セカイの狭間から友人たちを見守ろうと思う   作:日彗

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19話 アイドルも大変だなと思う今日この頃

 

 『希望』

 

 それはあることの実現を望み願う事。生きていく上で必要な心の支えというのが一般的だ。だが希望と絶望は表裏一体。大きすぎる光であればこそ闇に転じた時の深さは計り知れないものとなるだろう。

 

「故に俺は問う。神代類、汝の考える“希望”とは何ぞや」

 

「面白い題材だ。そうだね、“希望”の定義は国や宗教によって様々だ。君の言う通り望みを願う事、あるいはそれらの獲得、出現を期待することも確かに希望だといえるね。だけど例えば主を重んじるかの宗教では信仰・愛と並んで三対神徳 の一つとされている。この信仰における希望は人間の心理的欲求や期待ではなく、人生の矛盾と困難のうちにあって神の意志にすべてをゆだね、神の国の成就と人類の救いを望み続けることであり、これは地上における物質的幸福などへの期待とは異なり、終末的意義をもつ永遠の希望であるとされて───」

 

「よしわかったもういい。いつまで喋るんだ怖いわ」

 

 ちょっと軽い気持ちで聞いてみたら予想以上のものが返ってきてビビっちまったぜ。これは題材を“希望”にした俺のミスなのか。

 

 今、司が用事で席を外しているため類と雑談しているのだが、これが中々楽しい。彼は司とはまた違う方向へ突き抜けている為予測ができない。そういえば初めて司と話した時もこんな感覚だったなあ。

 

「……お前たちは何の話をしているんだ?」

 

「おお我が友よ!天翔ける司よ!いい所に来たなおい。司にとって希望ってなに?」

 

「は、希望?……フッ、そんなもの考えるまでもない。このオレ、未来のスターたる天馬司こそが希望なのだ!」

 

「ソッカ、サスガスターダネ。それじゃ類くん次の題材は」

 

「待て!お前が聞いたから答えたんだぞ!?それなのにその反応はなんだ!」

 

「いやだってさ?なんか予想通りの回答だったし?ぶっちゃけ類くんの後だと何も言えなかった」

 

「言えなかったではない!少しは失礼だとは思わんのか!」

 

 わかったわかった、わかったから人の体を揺らすな脳がかき混ぜられオエェ。

 

「まあまあ司くん。用事が終わったのならワンダーステージへ行くよ。寧々たちも待ってるからね」

 

「そうだぞ司くん。こんな所で道草を食っている暇が君にはあるのかい?いいやそんな暇はなあああい!」

 

「やかましい!何故だかお前に言われると腹が立つ!」

 

 おいおいお前の方こそ失礼じゃないか。でもわざと言っているので致し方なし。わっはっはー。

 

「そういえば今度のショーはいつやるんだ?まだ聞いてなかったけど」

 

「おや言ってなかったかな。前回と同じ土曜日だよ、もちろん今週のね」

 

 土曜日?土曜日かぁ……。

 

「日程ずらしたりできない?」

 

「できるわけないだろう。日程を決めるのはオレ達ではないのだから」

 

 そうだよなぁ。でも土曜日はちょっとなぁ……。

 

「土曜日はバイトがあるんだよぉ……」

 

「……ああ、例のアレか。アレはバイトと言っていいものなのか?」

 

 司たちのがバイト扱いなら俺のもバイトなんじゃないのか?

 

「うわあ!ショー見たかったなあ!撮影してサイトに投稿したかったなあ!」

 

「なら僕が撮影しておくよ。ドローンを使えば様々なアングルから撮れるからね」

 

「おお、さすが類くん!持つべきものは天才発明家の友だな!わーい!」

 

「現代の平賀源内と呼んで欲しい」

 

「呼んで欲しいのか……?」

 

 

 

 

 司も類も帰ってしまった。若人たちよ存分に青春を謳歌したまえ。俺も君たち位の歳の頃は……あ、死んでるわ。そういえば前世の頃の年齢に追いついてるわ。ウワハハハ。

 

「……俺も行くか」

 

 何が悲しくて一人教室で黄昏なきゃならんのだ。俺だって暇じゃないんだぜ。なんか他のセカイも不穏な感じらしいし。

 

「しまいにゃコレだからな」

 

 スマホを取り出し先程来た通知を見る。

 

 『人気グループCheerhul*Daysのセンターとして活躍していた日野森雫が、同グループを脱退。事務所も退所していたことが判明した』

 

 俺も馬鹿じゃない。何かしらトラブルは起こるものだと学習している。それでもさ?見守る立場としてはもう少し穏便にいかないかなあ、て思うわけですよ。ドキドキハラハラキリキリとね、心臓が破裂して胃に穴が開きそうですわ……。

 

「まふゆの方もいい加減何か考えないとなあ……」

 

 あとでミク達に相談してみるか。まふゆの記憶から考察するに『ニーゴ』の方々は恐らく高校生ほどの年齢、とまでは絞れたんだけどそれしか情報もないし。……もしかしたらこの学校に通ってる可能性もあるのか?

 

「……朝比奈先輩?これから帰りですか?」

 

「?……おお、冬弥くんじゃあないか!奇遇だねえ。東雲くんとは一緒じゃないのかい?」

 

「ええ。図書委員の仕事があったので彰人とはこれから合流するつもりです」

 

「ならちょうどいい。一人で退屈してたとこなんだ。途中まで一緒に行こうぜ」

 

 いやあ良かった良かった、最悪カイトあたりを呼び出してダラダラと話しながら帰ろうかと思ってたんだ。一人は寂しいから。独りは寂しいから!

 

 

 

 

「……なるほど。それで司先輩は先に帰ってしまったと」

 

「そうなんだよ薄情な奴だよなぁ。今度あいつの机にピーマンでも入れてみようかな『私の気持ちです。受け取ってください!』って書いた手紙と一緒に」

 

「すぐにバレて怒られますよ」

 

 やっぱりそうかなぁ。でも女子生徒の写真も付けたらバレないような気がするんだよな……まふゆの写真を使ってみるか。

 

「まあそんなどうでもいい話は置いといてさ、またイベントで歌ったりするんだろう?この間の歌もすごく良かったし、楽しみだなあ」

 

「ありがとうございます。俺たちは次の土曜にMossy stoneで歌うことになってます」

 

 ……土曜日。君たちも土曜日っスか。

 

「行きたいけどその日はバイトなんだよな……。司たちもショーがあるらしいし、ごめんね?」

 

「いえ、用事があるのならそちらを優先するべきです。……それにしても、司先輩たちのショーは大丈夫でしょうか……?」

 

「大丈夫だと思うよ。なんせあの司だし。それに今の彼らの団結力なら問題ないだろ」

 

 同じ想いを共有して目的を遂行するために力を合わせる。そういう集団は強いものだ。まったく青春しやがって。

 

「そう、ですか……やっぱり司先輩はすごいですね。俺も司先輩のようになれたら……」

 

「ん〜?俺は冬弥くんもすごいと思うけどなあ」

 

 え?という表情をしている彼を一瞥し、クツクツと喉を鳴らす。

 

「なんでかなあ、君が今何を考えているのかなんとなくわかるんだよ。いや本当になんでだろ……」

 

 あの子(まふゆ)と似ているからなのか記憶を視たからなのか、あるいは何かしらシンパシーでも感じたのか。確かな事は言えないがコレだけは言える。

 

「君は優しい子だな。人の事を考える事ができる、人の事を『すごい』と言える。当たり前のようで結構むずかしいからさ。君の持つ素直さは美徳だよ。尊敬する」

 

「……そう言っていただけると嬉しいですが、別に褒められるような事でもありません。……俺には彰人のような───」

 

「君はもう少し自分を認めてあげるべきだ。自分を否定してばかりいても虚しいだろう。もっと自信を持ちなさい。……あれ俺いま良いこと言った気がする!」

 

なんか凄く良いことを言った気がするぞ!忘れないうちにメモしとこ。

 

「俺を見てみろ。どうだノビノビと生きているように見えるだろ?楽しい事は楽しめばいい、辛い事や悲しい事から逃げることは悪じゃない。どうせ人生は長いんだからな。でもそれじゃ、君は納得しないんだろ?」

 

 悩んだところで解決せず、苦しんだところで何も変わらない。だからすべてを棚に上げ、時間が解決してくれるのを待つ。けれどそれは俺の至った考えであって人に押し付ける気はない。彼らは俺と違って無力ではないのだから。

 

「ならば行くがいい若人よ!時は金なり!タイムイズマネー!自分の信じた道を貫き通すのだ!……ところでポッキー食う?」

 

 久しぶりに食べたけどめちゃうまいわコレ。この感動を誰かと共有したい。否、しなければならない。

 

「さあ食べるのです。悩みなんてすべて忘れてこのポッキーを食べるのです。それが巡り巡ってアナタのためになるでしょう。さあ!」

 

「はあ……いただきます」

 

 手元の箱からポッキーを一本持っていく冬弥くん。もっと持っていっていいのに……。

 

「ん…美味しいです。このクッキーのような食感が特に」

 

「そうだろうそうだろう。こういう些細なことで感動できる心を我々は捨てちゃならんのさ」

 

 今日は多くのことを学べる一日だった。そうですこれが人生なのです。

 

「あれ?確か冬弥くんの家はあっちだったっけ。俺はこっちだわ」

 

「ではここまでですね。朝比奈先輩、また。ポッキーありがとうございました」

 

「おう、気を付けて。……時間はあるんだから大いに悩みたまえよ少年!」

 

 若いっていいねぇ~!

 

 

 

 

 ふむ、一人になると暇だな。誰もいない帰り道、退屈すぎてつまらん。かといってスマホを弄りながら歩く訳にもいかないし。……まふゆにでも電話かけようかな。誰でもいいから話し相手が欲しい。

 

「フフン♪フンフフン♪フフフ♪『いえ、大丈夫です!それより、誰もケガしなくてよかったです!』……フン?」

 

 え、なになに今物騒な言葉が聞こえたけど喧嘩でもしたんですか?気持ちよく鼻歌を歌っていたのに。

 

「治安が悪いなあ、喧嘩したのはどんなヤツ───マジか」

 

 マジかマジかマジか!なんでこんな所に!?ホワイ!?

 

 反射的に近くの物陰に隠れて再度確認する。……うん見間違えじゃないな。

 

「……雫、ごめん。わたし、自分のことだけしか考えてなかった。許してなんて言えない。でも本当にごめんなさい」

 

 見つからないように体を縮めて耳を澄ませる。現状を把握するためにもとにかく情報が欲しい。

 

 今眼前にいるのは宮益坂女子学園の制服を着た生徒。花里みのり、桐谷遥、桃井愛莉、日野森雫の4人。この4人は『ステージのセカイ』を生み出した想いの持ち主たちである。

 特に日野森雫に関してはCheerhul*Daysの脱退のニュースがあったばかりだ。……やっぱり情報収集に徹したほうがいいな。

 

「愛莉ちゃん………ねえ。愛莉ちゃんにひとつ、お願いしてもいい?」

 

「え?」

 

 ふむふむ?

 

「私、愛莉ちゃんにもう一度、アイドルをやってほしいな」

 

「え……!?」

 

 え……!?

 

 思わず声に出そうになり、とっさに手で口を押える。自分はアイドルを辞めたのにアイドルをやってほしいなんて頼むか普通?……まあ俺なら言うけどもね。ということは俺も普通ではないのでは……?

 

「さっきね、すごく嬉しかった。私のことをちゃんと見てくれる人がいたんだって。あの一言で私、本当にたくさんの希望をもらえたの」

 

「でも……!」

 

「愛莉ちゃんは昔も今も、ずっとアイドルだよ。辛いとき支えになる言葉をくれたのも、それに“本当のアイドルになる夢”を教えてくれたのも全部、愛莉ちゃんだった」

 

「……!」

 

 ……!

 

「だから愛莉ちゃんはきっと他の人にも、もっともっと希望をあげられると思う。そんな愛莉ちゃんを、私は見てみたいの」

 

 うぅ、いい話だなあ。グスン。おっと目から涎が。前が見えねえや……。

 でも“さっき”とか“あの一言”とか正直把握できていないことが多い。この数時間に何があったのか気になるなあ。……よし。

 

「ミク。おおいミクさんや。今こそあんたの力が必要だ。カモン初音ミク!ネギあげるからさ!」

 

 するとスマホからホログラムが映し出され始めた。ヘヘッチョロイ。

 

「初めまして!キミが春樹くんね、話はミクたちから聞いてるわ。私はメイコ、よろしくね」

 

「……は?」

 

 あ、あれ?ミクさん髪切りました?服装もなんだか大胆っすね。アハハハ。

 

「このタイミングで新キャラ追加!?今じゃなきゃダメなの!?朝比奈春樹ですよろしくお願いしまあす!」

 

 栗色のショートボブに赤いショート丈のトップスとミニスカートの女性。先程の紹介どおり彼女がバーチャル・シンガー“メイコ”で間違いないだろう。……なんで今なのかは知らんがひとまず置いておこう。

 

「それで、ミクを呼んでたみたいだけどどうかしたの?あの子に『ミックミクにされるから代わりに行ってきて』って頼まれたのだけれど……ところで“ミックミク”って何かしら……?」

 

「はて“ミックミク”?知りませんね。何か新しい遊びでもしているのでは?それはそうと実は現状を把握するための情報が足りなくて……何か知ってる事とかあります?」

 

 アレなんですけど、と彼女たちの方を指さす。

 

「あら、そのことね。それなら私が知ってるわ。説明してあげる」

 

「マジすかメイコさん、いやメイコ姐さん!やっぱ(あね)さんはスゲェや!」

 

 心強い味方ができたぜ!服装はちょっとアレだけど。服装はちょっとアレだけど!

 

「じゃあもう時間もアレなんで早速説明オナシャス!姐さん!」

 

「……次その呼び方をしたら、キミのスマホの検索履歴をミク達に晒すわ」

 

 ……え?

 

 

 

 

「お、おう……なんか予想以上に予想以上っすね。うわぁ……」

 

 うわぁ、日野森さんの脱退を知った桃井さんが殴り込みに行って?さらに他の3人も桃井さんを追って?Cheerhul*Daysのメンバーと揉めた?……うわぁ。しかも会話の内容が……うわぁ。

 

「女の子って怖い……」

 

「また一つ賢くなったわね」

 

 アイドル界の裏事情なんて知りたくなかった……。

 

「いや切り替えよう。事情は理解できたしこのまま盗み聞きをしようそうしよう」

 

「あら、出ていかないの?」

 

 出ていく?このタイミングで?ナイナイ。今出ていったところで俺なにもできないっすよ姐さん。彼女たちと話したこともないんすよ姐さん。しかもアイドルっすよ姐さん。俺通報されちゃいますよ姐さん。

 

「勘弁してくださいよ。俺は人見知りなんすよ、マジ勘弁してくださいよ。ていうか“私たちは見守ることしかできない”ってミクが言ってましたよ。つまりこうして見守ることこそが俺たちの仕事だと言えるのでは?」

 

「それはそれ、人生は挑戦してこそよ。いつだってチャレンジャーでいなきゃ!」

 

「ならそれはまたの機会で……あ、ほら静かに!」

 

 今結構いい所なんだよ。さっきなんて思わず泣きそうになったし。そうじゃなくても美少女たちがキャッキャウフフしてんだ、清聴したまえ。

 

「……やめて!私にはアイドルをやる資格はないの!」

 

 え?

 

「え……?」

 

「アイドルをやる資格がない……?それって、どういうこと?」

 

「……いえ。深い意味はないです。ただ、言い間違えただけで。私のことは気にしないで。……私は、今は学生として普通の生活を送りたいの。……3人とも、頑張ってね。応援してる」

 

「あ……遥ちゃん!」

 

 ……え?

 

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