびは敵を滅ぼし、自らすらも滅ぼし尽くす。

 

「馬鹿な! そのモンスターの効果は自分の攻撃力を上げることのはず!」

「ならば、お望み通りにそちらの効果も見せてあげましょう。ホエールの効果発動、EXデッキから『デストーイ・チェーン・シープ』を墓地へ送り攻撃力を1300アップする!」

 

「馬鹿な、破壊されるモンスターの攻撃力を上げて何の意味が……」

「すぐに分かる。ホエールは破壊され、『アブソルート』もまた破壊される。そして『アブソルート』の効果が発動し私の場のモンスターが全滅するけれど、モンスターは居ないわね?」

 

 水のHEROが最後っ屁に大氷壁を遺すが、その氷の中には何も囚われていない。虚しく溶けて消えた。

 

「……おのれ。だが、私の場にはまだ『サンライザー』と『エアーマン』が残っている!」

「すぐに破壊してあげるわ。手札から魔法『魔玩具融合』を発動、さきほど墓地に送った『シープ』、更に『チェーン』と『キャット』を除外融合! 現れなさい、何者をも従える百獣の王『デストーイ・サーベル・タイガー』! そしてその効果で『デストーイ・クルーエル・ホエール』復活!」

 

 これが無駄に攻撃力を上げたことの意味。EXデッキから直接墓地に送ったモンスターは特殊召喚できないが、融合素材にするのであれば関係がない。これで、2体の融合モンスターがファニマの場に揃った。

 

「馬鹿な、たった1枚のカードで大型融合モンスターを2体も呼び出す……だとォ!?」

「これで終わりだと思わないでね。私はまだ通常召喚を残している! 『ファーニマル・ドッグ』を召喚、デッキから『ファーニマル・ペンギン』を手札に加える。そして手札から永続魔法『デストーイ・ファクトリー』を発動!」

 

「ファクトリーは墓地の『融合』を除外することで融合召喚を可能とする! 『魔玩具融合』を除外して手札の『エッジインプ・シザー』と場の『ファーニマル・ドッグ』を融合、現れなさい全てを引き裂く百獣の王『デストーイ・シザー・タイガー』! このカードは融合召喚に使用したカードの枚数まで相手フィールドのカードを破壊する。よって、あなたの場の2体を破壊するわ。消えなさい、役立たずのHEROども!」

「……そ、そんな。俺のHEROが……バトル前に全……滅……めつめつめつ?」

 

 場には3体、だが彼は1体普通のモンスターが紛れていたのに対して、ファニマは融合モンスターを3体だ。

 そして、最後のモンスターには破壊効果だけではなく攻撃力をアップさせる効果もある。

 恐ろし気な悪魔の力を宿す人形が彼を睨み据えた。

 

「ふふ、やっぱりあなたも弟と同じく弱いわね。その程度の腕前で何を誇ると言うの? ねえ、王子様。……デストーイモンスターは『サーベルタイガー』の効果で攻撃力が400アップ、さらに『シザータイガー』の効果で900アップする。合計で1300のアップね、さらに私はホエールの効果を残している」

 

「『サーベルタイガー』のダイレクトアタック、【サーベルダンス】!」

「ぐわあああ!」

 

 四足の虎のぬいぐるみ、その腹に生えた処刑刃がエレメに突き刺さる!

 

〇エレメLP:8000ー3700=4300

 

「『シザータイガー』のダイレクトアタック、【シザーダンス】!」

「……がはっ!」

 

 虎のぬいぐるみのお腹に生えた、身長よりも大きな刃がエレメを襲う!

 

エレメLP:4300ー3200=1100

 

 エレメは強力な攻撃を前に吹き飛ばされて膝をつく。目の前がかすむほどのダメージ、これは儀式のデュエル、凡人であれば指一本すら動かすこともできないはずだ。

 

「これで終わりよ、『ホエール』の効果発動、自身の攻撃力を更に1300アップ、5200のダイレクトアタックを喰らってお眠りなさい【ホエール・プレッシャー】!」

 

 自身の身長を倍加させた恐ろし気なクジラ。その巨体に体当たりされればひとたまりもないだろう。

 一生消えない傷が残ってもおかしくないほどの攻撃。しかしエレメは歪む視界の中でその死神を睨みつけた。膝をついたまま腕を動かし、カードを使う。

 

「まだだ! まだ負けん! 俺は、お前を倒す! 悪役令嬢! 手札から『クリボー』の効果を発動、ダイレクトアタックのダメージを無効にする!」

 

 エレメを増殖した大量のクリボーの壁が守る。クジラは構わず押しつぶしたが、いつの間にか目標をずらされていた。……攻撃は外れ、敵のライフは残った。

 

「まさか、生き残るとは思わなかった。けれどライフは1100、そんなボロボロの有様で何が出来ると言うのかしら? 私はこれでターンエンドよ」

「……ぐぐ」

 

 エレメはまだ立ち上がれない。

 

 

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