セカイの狭間から友人たちを見守ろうと思う   作:日彗

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この2話を書くのに1週間もかかってしまった……


俺たち入れ替わってる!?後編

 

 春樹と別れた後、まふゆは何事もなく春樹の通う神山高校へとたどり着いた。

 

「教室は……あった」

 

 『2-A』と書かれた看板。間違いなくここが春樹たちの教室だ。

 まふゆは静かにドアを開け──

 

「おはよう春樹!うむ、穏やかな陽気の朝はこれくらい爽やかな挨拶がいいな」

 

 ──た直後に大声のあいさつを貰った。

 

(……大声、金髪。ならこの人が)

 

 さすがのまふゆでも顔をしかめてしまう程の声量。誰あろう、奴である。

 

「おはよう司。君の言う通り今日は穏やかな朝だな」

 

 事前に聞いていた通りの人物像。間違いなく春樹の友人である天馬司で間違いないだろう。

 まふゆの返しに対し、司は得意げに頷く。

 

「フッ、そうだろうそうだろう。こんな日は最高の脚本が作れそうだ。その時はぜひお前の意見も……。………?」

 

「えっと……どうかしたか? そんなに見つめて」

 

 春樹(まふゆ)を見つめ続ける司。

 

(……ッこの目、まるで自分の内側を覗かれているみたい)

 

 まふゆを襲う()()()。今まで一度も感じたことのない感覚に戸惑ってしまう。

 

「……春樹、体調でも悪いのか? いつものお前と明らかに違う。なにかあったのか?」

 

「……え? 何言ってるんだよ。俺はいつも通りだぞ。司の方こそ体調でも悪いんじゃないのか?」

 

 司は少しの間考えるそぶりを見せてから切り出してきた。

 

「どうやら話せない事情があるみたいだな。ならばオレはこれ以上追及などせん。ただし! どうにもならないと思ったらすぐに言え! 一人で抱え込み続けた先に待つものが何か、お前は誰よりも知っているだろう」

 

「………」

 

 まふゆは口を閉ざす。ただし、今も春樹(まふゆ)の顔には笑顔の仮面が貼り続けられている。

 だからこそ司は違和感に気が付いたのだ。その笑顔が普段の親友(春樹)のものとは違うことに。

 

「その下手な作り笑いはやめておけ。他のヤツならまだしも、わかる者にはわかる。普段のお前の笑顔とは()()()()違いすぎるからな」

 

 まったく、と腕を組みため息をつく司。今までこんな簡単に気付かれたことなんてないのに、という動揺が今もなおまふゆのなかに渦巻く。

 

「……お前はオレに救われたと言っていたが、それはオレだって同じだ。オレの方こそお前の言葉に救われた。だからこそ今も『ワンダーランズ×ショウタイム』の座長としてショーが出来ている。……お前もオレも、独りでは成り立たない。皆がいるからこそオレもここにいられる。それさえ忘れなければオレ達は何にでもなれる。そうだろう、春樹」

 

「……そうだね」

 

 その返事を聞いた司はもう一度ため息をつく。

 

「追及しないと言ったからな。もう何も言うまい……話が長くなって悪かったな」

 

 入口のドアを開けて教室を出ていく。まふゆはただその背を見つめていた。

 

「……春樹には、良い友達がいるんだね」

 

 だが先程の会話の中で気になる事が一つあった。

 

(春樹が救われたってどういう事だろう)

 

 春樹からそんな話を聞いた事は一度も無い。自分と同じ様に春樹にも救われたいと思っていた頃があったのだろうか。だとしたらそれはいつの事なのか。

 

『お前俺の事何も知らないだろ』

 

 登校時に言われた言葉が脳裏をよぎる。

 

「……わからない」

 

 胸の中にあるモヤモヤとした感情。それに名前を付けられるのはもう少し先のお話。

 

 

 

 

 現在、俺は宮益坂女子学園にいる。いる、のだが。

 

「すでに心が折れそう……」

 

 登校して早々に教師達の手伝いに委員会活動。馬鹿か、朝からハードすぎるわ。それになにかとても大事な事を聞き逃してしまった気がしてならない。どこかの誰かが俺に感謝したような……。

 

 だがようやく昼になった。どこか一人になれる場所を探して昼食にしよう。

 

「あら、朝比奈さん! 私も今からお昼なの。よければ一緒に食べましょう!」

 

 おのれおのれおのれおのれぇ! 俺の癒しを妨げようとするとは偉くなったものだな小娘!

 

 声をかけられた方へ視線を向ける。そこいたのはアイドルユニット『MORE MORE JUMP!』のメンバー、日野森雫。ごめんなさい、謝るので帰ってもらっていいですか?

 

 ……フゥ、落ち着け俺よ。俺は今『朝比奈まふゆ』なんだ。冷静に慎重に。

 

「こんにちは日野森さん。じゃあ一緒に食べよう」

 

「ええ! ふふ、朝比奈さんと一緒にお昼が食べられるなんて嬉しいわ」

 

「そんな大袈裟だよ。私の方こそ日野森さんと一緒にいられて嬉しいな」

 

 ミスった。まふゆの真似をしつつ断ろうしたら何故か受け入れる方向になってしまった。どうしよ。

 

「そういえば日野森さんはまたアイドルを始めたんだよね。他のメンバーの子とか活動の事とか詳しく聞きたいな」

 

「ええ!ええ!そうね、ならまずはみのりちゃんっていう子の事なんだけど──」

 

 よし、これであとはウンウン頷いていれば休み時間も終わるだろう。我ながら策士だぜ。本当は一人でのんびりしたかったけど。

 

「それで愛莉ちゃんが──」

 

「ウンウン」

 

 まふゆは大丈夫かなぁ、司も類も変な所で鋭いからなぁ。

 

 

 

 

(誰も私を知らない環境、か……)

 

 司に指摘されて以降は特段問題なく時間は過ぎ、放課後になった。司とはそれっきり接触はない。春樹ならば自分から話しかけに行くのだろうが、入れ替わりさえバレなければ自由にしてていいと言われている以上、まふゆから接触することはない。

 

(……瑞希も登校してないみたいだし)

 

 現状、この神山高校生で『朝比奈まふゆ』を知る唯一の人間。春樹とまふゆの両名と面識があるからこそ最も警戒していたのだがその心配は不要だったようだ。

 

(それにしても……)

 

 休み時間に入るたびにクラスメイトから声をかけられた。「今日はいつもより大人しいな」「天馬くんと喧嘩でもしたの?」「またなにかくだらない事企んでるんじゃないだろうな? その時はオレ達も混ぜろよ!」という風に。

 

 確かに春樹の言う通り雰囲気が違う程度では『いつもの事』で処理される様だ。その点に関しては気を張らなくて良いのだが、春樹が普段学校でどう過ごしているのか余計に分からなくなっていく。

 

「……私とは、全然違うな」

 

 周りに聞こえないように呟く。

 双子なのにあまり似ていない、とはよく言われるしまふゆ自身そう思う。見た目や性別以上に性格や考え方が正反対だ。

 中学からは学校が別々になったとはいえ、ここまで違うものなのだろうか。

 

(……わからない)

 

 生まれた時から一緒だった、他の人よりは知っているつもりだった。けれど今日一日で自分は何も知らなかったのだと思わされる。

 

「……もう、帰ろう」

 

 鞄に荷物を詰めて教室を出る。春樹は部活動に所属しておらず今日は委員会も無いようだ、ならばこれ以上この場にいる必要もないだろう。

 

「やあ春樹くん、司くんはいるかな?」

 

(……だれだろう)

 

 声をかけてきたのは身長180cmほどの紫の髪が特徴的な男子生徒。……春樹の情報通りである。

 

「ああ、司なら教室の中にいるよ。じゃあ俺はもう行くよ、また明日」

 

「おや、もう帰ってしまうのかい? 次の演出の意見を君にも聞きたいな」

 

「ハハハ、ごめん今日は家族と約束があってさ。はやく帰らないといけないんだ。また次の機会にゆっくり聞かせてもらうよ」

 

「……ふむ。それなら仕方がないね、また今度意見を聞かせてもらおうかな。ところで」

 

 はじめて類と目が合う。

 

「いつもと様子が違うねえ。なにか困りごとでもあったのかい?」

 

 それは純粋な疑問。いつもと雰囲気の違う友人に対する心配。だがまふゆにとってはそうではない。

 

(また……面倒くさい)

 

「何でもないよ。昨日夜更かししてしまったからそのせいかな」

 

「類、なにを聞いても無駄だぞ。本人に話す気がない以上無理に詮索するものじゃない」

 

「おや司くん、君の方から来てくれるとは感激だねえ」

 

「なにが感激だ。廊下からお前たちの声が聞こえれば当然来るに決まっているだろう」

 

 どうやら教室の中まで聞こえていたらしい。

 

「こいつは昔から頑固だからな。無理に聞き出そうとすると時間がかかるぞ」

 

「ふふふ、ならいい道具があるよ。ちょうど次のショーに使えないかと思っていたんだけどね、テスト運転にちょうどいい」

 

「……え?」

 

 道具? テスト運転? 彼らの話についていけなくなってきた。春樹は「常識に当てはめて考えてはいけない人種だ」と言っていたがその通りだ。今までまふゆが関わったことのない類の人種。

 

「……念のため聞くがそれは安全なんだろうな」

 

「安全だとも! ただ座った人間の脳を直接刺激して笑わせ、情報を吐かせる尋問椅子だよ。どうだい安全だろう?」

 

「む、笑わせるだけか? それならば確かに安全───なわけあるか! 脳を直接刺激ってなんだ!?」

 

「大丈夫大丈夫、直接とはいっても別に解剖したりしないよ。使うのは電気だけだからね安全性は保障する。まあ笑いすぎて人格が崩壊してしまう危険性があるんだけどね」

 

「却下だ!! なぜそんなものを作ったんだ、お前は!」

 

「言ったろう? 次のショーで使えないかってね。ほら、敵に捕まった主人公が尋問されるシーンで子供たちに刺激が強くなくそれでいて笑いをとれる方法はないかって話し合ったじゃないか。その答えがこれだよ、笑っている人を見ると自然に笑顔になるだろう?」

 

「人格が崩壊するほど笑う人間なんて恐怖の対象だたわけ! トラウマになったらどうする! ……というかその椅子は誰が使うんだ?」

 

「主人公は君だろう司くん。本当は君で実験……もといテストをしようと思っていたんだけどね」

 

「言い直したところで実験もテストもたいして変わらんわ!」

 

 ヒートアップしていく彼らの話を聞き続けていたまふゆは既に理解することを諦めていた。周りを見ても誰も気に留めている様子がない、つまりこれが日常風景なのだろう。

 

「話が長くなるようならもう帰ってもいいか? 家族を待たせてるんだ」

 

「ああそうだったね。ごめんよ引き留めてしまって、やっぱり司くんで実験することにしよう」

 

「だから却下だと………もういい。春樹、気を付けて帰れよ」

 

「司くんはいいお母さんになれそうだね」

 

「やかましい! せめて父親にしろ!」

 

 話はまだ続いてくようだが無視して玄関に向かう。

 

(……つかれた)

 

 

 

 

「それにしても、春樹くんの作り笑いなんて初めて見たよ」

 

「……気が付いたか。今日一日ずっとあの調子でな。あの春樹が一度も()()()()()()

 

「……司くんは理由を聞かないのかい?」

 

「聞かん。あいつが言わないという事は事情があるのだろう、それも相当の。何せ一度も野菜ジュースを飲まなかったからな。……だが相談してきたら力になりたいとは思う。類もそれでいいな?」

 

「もちろん。彼は僕の友人でもあるからね」

 

 

 

 

 疲れた。疲れた疲れた疲れたぁ!

 

 長い一日もようやく終わりを迎える、そう放課後だ。まふゆには悪いが部活は休ませてもらう。だって弓道とかやったことないし。そもそもあんな遠くの的に当たるわけねぇだろふざけんな。……なんで皆当たるの? 君たちアーチャーなの? ステラーッ! て叫ぶの? それなら見に戻る価値がある。

 

「もう疲れたよぅ、帰りたいよぅ。……今帰り道じゃん」

 

 まずいぞ、これはまずい。俺はもう手遅れなのかもしれない。こうなったら最後の手段だ。

 俺は鞄の中から先ほど購入した野菜ジュースを取り出してストローをつき刺し、口にくわえる。

 

「薄ッ! 味薄すぎだろこれ、まさかの不良品!?」

 

 ツイてないな。まさか不良品に当た……。……薄い?

 もう一度ジュースを飲む。今度はじっくりと確かめる様に。

 

「……味が、する。朝はまったく感じなかったのに」

 

 いやまあ、薄いけど。

 1日かけてここまで回復したという事だろうか。やはり入れ替わりの影響で?ふむふむ。

 

「でもなあ~味が薄いことに変わりないしなあ~。やってらんねぇ」

 

 この俺から野菜ジュースを奪うという事はハンバーガーからパンズを無くすことと同義だぞ。……何言ってんだろ、俺。やっぱり疲れてるな。

 

「ただいま」

 

 家についたので意識を切り替える。俺はまふゆ、俺は朝比奈まふゆだ。

 

「おかえり」

 

 ……オレガイタ。

 慣れない! 目の前に自分がいるこの状況に慣れない! 怖い!

 

「ただいま。……母さんは留守か?」

 

「……私が返ってきた時にはいなかった」

 

 よろしい、実に好都合だ。

 

「なら学校でのことを聞こうかな。ぶっちゃけどうだった?」

 

「………。うるさかった」

 

 ハッハーン。なるほど~。

 

「さては司か類に指摘されたな? それとも両方か。まあ、あの二人は特に鋭いからな。そう気を落とすなって。それより暁山後輩には会ったのか?」

 

「瑞希は学校に来なかった」

 

 ああなるほど。その可能性もあるだろうと思っていたがやっぱりか。

 

「……春樹こそどうだったの?」

 

「俺は勿論演じきって見せたぞ。疲れたけど! 仕事は全てこなしてきた。面倒くさかったけど!」

 

 お前が優等生を演じているせいで大変だったんだぞ。生徒も教師も何かあれば俺に頼んでくるし、普段の俺ならキレる程の量だった。

 

「まあ貴重な経験ができたって思うことにしよう。まふゆもそうだったんだろ? ……なんか聞きたそうな目だな、どうした」

 

「私は春樹のこと、なにも知らないから……」

 

「えっ、朝の事まだ気にしてたの? あれは俺の言い間違いだって」

 

 だがまふゆは首を横に振る。

 

「学校の人たちは、私の知らない春樹をたくさん知ってた。……あそこには、私の知らない春樹がいた」

 

 ほほう、まふゆの知らない俺……なにそれ知らん、怖。

 

「春樹は普段の言動から私の事を良く知ってるように思う」

 

「それは、兄妹だからな」

 

「だけど私は春樹の事を知ってるつもりで何も知らなかった」

 

「兄妹は最も身近な他人だからな」

 

 こらこらそんな目で睨むんじゃない。自分でも苦しい言い訳だと思ってるんだから。

 

「知らないならこれから知っていけばいいさ。時間はいくらでもある。よかったじゃないか、消えられない理由がもう一つ増えて」

 

 こんな些細な事でもまふゆを繋ぎとめられるなら利用してやる。もう必要ないのかもしれないけど。

 

「それに今までは自分の事で一杯一杯だったからな。他人の事なんて考える余裕がなかったんだろう」

 

「だったら教えてほしい。私が見ようとしなかったもの、見えていなかったもの。……そうしたら、何かがわかるかもしれない」

 

「そうだなぁ。……少し長くなるけどそれもいいかもな」

 

 俺は話す。中学の事、司との出会い、そしてまふゆを救えず自分自身に失望し絶望していた時の事。

 途中で母さんが帰ってきて夕食を挟み、また話す。

 そうして夜は過ぎていき俺たちはいつの間にか眠ってしまっていた。

 ちなみに翌朝には俺たちの体は元に戻っていた。原因は不明のままである。

 

 

 

 

「ヘイ司! おはよう、今日もいい朝だと思わないかい!?」

 

「……春樹、お前は疲れているんだろう。昨日と態度が違いすぎる。今日はゆっくり休むといい」

 

「え?」

 

「ほら、お前の好きな野菜ジュースだ。これをもって保健室へ行くぞ」

 

「え?」

 

「なに心配はいらん。オレも付いていってやる」

 

「え?」

 

 

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