今日は連休初日の土曜日。つまり我らがスターが記念すべき第一歩を踏み出す日である。
「ククク。フフ、フハハハハ!」
笑いが止まらないとはまさにこの事!俺たちのペガサスが世界に羽ばたくのだ!フハハハハッ!
「朝比奈先輩、お待たせしてすみません」
「おお冬弥くん、おはよう…って時間でもないか。こんにちは?」
「はい、こんにちはで合ってると思います」
彼が言うと何故こんなにも説得力が生まれるのか。不思議だなぁ人間の神秘だなぁ。
「それじゃ時間まで余裕もあるし、どこか寄ってく?」
「そうですね。……近くにおいしいコーヒーを提供している店があるので案内しましょうか?」
「おっいいね。なら先導してもらおうかな」
おいしいコーヒー。インスタントとどう違うのか確かめてやるぜ。
◇
……俺が悪かった。予想以上にうまかった。
馬鹿な、何故豆をすり潰して煮だしたような液体にここまで差が生まれる!もうインスタントじゃ満足できない体にされちゃったよぅ……。
「気に入っていただけた様でよかったです」
「凄かった。……冬弥くんはああいう店にはよく行くのか?」
「はい。コーヒーは好きなので」
そうだったそうだった。フフフ、俺は君の好きな物から嫌いな物まで何でも知っているぜ。今まで忘れてたけど。
そもそも自分の記憶だけで精一杯な我々人類が、他人の記憶まで憶え続けるなんて無理な話なのだ。
「そろそろいい時間だしステージの方に向かうか」
「そうですね。……朝比奈先輩、ずっと気になってたことがあるんですが」
気になっていたこと?なんだろうか。
「その大きなリュックサックには何が入っているんですか?」
………何って。
「当然、応援グッズだが?」
「応援グッズ」
「あと撮影用のビデオカメラとオペラグラス」
「ビデオカメラ、オペラグラス」
ちなみに応援グッズは自作してきた。アイドルの応援に使うような団扇だ。ありがとうみのり嬢、君の(記憶の)おかげでいい団扇が作れたよ。まだ会った事ないけど。
「今日は司の記念すべき日になるからな。しっかり映像に残しておかないと」
「なるほど、さすが朝比奈先輩」
そんなに褒めないでくれたまえ、俺から見たら君も中々といえる。
「では行くぞ轟……じゃなくて冬弥少年!俺たちの
◇
無事迷うことなくワンダーステージに到着した俺たちはステージに一番近い席に座った。
「にしても、予想以上に観客が多いな。アトラクションから結構離れた場所にあるのに」
「ええ。しっかり宣伝した証ですね」
恐らく司たちだけでなくあの着ぐるみの方々も手伝ったのだろう。便利だなぁ。
シナリオは……どんなだっけ?ペガサス王子がドラゴンと歌うんだっけ?……絶対違うな。
「先輩、どうやら始まるみたいですよ」
「お、もうそんな時間か」
急いで三脚とカメラを設置しないと……よし。オペラグラスよーし!団扇よーし!
「冬弥くん、君にも貸してあげよう。使いなさい」
「え、ありがとうございます」
団扇を大量に用意してよかった。彼に貸したものには『未来のスター!』『こっち向いて!』と書いてある。……似合っているじゃないか。
でもこの近さだとオペラグラスはいらないな、片付けよ。俺も団扇二刀流でいくぜ。ふるえるぞハート!燃えつきるほどヒート!おおおおおっ!
◇
アッハハハハ!アハハハハハッ!
『オウジ、アナタがモンスターをタオシテクレタので、ムラがヘイワにナリマシタ。コレはオレイのゲンキにナル、ハイパードリンクデス』
『ほほう。ドロっとしていてなかなか体に効きそうだ。んぐ、んぐ…』
……フ、フフ。クックック。
『ぐええ〜!なんだこの味は!あ、そうか。ロビット族は油しか飲まないんだった……』
ファァーーッ!!アーハハハハ!アホだアホがいる!ヒー!おなか痛い苦しい。息が、息ができないぃ!ヒー!
「先輩、大丈夫ですか?」
「クッククク…ああ大丈夫大丈夫。ちょっと横腹が攣りかけただけだから。ヒー!おなか痛い」
「本当に大丈夫ですか?」
大丈夫だとも。今の俺は最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ!……今なら箸が転がっただけで爆笑しそう。あのロボがいいキャラしている。
『あたしは魔王様のドラゴンのお世話係・エムム!王子なんて、ぺっちゃんこにしちゃうぞ~!』
ド、ドラゴン……!いや完成度たけぇなオイ。アレも類が作ったのだろうか、スゲー。
にしても鳳財閥ご令嬢殿がお世話係とは、いいのかそれで。楽しそうだしいいのか。
そしてショーは続いていく。
『そうか!あのドラゴンは、歌で眠りにつくのか!なにか歌を歌って……』
『……ココは、ワタシにマカセテクダサイ。ウタを、ウタイマショウ』
『ーーーーー♪』
……マジか。
「ビックリした。あのロボどんだけ高性能なんだよ、機械越しでこのレベルって……。冬弥くんから見てどう思う?」
「上手いですね、かなり。魅せる歌い方を熟知しているように感じます」
魅せる歌い方……なるほど、そういうものもあるのか。さすがは音楽一家の三男坊、ためになるわぁ。
それにしても、機械越しでコレならば生の歌声はどれほどなのか。是非とも聞いてみたいものだ。
『ーーーーー♪…………。』
……おや?歌が止まった。
「故障…でしょうか」
「いや、これも演出と見た。流石は類くん、次は何をしてくるのやら……」
『ネ・ネーどうした!お前が先に眠くなってどうする?見ろ、もうすぐでドラゴンが眠りそうだ!みんな!ネ・ネーを一緒に応援しようじゃないか!』
なるほど観客を巻き込むか!ありふれた手だが確かに効果はある。いいぜ乗ってやる。
「ネ・ネーがんばれ~!」
「立て…!立つんだネ・ネー!お前ならできる!こんなところで終わっていいのか!?世界の大舞台で歌うのがお前の夢なんだろ!?」
周りの子供たちと一緒に声援を送る。正直ネ・ネーとやらの設定なんて知らないがここは勢いでいくべきだと判断した。親御さん方が変なモノでも見るような目で俺を見てくるが無視する。
『う、うわ~!応援がすごくって、ドラゴンがびっくりしちゃってるよ~!』
弱ッ!それでいいのかドラゴン。でも敵設定だし別にいいか。オラオラオラァもっとビビれやトカゲェ!
『よし、みんなの応援でドラゴンがひるんでいるうちに倒してやる!』
司───ではなくペガサス王子が剣を引き抜きドラゴンにめがけて走っていく。
『うわっ……!?ぐええっ!!』
あ……ああああああ!!ロボ、おま、ちょっ……ロボォ!
「えっ!?王子がネ・ネーにつぶされちゃったよ!?」
「あのポンコツロボぶっ壊す!!」
「朝比奈先輩落ち着いてください!司先輩はまだ諦めてません!」
離してくれ冬弥くん!あのロボ許すまじ!スクラップにしてやらぁ!
『まて……!!オレはまだ戦えるぞ……!!子供たちの応援を受けた今のオレは…ドラゴンにも負けない……!!』
つ、司ッ!……そんな恰好で言われても面白いだけだぞ。
けれど少し冷静になれた。
「ありがとう冬弥くん。もう大丈夫だから」
ふぅ落ち着け朝比奈春樹。役者が諦めていない以上
『こうして、ペガサス王子はドラゴンたちと仲良くなったのでした。しかし王子の旅はまだ始まったばかり。王子が魔王を倒す日まで旅は続いていくのでした……おしまい』
「離してくれ冬弥くん。あいつ一発殴らないと気が済まない」
類ィ!おま、ちょっ……るいぃぃッ!!
◇
「……ハァ」
「元気を出してください朝比奈先輩……」
「冬弥くんこそ……ハァ」
司たちワンダーランズ×ショウタイムのショーが終わり、俺たちは帰路についていた。
本当はすぐに司たちのもとへ向かいたかったのだが冬弥くんに止められた。今はそっとしておいた方がいいのかもしれない。
……今になって思えばあのロボットの動きが止まったあたりからグダグダしていた気がする。するとあれらは演出ではなかったのだろうか。
「ごめん冬弥くん。イベント前にこんな目に合わせちゃって……」
「いえ、確かにショーは大変な事になってましたが俺は楽しかったです」
滅茶苦茶ええ子やん……相対的に自分が汚く思えてきた。
「今日は大変だったからなぁ。明日のイベントには司は来れなくなるかもしれないけど俺は行くし、楽しみにしてるよ」
「はい。死力を尽くします」
そこまでしなくても……いや言うまい。
上を見上げてみると大分日が傾いてきていた。
今日は、疲れたな……。
とりあえず今日撮影した映像は消さない。後世まで残さなければならないのだ。俺にはその義務がある。
『天馬司 スターへの道』【序章】これにて了。