悪役令嬢はカードで世界を征服する   作:Red_stone

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第8話 森の悪霊

 

 

 悪霊の支配する森、ファニマとメイは以前に入ったことがあった。しかし前回にもまして不気味な雰囲気が支配している。

 この世界では闇と光のエネルギーと言うのが実在している。ゆえに張り詰めた空気が、特級の危険地帯であることを嫌と言うほど教えてくれる。

 

 だと言うのに、ファニマは影になって足下が見にくい森の中をずんずん進んで行く。彼女の服は制服と言うには豪華すぎる、言ってはなんだがこれぞエロゲ的ひらひら制服……に、葉っぱの一つも着いていない。

 強力な力を持つデュエリストと言うのは、センスすら並外れていると言うのは言うまでもないことだった。

 一方でメイは根っこにつまづき、枝に引っ掛かりとボロボロになっている。ファニマは時折立ち止まってメイを待つ。これが普通の人間と言うものだ。

 

「はぁはぁ。……ぜえぜえ。お嬢様、本当に人が居るんですか。こんなとこ」

「肝試しって言ってたわね、愚かなこと。……けれど、学生なのだから恥ずかしいことの一つや二つは経験しておかないとね。セバスは、尻ぬぐいは大人の仕事って言ってたわ」

 

 ファニマは馬鹿にしたようにため息をついた。メイの方は自分で精一杯で失踪した学園生について考えられるほど余裕がない。

 そんなものより息を整えることに意識が行っている。まあ、そんなときでもおしゃべりを止めないのは流石女の子と言うべきか、それともこの薄暗い森の中では話していないと不安に囚われるのか。

 

「お嬢様は子供じゃないですか……」

「私はもう子供じゃないわ。色々な経験を積んだのよ。知っていて? たった一晩で女は変わるものよ」

 

 その場にうずくまって息を整えているメイを後目に、ファニマは木に背を預けている。暗がりの中に鋭い視線を投げかけている。

 ネズミ一匹見逃さないと意識を張り巡らせている。

 

「なんか曲がりくねって怪しい木ですけど、よく触れる気になりますね」

「別に大した闇の力は持ってないわ、これ」

 

 曲がりくねった枝は今にも襲い掛かってきそうなほど凶悪な曲線を描いている。枯れ落ち、しかし枝に残る葉脈は刃の形をしていた。

 

「……闇の力、持ってるんですか」

「ここは邪神の領域だものね」

 

 ファニマは出し抜けにバ、と振り向いた。警戒はずっと張り巡らせていた。その糸に引っかかったものがある。

 

「お嬢様?」

「見つけたわ。行けるかしら? メイ」

 

「はい、お嬢様のためなら火の中水の中ドンと来いです!」

「心強いわね。行くわよ」

 

 さらに10分ほど歩くとうずくまった人影が見えた。

 

「あ、もしかしてアレがチア様!?」

「多分そうね」

 

 メイがかけよって抱き起こすが、ぐったりとして返事を返さない。口元に手をやって呼吸があるのを確認する。

 顔は土気色、四肢はぐにゃりと投げ出されていて力が入っていない。たった一晩でこうなったのが信じられないほどの衰弱ぶりだ。

 

「我が領域を荒らすのは何者か……?」

 

 地面から幽鬼のように染み出た闇の気配。……人間ではありえない角の生えた骸骨にプレートアーマーという姿の化け物が姿を現わした!

 ファニマとメイを見据えている。その暗闇のような光のない濁った眼で。

 

「この少女を攫ったのはあなたね」

「その通り、人間の魂を喰らうことにより我らは更なる力を得る。我らが領域に侵入した愚かなる人間よ、貴様も供物となるがいい」

 

 ファニマが悪霊を倒しその力を己のものとしたように、悪霊もまた人間を倒しその魂を喰らうことで進化できる。

 実体化できるのは相当に強力な悪霊の証。されど、所詮は悪霊……大貴族の私の前では塵同然と令嬢は薄く笑う。

 

「ふふ、望むところ。けれど私はお前ごときの魂など要らない。そこの少女の魂を賭けてデュエルなさい」

「良いだろう。では、魂を賭けたデュエルを」

 

 両者、デュエルディスクという盾を掲げ。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 魂を賭けた死の遊戯が始まった。

 

・1ターン

 

「私の先攻!」

 

 ファニマが5枚のカードをドローする。敵を鋭く睨み、蜂のように鋭くカードを閃かせた。

 

「私は『ファーニマル・ドッグ』を召喚、効果でデッキから『ファーニマル・ペンギン』を手札に加える! そして、魔法『融合』を発動」

 

「『エッジインプ・チェーン』と『ペンギン』を融合、現れよ海の覇者『デストーイ・クルーエル・ホエール』! 『ペンギン』の効果でデッキからカードを2枚引き、手札の『デストーイ・ファクトリー』を墓地へ送る。さらに『チェーン』の効果でデッキから『魔玩具融合』を手札に加えるわ!」

 

 鎖の悪魔とペンギンが宙の大渦に吸い込まれる。現れるは闇の力纏う悪意の人形。それが象るは鯨。大きく吠え、地を揺るがすとペンギンがポンポンと2枚のカードをファニマに手渡し1枚を引き取った。そして、地より鎖がデッキに伸び、1枚のカードを引き出した。

 

「そして『ホエール』の効果発動、EXデッキから『デストーイ・デアデビル』を墓地に送って攻撃力を上げる……【マックスホエール】。ターン終了時に攻撃力は元に戻るわ。これでターンエンド」

 

 バイバイと手を振る悪魔の形をした人形が鯨に飲み込まれ、これでターンが終了。

 

場:

『ファーニマル・ドッグ』 ATK:1700

『デストーイ・クルーエル・ホエール』  ATK:2600

 

・2ターン

 

「ふん、無駄に融合モンスターを墓地に送ったか。だが、何をしようと貴様の敗北は決定されているのだ! まず、『共振虫』を通常召喚。このカードは墓地に送られたときレベル5以上の昆虫族モンスターをサーチする」

 

 現れた虫がキィィと鳴く。

 

「そして手札から儀式魔法『高等儀式術』を発動! デッキから2枚のレベル4『甲虫装甲騎士』を墓地に送り、レベル8モンスターを儀式召喚。果てを語るがいい、終焉を告げる昏き王よ! 現れよ、『終焉の王 デミス』!」

 

 現れたるは亡霊と同じ姿。そう、彼こそ闇に属する精霊。人間の魂を喰らうデュエルモンスター。

 人に終焉をもたらす滅びの支配者。

 

「我が効果を発動、2000ポイントのライフを払ってフィールド全てのカードを破壊する! さあ、これぞ果てであると知るがいい【マジェスティ・オブ・アンゴルモア】!」

 

 支配者が斧を掲げ、断罪のごとく地に振り下ろすと世界の滅びが始まった。彼以外の全てが地の裂け目に吸い込まれていく。

 

〇 亡霊ライフ:8000ー2000=6000

 

「場を更地にする力。モンスターも、トラップも例外なく破壊する強力な効果ね。……だが、それだけか!? 私は『デストーイ・クルーエル・ホエール』の効果をもう一度発動、攻撃力を上げる」

「今更攻撃力を上げたところで何になる!? おとなしく滅びを受け入れよ、人間」

 

 裂け目に引き込まれんとする鯨が大きく叫んだ。だが、いくら叫ぼうとじりじりと吸い込まれていく。

 

「狙いはそれじゃないわ! 墓地に送るのは『魔玩具厄瓶』! このカードは墓地に送られた時に発動する隠されし効果がある! この効果により『デミス』の攻撃力を半分にする!」

「何だと!? デミスの攻撃力が半減……これでは!」

 

 ガチャガチャが現れ、鯨がそれを叩き壊す。中身の一つのボールが終焉の王に当たると、紫色の煙が出て彼は地に膝をついた。

 だが、最後の力を使い果たしたかのように鯨は裂け目に吸い込まれてしまった。

 

「私を倒せない、かしらね?」

「ほざけ、貴様の場は空だ。大ダメージを喰らうがいい! 破壊された『共振虫』の効果でデッキから『デビルドーザー』を手札に加える。墓地の昆虫族2体を除外して特殊召喚、見るがいい大地すら喰らう大百足(むかで)の姿を!」

 

 山すら砕く大いなるその姿。妖怪の王と言うに相応しいほどの威容である。……昆虫だが、その姿は人に嫌悪を与えるには十分すぎるほどおぞましい。

 

「更に手札から装備魔法『巨大化』をデミスに装備、攻撃力を元々の攻撃力の倍……4800にする! 元々の攻撃力を参照するため、『魔玩具厄瓶』の効果は無効だ!」

 

 デミスの直上に石でできたレリーフが鎮座する。それは紫の毒気を吹き飛ばし、さらには力を与え彼を巨大化させた。

 

「けれど、無効化するためにデビルドーザーに装備できなかった。それでは私のライフ8000には届かない。無駄なあがき、ご苦労様」

 

「ほざけ、死に値するダメージを喰らって立っていられるかな? ダイレクトアタックだ。『終焉の王 デミス』よ【終焉宣告】を放て、『デビルドーザー』は【千山轢殺】!」

 

 巨大な斧がファニマめがけて振り下ろされ、そして大百足が轢いて行く。

 

「……ぐ! きゃああ!」

 

『終焉の王 デミス』 ATK:4800

『デビルドーザー』  ATK:2800

 

〇 ファニマライフ:8000ー4800ー2800=400

 

「デビルドーザーが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手はデッキトップからカードを1枚墓地に送る」

 

 デッキから『エッジインプ・ソウ』が墓地に送られた。

 

「我はこれでターンエンド!」

 

・3ターン

 

「ならば私のターン、ドロー!」

 

 7600の大ダメージ、ファニマは傷だらけになっているが不敵に笑う。そうだ、勝てる戦いを前に委縮する馬鹿がどこに居る?

 この痛みですら勝利の快感を得るための前菜に過ぎない。

 

「私は手札から魔法『魔玩具補修』を発動。『融合』と『エッジインプ・シザー』を手札に加えるわ。そして『融合』を発動、『ファーニマル・ドルフィン』と『エッジインプ・シザー』で融合、現れよ、全てを破壊し尽くす獣の化身『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

 悪意に彩られた虎のぬいぐるみが嗜虐に満ちた笑みを浮かべている。腹から生えたハサミが悪魔のごとく全てを切り裂いていく。

 

「『シザータイガー』の効果で融合素材にした数、すなわち2枚のカードを破壊する。【ロアー・オブ・タイガー】! あなたの場のモンスターは全て破壊させてもらうわ。そして装備魔法も装備対象がいなくなったことで自壊する。……別にフィールド全てのカードを破壊するまでもなく、たった2枚を壊すだけで更地になってしまったわね」

「ぐぬぬ。おのれ、ライフは風前の灯の癖に……!」

 

 けらけらと嘲笑うファニマ、一方で悪霊は次のターンに引導を渡してくれると歯ぎしりしていた。

 

「それは、このターンをあなたが生き残れたらの話でしょう? さらに私は魔法『魔玩具融合』を発動、墓地の『デアデビル』、『ドッグ』、『ドルフィン』を除外融合。『デストーイ・サーベル・タイガー』を融合召喚、効果で『デストーイ・クルーエル・ホエール』を蘇生する【リターン・フロム・リンボ】!」

 

 虎が咆哮を上げると共に、地の底より鯨が再び姿を現わした! シザーとともに、悪霊を八つ裂きにする瞬間を今か今かと舌なめずりする。

 

「私はシザーの効果で私のモンスター達の攻撃力を900アップ。さらにホエールの効果で自身の攻撃力を5200までアップするわ。これで終わりね」

 

 待ちきれないとばかりに3体のモンスターが吠える。

 

「魂ごと砕け散りなさい! 『サーベル』、『シザー』、『ホエール』の3体でダイレクトアタック【トライアングル・デス・シザーズ】!」

「ば、馬鹿な。我が人間ごときに……!?」

 

 刃持つ三体のモンスターが敵を切り刻んで行く。

 

〇 亡霊ライフ:6000ー5200ー3200ー3700=0

 

 彼の姿は17個の肉塊に分割され、残った肉体もボロボロと崩れていった。

 

「あ、お嬢様。何か出てきましたよ」

 

 白いふよふよとした綿埃のようなものが煙と消えた亡霊から出てきた。それはうろうろと彷徨った後、チアの身体に吸い込まれていく。

 

「……う」

「お嬢様、息を吹き返しました!」

 

「ううん……」

「って、二度寝ですか!?」

 

 芸術的なツッコミだった。

 

「まあ、生贄にされかけていたのだもの。あと何日で消えていたのかはわからないけれど、おそらく魂が消えれば肉体も塵と化していたのでしょうね」

「ひぃ……! って、お嬢様。それって、もしかして一歩間違えていたらお嬢様もそうなったってことは?」

 

「私は間違えないわ」

「お嬢様、安心できません!」

 

 んー、と宙を仰ぎ少し考えると、にっこりと微笑みかける。

 

「でも、あなたと私はずっと一緒よ。ねえ、メイ」

「……はあ。あまり危険な場所には行って欲しくないんですけどねえ」

 

 誤魔化すなら善は急げと、ファニマはしゃがみこんで眠るチアをつんつんとつつく。嫌がるように頬をむずむずとさせている。

 よし、と頷いた。

 

「ちゃんと生きているわね。さ、メイ。背負ってくれるかしら。面倒だけれど、保健室にでも放り込んでおかないとね」

「はい!」

 

 四苦八苦しながらも担ぎあげて、えっちらおっちらと歩く。行きの倍の時間をかけて森の縁まで帰ってきた。

 

「……あら」

 

 ファニマは3人組の影を見つけた。今は丁度午後の授業が始まったあたりである。つまりはサボりで、そしてファニマは家柄から免除されているが彼らはそうではないだろう。

 何かしらの経歴を持つ優秀な生徒は把握している。彼らは違った。

 

「授業を受けないと落第するわよ、お馬鹿さんたち」

 

 声をかけるとビクリと震えて振り向いた。

 

「な、な、な――」

 

 こちらは声も出ない様子である。まあ、気分は立ち入り禁止区域に忍び込んだのを警察官に見られたのと同じだろう。

 しかも、ファニマは彼らを停学に追い込むだけの権力がある。

 

「丁度良いわ、彼らに持って帰らせましょう。……メイ」

「あ、はい。お願いします」

 

 背負ったチアを受け渡した。

 

「チア! 無事だったのか、良かった! って、え? なんで、アンタがチアを?」

 

 混乱するオノマを横にファニマはすでに歩き出している。後始末なんて任せて、自分はサロンに行ってお茶を飲む気だ。

 

「待ってくれ、ヴェルテ!」

 

 そう言われても振り向くことすらしない。後ろに付いて行くメイはきょときょとと振り向いているのだが。

 

「アンタのおかげでチアが助かった! ありがとう!」

 

 その言葉に、やはり振り返らずに手を上げて返した。

 

 

 

 

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