月の姫君が異世界から来るそうですよ?   作:二色蝶

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今回は白夜叉とかぐやの関係、そして店員が馬鹿みたいにビビッていた理由が書かれた話です。
えっ?バトル?

今回はありませんよ?


挑戦or決闘

店の中から現れた白髪の少女。

後ろに居る飛鳥・耀・十六夜の3人は、この店の従業員か娘かのどっちか思っている頃…

 

「(……きっと今日の私の運勢は、世紀末レベルで最悪なんでしょうね。 なによ…壊れた兎だけでも面倒なのに、次は太陽の気配が14個もする意味不明な女? ふざけないでよ)」

 

何て最悪なんだと思わずにはいられない。

異世界から楽しそうなお誘いを受け、やって来たと言うのにこの有様。

そろそろ楽しいことが無ければ、この箱庭に来た事を後悔しそうだ…と、内心溜息を吐く。

 

「黙ってないで、頼む……答えてくれ……」

 

何とも希望にすがりつくような瞳で赫映を見つめる少女。

どれだけ希望を持とうが、望む言葉など吐けるわけがないと言うのに…

 

「正真正銘かぐや姫よ。他に何に見えるっていうのかしら?」

「………本当にかぐやなのだな?」

「えぇそうよ。だけど…アナタが望む人物ではなく、異世界のかぐや姫…だけどね」

「……………そうか」

 

悲しい気持ちを必死に押し殺し、少女は出来る限りの笑顔で短く答えた。

上に立つ者として、人がいる前で無様に泣く姿を見せるなど、出来るわけがない。

少女は、溢れ出てきそうな感情を無理やり胸の奥底に押し込むため、客人の前で無様な姿を晒し続けないために―――

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギイィィィィィ!!」

「キャァァァーーー……!!」

 

いつもの様に、黒ウサギの胸を目当てに抱きつき、結構遠くにある浅い水路にまで飛び込んだ。

哀れな黒ウサギ…彼女は犠牲となった。

 

「………おい店員。 この店にはドッキリサービスがあるのか? あるなら俺も別バージョンで是非」

「…ありません」

「なんなら有料でも」

「…やりません」

 

恐怖がまだ完全に抜け切っていない状態で、女性店員は真剣な表情で言い切る。

流石はサウザンドアイズの店員。あれだけの恐怖を身に刻ませていても、しっかり返している。

 

「し、白夜叉様!! 先程のシリアスをぶち壊して、いきなり何をなさるのですか!!?」

「フフ、フホホフホホ!! やっぱりウサギは触り心地が違うのう! ほれ、ここか? ここが良いか!?」

「無視!? て、ちょ…ちょっと離れてください!」

 

見た目は美少女、中身は変態エロオヤジの少女を引き剥がし、まるでピッチャーが投球するかのように投げる黒ウサギ。

そして投げられた少女はくるくるとまるで体操選手のように回転し、

 

「てい」

「ゴハァ!?」

 

綺麗に着地…をする前に、十六夜が足で受けとめた。

少女相手でも手を抜かない…さすがは最高峰の問題児、逆廻十六夜である。

 

「お、おんし…飛んできた初対面の美少女を足で受け止めりとは何様だ!!」

「十六夜様だぜ、以後よろしく」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

一連の流れの中で呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉と呼ばれていた少女に話しかけた。

 

「貴女はこの店の人?」

「うむ、そうだとも。この〝サウザンドアイズ〟の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。 仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「……オーナー。 それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

ちょうどその時、黒ウサギが濡れた服を絞りながら水路から上がってきた。

 

「うう……まさか私まで濡れる事になるなんて…」

「……因果応報」

 

濡れても気にしていなかった白夜叉は、店先で黒ウサギ達を見回してにやりと笑った。

不敵な笑顔を浮かべる白夜叉に視線が集まる。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは―――遂に黒ウサギが私のペットに!!!」

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

「全くその通りよ。 黒ウサギは月の民…つまりは私のモノなのよ? 勝手にペットにしようとか考えないでくださる?」

「その通りです! 私は姫様の…って、それも違いますよ!?」

 

こんな話しには乗らないと思われていた赫映の言葉に、驚きながらも否定する。

否定するのだが…その表情は心底嬉しそうで、誰もが満更でもないと分かるほどだ。

そんな光景を、とても…本当にとても面白くなさそうに白夜叉は見ていた。

まるで…自分の愛する彼女が、他の男と仲良く会話している光景を見て、嫉妬する彼氏の様に…

 

「(久しぶりに会ったと言うのに、私の目の前で月の民とイチャイチャしおって……)」

 

姿・名前・仕草・性格・声…全てが失った愛しい彼女と似ているせいか、無意識に『赫映』を『かぐや』とし見てしまっている白夜叉。

そんな白夜叉の視線を感じ取った赫映は、その視線をさっさと消すために白夜叉に話しかける。

 

「ねぇ白夜叉」

「……なんじゃ?」

「私達、用があってサウザンドアイズに来たのだけど……そろそろ中に入れてくれないかしら?」

「ふむ。 私とした事が、客人を長々と外に居らしてしまったのう…よかろう、話は店内で聞こう」

 

さっきまでの嫉妬の視線は綺麗に無くなり、笑って店へと招く白夜叉。

そんな白夜叉の行動に、業務を完璧にこなす女性店員が突っかかる。

 

「よろしいのですかオーナー? 名も旗も持たない〝ノーネーム〟を店に入れて…規定では―――」

「おんし…10年前かぐやを怒らせて、両手足を切断されたと言うのに…また月の逆鱗に触れ、切断されたいのか?」

「そ…それは…」

「嫌なら黙っておれ。 そこの者達の身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。 それでも規定をと言うのであれば…止めんぞ?」

 

青ざめた顔をする女性店員。

決められたルールを守っているだけなのに、この現実。

流石に可愛そうになったか、赫映達は店員に一言謝罪をしながら店の中へと入っていた。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。 すまぬが私の私室で勘弁してくれ」

 

5人が通されたのは白夜叉の私室。

香のような物が焚かれており、風と共に5人の鼻をくすぐる。

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから5人に向き直った。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。 私は四桁の外…三三四五外門に本拠を構える〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。 この黒ウサギとは少々縁があってな…コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げ遣りな言葉で受け流す黒ウサギ。

貴重なコネクションなのだから、もう少し大切にすべきなのだろうが…この様子から察するに、普段から色々なセクハラをされているのだろう。

……何とも哀れである。

 

「その外門って…なに?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門の事です。 数が若いほど都市の中心に近づいていって、強力な力を持つ方々が住んでいるのです」

 

箱庭の外門は1桁から7桁までの層に分かれ、1~4桁が上層・5桁が中層・6~7桁が下層と言われる。

若番の層ほど修羅神仏の猛者が集まり、1桁の差は上層と中層の実力差は天と地の差がある。

黒ウサギは、4人にもっと簡単に解りやすくするため、紙に上空から見た箱庭の略図を描いていく。だが、その箱庭の図を見た4人は…

 

「…超巨大玉ねぎ?」

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだな」

「あれ中心空洞でしょ? 私はミル・クレープに見えるわ」

 

その身も蓋もない言葉に、黒ウサギは肩を落とし項垂れる。

 

「ふふ…うまいこと例えるな。 私はバームクーヘン派だな。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。 更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。 あそこはコミュニティに属してはいないものの、中々に強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ。 例えばその水樹の持ち主の蛇神などがな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持っている水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのは世界の果てで、十六夜が素手で叩きのめした蛇神のことだろう。

 

「して、一体誰がどのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? それとも勇気を試したか?」

「いえいえ。この水樹は十六夜さんが此処に来る前に、蛇神様を素手で直接叩きのめして来たのですよ」

「なんと!? クリアでは無く直接倒したとは! ならその童は神格持ちの神童か?」

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格持ちなら一目で分かる筈ですし」

「む…それもそうか。 しかし神格持ちを倒すには同じ神格持ちか、お互いに余程崩れたパワーバランスがある時だけの筈。種族の力ならば、蛇と人ではどんぐりの背比べだぞ」

 

神格とは、生来の神そのものではなく、種の最高のランクに体を変化させるギフトのこと。

人に神格を与えれば現人神や神童に…蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に…鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

更に神格を持つことで他のギフトも強化される。コミュニティの多くは目的のために神格を手に入れるため、上層を目指して力をつける。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り、カカと豪快に笑う白夜叉。

それを聞いて、十六夜は爛々と瞳を輝かせて問う。

 

「へぇ……そんなもんを与えられるってことは、オマエはあの蛇より強いのか?」

「ふふん、当然だ。 私は東側の〝階層支配者〟だぞ? この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

 

―――最強。

 

 

その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の3人は一斉に立ち上がり、その瞳を更に爛々と輝かせる。

 

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

「無論、そうなるのう」

「探す手間……省けた」

「面白いぜ白夜叉…初っ端からこんな大物に会えるとはな!」

 

その闘争心を燃やしながら3人は白夜叉を見る。白夜叉はそれに気づき、高らかと笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

「な、何を言っているのですか!?御3人様方おやめください!!」

「いいじゃない黒ウサギ。折角白夜叉が〝阿呆3匹〟に、身の程と言うものを教えてあげると言っているのよ? 素直にさせて上げなさいな」

 

止めにはいる黒ウサギを裾で口元を隠しながら、何とも楽しそうに止める赫映。

だが赫映の言葉にピクリッと反応した3人は、赫映をこれでもかと言うほどに睨みながら、白夜叉に早くゲームを始めろと視線を送る。

そんな送られた本人は、恐怖を覚える笑みを浮かべながら、着物の裾から向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し一言。

 

「おんしらが望むのは〝挑戦〟か…もしくは〝決闘〟か?」

 

白夜叉がそういった瞬間、4人の視界に爆発的な変化が起きた。

視界は黄金色の穂波が揺れる平原。白い地平線を除く丘。 森林の湖畔―――そして、水平に太陽が廻っていた。

 

「「「なっ――――!!!」」」

 

余りの異常さに、十六夜・飛鳥・耀の3人は同時に息を呑んだ。

当たり前だ。ゲームをする…ただそれだけの為に、今いた世界すらも変わったんだ。

なんとも緊張感が漂うこの空間で…

 

「はぁ……着物の私に、この場所はきついわ…」

 

1人…用意されていたお茶を啜りながら、何とも気が抜ける発言をしていた。

 

「今一度名乗りなおし、問おうかの。 私は〝白き夜の魔王〟―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。 おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か それとも対等な〝決闘〟か?」

 

少女の笑みとは思えぬ凄味をだしながら問う白夜叉。

飛鳥と耀、そして自身の力に自信を持つ十六夜でさえも返答に躊躇っていた。

そんな3人に対して、赫映はクスクスと笑いながら追い討ちをかける。

 

「さぁどうするの? 身の程知らずの阿呆3匹達。 実力の差など今更問わなくても分かるでしょうし、ほら―――だから、言いなさい。言うの。言って。言っちゃえ。言え。言えば。言ったら―――」

 

勝ち目がないことは一目瞭然。

しかし、自分が売った喧嘩を勝てないからと言って、取り下げるのはプライドが許さない。

さらには赫映にあんな挑発までされたせいで、一層引けなかった。

だが、しばらくして―――

 

「参った…やられたよ、降参だ。白夜叉」

「ほう…それは決闘ではなく、試練を受けるということかの?」

「これだけのゲーム盤を用意できるんだからな、アンタには資格がある――いいぜ今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

自信家の、十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが『試されてやる』とは随分と可愛らしい意地の張り方があったものだ。

白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。

ひとしきり笑った白夜叉は笑いを噛み殺して2人にも問う。

 

「く、くく…………他の童達だも同じか?」

「…………ええ。私も試されてあげてもいいわ」

「右に同じ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする2人。

仕方が無い…3人はこの箱庭の様な世界とは違って、とても平和な世界から来たばかりで、力量を見極める等と言った芸当など出来るわけが無い。

だから、この様な馬鹿な行動を簡単にとってしまうのだが…それにしても浮かれすぎていたせいで、彼ら3人はとても大事なことを忘れてしまっている。

この世界は、3人がいた世界の常識とはかけ離れた異世界―――と言うことを。

 

「さて……残るは、異世界のかぐや姫だが…おんしはどうする?」

「当然―――決闘よ」

 

この言葉に、白夜叉はとても嬉しそうな表情をするが、問題児達三人と黒ウサギは驚愕した。

 

「ちょ…ちょっとお待ちください姫様! 相手はかつて〝白き夜の魔王〟と呼ばれた白夜叉様です! これは相手が悪すぎます!!」

「黒ウサギの言う通りだぜ赫映。 相手は最強クラスの星霊の白夜叉だぜ?」

「そうよ。いくらなんでも無謀すぎるわ!」

「……危険」

「そうね…あの者はとっても強いわね。 今は何かしらの理由で弱体化している感じだけど…本来ならば十指に入る実力者と言うのは何と無くわかるわ―――でも、私の方が強いわよ?」

 

その瞬間、赫映から圧倒的なまでの力―――星霊の格が現れた。

 

「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」

 

赫映から放たれる星霊の力に問題児達や黒ウサギは驚愕しながら、その重圧に思わず片膝をついた。

自分達に向けられているわけでもない…この世界全体を覆うようにされているにも関わらず、この有様。

そんな4人の事など気にもせず、赫映はゆっくりと上空に舞い、声高らかに宣言する。

 

「幻想に囚われた愚かな太陽よ! その曇りきった眼で、この私と対峙する勇気があるのであれば―――命と誇りの限りを以て戦おうではないか!!!」

 

この宣言をしたと同時に、空に異変が起きた。

決して昇る事がない水平線のこの地で、大きく美しい黄金の月が上空に出現した。




次回、月と太陽とのバトル回です。

書けるか心配だお~………
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