サブタイトルに関しては考えるな感じろの精神で行きます。
先ほどまで歌を聞くために集まっていた観客もまばらになってきた。
……さてと。
「それじゃあ俺はもう行くよ。冬弥くん、土曜日の昼からだから忘れないようにね」
「はい、楽しみにしてます」
本当は彼女達にも話しかけようと思っていたのだが、次の機会にしよう。
そうして冬弥と別れビビッドストリートを出ていく。なんだかここだけ別世界みたいだなぁ。
◇
……慣れないことをしたからか少しばかり小腹が空いてきた。以前食べそこなったたい焼きでも買いに行こう。
「まいにち♪ まいにち♪ ぼくらはてっぱんの♪ ……おや?」
「あれ、はるきさん!? 久しぶりですね!」
「さ、咲希……知り合い?」
息が止まる。それと同時に脳が、本能が全力で訴えかけてきた。
傅け! ひれ伏せ! 頭が高いぞ! と。
「お恥ずかしい所をお見せしてしまい申し訳ございません。妹様に置かれましては平穏であたたかな日常を送られているご様子で大変嬉しゅうございます」
「ち、ちょっとはるきさん!? 妹様って呼ぶのやめてよぉ! 周りにも人がいるのに!」
「ね、ねえ咲希! 本当に知り合いなの!? 絶対危ない人だよ!」
おっとそうだった、ここは渋谷のど真ん中じゃないか。
やい愚民ども! このお方を誰と心得る! 天馬司の妹にして天翔けるペガサスの血を引く尊きお方! 天馬咲希嬢であらせられるぞ! 傅け、ひれ伏せ、頭がたかーい!
「いやはやまさかこの様な場所でお会いできるとは。お兄様から聞いてますよ、高校に復学なされたと」
「もう! ちゃんと話を聞いてくれないとお兄ちゃんに言い付けるからね!」
「ごめんなさい許してくださいごめんなさい」
なんと恐ろしいことを仰るのか。これが天馬の血筋……!
「ところでそちらのお嬢さんはどちら様で?」
知っているけどあえて聞いていくスタイルの俺である。さあ名乗れ、君の名は!
「あ、前にも話してたいっちゃんです! アタシの幼馴染の!」
「ほほう。いっちゃんさん、とな。これはまた変わったお名前で」
「ち、違います! 一歌です! 星乃一歌です!」
「俺は朝比奈春樹です。妹様……ではなく咲希さんとは司を通して知り合いました。以後お見知りおきを」
そう言うと彼女、星乃一歌はポカンとした後顔を赤らめた。どうやらからかわれていたことに気が付いたらしい。
「もう咲希! 普通に紹介してよ!」
「ええ!? 今のってアタシが悪いの!?」
いいえ悪いのは世界です。この世の大半は世界のせいです。決して私のせいではございません。
◇
「すいません。取り乱しちゃって……」
「いやいや、君は悪くはないさ。悪いのはいつだってこの世界であって俺ではない」
「今回ははるきさんが悪いと思うよ……」
妹様がそう言うのであればそうなのかもしれない。
「俺が悪かったです、ごめんなさい」
「はるきさんは素直なのか捻くれてるのかよくわからないってお兄ちゃんが言ってたよ」
なんだって? それは初耳だ。俺ほど純粋無垢な人間も珍しいと思うのだが。
今度抗議しに行かないと。
「……あの朝比奈、さん」
「はい朝比奈です。どうかしたかい星乃さん」
一歌嬢がおずおずと声をかけてくる。なぜそんな怯えた目をしているのかよくわからないなぁ!
「朝比奈さんはお姉さんか妹さんっていますか?」
……ああなるほど。理解しました。
「いるよ双子の妹が。そうか同じ学校だから知り合いの可能性もあるのか」
まふゆと彼女の共通点……学級委員かな。
「では改めて自己紹介を。天馬司の親友にして朝比奈まふゆの兄。神山高校二年、朝比奈春樹です。よろしくぅ!」
「ぜ、全然似てない……」
よく言われる。双子なのにまったく似てない、と。だがよく見てほしい、ほら髪色とかそっくりだろう。
「はるきさんに妹さんがいたなんてしらなかったなぁ。ねえいっちゃん! やっぱり双子だとそっくりなの?」
「……外見もあまり似てないけど性格は正反対だと思う」
「性別の違う双子は性格も反対になる傾向があるんだよ」
「へ~! そうなんだ!」
……まさか信じてしまうとは。
「ごめんなさい今の嘘です」
「「…………」」
ごめんなさいそんな目で見ないでください、罪悪感で死んじゃう。
「よ、よーし、お兄さんが二人に美味しいたい焼きを奢ってあげよう! そうと決まれば善は急げだ。ついてきたまえ!」
◇
「へぇ、ならその友達と一緒にバンドをするために曲をマスターしないと駄目なわけだ」
二人を連れてたい焼き屋に来た俺たちは購入したたい焼きを食べながら話をしていた。
「はい、でも私も咲希も楽器に触れなかった時間が長いので……」
「それにしほちゃんに提示された曲がとっても難しいんです」
それはまた大変そうだなぁ。
「でも弾き方を教えてくれる人はいるんだろう? ならその人たちに遠慮なく頼るといい。彼女達も君達の力になりたいと思っているはずだから」
「はい。……あれ、教えてくれる人が女性だって言いましたっけ?」
……言ってないです。墓穴を掘ってしまった。
「いや会話の流れからして相手は男性ではなく女性かなって思っただけだよ。違ったかな?」
「すごい! 当たってるよはるきさん!」
どうやら誤魔化すことができたようだ。はるきさん嬉しい。
「でも不安なんです。志歩も穂波も本当は私たちと関わりたくないんじゃないかって」
不安。それは急に二人から拒絶された経験からくるものだろう。
人間の心は難しい。自分の想いすら見つからないのに他人の想いを知るなんて至難だ。
だからこそセカイにはミク達がいるのだろうが。
「星乃さんはどうしたい?」
「え?」
「星乃さんと妹さ──じゃなくて咲希さんはどうしたい、どう在りたい? 今のまま停滞するのは簡単だ、歩み寄ることを止めればいい。だけど昔の様な関係に戻りたいと思うなら決して立ち止まってはいけない」
二人を見る。顔にはまだ不安の色が見えるがそれも仕方がないだろう。
「妹さ──咲希さんは幼馴染のみんなと昔のような関係に戻りたいかい?」
「戻りたい。昔みたいにアタシといっちゃんとしほちゃんとほなちゃんの四人で一緒にいたいよ……」
「咲希……」
……ああ、関係がバラバラになってもその中心に立って皆をまとめようとするあたり、やっぱり司の妹だなあ。本人は無意識だろうけど。
「ならもう一度聞くよ、星乃さんはどうしたい?」
「……私、は。……私は……」
彼女の中にも葛藤があるのだろう。一度は諦めてしまったものを取り戻せるかもしれないという期待。また拒絶されてしまうかもしれないという恐怖。
だけど大事なのは自分たちが『どう在りたいのか』だ。
「私は……私もみんなと一緒にいたい。咲希と志歩と穂波と、また昔みたいに一緒にいたい、です」
自然と口角が上がる。その答えを聞けて、安心した。
「ならばもう大丈夫。君達は今、本当の想いを見つけた。なら後はその想いをぶつけるだけだ。大丈夫、彼女達も君達と同じ想いを持っている。後は一歩前に踏み出す勇気だけだよ」
二人の頭を撫でる。今俺は子供の成長を見守る父親の気持ちを知った。おお我が子たちよ、強くなったなぁ。
「えっ? ちょっ、まっ…えっ?」
「は、はるきさん、なんで泣いてるの!?」
「泣いてません、これは赤血球の抜けたただの血液です……」
「それって涙なんじゃ……」
涙じゃありません、透明な血液です。グスン。
これって傍から見たらただの変質者じゃね? ヤバい奴じゃね?
主人公に恋愛感情はありません。完全に子を見守る父親です。
傍から見たらヤバい奴です。一発通報ものです。……あ、もしもし!不審な男が泣きながら女子高生の頭を押さえつけてるんですけどお!